「サーヴァント、キャスター。トーマス・アルバ・エジソンである! 顔のことは気にするな! これはアメリカの象徴である!」
いやエジソン好きだけど持ってなかったけど……今来なくて良くない!?
バビロニアピックアップはこんな結果でした。
――つーか確信犯だろ光の御子!! ←
「奴を攻めても変わりあるまい。後で
そういう事があり
ケルトハルの様子を見守っていたけど、膝が震えてるのやら崩れてるのやらで平常じゃないのは一目瞭然な感じだった。『アトラス院の制服』で精神的な弱体化を打ち消せないか試したけど無駄だった。一応マシュの前では何事も無いように装っているけど……。
ていうかこんな状態になるなら始めから断ればよかったのに、
「いつかはい……奴らを越えねばならない時が来る。それが早まっただけと思えばまだ気が楽だ。それにキリエライトの期待に応えねばケルトではないだろう? ……あと
わかった。この娘周りの目を気にして意見を変える流されやすい子だ!
「……」
あ、首筋にじんましん。
もう一度弱体状態解除の魔術を使おうとすると、
「ふっ!」
パァンッ!! と平手を打って無理やりブツブツを引っ込めたケルトハル。そこまでして隠したいのか!?
「お待たせしました先輩――どうかされました?」
「何も無い。……しかしまだ居るか……」
ケルトハルの言う通りウェアウルフの群れは討伐するごとに増えていくように現れた。5匹が10匹、10匹が40匹……、ウェアウルフの群れを追って森の奥まで来たけれど、この後はどれだけの数が待ち受けているんだろう?
マシュから受け取ったペットボトルはキンキンに冷えていて動いて火照った体の芯を急速に冷やしていく。健康に悪かろうと知った事か。
「ふん……恐らくそれらを産み出す元凶が居るのだろうな。奴らは魔獣、普通の生まれ方はしていないはずだ。それと……いぬは鼻が利くからな。こういった他所から持ってきた食料の匂いで気づかれる」
「あ! す、すいません……。先輩が飲み終わり次第再転送しますね」
水気を含んだ植物の茎を食みながらケルトハルはそう指摘した。
けどケルトハルの言う通りだったら元凶を断てばウェアウルフの異常発生も収まるはず。問題は何処に居るのかだけど、それもケルトハルの宝具を使えばどうとでもなる。
かさり、と、森の木々が風以外で動いたのを感じた。
自分が気づいた時には二人は既に戦闘態勢に入っていた。
マシュは盾を構え、ケルトハルは鞭を手繰る。
「まぁ、結果的にあちらから来るよう仕向けられた。良い手柄だなキリエライト」
「いえそんな褒められる事では! ――それよりも、これからどう動けば?」
「もう仕掛けている!」
ケルトハルがさらに蔓の鞭を手繰り寄せる。
途端に、メリメリメリィ! と辺りの木々がこちらへ集中する。
とっさにマシュが覆いかぶさってくれたことで樹木の破片がぶつかることは無かった。
音が鳴り止んで、盾から顔を出すと、辺りはうっそうとしていたハズなのにミステリーサークルさながらに拓けてしまった。
見えたのは数十を超える原始的な武器を持つ二足歩行のいぬ科生物たち。
「何匹か逃したか、ちくしょうが……」
ひそかに呟かれる悪態は幸いにもマシュには聞き取れなかったようだ。
今のケルトハルの攻撃でウェアウルフは減ったようだが、未だにこちらを包囲するほど数が居る。
しかも仲間が殺されたことで怒り狂って咆哮を上げている。
まるで森自体が自分たちに牙を向けようとしてるようで思わず息を飲んだ。
否。
既にこの森は敵だ。
足を踏み入れたからあんなに出てきた。森の民を殺したからさらに牙を突き立てに来た。
――けど、皆困ってる。 ←
この森から流れてきたウェアウルフは修復した特異点を、ローマの民を、ネロの大切なものを脅かしている。いずれ無かったことにされても、見過ごす事なんて出来はしない。
「そうですマスター。ネロさんが未来へ繋ぐこの時代がこれ以上荒らされるのを見てるわけにはいけません!」
そう言ってマシュは盾を構える。
防御の姿勢ではなく、突撃の溜めの姿勢。
それに呼応して、ウェアウルフの群れは斧や槍を振り上げる。狼の遠吠えはビリビリと空気を震わせて、武器を持つと言う行為は殺意を明確にしていた。
――けどその程度で自分たちは引かない。
『Garuaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
一匹の雄叫びを皮切りに、ウェアウルフが一斉に駆ける。
牙が肌を裂こうと剥きだしになり、使い込まれた武具が乱雑に振り回す姿は、人間には無い野生の現身。
へし折られた木々を乗り越え、飛び越えて、斧や槍をマシュとケルトハルに向けた。
「ぐぅっ!」
「ふん」
マシュは斬撃を受け止めるように防ぎ、ケルトハルは刺突の軌道を見切って躱す。
さらに、マシュは防いだ際、力加減を調整して押し返すようにウェアウルフに盾をぶつけて吹っ飛ばした!
