さて、俺達は新たな仲間を加えて賊討伐へと出陣した訳だけど……。
……行軍が遅せぇ。
これじゃあ、普段の速度より少し速い程度でしかない。
……本気で糧食を半分で済ませるつもりならもっと行軍速度を上げる必要があるんだがな。
もしかして糧食をピッタリ使いきる計算をしてないか?
……おいおい、不測の事態が起こったらどうすんだよ。
「蒼夜」
「あぁ、秋蘭さん。 どうしました?」
俺が行軍速度に不満を持っていると、秋蘭さんが話しかけて来た。
「いやなに、不満そうな顔をしているなと思ってな?……何か思う所でもあるのか?」
「……えぇ、まぁ……」
と、俺が秋蘭さんに行軍速度の不満を話そうとしたら、俺達の近くに当の本人がやって来た。
「ふんっ、何よ? 私の指揮に何か不満でもあるの?」
……耳が良いですね。
「……いえ、大分行軍に余裕を持たせているな、と思いまして」
「ふんっ、そんな事の理由も解らないの?……ここしばらくの訓練や討伐の報告書と、今回の兵数を把握した上での計算よ。 全く問題無いわ。……これだから男は」
男関係無いと思うんですがね?
「でも糧食が半分ですよ? ならもう少し急いだ方が良いですね」
「それも計算の上で問題無いのよ!……全く、男なんてそんな事も解らない馬鹿ばかり!」
……いや、うーん。
……まぁ良いか。
今回はこの人のお手並みを見る為の賊討伐と言っても良いし。
好きにさせよう。
「……ふむ。……まぁその辺のお手並みはおいおい見せて貰うとして、……桂花、今回は大分無茶をしたな?」
「ですね。……何もそこまで急いで華琳さんに軍師として志願する必要は無かったでしょうに。……お陰様で家の姉さんにまで罪が波及する所でしたよ」
マジでそれに関しては赦さないからな?
大体、能力を示せばいずれ直臣になれるだろうに。
「……それは悪かったと思っているわ。 でもあそこまで素晴らしいお方よ? 一刻でも早くお仕えしたい私の気持ちを少しは理解出来ないかしら?」
う、うーん。
すまん、よく解らん。
乱世じゃなかったら確実に仕えてないしね、俺。
いや、そもそも何処にも仕えないな。
「……ま、まぁ良いんじゃないですかね?」
「ふんっ、貴方の様な木偶の坊には解らないのでしょうね、可哀想に。……大体何でこんな男が孟徳様の真名を呼んでいるのよ、信じらんない」
……こいつ口悪すぎねぇか?
俺が下手に出てるからって、……一応俺はてめぇより上官だぞ?
「ふっ、確かに蒼夜には理解出来ないかもな。 何せ華琳様直々に三顧して、ようやく仕官して貰えたのだからな」
ちょっ、秋蘭さん!?
こんな華琳さんフリークの前でそんな話止めて!
「んなっ!? な、な、な、何ですってぇ!!!」
……おっふ。
物凄い視線だ。
憎しみで人を殺せるなら、俺は死んでるな。
「どういう事よ!? 説明しなさい!」
……何か自分でそんな説明すんの嫌だな。
俺はチラッと秋蘭さんの方を見て、説明してくれる様に頼んだ。
……貴女が言いだした事だしね。
「……ふむ。 桂花、そこの人物が何処の誰か知っているか? 一応先程、主要人物は全員自己紹介した筈だが?」
ついでに真名も交換したね。
……俺この人に嫌われているみたいだから真名で呼ぶつもりないけど。
「ふんっ! 何で男の名前なんて覚えないといけないのよ、知らないわ!」
俺が嫌われてるってより、男が嫌いなのか。
「ならば、覚えておくと良い。 そこに居るのは文豪、廖 元倹だ」
やだもう秋蘭さんったら、文豪だなんて恥ずかしい。
「ッッッ!!! な、そ、そんなっ、う、嘘よ」
良いリアクションすんなぁ。
そんなに俺が男だったのはショックか?
「どうも、廖 元倹です」
「あぅ、あっ、くっ! み、認めないわ!」
いや、認めないってあんた。
本人なんですが?
「そ、そうよ! 廖 元倹があんたみたいな男の筈が無いわ! きっと綺麗で美しい、大人の美人な筈だもの!」
……あぁ、これあれか?
格好いい漫画の作者が不細工だった時の心情かな?
