どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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ワンクッション。クロス注意です。
といっても他者様の作品キャラが少々出てくるとか、内容はSAOなのに、SAOキャラはほぼ出てきませんとか、そんな程度ですが。
SAOは特にクロスの意味ねぇ! ってくらいですが、だってぼっちの物語ですもの。
そんなSSを書いてみたかったの……。
あ、三話で終わります。


クロスボッチャー
孤独者のSAO①


 たとえばだ。

 たとえば、急に自分が立っていた場所とは違う世界に飛ばされたら、どうする?

 しかもそこは現実世界じゃなくて、現実によく似た仮想世界だったら。

 さらに、その世界のボスっぽいヤツに死んだらほんとに死ぬと言われたら。

 まず最初の質問だが、違う世界に飛ばされたら受け入れる。そうしなきゃどうにもならんからだ。騒いで帰れるならそうするが、現実はそうじゃない。これに限らず、多くの場合の現実ってのは人を裏切るもんだ。

 二つ目の質問に自答しよう。飛ばされた世界が仮想世界だったら、べつにどうもせん。べつに異世界に飛ばされたのとなんも変わらんし。ただ、なんか知らんが顔がやたら整ってたり目の腐りが無くなってたから、まあそれはそれでいいんじゃあねぇの? あ? 手鏡? ボスっぽいやつの贈り物を手に取るとか、知らないおじさんからものをもらっちゃいけないって習わなかったの? 周囲が覗き込んで叫ぶ中、ずっとこのままだったわ。だから目は腐ってない。いわゆる“ゲームキャラの顔”のままだ。ていうかこれ、目が腐ってなくて髪型も整ってるだけで、普通に俺じゃないのん?

 さて三つ目。この世界のボスっぽいやつ、茅場とか言ったか? が、ここで死ねば現実でも死ぬと言った。……いや、うん。ゲームがどうとか以前にそのままここに飛ばされたから、死ねば死ぬって意識しかもってねぇよ。どうしろっての。

 というわけで、こうして命を懸けた……いや、べつに普通の話だが、命を懸けたゲームが開始した。

 ゲームをクリアしなければ戻れないっていうのなら、クリアすれば帰れるのだろう。

 ようするにクリアしろってことで。

 

「……まいったな」

 

 心が現実に追いつききれてないのだろう。後から考えればアホなこと考えてたと断言できるわけだが───俺には帰らなきゃいけない理由がある。

 紆余曲折あって、とある女性に心からおとされ、彼女をデートに誘って、そこで告白するつもりだったのだが───ああそうだよ、待ち合わせ場所に向かう途中でこんなことになったんだ。恨むぞ、茅場とかいうヤツ。

 人の一大決心を踏みにじりやがって───!

 

 

───……。

 

 

 威勢良くいけたのなんて、町から出るまでだった。

 厳密に言えば出て、モンスターと出会うまで、か。

 猪型のモンスターと早速遭遇、なにはなくとも回復アイテムと道具屋でアイテムを購入、初期装備のままでフィールドへと出た俺は、最初のモンスターの体当たりを受け、HPゲージがジリジリ減る様を見て初めて、こんなちっぽけなゲージとゲームエフェクトに自分の命が懸かっていることを認識した。

 そうなれば人はどうなるか? 怯えて引きこもるか、相手を完全な敵と判断、駆除するのみ。

 ……俺の場合は後者だった。

 気づけばボシュッとポリゴン片になった猪……フレンジーボアを見送り、恐怖と興奮のあまり肩で息をする自分。

 短剣の熟練度が上がるのを確認、取得した経験値や金を見て、やれないことはないのだという気持ちと、絶対に死ねないという強い意志が浮かび上がる。

 普段の俺からなら到底考えられない前向きな思考。

 だがハッキリ言おう。

 誰とも知らん大多数に任せてクリアなんて待てやしない。

 みんななんぞ知らん。

 自分が帰りたいと願うのなら、自分で進むのがエリートぼっちというものだ。

 

「待ってろよ、由比ヶ浜……!」

 

 なんの連絡もなければきっとずっと待っているであろう相手を想い、俺は駆けだした。……町へ。

 いや、だって結構ダメージ受けたし。まずは回復しなきゃでしょ。

 絶対に死ねないなら当たり前だ。

 

 

 

    ×  ×  ×

 

 

 

