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学園の研究室。
結希が書類に目を通していると、天がやってきた。
「さっきからなに見てるの?」
「エレンの経歴を。
未来の遊佐さんの情報によると、もっともこちら側と違うのが彼女。
そこになにか、ヒントがないかと思って。」
「朱鷺坂に聞けばいいんじゃないの?」
結希は天を黙って見た。
「彼女が自分から言ってるじゃない。
裏世界の人類壊滅という歴史・・・それを変えるために、ゲートを通ってきたんだって。」
「その【変える】という意味なんだけど、どう思う?」
「どうって・・・第8次侵攻で負けてしまわないように、戦力増強を・・・」
「それで変わるのはこちらだけでしょう?
彼女の言動は違和感があったわ。
【裏世界を確認したから、もう秘密にする必要はない】。
新学期が始まったころの彼女の言動よ。
もともと裏世界から来た彼女は・・・いったい裏世界の【なに】を確認したの?」
天はその言葉を聞いて少し沈黙した。
「アンタは、【変化】を確認したと思ってるのね?」
「ええ。
でも彼女の予想と違って、裏世界は何も変化していなかった。
朱鷺坂 チトセがしたことはデクの技術向上に、多くの魔法的発展。
結果的に、遊佐さんの情報にあった裏世界の人類戦力の数倍規模になっている。
それでも、裏世界はなにも変化していない。
それを確認したから・・・彼女は自分の目的を話したんじゃない?
自分ではどうにもならないから。」
「つまり・・・・・朱鷺坂は、表と裏の歴史は地続きだって考えてるの?」
「ええ。
その証拠に、良介君たちが過去に行った後は、私たちだけでなく・・・生徒会にも協力をあおいでいる節がある。
おそらく、あの時のエピソードにいくつかの不都合な点があったから。」
「だって、そもそも彼女は50年先から来たんでしょう?
なら、12年前のことには関わってないはず・・・じゃない。」
すると、天は不思議そうな顔をした。
「彼女が関わっていないのに・・・エレン・アメディックの運命が変わった・・・?
どういうこと?」
「デクのことも50年前でしょう?
他に裏世界から来た人間がいるか・・・やはり彼女が関わっているか、よ。」
その頃、学園の屋上にチトセがやってきていた。
すぐ近くに卯衣がいた。
「ちょっと話し相手になってくれないかしら。
聞いてくれるだけでいいの。
問題をまとめたい・・・ドクターの許可はもらってるわ。」
「ええ、構わないわ・・・あなたから聞いた情報は削除するから、心配ない。」
「ありがとう。
終わったらお礼に、良介君を連れてきてあげる。」
「それよりも、私は裏世界に存在しないようだけど。
いいの?」
「いいわよ、もちろん・・・私にわからない問題はいくつかあるんだっけ・・・1つ目は、テスタメントの【時間停止】・・・あれを誰がかけたか。
アイザックしか使えないはずの魔法・・・他にも誰かが使えた?
それとも、アイザックが日本に来た・・・いえ、これは信じがたい・・・彼が1ヶ月ほども母国を離れたことはなかった・・・」
「1年間で得た知識で申し訳ないけれど・・・アイザック・ニュートンは日本への渡航歴がないわ。」
「ありがとう。
なら、ここにゲートを封印したのは他の誰か・・・ってことね。」
すると、チトセは何かに気がついた。
「ん?
あら?
あらあら?
