言い訳をさせていただきますとサボっていたわけではないです。ちまちま書いてました。書いては消してを繰り返してました。
それと前回戴いた感想を見直して、こだわりを持って小説を書いているにしても返信としてこれは駄目なんじゃないか?と考え、前回の話が面白くないからこう言う感想が来たんじゃないか?と思い、プロットを見直して書き直しました。
話の流れ自体はあまり変わりません。
幼獣が見る夢は
その獣は世界が正しく進むことが可笑しいようにただ笑っていた。
何の役割も持たず、かといって何も求めず、ただ始めから
ある者は問うた。
『その生き方は生き辛くはないか?』
と。
いいや? と獣は嗤う。
ある者は問うた。
『その生き方は楽しいのか?』
と。
知るか、と獣は嗤う。
獣に恩を受けたその者たちは報いとして、世界を与えようとした。
人が美しいと思えるものを、美を嗤う獣に見せてやりたかったのだ。
獣は、大口を開けて嗤う。
『これが世界!! つまらん、つまらん、何ともつまらん! 綺麗すぎる整然すぎる端正すぎる純潔すぎる佳麗すぎる。テメェらはこんな地獄が美しいのかっ!? 混在から産み落ちたこのオレを人にしたかったのか!? これがテメェらのた報いか?』
口の端を限界まで引き攣らせて、焦点の合わない瞳孔を震わせて、もはや声が出ないほど涸れた喉を痙攣させ、獣は嗤う。
『……ああ。……こんな世界を知るぐらいなら、獣のままでいたかったぜ……』
それが獣の最後。
意味も落ちも無いつまらないお話―――。
◆
目覚めは最悪なものだった。
あの夢の所為かわからないが、……いや確実にあの夢の所為。
なんか知らん中国人が出てきた上にやたらとテンションが高い斜めに突っ切る系中二病患者の心の叫びとか……。
酷い……というか、訳の分からない夢だった。
きっと契約した誰かの記憶を夢として見たのだろうけど、何なのだろう?
あの光景はそのサーヴァントが見たもの……? 残念ながらそんなサーヴァントは心当たりが無い。
……まぁ、今考えても栓無き事だ。それよりも張り付く布団をいったん剥がしてしまいたい。それに夢見が悪かったから喉も渇いたし水分も摂りたい。
時計を見るとまだ深夜の時間帯だった。皆も寝てるだろうけどカルデアは個室だし、明かりを付けるぐらいなら迷惑はかからない。
暗闇を立ち上がる。手探りで電灯のスイッチまで辿り着く。
蛍光灯に電気が流れてマイルームを照らす。イベントがない限り変わり映えのないいつも通りのマイルーム……。
「…………(すこー)」
…………無視したわけじゃない。これは本当に気づかなかった。ベッドの足元側から黒い半身が出ているなんて。
下半身はお尻を床に付けたまま前屈をするように足をベッドの下に突っ込んでいて、上半身はベッド上に腕を組んでうつ伏せの状態で寝ている。マスクをしたままでうつ伏せして邪魔じゃないのだろうか?
彼のことは知っている。カルデアで召喚されたサーヴァント、真名は『カスパー・ハウザー』。ドイツの田舎町に現れた謎の怪人。
……目下、秋のカルデア困った子トップ5に入っちゃうサーヴァントなのだ。
サーヴァントには気難しい
彼はサーヴァントを見境なく襲う。
実力差のある英雄だろうが比較的温厚で友好的な偉人だろうが、それこそ不敬即殺な太陽王や邂逅即
まぁとにかく召喚された当初からサーヴァント達にケンカを売りまくり、そのたびに返り討ちに遭ったり周囲からの仲裁が入って抑え込まれたりしているから今の所大事にはなっていないのが幸いか。
最近は何もない場所をジッと見ていて、何を思ったのかそこへ攻撃を繰り出して壁や家具を破壊してはスタッフさんに注意される姿を見る。逆ギレしたカスパーがスタッフさんを殴り殺すんじゃないかとハラハラして見ていたけど、意外な事に素直に言うことを聞いていた。が、いつ彼が『つい』で手を出してしまうのかわからないし、警戒しておいた方が良いだろう。
……しかし、ぐっすりと熟睡しているが何の用だろう?
