久しぶり過ぎる更新です
本当にすいません
戦場では様々な事に気を付けないといけないが、その内の一つに病気、特に伝染病には気を付けないといけない。
勝ち戦の筈だった戦いが、伝染病のせいで撤退して敗戦となる事になった等の話は古来よりある。
その為、戦場には傷薬の他にも病に効く薬も用意するのが基本だ。
だが戦場には病に効く薬すら効能を発揮しない伝染病がある。
それは恐怖だ。
“死”という生物としての根元的な恐怖は戦場では意図も容易く伝播する。
調練を繰り返し鍛えた兵士ですら、基本的には“死”の恐怖は付きまとう。
その恐怖を乗り越え、“死”を怖れなくなった兵士を死兵と呼び、精兵と呼ぶ。
では、今から戦う黄巾党の賊共は“死”を怖れるか否か?
答えは簡単、他者から奪う事に慣れ、自らの利益の為に苦心する奴らは絶対的に“死”を怖れる。
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「敵本陣に突撃をかける!?」
まさか、と言わんばかりに秋蘭さんが俺を問い質すが、まぁそのまさかだ。
邑の柵を李典中心に強固に作り直した後の、夜明け前の軍議で、俺が作戦を発表した時の事だった。
いや、作戦なんて高尚なものじゃなくただの力押しだけども。
「敵の軍勢は五千を越えるとの情報だぞ?義勇軍を合わせても千百程度の我らが突撃した所でこちらの被害が多く出るだけではないか?それに邑の防備はどうする?」
と、秋蘭さんがまくし立てて来るが、何も俺だって、ただ無為に突撃をすると言った訳ではない。
「まぁ、聞いて下さい。俺の戦場における基本方針を教えますから。」
俺がそう言うと秋蘭さんだけじゃなく、姉さんを含めた皆が興味深げに俺の話を集中して聞こうとしてきた。
そんな大層なもんじゃないんだけどなぁ。
「敵の心を折る事。それが俺の戦場での基本方針です。」
それも標的は指揮官ではなく、ただの一兵卒と定めている。
無論、指揮官の心が折れるならその限りではないので、今回はただの一般市民が賊となって何故か指揮をしてる敵の指揮官が対象だ。
「何故、敵の心を折る事と敵軍本陣に突撃する事が符号するんだい?」
姉さんが微笑みながらも、まるで笑ってない目をしながら俺にそう問うてきた。
ちょ、それ本当に怖いから辞めて。
「手っ取り早く心を折る方法は、死ぬかもしれない、という恐怖を与える事だよ姉さん。その為には敵の指揮官に盛大な威嚇をしないといけないからな。」
別に突撃して敵の指揮官を殺す必要はない。
突撃をする事で、死ぬかもしれない、という恐怖を刷り込む事が出来れば成功なのだ。
恐怖は伝播する、ただの雑兵からですらその恐怖は伝染病の様に伝播するのに、トップが恐慌すればどれ程の影響力があるだろうか?
「俺は、初戦にて敵の心を折りに行きたいと思う。」
通常の場合は邑の防備を固めて、華琳さんが本隊を連れて来るまで耐えるのが常道だろう。
しかしながら、
「今回の戦、既に勝利は決まっている。」
時間は俺達の味方で、速ければ明日の昼には華琳さんは到着すると思われる。
華琳さんが到着すれば後は蹂躙するのみだろう。
「だから後は、いかに兵を消耗しないかが重要だ。」
邑の防備を固めるだけでは、敵は何度でも攻めて来るだろう。その場合はこちらが消耗する。
しかし、恐怖したならどうだろう?
