気が付くと暗闇の中を真っ逆さま落ちていた。何故? そんな気持ちが心の大半を占めていた。自分は聖杯戦争を終わらせる為にサーヴァントと共にアリーナに向かったはず、なのに何故落ちている。
その疑問は解けぬままどんどん果ての無い闇を落ちて行く。
ふと、いつも自分のそばに居る筈のサーヴァントの反応が無い事に気が付いた。この異常事態にサーヴァントが反応しない方がおかしい、そう思いサーヴァントの名を呼ぼうと声を出そうとした瞬間、頭にノイズが走った。
セイバー、アーチャー、キャスター、そしてギルガメッシュ。4体のサーヴァントの情報が脳にいっぺんに流れ込んできた。
何だこれは? 何だこの記憶は? キャパシティを超えた情報が幾重にも混じり合いながら脳を駆け廻る。
当然その量の情報を処理出来る筈もなく脳が悲鳴を上げた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイいタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!
合わない歯車を無理やり合わせるように情報同士が擦れ合いその度に脳に激痛が走る。
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!
その擦れ合う音が全身に響き渡り体中が痙攣をおこし、いいようの無い不快感が全身を支配し続ける。
少しずつ意識は遠のいていき、体の感覚もだんだん無くなっていく。ああ、これで終わるのか。岸波白野はそう悟った。
ごめんな。何故かそんな言葉が出ていた。そして岸波白野は意識を------
『ここで消えるつもりか! 奏者よ!』
ふと、声が聞こえた。華やかでちょっぴり泣き虫な女性の声が。
その瞬間、体を覆っていた不快感が消え、脳がクリアになった。
『君は、この程度で諦めるような性格じゃ無い筈だ!』
また聞こえた。今度は皮肉屋な男の声が。
『ご主人様! ご主人様は此処で倒れる様なお方ではありません。と言うか私を置いて死ぬなんて許しません!』
あぁ、そんなことをすれば君は許さないだろう。
『貴様ぁ!! 我の目に適った雑種が何という体たらくだ!』
ははっ、相変わらず厳しいな。
何か言い返そうとした瞬間、サーヴァント達とは違う声が聞こえた。
『センパイ』
その言葉が聞こえたその瞬間、一人の女性を思い出した。桜。自分を先輩と呼びしたってくれた女の子。
そうだ、思い出した。岸波白野にはまだやるべきことが残っていた。月の裏側、BB、サクラ迷宮。
自分はまだあの子を救えてない、自分を救うために自身を犠牲にして協力してくれたあの子を救わなくては。
『はぁ、漸く思い出したか。マスター』
アーチャーの声が聞こえる。
『君は彼女を救うためにここに居る』
アーチャーの言った言葉に疑問を覚える。自分は桜を救うためにここに居る? 何故桜を救うのにここに居る必要があるのだろうか。
『君はどの並行世界でもムーンセルと対峙した際に、無意識に桜を救いたいと願ってしまった。それをムーンセルが歪曲させて無理やり君の願いを叶え、ここに飛ばしたというわけだ』
おいおい紅茶さんよ、もう少し分かりやすく説明頼むぜ。と言いたくなるぐらいアーチャーの説明は自分の理解の範疇を超えていた。
『要するに、これから君はもう一度月の裏側に行って、サクラ君を救う訳だ』
は!? マジで!
『ああ、マジだ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで?
『ああ』
本当に?
『しつこいな君も』
いや、いきなりまた月の裏側と言われても信じられない気持ちでいっぱいなんだよ。アーチャー。
ん? そう言えば他の三人は全然喋らないけどどうしたの?