元々短い生涯を送ったこととバーサーカーのクラスで召喚されたこともあってか、幼稚な行動が目立つ。だからこういった突拍子の無い行動は多いが、それは彼なりの理念に基づいた行動だ。こうして夜中に訪ねてきた事も何か理由が……あ、いや無いかも。こんな夜更けだし。当の本人寝ちゃってるし。
すっかり目が覚めてしまったし、話を聞いてみることにしようか。そう考えてカスパーの頭に手を伸ばした。
そう乱暴には起こさない。
虫を捕まえるようにそーっと。
――あのマスクを外して、そこに隠された
ガスマスクに手が触れる――ということは無く、伸ばされた手は彼の後頭部から伸びた三つ編みに阻止された。
もさっとした感触にちょっと心地よさを感じてると、ベッドに突っ伏して寝ていたカスパーがもぞりと動き、顔を上げた。
眼を引いたのはやはり象のようなガスマスクだ。その下の素顔は一切空気に触れていないが、三つ編みされた銀髪が背に掛けて流されている。
「…………」
そんなホラーフェイスでジッと見上げてくるのは若干気圧されるのだが……。
とりあえず部屋から出てってくれまいか? 適当に時間を潰したら寝るつもりだし、こんな時間にここに居ると『マイルームの寝床に勝手に潜り込んでくる』トリオに何て言われるかわからないよ?
しかしそんな忠告を聞いたのか聞いてないのか、カスパーは首を左右に揺らめかせながらずっとこちらを見上げていた。
お互いに見つめ合っていると、カスパーが両手をこちらに向けてきた。
手を引いてほしいのだろうか? 正直に言えば体格的に難しいんだけど。キミ普段猫背だけど背を伸ばしたら160越えてるから。
それでもなおカスパーは立たせるが良いぞ? 良いぞ? と言わんばかりに両手を差し出してくるのであった。
――そのマスクを!
――剥ぎ取ってくれよう!
手を差し伸べる……フリをして頭に手を伸ばす。
ガッカガッガッ!! とガスマスクを巡る攻防が繰り広げられ、互いの手が絡み合って膠着状態に。押しても引いても動かない、カスパーは尋常じゃない力を込めている。そこまでして顔を見せたくないのか……!
カスパーが強引に手を振り払い、その手を床に付け、ベッドに入れた脚を引き出した。そして新体操のように床に付いた腕の力だけで体を持ち上げて逆立ちするように立ち上がった。
その顔から下も露出が少ない格好だ。首元まで閉じた白シャツに黒いコートを羽織り、半ズボンから覗く足もタイツで覆われ軽騎兵の軍靴の中に入れている。ガスマスクを除けば19世紀ヨーロッパの一定層の子供が着るような服装だった。
立ち上がった猫背のガスマスク少年はう゛~、とマスク越しのくぐもった声で唸る。マスクを取られそうになって怒った様子を見せているが、本気で怒ってるわけじゃない。まぁこれは遊びのようなものだ。
とりあえず彼を立ち上がらせることに成功したわけで、そのままマイルームから追い出そう――として、またカスパーに手を引かれた。
……まぁ、こんな深夜帯にマイルームに訪れたんだから何かしらの用事があったんだろうでもそれは明日にしてほしいこんな夜中に外へ出回る元気はないんだ……!!
「――、――、」
くぐもった声調で難解な言語を吐き、力いっぱいに手を引くカスパー。人間と英霊の力の差を気にしないものだから掴まれた部分すごく痛い。そして気づいた時にはあっという間にマイルームから連れ出されていた。
何処へ連れていくのか? そう問いかける前に口から出たのは悲鳴だった。
――まずは服を着替えさせて!! ←
◆
こちらの言いたいことがわかったらしいカスパーはクローゼットから適当な礼装を引っ張り出してそのまま手を引いてマイルームを出た。状況何も変わってない。もう目的地に着いたら着替えよう、と諦めた。
カスパーが解放したのは管制室だった。
彼は手を離すやいなや、すぐに管制室から出て行った。
結局話を聞けずじまいで、仕方ないし礼装に着替えることにした。
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よりによって機能性に優れてるけどセンス的に着たくない礼装ナンバー1の『カルデア式戦闘服』と選ぶとか、あいつの考えてることがさっぱりわからん。まぁ『ガンド』が使えるから良いとしよう。
戦闘服に着替えてからしばらくすると、耐衝撃仕様の自動ドアが開いて、まぁ予想通りの人物が入ってきた。
「おや、いつの間に来たんだい? しかもその礼装を着てるとは……何処かにカチコミかい?」
コーヒーカップを片手にダ・ヴィンチちゃんは朗らかに笑う。
本気も何も、何が何だかわからないうちに連れて来られてこの礼装も多分意図しないで選ばれたものなんだけどね。
