東方白霊猫   作:メリィさん

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スローペースで申し訳ない^^;
色んな事に気を取られてふと気付くとこうなって……ハッ!?もしや天狗の仕業かッ!(責任転嫁





其の三「鬼の山 後」

 

@Side猫

 

 

 

 

やぁ皆、凛々しくも愛らしい猫さんだよ!

 

……と少しはっちゃけてみるテスト。

うん、少しでもテンション上げてかないとやってられないんだ、すまない。

 

あの襲ってきた鬼神――炎刻とか言ったか?――の怪我を治して、俺を襲わない様に約束させてさっさととんずらする予定だったのだが何処で間違えた?

交渉の為に喋っていたらいつの間にか人生相談に摩り替わり、混乱しつつも適当に返していたら何故か鬼の住処へ行く事になってしまった。解せぬ。

 

面倒な事になった。

会話してて分かったのだが、鬼とはどうにも戦闘狂臭い連中らしい。

これはよく考えなくても死へのカウントダウンが始まったのではないだろうか?

戦闘狂集団の中に猫が一匹潜り込んで、しかも猫さんパワーが偶々鬼の力を上回って漸く勝てたとはいえ鬼神とか呼ばれてるらしい鬼に勝った奴がいる。

そうなれば戦闘凶としては戦わずにはいられないだろう。

しかも住処という事はこいつに劣るとはいえ同じ様なのが何十何百といるわけだ。

そいつらが喧嘩売ってくる……そうなれば俺の命は無い。

 

猫一匹に大の大人が複数人で殴り掛かってくるというのもシュールな話だが、当事者としては何としても避けたい事象だ。

ただでさえ今日は面倒尽くしだというのにこれ以上来たらストレスで寝込んじまう。

 

どうすれば回避できる?

攻撃して怯んだ隙に……は無理、俺の最高速に付いて来れる時点で詰んでる。

ならば説得して無しにして……これも無理、あの嬉しそうな表情は何かに期待している目だ。

断って「死 ぬ が よ い」されたら人生(にゃん生?)も終わりだ。

だったら敢えて百人斬りに挑戦してみるか? いや、寧ろ一人目で俺が斬られる。

なら不意を付いて牽制しながら逃げ――

 

「着いたぞ……ここが"今"の鬼が根城として使っている山だ……」

 

まだ具体的なプランニングが終わってないのに着いてしまったでござる。

連れてこられたのは岩山。

様々な形状と大きさの岩がごつごつと並んでおり、所々に植物の緑によるアクセントが加えられている。庭園とは程遠い野原みたいな山だった。

 

しかしこいつみたいな角の生えた人影は全く見当たらない。

つっても今は麓だから見えないだけかもしれんけどね。

 

山に踏み入り、上を目指して登る。

ただただ愚直に登っているが、果たしてこれで辿りつくのか?

俺としては「来たけど留守でしたー!」という展開が非常に好ましいんだけど……

 

「貴様ら! ここは俺たちの縄張り、早急に立ち去れ!」

 

しかし現実は非情である。

下っ端っぽそうな印象の薄い容姿をした鬼が現れ、大声で威嚇してきた。

そしてそれを皮切りに次々と角の生えた御方が顔を出してきた。

その数は……悪い、数えてるほど頭に余裕が無いんだ、ざっと五十人以上だと思ってくれ。

 

とりあえず返答だな。

穏便に言って帰ればとりあえずは見逃してくれるだろう。

でなきゃ警告なんぞするはずもないからな。

 

「背を向けるなど笑止千万、貴様らに背を向ければ襲われるのは自明の理、その警告など聞く

意味もない!」

 

炎刻がなんか言っちゃってる。

鬼に横道は無いんでしょ?

ならそれは無いんじゃないかねぇ……

 

しかしそんな想いとは相反して目を見開き押し黙る鬼達。

……えっ? ちょ、マジ? 本当に背を向けた時に殴り掛かるつもりだったわけ?

 

「我らが奇策、やはり通用せんか……」

「この程度、小妖怪でも見破れよう」

 

炎刻が鼻で笑って罵る。

うん、ごめん、普通に見逃してくれると思ってました。

 

そーいや鬼たちは堕落したって炎刻が言ってたな。

正々堂々とか武人って感じが似合う炎刻を基本として見ると確かに――

 

「随分な変わり様だ……」

「何奴っ!?」

 

やっば!折角忘れられてたのに何やってんだ俺!?

