どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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史実における楊慮 威方は、十七歳という若さで亡くなっています。


理不尽なんざ認めない

……昔からおかしいとは思っていたんだ。

我が姉、楊慮 威方、……撈姉さんは、とんでもなく優秀だった。

 

その優秀さは、あの司馬 徳操を持ってして、教える事が無いと言わせる程だ。

 

そんな姉さんの名前を俺は三国志で知らない。

有名になってもおかしくない程の優秀さを持っているにも関わらずだ。

 

最初は、この世界が俺の知る三国志とは違うので、微妙な齟齬があるのだろう思った。

 

だが冥琳や雪蓮等、三国志で有名な人物に接する程、この世界は別の世界だが、限りなく俺の知ってる三国志の知識に近いと感じていた。

 

そこで俺が思い至ったのは、三国志の楊慮と言う人物は世に出なかったか、……あるいは、……大成する前に亡くなったかの、どちらかだろうと言う事だった。

 

……そして俺は前者であると思っていた。

士官を嫌がり家出する様な姉さんだ。

てっきり、三国志の方でもそんな人物なのだろうと勝手に思っていた。

 

そもそも姉さんに、そんな予兆は無かったはずだ。

身体の調子が悪い様子なんて一度も見た事が無い。

 

俺が全く気がつかなかっただけなのか、もしくは……ただ、純粋にここで死ぬ運命なのか……。

 

「……っっっ!!!」

 

「……蒼夜?」

 

「認めるかよ! そんな事!!!」

 

俺は、廖化だ! 廖 元倹だ!

だが、それがどうした!

あの日を思い出せ!

両親を亡くして前世の知識を思い出したあの日に、俺は自分の魂に誓っただろう!

 

俺は自由に生きると!

運命も歴史も関係無い、自分の人生は自分で決めると! 運命に抗うと!

 

誰にも邪魔はさせないと!

例え偉人だろうが、英雄だろうが邪魔なんかさせないと!

 

今回も同じさ!

歴史の都合だろうが、修正力だろうが知ったこっちゃない!

姉さんが死ぬ運命なんざ否定してやる!

 

そんなもの、この俺が認めない!

認めてたまるか!

 

そうさ俺は、前世の知識を思い出した廖 元倹だ!

小説の主人公の様に、漫画の主人公の様に、誰よりも格好良く、誰よりも自由で、誰よりも面白おかしく生きるんだ!

そうだろ! 蒼夜!

 

「冥琳! 今こそ、孫家の借りを返して貰うぞ!」

 

俺の鬼気迫る様子に冥琳は一瞬怯んだが直ぐに立ち治り答えてくれた。

 

「あ、……あぁ! 何でも言え!」

 

 

_____

 

 

「……ちっ!」

 

あれから二週は経つが姉さんの容態は一向に良くならない。

……寧ろどんどん悪化して行く。

 

俺の漢方的な薬草の知識だけでは限界がある。 ただの時間稼ぎにしかならない。

それに、襄陽に医者が居ないのが何よりも辛い。

……この時代に医者が少な過ぎる。

 

……今俺が持っている物は、金も知識も武力もまるで役に立たない。

……前世の知識があった所で姉さん一人助けられない。

 

「……蒼夜、……ごめんね。」

 

っっ!!!

 

「……何で、姉さんが謝るんだよ。」

 

あんたは何も悪くないじゃないか。

 

「……あまり、……寝てないんだろう?……隈が、凄いよ?」

 

「大丈夫だ、こんなもん問題ねーよ。……それより、喋るのもキツいだろ? 無理しないで眠ってろ。」

 

姉さんが謝る事は何も無い。

寧ろ姉さんに謝らせたい奴等が居るくらいだ。

 

姉さんが倒れて様々な見舞い客が訪れたが、……姉さんの家族である楊家は一向に現れなかった。

だから俺が姉さんの現在の状態を記した手紙を送ったら、返って来た返答がこれだ。

 

『そちらの楊 威方と私達は無関係である。 これ以上こちらに手紙を送るのは止めて頂きたい。』

 

くそったれが!

 

この手紙に激怒した俺はその場で直ぐに破き棄てた。

血の繋がりが無い天涯孤独の俺からして見ればこいつらの仕打ちは許せるものじゃない。

何でこんな奴等から姉さんが産まれたのか信じられないくらいだ。

血の繋がりは無いが俺と姉さんの方がこんな奴等よりもよっぽど大切な家族だ。

 

「……俺が、必ずなんとかするから。」

 

口ではこう言っているが、最早俺に出来る事は何も無い。

 

後は冥琳に頼んだ賭けに、頼るしかない。

 

 

_____

 

 

「ガホッ! ガハッ!」

 

「姉さん!」

 

不味い!

姉さんが大量の血を吐いた。

もう体力的に限界まで来てるのかもしれない。

 

「……蒼夜、……僕は、まだ、……大丈夫。 君が、……居て、くれる、……なら、……まだ、頑張れる。」

 

「わかった! わかったから!……喋らなくて良い!」

 

もう限界だ。

姉さんの手を繋ぐ事しか出来ない俺はそう感じていた。

姉さんの体温が低くなっているのを感じるし、手から力が抜けてるのもわかる。

 

もう、駄目かもしれない。

俺が認めない事を決めたあの時の事は何の意味も無かったのかもしれない。

……俺の足掻きは、ただ悪戯に姉さんが苦しむ時間を伸ばしただけなのか。

 

「待たせた蒼夜! まだ威方殿は無事か!?」

 

冥琳!

