華琳さんから司馬防に会いに行けと命令されて数日、秘密裏に接触した司馬防から面会許可が降りたので、俺は河内の司馬家へと陳留から出張するべく旅立った。
ついでに張曼成と波才も連れて来ている。
何故ならこの二人には、司馬防との面会が終わり次第に洛陽へと向かって貰い、そのまま長期に渡り隠密して貰おうかと思っているからだ。
隠密能力が高い張曼成と、現場での判断能力が高い波才なら、有用な情報を集めて来てくれると思うからな。
……まぁそれに、部下からの陳情もあるし。
この二人、幼馴染みで生き別れして、それから再会したからか、まぁ所構わずイチャつく事が多い。
しかも本人達は無意識にだ。
なのにまだ付き合ってもいないという……。
もうはよくっ付けよって言う状態なので、早目のハネムーンって事で、若夫婦が洛陽に来たという設定を作って送り出す事にした。
まぁ有能な二人が抜ける穴を埋める為に、俺が暫く奔走しないといけないだろうが、まぁ直属の部下の為だ、頑張ってやろう。
まぁどれもこれも、司馬防との協力関係が結べたらの話だがな。
そう俺が考えながら馬を歩ませていると、後ろからついて来ている二人が、またもや馬上でイチャこら話し始める。
「……はぁ。……勿体無い。」
「まだ言ってるの?」
「そうは言うが、数え役満姉妹の舞台なんて滅多に見れる物じゃないんだぞ?」
「ふーん、あれの何がいいのやら。」
張曼成が先程から嘆く通り、俺達が出発した今日は、陳留で数え役満姉妹の大規模な舞台をやる事になっている。
まぁ俺はどうでもいいからアレだが、張曼成は数え役満姉妹のファンなので酷くがっかりしていた。
けど同じく数え役満姉妹のファンの地理や沙和が、張角等に積極的に接して、プロデューサー紛いな事をしていたので、ちょっとは気になるかな?
「寧ろ私は、アレに参加しようとしていた自分に戦々恐々としたわ。……あれが本物の張角だったなんて……。」
……まぁ波才の気持ちはわかる。
黄巾にガチで参加しようとして、アレがトップじゃなぁ……。
「おい、天和ちゃんの文句はそこまでだ。」
「何が天和ちゃんよ!顔が良いだけで頭お花畑じゃない!」
「何だと!天和ちゃんは顔だけじゃない!あの歌の上手さと笑顔に癒されるだろうが!」
「ふん、癒されない笑顔で悪かったわね。……どうせ胸でしょうが。昔っからあんたは胸が大きい女に目が行ってたからね。」
「ちちち違うわい!」
……ホントうぜぇ。
こいつら俺の事忘れてるんじゃねぇ?
そら部下から陳情来るわ。
─────
面倒臭い二人は放って置いて、俺は黙々と馬を進めながら司馬防との面会にむけて、ひたする頭の中でイメトレをしていた。
そしてそうこうしている内に河内に到着し、司馬家の門を潜って面会を果たしていた。
「お初お目にかかります。曹兗州牧が名代、廖 元倹と申します。司馬 建公様におかれましては、此度の急な面会の申し入れに対し、寛容に受け入れて頂き真に感謝致します。」
「ご丁寧にありがたく、曹兗州牧様、並びに元倹殿のお噂はかねがね……。改めてまして、私が司馬 建公と申します。此度は私も元倹殿にお会い出来て嬉しく思います。」
と、お互い挨拶を交わして先ずは世間話から入ったが、司馬防は俺が予想していたよりも礼節に厳しい感じの、古風的な人だった。
……何気に、この大陸で初めて礼節を重んじる人に会ったかもしれん。
まぁ今までの方がおかしい訳だが。
まぁそんな感じでお互い話を進め、俺はそれなりに好印象を与えたので今回の本題へと入った。
「曹兗州牧は現在の朝廷の状態に不安を感じております。」
俺がそう切り出すと、司馬防は深刻な顔をしてコクりと頷く。
「……無理もない話です。明確な名指しは省きますが、現在中央は不和の状態が続き、誰もが緊張しておりますので……。かく言う私も、少しばかり距離を置き様子を見ています。」