ねぇ、ここの【風飛】って地名、昔からそうなのかしら?」
「詳しい情報はないけれど・・・江戸から明治に移る頃・・・その時期に今のものになったはず。」
「風飛・・・フウビが、昔はフウヒだったとして・・・封扉・・・まさかこの地域、ゲートが封印されたからこの名前になったの・・・?」
「根拠となるデータは確認できないわ。」
「いちど、この線を進めてみましょう。
江戸、明治期の著名な魔法使い・・・あ、検索はいいわ。
あとで自分でやるから。」
「そう。」
「もう1つは、なぜ表と裏が生まれたか。」
「あなたが改変をしたから・・・ではないわね。
2つの世界があったからこそ、移動することができたのだから。」
「そうよ。
私が不思議に思っていることがそれ。
まず2つの世界ありき。
私が改変したからこそ、表と裏には差が出ているけれど・・・もともとは全く同じ歴史をたどる、2つの世界があった。
私は最初にゲートを通った時、こう思ったの。
私は【過去】に来たんだって。」
「タイムトラベル?」
卯衣は首を傾げながら聞いてきた。
「そう。
でも、違ったわね。
優秀な軍人だったウィリアムズさんは、同僚の死を引きずっていた。
だから私はその同僚・・・エレン・アメディックの歴史を変えた。
まさか彼女まで覚醒するとは思ってなかったけどね。
結果的は成功。
とっても仲がいいでしょ、あの2人・・・けれど、裏世界は変わっていなかった。
そう・・・私は過去を改変すれば、未来も変わると思っていた・・・けれど、裏は何も変わっていないわ。
変わったのは【表の今】だけ。
裏と表は切り離されていた。」
「ねえ、私は聞くのが役目だけど・・・質問をしてもいいかしら。」
「ええ。
もちろん。
相談にのってもらってるんだし。」
「あなたは、何年前から表世界にいるの?」
「それは。」
「遊佐さんは、あなたがアメディックさんの死を改変したと確信している。
それより昔の、デクのブレイクスルーにも関わっていると言っていた。
遊佐さんは時折、無意味なブラフを言うことがあるけれそ・・・アメディックさんの件については、今、あなたの口から確証を得られた。
朱鷺坂 チトセ。
あなたは、少なくとも12年前にこちらに来ているの?」
卯衣はそう言うとチトセを見つめた。
***
その頃、良介たちは森の中を進んでいた。
良介はエレンと話をしていた。
「結果的に自分の首を絞めることになっても、今が大事なのだ。
先がない私たちにとってはな。
例えば、300年前と今の魔物で、強さが比較にならないのは知っているな。
【ムサシ】こそでなくなったものの、個体の強さは年々、上がり続けている。」
「人型も出てきてるし、知性が芽生えているのもいるな。
特に人型、第7次侵攻後に出現数が跳ね上がっているみたいだな。」
「なぜかはわからん。
だがもし魔物が人間をまね始めているとしたら・・・一刻も早く、行動しなければならないのだ。
裏の世界では人類は絶滅寸前だ。
今さら魔物が増えたところで大して・・・と、連中は考えている。
軍人としては正解に近いだろう。
だが、私は反吐が出そうだよ。」
「俺も同じだな。」
良介はそう言うと、目の前に現れた魔物の方を向いた。
「うし、やるか。」
良介は早速、指示を出す。
まずは良介が威力の低い魔法で魔物の気をそらさせると、魔物の後方に回った者が魔物に魔法を撃つ。
これも魔物の気をそらさせるためだった。
良介は先ほど魔物を倒した際に弱点を見抜いていた。
魔物が後方に回った方に気を取られた際に残りの者に指示を出した。
「今だ、やれ!」
魔物の弱点となる腹部に向かって魔法が放たれると魔物は一瞬で霧散した。
「よし、次行くか。」
良介が行こうとすると、エレンが暇そうにしているのに気づいた。
「次、参加してもらうから。」
「ああ、そうしてもらわないと困る。」
良介たちは次の魔物のところへと向かった。
***
学園の報道部部室。
鳴子と虎千代がいた。
「もういいのか?」
「マイクのスイッチはここ。
押しながら喋ってくれ・・・覚えてるかい?」
「全然。
よし・・・」
「本当に通達するのかい?
