とある龍の悪夢
「マスタ~♪」
廊下の角に居た自分に声をかけるサーヴァントは多い。
が、室内でソニックブームを響かせる人物は一人しか心当たりがない。その爆音に眩暈を起こしそうになりながらそちらに顔を向ける。
自分の目の前で空中急制動をした彼女は白銀の長髪を暴風に吹かせ、爽快な笑みを見せつけた。
「探したよマスター。今日の午後、君は非番のはずでしょう? 朝の定例会議の後に『シミュレーターでテイクオフする』約束をする予定だったのに、私としたことがこんな時間まで寝過ごすなんてね。それでどうだい? この後時間ある?」
そうまくしたてる青色の私服姿の『メリュジーヌ』にstayと両掌を向ける。
彼女の申し出を叶えたいものの、残念なことに今日は予定を入れてしまっていた。
「あ、そうなの? じゃあ仕方ないかな……。ちなみに相手は誰? 交渉次第でマスターの用事も一つ解消させられるかもしれない」
この最強種は……。
なんだか妖精国で出会った時よりフレンドリーというか、距離間が激近になったメリュジーヌはブレーキを無くしたように接してくる。何なら邪魔者を蹴散らそうとするからちょっと困りものだ。
そんな彼女だけども、彼女に口出しできる人物もこのカルデアに召喚されている。
「私だ」
「ん? バーゲスト」
廊下の角から現れた鎧を身にまとった長身金髪の女性、『妖精騎士ガウェイン』こと『バーゲスト』はその一人に入っている。メリュジーヌを視界に入れたバーゲストはやや煙たそうな顔をした。
「朝から見かけないと思えば全く呆れたものだ。加えて、多忙なマスターの仕事を己の娯楽に付き合わせるために横入りするとは、妖精國最強の生物の名が泣いてしまうぞ」
「別にいいでしょ、今日非番だったし~。異分帯攻略のため毎日頑張ってるマスターを甘やかしたかったし」
悪びれる様子もないメリュジーヌ。もはや言葉もないバーゲスト。
「それよりバーゲストこそどうなんだい? こんな殺風景な場所でマスターを待たせるなんて、そんな振る舞いは仮にも貴族令嬢らしくないんじゃない?」
メリュジーヌの煽りにバーゲストはわずかに牙を見せたものの、すぐにため息に変えた。
「……あなたには関係のないこと、と言っておきます。それとここほど目立つ場所は他にないだろう」
「……目立つの? ここが? どういうこと?」
そんな風に首をかしげるメリュジーヌを見て、彼女はこの場所を知らないことを悟った。そういえば彼女からは
――だって ←
――メムノン像前で待ち合わせだし。 ←
「……うん?」
メリュジーヌの首の角度がさらに広がる。
そして、
『待ち人は来たようだなマスターよ』
ヌ゛ッと、廊下の曲がり角から顔を出した
――その顔は岩石で造られていた。
本来の全長は15.6m。カルデアに合わせてサイズダウンさせたが、それでも顔の大きさだけで1m前後あり、背丈のあるバーゲストと並んでも頭一つ飛びぬけた岩石の
『メムノンの巨像』。
それが霊基グラフデータに刻まれた彼の真名だ。
「……カルデアに召喚されて様々な英霊にお会いしましたが、汎人類史にはこのような方もいらっしゃるのですね」
バーゲストが漏らした小声に、インドの象の巨像と彫像そのものの彼女たちが頭に浮かんだ。
廊下の角から顔を出すだけでは納まりが悪かったのか、メムノーンはガタゴトと固定された足を動かして寄ってくる。ああ、何か踏んずけたみたいで足元からゴリゴリ音してる……。
それにしても、
――また霊基いじくった? ←
『然り。カルデアには幼子の英霊も居るのでな、召喚直後の姿では泣かれる』
「その、霊基を変えることに異論を申し上げるわけではありませんが、子供に好かれたいのであれば少々口調が固いのではないでしょうか」
『……余は怖くない石像だ
――う~ん、60点! ←
「コメントは差し控えさせていただきます」
確かに真夜中に廊下で鉢合わせたときはかなりギョッとしたからね。
メムノーンの現在の姿はかなりデフォルメされている。
先ほど頭の大きさだけでも1mといったが、胴体も同じぐらいの大きさだ。つまり二頭身。石像であるためか色は付いてないものの、石像の顔は何処かコミカルでリヨッとしていた。……たぶん霊基を変えるときガラテアも絡んだのかも。それと霊基再臨した時に
……ところで、何故バーゲストの待ち合わせ場所にメムノンの巨像が居るのか?
