どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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桃香を出す時の為に考えてたサブタイトルです




恋姫夢想

 

「私は、皆が笑って暮らせる世の中になって欲しいと思ってます。そして、そんな世の中に出来たらなって、___うぅん、別に私じゃなくても良いんだけど、……でもそんな世の中にする為に、私も努力しようって思ってます。」

 

青州へと向けての行軍中、華琳さんとの会話の中で劉備はそう語った。

その時の劉備は今までとは違い、胸を張って堂々としており、眼を輝かせながら先を見つめ、その言葉には不思議と力が宿っていた。

 

劉備の近くに居た関羽は改めて劉備の言葉に感じ入ったのか、ウンウンと頷いている。

 

「荒唐無稽だとは理解しているのです。……ですが私もそう。……私も桃香様の語る夢の為に努力したいと思っています。」

 

「ありがとう、愛紗ちゃん!」

 

……眩しい。

この二人を見てると、俺がまるで薄汚れた人物な気がしてくる。

 

皆が笑って暮らせる世の中、か。

是非ともそうなって欲しい。

……そうなって欲しいけど、……現実がなぁ。

 

そして俺の中での一番の疑問点、彼女の語る“皆”とは、何処までが“皆”なのだろうか?

彼女の語る目映い夢に賛同したい気持ちはあるのだが、……残念ながら、少なくとも俺は敵に対して容赦するつもりはない。

敵がいながら笑って暮らせるとは思えない。

 

俺にとって敵は“皆”に入っていないから。

 

華琳さんの語る覇道だって、結果的に言えば多くの人が笑って暮らせる世の中になるのだろう。

けど、過程が違うと言うか、最初の目的が違う。

華琳さんは自らの手で強い国を作りたいのだ。

 

外敵に怯える必要は無く、内政が安定していて、民に不安が無い様な、そんな国。

そしてそんな国にする為の犠牲を厭わない。

 

だから決して“皆”ではない。

 

目指している場所は似ている。

けど、辿ろうとしているルートが違う。

そんなイメージが沸いた。

 

「良い目標だと思うわ。民を重んじるのは統治者の基本。玄徳、貴女には統治者としての資質はあると思うわ。」

 

「ほ、本当ですか!?わぁ、孟徳様に褒められたよ愛紗ちゃん!」

 

「ふふっ、桃香様ならきっと善き統治者となれますよ。」

 

油断しちゃ駄目だぞー。

華琳さんは上げて落とすパターンがあるから。

 

「……でもね、玄徳。民というのは必ずしも善き人々という訳ではないのよ。」

 

「えっ___」

 

あぁ、やっぱりな。

 

「貴女が例えどんなに善き統治者となったとしても、貴女が治める街に犯罪は無くならないだろうし、市民は自らの利益の為にこちらの迷惑を省みずに無茶な要求をして来るのよ。」

 

ホントそれ。

陳留は良い街である自信はあるけど、それでも殆ど毎日何かしらあるからなぁ。

 

「その時貴女はどうする?この場合、皆を笑顔にするのは非常に難しいと言わざるを得ないわ。」

 

「えっと、えっとぉ~。罪を犯した人にはキチンと罰を与えて反省して貰って、街の人の声にはちゃんと応えられれば、きっと___」

 

……まぁ、実際に統治なんてした事ないだろうから、わからないだろうな。

 

「私の街で起こった具体的な例を上げましょう。……ある男が酒を飲んで酔っ払い、別の男と口論になり突発的に殺人を起こしてしまったわ。……貴女ならどうする?」

 

……あぁ、あの事件か。

 

「……その人は、反省してたんですか?」

 

「えぇ。泣いて懺悔し、非常に後悔していたわ。」

 

「それなら私は、……その、殺人はいけない事だけど、重い労役の罰を与えて、キチンと役目を終えたら赦したいです。」

 

「その男が何度も同じ事をしていたとしても?」

 

「えっ?」

 

「結論を出すのが早いわね、玄徳。この場合、まずはその男の情報をもっと聞いてから判断するべきよ。」

 

事前情報を最初から語らなかった罠。

中々意地悪するね華琳さん。

 

「その男は何度も似た事を繰り返していたのよ。殺人まで発展したのは初めてだけれど、何度も酒を飲んだ後に暴力沙汰を起こしていて、何度も厳重注意をしていたわ。」

 

「……それは___」

 

「酒を飲んでいない普段の時は真面目に働き、周りの人間からも慕われるような有能な人物と言える男だったわ。……だから、多少の事で重く罰する事を私はしなかった。……それが私の失敗。」

 

本来なら良くて街からの追放、下手したら死罪だった。

 

「彼を斬る時には、それでもなお反対する者は居た。……けれど、また人が死ぬ事態にならぬ様に私は斬ったわ。」

 