無意識とはいえ声に出せばバレるに決まってる。

 

「すまんな、これが今の鬼なのだ……」

 

炎刻が申し訳無さそうに頭を軽く下げる。

おいバカやめろ、お前が頭を下げると俺への反応がヤバイ。

 

 

「あ、あの鬼神が頭を下げている……っ!?」

「何故だ? 鬼神は己が認めた相手にしか敬意を払わないと聞いているが……」

「という事はあの妖獣は認めるに値する何かがあるのか……?」

 

 

ほらぁー!!

 

そりゃそうだって、隣にいるのはこの辺で最強(だと思われる)の鬼でも恐れられる鬼神だ。

それが頭を下げりゃ極大の誤解が起こるのは必然と言える。

 

「ふん、己の力に自惚れて怠ける貴様らには見抜けぬか……」

 

ちょ、俺がモノローグ、もとい独白で解説してる間に溝を深めないで!

俺に対して悪影響しか与えない言葉はノーサンキューだから!

 

そうして心の中で叫んでる間も深まる誤解と溝。

なんで声に出して止めないのか?お前は五~六十人ほどのやーさんに囲まれて言えるのか。

是非出来るなら試して欲しい、その後の責任は負えんけど。

 

そんな中で一つ、大きな気配が姿を現す。

感じる力はこの中でもそれほど強い訳じゃないが、闘気とでも言うのだろうか?

それだけは炎刻にも劣らないくらいだ。

 

その気配に釣られて顔を上げると、少し離れた位置に座る女性がいた。

白百合の花の刺繍が入った藍色の着物を着こなし、手には少々大きめの杯。

黒く艶の入った長い髪は綺麗に上へと纏め上げられている。

そして額から覗くのは二本の角。

 

「ほぉ……ここにも骨のある奴がいたか……」

 

炎刻が感嘆の声を上げる。

彼女の風格は何百年の月日を生きた彼すら認めさせる様だ。

 

「何だか面白そうな事になってるじゃないか……」

 

その声には好奇と戦意が混じっている。

まるでそれこそ、炎刻の言っていた"昔の鬼"を思い起こさせる。

それでも周りから聞こえてくるのは罵倒と嘲りの声だった。

しかし、鬼の女は口角を上げてにやりと笑って歩いてくる。

その表情に俺は、何処と無く嫌な予感がした。

 

「またお前か魔百合(まゆり)! てめぇ引っ込んでろ!」

「弱い奴がここに出てくるな!」

 

口々に出てくる言葉。

おいやめろ、こいつはお前らが思っているほど弱くない(````)

 

「うるさいねぇ……」

 

そう呟いた瞬間。

 

目の前で文句を言っていた鬼が岩にめり込んでいた。

 

 

(わぁお)

 

 

思わず釘付けになる俺。

周りの鬼も何が起こったのかと疑問顔を浮かべている。

対する炎刻は顎に手を当てて面白そうにそれを見ていた。

 

ちなみに何が起こったかは俺にも見えていた。

そう、あの鬼が正面に出てメンチ切ろうとしていた所だ。

そこに邪魔な蝿を払うかのように手の甲で腕を振っただけ。

別に握り拳なんざ握っていなかった。

そう、払っただけ(`````)であの鬼を弾き飛ばして岩を砕き、そのままめり込ませるという事を成したのだ。

 

「炎刻……アンタの高名は聞き及んでるよ」

 

汚いものでも触ったかのように手を払う。

彼女の声にはそれこそ、炎刻の求めた闘争心が宿っていた。

 

「あたしの名前は魔百合、そこの妖獣とも戦ってみたいが先ずはアンタを下すのが先だろう?」

「うむ、その通りだ。俺様を倒せなければコイツと()り合う資格は無い」

 

順調にハードルを上げる炎刻コノヤロウ。

俺に殺気っぽいのが向けられたが、コイツの太々しいまでの精神攻撃の方がよっぽど堪える。

殺気なんてちょっと体が重く感じるだけだし!