違う。
メムノーンは召喚されて以降、基本的に何かしらのデスクワークをしているらしく、最初期は食堂や管制室で作業している姿がよく見られた。
が、彼はデカかった。圧がすごかった。
居るだけで周囲を圧迫する雰囲気を発する彼にカルデア中が何とも言えない顔をし、やがて誰に言われるまでもなく、幅広く開放感のある廊下で一人作業をするようになった。王様系サーヴァントなのに。
そうしてカルデアの廊下の片隅で動かずにデスクワークをするメムノーンは、石像モードの姿も有り余ってサーヴァントや職員の待合場所として親しまれるようになったのであった。
当のメムノーンは流石に頭にきてるかと思ったが、
『「エチオピア王メムノーン」が「メムノンの巨像」として召喚されたのには理由がある。再臨ごとに全盛期の姿に変えるサーヴァントが居るのは知っているだろう。余の場合は二回、「トロイア戦争でアキレウスと戦った時」と、「死後に母エーオースによって不死性を与えられ石像に変えられた時」だ。石像となった後もナイルの流れを見たこともはっきりと記憶している。地平線からヘリオスが昇るまでに母へ語り掛けたことも覚えている。大勢の人々が余の歌声を聞きに来たことも覚えている。――要するにだ、観光地になるのには慣れた』
……とのことで、むしろ待合場所に利用してるサーヴァントらと気さくに話しかけてる姿を見かけたことがあった。
ちなみにメムノーンはその日の気分で待合場所を移しており、管制室の上の階の廊下に居るときは『うえメムノン』、今日みたく管制室のある廊下の角に居るときは『かどメムノン』と呼ばれている。
「――マスター、立ち話もよいですが、そろそろ行きましょうか」
バーゲストに声をかけられて意識は現実に戻った。
井戸端会議に夢中だったけど、そういえばバーゲストとの約束があったのだ。すっかり忘れていた。
そろそろ行こうかとしてふと、思いついたことをバーゲストに告げる。
――メリュジーヌも誘っていい? ←
「……マスターがそう言うなら」
バーゲストの了承を得て、さっきから会話に加わってこなかった彼女へ向いた。メリュジーヌも暇を持て余しているなら良いストレス解消になる――そういう思惑は彼女の顔を見た途端に消えた。
「……ごめんマスター。やっぱり今日はやめとくよ」
いつもの揚々とした態度はどこへやら、覇気のない声を出す彼女に思わず目を見張る。
あまりのギャップに何事かを問おうとするも、
「じゃ、また今度ね!」
「あ、メリュジーヌ待ちなさ――全くもう」
先ほどと同じく(ソニックブームは出していないものの)高速軌道でメリュジーヌは去っていった。
妖精國での付き合いが長いバーゲストは呆れてため息を吐いて、
「マスター、それではわたくしたちも――」
『妖精騎士さん、もう少し余とお話しよう
「……何でしょうメムノーン王(そのままで通すのか。提案した側ですし何とも言えない……)」
メムノーンが気にしてるのはやっぱりメリュジーヌのことだろうか。
メリュジーヌの態度に気を悪くした、と思えないのがメムノーンというサーヴァントだ。おおらか過ぎて彼に因縁があるサーヴァントたちが扱いに困ると相談してくるほどだし。
あとその裏声はちょっとやめてもらって。
「あなたの懸念は大よそ想像つきますが、メリュジーヌのことですね?」
『そうだよ。前から気になってたけど、余を避けてるみたいだからネ(裏声)』
確かにメリュジーヌとメムノーンが対面したのは今日が初めてかもしれない。
当然ながら二人には生前の縁がないし、カルデアに召喚されてからも関わる機会も全くなかった。
それでもあの反応はちょっと過剰ではないだろうかとは思う。
メムノーンの問いにバーゲストはしばし瞳を閉じた。
「――メムノーン王、貴方がカルデアに召喚されている以上、彼女があのようになるのは当然というべきでしょう。貴方に非はありませんが……彼女自身の折り合いがつくまで、彼女との距離を置いていただけませんでしょうか」
『そこまで言うのなら構わないけれど。余もカルデアに召喚されたから彼女の力になってあげたいと思うんだ(裏声)』
石像ゆえに表情の変わらないメムノーンに対し、バーゲストはいささか言い辛そうに
「貴方の素顔は彼女の心にさざ波を立てるような特別なものです。……同僚として、無礼を承知で申し上げます。貴方はメリュジーヌと相見えることをお控えいただけますと幸いです」
懇願。
バーゲストがメリュジーヌに対して壁を作っているのは何となく感じていた。だからこそメリュジーヌに気を遣うなんて場面に少し驚いた。
