なんか徐々に主人公が右腕っぽくなってる気が……。
許褚の自己紹介を聞いた後、何故ここで戦っていたのかを聞くと、正直、憤りを感じる程に中々酷い話だった。
許褚の話では、この郡の太守は税金を高くして、私腹を肥やしているにも関わらず、賊が出ても知らんぷり。
軍を派遣したり等せず、賊共に好き勝手させてるそうだ。
それでも税の徴収を止めようとはしないらしい。
……典型的な腐った役人だな。
許褚はそんな郡の貧相な邑で生まれ育ち、今では邑で一番強い事から、賊を追い払ったり、役人を追い払ったりしてるらしい。
さっきの賊との戦闘はその一環との事だ。
……まぁいくら強いとはいえ、こんな小さな女の子一人に何させてんだよ、とはその邑の連中には言いたくなるけどな。
「……その、すいません。 孟徳様も国の役人なのにこんな話して……」
「……いえ、今の国が腐敗しているのは、太守たる私が一番良く知っているわ。……貴女が憤るのも、良く解る」
……だな。
役人だからこそ、より深く理解出来る。
俺が華琳さんの陣営を訪れて、中央の役人から賄賂の要求が何度あっただろうか……。
陳留は比較的、中央との距離が近いせいかそういう事が多くあった。
今は国がギリギリ機能している為、そういう事をしないと陣営が維持出来ないから、たまに払ったりはするが、正直肥え太ったデブ役人が現れる度に怒りが沸く。
……まぁその事を春蘭さんや地理に知られない様にするのが大変だから、それ所じゃないけど。
「だから、私はこんな国を変えたいと思っているの。……その為に許 仲康、貴女のその勇気と力をこの曹 孟徳に貸してはくれないかしら?」
「え? ぼ、ぼくの力、を?」
まぁ急に言われたら戸惑うだろうな。
俺でも戸惑う……ってか実際戸惑った。
「私はいずれこの大陸の王となる。……けれど、今の私はあまりに力が少なすぎるわ。 だから邑の皆を守る為に振るった貴女の力、この私に貸して欲しい」
「孟徳様が、……王に。 そ、それならぼく達の邑も守ってくれますか? 賊が発生しない様に、平和になりますか?」
「約束しましょう。 陳留だけでなく、貴女達の邑だけでもなく、……この大陸に住む全ての者がそうして暮らせる様になる為、私はこの大陸の王になるの」
……うん。
それを一刻も早く成就させる為に俺もここに来た訳だしな。
「……この大陸の、……皆が……」
許褚も華琳さんから何かを感じ取ったかな?
……まだ幼いとはいえ、出来れば陣営に入ってくれるのが望ましいけど……。
……いや、こんな娘を戦場に立たせようなんて、浅まし過ぎるな、俺。
これではこの子の邑の連中と何も変わらん。
せめてこの子自身が、義務でも義理でもなく、自らの意思で来る事を望もう。
……俺が、少し自分の考えに自己嫌悪をしていると、文若さんが偵察の兵を従えてやって来た。
「孟徳様、偵察の兵が戻りました! 賊の本拠地は直ぐそこです!」
偵察の戻りが早い。
本当にかなり近いな。
「解ったわ、……仲康、今はさっきの返事を聞かないわ。 まずは貴女達の邑を脅かす賊の討伐をする。 今はそれだけ、貴女の力を貸してくれないかしら?」
「は、はいっ! それなら、いくらでも!」
「ありがとう。……春蘭、秋蘭、仲康はひとまず貴女達の下に付ける。 解らない事を教えてあげなさい」
秋蘭さんは解るけど、春蘭さんも?
……寧ろ教わる側だと思うんですがね。
「はっ」
「了解です!」
「よろしくお願いします! 元譲様! 妙才様!」
春蘭さんに助けられたからかな?
妙に春蘭さんになついている気が……。
「総員、騎乗! これより行軍を再開する!」
……さてと、張曼成は上手く潜り込めたかね?
