虎眼転生-異世界行っても無双する-   作:男どすこい♥♥♡♡♡
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第三景『()(かえ)し』

 

 ルーデウス・グレイラットが7歳になり、弟のウィリアムが5歳になった時分。

 

 昨年に生まれた彼らの妹達──ノルンとアイシャも健やかに育っている。

 当たり前だが、妹達は普通の赤子らしく真っ当に(・・・・)手がかかる子供等であった。

 ルーデウスとウィリアムという異質な子供に慣れていたせいか夜泣き、朝泣きはもちろん、事あるごとに泣くノルンとアイシャにパウロとゼニスは今更ながら育児ノイローゼになってしまっている。

 もっともリーリャだけが

 

『これこそが子育てですよ! ルーデウス様とウィリアム坊ちゃまはイージー(おかし)すぎました! これが普通です!』

 

 と、一人元気良く育児に勤しんでいる。

 

 ルーデウスも時折おしめを変えたりする等の世話を焼いていたが、ウィリアムは生まれた赤子が女だと知るやいなや一切の興味を失った様子を見せていた。

 

 むしろ、おしめを変える兄を見て僅かに困惑の表情を見せている始末である。

 

 ウィリアムの前世の価値観では、武家での赤子の世話は乳母に任せる物で男──ましてや兄自らが世話を焼く等考えられない事であった。

 時折妹達の相手を仕方なしにする程度しか、妹達との接触は無かった。

 それが逆に“兄弟で妹達の世話を甲斐甲斐しく焼いている”と見られたのは皮肉という他ないだろう。

 

 

 もっとも妹が生まれようが弟が生まれようが、ウィリアムは虎眼流を練り上げ、此度こそ濃尾……いや、“異界天下無双”の剣士となるべく己の業を磨き上げる事しか頭になかった。

 前世ではなかった闘気の存在が、剣鬼の魂を大いに滾らせていたのだ。

 

 

 正気にては大道は成せず──

 

 

 5歳の誕生日が祝われた後、ウィリアムの日常はそれまでの周囲の認識を一変させるに十分であり、虎眼流をより練り上げ“最強“へと達する為に行われた狂気の行動は、正しく正気にては成し得ぬ事であった。

 

 ある日の事。

 

 いつものパウロとの“生温(ぬる)い”稽古の後、ウィリアムは『少し遊びに行ってまいります』と一人で出かけて行った。

 折しのパウロと、猟師であるハーフエルフのロールズにより行われた魔物討伐により、ブエナ村付近の安全がより確立されていたのもあってか、ルーデウス含め家族の誰もがウィリアムのこの行動に不審を持たなかった。

 むしろリーリャはようやく年相応に野原を駆け回るウィリアムを想像し、逆に安心してしまう始末である。

 

 ゆえに日が傾き、夜になっても帰ってこないウィリアムを家人や村の若衆総出で捜索するという騒ぎになってしまったのは、誰が悪いという話では無いのかもしれない。

 

 そして漆黒の夜天が白み始めた頃……ウィリアムを発見したルーデウスとその幼馴染、シルフィエットは“剣鬼”の一端を垣間見る事となる。

 

 


 

 割りとシャレにならない事が起こってしまった。

 念願の妹が生まれて、男だと思ってた幼馴染のシルフィエット……シルフィが、実は女の子だと発覚し、異世界光源氏計画を粛々と進めている矢先。

 

 弟のウィリアムが失踪したのだ。

 

 

 思えばウィリアムはどこか変な所がある子供だった。

 

 一緒に遊んでも、作ったかのような笑顔を浮かべるばかりでまるで楽しそうにしている様子はない。

 

 パウロの稽古も一緒に受けるようになったけど、恐ろしく義務的にこなしている印象しかなかった。

 

 ロキシーにはやたら殺伐とした魔術の話をせがんていた。

 

 ロキシーに相談された時は、こいつマジでサイコパスの気があるんじゃないかと恐ろしくなったもんだ……

 

 でも表面上? は俺に対して慇懃に接しているし、毎日大人しく過ごしている。

 逆にそれがなんか不気味であり──

 

 ぶっちゃけ苦手である。

 

 前世の弟とはまた違った意味で接し辛い……いや、子供の頃は前世の弟とはうまくやっていた気がする。

 それだけにウィリアムはマジで何を考えているのかよくわからん……

 可愛がっても、突き放してもリアクション薄いからなぁ。

 もっとも俺以上に溺愛しているパウロやゼニスはウィリアムの異様さに全く気づいている様子がない。

 

 ていうか気づけよパウロ。

 端から見たらウィリアムはおまえさんの稽古“仕方なく付き合ってやってる感”すごいぞ。

 

 パウロはこの世界基準で言ってもすごい達人なんだけどなぁ。

 三大流派上級の腕前だって、一つの流派の上級取得するのに才能ある者が10年ぐらいかかると言われているんだぞ。

 パウロはまだ20代半ばで、それぞれの流派の上級を取得している。

 上級で辞めてしまったというだけで、聖級……下手したらどれかの流派で王級までいってたかもしれない逸材なのだ。

 普通はそんな才能ある人間が見たらウィリアムのやる気が無い事に気づけそうなもんだけどなぁ……

 

 リーリャはなんとなくウィリアムの異様さに気づいている節があるけど、俺や家族に遠慮してかせいぜいゼニスにそれとなく相談するに止めているっぽい。

 

