どうも三國志のシーラカンスです   作:呉蘭も良い

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本日の二話目です
これで黄巾編は終了とします
後は閑話を挟みつつ、ちょい休憩



終わり、そして始まり

戦闘後の火照る身体に一杯の酒を流し込んで行く。

 

「っだあぁぁぁ。……はぁ、この一杯の為に生きている。」

 

「大袈裟ねぇ。というかオヤジ臭いわよ?そんなんじゃまた、シャオにおじさんみたいって言われるわよ?」

 

「うっせぇ、慣れない事して疲れたんだよ。……隠密なんて二度としねぇ。」

 

マジでな!

戦闘とは別の緊張感がヤベェ。

改めてスネーク___じゃなかった、明命の凄さを思い知った。

 

「でもあれだな。これだけの諸侯が集まる中、俺達だけで功を独占するってのは、中々気持ちが良いな。」

 

「お前に気付かれなければ、私達だけで独占出来たんだがな。」

 

「んな事今更言うなよ。俺がどうこうしなくても、どうせ誰かが気付いて火事場泥棒しに来てただろうよ?」

 

それにそっちは兵力の消耗が少ないでしょ?

 

「……確かにな。」

 

「今更終わった事なんて良いじゃない?ほら、飲みましょ?」

 

雪蓮がそう言って、俺と冥琳の杯に酒を注いで行く。

俺も負けじと燻製肉と乾燥果物を皿に盛って行く。

飲み会用に確保しておいたものだ。

 

「これ食べるのも、久しぶりねぇ~♪」

 

「こっちのは乾燥させた果物か?初めて見るな。」

 

あぁそうか、こいつらにドライフルーツ出すのは初めてか。

 

なんて思っていたら、何処かで聞いたら事ある様な、高笑いが宴会場に響いた。

 

「オ~ホッホッホ!オ~ホッホッホ!皆さん、黄巾討伐お疲れ様です。私が、名門袁家のこの、わ·た·く·し·が!皆さんを慰労しに来て差し上げましたわ!……あっ、これは差し入れです。皆さんで飲んで下さいな。そこそこ良いお酒ですわよ?」

 

「なっ!?あ、あいつは___」

 

「やけに派手な人ね。蒼夜知り合い?」

 

「いや、知らん。……知らんが、俺は一度、奴に麻雀で敗れた事がある!」

 

おっぱい金髪ドリル!

貴様、何故ここにいる!

 

「いや、何故知らん。私でも知っているぞ?」

 

「知っているのか、雷___ケホンケホン、冥琳!」

 

「ん?あぁ、あれはこの大陸で知名度一位だろう袁紹だ。」

 

あ、あれが袁紹だと?

もっとこう、高貴な感じじゃないのか?

 

「……はぁ。……麗羽、何しに来たのかしら。」

 

「あら華琳さん。先程申し上げた通り、私が慰労しに来て差し上げたのですわ。」

 

「そう。ならありがたく慰労されるから、差し入れを置いて帰って良いわよ。」

 

「冷たいですわね。そう邪険に扱わなくても良いではありませんか?久しぶりに旧友と出会ったのですわよ?久しぶりに会話を楽しもうとする度量を見せて欲しいものですわ。」

 

「……はぁ。わかったわ。私の隣で良いなら好きになさい。」

 

「オ~ホッホッホ!では遠慮なく。」

 

……お、おぉ。

華琳さんが折れた。

何だ、意味わからんがすげぇ。

 

「うわぁ、華琳でもあんな諦めた表情する事あるんだ。」

 

「……袁術とは別の意味で関わりたくないな。」

 

こいつらひでぇ。

いやまぁ俺も関わりたくないが。

 

「それにしても、私、てっきり華琳さんが第一功を挙げるものだと思ってましたわ。……それが蓋を開けてみたら準功。残念でしたわね。今回は調子でも悪かったのですか?」

 

ばっ、馬鹿止めろ!

華琳さんをニヤニヤしながら煽るな!

 

「……そうね。今回は孫家が優秀だったと言う事ね。」

 

「む?……華琳さんが珍しく他人を褒めるとは。孫 文台ならいざ知らず、孫 伯符も英傑の類いでしたの?」

 

袁紹の問いに、華琳さんはチラリとこちらを見てニヤリと笑う。

 

「ふふっ、そうね。虎の娘は虎だったわ。」

 

「……むぅ、明日は槍でも降るのかしら?」

 

「……どういう意味よ。」

 

「そういう意味ですわ。」

 

華琳さんと袁紹はバチバチと視線を合わせている。

 

「……何か、すっごい恥ずかしいんだけど。」

 

華琳さんに褒められて、雪蓮は照れていた。

 

「まぁ、実際は殆ど冥琳の手柄なんだけどな。」

 