もしかしたら侵攻は起きないかもしれないんだろ?」
「意図を言わないと、わざわざハワイで訓練する目的がわからないだろ。
それに、学園生には知っていてほしいからな。」
「結構だ。
始めてくれ。
歴史に残る演説を頼むよ。」
「歴史に残る・・・確か前も聞いたが、今は複雑な気分だな。
あー、あー。
入ってるな。」
虎千代は演説を始めた。
「生徒会執行部会長、武田 虎千代より学園生へ通達がある。
クエストに行っていない生徒は、各々作業を止め、聞いてくれ。
8月の後半より、2回にわけてハワイへの旅行が行われる。
組分けは通知している通りだ。
間違えないように確認しておいてくれ。
さて、ハワイへの旅行の目的だが、民間軍事企業との合同訓練を行う。
魔法使いではないが、対魔物のプロだ。
学べることは多い。
PMC・ナチュラルエネミーとの訓練による戦力のレベルアップをはかり・・・我々は、9月の第8次侵攻に備える。」
学園の屋上で誠は立ちながら放送を聞いていた。
「PMCとの合同訓練・・・か。」
そう言って誠は目を瞑ると、少しして目を開けた。
「チトセか。」
「う・・・よくわかったわね。」
誠の後ろにチトセが立っていた。
「なんとなくな。
で、何か用か?」
「魔神化・・・どこまで使えるようになったのかなって思って。」
「ああ、前、意識飛んでたからな。
心配なるのは当たり前か。」
「あまり使わない方がいいって言ったけど、あなたのことだから使えるように練習してると思ったのよ。
それで、どうなの?」
「もう、意識が飛ぶようなこともないし、体に痛みが走るようなこともなくなったよ。」
「つまり、マスターしたってこと?」
「いや、まだだ。
魔法の威力の制御ができてない。」
「もしかして、肉体強化だけでなく、魔力強化まで同時にかかってるの?」
チトセは少し驚いたような顔をした。
「ああ、軽く撃ったつもりでもとんでもない威力が出ちまう。
これさえ、どうにかできれば完璧なんだがな。」
「一種のリミッター解除みたいなもの?」
「そうだな、似たようなもんだ。
こればかりは練習を繰り返すしかない。」
誠はその場から立ち去ろうとした。
「待って。
聞きたいことがあるの。」
「聞きたいこと?
俺のことか?」
「いいえ、良介くんのことよ。」
「良介の?」
「ええ、良介くんにもあなたと似たような能力があると聞いたのよ。
それを教えてくれないかしら?」
「第1封印の能力のことか。
でも、それ他人に言っていいかどうか本人に聞いてないし・・・」
「ダメかしら?」
誠は少し考えた。
「まあ、あいつも能力のことに関して色々と考えているみたいだし。
あいつの力になれるかもと思えば・・・」
「それじゃ、教えてもらうわよ。
良介くんの封印された能力について。」
誠は良介の能力について説明し始めた。
***
少し経って学園のグラウンド、荷物を纏めた生徒たちが集まっていた。
そこに薫子と聖奈がやってきた。
「全員そろってるな!
これより前期ハワイ旅行組、出発の準備に入る!
忘れ物など最終確認をしておけ!
1時間後にいないものは・・・問答無用で置いていくからな!」
「では、よろしくお願いしますよ。」
「はい。
副会長も、待機の間、よろしくお願いします。」
「あなたたちが帰ってきたら、今度は私たちの番です。
合同訓練とはいえ、ハワイ。
羽を伸ばしてきてくださいね。」
「ほどほどに。
あくまでクエストですから。
後は・・・エレン・アメディックと良介だな。
あの2人のことだ。
遅れはしないだろうが・・・念のため、連絡を取るか。」
聖奈はデバイスを取り出した。
***
その頃、良介たちは次の魔物のところに向かっていた。
「愚問かもしれないが・・・エレン、大丈夫なのか?」
「このくらいなら手こずりはしない。
クエストの魔物は平均より弱いからな。
だから、討伐対象は少々手強い相手を選んだ。
お前の力が必要な相手だな。」
「わかった。」
良介が前に出ると、エレンが続けて話してきた。
「いいか、前々から言っているように、お前はこれから重大な責務を背負う。
望むと望まざると、人類の旗頭になる可能性がある。
そうでなければ、実験体として闇に消えるかだな・・・そうなる前に、お前は自分を守れる方法を1つでも作っておけ。
大人は思っている以上に残酷で強引だからな。」