たかが一匹を飛ばしただけで狩りは終わらない。すぐさま次の敵が来る。
左手から襲い掛かる狼男を盾を振りぬいて胸骨を破壊する。
前方から新たに現れた敵は一旦地面に突き刺した盾を軸に回し蹴りで対処。
右手から投げつけられる斧は寸での所でキャッチして近くに居た相手に投げつけて始末した。
後方は――今回の相方の鞭の振り上げでアッパーカットを食らったように顎が砕けた。
カルデアで最も信頼している
鞭の利点、手の振りと伝わる衝撃のズレは視覚と触覚の錯乱を引き起こし、武器を盾にして防いだはずの攻撃が後ろから襲い、振れば振るほど大きくなる一撃にウェアウルフは混乱の極みだった。
「戦士の悔恨よ、その身を巡りて毒と成れ、
そして彼女の
際限無く伸びる蔓の鞭で敵を叩き落とすだけではない。
「神の武具、灼火になりて敵に絡め、
時には火炎の車輪になって肉を削り取る。
「生き血を啜りし者、ただ穿て、
時には伝承通りの槍の形で心臓を貫く。
本人は華が無くケルト足り得ない者だと卑下するが、マシュも自分も多彩な攻撃を得意とするトリッキーな武芸者だと思っている。だって前口上とか変形武器とかちょーカッケーし。
しかし、二人の奮闘を持ってしてもウェアウルフは数を減らさなかった。死ぬ頭数よりも新たに増える頭数の方が多い。
逆を言えば、元凶となった親玉が近くに居ると言う事なのだけど……。
「これじゃ! キリがありませんねっ、やぁ!」
突きだした盾で顔面を潰しながらケルトハルに問う。
倒しても倒しても一向に湧き出る狼男に苛立ちを隠せないケルトハルは、
「……絶滅されたいか」
え? と声を上げるマシュ。
そりゃそうだ。マシュは聞いたことが無かったのだろう。
……こんなにも低いケルトハルの声を。
「足止めを頼む。――封印、剥離」
パキキッ、と、彼女の鞭から鳴った。
毒々しい表面が剥がれ落ち、燃える炭のように発火する本体が顔を出した。
ブォン、と。
魔犬狩りの勇者が頭上で鞭を振り回すことで起きる空気を焼き斬る音。次第に音は大きく、振り幅の感覚が短く、そして噴き出る炎の勢いが強くなる。
宝具を使うつもりだ。けど、
「あの、ケルトハルさん!?」
ケルトハルに言われた通り、彼女に近づくウェアウルフを追い払うマシュが困惑した声を上げていた。
「全種必中、2,3,5発火、1,6発毒、4吸血、7錯乱、装填完了――」
やがて円を描いた鞭は輪になってケルトハルの手から離れた。
「束ねて散り逝け――」
熱気と魔力の迸りを見てて、正直この場からにげたいとおもう。だってケルトハル目を回してマトモじゃなくなってるし。そう、あの宝具のように!
自らの尾を食むヘビのように回転する槍は発火と瘴気を纏っていき、
「
放たれた。
回転に負けて空中分離した円盤にも見えるそれは、7本に別れ四方へ飛び、さらにそれぞれが7本に分裂し、また7本に分裂……それを繰り返していく。
無数の炎槍はまさしく雨のように降り落ちた。
――問題は敵味方の判別が付いてないことか。
「ろ、」
結果。
こっちにも被害が来たり。
「
――ケルトハルーー!! ←
――あぶねぇなてめー!