……でも残念、だが男だ。
「まぁ華琳さんに仕えてからは、とんでもなく忙しいから今は何も書けてないけどね」
「ふ、ふんっ! それ見なさい! 証拠が無いのよ! 証拠が!」
……何処の犯人かな?
「大方名前が一緒なだけなのでしょう!? 訂正するなら今の内よ! さっさと過ちを認めて、孟徳様の勘違いを晴らして去りなさいよ!」
……まぁもし華琳さんに去れと言われたら去るけどさ、……良いの?
「残念だったな桂花、蒼夜は本物だ。……もし今の段階でお主と蒼夜のどちらかが、この陣営を去らなければならなくなったら、……恐らくお主が去るはめになるぞ?」
……まぁ本来の能力値なら、こっちの文若さんの方が高いんだけど、信頼度がね?
何気に俺は十歳の頃からの知り合いだし。
「くぅ! くぅ~!!!……美少女戦士なんて訳の解らない物を書いた癖にっ……!」
それ言っちゃう!?
止めろ!
あれは俺の黒歴史だ!
「大体! あんな主人公の男なんて存在しないのよ!……何処を探したって間抜けで穢らわしい男しか居なかったわ! もっと可愛いらしい女の子を主人公にしなさいよ!」
…………。
……。
……おい、まさか、……
「……匿名希望さん?」
「ち、ちちち、違うわよ!? 何それ!? 私は全然知らないわ! 毎回手紙なんて送ってないわよ!」
……うん、お前か。
この百合っ子が!
良いだろう!
本人に免じて今度は女主人公を書こうじゃないか!
「次回作は期待しといて下さいね? 華琳さんみたいな完璧超人の女性を主人公にするんで」
「ほんと!?……じゃなかった、ふ、ふんっ! よ、読んであげない事もないわ」
……成る程。
扱い方が解って来たぞ。
「ほぅ? それは私も興味があるな。……どんな話にするつもりなんだ?」
「……そう、ですねぇ、……立身出世物なんてどうです? 中央の下級文官の子が一つずつ功を積んで、最終的に歴史に類を見ない程優れた三公、……ん~、司徒になるとか?」
「成る程、叩き上げの文官か。……ふむ、下の地位から上がって来る訳だから、下の者の気持ちも理解し、上の役職につく程の優れた能力を持つのか。……理想の上司像だな。」
だよね?
俺もそう思って書こうと思った訳だし。
「……悪くはないけど、あり得ないのではないかしら? 三公なんて地位に就くには、……嫌なことだけど、能力よりも家柄とかの方が重要よ?」
「そこは物語ですからね? 多少都合が良いですが、主人公の能力を見込まれて、名家の後ろ楯が付いたりする訳ですよ」
「……意外と無くは無いかもしれないわね。 自身の影響力を広げる為に、優秀な人材を囲うのは名家では良くあることよ」
あー、そういやこの人も名家出身か。
「……と、なると主な内容は政争物か?……いや、最終的に司徒となるのなら、経済関連もいけるのか。……ふむ、どちらにしろ面白そうだ」
そゆこと、前に霊里に頼まれた内容をぶっこもうと思います。
「……それで、何時書くのよ?」
「まぁ、仕事が一段落して自分の時間が作れる様になったらですかね?……正直、全然目処は建ってませんが」
休みを、休みを寄越せぇ!
「……貴方、そんなに仕事の量が多いの?」
ふっ、馬鹿な事を仰る。
多いってレベルじゃねぇぞ。
そこで、俺は普段の仕事量を文若さんに説明してやった。
「んなっ! ちょっと、妙才! なんでこいつだけこんなに仕事の量が多いのよ!」
「俺だけじゃないですよ? 秋蘭さんも俺と同じくらいしてますもんね?」
ちなみに華琳さんは俺達以上。
だから文句が言えねぇ。
「最近は人材不足も解消されて来てはいるのだがな、……蒼夜は何でも出来る分、華琳様から良く仕事が振られる」
「褒めても何も出ませんよ?……それに前も言いましたけど、秋蘭さんが言ったら嫌味ですからね、それ?」
この人の弱点は春蘭さんだからな。
本人に弱点ないから。
「……ふんっ、まぁ良いわ。 私が認められた暁には貴方の時間くらい確保してやるわよ。……その際にはさっさと書物を書き上げなさい」
マジっすか!
文若さんパネェっす!
一生ついて行きます!
……ほんと、マジで期待します。
次回はいつになるかな?
早めに投稿出来る様に頑張ります。