待っていた方は申し訳ありません。いや、待ってないかもしれませんけど(
相変わらずな拙い文章ですが、読んで楽しんで頂ければこれ幸いです。
やぁ皆さんこんにちは。
突然で悪いが、俺は今ひっじょぉぉぉうに困ってる。
何故かと言うと……
一、視線が超低い。
二、周りは自然でいっぱい。
三、記憶が無い(主に名前)
というなんとも言えない素晴らしい状況に陥っている。
それに加えてもう一つ。
とてつもなく重要且つ、否定したい事実がある。
なんというか、最初のでなんとなく分かるだろう。
「……なんでぬこなん?」
知らん人が見たら気が狂ってると思うだろう。
俺も出来れば全面否定したい。
しかし水面下に映る自分の姿は紛れも無くあの哺乳類の可愛いあん畜生な訳で……
「でもだからってなんでぬこなん?」
少々気落ち気味に言葉を吐き出す。
尻尾が垂れ下がったのが自分でもなんとなく分かる。
……どうしてこうなった。
俺は今までの事を思い出す。
確か俺は孤児院にいた事を除けば極一般的に生まれた平凡な"人間"だった。
性別は男。
俺は可もなく不可もなく、別段裕福って訳でもなかったが幸せに育ってたと思う。
そんな俺は必死に勉強し、大学に上がって二人の友人に会った。
確か……れんこんと羊さん。
あれ? なんか違う。
まぁいいや。
二人とも女だったが、話も合い、大学入って初めての友人となった。
後にその内の一人が結成したサークルに入った。
世界の怪奇怪談伝承伝説を辿り、現地に赴いてあわよくばその幻想を目撃して書き留める。
殆ど旅行部だった気もするが、気にしない方向で行こうと思う。
確か『秘封倶楽部(ひふうくらぶ)』って命名してたな。
これには色んな意味があってと説明されたが、大半は聞き流していたので覚えてない。
しかし部活の目的からしても合ってるし、
変わった名前が却って好印象だったので文句も言わなかった。
色々と歩き回って、飛び回って。
この上なく楽しかったのを覚えている。
旅のお供が女性ってのも今思えば変だが、その疑問すら吹っ飛んでいた。
……目当ての幻想には出会えなかったが。
そんな日々を巡り、旅から帰ったとある日。
俺が何処かの店にあったカフェでブレイクタイムを堪能していると、
どんどん眠くなってきたんだったか……?
その後からの記憶は無い。
強いて言えば今こうして猫になったのを嘆いているというくらいか。
俺はもう一度水面を覗く。
毛色は白に若干の青味が掛かった白銀って奴だ。
目は金色。
身長……こういう場合は体長か?
普通目に見てもそれは小さく、もしかしなくても子猫だろうと思わせる。
俺はそれを確認して溜息を吐くと、もう一度呟く。
「……なんでぬこなんだろ」
いやぁ確かに一度だけ常識に縛られない変わった体験がしたい
と思った事があったよ?
それは否定しない。
でもそれはそれこそあの痛々しい厨二時代に考えた妄想な訳で……
そこまで思い詰めて改めてある事に気付いた。
なんで今まで気付かなかったんだ?
それを考えてまた一言。
「なんで喋れるん?」
はいコレ!
ここ今一番、出来立てほやほやで新鮮な疑問だよぉぉぉ!!
いやこれほんとまじでなぜなにゆえ喋れる!?
猫よ? 私猫よ? 英語で言うとキャット。
と冗談咬ましてる場合じゃなくて……
文字通り冗談抜きで何故?
いくら人間からなったとしても猫が喋るってのは普通ありえん。
もしかしたら自分にだけそう聞こえているだけで、傍から見たら「にゃー」としか
言ってないかもしれないが。
俺はとりあえずじっと考える。
訳も分からず猫になってしまったが、どうやって生きるか、だ。
こうなるんなら猫の普段食べてる食物とか知っとくんだった……
俺お魚さんしか知らないんです。
後は……キャットフード?