 そんなよくわからない所があるが、普段は大人しいウィリアムが突然失踪したからこりゃ大変な騒ぎになる。

 

 ゼニスが呑気に『ウィルは遅いわねぇ……どこまで遊びにいってるのかしら』なんて言ってたのが

 日が完全に沈む頃には発狂寸前まで取り乱していた。

 パウロはパウロで剣を片手に家を飛び出していくし……せめてどこらへんを探してくるかとか言ってくれ……

 

 ただでさえゼニスが育児ノイローゼになっている所にこの騒ぎだ。

 ゼニスは取り乱すばかりで捜索を手伝う事は出来無さそうだ。

 俺はゼニスと妹達をリーリャに任せてシルフィの家へ向かい、シルフィの親父で村一番の猟師でもあるロールズさんに事情を説明した。

 

 話を聞いたロールズさんはすぐに村の中心部へ向かい、若い衆を集めて付近を捜索する段取りを取り付け、俺とシルフィも捜索隊に加わる事になった。

 

 

 

「ウィールッ! ウィリアムーッ! どこだー! 返事しろ-ッ!」

「ウィルくーん! いたら返事してー!」

 

 普段めったに大声出さないシルフィ。

 シルフィこんなに大きな声を出せたんだな……とそんな事を思ってしまったり。

 

 いやいや!

 それよりもウィルを探さないと!

 

 俺とシルフィは大人達とは別行動でウィリアムを探していた。

 ロールズさんは、俺達がミイラ取りがミイラにならないかと心配していたが……こちとら伊達に水聖級魔術師を名乗っていない。

 シルフィも最近は俺に負けず劣らずの魔術の実力がある。

 パウロとロールズさんがブエナ村近辺の危険な魔物を粗方討伐してくれたし、仮に魔物と遭遇しても危なげなく戦える自信はある。

 

 パウロにくっついて実戦の空気を体験しておいてよかった……

 それにウィリアムとは違い真面目に剣術の稽古も受けているし、パウロから散々俺の話(自慢話)を聞かされていたのもあってかローデスさんは、結局は俺たちの別行動を許してくれた。

 

 そんなこんなで村から少し離れた林を捜索しているのだが……

 

 全然見つからない。

 

 こりゃマジで魔物に食われているんじゃないだろうな……

 嫌な想像ばかり頭によぎる。

 

 

 もし……もし仮に、ウィリアムが死んでしまっていたら。

 パウロやゼニス、そしてリーリャも相当悲しんでしまうだろう。

 ゼニスなんかは立ち直れないかもしれない。

 妹達も、物心付く前に兄と死別するなんて経験をさせたくない。

 シルフィも『ウィルくんウィルくん』って実の弟のように可愛がってくれている。

 

 そして何より、俺もウィリアムには死んでほしくない。

 

 いくら苦手だからといっても、たったひとりの弟である事は変わりない。

 絶対に、絶対に見つけてやるからな。

 お兄ちゃんが、絶対にお前を守ってやるからな。

 だから早く出てきてくれ。頼むから。

 

 

 

 そんな思いを込めて、再び大声でウィリアムを呼ぶ。

 

「ルディ! あそこ見て!」

 

 シルフィが松明をかざした先に、やたら開けた場所が見える。

 やたらと倒木が多い(・・・・・・・・・)その場所は、人為的に開けた場所と見てとれる。

 

「あそこ! ほら!」

 

 ぐいぐい服を引っ張るシルフィが指し示す方向に、何かを振り回す人影が見えた。

 一体なんだろう……まさかゴブリンとかじゃないだろうな……

 いや、ゼニスから教えてもらったがゴブリンはこの中央大陸には生息しておらず、ミリス大陸の森の奥に生息していたはずだ。

 万が一に備えて、ロキシーからもらった杖を握りしめる。

 ごくり、と唾を飲み込み、シルフィと共にその影に近づいていく。

 朝日が僅かに顔を出し、白んで来た事で段々とその影が明るみになっていく。

 

「なんだアレ……」

 

 近づいていくにつれ、何か棒のようなものを一心不乱に木々に打ち付ける人影が見えた。

 

 ガッ、ゴッ、と木々を打ち据える音が聞こえる。

 

 

 そして、打ち付ける人影を、見てしまった。

 

 

 

「ウィル……なのか……」

 

 

 

 それは、紛れもなくウィリアムだった。

 

 裸の上半身は、5歳の少年の物とは思えない程筋骨が隆起していた。

 そして、棒と思っていたのが、2メートルはあろうかという長さ、そしてやたら太い木剣……

 まるでカジキマグロのような木剣を、狂ったように打ち付けるウィリアムだった。

 

 よく見れば、手の皮は破れ血を滲ませている。

 全身を軋ませながら、5歳児とは思えない剣速で木剣を打ち込んでいる。

 

 でも、ウィリアムの目は

 

 異常な程爛々と輝いていた。

 

 まるで、子供が夢中になって遊ぶ対象を見つけたような……

 

 口角が上がり、異様な雰囲気のウィリアムに、俺とシルフィは打ち付けられた木が倒れるまで、その場でただ立ちすくむ事しかできなかった……

 

 

 

 

 

 




年甲斐もなく(年相応に)はしゃいでしまった虎眼先生。


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