今日は連続投稿です
今更ながら、俺は前世の三国志の知識をあまり信用してはいない。
孫堅が死んだ後に自分をそう戒めたからだ。
実際に俺の知る歴史とは少しずつ変わっているしな。
だから俺は現在の正しい情報を集めるのにいつも苦心している。
さて黄巾党の乱は未だ各地に小勢力を残しながらも、既に終息に向かいつつある。
となれば、次は知識的に考えれば董卓の台頭からの連合軍だろう。
だが先程も述べた通り、俺は自分の知識を過信してはいないので、これからどうなるか、洛陽へと隠密を送り情報を集める事にした。
しかし今まではただ張曼成なんかを時間がある時に洛陽へと向かわせるだけで良かったが、これからはきっと情報の速度が重要になるだろう。
新鮮な情報をいち速く知る為には今の状態では限界がある。
隠密の能力と組織体系の未熟さも考えなくてはいけないが、何よりここ陳留と洛陽では地味に遠いのだ。
いや他の陣営なんかと比べれば遥かに近いのだが、それでも陳留と洛陽の間に、河南、あるいは河内という郡を一つ挟んでいるのが、情報の伝達に地味に遅れが生じてしまう理由なのだ。
体力のある軍馬で早馬をした所で最低でも三日以上は掛かってしまう。
リレー形式で情報を纏めた書簡なんかを伝達したら、一日で陳留まで着くと思うのだが……。
残念ながら、河南、河内のどちらも華琳さんの影響外なので、こちらから手出し出来ない。
とは言え、このままにしておく訳にもいかないので、俺は内密に華琳さんと文若さん、そして姉さんを集めて相談をした。
「___洛陽の情報をいち早く集める方法ね。……確かに、未だ不安定な朝廷の情報は必要だと感じているわ。けど、そこまで急ぐ必要はあるのかしら?今でも充分早いと思うのだけど?」
駄目だ、華琳さんが情報速度の重要性を理解してねぇ。
「私も今のままで問題無いと思っています。……大体、隠密を送るなら洛陽だけじゃなく、袁紹や袁術の方にも送るべきでしょう?あんた何でそこまで洛陽にこだわっているのよ?」
袁術はともかく、今は袁紹の領土は割と重要性低いんだが……。
文若さんは仮想敵として袁家の事を想定してるんだろうけど、今はまだ敵じゃないと言い切れる。
何故なら袁紹は今は何進と行動していて中央に居る。
こちらに対して何かしらの行動を起こす訳がないんだ。
「まぁまぁ、蒼夜がそこまで言うなら、何かしら理由があるんだろう?」
「ある。」
真っ当な理由だ。
歴史の分岐点になりうる。
これは董卓うんぬん以前の問題だ。
「今黄巾の乱は終息に向かい、大陸は少し落ち着きを見せ始めました。」
「そうね。」
「ですが、それは一時的な、まだ仮初めの平和です。……再び大陸が荒れるとするなら、何が切っ掛けになるのかを考えて下さい。」
何も無いのが一番良い。
俺の思い過ごしで、洛陽が、朝廷が落ち着きを見せればこの平和は長く続く可能性だってある。
「……切っ掛けね。」
俺の言葉に三人は思案する。
そしてはっきり言おう。
中央の混乱以外に、大陸が荒れる可能性は限りなく低い。
勿論外敵や、再度起こる大規模反乱等があればその限りではないのだが、黄巾の乱の最中にそれらが無かった時点で、最大の可能性は中央の混乱だ。
「わかりますよね?……今一番目を向けるべき場所は中央です。宦官と何進の動向を注視するべきです。……もし、どちらかに血が流れる様な事が起こったら___」
「……荒れるわね。」
「はい。そして、その可能性は決して低くありません。……全員知っての通り、霊帝は最早……。」
長くはない。
大陸の民なら全員知っているだろう。
霊帝は元々身体が強くないのだが、ここ最近は伏せていて、いつ息を引き取ってもおかしくないのだ。
だから、後継者争いが起きる。
正確には、後継者は劉弁と決まっているのだが、どちらが劉弁の後見人になるのかを争う。
いつ、どっちが暗殺されてもおかしくない緊張状態なのだ。
どちらかが武力を使い始めたら、もう終わりだろう。