「……あんま深く考えても仕方ないか」
俺は思考を放棄して気楽に行く事にした。
こういうのは諦めが肝心だって友人とのやりとりで思い知らされた。
それに猫は元々気まぐれな生き物だ。
そんな行き当たりばったりな生活も案外面白いかもしれない。
俺は考えるだけ考えてその湖を後にした。
とりあえず動こう。
自分の元同族――人間を探す為に。
だが俺は更に戦慄する事になる。
この時代に人間が"自分の知っている"形で生活をしていないという事実に……
○●○●○●○●
俺は呆然としていた。
信じられなかった。
こんな事態に陥るなんて思ってもみなかった。
出来るなら「夢だ」と全て否定してしまいたい。
だって……だって!――――
「人が裸で歩いてるってどういう事おおぉぉぉ!!?」
あ、こっち向いた。
いやん! 恥ずかしい!
……じゃなくて。
俺はさっさと姿を晦まし、丁度あった物陰から集落を観察する。
さて、安全な場所を見つけたって所で現状報告。
つってもさっき彷徨き始めたばっかだけど。
あの自問自答の後、俺は人間がいるであろう町か都市を目指して歩いていたが、
なにぶん背が低い所為か、森の木に阻まれてビルとかが見えなかった。
だからとりあえずひたすら歩いたのだが……
歩いている内に何やら葦(?)で覆われた何かが姿を現した。
よく見てみると、屋根の様な形をしており、俺はそれがようやく家であると認識した。
誰だこんなとこに秘密基地建てた奴は。
そんな事を思っていたが、それがとんでもない間違いだと気付く。
それを観察している内に誰かが歩いているのが分かった。
ようやく人か!
そう思って早く安心する為に、足音がしたであろう場所へ走った。
そして見つけたのが「裸の人間」である。
民族衣装とかそんな物は無かった。
ただひたすらに裸だった。
しかも一番最初に見てしまったのが女性の裸な訳で……
まぁそれで冒頭に入る、と。
俺はその場に伏せ、続けて集落を観察する。
(これってよく見りゃ竪穴式住居じゃね?)
観察を続けた結果、俺はその建造物が竪穴住居だと気付いた。
竪穴式住居というのは梁や垂木を繋ぎ合わせて家の骨組みを作り、
その上から土や葦等の植物で屋根を葺いた"昔の建物"である。
「うひょー、すげー……実際に使ってる所なんて初めて見たぜ」
確か竪穴式はそれ位昔の建造物だと文献にあったはずだ。
俺は大学で考古学・歴史研究専攻だったから間違いない。
一体これはなんのイベントだろうか。
ここ最近で歴史関連のイベントなんて予告すら無かったはずだが……
俺は集落を再現したと思われる場所を隠れながら移動する。
こういうイベントはペット持ち込み禁止だったりするからな、見つからない様にせねば。
あ、そういやもう見付かってたっけ?
「んおっ? ありゃ鹿肉か?」
既に起きてしまった現実から目を逸らす為に何か無いか探していると、獲れ立てと思われる
鹿肉らしきものが吊るしてあるのを見つけた。
これはどこからどう見ても明らかに生だ。
大丈夫なのか?
展示用ならともかく本物使ってたら真っ先に腐っちまうぞ?
そうやってまじまじと見詰めていると、何処からか人が歩いてきた。
俺は拙いと思って素早く身を隠すと、その場から様子を窺う。
するとやってきたのは毛むくじゃらの……いや、髭の濃いダンディなおっさんが
鹿肉っぽいのをを担いで歩いてきた。
それもダンディな猿……じゃなくておっさんが複数人、鹿肉っぽいのを担いでいる。
あれか? 狩りの帰りでも再現してんのかね?
