どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い
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自己嫌悪からの自己満足

俺は直ぐに襄陽を発ち孫家の本拠地である建業に向かった。

 

……既に孫家の本拠地が建業だというのも初めて知った。

長沙とかじゃなかったのかよ。

 

考えてみれば俺は孫家の事を何も知らない。

俺の事は沢山雪蓮や冥琳に話をしたが、雪蓮達の事についてはあまり聞いてなかった。

 

勝手に前世の知識で判断して現在がどういう状況なのかも知らなかった。

……こんな些細な事でも自分のマヌケさが良くわかる。

 

そしてこんな些細な事でも、自分の知識が当てにならないと理解出来た筈なのに。

 

……最近、自己嫌悪が凄まじい。

 

 

_____

 

 

-建業-

 

……ここが建業か。

割と発展してるな。

 

まぁ将来は呉の首都になると考えれば当然なのかもしれないが。

 

……それにしても街行く人々の顔が暗い。

 

……孫堅が亡くなった影響だろうか?

だとしたら、凄く庶民からも愛されていた偉人だったのだろう。

 

そんな事を考えて、俺は街の中央を歩き城の門の前に着いた。

 

「そこで止まれ。 お主この城に何の用だ。」

 

門に着いたら当然の如く門番に止められ、用件を問われた。

 

「私は襄陽の廖 元倹と申します。 孫 伯符様か周 公瑾様にお繋ぎをお願い致します。 もしくは、孫 仲謀様でも構いません。」

 

「……少々待たれよ。」

 

そう言って、門番の一人が城の中に入って行った。

 

 

_____

 

 

……待たされるなぁ。

 

いや、忙しいのかも知れない。

手紙を出す前に急に来ちゃったからなぁ。

 

そんな事を待たされている間ずっと考えていたら、城の中からようやく誰かが来るのが見えた。

 

「お久しぶりです、元倹殿。 お待たせして申し訳ない。」

 

俺を迎えに来たのは孫権だった。

あれ? こういうのって普通、本人か下っぱが案内するもんじゃない?

……あぁそういや俺、一応孫権の名前も出しちゃったか。

 

「お久しぶりです、仲謀様。 最後に会ったのは姉が倒れて以来でしたね。 その件につきましては、お見苦しい所をお見せし大変申し訳ありません。 また孫家には華佗を探して来て頂き、多大な感謝をしております。」

 

「いえ、孫家としては貴方に借りを返しただけです。 それに威方様が無事であった様で何よりです。」

 

孫家は借りを返しただけと判断しているのか。

……個人的には非常にデカイ借りを作っちゃった気分なんだよなぁ。

 

「……そう言って頂けると有り難いです。」

 

……あぁ、こっから先の言葉を口にしたくねぇ。

 

「……今回は孫 文台様の弔いに参りました。 しぇれ、……伯符様や、公瑾様はいらっしゃるでしょうか?」

 

公的面会って訳じゃないけど、こういう時に真名で呼ぶもんじゃないからな。

 

「……そう、ですか。……母を弔いに。 ありがとうございます。 生前、母も元倹殿に会ってみたいと仰っていたので、喜ばれると思います。」

 

……感謝なんてしないでくれ。

俺は貴方達の母親が死ぬのを知っていて、何も出来なかった奴なんだ、何もしなかった奴なんだ。

 

「姉様も冥琳も、元倹殿が弔いに来てくれたのを知ったら喜んでくれると思います。 どうぞ、案内致しますので着いて来て下さい。」

 

「……はい、ありがとうございます。」

 

俺は罪悪感で心が痛む中、孫権の後を着いて行った。

 

 

_____

 

 

「久しいな、蒼夜。」

 

「蒼夜、いらっしゃい。」

 

……顔を合わせるのが辛いな。

 

「……あぁ、久しぶり。」

 

俺が孫権に通された部屋には冥琳と雪蓮が居た。

……二人とも眼に凄い隈を作っているが、俺を見て笑顔で出迎えてくれた。

 

その笑顔が俺の心臓を締め付ける。

 

「……こんな事聞きたくないが、……大丈夫か? 酷い顔だぞ。」

 

「あー! 乙女に向かって酷い顔とは、言ってくれるわねぇ!」

 

「まったくだな。 少しは女心を考慮する様にしたらどうだ?」

 

「考慮した結果だ。 今更お前等に媚び売るつもりは無いぞ。」

 

普段通りな二人とのやり取りに、つい口を緩めて軽口を言ってしまったが、……逆に気付いてしまった。

 

……こいつら、俺に気を使わせない様にわざとこんな態度をとってやがる。

 

一度気付いてしまったら、二人の態度が痛々しく見えてしまった。

 

「……はぁ。 俺が気を使いに来た筈が、逆にお前等に気を使わせてしまった様で悪いな。」

 

「……気付くか?」

 