それが出来てたら、楽になるけどなぁ。
_____
賊の砦は山の影に隠れる様に、ひっそりと建てられていた。
許褚と出会った所から、そんなに離れてはいなかったけど、こんな場所じゃ上手く探さないと見つからんだろうな。
地理の地図にそんな記述は有るが、こんなん誰も注目しないだろ。
「仲康、この辺りに他の賊は居るかしら?」
「いえ、この辺りにはあいつらしか居ません。 孟徳様が探している賊もあいつらだと思います」
まぁあんだけ立派な砦があるんだ。
恐らくここいら一帯の賊を全部併合したんじゃねぇかな?
……凄い数になっていそうだな。
「敵の数は把握できている?」
「先程、再び偵察からの連絡がありました。 敵の数はおよそ三千だそうです」
うわぁ、やっぱりね。
「うーむ、我々の隊が千程度だから、三倍程か。……思ったより大人数だな」
「もっとも連中は、集まっただけの烏合の集。 統率もなく、訓練もされておりませんゆえ、我々の敵ではありません」
確かに、そのレベルなら五倍までの人数ならなんとかなるでしょ。
「でも策はあるのでしょう? 糧食の件、忘れていないわよ?」
「無論です。 兵を損なわず、より戦闘時間を短縮させる為の策、既に私の胸の内に」
……兵を損なわずに、時間短縮、ね。
だったら砦を攻める攻城戦は無いな。
敵を誘い出して策に嵌める野戦つったら、……釣りかな?
「まず、孟徳様は少数の兵を率い、砦の正面に展開して下さい。 その間に元譲、妙才の両名は残りの兵を率いて後方の崖に待機。 本隊が銅鑼を鳴らし、盛大に攻撃の準備を匂わせれば、その誘いに乗った敵は必ずや外に出てくる事でしょう。……その後は孟徳様の兵は退き、十分に砦から引き離した所で……」
「私と姉者で背後から攻める、と」
ビンゴ、俺の読みも中々だな。
ま、これが一番効率良いしね。
「じゃあ俺は少数率いて真っ正面ですね? 華琳さんの下へは、誰も通すなって事ですか」
護衛隊の面々を使えばなんとかなるかな?
「そうなるわね」
「蒼夜、くれぐれも華琳様の事を頼んだぞ!」
うぃうぃ、了解。
これ下手したら敵じゃなくて春蘭さんに殺されるかもな。
「あ、あの、ぼくは……」
「春蘭さんと思いっきり暴れてきな? 今までの恨みを全部ぶつけて来たら良いよ」
「! はいっ! 思いっきりですね!」
うむ、あの破壊の鉄球を存分に振り回して来てくれ。
「それで桂花、誘いに乗らない場合の次善の策はあるのかしら?」
「この近辺の城の見取り図は、既に揃えてあります。 あの城の見取り図も確認済みですので、万が一こちらの誘いに乗らなかった場合は内から攻め落とします」
ほぅ。
命を賭けでアピールした分、準備が良いね。
「元倹様、曼成殿より報告です! 成功した、との事です!」
流石。
俺の仕込みも成功したし、文若さんの策を更に後押しするな。
「あら、私に内緒で悪巧み?……何の報告かしら?」
「いえね、曼成を偵察に出すついでに、賊に紛れて潜入出来ないか試させたんですよ。……どうやらそれが、上手く行ったみたいですね。 これは文若さんの策の後押しになるでしょう。 野戦になったら、即頭目の首を落とせますし、攻城戦になっても内から内応させれます」
この戦闘の難易度がベリーイージーで確定です。
「なっ!……いつの間に」
……何で睨むの?
寧ろ褒められるべきだよね?
「ふふっ、流石蒼夜。 抜かり無いわね?」
「報奨なら休みで良いですよ?……たまにはゆっくり昼過ぎまで寝たいですし」
無理かなぁ?
……無理だろうなぁ。
「それは追々決めましょう」
あっ、これ無理な奴だ。
……文若さん、さっき俺が華琳さんに褒められてから、やけに睨んでくるね、何なの?
「ふっ、ならば、この策で行きましょう。 これだけ勝てる要素のある戦なんて私も初めてだわ。 実に覇王に相応しい戦ね」
「ですね。 覇王足るのであれば、常に戦は理想的なのが望ましいですからね。 味方は一人も損失せず、敵は全て殲滅する。 常にこうありたい物です」
ま、あくまで理想だから、普通は無理だけどね。
正直適当な戦術なんで、詳しく突っ込まれると困ります。
あくまてま物語だと、ご了承下さい。