追手を撒きながら進むと出口らしい扉が見えた。
ここに来るまで警備兵はどんどん増えていき、扉を見張ってる兵は最初とは比べ物にならないほど多かった。まるで扉へは行かせないように。
ということは、この夢はあの扉がゴールではないか?
「とはいえ、この数は……!」
……室内の広さと人数がアンバランス過ぎて気持ち悪い事になってる。がちゃがちゃでムシムシなので早く出たいものだ。
「――っ」
「? どうしましたギネヴィアさん?」
「いえ何も……」
心配なさらず、とギネヴィアは言うが……。
――コンディションに問題がある? ←
「私の体には傷一つありませんわよ。あったとしても『医術』スキルであっという間」
「……次の戦闘は長丁場になると思います。万が一の事があれば私たちはこの夢から出れない可能性がありますので、何かあればおっしゃってください」
「コンディションには何もありませんわ。あるとしたらメンタルの方です」
ふっと目を閉じて深呼吸するギネヴィア。
そんな彼女にかけてあげる言葉は――
――自分たちがフォローする! ←
――ギネヴィア出来る子!
「マスター……」
再度、ギネヴィアは深く空気を吸う。
「その言葉を信じますわよ? 今からどのような事があっても……あなた達の力を借りますので」
目を開け自分の瞳を見つめ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。……意を決したようだ。
警備兵の前へ出て二人は交戦の態勢を取った。
守りは強固。
こちらは英霊二人であってもかなり手間取るだろう。だからこそ、マスターがしっかり采配せねば。
「マシュ」
「はい。戦闘開――」
直後に扉の方から爆風が襲う。
思わず顔を手で覆い、吹き荒れる風を耐え凌ぐ。
「我が騎士たちよ、我らを守りたまえ!」
「マスター!」
マシュの声がして、恐る恐る顔を上げると盾を構えたマシュと10の武器で柵を作ったギネヴィアの姿があった。
「助かりましたギネヴィアさん」
「――……」
返事は無い。ギネヴィアはただ爆心地を見据えている。
外からの衝撃で破壊され粉々になった破片が玄関ホールに散らばり、
覆い尽くしていた警備兵は今の一撃で全滅、
その先に居るのはたった一人の騎士、
「そう、今回はランスロットではなく貴女が来るのですね。アーサー」
……何でアルトリアがここに居る!?
それにあれは絶対に助けに来た様子じゃない!
「うふっ。ここで貴女が、それもロンゴミニアドを持って参上とは……何たる皮肉ですの?」
乾いた、自らを嘲ける笑いをするギネヴィア。
「マスター。ご存じでしょうが、今のあの方は敵対すると決めた時のお姿。私たちを全力で殺しに来ますわ。それと恐らくですが、何処かで非情さを兼ね備えた理想の王の部分が混ざってるかもしれませんわ」
「でも、何で……!?」
「簡単なことです。私が未来のブリテンで破滅を齎すから。今ここで不都合を消してしまった方が合理的だから、ですわ」
マシュが息を飲む。その意味は自分にもわかった。
ギネヴィアが手を振り、武器の体形を変える。その剣先はアルトリアの方へ。
「けれども、この方々は貴女との確執に関係はありません! 裏切りの烙印を押されようとも通させていただきます!」
◆
アルトリアの行動は迅速だった。
蹄の音が鳴ったと思えばすでにギネヴィアは槍の間合いに入れられていて、
「っ!」
アルトリアが槍を振るうのと同時にギネヴィアは2本の剣を、一方は防御へ、もう一方はアルトリアへ向ける。
『直感』で予期していたアルトリアは迫る剣を見切って、馬上で体を傾けて避けた。しかし彼女の槍は未だにギネヴィアに向けられたまま。
『直感』に近い感覚で思った。これは防ぎきれない。他の武器を防御に向かわせても、攻撃に向かわせてもあの槍はギネヴィアの体に届いてしまう、と。
「『奮い立つ決意の盾』っ!」
だから咄嗟にマシュに指示を出した。
槍の標的はマシュに切り替えられ、堅牢な盾とぶつかり合う。衝撃がここまで伝わって倒れてしまいそうだ。
瞬時にギネヴィアが武器に指示を出した。
アルトリアを包囲し独自でアルトリアに斬りかかる。
すぐにギネヴィアとマシュは自分を抱えて離脱する。
「……あの様子だと長くは持ちませんね」
「持ってあと20秒ほどですわね」
全方向からの攻撃もあのアルトリアからしたら脅威にならないものらしい。武器を馬の踏み鳴らしや槍の一閃で叩き潰してしまっている。
状況は変わらない。むしろギネヴィアの武器は壊れたらしばらく使用できなくなるものだから、こちらの攻撃手段は大幅に削られることになる。ジリ貧だ。