「……その様子じゃ説明なんてされずに連れて来られたようだね。全く、バーサーカーという奴は……」
と、デスクチェアに座ってコーヒーを啜り一服する。
「まぁ、君が予想する通り、彼は特異点新宿へ行きたがってる。詳細は私も分からないが、何か臭いにおいでも感じ取ったんじゃないかい? 鼻は良いからね、彼」
とダ・ヴィンチちゃんの説明を受けてカスパーの目的について考える。
カスパーのスキルーー『カスパー・ハウザー
何処へ行くかわからないけどカスパーが何かを感じ取った。その上で自ら行こうとしてるわけだし、何か仕出かさないよう監視も含めて付き添ってやるのがマスターとしての義務だろう。その辺りは今までの経験で心得てるつもりだ。
……それはそうと、
――所でこの箱はなんです? ←
でん! と大きめの空段ボール箱がそこに鎮座していた。
段ボールだ。まごうことなき段ボールだ。中に眼帯のおじさんは居ない。
「それは私にもわからない。彼が来た時から抱えてたんだ。本当に何をするつもりなんだろうね?」
「引っ越しの準備でもするのかしら? こういう時はお蕎麦を送るのよね?」
「それは自分が越してきた時の近所へ挨拶する時の日本の習慣だよ。私のとこではそういった風習は無いが、送るのならポルト酒がいいんじゃないかい?」
子供にお酒を送るのはどうだろうか? あと空箱一つなんて身軽すぎる引っ越しは無いと思うんだ。
――世界の引っ越し事情はここまで。 ←
――何でここに居るの若奥様。
「まぁまぁウフフ、若奥様だなんて。あなたもなかなかお上手ね」
「……若奥様と呼ぶには色々と無理があるんじゃないかい? あ、下方修正の意味でね」
「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフっ」
ダ・ヴィンチちゃんと一緒に入って来たのか、いつの間にやら背後にいらっしゃった白い法衣の若マダム、アイリスフィール・フォン・アインツベルンはなんだか怪盗みたいに笑った。
「それにしても災難だったわね。こんな時間にレイシフトだなんて」
「全くだ。サーヴァントを優先する君の方針には賛同するが、レイシフトも
ダ・ヴィンチちゃんは苦々しい表情で呟いた。彼女(彼?)の言い分も最もなんだけど、後回しにすると癇癪起こしそうなんだよね、彼。
でも眠くてフラフラだし、こんな状態でレイシフトするのは危ないってことでマイルームに戻れないだろうか……。
「そこで、だ」
ビッ、と人差し指を立てる。
「今回のレイシフトは彼女の同行を条件に許可しようと思う」
ダ・ヴィンチちゃんが目を向けた先にはアイリが居た。そうなの? と聞くとアイリは微笑みながら頷いた。
「アインツベルン独自の錬金術での戦闘支援や現地での健康調整が可能。戦闘、野営活動のサポートに関して彼女は有能だ。それにアイリスフィール本人たっての希望でもある」
それはちょっと意外だった。
カスパーはサーヴァントを寄せ付けないし、他のサーヴァント達も彼を嫌厭しているから、彼に関わりを持つサーヴァントを知らない。もちろんアイリとカスパーに繋がりがあった、ということも聞いたことがない。そんなアイリがカスパーの気まぐれに付き合うなんてどういうことだろうか?
疑問符を浮かべているとこちらの様子を察したアイリが口を開く。
「……あのサーヴァントが召喚された時から私の霊基が訴えかけてくるの。『あれは違う』って……」
とアイリは粛々と呟く。
――違うって、 ←
――何が?
「それが何を示しているのか、私にはわからない。けどあのサーヴァントとすれ違うたびに。遠目で見るたびに。その声が強くなっていく。まるで怨念のようにね……。今回はいい機会だと思ったわ。この違和感……カスパー・ハウザーという英霊の真実に近づくことができる。だから良いわよね、マスター? まかせて、あなたのこともしっかりと守って見せるわ」
力強いアイリの宣言に一先ずは安心した。
一先ずは、というのも、すぐに別の問題が頭に浮かんだからだ。
そう。例の英霊嫌い。それを解決しないとレイシフトした先で衝突しようものなら探索どころではないのだ。
「心配しないで。その事についてはちゃんと対策も考えてあるわ。そうよねミス・レオナルド」
「そうとも! 実はもうそのための調整は済んでいるのさ。さて、アイリスフィールの変わった所、キミにはわかるかな?」
わかるかな? と言われましても。改めてアイリをじっくり観察する。
天の衣と呼ばれる白い
何処が違うのか。いっそ第三の目を開眼させてみようと躍起になっていると、ヴゥン、という機械音が聞こえた。そちらに目を向けると見慣れたガスマスクの少年が立っていた。
さっき別れた時と変わらず……いや、コートのポケット部分がわずかに膨れている。何かを持ってきたのだろうか?
