恋姫とは一体なんだったっけ?
……ここ最近、肩身が狭い。
姉さんが帰って来てからと言うもの、霊里が俺よりも姉さんになつき始めた。
一緒に書を読んで勉強し、一緒に将棋して遊んで、一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入る。
……霊里にとって、俺の存在意義はまだ残っているだろうか?
この前なんか、俺が将棋を誘ったら、
『撈姉さんとの方が為になります』
って言われた。
そしてその後ボコボコに負けた。
やはり優秀な奴は優秀な奴に惹かれるのか?
くそぅ、兄の威厳が……。
しかも将棋が圧倒的に強い姉さんに、霊里は師匠とか言い始めたからね?
……あんな瞳をキラキラさせた霊里を見たのは初めてだよ。
「ちっ、なんたって四年間も旅してた奴が未だあんなに将棋が強いんだよ」
チートやチート!
普通劣化するもんだぞ!
「ん? そりゃ旅先でも将棋をしてたからだけど?」
うぉい!
後ろから声かけんじゃねぇ!
「いたのかよ、……って、ん? どうやって旅先で将棋してたの?」
流石に大陸全土に将棋は浸透してないでしょ?
「ふふん、実はある邑で凄い物を作って貰ったんだ!」
そう言って姉さんが取り出したのは、折り畳み式の将棋盤だった。
……御丁寧に駒容れの箱までありやがる。
「おいおい、金具を使った将棋盤とか……技術の無駄使いだなぁ、おい」
ってか誰が作ったんだよ、この時代にこんな金具よく作れたな。
「これのお陰で持ち運びも楽に出来たし、各地の名士達と対戦して、将棋の宣伝も出来たよ?」
……おい、あんた何しに旅に出たんだよ。
華佗を落とす為じゃなかったっけ?
数歩譲って医療の旅ならまだしも、全国旅打ちとかアホか?
「いやぁ、恥ずかしい事に“名人”とか言われちゃってさぁ、一部では“棋王”なんて呼ばれたよ」
…………。
……朗報? 家の姉が三冠達成
いや何してんのこの人?
そりゃ強いよ。
なんたって名人だもの。
「そ、そうか、……あ、お茶持ってきましょうか? 楊 三冠。 肩揉みましょうか? お菓子でも買ってきます?」
「三冠って何!? ってか何で敬語!?」
いやだって、三冠だもの……。
_____
「私も何か、称号が欲しいです兄さん」
姉さんが旅先で称号を得た話を聞きつけ、俺が姉さんに称号を付けた昔話を霊里にしてやったら、霊里がそう言い始めた。
「撈姉さんだけ、“棋聖” “名人” “棋王”と三つもあります。 私も何か欲しいです」
う、う~ん。
「称号ねぇ。……霊里にはまだ早いかな?」
決して弱くはないけど、称号を与える程じゃない。
……それでも俺より強いけど。
それに棋聖はともかく、名人と棋王に関しては何の偶然かたまたまつけられた称号らしいからね。
俺以外に記憶持ちやら転生者やら居るのかと思ったぜ。
このまま他の七大タイトルを称号として付けるとしたら、残っているのは、竜王、王位、王座、王将、か。
……どれもこれも幼女に付ける様な称号じゃねぇな。
何? 霊里竜王?
竜王のおしご……ケホンケホン!
霊里の仕事は書物喫茶の店員です。
「むぅ、ならどうしたら称号が頂けますか?」
うーむ、霊里が珍しくむくれてらっしゃる。
そんなに称号欲しいか?