 

「俺が医者だ! 患者は何処に居る!?」

 

来た、間に合った!

俺は賭けに勝った!

 

「ここだ!」

 

「俺が来たからにはもう大丈夫だ! 必ず救ってみせる!」

 

 

_____

 

 

俺が冥琳に、……孫家に頼んだ事は、呉郡一帯に居る一番優秀な医者を探して貰う事だった。

何故なら、そこには三国志で一番優秀な医者と言われる華佗(かだ)が居る可能性が高かったからだ。

 

無論居ない可能性や、まだ医者じゃない可能性もあったがそんな事は言ってられなかった。

藁にもすがる思いとはこう言う事なのだと体験した。

 

冥琳が連れて来たあの医者が華佗かは知らないが、少なくとも呉郡一帯で一番優秀な医者なのだろう。

それなら期待も出来る。

 

「……あの男が孫家の領地内で一番優秀な医者の、華佗と言う者らしい。 正直、どの程度腕が立つかはわからんが、……最早華佗に託すしかない。」

 

やはり華佗だったか。

 

「……孫家は良くやってくれた。 ありがとう冥琳。」

 

だがこれで全ての解決じゃない。

もし華佗でも駄目なら、もう俺に打つ手は無い。

 

……頼む。

 

「………。」

 

華佗は、鍼を構えて姉さんを観察している。

……鍼か、……知識としては知っているがどのくらい効果があるのか。

いや、治ってくれたら何でも良い。

この時代としては異端だろうが、外科手術をする事になったとしても文句は言わん。

 

「っ! 見えた! 我が身、我が鍼と一つになり!一鍼同体!全力全快!必察必治癒……病魔覆滅!元気に、なれぇぇぇっっっ!!!」

 

本当に治療なんだろうなそれ!

 

「ガフッ!」

 

姉さん!?

 

「……スー スー」

 

え?……えぇ!?

姉さんの息が落ち着いて、顔色も良くなった。

 

……はりってすごい。

 

「ふぅー。 もう安心だ! まだ完治した訳ではないが峠は越えた。」

 

「……威方殿が死ぬ危険は、もう無いのだな?」

 

「あぁ。 命の保証は俺がしよう。」

 

そ、そうか、もう安心なのか。

 

「はぁぁ、ふぅぅぅ。……間に合わないかと、思った。……俺の足掻きは無駄かと思った。」

 

安堵からついそう呟いてしまった。

 

「そんな事は無い。 寧ろ良くやった! お前のその献身的な治療が彼女を生き長らえさせ、救ったんだ。 俺は最後の一押しをしただけだ。」

 

お世辞だと思うが、この名医がそう言うのなら、……良かった、俺の行動は無駄じゃなかったのか。

 

「あ、あぅ、……あ、あり、」

 

おかしい、上手く声が出ないな。

 

「ありが、とう。……ありがとう、華佗先生。 ありがとう、冥琳。」

 

上手く喋れないだけじゃない。

涙も鼻水も出て来ていやがる。

恥ずかしいったら、ありゃしない。

……でも、本当に良かった。

……本当にありがとう。

 

 

_____

 

 

姉さんが華佗による鍼治療で峠を越した安心感からか、一気に今迄の疲労がやって来た。

 

……そういや数日は眠ってなかったかもしれん。

ずっと姉さんに付きっきりだったから記憶も曖昧になってる。

 

そこで俺がふらっとしたら、目敏く華佗に気づかれた。

 

「む? お前も体調を崩している様だな。 姉が心配なのはわかるが、あまり感心せんな。 どれ、お前にも鍼を打とう」

 

え? 俺もあれされんの?

 

 

_____

 

 

 

ゲンキニナレェェェ!!!

グァッ!

 

……改めて思った、はりってすごい。

 

物書き失格な考えだが、どう表現したらいいかわからん。

 

刺された! と思ったら、何かが身体中を走り、一気に疲労が抜けた。

 

鍼にこんな効果があるとは知らなかった。

 

「有り難うございます。 疲れが抜けました。」

 

「疲れは抜けたかもしれんが、寝不足は抜けない。 後でしっかり眠ってくれ!」

 

華佗ってめっちゃ良い人だ。

ただ、恩人に向かって大変失礼だが、……非常に暑苦しい。

 




華佗「元気になれぇぇぇ!!!」
シリアス「ぐわぁぁぁ!!!」

と、言う訳で作者の作品では姉さん生存ルートです。
感想欄に沢山の方から華佗はよこいの感想を頂いてました、ありがとうございます。
が、最初から姉さんは死なない予定でした。
この為に呉に借りを作ったりしましたからね。(寧ろデカイ恩を貰いました。)

折角のオリキャラなので姉さんのイメージ図を顔だけですが、描いてみました。
ですが、作者は絵が下手なので、もの凄く恥ずかしいです。
活動報告に乗せてありますが、明日の更新には消そうと思います。


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