国内の鹿は獲れんから、外国の輸入品だろうけど。
(ん~でも可笑しいな……)
何が可笑しいか。
そりゃ俺の真上が青空だからさ。
初めはドーム内のホログラフィティで青空を再現してると思ったが、普通に暑いし眩しい。
人口とは思えない風だって偶に吹いているし鳥だって飛んでる。
種類は知らんが……
それにさっきの男達だってメイクとは思えない程猿顔だった。
最近のメイクは確かに凄い。ほんとにそんな顔なんじゃないかと錯覚するくらいだ。
でもそれだと女性だけそのまんまなのは可笑しい。
これほど抜かりないメイクを施すくらいなら、そんな中途半端なものにはしない筈だ。
加えて一般客がいない。
イベントなら少なからずいても可笑しくないのにな。
第一、外でやるにしても、その様なイベント会場が作られるなんて話聞いた事が無い。
これ程広い敷地を使うなら何かしらネットで情報を掴める筈だ。
無断でこんな自然を切り開いたらそれこそ問題だ。
唯でさえ最近は砂漠化とか、緑が少なくなってきている~なんて問題になってるってのに……
(だがこれがリアルだとすると更に可笑しいな)
だってリアルだったら俺は単独でタイムスリップした事になるからな。
そんな大業、唯の一学生がこなせる訳が無い。
そして俺にそんな厨二的な能力は存在しない。精々料理が多少出来る程度だ。
出来るとしたら……あの極論唱えた最年少天才教授くらいかね。
あの論文は正直度肝を抜かれたもんだ。
細かく注釈が施してあったし、化学的な視点からもキチンと考察が書いてあったから結構
分かり易かった。
何より多少なりともそういったものに興味があっただけあって正に寝耳に水……
っとと、題が逸れたな。
確かに最近その手の事件があったな。
突然人が消えて、いくら探しても見付からないって事件。
【神隠し事件】
サークルの連中が騒いでたのを覚えている。
これはいつかの事件の再来かっ! てな。
実は神隠し事件は一世紀前にもあったのだ。
どれもこれも文献に載っていた事だが、百年前くらいだ。
立て続けに何人もの人間が行方不明になるという事件が記録されていたのだ。
帰ってくる者もいたらしいが、その殆どの人が口を噤み、結局の所犯人は分からなかったらしい。
仮定として俺がそれに巻き込まれてるとする、現在進行形で。
それが切っ掛けで過去に飛ばされたとすると、果たして戻る方法はあるのか? いや無い。
だって最近の神隠しは未だ帰還者ゼロなんだ。
帰る手段は無いと見てもいい。
仮に前と同じだとしても、俺がその"帰れる人間"に入っているのかは分からない。
文明レベルがこれじゃ、科学の力なんて宛にならん。
……だが明らかに可笑しい点もある。
「……女性が美人だ」
ほんと、俺が人間なら真っ先に声掛けてたな。
というかレベル高い、どの御方でも彼女にしたいくらいだよ全く。
え? お前の友人はどうなんだって?
確かに美人だが、女として見るかとは話が別だ。
最初は少し気に掛けたが、あいつらに遠慮は不要だった。
寧ろ遠慮してるとこっちが危険だ。
さて、俺が話した可笑しな点というのは女性が美しい事。
当たり前とか言っちゃいけない。
今の時代で不細工と呼ばれてる女性でも、昔の女性よりは綺麗なものだ。
この時代の人間は旧人類の部類に入る。
この世代の人間はどちらかと言うと骨格の特徴が猿に近い。
それは人が猿人から進化して間もない時期だからだ。
しかし俺の見た女性は若干の土汚れや砂埃が付着していたものの、その端正な顔立ちは
"美女"と呼んでも差支えなかった。
好み等の物差し抜きにしても今の世代でも充分美女に該当する容姿だった。
だがそれは可笑しい。
遺跡にて奇跡的に残っていた旧文明人の遺骨等を調べた結果、やはりと言うべきか、
この時代の人間は少なからず「猿」の面影が僅かに残っていた。
しかし今目の前を歩いたりしてる女性にそれは無い。
男の方は確かに復元図と酷似しているというのに……
更にこれら旧人がいる時代だと文化レベルも低く、石を物理的に加工した石器が用いられていた
はずだ。
しかしどうだろう?
