-一年後 蒼夜 六歳-
「蒼夜、来月に羅馬から商隊が来るから大きな市を開くって話聞いたかい?」
「そうなの?初めて聞いた。」
「うん。だから街の外からもたくさん人が集まるだろうってさ。…そこで僕達も外からの人向けに竹簡を出店しようと思うけど、どうだろう?」
「?何で?ここに大きな書店があるじゃん?」
「そうだろうね。君はわからないだろうね。」
「…何が。」
「蒼夜、君はこの一年どれだけ写本してきた?」
「…えーと、孫子、孔子、老子、韓非子、あー、…まぁ有名所は大体全部。」
「自分でもどれだけやってきたか把握してないじゃないか。」
あんたがやれって言ったんだろうが。
「いいかい?全部だよ。書屋にある物も含めて僕の持つ全部の書物を君は写本したんだよ。それも同じ本なのに、違う学者の解説付きも含めてね。」
「努力の成果だな。」
「いやまぁ、僕がやれって言ったからね、それは良いんだ。むしろ良くやったと誉めるよ。けどね、この前久々に空き部屋を覗いてみたらそこが物置どころか書庫になっていたんだよ。…あれをどうにかしないと。」
「…だからって売るのかよ。俺の努力の結晶をっ!」
「いや、売りにくくなる事言うの止めてくれない?大体、今も写本してるんだろう?」
「あぁ、今はまた孫子を写本してる。もうこれ何周したかわかんねぇよ。解釈の数が多すぎて何回も別の本の同じ文章読んだわ。今では目を瞑っても書けるぞ。」
「いやいや、目を瞑っても言えるじゃなくて目を瞑っても書けるとか、…君は恐ろしい事言うね。」
だからお前がやれと…。
「まぁ、そう言う訳だから、来月は君の写本全部安くで売るからね?」
まぁ仕方ないか。
別にまた写本すれば良いしな。
-一ヶ月後-
「おぉ、凄い。人がゴミのようだ。」
「ちょっと、恐い事言うの止めなよ。」
一度は言ってみたいセリフだったからなぁ。
「それより、この竹簡の山を売ったら僕達もこの市を見て回ろうよ。」
「それは今から楽しみだわ。さっさと処分しようぜこれ。」
「いや、処分って、君の努力の結晶じゃなかったのかい?まったく。」
よーし、作戦はガンガン売ろうぜ!
_____
とは言え、流石に全然売れないな。
まぁこの時代は識字率微妙だからなぁ。
珍しい書物の写本は割と早くに売れたけど、有名所は有名なだけあって持ってる奴も多いんだろうなぁ。
ここらでガツンと大量購入者がこないと今日は見て回れないかもなぁ。
まぁ仕方ないか、この市は一週間やるみたいだから別の日に見て回ろう。
「あれ?水鏡先生?」
ん?
「あら、撈じゃない。久しぶりね。」
なんだこの美熟女、姉さんの知り合いか?
ってか今水鏡先生って言った?
…まさかな。
「お久し振りです先生。今日はお一人で市を見に?」
「えぇ。羅馬からの物品は珍しいから。出来れば外国の書物も欲しくてね。」
「え?先生は羅馬文字も読めるのですか?」
「違うわよ。二年前に辞書を手に入れてね?それを使って解読するの。」
「なるほど、相変わらず勤勉でいらっしゃる。」
「ふふっ、ただ書物が好きなだけよ。」
凄い親しげだが、俺が空気過ぎて困る。
「撈も今日は出店してるのね。この竹簡の山がそうかしら?随分と値段が安いようだけど、お店の売れ残りかしら?」
「あぁ、いえ、これは僕の弟子で新しく家族にもなったこちらの廖化が写本した物です。蒼夜、自己紹介して。」
ようやく出番か、おら待ちくたびれちまったぞ。
「ご紹介に預かりました。私は姓を廖、名を化、字を元倹と申します。現在は楊威方様を我が師、我が姉と仰ぎ、共に暮らし学ばせて貰っている所です。」
ふはっ!どうよこの礼儀正しい完璧な自己紹介は!
「あら、ご丁寧に有り難う御座います。私は
普通にあしらわれてしまった。
っていうか、やっぱり司馬徽かよ!
うおぃ、三國志の大物に初めて会ったぜ。
「…はぁ。何で君はこんなに堅苦しい挨拶するかなぁ?」
仕方ないだろ。この時代礼儀知らずは簡単にぶっ殺されるんだぞ。
「それにしても、この竹簡の山は全部廖化君が?…凄い量ね。」
(それに凄く丁寧ね。これだけで彼の才能がわかるわ)
「えぇ、我が師の指導の賜物です。」
お陰で地獄を見たがなぁ!