「いぬが、いぬがどんどんふえる……。はっぱのうらがえせばいぬのたまごがいっぱいだ―――」
「犬は哺乳類です!」
マシュのツッコミを無視したまま、ケルトハルはさらに宝具を発動して火の雨を降らす。混乱しすぎてマシュの言葉も聞こえてないようだ。
ていうかもうウェアウルフいなくなったんですけど――――っ!?
◆
「ケルトハルさんって、もしかして犬が苦手なんですか?」
「ぶふぅぅぅ―――――――――――――!!」
ウェアウルフが完全に消し炭になり、火が森に移りそうになった頃にマシュと二人掛かりで押さえつけて、やっと正気を取り戻した時。
マシュは開口一番にそう尋ねた。
「………………………………その、すまない。貴様には隠しておきたかった……」
……まぁ、傍から見てたらさほど隠しきれてなかったけどね!
「いえ、悪いのは私の方です。私が知っていればケルトハルさんが困る事はありませんでした」
「しかし私が見栄を張らずに素直に言っておけばこうはならなかった。……マスターにもキリエライトにも迷惑をかけることは無かったのに」
「ですが、」
――はいそこでやめましょー。 ←
と待ったをかけた。
二人とも謙虚なのは良いけれど、譲り合い過ぎて次に行かないのは欠点だ。
程よいとこでやめないと、クエスト放棄してカルデアに帰るよ?
そう伝えると二人は何とも言えない面持ちで顔を見合わせる。
「……ごめんなさい」×2
また謝り合う二人を見て、やれやれと嘆息した。
さて、と一息ついて、次にすることを考える。
ブリタニア島の森は様変わりした。
ケルトハルの宝具大放出のおかげで辺りは焼け野原になりむわっとした空気に包まれていた。令呪を使わなかった分、正気を取り戻すのが遅れた所為か。
「……すまない」
この様子だとこの森のウェアウルフはほぼ全滅したようなものだ。だから後はウェアウルフを産み出してる奴を見つけるだけだ。
まぁ、見晴らしが良くなったし、これだけ大暴れしたから元凶とやらが炙りだされるのも時間の問題じゃないかな?
「そうですね。それにこうして燃えた事で古い木が灰となり、森の養分になると本で読んだことがあります。焼き畑農法というものですね。だから気を落とさないでください!」
「……、」
いやぁ、そのフォローはむしろ追い詰めてるような気もしないでもないけど……。
◆
元凶を見つけるべくさらに森の奥へ歩を進めた。
木々に囲まれたこの場所では先ほどの熱気は落ち着きを取り戻していた。と、同時に鼻の粘膜に張り付くような獣臭が気になり始めた。
どうやら巣が近いようだ。
さっきの騒動で生物の気配がまるでしなかった。
なのに、
「……っ、見られてませんか」
何かが居る。
この何処かに居る。
何処かに身を潜めてこっちを狙ってる。
その事を意識すると、辺りに散らばるあらゆる情報が一斉に入って来る感覚に陥った。
木の葉のこすれる音。
地面を動く小動物。
実際に肌で感じる視線。
それら一つ一つが心の警鐘を鳴らす原因となる。
木々から洩れる陽光が目に見えた。音の一つ一つが何かの呻きに聞こえた。何処から襲ってくるかもわからない恐怖に、気が付けば身を強張らせていた。
「大丈夫です。先輩」
そんな時、不意に手を握られた。
「どんな敵が来ようとも私が守ります。先輩には指一本触れさせませんっ」
「肩の力を抜け。一人で気を張る必要は無い。我らは貴様の守護者なのだからな」
頼もしい二人の言葉に、握った手のぬくもりに自然と力がこもっていく。
大丈夫、何があっても切り抜けられる。そう思えた。
ざざっ、と森が揺れた。
自分たちの周りを廻るように駆けるそれは、姿が見えなくてもはるかに巨大なものだとわかる。
マシュがいつでも迎え撃てるように盾を構える。ケルトハルも鞭を手に取り溜めの姿勢をとって敵の姿を追った。
巨影はこちらの出方を伺ってるのか、円を描くように走り回ってるだけで中々仕掛けて来ない。
けたたましく響く騒音。ポルターガイストのような現象にシビレを切らしたのは魔犬狩りの勇者だった。
