納得しない方は多いでしょうが、本当に申し訳なく思っております。
俺が華琳さんに仕えるのを決めた後、姉さん達にその話をしたら全員俺に着いて来ると言った。
霊里と地理はまぁ解る。
二人はこの日の為に俺に着いて来た所があるからな。
護衛隊の面々も俺に着いて来ると言う。
俺に救われたと言う彼等は、いつぞや冗談だと思っていた言葉通り、何処までも着いて行くそうだ。
……色々思う所はあるが、襄陽に家を買った奴等まで来るのは少し申し訳なく思う。
意外だったのは姉さんだ。
出仕するのが嫌で家出までした姉さんがまさか着いて来るとは思わなかった。
なんでも、
『君と霊里ちゃんまで行くのに僕が行かない理由が無い』
だそうだ。
らしいと言えばらしいのだが。
無理矢理連れて行く様でなんか申し訳ない。
まぁとにかく、俺の周りの人達は全員が華琳さんに仕える事が決まり、店を畳み、全ての荷物、資産を持って、陳留へと移動した。
……俺を除き。
無論、俺がハブられてる訳じゃない。
ってかハブられたら即効で辞めるからね?
俺は華琳さんに頼んであった様に、呉郡に一人来ていたのだった。
_____
「おいっす~」
「おいっす~♪」
「久しいな。……どうした? 手紙も寄越さず急に来るなんて。 それに今回は形式ばった事までして」
俺は建業に来て、今回は城門の前で門番に雪蓮と冥琳を呼んで来る様に頼んだのだった。
そして客間に通され、二人が現れたのでいつもの挨拶をした。
「あー、うん、まぁな。……今回はちょっと真面目な話があるから」
……どんな反応するかね?
「……俺、仕官先決まったわ」
俺がそう言うと、二人はほんの少し停止して驚いた。
「……あー、……おめでとう?」
「……成る程、それでか」
「うん、まぁこれから他陣営になる訳だし、流石に今までの様に素通りは駄目かなって」
……まぁ本当ならタメ語も駄目なんだろうけど。
「ふむ、……まぁお前が仕官するくらいだ、……華琳殿か?」
「正確。……この前まさかの三回目の直接勧誘を受けたよ」
実は内心めちゃくちゃビビったからね?
俺は一体いつから知力百になったのかと思ったよ。
「あ~、三回も華琳に勧誘されたらいくら蒼夜でも仕官するか」
「……うん、まぁな。 流石に三回断るのは無いわ。 しかも今回は断る言い訳が殆ど無いって言うね」
ニート志望の諸葛亮でさえ礼を尽くしたからね?
華琳さんの勧誘を三回も断ってみろ?
家燃やされて炙り出されるわ。
……それはそれで、やっぱり知力高い奴だけど。
「それに乱世が近いからな。 ぶっちゃけこれ以上何処にも属さないで通すのは限界に近かった。 まさか俺が旗揚げとかする訳にもいかないし」
それだけは本当にあり得ん。
自ら好んで棘の道を進む理由は無い。
かと言って一庶民としてずっと引きこもりも出来ない。
襄陽は激戦地になるだろうからな。
「そんな時に華琳殿が来た訳か。……確かに私でもお前の立場なら断らないかもしれんな」
……。
「……うん、まぁ、今だから言うけどさ、……正直もし雪蓮から正式に仕官要請が来てたら俺はここに来てたかもよ?」
その場合だけは断っていただろう。
「あー、やっぱり?」
ま、気付いてるよな。
お互い良い加減付き合いが長い。
相手の心情くらいはなんとなく解るよな。
「なんとなく解っていたけれど、……今更面と向かってそういう事言えないわよね……」
「……だな。 実際俺も自分からは絶対に言わないし、言わなかった。……なんか恥ずかしいよな」
どの面下げて雪蓮に頭を下げるんだよ。
……想像がつかん。
「……そうだな。……恐らく孫家の者全員がお前が仕官するのを望んでいただろう。……だがもし、お前を勧誘するなら、それは雪蓮が直接言わなければ意味は無いからな」
……うん、なんとなくそうなんだろうなとは俺も思っていた。
「……多分雪蓮から直接言われないと、俺はのらりくらりと交わして明言は避けていただろうよ」
……多分、冥琳から言われてもそうだっただろう。
「えー? 何か私が悪いみたいじゃない?」