 

「なら()ろう今戦ろう!あたしは此間のアンタの襲撃から疼いて疼いてしょうが

ないんだ!」

「なるほど、腐ったものばかりだと思っていたが……まだ正当な鬼が残っていたか!」

 

周りの鬼さん置いてけぼりで盛り上がる二人。

多分俺も忘れられていると思う。

 

「魔百合と言ったな?我が名は炎刻!この名……しかとその身に刻むといい!!」

「いざ尋常に……!」

 

「「勝負!!」」

 

二人の声が重なると同時に地面を蹴り、お互いの拳をぶつける。

拳同士のぶつかり合いとは思えない程の轟音が響き、衝撃で周囲を抉る。

 

……というか俺と戦ったときって本気じゃなかったんじゃね?

あんなん振り回されたら余裕で死んでたよ俺。

 

二人はそのまま両の手で組み合い膠着する。

しかしその状態も長くは続かず、直ぐに炎刻が魔百合を後ろへ後ろへと押し込み始めた。

 

力勝負では分が悪いと感じたのか、魔百合は組み合った状態から足払いを掛け、力の緩んだ所で

無理矢理一本背負いを決める。

そのままマウントを取ろうと魔百合が動くが、跨ろうと足を上げた瞬間に蹴られて岩へと

突っ込む。

岩が砕け、埋もれていく魔百合。

 

しかし炎刻は構えを崩さない。

まだ元気みたいだ。

 

粉々に砕けた岩が再び四方に飛び散る。

俺は無言で鬼の背後に避難して盾として活用する。

あ、岩が直撃したな。

 

その中心には楽しそうに笑みを浮かべ、妖力らしき超パワーを撒き散らす魔百合がいる。

やだなにこれこわい。

正に人外魔境である。俺も人じゃないけど。

 

「やっぱりイイねぇ……その辺の男より、いや比べるのも痴がましいよ。痺れるくらいに強い」

「力は劣るが、戦時の直感と嗅覚は大した者だ……奴ほどじゃないが、楽しいぞ?魔百合」

「すぐに超えてやるさ!」

 

地面を蹴って急接近して殴り掛かる。

炎刻はそれを受け止め、頬に重い一撃をお見舞いする。

それをまともに受け止めた魔百合は大きく状態を仰け反らせるが――

 

「――ッッつあ゛ぁぁぁあっ!!」

 

無理矢理踏ん張って耐え切り、炎刻に強烈な殴打。

顔面で受け止めた炎刻は驚きの表情を見せながらも耐え切る。

 

恐らくまともなダメージは久し振りなのだろう(俺は除く、例外なんだ)。

ニヤリと笑みを浮かべて拳を受け止めた頭を使って魔百合の額に頭突きを打ちかます。

今度は耐え切れなかったのか、魔百合は大きく後退して額を押さえる。

見れば魔百合の額が割れたのか、血が大量に噴出していた。

更に殴られた際に出た吐血で既に顔が真っ赤である。

 

だがそんな状態にも関わらず、口元は笑みの形を作っていた。

何で笑ってられるんだ……。

 

「クククッ、やっぱ喧嘩はイイ。あたしがあたしでいられる……今までは男連中に気ぃ使って

我慢してきたが……っ!最近は腑抜けが多くて困るねぇ」

 

彼女は話の最中に膝を付く。

そして血を拭いながら前髪を掻き揚げる――と、そのまま仰向けに倒れ込んだ。

 

「……あぁ~駄目だ、やっぱあたしも腑抜けたね、もう殴る力も無い」

 

落胆した様に呟く魔百合。

これが戦闘狂って奴か……マジで震えてきやがったこわいです。

 

すると炎刻が倒れた魔百合の元へと歩み寄っていく。

周りの鬼が怖いので俺は炎刻に付いていく。

とりあえずこいつの傍にいればチョッカイは掛けられんはずだ。

 

「魔百合よ、俺はお前と出会えた事を誇りに思うぞ?まさか俺に傷を負わせるとはな」

「ハハッ!天下の鬼神様に言われたんなら光栄ってもんさ」

 

なんでこんな元気なんだ……今さっき限界だとか言ってなかったか?