ここは明らかに「土器」であろう食器を使っている。
それだと正史とも研究結果とも素晴らしい食い違いが生じる。
そしてもう一度言うが、少なくともこの時代の人間は俺が知る限りお世辞にも"美しい"とは
言えない。
(俺の知ってる正史と違う……この状況で考えられる説は二つ)
俺は少しばかり仮説を立ててみる。
まず一つはただ単に考古学者達が間違って解釈していた。
正確な時代や文明が分かるようになったと言ったな、あれは嘘だ。
つまりはそういう事。
これなら多少なりとも気が楽だが帰還は絶望的である。
二つ目は平行世界説。
ここは俺がいた世界と違って歴史の歩み方が違う世界で、歴史的に大きな相違が生まれている
という考え。
正直これは俺の知識じゃどうにもならない。
つまり詰み。
……あれ? どっちにしても詰んでない?
とにかくもう少し様子を見ないと分からない。
もしかするとこの時代の歴史だけ学者が間違えたという可能性もある。
と言っても猫の寿命じゃ確認なんざ出来やしないが……
(ははっ、実に残念だねぇ)
少なくとも生きてる間はちょこちょこ様子を見るとしよう。
俺はそう思って余生を楽しむ事にした。
……………………………………………
………………………………
……………………
…………
あれから十年。
え? 展開が速いって?
それは……世界の摂理かなんかに触れるから聞いちゃいけない。
要するに気にしちゃいかん。
この十年間はひたすら生き抜く事に必死だった。
猫の体に慣れる為に動き回ったり、生態系を把握する為に他の動物に会いに行ったり。
自分が怪我を負った場合を考えて傷薬の生成だって行った。
慣れない事で上手く行かずに四苦八苦していたが、満足の行くものが出来たからそれで良しとしよう。
それ以前に猫の身で薬を作ること自体に手間取ったけどな!
そしてその間にも、里の観察を忘れてはいない。
勿論、何か別に歴史的な相違が起こってないか確認する為だ。
期間的にはちょうど一年毎……といっても俺の感覚的なものでしかないが、大体それくらいのサイクルで怪しい事が起こってないかチェックしていた。
とにかくいきなりですまないが、疑問を一つ打ち立てるとしよう。
これは重要且つ繊細な疑問だ。
「なんで子猫のままなん?」
前にも似たような事を言った気がするが、そんな事は無かったZE☆
そう、体が全然成長しないのだ。
しかも体は衰えるどころか、以前より元気になっていた。
具体的に言えば……
――高さ凡そ7mの木の枝に飛び移る事が出来たり、走ったら100mはあるであろう距離を
子猫の歩幅なのに十秒で走破。
(俺って実は猫じゃないとか?)
その程度しか思い付かない自分に少し腹を立てる。
やはり時が経てば記憶は薄れてくる。しかし触れなければ忘れていくのが人間の悲しい性だ。
あの二人なら直ぐに浮かぶのになぁ……
(いや待て……)
サークルの活動内容は何だった?
