緑谷出久が悪堕ちした話   作:知ったか豆腐

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大変遅くなりました。


英雄願望と決戦場
緑谷出久は呪いをかけました プロローグ


 ――警察 対ヴィラン連合捜査本部

 

 ヒーロー免許仮免試験襲撃事件から約一か月が経った。

 多くのヴィランを吸収したヴィラン連合の動きは止まることを知らず、連日ニュースを騒がせている。

 その火消しにヒーローたちが東奔西走するなか、今日、警察組織の中で大規模な会議が行われようとしていた。

 

「これより、対ヴィラン連合捜査会議を始める。会議の進行は私、本郷がやらせていただく」

 

 捜査の責任者である本郷警視総監の号令と共に会議が始まる。

 60歳を手前にした年齢を感じさせない気迫に満ちた姿と声に場の雰囲気が引き締まる。

 会議室の正面に立つ彼の左右には警察の幹部が並んでおり、反対側には多くの刑事たちが列をなして備え付けられた会議用の机の座っていた。

 誰もが真剣な表情をしている。

 それもそのはずだ。今日は自分たちの捜査の結果について、重大な発表があると聞いていたからだ。

 

「諸君らの知っての通り、ヴィラン連合による事件が多発してる。先月のヒーロー仮免試験同時襲撃事件は記憶に新しい」

 

 厳しい顔をした本郷警視総監は、まずは苦しい今の現状について語りだした。

 彼の表情からすでに察せられるが、状況は決して良くはない。

 

「いままでと違い、組織だって動き始めたヴィランたちに我々警察もヒーローたちも後手に回っている。残念ながら、世間を見る我々への目は厳しいものと言わざるを得ない」

 

 連日報道される事件に、被害を抑えることができない警察・ヒーローへの世間の批判は高まっていた。

 むろん、警察・ヒーローもただ指をくわえてみていたわけではない。

 ヒーロー同士、またはヒーローと警察で連携を深めて対処にあたっていた。

 だが、ヒーローとは遅れてくるもの。事件が起きてから動き出すヒーローは、必然、ヴィランたちに一歩二歩も遅れる形となる。

 個性の使用が法律で禁じられている警察は、個性犯罪に対応できずに、目の前でいいようにされてしまう。

 そんな現実をこの場にいる刑事たちは何度も見せつけられてきたのだ。

 その風景を誰もが思い出し、暗澹とした空気が漂う。

 だが!

 

「しかし、我々もただ黙って見ていたわけではない! 我々は個性を使うことが禁じられている。だが、それは無力という意味ではない!」

 

 重い空気を打ち払うように、本郷警視総監が声を張り上げた。

 その目には力強い光が宿っている。

 

 警察はヒーローのようにヴィランを個性を使って取り押さえるような派手なことはできない。

 その代わりにできるのは、ひたすら地道な調査だ。

 聞き込みで情報を集め、化学調査で現場を分析し、犯人の心理を読み解いて動きを推理する。

 決して派手ではない、ひたすら地道な作業だ。

 

「襲撃してきたヴィラン、事件を起こした犯人・関係者。事件を通して得た情報からわずかな糸を手繰り寄せるようにして、諸君らが捜査を続けてくれたおかげでやつらのアジトを複数発見した!」

 

 犯人を突き止めるという執念。

 それこそが、ヒーローにはない警察という組織が持つ力だ。

 今の時代、ヒーローこそが花形なのだろう。警察は脇役なのだろう。

 しかし、それでも――――

 

「我々、警察官にも意地がある! ヒーローたちと協力し、ヴィラン連合の一斉摘発を行う!! 諸君、今こそ反撃の時! 我々の正義を見せつけるのだ!!」

 

 本郷警視総監の振り上げた拳と共に、会議室にいた刑事たちから気炎の声が上がった。

 ヴィランども、桜の代紋が正義を見るがいい。

 

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 ――――雄英高校 職員室

 

「ダメだ。許可は出せん」

 

 はっきりとした口調で相澤が告げる。

 その言葉を受けたのは飯田と切島の二人だった。

 

「何故です!? 理由をお聞かせ願います」

「そうです! せっかく仮免取ったのになんでインターンシップ行っちゃ駄目なんスか?」

 

 相澤の言葉に不満な二人は自然と声が大きくなる。

 インターンシップの申請をして却下された二人は陳情のためにやってきていたのだった。

 生徒二人の不満を、相澤は冷静すぎるほど合理的に対応していく。

 

「ヴィランが活性化している影響を鑑みた学校の判断だ。状況が悪化しているのはおまえたちもわかっているだろう」

「我々はヒーロー科です。今の状況を少しでも良くするために何かしたいと思うのは当然のことです!」

「じっとなんかしてられませんよ! 何のための仮免なんですか、俺らァ!」

 

 ヴィランの力が強くなっているときだからこそ、何か行動をしたいと主張する二人。

 その言葉はまさしくヒーローらしい心掛けだと言えるだろう。

 だが、心意気だけで認めてやるほど相澤は甘い教師ではない。

 