少なくない人数から笑顔を奪っただろう。

けど、多くの人の平穏は守れた。

 

「……っ。」

 

仕方がない。

劉備は頭ではわかっているのだろうが、そう口にしたくはないのだろう。

 

「他にも、……難民を街に受け入れて生活支援を行ったら、物資が足りない、食料が足りない、もっと支給しろと要求されたわ。……でも充分供給はしているのよ。」

 

「……なのに、足りないって言うんですか?」

 

「えぇ、彼等は最初から私の街に住んでいた市民を見て、不平等だから彼等と同等の生活が出来るように支援しろと要求して来たの。」

 

そうなのだ。

衣食足りて礼節を知る、なんて言葉があるが、あれは一部の人間にしか適応されない。

と言うか、衣食足りて満足した後、その状況に慣れて更なる欲求が生まれるのだ。

 

「……孟徳様は、どうしたのですか?」

 

「私はその要求を断ったわ。支援物資だって無限にある訳ではない。彼等に支援するだけで大量の税を使用したわ。……これ以上の支援は彼等を甘やかすだけに留まらず、最初から住んでる私の市民から預かった大切な血税の無駄遣いになるもの。……だから、これ以上の贅沢をしたければ自分で勝ち取れと、仕事を紹介するだけにしたわ。」

 

ここでもやはり、全員が笑顔になれた訳ではない。

中には今でも生活が厳しい者も居るだろう。

けど、大多数の人が納得する結果になっただろう。

 

「玄徳。もう一度言うけれど、貴女に統治者の資質はあるわ。……けれど、為政者としてまだ学ばなければならない事は多いわ。」

 

「……為政者、ですか。」

 

「えぇ。……先程の例の様に、為政者は時にして民の為に民の笑顔を奪わなければならない時がある。……それが彼等の為になると信じて。」

 

「……難しいです。」

 

そうだろうな。

華琳さんだって完璧ではない。

今でも学んでいる最中なのだ。

きっと、一生学び続けなければいけないのだろう。

 

劉備は優しいのだ。

皆を笑顔にしたいという夢からしてそうなのだ。

彼女の言う“皆”とはきっと俺と違い、敵や味方を区別する事なく、あまねく全ての人々なのだろう。

彼女は全ての人に対して優しい。

……本当に凄い事だ。尊敬に値する。

けど、だからこそ難しい。

 

対して華琳さんは厳しい。

強い国、良い国を作ろうとする華琳さんは、ある意味民を厳選するとも取れる。

華琳さんがもし、皆を笑顔にすると発言したなら、彼女の言う“皆”とは法を遵守し、自らを高め様とする、強き善き人々の事を指すだろう。

彼女は全ての人に厳しい。

……多少の依怙贔屓はするが、それでももし春蘭さんや秋蘭さんが取り返しのつかない罪をおかしたら、華琳さんは血の涙を流しても、大切な人を斬るだろう。

……他の誰にも出来ない事だ。心から感服する。

でもだからこそ、全てに対して公平だから、信頼出来る。

 

「……孟徳様の言う事は、わかりました。……私、知らない事が沢山あって、現実が見えてないんですね。」

 

「……桃香様。」

 

「……でも。……それでも。……やっぱり私、皆を笑顔にしたいです。そう努力したいです。」

 

……あぁ、やっぱり彼女は英雄だ。

華琳さんとは正反対とも言えるのに、似ている。

 

それは容姿だとか、能力だとか、目標だとかではなくて、……その芯が似ている。

自分の発言や志がぶれない所が酷く似ている。

 

「私はまだ何も知らない小娘だけど、……何も知らない小娘だから、まずはやってみます!孟徳様の言う前提を覆す努力をします!街に犯罪者が出ない様に頑張って、市民の人が不満を述べなくなる様に!……そしたら、皆が笑顔で暮らせますよね?」

 

「……くすっ。……そうね。前提を覆すって発想は無かったわ。貴女の言うそれは並大抵の事では叶わないけれど、確かにまずはそう努力すべきね?」

 

「はいっ!」

 

劉備はやはり眩しい笑顔で笑う。

 

彼女はまるで物語の主人公だ。

例えば衛宮士郎___は少し違うか。どちらかと言えばユニコーンの主人公、バナージに似ている。

でも、それでも、と言い可能性を信じる姿が。

 

彼女の夢は、この時代では美しく儚い。

まるで政略結婚を定められてる姫が、恋する王子が向かえに来てくれるのを夢みて、想い願うように。

 

……恋する姫が夢を想う、か。

物語以外で、叶った事を知らないな。

 





自信はありませんが、桃香を魅力的に表現出来てたでしょうか?
蜀アンチしない為にも、原作よりも、キャラ崩壊をしない程度にしっかりした桃香を書いたつもりです。

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