よくよく考えればその類の知識は専門分野じゃないか。
それに歴史専攻であるからには、必ず時代背景に妖怪の話が出てきた。
怪奇怪談伝承伝説魑魅魍魎百鬼夜行。
それらを調べて願わくば拝んでやろうというのが秘封倶楽部の主な活動。
完璧に忘れていた、必死過ぎて忘れていた。
俺は眠っていた知識をなんとか掘り返す。
靄の掛かった記憶を何度も想起し、該当する知識を搾り出していく。
猫で妖怪や神様や幽霊といったものは確か……
(あった。猫の妖怪)
俺は答えを見つけた。
猫又。
猫が年老いて化けたと云われる妖怪。
尾が二又に分かれており、人を惑わし喰らう化生。
名の由来は前述の通り、尾が二又に割れているというのが由来。
芸者の格好をしている姿が文献で見られるが、それは芸者がかつて、
猫と呼ばれた事に起因している為事実かどうかは分からない。
しかし俺の尾は、その特徴的な二又に分かれていない。
他に考えられるのは
化猫。
火車。
仙狸。
猫の幻想って色々とあるんだなぁ、と改めて思う。
まぁそれよか俺の正体だ。
考えられるのは化猫か仙狸。
火車は正体が猫又という説もあるので、割れてると仮定して除外した。
確かめる上で一番良いのは妖力か神通力か見極める事。
化猫は妖怪だが、仙狸は神通力を持った年老いた山猫だ。
その力を見極められればどちらか分かるかもしれない。
なんだ、結構思い出せるじゃないか。俺の記憶力も案外捨てたもんじゃない。
「思い立ったら即行動! さっさと調べて白黒付けようじゃないか」
そう宣言してふと思う。
そういえば感覚的には今は今年の初め。
丁度観察の時期だ。
高々一年で変わり映えなど無いだろうが、今回は何故か異様に気にかかった。
俺はその感覚を頼りに、人里へと行ってみる事にした。
猫移動中……
(なん……だと?)
俺は目の前の景色を見て愕然とする。
これは誰だって驚くだろう。
だって……
(弥生時代にジョブチェンジ?)
目の前に広がる水田。
木で組まれた見張り台。
掘立柱の建築物。
それは明らかに自分の知っている弥生の風景。
少しばかり違う所もある事にはあるが、崖の上からでも分かる。
でも十年で時代背景が一変するのはおかしいだろう。
加えて俺はここに何度か寄っている。
最後に見に行ったのは丁度一年前。周期的に見てるからそれは間違いない。
果たしてたかが一年でここまで進歩するものだろうか?
(少なくとも俺の知ってる人類は違うな)
たった一年でこれ程風景が変わるのは普通じゃない。
俺がいた所なら精々組み掛けの建物が建つ程度だ。
それも技術が進歩したあの時代でもだ。
(こりゃ本格的に平行世界説の信憑性が高まったか?)
俺は十年前に立てた仮説を思い返す。
考えてみればあの時点からもうおかしかったのだ。今更否定したって意味は無い。
これはもう歴史が間違ってるというレベルじゃない。
もう俺の"常識"では図れないのだ。
ちなみに時代逆行した件については考えるだけ無駄である。もう諦めた。
そこまで来ると、少しばかり集落の方が騒がしくなった。
何事かと目を凝らして見てみる。
すると集落で何者かが一人暴れていた。
人間も青銅製の剣を振り回して戦っていたが、抵抗空しく宙を舞っているのが見える。
「ほぉ……あれぞ一騎当千。これ程の武勇を間近で見られるとは興味深い」
集落の人間相手に一人で立ち回ってるのは恐らく男だと思われる。
遠方からでは姿形は見難いが、動作の節々から男らしさが窺える。
最もあくまで目測。
それは実際に見ないと正確には測れない訳で……
「うし、行ってみるか」
俺は行ってみる事にした。
戦い方を目に焼き付ける、唯それだけの為に。
俺は即決して集落へと歩を進めるのだった。
それが面倒事に巻き込まれる前兆とも知らずに……
○●○●○●○
「くそっ!早く殺してしまえ!」
「無理だ!あんな化け物!!」
「俺、この戦いで生き残ったら隣人の彼女と結婚するんだ……」
「なら儀式には俺らも誘えよ?」
「勿論、美味い酒はあるんだよな!?」
「うるせぇ!お前らなんか誘ったら婚姻の儀が台無しになっちまうだろっ!」
想定通り、集落の中は混沌としていた。
……混ざった聞き慣れた掛け合いは気にしない様にしようか。
どうやら近くで暴れてるらしく、喧騒と破壊音が聞こえてくる。
故に俺の歩みも自然とそちらに向いていった。
これ程の人数を相手に無双する人物。
これは気になるし、何より生き残る上でその動きは為になるかもしれない。
角を曲がると暴れている奴の姿が見えた。
それこそ正に鬼神の如き戦いぶりと言った所か。
向かってくる敵を千切っては投げ、千切っては投げ……
俺は飛んでくる人間を避けながら少しずつ近付くと、何かその人物に違和感を感じた。
注意深く見ると、その頭からは通常無いであろう物が生えていたのだ。
(角……!?)