付き合いが長く、メリュジーヌの琴線を理解しているからこそ、バーゲストはメムノーンにそんな言葉を口にしたのだ。
一時、静寂が訪れる。
デフォルメされた石像から放たれる威圧のような気もするし、長身の女騎士の妥協できないという思慮の念かもしれないし、この場に居た自身の気まずさからくるものかもしれなかったが。
まさかここで一触即発か? そう思ったが、石像からの圧迫感が消える。
『いきなり空気を悪くしちゃってゴメンネ。この顔はママから貰ったものだからつい魔力チャージしちゃいそうになったヨ(裏声)」
「(……ママ!?)いえ、こちらこそ出過ぎた真似を致しました。
二人の間にあった重圧は消え、それはメリュジーヌが居ない中で交わされたこの話はここで終わりだということが感じ取れた。
そうしたものの、メムノーン自身あまり納得できてないようだ。メムノーンにとってデリケートな話だし、気になるのは仕方がないだろう。
なので、
――メムノーン。 ←
『?』
――ちょっと顔を見せてくれない? ←
そうお願いすると、彼は一考し、カッ! と霊基を再臨させた。
光の中から再び現れた彼は、
まず目につく金と黒の縞模様の玉座には獅子と蛇の装飾。実はこの玉座は彼の鍛冶神ヘパイストスの特注品らしく、戦闘時には足元が可変し反重力で移動することが可能なのだ。流石はギリシャ神話出身なことはある。
赤黒い鎧もまたヘパイストスの一級品だという。バーゲストの鎧姿とは一味違った風で、メムノーンの体躯を覆い隠すような、メムノーンをより大きく見せるような甲冑であり言うなればパワードスーツのようなもの。立ち上がったらきっとバーゲストを超えるのだろうけど、起立という行為を阻害するように手首足首に半透明な魔術的な枷が嵌められていた。
それはまるで罪人のようで――いや、今は関係ないことか。
最後にメムノーンの顔が映る。
美丈夫、と言ったが、中性的でむしろ女性と言われた方が正しいかもしれない。
透き通るような錦紗の髪は鎧から溢れるように伸ばしきり、尖り耳に蛇と鷲のイヤリングをつけていた。
その装いは英雄らしい精悍なものではあるけど、顔立ちが人間離れした清楚とした風情でどこかまとまりの無さを感じてしまう。
問題は、その顔が異分帯の
「問おう妖精騎士バーゲスト」
口調はバーゲストのアドバイス前に戻った、威厳と思慮深さに満ちた口調。
見た目一つでここまで変わるのか。
「
そう尋ねられたバーゲストは頷いた。
「似通っているのです、貴方は。――彼女がかつて仕えていた主人に」
石像のサーヴァント
マテリアル
真名:メムノーン〔メムノンの巨像〕
身長:164cm~約18m / 体重:49kg~約36トン+α
出典:トロイア戦争、史実
地域:ギリシャ、エチオピア、エジプト
属性:秩序・悪 カテゴリ:天
性別:男性
本体は石像の中に居る。石像内にはパソコンなどの電子機器が完備されている。
ステータス:筋力B 耐久A 敏捷B++ 魔力A+ 幸運E 宝具B+
保有スキル
観光資源A:黄金律の亜種スキル。自身が観光地の目玉となり、周辺の経済を潤わせる。
ゲーム的には「自身が戦闘に参加したときドロップで得られるQPの量を0.5%増やす&毎ターンスター2個獲得状態を付与」というクラススキル。
神性C:神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、物理的な神霊との混血である事を示す。暁の女神エーオースと人間ティートーノスとの間の子。
対魔力B:ライダーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗C:ライダーのクラススキル。乗り物を乗りこなす能力。メムノーンは騎乗に関する逸話は無いものの、メムノンの巨像は玉座に座っていることからライダーのクラスに当てはめられたと考えられる。
キャラクター詳細
トロイア戦争において、トロイアに援軍として来た暁の女神エーオースの子にしてエチオピアの王。トロイアにとって対アキレウス最終防衛線。
アキレウスに次ぐ俊足であったアンティロコスを一騎打ちの末打ち破り、続いて怒り狂ったアキレウスと互角の戦いをした。
共に女神の血を引く2人の戦いは天上の神々さえも注目させる激しいものとなり、二柱の女神の懇願を聞いたゼウスによってアキレウスとメムノーンとの二人の運命を天秤にかけ――メムノーンの運命の皿は沈み、アキレウスの勝利が決まる。
メムノーンのデザインはメムノーンのウィキで見たアンフォラ型容器に描かれてるのはどっちがメムノーン!? とりあえず山勘で選んでデザインしました。