どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い
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今回は一話まるまる主人公ではなく、蓮華の視点です。
上手く蓮華を表現出来ていたら、嬉しいなぁ。

蓮華視点の主人公が、完璧超人に見えますが、……そんなもん気のせいです。


閑話 蓮華の日常

 

 -建業 蓮華 十三歳-

 

姉様が呉郡の太守に任命されてから早くも一年近い月日が経った。

 

この一年の間にも様々な困難があったが、それは孫家の皆で協力して乗り越えて来た。

 

私も孫家の一員として姉様を支えられる様に頑張って来たつもりだ。

 

人員不足と言う事もあるが、実際に私自身が実務に取り掛かり仕事をし始めたりもした。

 

最初は右も左も解らず足を引っ張ったりもしたが、今ではすっかり戦力として働けている筈だ。

 

まぁそれも、冥琳の足下にも及ばない仕事量だけど。

 

本当に彼女には頭が上がらない。

 

彼女は私達孫家の筆頭軍師として、他の誰より身を粉にして家に尽くしてくれている。

 

それにそれだけでなく、奔放な我が姉の手綱もしっかり握ってくれているのは、本当にありがたい。

 

もし彼女と“彼”が居なかったら、そもそも姉様は呉郡太守に任命されていなかっただろう。

 

その場合、孫家がどうなっていたかは私には想像も出来ない。

 

だから冥琳と彼には本当に感謝している。

 

……ただ、感謝しているのは事実なのだけど、彼に嫉妬している私も居る。

 

彼は私と同い年だと言うのに、その能力は私を遥かに凌駕する。

 

その知謀は冥琳に褒め称えられ、その武勇は私の護衛である思春と同等で、その人柄は孫家の皆に認められる程素晴らしい人物

 

私がどんなに焦がれても手に入らない物を彼は持っている。

 

無論、彼が嫌いな訳ではない。

寧ろ、私自身好ましい人物だと思っている。

 

理知的で、義理堅く、また情が深い。かと言って真面目過ぎる訳でなく、物腰穏やかで、良く笑顔を見せる、……そんな人物が嫌いな訳がない。

 

……たまに姉様に対して怖い時もあるけど、……あれは姉様が悪いので仕方無い。

それに、姉様や孫家の為を想って叱っているので、これは彼の欠点ではない。

 

ただ、私は私に出来ない事が出来る彼が羨ましいのだ。

 

私も彼の様に姉様や冥琳から信頼されたい。

 

……最近、その想いが強くなってきている。

 

 

_____

 

 

 

「雪蓮、蒼夜がそろそろ訪れる様だぞ?」

 

「あら、手紙届いたの? ふふん、だったら良いお酒を用意しなきゃね~。」

 

私が廊下を歩いている時、姉様と冥琳の声が中庭から聞こえて来た。

 

どうやら、また彼が建業を訪れる様だ。

 

彼は一・二ヶ月に一度こうして、ふらっと私達の所を訪れる。

そして二・三日滞在したら、またふらっと帰って行くのだ。

 

なんでも、姉様にそんな約束をさせられたらしい。

 

ご自身の事情もあるだろうに、我が姉が大変迷惑をかけて申し訳無い。

 

「おい雪蓮、酒も良いが、仕事の方はどうなのだ? 終わらせていなかったら、また蒼夜に怒鳴られるぞ?」

 

「あはぁ~、……あー、……冥琳、手伝って?」

 

はぁぁぁ。

 

……私と冥琳の溜め息が被ってしまった。

 

……ごめんなさい、冥琳。

苦労をかけるわ。

 

姉様は彼が来る時だけは、こうやって仕事をきちんとしてくれる。

 

でもその時以外は、いつも逃げ回ってばかりいる。

 

それだけでも彼が来てくれる事は嬉しい。

 

もし、彼が来なくなったりしたら……。

 

……胃が痛いわ。

深く考えるのは止めましょう。

 

「どうかなされましたか、蓮華様?」

 

私が少しげんなりしていたら、前の通路から思春が歩いて来た。

 

私が立ち止まり、げんなりした表情をしていたからか、思春は私を心配していた。

 

「いえ、何でもないわ。 今から食事をしに行くのだけど、思春も一緒にどうかしら?」

 

私は、そうだ、と思いつき今から食べに行こうと思っていた食事に思春を誘ってみた。

 

「はい。 喜んでお供させて頂きます。」

 

そろそろ良い付き合いだと言うのに、思春は相変わらず堅い返事をする。

 

私も散々人からは堅いと言われるけれど、思春程ではないと思うのよね。

 

「じゃあ、行きましょうか?」

 

「はっ。」

 

……やっぱり、堅い。

 

思春にも堅くならなくて良い、気の許せる相手は居るのかしら?

