なんかあからさまにヤバイ奴が来たな。
それが俺のドクロの少女に対する第一印象だった。
しかもこの少女はかなりのお嬢様なのだろう。
護衛らしき美少女が二人もついている。
一人はおでこが素敵な長い黒髪のオールバックでアホ毛が可愛い。
もう一人は水色の髪で右目が隠れるヘアースタイル。
ねぇそれ右目見えてんの?
この二人は多分冥琳達とそんなに年齢が変わらないだろう。
俺はとりあえず何事も無いかのように、接客してみる事にした。
「いらっしゃいませ。 お客様の仰る通り、私が当店の店主を勤めております、廖 元倹と申します。」
「店主?……へぇ。 それは初耳だわ。」
と言う事は、やっぱり書物関連の奴か。
はぁ、嫌だな~。何か怖いな~。(稲○風)
「質問する事が増えたわね。 まぁいいわ。 まずは最初の用件から尋ねましょう。」
そう言ってドクロの少女が出したのは名君論だった。
「この書は貴方が書いた物で良いかしら?」
……まじで気づく奴いたのかよ。
ご、誤魔化さねば。
「はっはっはっ、私はしがない店主ですよ? そんな大それた物を書ける訳が無いじゃないですか?」
「貴様! 誤魔化すな!」
ちょっと恐いよ、オデコちゃん。
「落ち着きなさい、春蘭。……まずは確認をしましょうか。」
その言い方だと俺が犯人で貴女が探偵なんですが?
「貴方はこれまでも数々の書を出しているわね? ……秋蘭。」
「はっ。」
そう言って水色ちゃんが取り出したのは俺の著者名が書かれた、俺が今までに出した小説だった。
「貴方はそもそも書物の作者でしょう?」
うむ、想定通りだ。
「……えぇ、まぁ。 しかし私は目立つのを好みませんので、公表は控えさせて頂いてます。 ですがだからと言って、その書物とは関係ありませんよ? そもそもその書物の発信地は揚州ではありませんか。」
「えぇ、そうね。 細かい表現方法や、章の作り方等、同一の人物と思われる所もあるけど、決定的な証拠にはならないわね。」
ふっ、勝った。
その通りだ。証拠を出せ、証拠を。
「けれど貴方の義姉と呼ばれる、楊 威方には既に確認が取れているわ。」
姉さーーーーーん!!!
や、野郎、俺を裏切りやがった!
あんたが気を付けろとか言ってた癖に、あんたがばらしてるじゃねーか!
それにしてもこいつ、……推理ゲームかと思わせといて、こんなん只の確認ゲームじゃないか!
「これで認めるかしら?」
「……それを口にする事は出来ませんが、……私は名君論に“詳しい”ので質問にはお答えさせて頂きます。」
「貴様! 潔く認めろ!」
それは出来ないんだオデコちゃん。
「良いのよ春蘭。」
「しかし、華琳様…。」
「この書の内容は捉え方によっては、漢王朝への批判とも取られかねないわ。……真意はどうあれ、著者である事を認めないのは当然の事なのよ。」
そう言う事だ。
それがわかっていながら、何故俺を追い詰めた?
嫌がらせ?
「それと勘違いしてる様なので説明すると、楊 威方は今までの書物の著者が貴方である事は認めても、名君論に関しては何も明言していないわ。」
こっ、こいつ、会話の中で俺にミスリードを仕掛けてやがった。
ニヤニヤしやがって、……化け物が。
っていうか、すまない姉さん。
あんたが俺を裏切るはずなかった。
あんたを信じきれなかった俺が馬鹿だった。
くそっ、どれもこれも冥琳が悪い! 陸遜が悪い!
