どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
*俺ガイル12巻をざっと読んだ時に浮かんだ気持ちをストレートに出したものです。
……パタムと、とある書物が閉ざされた。
最後は少女が泣く場面で終わっている。
そんな書物を閉ざした双子が、チラリと自分らの母を見る。
「……ねぇママ。この最後の、ママのセリフなんですが」
「Si,さすがにツッコミたいことが」
「え? あ、えとー……これあたしに言われても。ほ、ほら、舞台裏~とかこんなところでやっちゃっても失礼だし、えとー……」
「そうな。けどまあいろいろ言いたいことはあるかもだな。つーわけでほいどうぞ。例のセリフ」
「例のセリフ扱い!? う、うー……えっと。こほん。……ヒッキーはヒーローだから。あたしはもう、助けてもらっちゃったから」
「………」
「………」
「………」
「なんか言ってよぅ!」
「あー……ほれ、あれだ。お前の中のヒーローの条件がどうかは知らんけど、捻くれ者にそれ守れとか言われても。つまりその、あれだ。……助けたいって思った人だけ助けるヒーローが居てもいいんじゃねぇの? 回数なんて知らんし」
「え、で、でも」
「つか、サブレのことのみならず勉強だのなんらかの手伝いだの、何回手伝ったって助けてきたと思ってんのお前。もう助けてもらったからとか今更片腹痛いわ」
「真面目な場面なのにすっごい聞きたくないこと言ってきた!? うわぁんゆきのーん!」
「大丈夫よ結衣さん。今にそこの目が腐ったヒーローが助けてくれるわ」
「パパ、また目が腐ってます」
「きっとママ成分が尽きたから。ピジョニウムを必須とする美鳩にはよくわかる」
「いやわからんでいいからそんなもん。……つーわけだ、結衣。難しいこととか考えず、青春すりゃいいんだよ。もっと我が侭になれ。押し付けてみろ。可哀相な子になんかならなくても、お前が泣いたら俺が辛いんだよ」
「ぇ、や、やー……あの、ヒッキー? こっちのあたし、あたしじゃなくて───」
「ほれ、どうしたい?」
「………」
「ん?」
「……だ」
「だ?」
「抱きしめて……ほしい、かな」
「おう」
「《きゅむ》ふわっ……」
「次は?」
「はい! 絆もハグしてほしいですパパ!」
「なんの、美鳩はその上で愛を囁いてほしい……!」
「《ぎゅうう……》ん、んぅ……ひっきー……?」
「……愛してる」
「あ……ヒッキー」
「「ちょっと待ったぁああーーーっ!!」」
「ノーパパ違う! ハグするのは絆! 絆をよろしく!」
「そ、そう、違う……ちがう、パパ……! 愛は是非、美鳩に囁いてほしい……!」
「はぁ……客が居ないからと、急に本を取り出したかと思えば……」
「あーのー、あんまり注文こないと、暇で仕方ないんです、け、ど…………あの。雪ノ下先輩、何事ですかこのカオス」
「いつものことよ」
「……まあ、そうですけど」
「《カランカラーン》やあ、近くに用事があったから、寄らせてもらったよ」
「いらっしゃいませ。お帰りはあちらよ? 回れ右して帰りなさい」
「……久しぶりなのにあんまりすぎるよ、雪ノ下さん」
「葉山先輩、そうは言いますけど、どの道今は商売になりませんよ。ほら、あっちでいちゃついてる───」
「「「「いらっしゃいませ、喫茶ぬるま湯へようこそ《キリッ》」」」」
「いえ、えっと。……さすがにTPOは弁えてました」
「いらっしゃいませイカ野郎!」
「イカ野郎……!」
「あの。絆ちゃん? 美鳩ちゃん? なにかの真似なのはわかったから、イカ野郎はやめてくれるかな……」
「……このイカが」
「イカ……」
「そういう意味じゃなくてね!? 野郎を抜いてくれって言いたいんじゃなくて!!」
「そういえば、っていうのもなんですけど、今日は三浦先輩は一緒じゃないんですか?」
「ああ。翠の世話があるから、今日は俺だけなんだ」
「奥さんに子供の世話を任せ、女の園にやってくるその胆力……この絆、軽蔑します。ていうか軽蔑するし、むしろ軽蔑します」
