どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い
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そうだ、襄陽に行こう

前世の知識を思い出して数日。

幸い土砂崩れに巻き込まれたにも関わらず俺に大きな怪我は無かったらしい。

すっかり元気になったのは良いが、ここ最近俺は邑で少し気まずい思いをしていた。

 

現在五歳である俺は、両親を亡くしたため自分の飯を近所の大人達から貰わなければならない状況にある。

無論最初のうちは家にあった物を食べていたが、この時代食料を一般人が大量に保存している訳も無く、ものの2日で消え去った。

 

邑の大人達は両親を亡くした俺に同情して良くしてくれているし、俺が泣きも喚きもせずに両親が死んだというこの現状を受け入れている事を心配してくれている。

物凄く人情味溢れるハートフルな邑だ。

 

まだ両親が死んだ事実を理解してい無いのではないか?だから、廖化はあんなに静かなんだ。と言う大人もいたし、悲しい時は泣いて良いんだぞ。と何やら俺を諭そうとしてくる大人もいた。

少しうざいが、まぁ俺は五歳だし仕方ない。

 

そんな俺の現状よりも問題なのが、この邑が貧困とまではいかなくとも、決して裕福では無い事だ。

 

そんな邑で飯だけを消費する子供一人を受け入れて貰うのは凄く罪悪感があって気まずいという訳だ。

 

大人達はそんな事気にするなと言ってくれるが、精神年齢が上昇した俺からして見ればやはり皆きつそうに見える。

俺が自分の分は自分で手に入れると山に行こうとしたら、死にかけておいて何言ってるんだ!と、しこたま怒られた。

それに今は俺が死にかけた土砂崩れの関係で山には入らない方が良いらしい。

 

俺の両親は狩人だったから普段山に行き獲物を狩ったり、山菜を摘んだりして邑に持ち帰りそれらを穀物と交換して普段の飯を手に入れていた。

 

つまり俺には邑の皆が働いて耕しているような畑が無い。

 

この現状を変えなければと思い、俺は大人達にある相談をする事にした。

 

「街に行こうと思います。」

 

俺がそう切り出すと大人達は皆神妙な顔をし、反対した。

まぁそうだわな、五歳の子供が急にそんな事を言い出したらそんな反応になるわな。

 

ちなみに俺の言う街とは、襄陽城の事だ。

あそこは交易の場で人が多く稼ぐ場所にも困らないだろう。

それにこの邑から片道約三刻(6時間)で到着する程近いので、何かがあったら直ぐに帰ってこれる。

 

俺がそう説得すると渋々了承してくれた。

まったく、都会に子供を送り出す親かよとツッコミたくなる程この大人達は俺を心配してくれた。

 

それが嬉しかったのは誰にも言うまい。

 

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相談から数日後、俺の家はそのままにして貰い、最低でも月に一度は帰る約束をして俺は着のみ着のまま邑を出た。

 

三刻(6時間)歩くのは流石にキツいか?と不安があったが、五歳とはいえそこは将来の武将スペック、まるで問題無く襄陽の門についた。

 

さてここからが、俺の人生最初の勝負所だろう。

今日ここで、住み込み可能の仕事を見つけられなければ俺は邑にとんぼ返りしなくてはならない。

まぁ、また行けば良いだけだが。

でもそんな事はしたくないので、真剣に仕事を探さなくてはならない。

そこで俺がこの襄陽に来るにあたって前もって考えていた案は書屋で働く事だ。

何故書屋かと言うと、襄陽が交易の場で大陸から様々な本が手にはいるという事と、仕事をして給金を貰いながら学べるからだ。

 

そもそも俺は将来どうするかをまだ決めていないが、此れからは学が必要になると思った。

前世の知識は有用だが、それだけではやって行けないだろうと予測したからなんだがな。

しかし邑に居たら当然だが、学ぶ事なんぞ出来ない。

その事もあって俺は襄陽に来る事を選んだ訳だ。

 

「と言う事で、どうぞ私を住み込みで雇って下さい!」

 

「…何がどういう訳で、と言う事なんだい?」

 

絶賛土下座中である。

この街で一番大きく繁栄している書屋を見つけた俺は中に居た店員らしき女性に日本人の誠意ある行動DO☆GE☆ZAをした。

いやまぁ日本人では無いし、古代中国人だけどもね。

 

俺に土下座をされている店員さんは短い黒髪が凛々しい非常に美しい若い女性なのだが、俺のせいで顔を引き攣らせていらっしゃる。

申し訳無いがこれも交渉術よ、誰かが土下座は暴力とか言っていたからな。

 

「はぁ、…とりあえず顔を上げてきちんと説明して貰えないかい?」

 

ため息を吐かれ、そう言われたので俺は正座のまま顔を上げこれまでの経緯を説明した。

両親が亡くなった事、邑の状況が厳しい事、武力こそ少しはあるが此れから先は学が必要になると思った事、その為に襄陽まで来た事。

 

俺がそれらを語ると女性はうんうんと頷きながら俺の話を聞いて憐れんだのか、涙目になりながら感情移入してくれたようだ。

これにはさすがの俺も心が痛んだ。

嘘は一切ついていないが、こんな同情を買うつもり無かったんだが。

 

「グスッ。…辛かっただろうね。うん君は正しいよ此れから先は、学問が大いに役立つ世になるだろうからね。…わかった君は僕が預かろう。ここで、働きながら学ぶといいよ。」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!…ですが、…あの、店主からの許可は必要では無いのでしょうか?」

 

凄く嬉しいのだが、この女性の一存でこんな話を決定しても良いのだろうか?