「そうなったら、誰に関わろうとしたか思い知らせてやるだけさ。」
良介はニヤリと笑みを浮かべた。
エレンもそれを見て笑みを浮かべた。
「お前には愚問だったか。
話が長くなった。
魔物はすぐそこだ。
やるぞ。
多少強くとも、私たちなら苦も無く倒せるはずだ。」
「ああ、行くか。」
魔物が姿を現すと、良介は周りに指示を出そうとしたが、エレンが遮った。
「良介、お前と私、2人でやるぞ。」
「2人で?」
「ああ、ただしお前が指示を出せ。」
「了解、行くぞ。」
良介とエレンが前に出ると、良介は早速、魔法で足止めをした。
さらに、そこから拘束魔法で動きを止めると、エレンに弱点を突くよう手で指示を出した。
エレンは指示通り、魔物の弱点目掛けて銃を撃つと魔物は一撃で霧散した。
***
魔物を倒すとエレンは銃を直した。
「よし、魔物の消滅を確認した。
【霧を払った】ぞ。
残党がいるかもしれんが、それは私たちの仕事ではない。
今は速やかに帰り、報告することだ。
今日話した内容は、秘匿されているわけではない。
別に機密事項でもないから心配無用だ。
だから、覚悟し、準備をしておけ。
お前を取り巻く環境は、ただ女子が取り合うという単純なものではない。
少なくとも、宍戸 結希、如月 天、そして武田 虎千代・・・魔法使いの傑物がどうにか押しとどめているほどの事態だ。」
「それじゃあ、いずれことが起きるだろうな。」
「ああ、だから、備えを、怠るな。
これが私からのアドバイスだ。」
「わかった、胸に留めておくよ。」
良介たちは学園に向かい始めた。
***
良介とエレンが学園に向かって街中を歩いていると突然エレンが立ち止まった。
「どうした、エレン。」
「ふむ。
待て。
学園に帰る前に、飯でも食おう。
話しておくことがある。」
「・・・わかった。
あそこのファミレスに入るか。」
2人は近くのファミレスに入った。
料理を注文すると、エレンは話し始めた。
「詳しい説明はしなかったが、今回のクエストには2つの目的があった。
1つは私の憂さ晴らしだ。
つきあわせて悪かったな。
お前も知っての通り、最近は裏世界について、なかなかしんどかったんだ。
そのストレス発散にお前を使わせてもらった・・・去年の夏合宿から1年ぶりだな。
フフ、また溜まったら頼む。」
「ああ、それくらいならいくらでも付き合ってやるさ。」
すると、エレンは少し沈黙してから話した。
「もう1つは出がけに話した通りだ。
グリモアはハワイで、ナチュラルエネミーというPMCと合同訓練する。」
「ナチュラルエネミーって【天敵】って意味だな。」
「魔物にとっての天敵・・・それがバスター大佐の言い分だよ。」
「バスター大佐ってナチュラルエネミーの社長だったな。」
「そうだ、私とメアリーの、かつての上司だ。
今は退役している。
お前をバスター大佐に会わせようと思い、実力を見た。
問題ないだろう。
1年でここまで上達しているなら上出来だ。
お前は戦闘で自分が戦うと同時に戦う者に力を与える立場だ。
そのための価値・・・いわばブランドを作ることに、成功していると思う。
だが、もっと己を高めろ。
あらゆる状況でスムーズに魔力を供給できる柔軟さ・・・戦況を把握できる見識と経験・・・仲間たちの連携を滞りなく行うための人心掌握・・・それを鍛えていけば、いずれお前を中心とした1つの軍ができあがる。
おそらくそれは世界最強だ。
霧の完全消滅はともかくとして・・・ヘタな魔物に負けることはないだろう。
それがどれほど救いになることか。
まずはハワイだ。
バスター大佐に己の力を見せつければ・・・いずれ、お前の力になってくれる。
あの人はそういう人だ。
裏世界で【裏切り者】になった私を拾ってくれた人だからな。」
すると、エレンのデバイスが鳴った。
エレンはデバイスを取り出した。
「結城から連絡だ。
まだ余裕があるが、出るか。」
「ああ、余裕があった方がいい。
行くか。」
2人は出る準備をし始めた。
「私は、この学園にいる間に、精鋭部隊を始め精強な軍を作ろうとした。
私が指揮する立場になれば、より強くなると思っていたが・・・必要となれば、お前が私を使え。
その方が早そうだ。」
「ま、その時が来たら存分に使わせてもらうよ。」
2人はファミレスから出て、学園に向かった。