 フレンジーボアをよーく観察し、攻撃の初動、パターンなどを分析、確実に仕留め、余裕になるまで戦闘熟練度を頭と体に叩き込んだ。

 この世界でいかに自分が数値化されていようが、敵がどれだけ自由に動こうが、そこには当然生物や創造物としてのパターンがある。

 怒ればどう動くのかなどを当然のように分析して、まずはモンスターとしての、そして種族としての行動分析を開始。

 経験も積んでゆき、昼になろうが夜になろうがそれを続け、夜間戦闘の経験も積み続けた。

 攻撃も喰らわなくなったから回復アイテムを買う必要もなかったし、溜まった金で防具も買って、とにかく死なないための地盤作りは続いた。

 ものを攻撃する時に躊躇しないよう。

 攻撃を喰らう際に目を閉じぬよう。

 意識を平和な自分から鋭い自分へと沈める覚悟で、それを何度も繰り返した。

 誰々が死んだ、なんて言葉も右から左。

 ぼっちがぼっちらしくあるため、ただ独りで自身の強化に努めた。

 

  そうこうして一か月。

 

 ボス部屋を発見したとかで、その討伐隊が編成されるらしい。

 一応行ってみたんだが、サボテンみたいな頭の男がギャーギャー騒いでやかましかったって印象しか残らなかったよ。なんなのあいつ、あれならまだ音に反応して踊る花のオモチャのアレのほうが人を和やかにするよ。

 で、ぼっち殺しの、みんな大好き“パーティーを組んでみよう!”の掛け声で、早速俺の心は死んだ。とんだトラウマティックショットだ。もちろん俺は六人パーティーから見事にあぶれ、安定のぼっちである。

 しかし実力がないわけじゃないから参加しないわけにもいかない。むしろさっさと次の階に行きたい。ここらじゃもう経験の足しにならん。

 そうして迷宮へと躍り出て、順調に進み、なんの問題もなくボス部屋へ至り……戦闘は始まり、単独で動き自由にザコを倒しながら、ボスの行動を観察する。

 武器は斧……だが、腰にデカい剣を装備してる。

 あら? なんかタルワールがどうとか言ってなかったか?

 あ、これ言っておかないとヤバいやつや。けどぼっちの俺がどうやって───っと、丁度いいところになんか黒くてデカい外人さんが……って、あれ? ちょっと? ハードル高くない? いきなり外国人さんに話しかけろって、ぼっちに対してレベル高すぎない?

 

「にゃっ……なぁあんた!」

 

 噛んだ死にたいなにやってんの俺ェェェェ!!

 

「おう! なんだ!」

 

 あ、でもなんか乱戦中なのに聞く姿勢取ってくれた。いい人かも。

 

「敵が腰につけてる武器! 情報と違わないか!?」

「なんだと!? ……おいおいありゃあなんの冗談だ……! タルワールなんかじゃねぇじゃねぇか……!」

 

 黒い人はその後、大声でリーダー……ディアベルとかいったっけ? に呼びかけ、情報との違いを説明、敵の様子を見つつの攻防は続き、しかしそれが全体の一層の防御に繋がり、それぞれが互いの命を守り、ボスと戦うという経験を積んでいった。

 ……相変わらず俺はぼっちだったが。ちょっとそこのタンクさん? 今明らかに俺への攻撃のガード、忘れてたよね? 俺今べつにステルスヒッキーしてないよ? ねぇちょっと?

 そんなツッコミどころを何度も味わいながらも戦闘は続き、武器をスイッチしたボスの攻撃もきっちり捌き、総攻撃が開始される。

 途中、ディアベルが全員に下がれと命令したが、やべ、俺もう投擲しちゃったよ。

 そう思った時にはゾグシャアと投擲武器が兜を縫ったコボルドロードの目に突き刺さり、雄たけびを上げたコボルドロードがポリゴン片と化した。

 

「………」

 

 うわ、なにこのやっちゃった感。

 ディアベルが俺を呆然と見つめる中、しかし周囲は初めてのボス討伐に一気に盛り上がり、傍のヤツと拳を合わせたり抱き合ったり燥ぎ合ったりで大忙しだ。

 あー……まあその、なに? べつに俺、指示とかされなかったしパーティー組んでたわけでもねぇし、なにか言われる筋合いとかないんじゃね?