 

私がそう思った時、ふと彼と思春が仲良さそうに話している姿が思い描かれる。

 

……思春と彼の関係が、私の想像通りかは解らないけど、……少なくも私とよりは柔らかい関係だと思う。

 

それが少し悔しかったので、暫く私の目標を思春と仲良くする、にしようと思った。

 

 

_____

 

 

 

姉様と冥琳の会話を盗み聞いた数日後、予定通り彼は建業へとやって来た。

 

時刻は昼過ぎで、まだ仕事中の私は冥琳の執務室へと書類を渡しに来た所だった。

 

冥琳の執務室には姉様もいて、二人で仕事をしている最中に私が書類を渡しに来て、その後に彼が部屋へと入って来たのだ。

 

「おいっす~。」

 

「おいっす~♪」

 

……これが巷に噂される、孫家の当主と守護鬼の挨拶だとは、誰も信じないだろう。

 

と言うか、また素通りでここまで来たのだろうか?

 

普通ならば門で待たされたり、客室に通されたりして、兵士が私達の誰かに報告しに来るのが普通なのだが……。

 

……いやまぁ、別段問題等無いし、兵からも畏怖され尊敬されている彼を止めろとは言うつもりは無いが……。

 

……一応は、門番仕事しろ、とは言いたくなる。

 

「来たか蒼夜。 今日は後二刻程で、仕事が終わるだろう。 それまで適当に時間を潰しておいてくれ。」

 

「えぇ~? 蒼夜が来たんだから、今日はもう終わりましょうよー!」

 

……はぁ、全く姉様は……。

 

いや、でもまぁ、ここ最近はあまり忙しくもないし、一日くらいなら別に良いかもしれない。

 

私がそう考えると、底冷えする様な鬼の声で、簡潔な説教が聞こえた。

 

「働け、クソ当主。」

 

……私も働いた方が良いと思うわ、姉様。

……命は大事ですもの。

 

普通なら孫家当主への不敬な暴言として、責めなければいけないのだけど、……私にそんな勇気は無かった。

 

「ぶーぶー。」

 

それでも姉様はへこたれる事無く、目の前の彼に不満顔で文句を垂れる。

 

……この不屈の精神は凄いと思う。

決して参考にするつもりは無いけど。

 

「……お前、蓮華様の前で良くそんな態度取れるな?……姉として恥ずかしくねぇのかよ?」

 

姉様のそんな態度に、彼は呆れてそう言う。

 

「べっつに~? 今更蓮華に格好いい所だけ見せるつもりなんて無いわよ?」

 

……ここ最近、姉様の格好いい所を見ていない気がするのだけど……。

 

「……お前を見てるといつも思うが、……俺の姉が撈姉さんで良かったと、心底思うよ。」

 

「……否定するつもりは無いけど、それは流石に酷いわよ?」

 

……私も彼が羨ま……ケフンケフン!

姉様には姉様の良い所があるわ!

 

「それより蒼夜、お土産は?」

 

……姉様の良い所って何だったかしら?

 

お客様に対してお土産を要求するのは、流石にはしたないわ姉様。

 

「だから、客に土産を要求するんじゃねぇよ。……まぁ良い、ほらよ。」

 

彼は毎回似た様な事を言うくせに、毎回必ず別のお土産を用意してくる。

 

……姉様が図々しくなる一因も彼にあると思う。

 

「先日、山で仕留めた猪を燻製した乾燥肉だ。 酒のつまみにぴったりだから、後で食おうぜ?」

 

「燻製? あれって、堅いし、味しないし、そんなに美味しくなかったわよ?」

 

「所がどっこい、……この前羅馬から入って来た書物に美味しい作り方が載っていてな? 試してみたらこれが旨いのなんの。 まぁ後で食ってみりゃ解るよ。」

 

「ふーん? まっ、楽しみにしとくわね?」

 

羅馬からの文献にも目に通すとは、……相変わらず彼は凄い。

 

「ちなみに冥琳へのお土産は、その書物な? 基本的に燻製は長持ちするから、糧食にするにも向いてる。 作り方が書いてあるから、後で食って旨かったら試してみな?」

 

「それは有り難いが、……お前のお土産で私の仕事がまた増えるな。」

 

冥琳は溜め息混じりに、ありがとう、と感謝してその書物を受け取っているが、……羅馬の書物なんて貴重で高価な物をそんな当たり前の様に受け取って良いものなのだろうか?

 

「あっ、今回は蓮華様にもお土産ありますよ?」

 

えっ?