「「いや、お前は悪くない」」
これは誰かが悪い話じゃない。
あっさりと華琳さんに着いて行くのを決めた俺だが、葛藤とかがまるで無かった訳じゃない。
どうしたって雪蓮と冥琳の顔が脳裏を過ったさ。
けどやっぱり何か違う。
雪蓮に頼まれたならともかく、俺が自分から雪蓮に頭を下げるのが想像出来ない。
……誰かが悪い話じゃない。
近過ぎただけの話なんだろう。
俺が雪蓮を友としてではなく、もう少し尊敬出来る英雄として見れたなら、雪蓮が俺を友としてではなく、もう少しだけ有能な人材として見てたなら、……多分変わっていたかもしれない。
……俺がずっと何処にも属さなかったのは、もしかしたらずっと雪蓮から誘われるのを待ってたのかもしれないな。
…………。
……。
……無いか、……うん、無いな。
きっと俺がダラダラと何もしたくなく、乱世を否定したかっただけなんだろう、……きっと。
「でも何故華琳殿に仕えるのを決めたんだ?……言ってはなんだが、お前は三顧くらいでその人に仕える様な人物ではないだろう?」
アホか。
そこまで非礼じゃねぇぞ。
俺みたいな奴に三顧した時点で充分過ぎる理由になるっつうの。
……まぁ理由が無い訳じゃないけど。
「ま、秘密にしとくわ。……いつか聞かせるよ」
「何よそれー? 聞かせなさいよー」
「いつかな、……いつか」
俺が華琳さんに仕える理由。
まぁそこそこ色々ある。
まず人となりを知った事。
あの夜会話した時の華琳さんから、俺は眩しい程に強烈な英雄の姿を感じた。
そしてその理想。
あの人は未来の平和を築く為なら、自らが大罪人になる事を厭わなかった。
……だが一番の理由は違う。
あの人は乱れる世を速やかに終わらせると言った。……ありとあらゆる力で。
乱世が終わる、それは即ち、今、この時の平和と言える状態に戻すという事。
……もし仮に、俺の知る三国志の歴史の様にこの世界が進むとしたらどうなる?
簡単に言えば、俺が死ぬまで、……百年近く経っても乱世は終わらん。
……冗談じゃない。
それこそ俺が一番望んでいない事だ。
乱世を速やかに終わらす。
あの人以外に誰が出来る?
雪蓮か? 劉備か? はたまた袁紹?
……他の誰でもない。
華琳さんだからこそ可能性があるんだ。
俺の知る前世の知識と、実際に知る華琳さんを見たからこそ、可能性を感じたんだ。
……そしたらまた、こんな風にこの二人とゆっくり飲める日が来る。
その為には間違っても赤壁なんて起こさせない。
いや、そもそも呉とは戦わせない。
同盟でも何でも良い。
そんな未来を否定してやる。
仮に敵対したとしても、その時までに圧倒的な国力を身につけ、戦をする前に勝つ。
劉備と何か同盟させない。
俺が意地でも分断してやる。
……例え雪蓮達から恨まれようと、平和的に呉を吸収して大陸に安寧をもたらす。
それが唯一可能だからこそ、あっさりと俺は決めた。
……今はこれを言わない。
将来、いつか飲みながら話す日を俺は信じて行動する。
_____
翌日、俺は建業を出て陳留に向かう事にした。
……その道程を雪蓮と冥琳が途中まで着いて来る。
……まるでこれが、最後の別れの様に。
でも違う。
これは離別じゃない。
華琳さんにも言った様にただの一時的な別れだ。
俺は必ずまた二人と会う。
その為に……。
_____
「……行っちゃったわね」
地平線の向こう、蒼夜の背中が見えなくなってから雪蓮がそう呟いた。
「冥琳、私は何か間違ったかしら?」
昨日も言った様に、雪蓮は何も間違ってはいない。
ただ、お互いが近過ぎた。
……本当に、ただそれだけ。
「……冥琳、少しこうしてて良い?」
雪蓮は私にそう言って抱きついて来た。
私の胸元に顔を埋め、肩を少し震わせている。
……そして私の胸元が湿る。
……好きなだけこうしてたら良い。
痛い程、その気持ちは解る。
私も雪蓮を抱き締め、少しだけ雪蓮の肩を濡らしてしまった。
次回から原作突入予定です。
少し日を空けると思いますが、ご了承下さい。