 なので“みんな”が騒ぐ中、一人でさっさと次を目指した。経験値と、ラストアタックボーナス……LA入手の文字に少し胸をワクワクさせながら。

 途端、ピピンッて聞き慣れない音と一緒に勝手にパネルが開き、ユニークスキルとやらの習得を報せた。

 …………。なにこれ。

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 

 ユニークスキルの名前は孤独者だった。あらユニーク! って喧嘩売ってんのかこの仮想世界。いやカヤ、カヤ……カヤなんとかさん。

 いやまあ自他ともに認めるエリートぼっちの八幡さんですから? 孤独者とかゲームに認められたってべつに事実なだけですし?

 ……ナイテナイヨ?

 

「なになに……?」

 

 孤独者。

 一人でPT分の経験値を一気に得ることが出来る。

 孤独で居る限り経験値6倍。仲間を得るごとに5倍4倍と減ってゆく。

 最大LVが600に変更。熟練度の最大値も6倍状態に。

 レベルがカンストしても仲間を入れれば500に制限されるので注意。

 

「………」

 

 世界にぼっちと認められた男は、どうやら個人として最強になれるらしい。

 じゃあ、もう、なんというか……レベリング、開始しちゃう?

 溜め息ひとつ、入手したLAとやらをタップして装備しようと───なになに? コートオブミッドナイト? やだ、なんか後頭部がミッドナイトみたいな名前。

 でもなんか装備者のレベルに応じて成長するみたいだし、装備しておいて損は無いか。

 これはいいものを手に入れた。

 

  そんなわけで、ほぼ休まずのレベリングは続いた。

 

 朝から晩まで敵を探しては砕き、レベルが物凄い勢いで上がるのを見送り、武器耐久度が減ってきたら、他に使う宛もない金で修理してもらって、レベルが上がりづらくなれば転移結晶を片手にボスに挑み、なんか勝てちゃって、次へ次へと進んだ。いや、もうね、熟練度の上がり具合も6倍な所為で、体捌きとかもう自分じゃないみたいで怖い。成長速度6倍だと、実感もないままゴリゴリ上がっていくから怖いよ逆に。

 だから慣れるためにザコと戦うんだが、そこでまたレベルが上がったり熟練度が上がったり。なんで俺、自分とイタチごっこしてるのん? ……けど、それはそれで丁度良かった。

 独りでいけるなら、困ることなんてないからだ。

 LA装備で自分を固め、町に戻ることが少なくなり、迷宮区でひたすら敵を倒す日々が続く。

 フロアも二桁になり、ぼっちのまま進み、途中で宝箱を開けると逃げられなくなるトラップとかにも遭遇したが、むしろ経験値の山だーとばかりに敵を倒しまくる。やけくそってやつだよ、ほっとけ。

 もちろん全てのボスとも独りで戦い、これ一人じゃ無理だろって相手でも投擲武器を上手く利用して撃破。八幡さんの投擲力は、“キミなんでこんな下層に居るの? 馬鹿なの? 死ぬの?”と思われるほどです。

 しかし最初に買ったガイドブック、すごい役立ったな。

 おかげでそこまでは順調に行けた。情報と違う場所があろうと、結局は観察しながら戦うから油断はしてやらない。

 むしろなんか観察眼ってスキルが異常なくらい上がってるから、もうオートで油断出来ないレベル。

 25階のボスが久しぶりに強かったーとかそんな感想は置いておく。

 お陰で調子に乗っていた気持ちが引き締まったから、また地道にレベルと熟練度を上げて、けれど出来る限り先を急いだ。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 それから五ヵ月もの月日が流れた───

 などと言ってみると、さすがにため息。

 ていうかこのスキルやばい。スキル熟練度が上がったら最大レベルがまた跳ね上がったんですけど。

 なんなの孤独者熟練度って。俺が一層ぼっちだって言いたいの? そりゃもう長い間、誰とも話してないけどさ。

 俺もう最大レベルが1200状態なんですけど。実際のレベルは354だが。

 

「モンスタートラップは何処ですか……」

 

 最近じゃ敵を探す方が億劫になってきた。たすけて小町。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 25、50と25ずつ数えた階層のボスの強さは、それまでとは違い歯ごたえがありすぎた。

