Q1:ベイカー街221番地のBってどーこだ?
そもそも何故
確か事の発端は、ロマンとダ・ヴィンチちゃんとある装置について話してた時に彼が加わってきたから、か?
疑似霊子演算装置・トライヘルメス。
アトラス院が開発したオベリスク状の記録媒体。おおよそ世界のあらゆる事象が記録されていると言われるそれは、第6特異点に出現した2016年のアトラス院と共に発見された。
フィニス・カルデアに送られた霊子演算装置・トリスメギストスの元となった装置だ。
第6特異点攻略の手助けになったトライヘルメスは、アトラス院の錬金術師だけが持つ使用権限を使い切り、その役目を終えた――だが、
『2016年のアトラス院か……ああ懐かしき学び舎よ、あなたはその古めかしい様相を変えないのだな』
印象に残らない男は仰々しく、しかし穏やかに呟く。
『……モリアーティ教授、基本的に後衛の人が前に出るのはおすすめ出来ません』
『それは問題ない。私の経験則ではここまで到達した者に防衛プログラムは
『フォフォウ!』
『何をする魔獣!?』
などとふざけたことをぬかすモリアーティにマシュの盾に隠れていたフォウ君が襲い掛かった! 何でか知らんけど、モリアーティはフォウ君が苦手らしい。
砂漠の地下とは思えない青空が覗くこの空間の中央。そこに目的のトライヘルメスが鎮座していた。
ここで出会ったはぐれサーヴァント、シャーロック・ホームズが持っていた使用権限を使い切ったため攻略の役目は終えたが、その実、壊れたり動力を失ったわけでもなくただ鎮座してるだけで、使用権限があれば再び起動させることが出来るのだ。が、それでもアトラスの錬金術師ではない自分たちにはその全ての性能を引き出すことは出来ない。
『スーツに毛が付いたぞ……ハリスツイードなのだが』
『そうですね。では教授、早速始めてください』
『悪人とは嫌われるものだと理解はしているがね、ミス・キリエライトの対応は堪える』
――何を今さら。 ←
――何を今さら。
このアトラス院だとカルデアからの通信が途絶えてるし、早く作業を終えて帰りたいのが本音だ。というわけで口を動かす前に手を動かせ犯罪紳士。
そう急かすとモリアーティは杖を持たない方の手で顎をなぞり青空の天井を仰いだ。それが中々に『らしい』と思ってしまうのは彼の稀薄な雰囲気の所為だろうか? 紳士といっても言動がいちいちうさん臭さ漂う紳士だけども、それは怪しいとは思えないのだ。ある警官が彼が黒幕だという前提で対面しても信じられなかったように、全く警戒心が湧いてこない。
オールバックに整えた髪を手櫛で後ろに流し、諦めたかのようにトライヘルメスへ向き直った。
『彼は電源が落ちたと言ったそうだね? その程度なら何とかなるだろう。
タイプライターを前にするように空中を指で叩いていくモリアーティ。傍目で見てるため何をやっているのか理解できないが、彼の頭脳の中では膨大な計算処理が並列に行なわれてるのだろう。
仮想のキーボードを叩く速度が速くなると同時にトライヘルメスがおもむろに反応する様子を見る度に、
トライヘルメスの実用は今の所検討中だが、使えるようになればこれからの作戦の幅も増えるだろう。素人目から見た皮算用な考えだったのだが、利用できるものなら利用しようじゃないかという指揮官の決断で行われてるのだ。
『……』
ふと、後輩の顔を見ると、何か考え込んでるような訝しげな表情をしていた。
『いえ、何でもありません。……無いのですが……』
どうも歯切れの悪いマシュ。やはり何か思いつめることがあるようだ。
マシュと共にここに居る理由はモリアーティの護衛だったので、モリアーティが作業してる間は自分たちに仕事は無い。折角だし後輩の悩みを聞いてあげようじゃないか。
『……モリアーティ教授の事です』
――絶対黒幕だよねあいつ。 ←
『それは間違いありません。モリアーティ教授といえばミスター・ホームズのライバル――天才的な頭脳を持つ探偵の物語になくてはならない存在なんです。それに優れた数学者という面も持っているので、スーパーコンピュータのような情報処理も可能な方だと思います』
意外にもマシュから語られるのはモリアーティに対する賛辞だった。
モリアーティに対して塩対応だったから、てっきり馬が合わないと思ってた。
『でも実際に教授に会ってみると、その、妙に親しみやすいと言うか』
『――何と』
不意に、今まで声も発さず作業に没頭していたモリアーティが驚嘆の声を漏らした。
彼の方を向くと、手を止めて茫然とトライヘルメスを睨む光景。
数秒間、その姿勢のまま固まった後、再び高速タイピングが始まった。しかし、今度は先ほどのような単純作業の様子ではなく、鬼気迫るハッキングのような叩き方だ。
彼の豹変に声を掛けるのも躊躇われる。
ここまでモリアーティが真剣な表情で物事に打ち込む姿は召喚されてから見たことがなかったから。
仮想世界の難題との格闘は1分ほどで終わる。
勝負の天秤は難題の方に傾いたらしい。
『……』
指で顎をなぞったまま動かないモリアーティに単刀直入に聞いた。
――何があった? ←
するとモリアーティは答えず、再びタイピングを開始した。
わずかに発光するトライヘルメス。相変わらず彼らの間に何が起こってるのかわからないが、とりあえず黙って見ておくことにする。
しばらくして、エンターキーを押したような動作をして、ようやくモリアーティがこちらを振り向いた。
『申し訳ない。トライヘルメスは完全にロックされたようだ』
はい?
