彩霧広佐の視線 アクセル・ワールド   作:かいくんtheネクスト

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《スパーク・トリガー》――使い捨ての無二

 銃弾をくらったナイトメアは巨体に見合わぬ身のこなしで木の陰に身を隠す。またしても銃撃が殺到するも、一発が肩口を掠め、体力を一ドット削ったのみだった。障害物が多いということは身を隠して攻撃することが容易である一方、その攻撃を防ぐこともできるということを意味する。

 そのまま様子を見るのかと思いきやナイトメアは姿勢を低くして走り始めた。相手の姿を視界に捉えない限りいくら時間を稼いでも無駄だと踏んだのだろう、頭の位置を上下させない無駄のない動きで銃弾が飛来した方角へとジグザグに移動していく。

 

「けど、なんちゃらトリガーもそれくらいはわかってるはず。だとすると今度は……」

 

 次は、さっきとは別の方向から大きな銃声がした。連続音ではなく、破裂音に近い。まるで複数の銃が同時に火を吹いたような――。

 その瞬間、ナイトメアを端に引っかけるような形で半径3メートル以内のいたるところに着弾痕が刻まれ、ナイトメアの体にもいくつもの火花が散る。体力一割五分減少で残り四分の三。ナイトメアはバランスを崩すものの、その勢いを利用して再び木の陰に滑り込む。銃声といい、弾丸の散らばり方といい、さっきの連続音とはまったく違う攻撃だった。

 

「今のは、ショットガン……? マシンガンから切り替えたのか? だとしたら相手は複数の銃火器を使えることになる。ますますきついな」

「このままじゃジリ貧だしねー。マップを見る限りスパーク・トリガーも結構がんばって移動してるみたいだ」

 

 確かにトリガーを差す赤い矢印は、ナイトメアを中心として円を描く軌道で移動し続けている。こうしている今も頻繁に銃撃が行われ、それに合わせてナイトメアも回避行動をとっているものの、銃弾は執拗に彼を追従し、かなりの精度で命中して体力をじわじわと削る。動きながらこれだけ弾を当てられるとは驚くべきAIM力だ。絶え間ない射撃でナイトメアに休む隙を与えず、精神的にも追い込んでいこうとしているのがわかる。

 もはや一方的に蹂躙されるだけの試合か、とコウが思いかけたそのとき、ナイトメアがこの試合で初めて背負っている大剣に手をかけた。

 

「あいつ、何を考えてるんだ? 剣を振っても当たるわけないのに」

 

 剣を引き抜いたナイトメアは、それを前方に向かって振り下ろした。彼が剣で切り裂いたものを見てコウは驚愕する。彼が切り裂いたのは、地面から生えていた身の丈1mほどもある巨大なキノコだった。現実にはありえない物体だが、ああいう変わったギミックもステージに搭載されているのか。

 大剣で両断されたキノコから信じられない量の胞子が撒き散らされる。胞子は瞬く間に周囲に充満し、濃い霧のように空中を漂う。ナイトメアが移動していたのは、これを見つけるためだったのだ。これでトリガーはナイトメアに狙いを定めることができず、しかしナイトメアの方はマップを頼りにトリガーに近づくことができる。

 

「そっか、ゴールド・ナイトメアのゴールドは貴金属の最上位。王水以外のどんな物質に触れても分解されることがない。だから猛毒の胞子も、ナイトメアはリスクを負わずに利用することができるんだ」

 

 感心したように凛火が言った。一方のコウは、ナイトメアの姿を見失わないので精一杯だった。こうも視界が悪い状態で動き回られると、付いていく側も苦労させられる。

 胞子で射線が通らなくなり、銃撃が止んだのを確認するや、ナイトメアは再び剣を背中に戻し、トリガー向けて一直線に走る。コウは、ナイトメアが走りながら、移動を阻むツタなどを手刀で切り裂きながら進んでいるのに気づいた。剣だけじゃなく手や指にも物体を切断する機構がそなわっているのか。

 トリガーもナイトメアの狙いに気づいたのか、ナイトメアの走る方角と同じ向きに逃げて距離をとろうとしている。遠距離タイプのキャラが近接タイプのキャラよりスピードが速ければ、遠距離タイプは逃げているだけで勝ててしまう。このゲームはそこまでバランスの悪いシステムにはなっていないらしく、ナイトメアの移動速度はトリガーの逃げるスピードを上回っていた。ツタを切りながら移動できるナイトメアとそれができないトリガーでは動きやすさも違うのだろうが。