 それを踏まえた74階層でのレベリングは過去に見ないほど続いた。

 いっそもうモンスター滅んでるんじゃね? とか冗談でも言いたくなるくらい、続いた。

 困ったものでどれだけレア鉱石とか手に入れても武器を作れる鍛冶屋がおらず、むしろ居ても知り合いでもなんでもないから作ってくれるかも解らず、相変わらずのぼっち生活は続いている。

 冒険を通して誰かと仲良くとか、恋仲になったりなんてことはない。だってぼっちだもの。

 むしろこんなくそったれな世界から戻れたら、もう無駄に完成された度胸を以って由比ヶ浜にプロポーズだって出来るよ俺。そして引かれてフラれるのな。……フラれちゃうのかよ。

 

「……うし」

 

 たまに冗談を混ぜないと自分が消えそうで怖いってのはある。

 必死すぎると見えなくなってしまうものとかって、あるもんだ。この世界でいろいろ学べた。学べたけど、いいことばっかりじゃなかった。

 まあ、ともあれだ。レベルもとうとうカンスト。熟練度も24000で終了したし、なんていうかもう負ける気がしない……と思うのはデスフラグなので、いつだって挑戦者の気持ちで挑むことを忘れない。

 

「んじゃ、いくか。回復アイテム良し、転移結晶良し、予備の武具は腐るほど、っと」

 

 じゃあいきますか。

 75層のボスよ、知りなさい。

 たとえあなたが何十人もの敵を滅ぼせる敵だとしても、その“何十人”の力が一点に集中された力と防御がどれほど強いか。レベルが2400で孤独者熟練度24000の超孤独人ゴッド超孤独人をナメんなよ。……やっぱりなんかおかしいよね、スーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人って。

 

「ふっ……ぬっ……!」

 

 ゴコォ……ン……と、巨大な扉を開けて、中へと侵入。

 すると、扉は勝手に閉ざされた。おお、なんか最先端技術……とふざけている場合ではなく。閉ざされたってことは、転移結晶は使えないんだろうなぁこれ。

 考えながら、敵が目の前に居ないのを確認するとすぐに上を向いた。

 気配察知も既にカンスト済みだ。そこに居る巨大な骸骨ムカデっぽいヤツに向けて、すぐに構えた投擲武器を無遠慮に投げつけた。

 落下してきたソレの額に投擲ランスはドゴォと衝突し、落下しながらソレは叫んだ。

 もちろん一発では終わらせない。とっくに二本三本とランスを投げていた俺は、油断することなく落下してくるそれを観察。落ちた瞬間に跳躍して衝撃波を躱して、その跳躍のままに剣からマグマが溢れる武器、インセンディエリを全力で振るい、ガサガサと蠢く骨の足の一本目を切断。

 痛みに悲鳴を上げている隙に二本三本四本と破壊して、ともかく移動手段を封じる。

 怒りの咆哮とともに振り向くそいつに再びランスを投擲、怯んだ隙にまた足を切断、ということを繰り返した。

 迂闊に胴体真っ二つ、とかすると、敵が二体になりそうだから、絶対にしない。

 

『クゴォオオオオオオッ!!!』

「うるせぇ……よっ!!」

 

 すべての足を切断したら後方から砕き続け、関節を狙って攻撃を続けては、やがて武器である鎌足も切断。骨ミミズみたいな姿になったそれを、ただただ砕き続けて滅ぼした。

 

「………」

 

 見飽きたコングラチュレーションとLAドロップの文字。

 とりあえずLAを確認するとして……なになに? サウンザンドリーパー?

 

 ◆サウザンドリーパー

 ソードスキルのディレイを大幅に上げる代わりに、通常攻撃のディレイを無くす。

 常に武器からソードスキル独特の光の軌跡が出るようになり、振るう全てがまるでソードスキルのようになる。

 ただし速度上昇や威力上昇などの効果があるわけではない。

 

「おお……こりゃいいな」

 

 装着決定。

 何故って、ソードスキルなんてもう使っていないからだ。

 この世界がカヤなんとかさんが作って監視しているような、ヤツにとっての箱庭ならば、退屈を嫌い、同じようにゲームに参加していると思うからだ。

 そんなヤツがもしラスボスになったりでもしてみろ、ソードスキルなんて読まれすぎてて、倒す前に殺されるだろう。

 だからヤツが開発や協力をしたであろう技は使わない。

 使うのはあくまで、極限まで隙を殺した攻撃だけだ。

 