『ロック……? セキュリティプログラムに阻まれたのですか?』
『ある意味ではね。トライヘルメスに組まれたものではない、これは外部から後から追加されたようだ。おかげで不正アクセス元を割り出された挙げ句、
立て続けに述べられる報告にちょっと混乱してしまうけど、要するにモリアーティのハッキングに失敗したという事か……。上手くいくかもと思って期待してたけどそう簡単じゃないよね。
『外部から……。あの、送られてきたというのは?』
確かに気になる所だ。
外部から、というと誰かがこの演算装置に接触しなければならない。送られたってのも結局はこれを通して来てるわけだし、誰かがここまで来たということ。それもごく最近のようだ。
自分達が知る限り、トライヘルメスに接触したのはモリアーティとシャーロック・ホームズだけ。だけどとても困難なハズだ。
まずこの特異点に現れたアトラス院は砂漠に突然現れて、その周りをスフィンクスなどの魔獣が徘徊してる。中に入ったとしても道中は迷路になってるし、防衛プログラムが居るため深部に辿り着くのも難しい。そして着いたとしても
それに送られてきた情報の方も気になる。一体どんな情報が送られたんだ? その事について詳しく聞こうと、
『……』
モリアーティにしては険しい表情に、聞くのをためらった。
眉間にシワを寄せて、腕を組み、ステッキの象牙で出来たグリップを指で叩き、虚空を見つめ続けて思考を続ける彼は、ただ静かに怒っていた。
『フォウ!』
『またか!?』
が、そんな雰囲気もフォウ君の再襲撃で四散する。ナイス!
気を取り戻したモリアーティは一瞬呆けた様に見回して、思い出したように仮想キーボードを叩いた。
『データは君たちの冒険の記録だった。本当に記録のみ、何処で何をした、といった簡単な結果だよ。冒険小説のように心躍るような内容は全くない。トライヘルメスの欠点はこういう遊びが無い事だな。データはドクター・ロマニに見せたまえ。良い息抜きになるだろうさ』
『(先輩、詩的表現を出そうとして余計な事を言ってしまういつもの教授です)』
そのようだ。
ともかく、このミッションは続行できないようだし、カルデアに帰るとしようか。色んな事があって本当に疲れる一日だった。戻って寝たい。
そうマシュに伝えると微笑んで頷いた。
しかし、
『待ちたまえ』
今回のミッションの同行者、モリアーティが待ったをかけた。
『カルデアに帰還後、すぐにロンドンに向かう。休息はその後だ』
『はい? どうしてですか? 先輩は運動してから1時間休眠を挟まないと夜に途中で起きてしまいます』
待てマシュ。そんな子供みたいに寝れないよ?
『ならば食堂でコーヒーゼリーを与え給えよ。理由は、まぁなんだ――今回我々の邪魔をした者に報復をするだけのことさ』
モリアーティの返答に、マシュも口を噤む。
モリアーティは笑顔だった。紳士的な笑みだった。
ただ……あれは憎しみに近い嘲り混じりの笑みだと思う。
◆
ホムンクルスは滞りなく討伐され、戻ってきた二人に『全体回復』の魔術を掛けて傷を癒す。
――マシュは大丈夫? ←
――モリアーティ怪我させてない?