「調子に乗るなよ、ひよっこども。仮免はあくまで仮免。そこを踏まえた上で学校側は力不足だと判断した。それが分かっていないなら、おまえたちのヒーローとしての適性を考え直さなければならなくなるわけだが?」

「し、しかし……」

 

 眼光鋭く、除籍処分もほのめかして威圧する相澤に怯む二人。

 何とか言い募ろうとするが、それを遮って相澤が言葉を続ける。

 

「だいたい、インターンシップに行きたいのは、さっきの理由だけじゃないだろうが?」

「お見通しっスか……」

 

 真意を隠していた不誠実さを突かれた飯田は顔を伏せ、切島は気まずげに目を逸らす。

 先ほどの言葉も嘘ではないのだが、彼らにはもう一つインターンシップへ行きたい理由があった。

 

「ハァ……そんなに居なくなったヤツのことが心配か?」

「当たり前です! 彼も、クラスメイト。仲間の一員です」

友達(ダチ)を放ってはおくなんざ、漢が廃ります!」

 

 ため息交じりに質問を投げかければ、何とも熱のこもった返事が返ってきた。

 二人はインターンシップという郊外活動に参加することで、学校を去っていった爆豪の情報を集めようと考えているのだ。

 あの爆豪が学校を去ったからと言って何もしていないわけがない。

 かなり追い詰められていた様子もあり、ヒーローの資格など関係なしにヴィラン連合を追っている可能性も高かった。

 だが、それは当然のことながら法に反する行為であり、本人も危険にさらされていることとなる。

 そんな状況になっているかもしれないクラスメイトを止めたい一心で二人は出来ることを模索しているのだ。

 

 相澤も二人の気持ちは理解できなくもない。しかし、懸念材料が多すぎるのだ。

 

「何度も言うが、現在は状況が悪すぎる。学生を参加させたことで何かあれば雄英高校、ひいてはヒーロー社会全体への批判もあり得るだろう」

 

 第一にまず、状況がひっ迫していてリスクが高すぎることだ。

 経験不足の学生を抱え込んでやっていけるほどの余裕はないのが現実だ。それも一年生となれば余計に負担が大きい。

 もしそれで何か間違いが起きれば、生徒の命が危険にさらされるだけでなく、学校を始めとした関係各所への批判が起きかねないのだ。

 

「そもそも、クラスがまとまっていない状況で外のことに意識を向けている余裕があるのか?」

「そ、それは、学級委員長として力不足で申し訳なく思っております」

 

 相澤の指摘に表情が厳しくなる飯田と切島。

 第二の理由に、爆豪に対するクラスメイトの感じ方、そしてそれに起因するクラス内の不和があった。

 爆豪に対する悪感情を持っているクラスメイトが一定数いるのが今のA組だ。

 改人・骸無の身の上にまつわる話を聞いて、その原因を爆豪のせいだと責めることで心の平穏を保とうとする者や原因となった彼の言動に嫌悪を示す者など、理由は一つではないが、爆豪に対する悪感情がある。

 そんな状況で爆豪を探しに行くなどと主張するクラスメイトがいれば、不和はさらに悪化するだろう。

 感情によるものだ。理性でどうこうという話ではないのだから、難しい。

 

「爆豪の捜索も警察が行ってくれている。今は大人に任せて情報が入ってくるのを待て」

 

 いいな。と、念押しをする相澤に不承不承ながら首を縦にふる飯田と切島。

 

「それで、先生。爆豪の情報、何か入ってきてねえッスか?」

「……伝えられることは何も。さぁ、分かったら早く行け」

「失礼いたしました」

 

 最後に質問の返事を聞いて職員室を去る二人。

 それを見送った相澤は大きくため息を吐いた。

 

「あいつめ。学校からいなくなっても問題を残していくとはな……」

 

 爆豪の事を考えてこめかみを押さえる相澤。苦労が尽きない。

 先ほど二人には伝えられなかったが、爆豪に関しての情報が一つ入ってきていたのだ。

 その内容を伝えれば、クラスの一部が暴走する可能性が考えられる情報だった。

 

「あのバカ。なんでヴィジランテなんぞになってやがる」

 

 それはとあるヴィジランテの組織に爆豪が参加しているとの目撃情報。

 今頃、何をしているのかと思いをはせる相澤の顔には、勝手なことをしている爆豪への憤懣とわずかに見せる心配があった。

 

 

 とある町の人気のない裏道で、爆発音が響き渡る。

 倒れ伏すヴィランたちの真ん中で、一人たたずむ金髪の少年。

 ボロボロに傷がついた装備と鬼気迫る表情を張り付けた彼こそ、雄英を自らの意思で去っていった爆豪であった。

 

「まだだ、まだ足りねえ。骸無(あいつ)を……俺は出久(あいつ)を止めなきゃならねえんだ!」

 

 呟くように、しかしそれでいて悲痛な叫びのような。

 彼を動かすものは罪悪感? 責任感? 正義感? それとも……

 

 それがわかるのは、きっと骸無と再会したときだ。




短いですが、とりあえずプロローグ。
ノーマルエンドもこれで終盤です。

次は明日の0:00に投稿します。

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