「小賢しくも臆病な獣よ、我らを恐れるか! 見せぬなら引きずり出すまで!!」
手の振りが見えなかった。
木々が吹き飛んだと理解した瞬間に空気が破裂した音がやってきた。幻惑などの精神干渉を無効化し己の恐怖心を力に変える『勇猛』と護ると宣誓したものを背にした時に無類の強さを発揮する『三守の
思わず腕で顔を覆った。衝撃波が大きすぎて木の破片や反響した波が襲い掛かってきたからだ。大きい物はマシュが弾いてくれたが、小さい物は自分で守るしかない。その中、腕の間からケルトハルが吹き飛ばしたものを見ることが出来た。
ケルトハルの宝具に似た毒々しい色の獣。
今の一撃を受けたにも関わらず、その肉体は毛一本も欠けずに耐えていた。
シルエットと身に刻まれた貫禄。その姿を見て、今回の騒動の元凶だと悟った。
マシュは今の一撃を耐えたことに息を飲む。この獣を相手に無事に帰ることが出来るのか、と。
ケルトハルは苦虫を噛み潰したような表情で獣を睨む。
「よりにもよって貴様か……ダイルクーっ!!」
◆
ダイルクー。
ケルトハルの救国の最後の相手とされる魔犬。
かつて彼女が打ち倒した敵、コンガンフネスの墓に居た三匹の子犬が魔獣化した魔犬はその命を引き換えにケルトハルを毒殺という。つまり彼女の死因を作った天敵ということ。
――大丈夫?
――倒せる? ←
死因となったとはいえ、一度は討伐したはずだ。今回はマシュと自分が居るし、何とかなるかもしれない。期待を込めてそう聞いてみたが、
「……すまない。実を言うとどう倒したか覚えてない……思い出そうとすると気を失うらしい」
何それ?
そういえばいつかフェルグスがケルトハルに肩を貸してこう言ってた。ケルトハルに昔話を聞いたら急に気を失ったとかなんとか。
だが、とケルトハルは不敵な笑みを張り付ける。
「もう一度こいつを殺せば我の犬嫌いを無くせるやもしれんな。思えばこれと関わってから碌なことにならん。――ここで因果を断ち切る」
ボッ!! と、ケルトハルの片腕が発火する。
元々腕に巻き付いていた
彼女にとって雪辱の相手。八つ当たりも兼ねてるのだろう、手出ししたらこちらまで燃やし散らされそうな殺意が籠ってる。
魔力を高め、今にも宝具を解放しようとした、
「待ってください」
そんな彼女の腕を引いて引き止めたのはマシュだった。
「――なんだ」
「……っ」
剣呑な視線にマシュは怯みながら、ある一点を指さした。
「子犬です。子犬が居ます」
マシュの言う通り一匹の子犬が居た。巨大な魔犬よりはるかに小さい子犬が
毛色が違う事から、魔犬ダイルクーの子供ではなく普通の犬の子供のようだ。
「……知らん。奴ごと屠ってやる」
「だめです!!」
突然の後輩の叫びにびっくりした。
普段物静かな彼女がこんなにムキになって……。
ケルトハルも目を白黒させている。
「あの子犬たちをダイルクーが守ろうとして、子犬もダイルクーを助けようとしてます。ダイルクーはたぶんこの森の犬たちを守ってたんですよ。ケルトハルさんと同じです!」
「は? いや、我はその……流れでゲッシュを立てられたと言うか……」
彼女のいつにない強気な言葉にケルトハルが押されてる。
火を噴いていた宝具も情けない音を立てて鎮火してるし、魔犬も二人の会話に何も言ってこない。何か律儀に待ってくれてるみたい。
「ではどうすればよいのだ? 子犬を殺すな、ダイルクーを生かせ、それではウェアウルフはまた増えるぞ。キリエライトの言ってる事は支離滅裂だ」
ケルトハルの言う通り、ウェアウルフの大量発生は
するとマシュはしばし考えるしぐさをし、ぽんっと電球が浮かんだ。
「克服の仕方を変えてみませんか?」
ケルトハルと首をかしげる。何処からどう繋がって出てきた言葉なのか。
「受け入れる事です。つまり人を襲わないように言い聞かせるんです。魔犬でも犬は犬ですから」
「はぁ!?」
「最低でもこの森から出ないように言い聞かせればそれで大丈夫じゃないでしょうか」
