東方白霊猫   作:メリィさん

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フフフフ、トラウマからよーやく立ち直りましたよ。
もう青い画面は勘弁です(泣





其の六「賢者」

 

 

@龍華

 

 

あれから、三十年もの月日が経った……

 

なんだその目は。

俺は嘘なんか吐いてないぞ?

 

俺はリアルに三十年の時が流れるのを体感した。

何度と無く建物の巨大スクリーンに映るニュースを見て確認しているので間違いは無いと思う。

落ちてた端末を適当に弄くって調べていたのだが、どうやらこの里はとある人物の能力によって

里の外と中の時間軸を狂わせているらしく、向こうでの三日が丁度三十年ほどの日数に匹敵する

とかなんとか書いてあった。

 

つまり外では大して時間は経っていないものの、こちらでは物凄い速度で時間が過ぎて

いくわけだ。

どんな能力だったか……「~程度の能力」というとこしか覚えていない。

まぁ"程度"と評するには余りにも過ぎた能力だとは思うが……

 

でも短期間での技術発展の謎が漸く解けたので良しとしよう。

物凄くモヤモヤしてしょうがなかったので今はスッキリしてホッとしている。

 

それと十年ほど時間が経った頃に賢者なる女性が現れた。

その女性は数多なる知識と技術を擁しており、一を知って万を知る超天才らしい。

しかも武術にも長けているという万能っぷり。

今では里に多大な影響を与える重鎮の一人として有名だ。里の中ではだが。

一度記事を流し読みしている時にチラッと顔写真を見たが、銀髪銀眼の美しい

美女だった。

天は二物を与えずと言うが、絶対に嘘だと悟った瞬間だった。

 

……しかしあれだ。

この女性だが、何処かで見た事がある気がするのだが……どこでだったか。

ここは美男美女が多いからよく分からんし、こんな重鎮であれば早々見る事も

無いと思うのだが。

何分記憶に残ってない。その時は拾いに戻って来る可能性を考慮して流し読み

しかしてなかったからなぁ……

もっとじっくり読んでおけば良かったかと少々悔やまれる。

 

この賢者だが、最近になって人類が短命なのは地上にある穢れが原因であると

発表した。

その穢れとは、人類の生み出した負の怪物……そう、妖怪である。

これらの持つ妖力が原因で人間の寿命は短くなっているらしい。

里の中は外と軸が狂ってる所為か、穢れが発生し難く、人間が若さを保ちながら

長命であり続ける事が出来るそうだ。

 

だがそれも長くは続かない。

どうやら件の能力者が病に倒れたらしい。

今直ぐに死ぬというわけでもないが、回復する事は恐らく無いと診断結果が出た。

原因は能力の常時発動。

本来能力は自身に備わる霊力、妖怪ならば妖力を使って引き起こされる現象らしいのだが、

この能力者は発動した時からずっと能力が発動した状態から直らなかったそうだ。

継続的に霊力が失われ、遂には命まで削り始めたというのが賢者の見解だ。

これを治すには本人が能力を十全に使いこなさなければならないのだが、最早

命すら削り始めた所為か身体機能に異常をきたして一般人と同じ様に過ごす事

すら困難、能力の練習など不可能なのだとか。

 

そこで賢者は万が一に備え、穢れの届かぬ月への移住計画を打ち立てた。

大まかに説明すると、里の人間全員が乗れるだけの宇宙船を建造し、穢れが無いとされている

月へと逃げ込もうというものだ。

 

現在賢者主導の下、急ピッチで建造が進められているらしく既に試作艦が一隻

完成しているらしい。

賢者さんマジパネェっす。

 

(しかし月か……)

 

興味はある。

此方の世界では月に生命が確認されているという話だし、植物も存在しているらしいし。

それらを見てみたい気持ちはある。

が、そうなると炎刻たちとは別れる事になる。

流石に折角仲良くなった妖怪たちと離れるのは寂しい。なんだかんだで情が

移ったのだろう。

 

だから人間に着いていくのは諦める。

どうせ死ぬなら親しい奴に看取られて死にたい。

長寿願望も無いし、人間に進化の兆しも無いから既に興味は無い。

あくまで気になるのは月の生態系である。

 

ともなれば人間とはお別れだ。

元同族とはいえ今は猫、近付いたところで同じ扱いはしてもらえない。

 

「方針も決まったし、最後に代表のところにでも行こうそうしよう」

 

人間とお別れ。

正確に言えば人間はいるが、高めの知能と理性を持った人間はここの人間たちだけだ。

だから俺の知ってる人間とのしばしの別れという事で、最後に代表に会いに行こう

というわけだ。

つまりはここまで人類を押し上げた賢者さんのところに行く。

個人的に気になるってのもあるからな。

 

俺はそう決めてさっさと移動する。

ちょいと遠めだが、それは人間が通れる道を通ればの話だ。

俺は猫だから屋根やちょっとした隙間といった人の入れない場所を通れる。

そうすればあら不思議、徒歩十分が徒歩五分に早代わりしたではありませんか。

これが、獣道だ……

 

とりあえず賢者に感付かれないような場所から観察する必要がある。

えっ? 代表と会うんじゃないのかって?

