今回は中々良い雰囲気に書けたんじゃないかな?
しかし主人公、今回殆ど呉陣営としか喋っていないわ
魏の陣営の筈なんだがなぁ
賊討伐の作戦を開始した直後、早くも雪蓮に危ない兆候が出始めた。
「あはっ♪やるわね春蘭!」
「そちらもな!」
「良いわね、久しぶりだわ、隊を統率するのではなく、ただ一人の武人として目の前の敵を斬る為に剣を振るこの感じ!……ノッて来たわ!」
……今日は随分と早いな。
「……熱い、熱いっ、熱いっ!……血が滾るっ、気が昂るっ!……さぁ!どんどん来な___」
「落ち着け。」
俺は持ち場を地理に任せて直ぐに雪蓮に近寄り、コンっと雪蓮の頭を軽く叩いて顔を掴んで目と目を合わせた。
……ちっ、やっぱりな。
「……もう瞳が紅くなり始めてる。あまり興奮するな雪蓮。」
「離して蒼夜、今良い所なの。斬るわよ、斬ってしまいそうだわ。」
お前が俺を斬る訳ないだろ。
いくら暴走気味とは言え、それくらいの信頼はしとるわ。
俺は優しく雪蓮と額を合わせて、宥めるように穏やかな口調で雪蓮を諭す。
「駄目だ。あまり熱くなるなよ、頼むから。……ほら深呼吸しろ。」
「……すぅ~……はぁぁぁ~っ。……ん。」
雪蓮の瞳の色がいつもの綺麗な蒼色に戻り、雪蓮はある程度落ち着いたのだろう。
さっきまでの興奮していた表情から無表情に変化して、俺の目線からプイッと目をそらした。
ったく、不貞腐れるなっつーの。
「……もう大丈夫か?」
「……駄目、……後もうちょっと。」
はぁ、孫家の悪癖には困ったもんだ。
どうにも孫家の血筋の人物は、血を見て興奮し始めると狂暴性が増す特徴がある。
普段は理知的な蓮華様でも、ある一定のラインを越えるとこうなるらしい。
特に雪蓮は元が戦闘狂の一面もあるから、結構な頻度でこういう風に暴走する。
……それでも今日は早過ぎるけどな。
以前呉郡で賊討伐をした時はここまで酷くはなかったのだが。
この暴走が始まった時の抑え方は、親しい者とこうして肌と肌を合わせて、熱を相手に移す事だ。
今日みたいな暴走の初期段階なら俺でも別に大丈夫な訳だが、完全に暴走してしまうと俺では流石に止められん。
と言うよりも、額が触れあう程度では熱が治まらんらしい。
俺は見た事無いけど、その場合は冥琳が雪蓮と裸で抱き合いながら一晩を過ごすらしい。
当然だが俺にそんな役目がこなせる訳ない。
エロい事は一切していないと冥琳は言うが、裸で抱き合うとか充分エロいと思うのです。
初めてその真実をカミングアウトされた時は、俺の幼馴染みは百合だったのかと思って目眩がした。
……今でも百合じゃないかと怪しんでるけどね。
まぁとにもかくにも世話が焼ける親友だ。
「おいっ、貴様等!何を戦場でイチャついている!真面目に戦え!」
えっ?これがイチャついてる様に見え___
……どう言い訳しても見えるな。
春蘭さんの声に反応して俺と雪蓮はパッと離れ、そそくさと戦線へと戻った。
……改めて考えると超恥ずかしい。
─────
作戦が上手く行き、戦闘が終了して孫策軍と合流した時に、雪蓮はこそこそと逃げる様に自分の軍へと戻って行った。
おい、せめて何か一言喋ってから帰れよ。
気恥ずかしそうに頬を染めて帰るな、俺まで気にしちゃうだろ!
「ん?策殿はどうしたのだ?隠れる様に陣幕へと入って行きおったが?」
「あっ、祭さん、お久しぶりです。……まぁ、あの、あれですよ。……雪蓮の悪癖が出始めたので、俺が治めたんです。」
祭さんが俺に軽く手を上げ、雪蓮が逃げて行った方向を眺めながらこちらに近づいて来た。
「あぁ成る程それでか。くくくっ、存外、まだまだ可愛い所もあるのぅ。」
笑い事じゃないよ。
あの悪癖はどうにかしないと大変だよ?