「じゃあ」

 

 もうレベリングをする必要もないんだし、サクサク行くか。

 一歩を踏み出し、未だ下層で地道に冒険を続けているであろう他のプレイヤーを少々思いつつ、次を目指して歩いた。

 トラップなんかは全部滅ぼしてあるし、罠で死ぬことはないと思うけど……まあ、今さらだな。

 町の転移門もアクティベートはしているものの、名前とか誰にも喋ってないから誰かが来るとかもない。

 変わらずソロで生きる俺が、誰かと関わることなんて絶対にないと断言できるまである。

 そんなわけだから先を急いだ。

 

……。

 

 ……ん、だが。

 なんということでしょう、辿り着いた町に鍛冶屋がありませんでした。ていうかしばらく店らしい店も見てない。

 愛剣であるインセンディエリも随分と耐久がアレだから、そろそろメンテしないとヤバイ。

 

「……これメンテ出来るやつ、居るのか……?」

 

 不安だ。

 不安だが、愛着が相当あるから壊してやるわけにはいかなかった。

 仕方ない、腕のいいスミスさんが居るか、ひとつひとつ転移しながら調べるか……とほー……。

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 やってきたのは第一層。はじまりの町である。

 何故って、闇雲に探すよりも情報を得た方が早いと思った……俺が馬鹿だった。

 こんな人の多いとこ来てどーすんの。俺に、人になにかを訊ねるだけのコミュ力なんてもう残ってねぇよ……!

 孤独者のスキルがカンストしてから、なんかもう人を見るだけで心臓とかヤバいレベル。もうやだなにこれ。

 

「ととととにかく、なにか知ってそうなやつとか……そ、そう、なんか長老っぽいやつが居ればそいつとかっ……!」

 

 長老。なんかすげぇ知ってそう。

 でもこの世界のことを訊くんだったらプレイヤーに聞いたほうが早い気がする。

 いやむしろ情報とか纏めてくれるNPCとかいらっしゃいませんかお願いします。

 

「おぉおお! にーちゃんかっけー!」

「《ビビクゥッ!》ヒィ!?」

 

 そして突然声をかけられて、肩を弾かせる勢いでヒィと叫ぶカンストプレイヤー。

 ……ハイ、ボスより人間とのコミュが怖いです。

 

「なぁなぁにーちゃんその装備なに!? かっけぇ!」

「………」

 

 振り向くと、12歳くらいの子供が居た。

 目をらんらんに輝かせ、俺を見上げている。いやあの……なに? いきなり背後から声をかけるとかやめてくれません? 俺の気配察知がすごいとはいっても、行き交う人々全員に注意してたら心労とかすごいから無理なんですごめんなさい。

 

「おっ……おひゅっ……おう、ひょっろ……ちょっときひっ……訊きたいんだが」

 

 そして盛大に噛みまくりの俺。死にたい。

 

「ん? なに?」

「お、おう……すーはーすーはー……よし。今、一番有名な鍛冶職人って、誰だか知ってるか?」

「鍛冶職人……ああっ、鍛冶職人ならマスタースミスのねーちゃんがいるぜ!」

「いや、ねーちゃんじゃ解らんのだが」

「なんかずーっと鍛冶を任されたとかで、実戦とかは特にやらなかったそうなんだけどさ。すっげー武器作るんだぜ? あ。あとおっぱいでけぇ」

「そんなことは訊いてないんだが……」

 

 いや、うん。わかるよ? おっぱいはロマンだな、うん。

 堂々と言えるのは少年の証ってやつだろうか。素直に生きろ、少年。

 

「あー……で、そいつは?」

「なんか鉱石採りに行くとかで、軍のやつらと出掛けてったよ? 行く途中で会ったから訊いてみたら、マスタースミスが居ないと採れないだのなんだの。……でもへんなんだよなー。軍にあんなやつら居たっけなぁ」

「軍ってのは?」

「アインクラッド解放軍って名前のギルドだよ。にーちゃん知らねぇの? 今一番でかいギルドなんだぜ!」

「……。で、そいつらは何処に転移した?」

「たしか───」

 

 名前を訊いて、納得。確かに結構奥の方に珍しい鉱石がある場所はあった。

 俺は採取できなかったから、言っていることも間違いじゃないんだろう。

 ただ───

 