攻めても崩れず、それどころか相手が攻めて来て死ぬかもしれないと思えば、賊共は士気の低下に収まらず撤退すら視野に入れて、迷い、怖れ、混乱し、邑への攻撃すら躊躇する。確実に。
「初戦だ。敵とぶつかる初戦で敵の心を折れば、それだけで充分時間稼ぎとなり、こちらは消耗を抑えて明日を迎え、華琳さんが到着して蹂躙劇が始まる。」
突撃するリスクは当然ある。けども成功報酬はでかい。
しかも成功確率が悪くないならやるべきだと思うのだ。
「突撃をかます瞬間は、敵が邑を攻めて来た後、一度休憩を入れる邑から離れる時が攻め時だ。」
賊という害虫のようなゴミ共だが、奴らも一応は人間なので、体力が無限にある訳ではない。
必ず食事だ何だと休憩を入れるタイミングがある。
その時こそがチャンスなのだ。
こちらを攻めて、攻めきれない場合は必ず一度引いて休む時がある。
その時に突撃をかませば、勝機、というか大ダメージを与える事は可能だ。
「それに、突撃の際には俺、季衣、地理、文謙の四人を固めて盛大に暴れる。俺らが最前線で道を切り開いた所に後ろから蜂矢の陣で元気のある奴らをぶっ込めば良い所まで行けると思う。」
武力が高くて破壊力と突破力があるメンバーを固めて突撃したら、並の軍隊でもそうは止められんだろう。相手が賊なら更に倍プッシュだ。
赤木しげるの様に
まぁ通常の軍隊の場合はこんな片寄った編成したら、他の疎かになる部分を攻められるから絶対にやらないけどね。
仮に失敗したとしても、邑には半数以上の兵が残るだろうし、指揮官に姉さんと秋蘭さん、李典と于禁が残ればなんとか防衛しきれる。というのが俺の目算だ。
「……悪くない。いや、寧ろ危険はあるが良い手と言えるとも思える。……しかし敵の指揮官が優秀で崩れない場合はほぼ自殺とも言える博打のような危ない手だ。」
秋蘭さんが眉間に皺を寄せながらそう危惧する。
「全く持ってその通り。だから敵が崩れ易くなるように仕込みもします。」
賊の指揮官が優秀なパターンは充分あり得るだろう。特に黄巾党なら尚更ある事だ。
うちの張曼成がその例に当てはまる。あいつは本来なら黄巾党の指導者ポジだっただろうからな。
黄巾党であいつクラスの指揮官は、有名所なら何儀や波才辺りが妥当だろうか?
まぁいずれにしろ、その場合は指揮官以外の心を折れば大丈夫だろう。
ってかそうじゃない可能性も普通にあるし。
いくら頭が優秀でも、手足たる兵が軟弱ならば心を折るのは容易い。
「突撃の際に曼成を使って賊共の恐怖心を煽ります。」
張曼成以下、諜報の仕事もしてもらってる奴らにはサクラをしてもらって、俺達が突撃した時に、逃げ叫んで貰おうと思ってる。
この時に一番心を折る存在は季衣だ。
季衣の怪力は誇張なく大陸の中でもトップクラスだろう。
季衣が自身の武器である鉄球を振り回すだけで、人体は軽く空をも飛ぶのだ。
流石『
そんな現場を見せつけられて、しかも逃げ叫ぶ奴までいたら、ただの雑兵なら絶対に一緒に逃げ出す。
寧ろそこで逃げ出さないような根性据わった奴がいるならうちにスカウトしたいわ。精兵たる素質があるぞ。
まぁとにかく、そんな風に恐怖に心折られ、敗走を始めた軍を建て直すのはいかな名将とて無理だ。
低下した士気を上げる。
折れそうな心を建て直す。
それらを行えるのが名将だとしても、既に折れた心を戦場のど真ん中で持ち直すのは不可能だ。
はっきり言って華琳さんでも無理だと思う。
……ただし、一つだけ潰走させずに士気を上げる方法もある。
恐怖の原因を取り除く事、要は季衣を始めとする最前線で暴れる四将を殺す事だ。
まぁこれが一番無理だろうけど。
俺達四人が固まって動いてるのに、俺達を殺せる訳がない。
しかも時間を費やしたら軍は壊滅する。
つまり、時間を掛けずに俺達四人を殺さないといけない訳だ。
俺達を四人同時、もしくは四連戦して勝つ。それも瞬殺とくれば春蘭さんクラスでも無理だ。
それに自慢じゃないが、俺と地理のコンビネーション力は高いんだぞ?
春蘭さんと秋蘭さんとのタッグ戦でも互角だったんだからな。
もし俺達四人を瞬殺したければ呂布でも連れて来い。
最近聞いた噂では洛陽近辺で黄巾党三万相手に単騎で無双して勝ったらしいじゃないですか。
……一人だけ世界観違うんじゃありませんかね?
無双シリーズから出張したのかと思ったけど、普通に女の子らしい。
いや、呂布が女の子なのは普通じゃないけども。
仮に誇張報告だとして、賊が十分の一の人数だったとしても三千人だぞ。
……春蘭さんクラスでも単騎は無理だわ。
怖いわ。ほんと恐い。後こわい。
俺の戦場における基本方針である恐怖の伝播が、噂だけで完了する呂布まじやべぇ。
とにかく、相手が呂布クラスじゃないのならどうにでもなる。
ってか、呂布クラスの場合は突撃するまでもなく、最初の防衛戦で負けるわ。
だからまぁ、この力押しは上手く行く。多分、きっと、メイビー。
ちょっとした小話
「やぁ、うちにそんな恐怖を煽る任務とか出来るとは思えないねんけど……。」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
李典曼成
張曼成
字被りは三国志あるある。
これを切っ掛けに、李典(真桜)楽進(凪)于禁(沙和)とは真名交換しました。