ふと、カスパーの反応がおかしいことに気づいた。
マスク越しではあるが彼の視線が固定されている。
自分と視線が合っていないから恐らく違う。さらに後ろ。万能のサーヴァントでもなく、聖杯の貴婦人の方を凝視していた。
しばしカスパーは呆然としていたが、不意にアイリへ向かって歩を進めた。カクン、カクン、とブリキ人形のような歩き方。彼は生前から膝関節が固く歩行も困難で、敏捷もEマイナスという鈍足を誇っている。
マズいと思い声をかけようとするとダ・ヴィンチちゃんに手で制される。
「(スンスン)」
ガスマスクの先がアイリの体に触れそうになるぐらい近づき、臭いを嗅ぐような仕草をしたり、ペタペタとアイリの顔に触ったり、困ったように微笑む彼女の周りを歩き回ったり。アイリの何かを確認しようとしたカスパーは、やがて首をひねり釈然としない様子で彼女から離れていった……?
「ふむふむ。どうやら成功したようだね」
「そうね。……こうなるとわかってはいても正直ひやひやしたわ」
ダ・ヴィンチちゃんは腕を組んで誇らしく言った。
これが彼女たちが言っていた対策……? カスパーに対して何らかの魔術をかけてアイリを誤認させているんだろうか。
「しかしいただけないなカスパー。レディをそんなにジロジロ見るものじゃあない。まぁ、キミも思春期を終える前に死んだ身だ。女性に興味があるというのなら、この絶世の美女と名高いこの私を(バリィッ!)あいたぁ!?」
あ、引っ掻かれた。ダ・ヴィンチちゃんには適用されてないみたい。
「f7h、be……!」
くぐもった声が管制室に響く。『早く行こう』と言うように急かすカスパーの声。
「いたた……ともかくさっさと彼の気まぐれを終わらせて戻ってきたまえ。そしてアイリスフィール。くれぐれも無茶をさせないよう見張ってくれよ?」
「ええ。任せて」
――無茶はしてないつもりなんだけど……。 ←
「「はいダウト」」
――なんと!? ←
◆
新宿へレイシフトしたマスター達を見送り、レオナルド・ダ・ヴィンチ以外誰も居なくなった管制室。
聞こえてくる音は精密機器の駆動音のみ。そんな静寂の中で、万能の天才と呼ばれた彼女は1人訝し気にモニターを睨んでいた。
「――カスパー・ハウザー」
現在、マスターと共にレイシフトしたバーサーカー。
それが彼女を悩ませる原因。
「彼は本来カルデアに召喚されるような英霊じゃない。いや、
英霊は様々だ。
王。武人。文学人。科学者。殺人鬼。暗殺者。ならず者。聖人。復讐者。魔性。神性。英雄のかつての姿や異なる次元の宇宙人なんてのも居る。そして幻想から生まれ落ちた者も。
星の数ほど居る英霊。その数だけ様々な逸話があり、様々な存在が英霊となる。
そんな彼らには一つの共通点がある。
それは
それはヒトから英霊へ至る条件。
例えば、作家サーヴァント達。
彼らが出版した著書の多くは名作と評された。彼らの本は世界中の読者を魅了し、作品への信仰は作者へ向けられた。
例えば、病原菌のサーヴァント。
存在するだけで死をもたらす
例えば、荊軻。
彼女の暗殺は失敗に終わった。しかし彼女はその事を悔やんではいない。
何故ならば
偉業を成したからこそ
人間から英霊に昇華するのだ。
だが、
「カスパー・ハウザーは居ただけだ。英霊へ至る霊基数値がまるで足りていない。良くて幻霊止まりにすぎないはず」
だからこそありえない。
幻霊であるカスパーは実体と宝具を持ち召喚された。
疑似サーヴァントや新宿のような特例ではなく、カスパー・ハウザーとしての霊基をもって。
カスパー・ハウザーという人物の生涯は謎で包まれていた。その生き方を表すように、 ダ・ヴィンチの叡智を持ってしても彼の実体を掴むことはできなかった。
「解明不可能だなんて、万能の名が霞んでしまうが……。また厄介なサーヴァントを引き当てたものだ。我らがマスターは」
そう自嘲するレオナルド・ダ・ヴィンチ。
考えれば考えるほど疑問が湧いて出るが、今はこの事だけはわかっている。
「彼はバーサーカーだぞ? 何も起きないわけがないだろう」
彼女の夜はこれからが本番なのであった。
次回も早いうちに……投稿したいなぁ……。