「賢明な判断かと……。しかし、朝廷での出来事に目を背ける訳には参りません。私共は朝廷での混乱を恐れています。……それが、再び大陸の混乱を招き、ひいては民に被害が及ぶのではないかと。」
「確かに、それは危惧すべき事です。」
良かった、俺の言に乗ってくれたか。
「はい。……ですので、私共は常に朝廷での出来事に耳を傾けたいと思っております。」
「……成る程。……それで、私に何をさせたいのですか?」
どうやら司馬防は協力してくれる気があるみたいだ。
こちらが無茶を言わない限り、もう大丈夫だろう。
そこで俺は、俺の後ろに控えていた張曼成と波才を紹介し、二人が洛陽で情報を集め、日々情報をこちらに流す予定である事を説明した。
そして司馬家には陳留までの伝達手段、リレー形式の早馬の協力を頼んだ。
勿論、洛陽の情報を司馬家にも伝えると約束して。
「……わかりました。こちらとしても朝廷の情報は欲しい所。喜んで協力させて頂きます。」
こうして俺はまず第一目標をクリアして、心の中でほっとしたのだった。
─────
その後俺は司馬防から歓待を受け、軽く酒宴を開いて貰っていた。
その席では最早堅い話題は無く、俺の書籍の話題が中心になったりして、司馬防からも色々感想を言われながら話をした。
……司馬防さんも華琳さんモデルの風刺本好きなのね。
そしてそんな話題で話をしていたら、司馬防はふと思いたった様に侍女を呼び何かを告げていた。
「元倹殿、唐突に申し訳ありませんが、私の娘達も貴方の書籍を好んでいまして、出来ればここで紹介させて頂いても構いませんか?」
「えぇ、勿論構いません。貴方の御息女達の噂はこちらの耳にも入っております。紹介して頂けるなら断る理由はありません。」
娘の良い噂が嬉しいのか、司馬防は薄く笑み浮かべて娘達を呼び寄せる。
そこで現れたのは綺麗な女子二人。
……女性ではなく、女子だ。
綺麗だが、まだ可愛いと言える様な年齢だ。
「紹介致します。こちらが長子の伯達、隣におりますのが次子の仲達です。伯達が十五、仲達が十三でして、二人の下にもまだ子がおりますが、未だ幼く、元倹殿へと紹介するのは少しばかり早いので今は二人だけを紹介させて頂きます。」
なんですと!?
まだそんな年齢なのか!
いや、そう言えば確かに司馬防もかなり若々しい見た目してるし、そういう事もあるのか。
「ご紹介に預かりました。司馬 伯達と仲達でございます。廖 元倹様にお会い出来て嬉しく思います!」
司馬朗がそう明るく言い、名前通り朗らかな笑顔で頭を下げる横で、司馬懿は表情筋を全く働かさせずに頭だけをペコリと下げるだけだった。
……せめて何か喋って欲しい。
え、俺もしかして嫌われてる?
「あ、あぁ、廖 元倹です。よろしくお願いします。」
俺が司馬懿の態度に戸惑いを感じていると、司馬防さんから司馬懿に叱責が飛ぶ。
「仲達、貴方いい加減その性格を治しなさい。元倹殿に対して失礼ですよ。」
性格?
「あ、いえ、私は気にしてませんが___」
「ふふ、無理ですよ母上。
えっ、コ、コミュ障?
司馬懿は司馬朗の言葉に顔を真っ赤にさせてコクコクと頷いている。
……マジかよ。
司馬懿コミュ障かよ。
大陸始まり過ぎだろ。
俺は唖然として、三人、いや二人と会話をした。
……司馬懿は殆ど黙って聞くだけか、たまに紙にサラサラと書いて意思を示すくらいだった。
……まぁ一応、第二目標である司馬家での勧誘は成功した。
……当然司馬朗のみだが。
そして陳留に帰ったら、華琳さんに、司馬懿いないの?みたいな目で見られた。
いやだってコミュ障をどう勧誘するのだ。
湖美さんはコミュ障です
有名なマンガからリスペクトさせて頂きました(笑)
今回の話は三国志で廖化がやらかした、司馬懿を逃がす話を恋姫風に書きたかったからやらせて頂きました
ですのでこの作品に司馬懿が出て来る予定はありません(笑)