確かにそれが出来れば言う事無しじゃないだろうか。上手く住み分けできてるとは思う。
しかしケルトハルはそうは思ってないようだ。
「無理だ! あの犬は懐く所か飼い主を殺しかけた魔獣だぞ!? そんなことできるわけがない!」
「嫌いなのはわかっています。ですが、拒絶して廃絶して離れるばかりでは恐怖症が長引くばかりです。ですから一度こちらから歩み寄ってみてはどうでしょうか。押してだめなら引いてみな、です」
「うぅ……」
――もう一回ぐらいチャレンジしてみたら? ←
退路を塞がれたケルトハルはマシュと
意を決して
さっきもだけど、こちらはかなり隙を見せていたのに
それは敵意ゆえなのか、はたまた別の感情があっての事なのかわからない。
わからないけどぶつかるしかない。
「うぅ……」
ケルトハルは
犬と接する基本。相手に匂いをかがせて警戒心を緩めさせること。それを実践してるつもりらしい。
ガプリ、と、手に噛みついたのは子犬だった。
きっと
「うひぅ」
そんな子犬の抵抗にケルトハルは見るからに怖気だった様子を示してる……。何度も言うが、あんた魔犬狩りの勇者だろうに……。
まるで珍獣を触る女子高生のようにしどろもどろになるケルトハルがだんだんと面白くなってきた頃、その微笑ましい光景の中に
「奇跡のスリーショットですね、先輩。これは録画不可避かと」
より近く。子犬に必死過ぎて接近に気づいてないケルトハルの頭辺りに鼻を近づけて、
そして、
ガパァっ、と。
顔を十字に裂いた口は犬の首の根元まで開き、大口は長身のハズのケルトハルの体躯をさらに超える。
「――ん、ぇ?」
誰かの声が出る前に、バワぁッ!! と空気を割る音と共にケルトハルは子犬を抱えたまま
「クリィィィ―――――――チャァァァ―――――――――!!!???」
――くわれたー!? ←
――こいぬー!?
ごきゅりっ、とコミカルな嚥下の音を鳴らした
それだけで肩が跳ねた。マシュも同様に。
しかたないじゃんだってあんな光景見てたら。パニック映画の一場面が目の前で起こったんだもん。超怖いに決まってんじゃん。
ぎょろッ、とした目玉がこちらを捉えたのと同時にマシュが身構えた。
「せせせ先輩どうしましょう、何故かすごく殺気立ってますそれよりもケルトハルさんが溶かされちゃいますっ」
「そうですね。とにかくやってみましょう……っ!」
魔術を攻撃と認識したらしい
とっさに盾で防いだマシュが苦悶の顔をする。キツイ獣臭もあるが、防いだ時によだれも飛び散ったからだ。
その巨体に潰されそうになるも、弾くように押し返し、距離をとった。
「怪我はありませんか、先ぱ――」
先輩、と言い切る前に突然袖口を掴んで思い切り引き裂いた。
突然の事で驚いたが、投げ捨てられた袖を見て納得した。飛んできたツバが肩辺りに付着していたらしく、見る見るうちに溶けていたから。
直感的に
吐き出された空気と体内で生成された毒が混ざって霧となって辺りに充満した。
マシュと契約してから基本的に毒が効きづらい体質になってはいるが、この状況に頭の中に警告がひっきりなしに浮かんでくる。
「こっちですマスター!」
同じく察したマシュが腕を引く。
なるべく遠く、少し段差が出来た所に身を隠し、さらに盾でフタをした。
直後に、盾越しでもわかるほどの熱波が襲った。
想像した通りあの毒霧は可燃性だったようで、何らかの方法で火を作って一気に燃やしたのだろう。
ケルトハルが嫌うわけだ。こんな怪物と和解なんてできるわけが無かった。
ザッ、と目の前に魔獣が降り立った。
大口を開ける魔犬は先のように火を吐くのか、ケルトハルのようにまとめて喰らおうとするのか。
どちらにせよ追い詰められてしまった。
立ち向かうにしてもこちらには決定打となる手が無い。
マシュが魔犬の前に立ちふさがった。
獲物の敵意を感じ取った
「――?」
――が、今度は何も出ない。
何事かと二人で様子を窺うと、すぐに変化を表した。
大口から見える喉奥からするすると何かが這い出してきた。