「よし、しゃんきゅ……げふん。サンキュな。ところでそのマスタースミスの名前は?」

「ユイねーちゃん。髪の毛ピンクっぽい茶髪で、おっぱいでかくて綺麗で可愛いんだ!」

「───」

 

 聞いた途端、全力で地面を蹴り弾いていた。

 別に他人がどうなろうと、と思っていた部分があったが、そんな自分を殺したくなるほどに。

 軍にあんなやつらが居たか、なんて疑問が本当に正しければ、外道で下種な行動を取るヤツなんざ腐るほど居るのだ。

 たとえば───こんな暮らしにいい加減嫌気が差し、オレンジになろうが構うかってヤケになったヤツらが、よってたかって女を囲み、武器で脅して倫理コードの解除を、なんて下種なことを……───!

 

「っ……!」

 

 全速力で転移門へ辿り着き、町の名前を唱えて転移。

 すぐに町を跳び出してフィールドを駆け、鉱石があった山までを駆け抜け───

 

「───だからよぉ……俺たちゃもううんざりなんだよ! こんないつ終わるかも、いつ死ぬかも解らねぇ世界で生きるのは! けどよぉ? なにかしらの楽しみがありゃあまだまだ……なぁ? 解るだろ?」

「へっへっへ、さっさと倫理コードを解除しろって。気持ちよくしてやっから《マゴシャア!》ょヴァアアーーーーッ!!」

「へっ!? ヘイーーーン!!」

 

 辿り着くなりヤクザキックが決まった。

 ヘインって男は勢いのままにバキベキゴロゴロズシャーと転がり滑ってゆき、道の先でピクピクと痙攣している。

 あ? 言ってやる言葉? これでしょ。

 

「……失せろ」

 

 マグマ煮えたぎる大剣、インセンディエリをドゴォンと地面に突き立てて“威嚇”を発動。

 ……男たちはホギャーとモンスターみたいな悲鳴をあげて、逃げ出してしまった。

 

「いやおい……もうちょっと粘るとか……おい……」

 

 威嚇だけで悲鳴上げて逃げられるレベルかよ……。やだ、もう強すぎて自分自身で引くレベルだよこれ……。

 頭をがしがしと掻きつつ、背後に庇っていた女性へと向き直る。

 まさか、と思わなくもなかったが……そこには、確かに見覚えのある顔。

 俺を見上げ、かなりびくびくと怯えている。

 衣服は無事なのに体を隠すように距離を取ろうとするその姿は、俺を異性として完全に警戒していた。

 

「……すまん。来るのが遅れた」

「………」

 

 声をかけても警戒は取れない。そりゃそうだ、恐らく、誰かの助けになるのならと手伝うために立ち上がったのに、脅されて倫理コードを解除しろ、ときたもんだ。

 相手が男ならそりゃ疑るし警戒する。

 

「けど、ああその、なんだ、あー……」

「……? え……?」

 

 頭を掻きつつ言葉を探し、しかし言葉が浮かんでこなくて視線を泳がし、もう片方の手はくねくねうろうろと蠢き奇妙に彷徨っている。玉縄ではない。断じて。

 そんな姿を見て、何故か女性……由比ヶ浜は目を瞬かせて、俺をじっと見つめてきた。

 ……あ? もしかして俺が俺だって解ってない?

 

「………」

「………」

 

 ……ああ! そういや俺、手鏡使ってねぇからプレイヤーキャラの容姿のままだよ!

 あ、ああまあよかった、のか? さすがに俺の姿を確認してから警戒されたらいくら俺でも傷つくよ。

 

「はぁ……まずは、あれだな。無事でよかった、由比ヶ浜」

「───! え、なっ……なんで、あたしの名前……」

「……こんな状況で自己紹介って物凄くアレだな……。まずはこれ」

 

 アイテムから手鏡を取り出して、覗き込まずに見せる。

 すると由比ヶ浜は「あっ」と声を漏らし、次いで俺と手鏡とを見比べて……目に涙を溜めて、おそるおそる訊ねてきた。

 

「……っ……ひっ……きぃ……?」

 

 俺はそれにこくりと頷いてやると、きちんと自己紹介を《どすぅ!》「ひきぎゅ!?」……比企谷、と言おうとした途端にタックルされた。もとい抱き着かれた。

 