「は、はは……軽蔑しかされてないね……。言い回しからして、途中までは褒められるんじゃ、とか考えてた俺がバカだった」
「三浦さんをあんなにも待たせていた時点でわかりきっていたことでしょう?」
「……あの。一応俺、客なんだから、もうちょっとやさしくしてほしいかな……」
「いらっしゃいませイカ野郎さん!」
「お待ちしておりました、本日はようこそ、イカ野郎……!」
「だからそういう意味じゃなくてね!? ていうか口調がどこかやさしくなっただけで結局イカ野郎じゃないか! ……で、あの。後ろで比企谷が由比ヶ浜さんとキスをし始めたんだけど。客として俺はどうしたら……」
「そうね、まずは客席へ案内するわ。どうぞこちらへ」
「こちらの席へどうぞー! お冷におしぼり、こちらメニューになっております!」
「Si、そしてこちらがかつて貴様が食わずにうやむやにしたバスターワッフル無料券になります……!」
「ごめん俺急用を思い出したから!」
「逃がさん《ピッ───ガラララゴシャーン!!》」
「出入口にシャッターが!? ちょっ……え、ぇええええっ!?」
「食い逃げ防止。これでもう逃げられない……さあ、たくさん味わって。どうせ無料」
「葉山先輩……まさかあの葉山先輩が、女性の手料理が食べられない、なんて言わないですよねー?」
「手料理っていうか普通に毎日店で出しているものじゃないか!」
「失礼ですねー、ちゃんと知り合いには真心込めますよぅ。というわけではい、暇だったのでみんなでつつこうと思ってたバスターワッフルです」
「MAXは僭越ながらこの美鳩が」
「結衣……」
「ヒッキー……」
「さ、葉山くん。店長からの空気までも甘い尽くしのサービスよ。是非とも完食していってちょうだい」
「……俺……ただ静かにコーヒーが飲みたかっただけなのに……」
「ん」
「当然のようにMAX渡されても困るからね!? 美鳩ちゃん!」
……その日。
いつもの調子で結衣といちゃこらして、時間が潰れ、ハッと気づけば結構な時間が経っていて。
これはよくないなと気を引き締めた途端、ドグシャアと何かが倒れる音。
何事かと見てみれば、テーブルに突っ伏し動かなくなった葉山が居た。
いや……なにやってんのこいつ、と訊ねてみれば、雪ノ下が「静かにコーヒーを飲みに来たらしいわよ」と教えてくれた。
……葉山も今が大変な時か。よっぽど疲れてたんだろうな、コーヒー飲んで突っ伏して寝るなんて。
「あ、じゃあ優美子にはあたしから連絡入れとくね?」
「おう頼む」
そんな行動の中、絆と美鳩が葉山の傍に寄って、なにかをぽしょりと呟いていた。
「あなたの男気……確かに見届けさせていただきやした。もはやイカ野郎などとは呼べませぬ……」
「ヒーローの話からどうしてこうなったのかはまるでわからないけど、今この時、あなたはヒーローになった。……完食、おめでとうございます……コングラッチュレーション……!」
「あ、きーちゃん、みーちゃん? ちなみにさっきのバスター、家族用だからお客さんに出すチャレンジバスターよりも全然甘くないよ?」
「おかえりなさいませイカ野郎!!」
「ようこそイカ野郎……!」
「……さすがに気の毒になってきたわね……。結衣さん、三浦さんにホットミルクでも用意してあげるよう伝えておいてあげて」
「ん、わかった! あ、ヒッキー!」
「おう、どした?」
「えへへー……あたしもね、ヒッキーのこと、大好き。愛してる」
「うぐっ……お、おぉお……~……お、おう」
いい歳をしたおっさんだろうに、たった一言二言で真っ赤になれる。
まあ、偉い人は言ったのだ。夢に年齢制限なんかないと。
夢にそれが適応されないなら、こんな夢のような日々にだって適用されてていいんじゃないかしら。
そんなわけで───《からんからーん♪》
「っと。いらっしゃい、喫茶ぬるま湯へようこそ」
ヒーローでもなんでもない俺が経営する喫茶店は、今日ものんびりと、しかし騒がしく日々を回っている。