「それはそれで複雑ね!」

 

「何、私を率いているのはお前だ雪蓮。全てお前の手柄だよ。」

 

「今日雪蓮何もしてねぇけどな。」

 

「蒼夜と冥琳が何もするな、って言ったんじゃない!」

 

当たり前だ。

華琳さんと劉備を見てみろ。何もしてないだろうが。

普通君主ってのはそんなもんなんだよ。

……まぁ悔しがってるし、言ってやらんが。

 

「それにしても麗羽、貴女本当に青州に何しに来たのかしら?ずっと何進にべったりだったじゃない。」

 

「オ~ホッホッホ!何進大将軍は話のわかる方でしてよ。庶民出身である事を気になさって、大陸一の名家であるこの私に補佐を頼み、とても重用なさって下さるもの。……と言う事で、今回は私、皆さんに功を譲り、何進大将軍と高みの見物とさせて頂きましたわ。」

 

……それは、利用されてるんじゃないですかね?

庶民出身の何進からしたら、バックに袁家が着いたら心強いなんてもんじゃないだろうな。

 

「……まぁ、貴女がそれで良いなら良いのだけど。」

 

「ご心配ご無用。……華琳さんの言いたい事は理解しているつもりですわ。ですが、ここで外戚勢力の柱である何進大将軍と私が手を組めば、あのおぞましき宦宦共を一掃出来ますわ!……そして中央政府の膿を取り除いた曉には漢王朝の完全復興!そしてそれを成し遂げるのは、名門袁家の長子たるこの私袁 本初!完璧な道筋ですわ!」

 

お、おぅ。意外とそういう事も考えてるのか。

……まぁ、全然完璧な道筋ではないが。

可能性は零とは言わんが、あの宦官共をそう簡単に一掃出来るとは思えんな。

やる時には一切の容赦もなく、一撃で葬り去らんといけないだろう。

奴等に少しでも機会を与えたら必ず逃げられる。

……それが出来る人には見えんが……。

 

「……私には何進にそれが出来る様には見えなかったわね。」

 

「私が補佐をするのですから、問題なんてありませんわ。」

 

「……そう。油断しないようにね。」

 

……華琳さんは恐らく勘づいている。

袁紹の語る道筋は成功しないだろうと。

 

「……お前はどう思う蒼夜。袁紹の語る言葉、実現すると思うか?」

 

冥琳の問いに、近くに居た全員が耳を傾けていた。

……いや、俺の発言に態々注目すんなし。

 

俺は仕方ないので、酒を煽り自分の考えを披露する。

 

「厳しいだろうな。まず第一に、政争の類いで宦官に勝つ未来が見えないという事。宦官はそれを生業として来た奴等だ。言わば勢力争いの天才集団だ。いくら袁家でもここで勝つのは厳しいと思う。何より宦官は皇帝の権力をほぼ自由に使えるしな。……第二に、何進の性質が基本的に庶民だと言う事。つまり、そう簡単には武力介入をしない。何進は血が流れる事をしたがらないタチがある。……事実、一度宦官に兵を向けておきながら、奴等が平謝りすれば斬る事なく赦している。……そして第三、最悪な事に何進の妹である何皇后が宦官と親しい付き合いがある事。……宦官は追い詰められれば、皇后に頼み何進を抑えて貰う事が出来る。つまり、何進は宦官と政争しつつも、結局奴等を排除出来ないだろう、って事だ。」

 

これは前世の知識じゃなくて、実際の情報を纏めた俺の推測だ。

 

「……うむ。……そうか。ちなみに何故そこまで詳しい情報を知っている?」

 

「洛陽に人を送っただけで、簡単に集まったぞ。……逆に言うとな、ここまで宮中の情報が駄々漏れな時点で、もう漢王朝は……。」

 

俺はそこで言葉を切った。

流石にこれ以上は言えない。

 

「……そうか。……まだ、大陸は荒れるのだな。」

 

「あぁ。」

 

ここが一種の分岐点なんだろう。

ここで中央が落ち着いたなら、まだ戦乱の世は来ない可能性がある。

けど、ここで史実通り何進が殺されでもしたら……。

 

黄巾の乱は終わり、平和が訪れると期待している奴は多いだろう。

けど違う。

これが始まりなのだ。

俺の知る三国志は、ここから始まった。

 




「それにしても袁紹が指し入れした酒旨いなぁ。」

「ねぇ~♪」

「あら、気に入って下さった様で何よりですわ!オ~ホッホッホ!オ~ホッホッホ!まだまだありますわよ!好きなだけお飲みなさい!オ~ホッホッホ!」

「おぉ!本初!本初!」

「「「本初!本初!本初!」」」

袁紹コール大爆発

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