確かに行くとは言ったな、だがまだその場所と状況まで指定していない。

 

つまり、あくまでも賢者のところに行くだけ。

だから賢者との会談などという質面倒臭そうな事はせずに、遠くからねっとりと視線を送る

という事だ。

 

というワケで丁度良く観察するにはぴったりなビルがあったのでそこにいる。

ここからならいくら賢者と言えど知覚範囲外だろうし、移動にも時間が掛かるはずだ。

つまり安全。

 

丁度良さそうなポインツを探して座る。

件の賢者は……おぉ、いたいた。

 

どうやら教え子みたいなのがいるらしく、賢者らしき人物が外から二人の組み手を見ている様だ。

だがまだ未熟なんだろうな、俺から見ても隙がある部分が一杯だ。

俺なら二人をおちょくりつつ圧倒できるだろう。

伊達に鬼から逃げ回っておらんよ。

 

淡い黄色の髪をした少女が紫髪の少女に蹴りを入れるが体勢が悪く、防がれた際に転倒

してしまう。

が、何を思ったのか紫髪の少女は追撃せずに距離を取る。

これってもしかして倒れてる相手には攻撃しちゃいけないの? 安全ルールなの?

俺だったら容赦なく弾幕叩き込んで逃げるのに……

 

というかさっきから気になってる事があるんだ。

言っていい?

 

賢者の服装が変なんですがどういう事なんでしょうね?

露出が多いというわけでもないのだが、センスが独特過ぎて反応に困る。

基本色は青と赤のツートーンなんだが上下左右で非対称という意味不明な配色となっている。

色以外は医者に見えなくもないのだが……

 

(いずれにせよセンスねぇー!?)

 

ドン引きです! と言わんばかりに心の中で叫ぶ。

特徴的と言えば聞こえは良いが、特徴的過ぎて浮いてる。

なんだあの「常識に縛られない服装の俺カッコイイ」みたいな格好は。

 

ってか元凶はお前か!

あの住民の未知のセンスはお前がやったから流行り始めたのか。

俺も全身銀毛で人の事言えたもんじゃないが、これはいくらなんでも前衛的過ぎるだろ。

一度鏡とか見てみる事をお勧めする。あと周囲の視線とか。

 

賢者の服装に異議申し立てたいと考えている内に俺は気付く。

 

(あれ……? いない?)

 

賢者がいないのだ。

俺は確かに自身の脳内会議で勝手に白熱していたが、視線は一度として逸らしていない。

つまり、目の前から突然消えたに等しい。

 

(こんな現象、前に読んだな……)

 

確かかなり古いマンガだったが、人気だったからか復刻版が出てたな。

つっても現本はもう残ってるかすら分からない。

復刻版と言ってもデータブックだしなぁ……紙の保存はどうしても限界がある。

 

それはいいか。

そのマンガで読んだ一場面にこんな現象があったな。

そこにいたのにいなかった的な。

えっと確か……

 

「……時間操作だったか」

「驚きましたわ。まさか一回で見破られるなんて……」

 

たらりと流れ落ちる水滴。

自身から流れたものだと把握するよりも、俺は先に現状を理解した。

 

(アイエエエエ! ケンジャ!? ケンジャナンデ!?)

 

いきなり仕掛けてくるのは実際シツレイ! じゃなくて。

なんで俺の背後に!?

俺の背後に立つな……でもなくて、どうしてここに来たんだ?

見られてたのが気になって仕方なかったのか? それとも監視とか密偵の類だと思われた?

 

――あっ。

 

(ああぁぁぁぁぁッ!? 俺って猫じゃん!)

 

そういや俺はこの世界に存在しないはずの生物「猫」だ。

見た事が無いこの世界の人間なら真っ先に妖獣の類を思い浮かべるに決まってる。

つまり――

 

見敵必殺(サーチアンドデストロイ)は必至……っ!)

 

相手からすれば人に害成す妖怪が街中にいるのだ。

それを踏まえて状況を整理すれば考えられるのは圧倒的武力による排除行動……!