そう思い問い直してみると意外な一言が帰ってきた。

 

「問題無いよ。私がその店主だからね。」

 

ファッ!?

えぇ!?女性店主!?

この時代にそんな事ありえんのか?

 

俺が戸惑っている事が面白いのか店主の女性がクスッと笑った。

その笑顔の美しい事。

 

守りたいこの笑顔。

 

と言うよりも俺は2度とこの女性の顔を歪ませてはならない。(戒め)

 

「さて、ではまず自己紹介からしようか。先に君の名前を僕に教えてくれるかい?」

 

「はい。私は姓を廖、名を化、字を元倹と申します」

 

俺は名前を聞かれ、なるべく丁寧に礼節ある人物に見えるように自己紹介した。

俺のそんな自己紹介に相手も佇まいを直し、まるで同格の人物を扱うように丁寧に返してくれた。

 

「よろしくお願いいたします廖元倹さん。改めまして、私は、姓を(よう)、名を(りょ)、字を威方(いほう)と申します」

 

きっとこの姿が正しい佇まいなのだろう。

それが俺の楊慮さんを見て思った感想だった。

 

しかし、楊慮と言うのか。

どっかで聞いた事がある気が?

いやだが、三國志関連ならそうとうどマイナーでもないかぎりわかりそうなものだが。

…楊、…楊?うーん。俺の知ってる楊は魏の鶏肋こと楊修と蜀の性格の悪い有能文官の楊儀しかしらないしなぁ

まぁ、そもそも楊慮さんは女性だから関係無いか。

でも女性に字ってあったっけ?

あれれー?何かおかしいぞー?

  

「では廖化君、まずは僕と君の関係性をはっきりさせておこうか。」

 

俺が少し思い悩んでいると楊慮さんがそう言ったので、俺は思考を止めてはっきり答えさせて貰った。

 

「はい!弟子と師匠、店員と店主ですね!」

 

何故か楊慮さんは苦笑いしている。

解せぬ。

 

「うん。違うね。正確にはそれも間違っていないけど、今日から僕と君は同じ家に住み、同じご飯を食べて、同じ職場で働き、同じ勉強をする。…これがどういう事かわかるだろ?」

 

…それは!?…つまり!?夫婦って事ですか!?そんなやだ、楊慮さんったら、私達まだ出会ったばかりなのに、…いやらしい人。…でも嫌いじゃないわ。(ポッ)

 

とまぁ冗談は置いて、しかしその答えを俺から言っていいのだろうか?

これを言ったら最後、俺は楊慮さんにかなり負担を強いる事になる。

とてもじゃないが、自分からは言い出せないと思い俺は自身の眉間にしわが寄っている事を感じた。

 

「…ふぅ。自分からは言い辛いみたいだから、僕が言ってあげるね。」

 

楊慮さんはそう言って句切り、目を瞑り何かしらの覚悟を決めているようだった。

この先を言わせて良いのだろうか?

悩みに悩んだが結局俺は何も言いだせず、楊慮さんが続きを口にした。

 

「…廖化君、今日から僕は君の教師になり、雇い主になり、姉になり、親になる。…僕と君は今日から家族になるんだよ。」

 

そう言ってくれた楊慮さんの顔は慈愛に満ち溢れている。

 

その答えは理解していた、理解していたが、…でも、…でも…。

 

思えば俺は事故から目覚めたあの日から、一度も泣いていなかった。

両親を亡くした哀しみは大きかったが、それ以上に前世の知識を得た事の衝撃がそれを上回りこれからの事を考えて悲しんでいる暇が無かった。

 

今、楊慮さんから与えられた暖かな優しさが両親のそれを思いださせるし、だからなのだろうが、両親を亡くした冷たい哀しさも一気に押し寄せて来て、俺の精神をぐちゃぐちゃに掻き回した。

 

…もう一度だけで良い。父さんと母さんに会いたい。

 

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混乱している精神から気がつけば、俺は泣き声こそあげていなかったが、顔が涙だらけで視界がはっきりしない中、楊慮さん、いやもう違う、姉さんに優しく抱きしめられていた。

 

嬉しいのだが、恥ずかし過ぎて死にたい。

 

「ふふっ。最初会った時は随分と大人びている子供だと思ったものだけど、存外可愛い所もあるじゃないか。」

 

そんな俺をよそにこの姉、実に良い笑顔である。

…タイムリープマシンはどこですか?

世界線の変更を希望します。

くそぅ、これ絶対俺の顔真っ赤だろ、顔が暑すぎる。

 




オリキャラ1号のこの楊慮さんは実際に存在した史実の人物です







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