そう尋ねると二人は肯定の意を示した。
「いつも思うのですが、あの狙撃は何処から来てるんですか? 百人隊を召喚する宝具とかなかったはずですけど」
「それは私のカリスマというものだよ。私がせずとも全ての悪性は私の味方するものだ」
「指示を出して他人に撃たせるのは二度手間かと」
「これは空砲でね、元から人を殺すようにできてない。それに、黒幕とは自分の手を汚さないものだろう?」
冗談なのか本心なのかわからないが、マシュは『はぁ』と気の抜けた返事を返していた。
『周囲に敵性反応なし! 広範囲に索敵をかけたけど、エネミーは見当たらなかったよ』
いや、そもそもロマンが見逃した所為で反応遅れたわけだし、少し反省してなさい!
◆
「先ほどミス・キリエライトが言った通り、シャーロック・ホームズの探偵事務所は我々が居るこの座標には存在しない」
その後、何度かエネミーの襲撃を受けたが難なく回避し、妙に入り組んだ路地から脱出して、目的地の15番地に辿り着いた。
やはり人は出歩いてはおらず、レンガ造りの建物の内部にも人の気配が無いように感じる。たぶんロンドン自体から避難しているんだろう。
「異界と言えば異界だね。人の脳で起きる盲点を利用した、存在するが目に見えない秘境なのだよ」
『魔力を持たない人の想念が作り上げた物理的な異界……そんなものをこんな街中で造れるのかい?』
信じられない話だ。まだ素人魔術師とはいえ、キャスタークラスのサーヴァントの工房がどれほどすごいのか何となく感じることは出来る。あれはあれで別世界に入った気分になるもんだ。けど、魔術師じゃない人がそんな異空間を造れるなんて……。
モリアーティが示した場所は何の変哲もない街角だった。石畳の道路を挟んでバロックだかロマネスクだかのレンガ造りの建物が並ぶ。この時代の最新ファッションを着せられたマネキンが置かれた三方向から見れる硝子ショーウィンドウの店やテントをたたんだテラス付きのレストラン、映画とかで見る殺し屋が宿泊してそうな安っぽいホテルや『15S』と書かれた標識などイメージ通りのロンドンが広がっているが、ここにそんな異界があるのか?
「それではうら若き探偵殿に謎を与えよう。この地区に探偵事務所がある。そこは何処なのか? 言い当ててなさい」
と言われて二人で頭をひねる。
一見しても、っていうか普通のロンドンとか知らないし。外国とか旅行したこと無い日本人だし。
『こういう問題は今まで出た情報にヒントが隠されていると相場が決まってるよね』
情報と言われてもよくわからん。マシュはどうだろう?
「……たぶんホテルでしょうか。ホテルは部屋の数が多いですし、目立たないその他のスペースがあるので魔術師の工房が建てられやすいはずです」
マシュは明かりの点いてない(ほぼ全ての建物だが)ホテルを示す。確かにホテルって隠し部屋とかありそうな雰囲気があるから、マシュの推理になるほど、と思った。
「残念ながらその推理はハズレだと言おう。もっと幼稚で
は? と聞き返す他無い。
謎のベールに包まれた隠れ家の場所をなぞなぞなんて表現をしたモリアーティに、マシュもロマンも胡乱な目で見つめている。この人は本当に探偵事務所の場所がわかったのか?
そんな疑惑を余所にモリアーティが口を開く。
「15番地に来た理由、これは実に簡単だ。221番地と15番地は鏡文字になっていてね、あのポストコードを視給え」
モリアーティが示した
「このポストコードはここの他に15m先のそこと、8mほど歩いたあそこにもある。15のS。15番地の南部と言う意味だが、普通Sを書く場所は逆、S15が正しい書き方である」
モリアーティが指さした所には確かに、15Sと書かれた表札がある。そしてそれは意図的に書かれたものだったのだ!
だとすると、モリアーティが言った事を思い返して考えてみると……。
「鏡とはあのショーウィンドウですね!」
振り向いて確認すると、マネキンを保護するガラスの表面に映るのはロンドンの建物とそこにいる自分たち、そして15Sを縦軸に反転した221という数字が。
「丁寧に他の表札からでも見えるように出来ている。そして全てのコードが見れる場所を示している暗号なのだよ」
なるほど。
ではあのビルに探偵事務所が?