それは口中に手を伸ばし、やがて根を張って、
――グロイ……。 ←
正直言ってその一言に尽きる。このおぞましい光景にマシュも閉口している。
もがく
ボムっ!! と。
可燃性の毒に火が移り、
びちゃびちゃと二人一緒に肉片やら体液やらを浴び、混乱が醒めきれぬまま茫然と立ち尽くしていると、爆破地点から飛んできたモノが目の前に転がって来る。
ケルトハルだ。
「……思い出した……あの時もこうやって殺したんだ」
ケルトハルはぐったりとした子犬を抱いて、力なくその場で大の字になって倒れ込んだ。
◆
「おかえりみんな……ってどうしたの?」
第2特異点からの帰還を出迎えてくれたロマンの口が引きつった。
……そりゃあ粘液まみれのでろでろぬるんぬるんで帰って来たわけだし、一体何があったんだと問われても仕方ない。
マシュもげんなりした様子で、当のケルトハルは何も無い所に視線を向けて『くさいぬめるぬめくされる』とか『わんこぜったいころ……せなかった』とかブツブツ呟いていて放心している。
――何も聞かないで。 ←
――大人に、なったんだよ。
ロマンは何も言わず憐れんだ眼差しを向けるだけだった。
「そうそう。ケルトハルに朗報だよ。君の霊基の不調の原因が分かったんだ」
気分を変えるようにロマンは明るい声調で言う。
しかし当の彼女は相変わらず念仏を唱えるだけでピクリとも反応しなかった。……代わりに聞いてやろう。
「まず原因なんだけど、ケルトハル自身特殊なサーヴァントだったんだ」
マシュと二人で首を傾げる。犬殺しの英雄なのに犬嫌いなこと以外、特に他のサーヴァントと違いが無いようだけど?
「彼女は二人で一つの霊基を共有して召喚されるサーヴァントだったんだ。アン・ボニーとメアリー・リードと同じような例だね」
それはおかしな話だ。
だってケルトハルが召喚された時、ケルトハル以外誰も居なかった。一緒に召喚されてると言うなら何処に……?
「別に一緒に召喚されるってわけじゃないらしいんだ。ここからが面白い話でね。ケルトハル・マク・ウテヒルと、一緒に召喚された英霊は両方不十分な霊基を持って現界する。その霊基を取り戻すにはどちらか一方が消えなければならない。だから互いに殺し合って、一人のサーヴァントに成ろうとするんだ。一種の儀式、――試練と言った方が良い」
珍しいタイプの英霊だね! と笑顔で語るロマニ。一方、その話を聞いて一つの答えが浮かび上がる。
「もしかしてその一緒に召喚された英霊って……ダイルクーですか?」
「そうだね。元々召喚された場所から離れた所で召喚されるみたいだけど、今回は人理滅却の所為で時代を超えてしまったみたいだね。試練だからケルトハルはダイルクーと闘った記憶がなかった。」
つまり。
ローマに現れた魔犬の騒動の原因はケルトハルの召喚が巡りまわった結果と言う事なのかなんじゃそりゃ。
それに、マシュが止めた所で彼らの争いは回避出来ないものだったのか。
失ったものを取り戻すために永遠に争い続ける。
なんとも悲しいサーヴァントだろうか。
するとロマンがこんなことを言う。
「二人が悲観する事はないよ。だって負けた方は勝った方の宝具として現界されるんだし」
は? と。
ロマンに聞き返そうとした時、魔力の粒子が形作る。
毒々しい色の毛並み。強靭な筋肉を押し込めた肉体。それは今回自分たちに大きなトラウマを植え付けた魔犬の姿。
「…………………………………………………………………………………………………………ぇ」
絶句するケルトハルを余所に、魔犬は長年連れ添った愛犬のように尻尾を振ってぐぱぁと口を開いて、飼い主の顔を舐め回した。
直後、カルデア全体に響き渡る悲鳴を間近で聞いた。
この日を境にケルトハルの犬嫌いをおちょくるサーヴァントが多くなった。
魔犬狩りのサーヴァント
真名:ケルトハル・マク・ウテヒル
身長:171cm / 体重:58kg
出典:ケルトハル・マク・ウテヒルの最期
地域:アイルランド
属性:中立・中庸 カテゴリ:地
性別:女性
