原作キャラのイメージが壊れるのが嫌な方はお気を付け下さい!
プロローグ
緑谷出久は“無個性”である。
世界総人口の約八割が何らかの“特異体質”である超人社会となった今では珍しい、何の特殊能力も持たない人間。それが“無個性”だ。
“個性”と呼ばれる特異体質を使い、犯罪を犯す
当然、今年で中学3年生になる緑谷出久も、進学先にヒーロー科を考えるほどにヒーローに憧れていた。さっきまでは。
『何が出来たわけでも変わったわけでもない。でも……よかったよ。これでちゃんと身の丈に合った将来を考えていける』
今日この日、緑谷出久はヒーローになるための道を諦めたのだ。
憧れのNo.1ヒーローからは、「“
ヴィランに襲われていた友人を見て思わず飛び出してみたものの、その行動はヒーローたちから叱られ、救けようとした友人からは「救けられていない」と否定された。
今日一日で自分の目指す道を多くの人から否定されたのだ。長年の夢を諦めるのも当然と言える。
“無個性”だと診断された4歳のころから、ずっと胸のなかでくすぶっていた気持ちに、ようやく踏ん切りがつく。そんな不思議と落ち着いた気持ちになっていた。
「失礼、緑谷出久ですね?」
とぼとぼと家路に向かう途中で、突然声を掛けられた。
襟の高いバーテンダーのようなスーツを黒い霧が着込んだ、そんな姿の男が立っていた。
「だ、誰!? ですか?」
出久が驚いて質問するが、男は答えずに言葉を告げる。
「おめでとうございます。このたび、あなたは“先生”から選ばれたのです」
「選ばれた? “先生”って、何を言ってるんですか?」
困惑する出久をよそに、男は“個性”を使い、腕を霧状に伸ばして出久を包み込む。
「うわ、なんっだ、これ!!」
「さぁ、おとなしく一緒に来ていただきましょう」
ジタバタと暴れる出久の些細な抵抗は何の意味もなく、霧に包まれた出久の姿はその場から消え去っていた。
スーツの男も姿を消す。
残されたのは、「将来のためのヒーロー分析ノート」と題された一冊の大学ノートだけ。
「ハァ、ハァ……マスコミを撒くのに、思ったより時間がかかって緑谷少年を見失ってしまった。どこに行ったんだ~緑谷少年~! おや?」
出久が消え去ってから、荒い息で駆けつけたオールマイト。
落ちていたノートを拾い上げ、『これは緑谷少年のノートでは』と首を傾げた。
この日、オールマイトは出久を見つけることができなかった。
このことを、彼はのちに後悔することとなる。
「ようこそ、緑谷出久くん。僕のことはそうだねぇ……“先生”とでも呼んでくれたまえ」
連れ去られた出久は、気がつけば薄暗い部屋の中にいた。
モニターが並び、心電図の電子音が響く。そして、点滴のチューブが刺され、車いすに座っている人物が話しかけてきた。
「ひぃっ!」
目の前の人物の顔半分を失った容貌に、出久は思わず息をのんだ。
いや、その姿以上に目の前の人物からは言いようのない恐怖がわきあがってきた。ただ見られているだけで、身体が金縛りにあったように動けなくなってしまうほどに。
「緑谷出久くん、君をこうして呼んだのはプレゼントを上げようと思ったからなんだ。
…………なぁ、緑谷出久くん。君、“個性”が欲しくないか?」
“先生”は不気味な笑みを浮かべ、そう告げた。
これはほんのわずかな差で、ヒーローが間に合わず、悪が先にたどり着いてしまった、少年の運命の物語。