「お、おいこらっ……」

「ひっきぃ……! ひっきぃいい……!!」

「…………ォゥ」

 

 男とはともかく、泣く異性にゃ勝てません。

 あと、知り合いが一人しか居ないであろうこの世界じゃ、そんな相手を心底大事にするのは当たり前のことなわけで。

 

「……とりあえず、こんなフィールドダンジョンみたいな場所で話を続けるのもアレだし……俺の家、来るか?」

「《ぎゅううう……!!》」

「……おう」

 

 きつく抱き締められることが返事だった。

 PTに招待して転移結晶使って自分のホームポイントがある階層を唱え、さっさと戻ったら家へと招待した。

 

「休むためだけに用意した場所だから、特になにがあるってわけでもねぇけど……」

 

 有り余る金で買った拠点、まあ家だな。に案内してみると、由比ヶ浜は借りてきた猫のようにおとなしくなってしまっていた。

 まあ、そうな。急に飛ばされてデスゲームですとか言われて、知り合いが全く居ない状況で知り合いに会えれば心底安心するわ。

 俺も今、めちゃくちゃそれを実感しているところだ。

 しかし説明しないわけにもいかないので、お互いが安心するための状況確認は始まった。

 

「まず俺は……お前をデートに誘ったあと、そっちに向かう途中でいきなりこの世界に飛ばされた」

「え? デート?」

「へ?」

「え?」

「………」

「………」

「デート、誘ったよな? ハニトー食いに行こうって」

「えと……あたしは、夏祭りの後に、家で眠ったら……」

「………」

「………」

「まあ、あれだな。ラノベとかそういう系のものである、人物は同じでもパラレル的なところから飛んできた、みたいな無駄な設定」

「設定とか言っちゃうんだ!? え、で、でも……えと、ヒッキーが知ってるあたしは、あたしと……えと」

「あー……おう。そのデートで告白するつもりだった」

「わあ……! いいなぁ、そっちのあたし……」

 

 いいなぁ、という言葉が実によくわかるほど、こっちの由比ヶ浜は目をきらきらさせて……けれど、少し寂し気だった。

 

「あーその、なに? 気にすんな。夏祭りってことは……ああ、あのあたりか。由比ヶ浜だから教えるな。俺を攻略したかったら、とにかく押せ。いいか? 他に目をやる暇があるなら俺に構いまくってろ。俺ってやつは自分に好意が向いても、それは勘違いだだのなんだのと屁理屈をこねる。つまり、勘違いって思う暇もなく好きって気持ちを伝えまくりゃあ簡単にオチるぞ」

「うわー……自分のことなのに……でも、ほんと?」

「そりゃそうだろ、だって勘違いじゃなけりゃいいんだから。“俺なんかより”だとか言い出したら、ヒッキーだから好きになったんだとでも言ってやれ。むしろ俺が言われたい。ほんとそう思ってるからあっさりオチるぞ」

「わー……うん、なんかヒッキー自身がそう言うなら、説得力とかすごい」

「あー……で、なんだが。ゆ、由比ヶ浜が好きなこととかものってなんだ? 俺も告白したいんだが、その……絶対に失敗したくねぇっつーか。今まで散々傷つけてきたから、本気の本気で幸せにしてやりてぇんだよ」

「…………。えと。ヒッキーはさ、この世界……クリアできると思う?」

「出来るぞ? あと25層だし」

「………………。え?」

「お?」

 

 ? 25層だよな? 25層だな。25層だ。

 

「えぇっ!? だって今っ……えぇっ!? 調査隊はまだ48層程度までしかっ……」

「ああ。俺ソロでやってるし他に情報とか渡してないからな。LAも全部取ってるから装備にも困らん。ただ、丁度メンテが必要だったから鍛冶屋を探してたら、お前を見つけた」

「………」

「……無事でよかった。ほんと」

「え、と……あたしが、ヒッキーが好きなあたしじゃ……なくても?」

「当たり前だ。世界が違おうがどうしようが、俺は由比ヶ浜結衣を幸せにしたいんだ。だから比企谷八幡の情報だって渡しまくるし、お前の恋も応援したい。っつーか是非ともオトしてくれ。その、なんつーかな。……お前じゃないと嫌なんだよ。他の俺でも」