「……そうだなぁ、……ん~、冥琳あたりに勝つ様になったら称号あげれるかな?」
自分で言っといて何だけど、大分無茶な注文だなぁ。
「……解りました。 ちょっと呉郡に行って来ます」
「ちょっ! 待て! 流石にそれは駄目!」
おい、マジかこの子、称号の為に呉に行くつもりかよ。
「わかった! なら一勝、姉さんに一勝でもしたら称号を考える!」
「……公瑾様に勝つより無茶な注文です」
そういや、そうか。
「う~ん、……ならどうすっかな~」
まさか霊里がここまで称号にこだわるとは。
「……しゃあない。 称号を賭けた将棋大会でも開催するか」
「将棋大会、ですか?」
「そ、将棋大会。 今から大々的に大会を開く宣伝をして、競技者を募る。 そして勝ち抜け戦をし、最後に優勝した人に称号を贈る。 ってのはどうだ?」
トーナメント形式でやりゃそんな時間もかからないでしょ。
「つまり、私がその将棋大会で勝てば称号を得られると。……ちなみに、どのような称号でしょうか?」
「まぁ、そうだな。 将棋にちなんで、“王将”はどうだ?」
まぁ他のタイトルよかまだましだ。
「……馬 王将。……悪くありません」
おい、もう勝ったつもりかよ。
「でも人数が多すぎたら時間がかかると思うのですが?」
「そこは大丈夫、俺に勝つのを参加条件にする」
「成る程、兄さんはそこそこ強いので、それなら人数を絞れますね」
そ、そこそこ……。
「……一応聞いておきますが、撈姉さんは……」
「あぁ、参加させない」
姉さんが参加したら出来レースだもんな。
「では、その将棋大会、楽しみにしておきます」
霊里はそう言って、やる気に満ちていた。
……まぁ何も起こらなきゃ霊里が勝つ可能性が一番高いだろうな。
「でもこれで負けたら、暫く称号は諦めるんだぞ?」
_____
一ヶ月間、俺は貯まりに貯まった金を使い、派手に将棋大会の宣伝をした。
そしたら、意外と将棋の競技者は存在したのか、結構な人数の参加者が集まった。
これを一人ずつ俺が審査する訳にもいかず、急遽、俺は難問の詰め将棋、十七手詰めを姉さんと作り、四半刻で解けた奴を参加者として認めた。
これを解けた奴は十五人。
その中でも俺が知ってる奴は数人存在した。
霊里を筆頭に、諸葛亮、鳳統、後水鏡塾の数人。
ってか、水鏡率たけぇ!
その中でも一際凄かったのは、鳳統だ。
五分とかからず、詰め将棋を解きやがった。
……だが鳳統よりも、この参加者の中に、俺が一際注目している名前がある。
戯志才
……曹操の軍略の相談役じゃねぇか。
こんな所で油売ってないでさっさと陳留行けよ。
華琳さんなら喜んで迎えてくれるぞ?
「あ~あ、僕も参加したかったなぁ」
「わがまま言うんじゃねぇよ。 それにこれ以上他の称号なんていらないだろ?」
何? 七冠とか達成したいの?
グランドマスターって呼ぶぞ?
「別に称号はいらないけどさぁ~、僕だけ運営なんてつまらないからさ」
「……じゃあ優勝者には特別対局で姉さんと打つか聞いてみるよ」
「それは良いね」
……そう、姉さんだけが今回運営なのだ。
何故なら参加者は十五人。
トーナメントにするなら後一人足りないのだ。
……つまり、当て馬的に俺が出場しなきゃならん。
「……最終的には負ける俺の気持ちにもなれよ」
「何か言ったかい?」
なんでもねぇよ。
俺が溜め息を吐いて落ち込んでいると、やる気満々の霊里がやって来た。
「ついにこの日がやってきました。 相手には宿敵の雛里ちゃんがいます。 それだけでなく、朱里ちゃん等の水鏡女学院の強敵もいます。 まさしく“王将”の称号に相応しい決戦です」
お、おぅ。
「まぁ、頑張れよ霊里」
「例え兄さんに当たっても全力で勝たせて貰います」
……そこまで頑張らなくて良いよ?
この世界の将棋の発案者として、出来れば一回戦くらいは勝ち上がりたいものだ。
_____
「稟ちゃん、出場おめでとうごさいます」
「ありがとう、風。……でも、風は出場しなくても良かったのですか? あの問題も解けていたのでしょう?」
「稟ちゃんが出るなら、風が出ても勝てないのです。……ここは稟ちゃんの応援に努めるのです」
「ふむ、別に風も弱くはなかろう? 風と稟では大した力量差はあるまい?」
「おぅおぅ、ここは友を想って引いてるんだ、そう言う事は言いっこなしだぜ、姉ちゃん?」
「これ宝譿、そういう事は黙っておくものなのです」
「……なんにせよ、風がそれで良いのなら構わないのですが」
「……Zzz 」
「寝るな!」
「おぉう。……今回は風は見学するので稟ちゃんは楽しんで来て下さい」
「ふむ、なら風は私と色々見て回ろうか」
凜と風と星を出しましたが、残念ながら、主人公と絡ませる予定は今のところありません。