しかもなんか炎刻の話と印象が違うぞ怖い。

 

「おい、炎刻話が違うぞ?」

「……?」

 

炎刻は此方に視線を向ける。

どうやら聞いてくれるらしい。

 

「こんな奴がいるなんて聞いてないぞ俺は」

 

俺はそれだけ言うと近くの森に逃げ去った。

これだけ言えば分かるだろう。

お前にはコミュ能力が致命的なまでに足りてないという事が。

正直鬼の目線が怖くて居た堪れないんだ。

 

もうストレスの限界だ!俺は森に逃げるぞ!

 

と、どっかで聞いた事のあるセリフを心の中で吐いて。

 

 

――アレ?これって死亡フラグじゃね?

 

 

@Side魔百合

 

 

「あーあ、行っちまったかい……」

 

あたしはこの時、自分の判断を後悔した。

あたしが今まで喧嘩に出てこなかったのは男連中の顔を立ててやる為だ。

ここ最近の男は弱い物虐めばかりか、無い頭を無理矢理使って不意打ちまがいな事まで

始めている。

てっきり、あたしの中では鬼と言うのは強さを求めるものだと思っていた。

両親にだってそう教えられた。

だから力を求める状況を作りたかった。

 

女が戦わないなら、男は守る為に戦うとだろう。

 

でもそう思って我慢した結果は残念としか言い様が無かった。

あたしと戦った鬼神、彼が襲撃した際にしめたと思ったけど、蹴散らされた後は女子供を残して

あいつらはさっさと逃げちまいやがった。

あの時の鬼神の落胆した顔は今でも忘れられない。

 

鬼神にあんな顔させるくらいならあたしが戦えば良かった。

でも手を出さない内に男連中の中で、男女の間に明確な上下関係が作られていた。

男のが喧嘩は弱かったけどね。

 

少し前にも強い妖怪がここを襲ってきた事があった。

男は毎度の如く逃げ出し、皆を守るためにあたしがそいつを追い払った。

だが掛けられる言葉は「女が出張るな」などの差別を含んだ言葉。

 

男はそこそこ力もあるし、他の女たちには守るべき子供がいた。

だから女で戦えるのはあたしだけ。だがそうなると男と喧嘩するには幾らなんでも分が悪い。

あたしはそれ以来、戦うことが出来なかった。

 

だがそれはあたしに勇気が無かったからだ。

あそこで反抗していればもしかしたら勝てたかもしれない。

慢心し切ってる奴等なんか、よく考えれば冷静に往なせばなんとかできたかもしれない。

でもたらればなんて今言っても仕方ない。

 

戦わず、体を鈍らせた。

それに鬼神以上の強者は呆れて去っていった。

それ以外の事実は無いのさ。

 

「はぁ……あたしも戦いたかったよ、もう叶わないだろうけどさ」

 

聞いてるのは炎刻だけだろう。

周りの男はどうせ鬼神を出し抜く算段を無駄に重ねてるに違いない。

元が空なら意味も無いだろうに……

 

あたしが自らを責め、馬鹿な男に落胆している時だ。

炎刻があたしに言った。

 

「……何を勘違いしているか知らんが、貴様は見放されてはいない」

 

はぁ?

 

あたしはそう声に出してしまうくらい疑問を感じた。

アレは確実にあたしに……いや、鬼全体に落胆した雰囲気だったけど……

 

「俺は奴に弱体化した鬼の事は伝えてある」

 

そっか、やっぱり炎刻も感じてたんだね。

だからああやって襲撃を掛けたんだ。

鬼の原点は力への執着だって聞くし、妥当な方法だったと思ったんだろうね。

 

「それを踏まえて奴の言葉を考えろ。俺から言えるのはそれだけだ」

 

それだけ告げると、炎刻は妖獣を追って森へと入っていった。

 

あの妖獣があたしに向けて言った言葉。

確か「話と違う、こんな奴がいるなんて聞いてなかった」だったか?

炎刻から聞かされていた話は鬼が全体的に弱くなったって事。

その話が違うと否定した。

そしてこんな奴、つまりあたしみたいなのがいるなんて聞いてなかった……

 

それは……つまり――

 

 

「あたしは……認められた……?」

 

 

あたしはこの時初めて

 

"嬉しい"という感情で涙を流した。

 

 

 

 

 




という訳で後編でした。
リニュ前の見てる人は分かるかもしれませんが、魔百合は嘗て黒百合だった人です。
性格とか大分変貌したけど……どうしてこうなった。



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