「しかし助かるな。私達と一緒の場合、あの暴走が始まる初期段階でも誰にも止められんからな。」
「冥琳、……お前でも無理なの?」
「あぁ、私でも戦闘が終わった後にゆっくり時間を掛けて落ち着かせるしかない。……何より戦闘中のあいつに近づける奴など、極稀にしか居ないからな。」
そうなのか。
……あんまりこういう事は言いたくないけど、やっぱり雪蓮にはあまり戦闘で前には出て欲しくないな。
いやまぁ強いから積極的に出た方が効率は良いんだけどね。
「そういや思春さんは?」
「あぁ、思春なら___」
「ここです。」
居たの!?気配無いから怖いよこの人!?
「お、お久しぶりです思春さん。」
「お久しぶりです。此度の作戦はお見事でした。」
「ありがとうございます。」
ご丁寧にどうも。
でも冥琳だったらもっと良い作戦立てられたんじゃないかな?
……この人拗ねてやる気出さないから。
「さて、捕虜の引き渡しもほぼ完了した訳だし、そろそろ借りを返して貰おうか。」
今回の戦闘で捕縛した捕虜の人数はおおよそ六千人にも昇る。内、曹操軍で捕らえたのが五千、孫策軍で捕らえたのが千くらいだ。
……はっきり言って多過ぎる。
敵が投降したのが早かったからと言うのもあるが、うちの兵程ではないとは言え、予想以上に敵が強くて中々討ち果たせなかったからと言うのもある。
しかもこの戦場から逃げ出した人数も考えれば、今回の敵将はひっそりと調練らしき事までやって兵を鍛えていたのだろう。
だがまぁ敵将は捕縛する事に成功したから良しとしよう。
……まぁ捕縛と言うか、こっちから捕まえる前に投降して来た訳だが。
中々兵に慕われてる奴らしくて、それで投降する際にこれ程まで人数が残った訳だ。
しかも張曼成の知り合いみたいだし、いやはや期待が高まる。
まぁ今は一旦この事は横に置いておこう。
「ほいほい、約束の情報ね。地理!地図貸してくれ!」
俺は遠くに居た地理に声をかけ、地理の精巧な地図を借りて冥琳達の前に拡げた。
「ほぅ、これが噂の地理の地図か。……凄いな。」
「なんと精巧な事よ。……これが他陣営にあると思うと、正直良い気はせんな。」
「……。」
この精巧な地図を見せる事も、俺からの言外のお返しだったりする。
まぁこれは本当に凄いからな。
冥琳も驚いているし、祭さんも眉根を寄せる程食い入る様に見てる。
思春さんに至っては眉間に皺を寄せて睨み付ける様に凝視している。
……初めて会った時の事思い出すなぁ。こわい。
「んじゃ、今から黄巾党の発生源とそこからの進行方向を順に言ってゆくな。」
俺はそう切り出して、今までの状況を冥琳に教えて行く。
そうやって、発生源と進行方向を指で示し続けて見えて来た場所は___
「……青州か。」
「あぁ、青州の地はもう殆ど黄巾の連中の手に落ちているって話で、ほぼ独立国家になって来てるらしい。」
「……そこまで来てるのか。……ふぅ、中原の情報が中々集まらないのは厳しいな。」
逆に揚州に居ながら中原の情報が集まる方が怖いわ。
その場合は明命がチート過ぎてヤバい。
「……して、そんな状況なら各地から諸侯を集めて大々的に討伐隊が組まれる筈じゃろ?……どのくらいで始まりそうじゃ?」
「詳しい事はまだ何も。……けど、華琳さんの読みではおおよそ三ヶ月後と考えてます。」
俺や文若さん、姉さんや霊里も同意見だった。
「成る程、官軍は黄巾党に属する全ての者を一旦青州に集めて一気に叩くつもりか。」
「多分な。」
あくまで予想だから本当にそうするかは知らんけど。
「まっ、これが俺に話せる情報の全てかな?」
「あぁ、感謝しよう。……祭殿、思春、我等は急いで建業に帰り、三ヶ月後の為に軍備を整えよう。」
「うむ。」
「はっ!」
「……そう言う訳で、すまんな蒼夜。本来ならここで一日くらい戦勝祝いをしたかったのだが、……宛に寄る事も考えれば一日でも急がねばならんだろう。」
まぁちょっと残念だが、しゃーないな。
「まぁ良いさ。……三ヶ月後、青州でな。」
「あぁ、その時に纏めて戦勝祝いをしよう。」
俺と冥琳はニヤリと笑って今日の所は別れた。
「ぬあぁ!こんなつもりじゃなかったのにぃ~!!!」
陣幕の中で顔を真っ赤にしてゴロンゴロンと転がる雪蓮さんでした。