『セイバーとキャスターは君がサクラ君を助けると言ったことに対して、やきもちを焼いて拗ねている。ギルガメッシュはそんな二人の姿を観ながら酒を愉しんでいる』
相変わらずだなAUOは、それと二人共、今度何か奢るから機嫌直して。
『別に、余は拗ねてなどおらん。おらぬからな!』
『私も、ご主人様の何時もの癖だと納得しております。ええ、納得していますとも』
あぁ駄目だ。二人とも完全にへそを曲げていらっしゃる。どうしようアーチャー。
『諦めも肝心だぞマスター。とくに女性関係は』
何かえらく重みのある言葉だけど、結局はお手上げってことでしょ。この女誑し。
『な! い、いったい何の事かね。それより、いい加減目を覚ましたらどうかね。マスター』
露骨に話題を変えて来たなこの紅茶は。ハァ、まあ、アーチャーの言うことにも一理ある。こんな所にずっと居る訳にはいかない。
『そうだ、早くサクラ君を助け出すためにも、アダッ!』
『セイバーとキャスター! 私に八つ当たりするな! バハッ! 剣を振り回すな! タバッ! 札を投げるな! ちょ、ギルガメッシュ! どさくさに紛れて宝具を飛ばすな!』
ハァ~~~、マスターを差し置いてなにじゃれ合ってんだ、この駄サーヴァント達は! 決して混ざりたくは無いが、ちょっとだけ羨ましいかも。
『アブッ! これのどこが羨ましく見えるグホッ!』
『あ、ちょっとやり過ぎちゃいましたか。タマモ、1秒だけ反省☆』
『それよりご主人様~。これが終わったら、私とデートしましょう。それで許してあげます』
あれ? 別にいいけど、キャスターにしては、ずいぶん安上がりというか、なにか裏がありそうというか。
『いえ、別に、その後に既成事実どうのこうのとかは特に考えておりませぬよ。はい』
ああ、やっぱりキャスターはキャスターだった。
『キャス狐だけずるいぞ。余はな、余はな』
『いきなり、私とご主人様の夫婦トークに入ってくるんじゃねぇぇんですよ! この赤王』
『なにを申す! 奏者は余の物だぞ! それに余は、奏者に、きゅッ、求婚されたのだぞ』
あ、セイバーそれは不味い。
『あははははは、なにいってやがるんです? この男装(笑)は、ご主人様は私と将来を誓い合ったお方なんですぅ。ね~、ご主人様』
え~、ま、なんと言うか。え~と、助けて!! アーチャー! ギル!
『・・・・・・』
返事が無い、もしかして二人とも逃げた?
『ううっ! 何故、直に答えぬのだ奏者。あの時ことを忘れたのか!』
『余に求婚し、押し倒した、あの時のことを』
ワーーーッ! ワーーーッ!ワーーーッ! それ以上は駄目セイバー!!
『ご~しゅ~じ~んさ~ま~』
ゾゾゾッ!
な、なんだ! この背筋が凍る感じは。
『等々、極めに極めたこの拳、ご主人様に解き放つ時が来たようです。早くお目覚め下さいまし~。その時が』
き、き、聞きたくないぃぃぃぃぃぃぃい!! その先は言わないでぇぇぇぇぇぇえ!!!!
『ハァ、からかうのは止せキャスター。そろそろ目覚めないと、不味いぞ』
えっ! アーチャー? 自分を見捨てた筈のアーチャーの声が、何故?
『人聞きが悪い事を言うな。キャスターの呪いを受けて少し動けなかっただけだ』
ああ、そういえば、アーチャー対魔力低いもんね。
『ご主人様~、話を逸らそうとしてもそうはいきません。一応、弁解だけは聞いてあげます』
勘弁して下さい。
『無視して進めるぞ。やり方は前と同じだ。目を閉じ、次に目を開けたらこの世界からは抜け出せている筈だ』
アーチャーに言われた通りに目を閉じる。すると、何かに引き寄せられるような感じがした。
『ではなマスター』
『待っているぞ、奏者よ』
『お待ちしております』
『フン、待っているぞ。マスター』
ああ、すぐに行くから。それと、久々に喋ったねギルガメッシュ。そんなことを考えながら岸波白野の意識はそこで途切れた。
「で、アンタが、俺のマスターでいいのか」
目を覚ますと、自分の目の前には知らない眠たそうな眼をした男が屈みながら自分を眺めていた。そして、その周りには、自身のサーヴァントである4体のサーヴァントをデフォルメした感じの20cmほどの物体がふわふわと浮いていた。
どんな状況だーーーーーー!!!! と叫んでしまった自分は悪くないと思う。
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