「……マスター、宝具を使います。使用の許可を」
歯噛みして状況を整理していると、ギネヴィアがそう言ってきた。
「非常に心苦しく思いますが、『彼』の実力ならあの方に匹敵するでしょう。……ただ単純に呼び出しても無駄かと、一瞬で一太刀入れなければ勝てる見込みはありませんわ」
ギネヴィアは基本戦わないサーヴァントだ。
武器を持たない、魔術は使えない、指揮の才もない、と三拍子が揃った姫系サーヴァント。
そもそもどうやって聖杯戦争で生き残るかわからないサーヴァントだが、他のサーヴァントと渡り合えるすべは存在する。
自分以外の者に『戦ってもらう事』だ。
「では私が足止めを行ないます」
ならば宝具を使うタイミングは自分が図る。
そしてギネヴィアはその間、魔力を温存し、神経を尖らせ、宝具を使う瞬間を待つ。
これがあのアルトリアを退けるフォーメーション。
作戦が決まり、すぐに行動に出た。
マシュがアルトリアに突貫する。
黒馬にダメージを与えて機動力を削ごうとした攻撃だったが、アルトリアは槍の一突きで止めてしまった。
轟音。
今回の衝撃は体格差のあるマシュのみならず馬に乗ったアルトリアも後ろへ下がらせる威力があった。
瞬間、アルトリアがスキル『魔力放出』を発動する。
元々持っていた『騎乗』と併せ、黒馬すら一つの兵器。ロケットの様な直線の突貫にマシュは危険を感じて防御のスキル『今は脆き雪花の壁』を発動し衝撃に備える。
しかし、アルトリアはマシュにとって予想外の行動をとった。
速度の乗った黒馬はアルトリアの『魔力放出』によってジグザグ走行を行ない、マシュの横を通り過ぎたのだ。
――彼女の後ろにはマスターとギネヴィアだけ。
「先輩!!」
握った手を前にだしているギネヴィアに向かってアルトリアは突き進む。
彼女はこちらの狙いに気づいていたのだろう。
そもそもアルトリアとギネヴィアは色々あったとしても伴侶。ギネヴィアの手札も考えも知っている。
「『緊急回避』!」
それはこちらも同じ。合理性に長けたアルトリアは攻撃手段を潰すために真っ先に向かうのはマシュではなく
『緊急回避』によってギネヴィアは姿勢をそのままにマシュの後ろへ
「宝具、展開します……!
事前に打ち合わせたようにマシュは宝具の光の壁を展開する。これで少しでも時間を稼げれば……!
アルトリアは取り逃がしたギネヴィアを睨み、黒馬の軌道を大きく弧を描き速度を落とさないで視線の方向へ向かい、壁にぶつかる。
さすがにスキルの効力が切れてるのか威力はそこまで無い。
だが、『魔力放出』を重ね掛け、槍による連撃を繰り出した。
削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る削る!
宝具の効力が切れるまで攻撃を止めるつもりは無い。
「くっ……!」
マシュが苦悶の声を上げる。宝具で守られても落ちないアルトリアの攻撃の破壊力は、はた目から見ても安心できるものではないと感じられる。
耐えてほしい。今すぐ魔術を使って手助けしたいが、まだ駄目だ。全てはギネヴィアの一撃に掛かってる。そのタイミングを見極め終わらせるためにここはマシュに頑張ってほしい。
だから耐えてくれ。最後の一撃のために――。
そして、時は満ちた。
アルトリアの攻撃が一時的に弱まる。どうやらまたスキルが切れたようだ。
その瞬間が来た時、ギネヴィアに合図を送った。
「――我が騎士。我が愛しの人よ」
握っていた手が離される。
白い手から零れたのは装飾の無い指輪。
「――未だ愛があるのなら、我が元へ」
指輪は地面に落下し、小石が落ちた湖面の様に吸い込まれ、
「
地面から這い出した人影は目にも止まらぬ速さでマシュを通り過ぎ、アルトリアを袈裟がけに斬りつけた。
剣の宝具を持たないギネヴィアの、
円卓最強と呼ばれる騎士は黒いオーラを纏わせてアルトリアの心臓に剣を突き立てる。
噴き出る血。直後に薄くなる彼女の存在。
終わった。体の端から魔力の粒子に還る様子をみてそう確信した。
だが、
「申し訳ありません、王よ。――貴女にまた剣を向けてしまった」
「……いいのですランスロット。『この方』は私の夢。本来は私が処理しなければならない独りよがりの幻影」
ギネヴィアと、魔剣を携えた美丈夫の表情は晴れない。
……そこにどんな感情があるのか。容易に踏み込むことは出来ない。
「……いつか、あなた達と――」
ギネヴィアが何か言う前に、アルトリアは粒子となって消えて行った――
美丈夫の騎士は座に帰り、ようやく自分たちは日の目を見ることが出来た。