後ろに回りこむという行動から不意討ちを狙った暗殺が目的だろう。

 

ともなれば話は早い。

幸い俺の独り言に反応してくれたお陰で即ジ・エンドは避ける事が出来た。

オマケに能力の一端を答えてくれたようなもんだ。

 

手札が少ない上にあちら側から見れば私の方が立場上不利なのが問題だが……

そこは大学の友人二人を言い包めてきた話術でフォローするしかあるまい。

「逃げの」……おわぁ、やっぱ前世の名前が思い出せなくて中途半端な感じに

なってカッコワルイ!

兎も角交渉だ! 説得だ!

 

(先ずは目的を明確にする!)

「なんの御用でしょう?」

 

相手を不快にさせない様に敬語で話す。

つっても面倒ごとを避けるべく最近では見知らぬ妖怪と話す時は基本敬語だが。

とりあえず下手に出れば最悪な事態だけは避けられる。

相手側に舐められるという可能性も存在するが、エンカウントからの戦闘という

RPGゲーム染みた展開にはならずに済む。

理性と知性を持った相手にしか通用しないのが難点だが……

 

「先刻から視線を感じまして。何か御用なのかと思いましたの」

 

相手側も間違いなく探りを入れてきているな。

これは少しでもミスすれば俺の獣生が危ない。

ここは無難な回答で回避だ。

 

「見ていただけですよ? 今、何をしているのかとね」

 

さぁ、どう来る?

 

「そうでしたの……今は不肖ながら、私に出来た弟子の稽古を見ていましたのよ」

「そうか、弟子か……」

 

俺の言葉に素直に答える賢者。

何故、素直に答えたのか。

もしかしたら俺への処遇が既に決まっていて、何時でも殺せるから会話してる

だけ……とか?

 

ぽ、ポジティーブ!

 

いかん、ネガティブに考えてたらそっちの運気を呼び寄せてしまう。

魔法みたいなものが使えて、マンガに出てくる様なゲテモノ生物が歩き回る世界だ。

それすらも本当になってしまいそうなので考えてはいけない。

ここはプラスに考えよう。まだ慌てるような時間じゃない。

 

相手はきっと「攻撃意思は無い」と分かったから世間話に応じてくれただけ。

そうに決まってるさ、うん。

 

「私がこうして弟子になる事を望まれる様になったのも、あの時の救いのお陰ですわ」

 

その救いがなんだかは知らんが、危機的状況に陥った事があったのだろう。

そこを助けられなければこうして賢者は生まれなかったわけか……

彼女の事だから物凄い犯罪組織に捕らえられて、そこをイケメン主人公的な奴に助けて

もらったとか。

賢者が危険になるんだから相手は相当な組織だったんだろう。

その組織相手に立ち回り、彼女を見事救ってみせたのだから相当な英傑に違いない。

 

「過去にも村は何度となく救われてきました。けれど里の者達は少しずつ、白霊猫様のご加護

あってこその繁栄だというのにそれを忘れてきていますわ……」

 

白霊猫……?

確か各所にある祠にそんなのが書いてあったな。

祠にあるって事はこの里の守り神かなんかか。

あんな化け物がいるんだから神様がいたって可笑しくはないか。

しかし神様に助けられたとか気に入られ過ぎだ。

容姿端麗、頭脳明晰、文武両道。んでもって神様が自ら助けに行くとか文字通りの申し子だな。

ホント羨ましい。

 

「しかし命を救い、(すべ)を教えてくれた白霊猫様にこの八意××は感謝しています。

そして未来永劫、その恩を忘れたりは致しません。それは既に確定事項です」

 

すげー信心深いな賢者。

でもそんだけ助けられてたらそりゃ信仰するよなぁ。

誰だってそうする、俺だってそうする。

 

それじゃそろそろ引き上げるとしよう。

攻撃されなかったのは良き事だが、このままでは何時までも喋り倒しそうだ。

流石に見るだけの予定だったからこれだけ居続ける事になるのは予想外だ。

賢者と話してたら他の奴に見付かるかもしれんし、今はそっちのが危険だ。

 

「そうですか……立派になったのですからさぞ白霊猫様もお喜びでしょうね。

それではさようなら」

 

俺は咄嗟にステルスを使ってこの場を離れる。

少し発動が早かったか?

だが追ってくる気配は無いから成功だろう。

 

時間は掛かったが、ここでの人間観察は(しま)いだな。

これでどれだけ時間を掛けて他の人間がこの領域に達するかは知らんが、

これで完全にお別れだ。

さようなら、前世の種族。

そしてようこそ、魑魅魍魎の世界へ! なんてな。

 

……さて、三日も空けてしまったわけだがあいつらへの言い訳どうしよう?

俺は今の仲間に対する言い訳を考えながら、この里を後にするのだった。

 

余談だが、出るのにさらに三日掛かったのは無かった事にして欲しい。

出る手段が無かったんや……

 

 

 




最後に一言。
投稿期間空け過ぎました申し訳ない。






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