宦官が皇帝の権力を利用して、何進を討つ様に諸侯に命じでもしたら、大陸は完全に割れる。
逆に何進が宦官に兵を向けても同様だ。
何進に付けば皇帝に刃を向けたとして、漢という国の権力構造が完全に崩壊するし、宦官に付けば何進、ひいては袁紹と対立する事になり、やはり国が割れる。
何も起こらない事。
政争だけで済む事が唯一の平和的な道なのだが、その可能性は限りなく低い。
ならば___
「わかったわ。悠長にしている時間は無いと言いたいのね?一日、二日の情報の遅れが問題になると言うのなら、早急に解決手段を講じましょう。」
華琳さんが俺の意見に理解を示してくれたので、俺達四人はそれぞれ意見を交換し、対応策を考えた。
そして最終的に出た結論が、___
「河内にて協力者を作りましょう。」
そう文若さんが方向性を纏め、華琳さんの影響圏を増やす事になった。
「ですが、どうするんですか?……こう言っては何ですが、華琳さんは中央から煙たがられていますから、そう容易く協力者を募る事って出来るんですか?」
河内は司隷に属する郡だ。
日本で言う所の東京都と同じ立ち位置なので、中央の支配が根強い。
そんな場所で、目を付けられている華琳さんが影響力を得ようとしたら、かなり警戒されるだろう。
「……そうね。私が直接的に手を出したら今は不味いわ。だから秘密裏に有力者と協定を結ぶ方向になるわね。」
「成る程。……権力者ではなく有力者ですか。」
中央紐付きの権力者ではなく、その地に影響力のある有力者、所謂名士を味方に出来るなら悪くない。
「しかし、河内で強い影響力がある有力者が、何の伝手もなくこちらの話を聞きますかね?」
「伝手ならあるわ。」
「私の本家の伝手も使いましょう華琳様。」
……あるのか、流石だな。
華琳さんと文若さんは、流石名家と言った所か、河内に知り合いがいるらしい。
……しかし誰だろうか?
河内に影響力があり、華琳さんの知り合いで、文若さんにも伝手がある名士。
……いや待て、もしや___
「過去、私を洛陽北部都尉に起用した司馬 建公との伝手があるわ。」
「同じく、私の荀家は司馬家と懇意にしています。その伝手も使えるかと。」
司馬防か!
かの司馬懿を代表とする、司馬八達の産みの親か!
「あ~、私は本家と殆ど縁切っちゃったから、そういう伝手とか、こういう時使えないんだよね。」
姉さんはそう言うが、寧ろそれが普通と言うか、なんと言うか、……やっぱコネって大事だわ。
まぁかく言う俺も、荊州でのコネなら半端ない自信あるけどな。
「では、まずは司馬 建公に秘密裏に面会を求める書簡を送りましょう。そしてかの御仁がその要請に応じたら、……蒼夜、貴方が会いに行き、此度の説明と協力に対する説得をしてきなさい。」
……なん……だと?
「ちょっ、待って下さい!な、何故俺が!?」
こういう時はトップ自ら、華琳さんが行って話をつけるべきでは!?
「私が簡単に司隷に入る訳にはいかないでしょう?それに、陳留での政務もあるのだし、そうそう行く訳ないじゃない?」
文若さんに、姉さんと霊里が居たら政務なんてどうにでもなるよ!
「大体、貴方が提案して来た事なのだから、貴方が責任持って行うべき事だわ。私の名代として行って来なさい。」
みょ、名代!?
名代って、文字通り、華琳さんの代わりじゃないか!
俺の発言が、まんま華琳さんの発言になるんだぞ!?
そんな責任を俺に負えってか!?
「なんなら、かの御仁の娘達、有名な司馬八達を勧誘して来ても構わないわよ?……特に司馬 仲達は才能溢れる様だし、これからの為にも是非連れて来るべきだわ。」
……オワタ。
華琳さんは楽しそうに笑っているけど、何故俺がそんな事を……。
華琳さんは俺に、自分の代わりに司馬懿の家を焼けとでも言いたいのだろうか……。
史実では司馬懿の家は焼いてないそうです
けど、逃げたら殺せって命令はあったそうです
曹操半端ねぇ