友情に性別は無いと信じる残念なお方
ステータス:筋力B++ 耐久B 敏捷C++ 魔力C+ 幸運E 宝具A++
保有スキル
獣殺しA-:魔獣や野生動物に対する特攻。特に猛獣と化した犬の対処に長けている。
ゲーム的には犬特攻は(相性の関係で)完全に死にスキルである。
勇猛B-:威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。ケルトハルはある事がきっかけでこのスキルのランクがガタ落ちすることがある。
三守の誓約A:アルスターを三度守護する誓い。守護する対象に背を向けて戦う事で筋力や耐久といったステータスを上昇させることができる。護国の鬼将に似たスキル。Aならば自身と守護する対象にもステータスを上げることが出来る。
ゲーム的に「自身の攻撃力大アップ&自身にターゲット集中状態を付与&味方全体の防御力アップ」という効果で設定される
対魔力B:魔術に対する抵抗力。
宝具:
ランク:C / B+
種別:対人宝具 / 対軍宝具 / 対獣宝具
レンジ:1~3 / 2~80 / 2~80
最大補足:7人 / 31~49人 / 7頭
由来:ケルトハル・マク・ウテヒルの持つ魔槍ルイン。
太陽神ルーの保有する槍のいずれか。
原点となる宝具が多数存在するため不安定な形状のままケルトハルの手に渡り、使い方次第で様々な形状に変化する宝具になった。共通の性能として、
・毒を纏って封印を施し、封印を解くと担い手を焼き尽くすほどの炎を発する。
・敵の気配を感じ取ると担い手の腕に絡みつく。
・振るえば障害物を避けて敵を討ち、投げれば7人殺して戻って来る。
上記二つは真名解放しなくても使える能力であり、真名解放をしても魔力の消費量は少ない。
ケルトハルが主に使う武装として、発火性の毒を噴出する鞭。
ゲーム的に「自身に必中を付与&敵全体に大ダメージ&確率で毒を付与&確率で呪いを付与&確率で自身のNPを増やす&確率でやけどを付与&確率で混乱を付与&『デメリット』味方全体のHPを500~1000減らす」という効果で設定される
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1~20
最大補足:5人
由来:ケルトハルが最後に討った魔犬。
召喚当初はケルトハルと別のサーヴァントとして限界する。この二人は互いに殺し合う運命にあり、どちらかが死なない限り聖杯戦争を中断してでも戦い続ける。そして勝った方が正規のサーヴァントとしての霊基を持つことができ、負けた方は勝った方の宝具として扱われるのだ。
ちなみに拾われたのは
絆
赤枝の騎士団の勇士の一人で、アルスターの守護者。
ブリヴグの異邦人、ブライを殺してしまい、その償いとしてアルスターの住人を三度救うゲッシュを立てられる。
……ケルトハル本人はブライとは何の関わりも無く、ブライ自身も特に高貴な生まれでも要人でもなく、ゲッシュをたてるほどの事も無かったが、ケルトハル曰く、「事故であれこれしてたうちにいつの間にかゲッシュを立てられていた」とのこと。
――これは特に思うことはない。
荒武者コンガンフネスを計略で打ち倒し、人や家畜を襲う恐犬を撃退し、コンガンフネスの墓で拾って飼っていた犬が逃げ出し
――これもまあ仕方ないと思ってる。
そういった逸話がある一方、自分の飼い犬を殺した末に死因が犬の血ということで、どういう曲解があったのかわからないが、英霊になってから犬嫌いを拗らせまくってしまった。解せぬ。
彼女自身マスターに忠実で、他のサーヴァントとも折良く付き合おうとする常識人。しかしその一方で周囲からの評価に流されやすい人柄。顔の傷から自分を女性と視てないきらいがあるが、我の強い人物が多い英霊の中では付き合いやすいサーヴァントだろう。……犬が絡まなければ。
アルスターを守護する者としてではなく赤枝の騎士として戦いに臨んでみたいと願っていたが、現在は犬嫌いという風評を消し去りたいと思ってる。