 

「わ、私もですか?」

 

私は邪魔にならない様に、三人の会話に入らず、会話の流れを見守っていたのだが、彼は私にもそう言った。

 

「えぇ、この前蓮華様は私が最初に書いた戦記物の作品が好きと仰ったじゃありませんか? だから、私の新しい戦記物の作品を持って来ました。」

 

……確かに、前にその様な事を言った覚えがある。

 

彼の作品は全部面白いが、中でも私は一番最初の素敵な恋の戦記物が好きだったりする。

 

ちなみに彼を困らせた、あの作品に関しては、好き以前に、参考になる、……いや、参考にしなくてはならないと思っている。

 

……姉様の為に書いた筈なのに、姉様は自分と関係無い様に振る舞っているし、少なくとも私が参考にしなくては、彼と冥琳が報われなさ過ぎる。

 

「ありがとうございます。 大切に読ませて頂きます。」

 

私がそう言うと、彼は苦笑いして私にその書物を渡してくれた。

 

……苦笑いする要素がどこにあったのか解らない。

 

「……蒼夜、私には無いのか?」

 

私が大切にその書物を持っていると、冥琳が羨ましそうに、書物を見ていた。

 

「毎度ありがとうございます、お客様。」

 

彼は笑顔で冥琳にそう言った。

 

「……買えと言う事か。……まぁ仕方あるまい、今回はこの書物で我慢しよう。」

 

その書物はその書物で貴重だと思うのだけど……。

 

冥琳は若干悔しそうだ。

 

「さて、お土産も渡したし、これ以上仕事の邪魔になる前に部屋を出るかな? しかし二刻か、……どうやって暇を潰そうかな?」

 

彼はそう言い、これからどうするかを思案し始めた。

 

ちょうど私も冥琳に書類を渡して今日の仕事は終わりなので、前から彼に頼みたかった事をお願いしてみようと思う。

 

「でしたら蒼夜殿、迷惑でなければ私に勉学をお教え願えませんか?」

 

「え?」

 

意を決して言った私に、彼は困った顔をしていた。

 

……やはり迷惑だっただろうか?

 

「いや、ですが、……んぁー、……その、蓮華様には専属の教師等がおられるのではありませんか?」

 

「いえ、今私には教師等おりません。」

 

母様が亡くなってからは悠長に学んでいる時間等無く、私も姉様同様に政務の仕事をしていて、たまに穏や冥琳に教えて貰うくらいだった。

 

「……そうですか、……いや、でもなぁ。」

 

そんな渋っている彼に後押ししてくれたのは冥琳だった。

 

「良いではないか蒼夜。 たった二刻だ。 蓮華様の勉学を見てやってくれ。」

 

「いやでもね、冥琳? 俺はとてもじゃないが人に教えられる様な人物じゃないぞ?」

 

……彼が教師に相応しくないとしたら、一体どんな人物が相応しいのだろうか?

 

「それでもだ。……頼む。」

 

「……はぁ、解った。 後で後悔するんじゃねぇぞ?……では蓮華様、至らない身ではありますが、少しの間、よろしくお願いいたします。」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

冥琳のおかげで、私はなんとか彼から勉学を教えて貰う事になった。

 

……良かった、これで一対一で彼から学べる。

 

…………。

 

……。

 

一対一で?

 

……それは、……つまり、……二人っきり?

 

……。

 

ボフン

 

「あれっ? 蓮華様、顔が赤いですよ? 大丈夫ですか?」

 

「ななな! な、何でもありません! へ、平気です!」

 

「いえ、ですが、……もしかして風邪ですか?」

 

ち、近いっ!

顔が近い!

 

「そ、そんにゃこぉ! ケホッ、ケホッ!」

 

い、いけない、焦り過ぎて気管に唾が入ってしまった!

 

「咳まで出るとは、……こりゃ風邪ですね。 悪くなる前に休んだ方が良いですよ? 今日の勉強は止めておきましょう。」

 

「え? で、ですが!」

 

こんな機会そう無いのに!

 

「後日、元気になってからやりましょう? 貴女のお身体の方が大切ですよ?」

 

うぐっ、……別に体調は悪くないのに、そう言われたら断れなくなる。

 

「……うぅ、わかりました。」

 

私はそう言って自室へと向かった。

 

……はぁ、折角冥琳が後押ししてくれたのに、……私の馬鹿。

 

だけど今の私には、彼と二人きりなんて、恐らく耐えきれない。

 

何故なら、残念な筈なのに、私はどこかほっとしているからだ。

 

……この気持ちは、一体何なのだろうか?

 

この疑問も、彼ならきっと答えてくれるだろう。

 

なんとなくだが、……私は、そんな気がした。

 




……書いてる内に、蓮華が主人公に恋しやがった。
こんなつもりじゃ無かったと、声を大にして言い訳させて頂きます。

ちなみに、お土産について。

雪蓮に渡した、燻製。
一人で食べきれ無かった肉を美味しくジャーキーの様な物にして渡しただけ。

冥琳に渡した本。
ジャーキーを作る時に参考にした本の写本。

蓮華に渡した本。
自分の作品。

実は適当な物しか渡していない主人公でした。







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