「……目敏いわねー。」

 

わからない訳が無い。

伊達に三年も付き合ってない。

 

「まぁ、ある程度付き合いがあるから、という事もあるが、……流石に不自然だぜ? 今この時にそんな余裕そうな態度はな。」

 

あぁ、心が痛む。

孫堅の死は俺にはどうしようも無い、と思う反面、俺ならどうにか出来たかも、という矛盾が余計に苦しい。

……せめてどちらかに割りきれた方がまだましだったかもしれない。

 

「……確かにそうね。……蒼夜ってさぁ、私に勘が良いやら、汚いやら色々言うけど、蒼夜も大概よね?」

 

「俺のは勘じゃねぇよ。 只の洞察力と推察力だ。」

 

「ふっ、私から言わせて貰えば、それも充分並ではないぞ?」

 

そうだろうか?

こんなもん割と持ってる奴居ると思うが。

正直言って俺なんて精々、察しが良い程度だろ。

 

「……まぁ良いさ。……孫 文台に会わせてくれ。」

 

「……わかった。」

 

 

_____

 

 

俺が連れて行って貰ったのは、郊外にある丘の上だった。

……孫堅の墓はそこにあった。

 

「……この場所は、生前の文台様が好きな場所でな。 その為ここに墓を作る事になった。 知っているのは孫家でも一部だ。 誰にも言ってくれるなよ?」

 

「あぁ、わざわざ悪いな。 そんな大切な事を俺に教えて貰って。」

 

「別に蒼夜だったら良いわよ? 信頼してるもの。」

 

……その信頼には全力で応えられる様に頑張ろう。

 

俺は孫堅の墓の前で正座して目を瞑った。

……手を合わせる文化が無いからな。

まぁ、今の俺も相当おかしいだろうが。

 

……ふぅ。

……孫 文台、貴女には姉の事で非常に感謝している。

それなのに貴女自身の助けに成れず本当に申し訳無い。

……罪滅ぼしではないが、雪蓮達の事は俺の出来る範囲で助ける。

それを俺からの孫家への感謝の証としたい。

 

俺は瞑目して、それらを孫堅に心の中で述べた。

自分自身で再確認した、とも言える。

 

およそ数秒でそれらの出来事は終えたのだが、目を開けた時には雪蓮も冥琳も不思議そうに俺を見ていた。

 

「何してたの?」

 

「どうしたんだ?」

 

うん、まぁ、そういう反応になるよね?

 

「まぁ、ちょっとな。……あー、あれだ、本当は本人に言うつもりだった事を心の中で言っただけだ。」

 

「ふーん、……それで? 母様は何て言ってた?」

 

「知らねーよ。 俺が勝手に報告しただけだもの。」

 

「なら私が教えてやろう。 文台様ならきっとこう言う。 『好きにやってみな。』だ。 お前が何を考えてたかは知らないが、あの方ならきっと似たような事を言う。」

 

「あー、言いそう。 母様ってば適当な所があるからねー。」

 

「「お前が言うな。」」

 

……ふっ、くくく。

……なーんか心が少し軽くなったな。

自己満足でもしたのかな?

まぁ、良いさ。

 

「……なぁ雪蓮、冥琳、教えてくれないか? 孫 文台がどんな人だったのか。」

 

今となっては、純粋に会えない事を勿体なく思えるよ。

 

 

_____

 

 

それから雪蓮と冥琳は楽しそうに、懐かしむ様に、生前の孫堅がどのような人物であったのかを語ってくれた。

 

その様子は二人がまだ子供の様に見えて、とてもじゃないがこれからの孫家を背負って行く様には見えなかった。

 

守りたいこの笑顔。

 

……冗談なんかじゃなく、本当にそう思った。

 

「……なんっつーか、……あれだな、人を弔っている筈だけど、……その人の生前を想って笑顔が出るのは良い事だな。」

 

「……そうだな。 確かにここ最近は湿っぽかった分、あの方が笑顔をくれた気がするな。」

 

「うん。 母様は湿っぽいのより笑い顔の方が好きだから、こっちの方がらしいかもね?」

 

「なら、来て良かったよ。」

 

俺はそう言って立ち上がり、懐から小さめの酒瓶を取り出し、中味の酒を孫堅の墓石に掛けた。

 

「あー! 言ってくれたら私もお酒持って来たのにー! 母様だけに用意するなんて、蒼夜ってば準備わるーい。」

 

「まぁそう言うなよ、俺達は帰ってから飲もうぜ? まだ話したい事も沢山あるしな。」

 

「ふっ、そうだな。 今日は久しぶりに三人で飲むか。」

 

でも量を考えないと、いつぞやみたいに大変な事になるけどね。

 

俺達はそんな会話をしながら城へと帰って行った。

 




これでラストです。
次回投稿は一週間後あたりを目安にします。







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