ボサボサで手入れのされていない黒髪。
鍛え上げられた肉体の上には白い陣羽織を着込み、下には紺の袴を履いた男。
その額には若干湾曲しながらも力強く立つ立派な角があった。
男は此方に気付いて動きを止める。
その様子をおかしいと感じたのか、人間側も動くのをやめた。
――しまった、迂闊に近付き過ぎた!
「おい、貴様。一体何の用だ?」
その声と共に他の人間も俺に注目する。
俺は予想だにしない出来事に少し動揺するが、顔には出さない。
焦れば己に隙を作る。
俺が生きて積んだ経験から学んだ教訓。
とりあえず慌てた所で良い事は無いので、冷静に対処して返答を返した。
「にゃー」
巫山戯ていない、断じて。
いや、だって俺って猫じゃん?それが普通に喋ったら絶対おかしいと思ってな。
しかしその人外は俺を見据えて一言。
「巫山戯るな。気付かんと思ったか」
おっと、逆効果の様だ。
なるべく神経を逆撫でしない様にするには猫の振りが一番だと踏んでいたのだが……
俺はなるべく言葉を選びながら口を動かした。
「いやいや、一介の獣が喋ってはおかしいと思ってね」
俺の言葉に顔を顰める。
あら? もしかしてやらかしたか?
俺が先程の発言に何か失言が無いか考えていると
彼はかなり衝撃的な言葉を発した。
「貴様の様な獣、見た事も聞いた事も無い」
……えっ?
俺は彼の言葉に一瞬フリーズする。
見た事が無い……?
え、だって猫ですよ?
探せば普通にいる様な獣ですよ?
確かに森とかで野生の猫を見付けるのは難しいけど。
人間の方へと向く。
俺が見た人間も、まるで珍しい物を見る様な目で見ていた。
しかも首を傾げる輩もいる始末。
という事はつまり……
(猫を見た事が無い、と……)
俺は少し信じられなかった。
元いた世界では猫なんて愛玩動物として飼われている位で、
都市でもよく見掛けたのに……
とは言っても内心思う所はある。
猫が縄張り意識を持つ生き物であっても、ここ十年間で一匹とて
出会わないのはよく考えればおかしかった。
木の実や花、その他動物もだが、見覚えのある生物は存在するものの
見た事の無い種類が殆どだった。
するといよいよもって平行世界説が有力なのだろうか?
歴史的な流れもなんか違うし。
俺が尚も思考を続けていると、鬼がまた動き出した。
「まぁいい、貴様が何だろうと、目の前に立ち塞がるなら爆砕するのみ!」
『何か』を噴出して威圧する男。
俺はその只ならぬ気配に思わず体が強張る。
周りの人間は怖気づき、一部の者は足を縺れさせながらも全速力で逃げ出していった。
それを待っていたかの様に、彼は名乗りを上げる。
「我が名は鬼神、炎剋(えんこく)!いざ尋常に勝負!!」
「するか阿呆!!」
俺はとりあえず、目の前の馬鹿にツッコミを入れるしかなかった……
リニュとか言っておきながら、実は0~1話を合体させただけだったりする。
誤字脱字指摘等々があれば宜しくお願いします。