「……場所を変えて話をさせて下さい。」
もう良い。
どうにでもなーれー。
_____
とりあえず数少ない個室のグループ席に少女一行を案内して、いざ話を切りだそうとした所で、雇っている店員が俺の所に来た。
「お話の最中に申し訳ありません店長。 公瑾様と伯符様がお見えになられました。 なんでも詫びに来たとか…。」
やった! 冥琳来た! これで勝つる。
「直ぐにここに通してくれ。」
ナイスタイミングだ冥琳。
詫びと言うなら後は全部お前に丸投げさせて貰うぜ。
「申し訳無い。 今私の友人が店に来たのですが、その友人は名君論に“詳しい”のです。 恐らく貴女の希望に沿うかと思われるので、ここに招待させて頂きます。」
「へぇ、そう。……貴方よりも“詳しい”のかしら?」
「同等であるかと。」
言外にもう一人の作者が来たから呼んだぜ? って言ったのがきちんと通じて良かった。
まぁ、この少女になら通じると思ったから言った訳だが。
コンコン
「公瑾様と伯符様をお連れしました。」
「入ってくれ。」
頼むよ冥琳。後はお前が頼りだ。
そして雪蓮さん、あんたは何で来たの?
「失礼する。」
「どうもー。」
「よく来てくれた。 冥琳、雪蓮。」
「うっわ、蒼夜が歓迎してくれるなんて……どしたの?」
なんっつー事を人前で言うんだ。
俺は何時も歓迎……してないな。
「……どうやら間が悪い時に来たようだな。」
何言ってるの、今までで一番最高だよ。
「さて改めまして、この方が私の友で、私と同等に名君論に“詳しい”、周 公瑾です。 隣にいるのがそのご友人の孫 伯符です。」
「……なんですって?」
おっほー。 俺から一気に視線が冥琳と雪蓮に移った。
いいぞ。もっとだ。
「……そう言う事か。……はぁ。 今紹介にあった、周 公瑾だ。 よろしく頼む。」
「なんかよくわからないけど、よろしくね?」
理解力が高くて無駄な説明をしなくて済むから助かるぜ、冥琳。
雪蓮、お前は帰れ。
「まさかこんな所で、美周郎と江東の虎の娘に会えるとはね。 廖 元倹に会いに来たつもりが、それと同等以上の人物に会えるとは、……遠出はしてみるものね。」
こんな所で悪かったな。
それと、俺がこいつらと同等な訳無いだろうが。
「まだ私も名乗っていないからちょうど良いわね。」
そう言えばまだ聞いてないな。
でもどうせ有名人でしょ? 知ってる、知ってる。
もうこの二人で慣れたよ。
「私の姓は
「ヒェッ」
「どうした蒼夜?」
「……なんでもない。ちょっとしゃっくりしただけ。」
ヤバイ。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!
「貴女達も挨拶なさい。」
「はっ! 私は姓は
「同じく、姓は
………。(白目)
パクパク
「ほぅ。……洛陽北部尉官の曹 孟徳に、それに付き従う夏候姉妹か。 聞いた事あるな。」
「ふふっ。 無論私達も貴女達の事は知っているわ。」
「私も聞いた事ある。 確か、元譲ちゃんは強いんだよね?」
「あぁ! 私は華琳様の剣だからな!」
「姉者、ここは店の中だ。 もう少し静かに。」
………。
「ちょっと、皆様のお飲み物をお持ち致しますので、席を外します。」
_____
事案発生
俺の店で赤壁勃発
うぉーい!!! 曹操かよ!!!
何でこのタイミング!?
冥琳と雪蓮も、間が悪いってレベルじゃねーぞ!
頼むよー。 もう勘弁してくれよー。
俺の胃に火計仕掛けるの止めろよ。
胃炎になっちゃうだろ。
……帰りたい。
姉さんの邪気の無い笑顔が恋しい。
助けてあねえもん。
あー気が重い。
_____
かなり時間をかけてお茶を入れた俺は、戻って来て驚いた。
「へぇ、それで名君論が出来上がったのね?」
「あぁ、だが結局見ての通り雪蓮には意味が無く、無駄に蒼夜に借りを作ってしまった。」
「成る程。 元倹殿は意図して名君論を世に出した訳ではないのか。」
「ねぇ元譲ちゃん、後でちょっと死合わない?」
「む? 私は構わんが、華琳様の赦し許しが必要だ。 まぁ華琳様は寛大なお方なので赦してくれると思うがな。 後ちゃん付けは止めろ。」
キャッキャッウフフ
あんれー?
何このムード?
意外とこいつらって気が合うの?
という事で小さくても頭脳は大人、名探偵カリンの回でした。