「ではあとはBの謎ですね。部屋の番号でしょうか」
それは中に入ればわかる、と言ってビルへ入っていく。
しかし、Bという字は無かった。
部屋の番号が数字だったのだ。
『いよいよ謎が深まってきたね~。部屋も薄暗いし雰囲気も出てきたよ!』
人の気配が無いのは恐怖心を煽られて落ち着かないけど、度々ロマンが喜々と実況してるから少し気が楽になって良かった。
部屋は左右にあり、部屋の番号は向かい合わせに金字で1,2と行く。
6対目に到達した時、ちょうど行き止まりに突きあたった。
行き止まりと言ってもその壁には13の表札が付いた茶色の扉があり、その扉の前には木箱などが置かれて、完全に物置と化した空間だった。
あからさまに扉があるし、ここが221のBなのだろうか?
「座標上はここで合っている。しかし、その扉は鍵が掛かって開かない。防犯はしっかりしているな」
モリアーティが床に落ちた何かを拾った。
よく見ると小さな白いチョークだ。
「ヨーロッパ圏の地域では13は不吉な数字として使われることが無い。日本の病院に4号室が無いように。故にこの13号室はここにありながら人々の心理から消えている場所なのだ」
木箱を乗り越えて扉の前へ。茶色い扉は他の部屋に付いてるものと同じ種類で、表札は白字でそこだけが違う点か。
そこへ、モリアーティは1と3の間にチョークで太線を引いた。1と3の隙間は繋がって無くなり、残ったのは不格好なBという文字。
「これでいい」
かしゅん、という音が鳴る。
恐らく筆圧で作動する
しかし最後だけ呆気なさすぎやしませんかねぇ!?
ほら、マシュもロマンも反応に困ってるんですけど!
「だから私は言った。見るがいい。クイズに品性がカケラも無くクオリティが低すぎる。あの探偵の助手ですら1日かければ解ける問題だぞ?」
ワトソンさんが解けるか否かはわからないにしても、世界一の探偵が作った暗号にしてもなんかイメージとかけ離れてる。なんかほら、ダ・ヴィンチ
『ま、仕方ないんじゃない? 本当に困ってる人のための探偵事務所なんだから、そんな本物の天才じゃないと解けないようなトリックじゃ誰も来ることが出来ないしね』
「そうですね、ミスター・ホームズは偏屈と言いますか、気難しくて、けどユーモラスな感性をしてる方ですからこういったことは好きなんじゃないですか? ……ハッ、もしかしたら今の先輩の反応も織り込み済みで作ったとしたら――?」
『あ~それもありかもね!』
和気藹々とホームズ談義を始める二人。その様子を見てちょっと熱が冷めた。そんな些細な事にツッコミを入れてもね。
ともかくも、こうして目的地へ着いた。
ベイカー街221のB。ホームズの下宿先。
本来ならシャーロック・ホームズとワトソン氏が依頼人を待っているはずだが、今回はここにモリアーティを怒らせた人物が居るらしい。
物語の舞台を目の前にしてるというのに、何故か心にあるのは言い知れない不安だった。
「それでは入るとしよう。ああ、ミス・キリエライトは後ろを見張ってくれないか。何かあれば大変だからね」
モリアーティが先頭に立ち、ドアノブに手を掛けた。
いよいよ長い謎解きの旅が終わる。盾を構えて後ろを向きながらもワクワクで何処か落ち着かないマシュの手を握っておく。今は逸る気持ちを抑えよう。何が待ち受けているかわからないのだから。
ノブが回る音。
直後、強い衝撃により自分の体が後方へ吹っ飛んだ。
ミステリー感って難しい……表現とか言い回しとかよくわからないし、トリックもこの程度の文量じゃ読者に現場の背景が思い浮かばないだろうし、これが思い浮かんだらあっちが立たなくなる~って感じで結局ごっちゃになるしあれミステリーって何だっけ?
そんな感じで書き上げました。モリワキ教授の言う通りなぞなぞですね。
冬の極悪ピックアップは本当につらい……。これ!と決めたサーヴァントが居なかったから11日に勝負をかけようとした瞬間にじいじが……! 星5アサシンを持ってない僕に揺さぶりかけてやがる……! ガチャは25日まで控えます。まさかエレシュキガルが来るはずは……ないですよね?