 またたく間に二つのカーソルの間隔が詰まっていき、ついに数十m先を走るスパーク・トリガーの後ろ姿が見えた。全体の色はオレンジだが、迷彩柄のような茶色がところどころにあしらわれており、ヘルメットを被ったような頭部のシルエットと合わせて軍人をイメージさせる。体つきは意外にも小さめで、自分の持っている猟銃に振り回されてしまいそうでなんとなく頼りない。しかしそれでもレベルはナイトメアより二つ上のレベル3。遠距離から高い精度でナイトメアを狙った腕前から考えても、体格だけで弱そうとはとても思えない。それと、トリガーが最初に使ったマシンガンを持っていないのも気になる。

 ナイトメアがどんどん距離を詰め、10mくらいにまで近づいた瞬間、不意にトリガーの姿が消えた。いや、消えたのでない、さっきのナイトメアと同じように木に隠れたのだ。すぐにナイトメアが木の裏に回り込むが、そこにトリガーの姿はない。

 

「《シェイプチェンジ・アサルト》」

 

 どこかから技名のような言葉を発する声、そして連続した銃撃音。ナイトメアが全身に弾丸を受け、体力は半分を切る。どうやってかわからないが、トリガーは誰にも気づかれずにその場を移動している。

 もうひとつ気になるのは、今の銃声がショットガンではなく、マシンガンのものだったことだ。逃げているときにマシンガンは持っていなかったから、てっきり置いてきたのだとばかり思っていたのに。

 

「まさかトリガーのやつ、銃を変形させる技みたいなのを持ってやがるのか……?」

「気がついた? 彼の持つスキル《使い捨ての無二(ディスポーザブル・オリジナル)》は必殺技ゲージを消費して、自分の銃を好きな形に変える力があるんだ」

「そうだったのか。けど、トリガーはどうやってナイトメアに気づかれずに移動を?」

「きっとほふく前進だ。トリガーは足元の草に隠れて移動したんだよ。対戦者同士が10m以内の距離にまで近づくとマップ表示が消えて相手の方角がわからなくなる。トリガーはその瞬間を狙ってたんだね」

 

 コウたちの立っている位置からトリガーのいる場所が見える。物陰にしゃがみこみ、頭と銃口のみを陰から出してナイトメアへ向けて引き金を引いている。これではナイトメアは攻撃を当てるどころか、うかつに近づけばそのまま蜂の巣にされて敗北になりかねない。あの巨大キノコも周辺にはない。さあ、どうする。

 するとナイトメアは剣の柄に手をかけたまま、膝を限界まで曲げた。そして足のバネを一気に解放、大きく跳躍する。ただしそれは上方向にではなく、ナイトメアから見て右、それもかなり鋭い角度での跳躍。それはトリガーのいる木の裏側を視界に収められる角度だ。だがこの跳躍でナイトメアは完全に態勢を崩しており、このままでは着地と同時にバランスを崩してしまう。視界に入るとは言っても斬撃が届くには程遠い。だがコウは、ナイトメアの剣が白い光をまとっていることに気がつく。

 

「《旋刃》」

 

 ナイトメアの凛々しい声がフィールドに響き、地面に対して垂直にスイングされた剣は空を切る。だが剣の軌道には三日月状の斬撃の跡が残り、それはまっすぐに、トリガーの体に吸い込まれるように進んでいった。トリガーは突然のことに反応することができず、地面から生えた草を刈り取りながら飛来する攻撃をモロにくらって吹っ飛んだ。トリガー、この試合初めてのダメージ。ギャラリーが息をのむのがわかった。

 

「あいつ、やりやがった!」

「うん、だけどまだまだ体力差がある。ナイトメアが逆転するか、トリガーが押し切るか」

 

 確かに、ダメージが通りはしたが、トリガーのHPは二割減って残り八割。それに対してナイトメアはもう四割程度しか残っていない。ただ対戦開始と違うところは、両者の距離が10mにまで接近しているという点だ。移動スピードで劣っているトリガーはここから大きく間合いを離すことはできない。逆転の可能性はまだ残っている。

 

「がんばってくれ、ナイトメア……!」

 

 知らず知らずのうちに、コウはナイトメアの勝利を願っていた。

 

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