「…これなら。…撈、この竹簡全部譲ってくれないかしら?勿論お金は出すわ。」
おっふ。マジか。ドカンと大量購入来ましたぁー!
「僕は別に構わないんですが、…その、良いのですか?」
「えぇ。この竹簡なら授業で使えるわ」
おっとー、授業と来ましたか。
って事は水鏡塾はもう有るって事だよな?
もう既に諸葛亮やら鳳統は居るのか?
それとなく探ってみるか。
「あの、司馬徽様は我が師からも先生と呼ばれておりましたし、今授業と仰いましたが、塾か何かを開いていらっしゃるのですか?」
「えぇ。水鏡女学院と言ってね、将来有望な子に私が一対一で教えてるの。丁寧に教えている分、人数は少ないけどね」
ん?女学院?
…女子専門かよ。
って事は少なくとも諸葛亮や鳳統も女子なのか。
「もしや、我が師は司馬徽様の教え子なのですか?」
「いや、僕は違うよ?何度か師事した事は有るけど、指で数えられる程度だからね。それに、水鏡先生の塾の卒業生は先生から帽子や羽扇を貰えるからね。」
「あら、もしかして撈も欲しかったのかしら?ふふっ。今からでも入学は遅くないわよ?と言っても、もう私から撈に教えられる事は無いでしょうけど。」
おおっ。あの司馬徽にそこまで誉められるとは、やはり姉さんは相当優秀らしいな。
「からかわないで下さいよ。『人生全ての時間を使っても学ぶに足りない。故に常に学べ』って先生が仰ったじゃありませんか。…まぁ、それでも今は僕も教師をしてるので先生の提案は飲めませんけど。」
「それは残念。撈なら私の後継者として、良い教師になると思ったのだけど。…廖化君が女の子なら一緒に女学院にも入れられたのにねぇ。」
おっ、チャンス!
「私は司馬徽様の塾に入るに足るのですか?」
「えぇ。かなり将来有望と言えるわ。」
何故か俺の評価が高いなぁ。
まぁいいや、嬉しいし。
「その、大変失礼ですが、実際の所私より才能のある生徒は多いのでしょうか?」
これで全員が俺より才能が上とかなら流石にへこむなぁ。
まぁ、諸葛亮や鳳統が居るのかを確認出来ればそれでいいや。
「そうねぇ。…ふむ。…貴方より、と言うと少し難しいけど、同等の才能なら、徐庶と言う子が居るわね。その子も貴方と同じくらいの歳の子よ。」
ほう、ほう。ほほう、ほう。
徐庶って、徐庶 元直さんでしょ?
かなりの有能軍師さんじゃないですかー!
やべぇ。買いかぶりが半端ない。
俺にそんな才能あったら、三國志の蜀はもっと保っていた可能性もあるだろうよ。
ってか、徐庶が俺と同い年か。
確か史実では、諸葛亮等は徐庶の後輩にあたるから現在は五歳以下。下手したらまだ産まれてない可能性もある。
それに俺との才能比較で名前が出ないって事はまだ入学もしていないな。
「なんだい?さっきから質問ばかりだね。もしかして君も水鏡先生から習いたいのかい?」
「あら、そうなの?それなら、去勢して将来は宦官に成って出世する道も用意出来るわよ?」
「いえ、お断りします。我が師は楊威方様只一人です」キッパリ
冗談じゃない!
男の尊厳を無くしてたまるか!
大体、今の皇帝が霊帝って事は未だに董卓とかが出て来ていないって事だろ?
それに黄巾の乱もまだだろうし、史実では廖化は黄巾に参加していたらしいから、最短でも俺が成人してからが三國志の始まりだろうよ。
って事はだ、絶対にあり得ないが、もし俺が宦官になったら、袁昭の宦官大虐殺の時にぶっ殺されるじゃねぇか
何が楽しくて金○切って、殺されに行かなきゃならないんだよ。
「…あ、そうだ蒼夜。この竹簡の山を先生の塾まで運ばないといけないから、お店から人を二人呼んで来てくれないかな?」
「わかりました。」
これ以上この話を続けるのは危険だ。
さっさと離脱させて貰おう。
_____
「凄く良い子ね。」
「…僕には勿体ない弟です。」
「師は貴女一人だそうよ?ふふっ。照れちゃって、あんな追い払い方しなくてもいいでしょうに。」
「うぐっ!」←顔真っ赤
「まったく、嫉妬してあんな意地悪を言うからよ。」
「…すいません。」
「人格者としては、貴女程優れてる人は多くないでしょうに。…教師として嫉妬するとは、まだまだね。」
「此れから学んで行きますよ。蒼夜と一緒に。」
「…大切にしてあげなさい。」
「…はい。」
主人公は勘違いしてますが、この世界の廖化はあくまで恋姫の廖化です。
ですので勿論、恋姫用に才能もスペックも史実と別物です。