「……ヒッキー……」

「あぁそうそう、手っ取り早く意識させたいならな、髪を黒に戻して、服装もきっちりして、んで、ラブレターとか回りくどいことせずに手を掴んで真っ直ぐに目を見て好きって伝えてやれ。誤魔化そうとする度に、言い訳する度に、目を逸らす度に。重ねられまくってりゃ罰ゲームがどうとか言えなくなるから」

「わ、わ、わ……! あたしに、できるかな……っ」

「んで、まだぐちぐち言うようならキスしてから真っ直ぐに、比企谷八幡が好きだって言ってやれ。どーのこーの言いながら、結局愛に飢えてんだから、そこまでやられりゃコロリだ」

「……コ、コロリ……なんだ……。でも、その、えと、あ、あたし、まだキスとか、初めてで……!《かぁああ……!》」

「そっちのヒッキーとそれをしたくないなら奨めねぇよ。他に好きなやつが出来るまで《くいっ》っと……」

「やだよ……他の男とか気持ち悪いし……」

「───…………そ、そか」

 

 まあ、とりあえず。利害関係が構築された。

 俺とこちらの由比ヶ浜は互いに頷いて、お互いが持つ自分のことを交換しまくった。

 しまくってしまくって、それで…………それで。

 

「………」

「………」

「……なんか、へんな感じだね」

「……そだな」

「ヒッキーなのに……ヒッキーじゃない、なんて。あたし、ヒッキーだからヒッキーのこと好きになったのに」

「それは意味が違うだろ。お前が好きになったのは、お前を助けた比企谷八幡だ。断じて俺じゃない。だから、お前はお前の“好き”を大事にしろ」

「……そだね。えへへ、なんか面白いよね。お互い同じ人が好きなのに、好きな人に好きな人のこと相談してるなんて」

「まったくだ。本人には出来ないな、絶対」

「そうかな。喜ぶと思うな、あたし。ヒッキーは?」

「照れながら、内心で“これは勘違いこれは気の所為これは別の意味だ”って言い聞かせてるだろうな」

「わー……照れてるのは解るけど、そこまでなんだ……」

「まあ、そうな。っと、そうだ。それで結局、武器のメンテは出来そうか?」

「あ、うん。それなら任せて。戦闘とかは全然だけど、スキルだけは完璧だから」

 

 妙な雰囲気になりそうだったから、別の話題……でもないか。本来の目的を話すことで、場の空気を繕った。

 由比ヶ浜は早速俺の武具を鑑定し始めるが、予想通りといったところか、ここでメンテは出来ないらしい。そりゃそうだ、工具がない。

 

「んじゃ、買うか」

「え?」

「由比ヶ浜、お前、ここ住め。あんなクズどもが居る場所に帰らせるとか、これからを想像するだけで吐き気がする」

「で、でも」

「……どのみち、あのアホども殴った所為で俺はオレンジだから、町には行けねぇしな。だからそのー……なんだ。ここなら安全だし、あー…………帰ってきて、気が許せる相手が居ると、俺も安心できるっつーか」

「……ヒッキー、もしかして小町ちゃんと会えなくて寂しい?」

「ばばばばっかお前! べべべちゅに小町に限った話じゃねぇし!? とと戸塚とか戸塚とか……! …………約束、果たせなかったお前とか」

「ヒッキー……」

「……頼む。いろいろあって、デートなんかに誘えるくらいにまでなれた俺達だけど、知ってることも解らないことも含めて不安なんだ。お前が別人なんだとしても、それでも由比ヶ浜結衣って女があんな目に遭いそうになる場面なんて二度と見たくないし想像したくもない。……ここは購入者が許可しなきゃ誰も入れないようになってるし、戦闘も出来ない場所だ。誘われたってここから出なけりゃ安全だ。だから───」

「……ヒッキー、そんな必死にならなくてもいいから。だいじょぶだから、そんな不安そうな顔しないで?」

「由比ヶ浜……」

「でも……あたしも集めた鉱石とかいっぱいあって───」

「…………《ちょいちょい》」

「ヒッキー?」

 

 鉱石とくれば話は早い。

 由比ヶ浜を手招きして、奥の倉庫の扉を開ける。

 …………。

 少しして、その平和な景色に少女の驚愕の悲鳴が響いた。

 まあほら、あれだ。下層のレアが上層ではボロボロ出るなんて、よくある話だ。

 稀少品とかも大体、敵がポロっと落としたりするしな。

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