「夢も終わりですわね」
「はい。……ギネヴィアさん」
「ここは私の夢の中。何か尋ねられたら胸に抑えてる気持ちを誤魔化せなさそうなので、質問は控えてくださる?」
そう言われたらマシュも自分も黙るしかない。
けどそれでいいかもしれない。
――起きたらお茶会でもしよっか。 ←
そういうとギネヴィアは口元を隠してふふっと微笑み、
「そうと決まればさっさと起きなさい。ケイに飛びきりのを淹れさせましょうか」
「それは楽しみです。私もドクターの所から高級品のクッキーを盗ってきますね」
うん。お菓子の出所はともかくとして、王宮付の執事の入れるお茶だ。絶対に美味しいに決まってる。
「マスター、マシュ。また後で会いましょう」
ギネヴィアの声が遠くなる。そう認識した瞬間に意識がぼやけて言った。
「マスター。私はあなた達を裏切りませんわ」
眼鏡のリムに触れる。
ギネヴィアが三度目の再臨をした折、実は遠視眼だったと知ったマスターがくれた物。
「セイバーのクラスで召喚してくださった恩、必要も無いのに眼鏡をくださった恩」
その時ギネヴィアは不要だからと断ったのだが、押し付けるように渡され結局掛けることになったのだ。
ちょっと恥ずかしく感じながらマスターに感想を求めると、マスターはこう言った。
――ああ、やっぱり顰めた顔よりその方が似合ってる。
そう言ってくれたのはあの方以来。
「あの時は照れ隠しつい反論しましたが、本当は嬉しかったですのよ?」
円卓の王妃
真名:ギネヴィア
身長:159cm / 体重:44kg
出典:アーサー王伝説
地域:イギリス
属性:中立・混沌
性別:女性
実は遠視眼。名実ともに眼鏡っ娘。
ステータス:筋力C 耐久A 敏捷D 魔力B+ 幸運C+ 宝具B
保有スキル:
麗しの姫君C+:近衛兵を集めるカリスマ性。このスキルのおかげで耐久が2ランクほど上がった。
医術C:教会の尼僧としての医療術。ある程度の怪我、病気などを治せる。
対魔力C:魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。セイバークラスだが彼女は魔術と関わりが無いため低い。
騎乗E:彼女自身が騎乗することは無い。
宝具:
ランク:A
種別:対人宝具。
レンジ:1~2
最大捕捉:1人
ギネヴィアが誘拐された時、ランスロットに彼女の危機を知らせた指輪。
この指輪を触媒にクラスに縛られない状態のランスロットを召喚することが出来る。
またこの状態のランスロットの剣、『無毀なる湖光』には《円卓》特攻が付いている。
ランク:C+
種別:対人宝具。
レンジ:1~10
最大捕捉:10人
アグラヴェイン。ブランデレズ。サグラムア。ドディナス。オザンナ。ラディナス。ぺルザント。イロンシード。ぺレアス、執事のケイによって構成されたギネヴィアの近衛兵。
彼らの持つ武器はそれぞれ彼女の指示が無くとも自立して行動する。ブリテン式オートマチックウェポン。
また、ギネヴィアの同意があればギネヴィアのステータスを振り分けて彼らの武器のランクを上げることが可能。
アーサー王の時代を一人の騎士との不義によって終焉を招いた少女。
円卓の持ち主である戴冠王レオデガレンスの娘で後ろ盾が必要だったアーサー王と婚約を交わし、アーサー王の王妃となった。
……が、この世界におけるアーサー王は実は女性で、政略結婚せざるを得なかった悲劇の女性である。また『ギネヴィアを手に入れると同時に王位が手に入れられる』という運命にあり、彼女の思ってるような華やかな結婚生活は望めなかった。
そんな状況でランスロットに転ぶのは致し方が無いのかもしれない。
――しかしそれも上手くは行かなかった。
ランスロットはギネヴィアを異性として愛していたが、結局は『臣下としての忠誠』が上回っていたため、一人の人間としてのギネヴィアを見ることが出来なかった。
一人の女として見ることを欲したギネヴィアはさらに深みに嵌っていき、次第に自身とランスロットを窮地に追いやっていく。
一見、肩の力が抜けた悠然とした女性だが、実際は冷静に物事を現実的に捉えることが出来る女性である。
彼女の思う『理想に殉じる王女』像を演じているだけ。
マスターとは当初、一線を引いた感じで接してくる。魔術師に対して良い記憶が無いので仕方がないが、セイバーとして呼び、彼女の本質を理解してくれるマスターには次第に心を許していく。
また、アルトリアとの関係は良い方なのだが、夫婦としては壊滅的。いかんせん彼女達の恋愛の対象は共々ノーマルなのだ。
「「そっちのけはありませんので!」」