どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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 pixivメッセ、“八結の集い”にて、あろえさんというお方のオリキャラ、アロエちゃんを俺ガイルに混ぜてみたSSを書いた時があったの。
 使用許可が出たので貼り付けますじゃ。

素敵な“アロエちゃん。”の内容はこちらの検索結果から。
http://www.pixiv.net/search.php?s_mode=s_tag_full&word=%E3%82%A2%E3%83%AD%E3%82%A8%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%80%82


もっさりなのですよぅ。《デーン》

 ───医者いらず。

 これを聞けばまず思い出されるのはアロエであろう。

 主に我々が見ているものはキダチアロエといい、独特の形、初見ならばサボテンの仲間? と首を傾げる者も多いことだろう。

 しかしその実、アロエという植物として独立して知られる存在は300種かそれ以上とも云われており、しかしながら食用として知られる物は極僅かとされている。

 そんな医者いらず代表のアロエだが、実は大根も医者いらずと呼ばれており、これは“あろえさん”が描いた絵でもわかる通り、医者いらずとしての見えないプライドをかけた戦いが繰り広げられたことは、想像に難くないだろう。たぶん。

 

 そんなアロエなのだが。あー、なんだ。どーしてこんな話をすることになったのかといえば、そもそもあんなことがあったから、なのだが。

 

   ×   ×   ×

 

 とある日、とある放課後の奉仕部にて。

 今日も今日とて依頼者の来ない時間潰しのためのラノベを開き、いつも通りの位置に座り、いつも通りの時間を過ごしていた。

 本日も面倒ごとなどなく、普通に過ぎると……誰もが、いや、誰もがは言いすぎか。俺の一存で誰もがとか決めつけられたら、いろんなやつらに「やだキモいちょっとやめなよ、ヒ、ヒー……ヒ、なんとか」とか言われかねん。

 想像の中でも名前すら知られてねぇのかよ。そっちの方が泣けるわ。

 

「ねぇねぇゆきのん。昨日さ、あたし暇だったじゃん?」

「知らないわ」

 

 あー、居るよなー、自分のことは知ってもらってること前提で話すヤツ。

 ちなみに俺は誰にも知られていないから、そんな言い方をされることなど絶対にないと断言できる。……出来てしまうのだ。やだ稀少。

 

「暇だったんだけどさ、ほら、日曜だったし。そんでさ? たまには誰とも遊ばず一人でってのもいーかなって、一人で出かけてみたんだ」

「そう」

「そしたらさ、ららぽの近くで店頭販売とかやっててさ! なんか可愛いアロエ売ってたの! あ、あと大根!」

 

 おいちょっと? そこで大根言う意味あったの?

 話の筋に関係ないならそっとしておいてあげなさいよ。大根だって案外つつかれたくない時とかあるかもしれないでしょ? イケメンが賑やかな街の話題を出してる時に、“あ、そういえばそこにヒキタニくんも居てさ”とか言い出したら、途端に場が困惑に支配される、あの微妙な切なさ貧しさと心細さを知らねぇのかよ。

 ミミズもオケラもアメンボも生きてるんだから、植物だって生きててもおかしくねぇだろ。きっとほらあれだよ、頭だけ出して地面に埋まってる在り方とか、本能的にぼっちを志す孤高の存在なんだよきっと。

 ……適当にでっちあげてたら親近感覚えちゃったよ。大丈夫か俺。

 

「可愛いアロエ……葉が小さい、というよりは、全体的に小さかったりしたのかしら」

「ううん? 可愛かった!」

「………」

「?」

「おい由比ヶ浜。雪ノ下が言いたいのは、あくまで具体的な可愛さであって、可愛けりゃなんでもいいみたいな言い方のお前のそれとはそもそも意味が違ってだな」

「なっ!? なんでもいいわけじゃないってば! てか聞いてたの!? 女子の話に聞き耳立てるとか、ヒッキーキモい!」

「こんだけ静かであんだけ元気に喋れば、耳塞いでたって聞こえるだろ……」

 

 そして結局どう可愛いのかがまるで説明されてねぇ。

 もうなんなのこの子ったら。っつーか由比ヶ浜のことだから、写真くらい撮ってるんじゃねぇの?

 

「由比ヶ浜」

「な、なに? その、話に混ざりたいならさ、聞き耳立てるとかじゃなくて最初からさ……」

「いや、そうじゃねぇよ。写真だよ写真」

「写真? しゃ……《ポッ》あ、あのさ、ヒッキー。撮って……どうするの……?《もじ……っ》」

「いやお前の写真じゃねぇから。話進まねぇだろうが、アロエの写真とかねぇのかって言ってんだよ察してくださいお願いします」

「あっ、わ、わかってるし! 写真ね、写真……えとー……」

 

 その反応はわかってない子の反応だってお母さんいっつも言ってるでしょ。言ってねぇしお母さんでもねぇけど。

 

「写真はないんだけど、動画ならっ!」

 

 ───そして。

 ほら、と元気に見せてくるガラケーに、それは映っていた。

 

『あろえ』

『あろえ!』

『あろえ?』

『あろえ』

『あろえ!?』

『あろえ』

 

 ……。

 …………え?

 

「あ、の……由比ヶ浜さん……? これっ……~……これは……?」

「へ? ……え? ゆきのんもしかしてアロエ知らないのっ!?《ぱあっ……!》」

「由比ヶ浜さん? 今すぐそのうずうずとした笑顔をやめなさい。知っているに決まっているでしょう。けれど、こんなアロエは見たことがないのよ」

「……つーかさ。これ、アロエなのか?」

「そんなの当たり前じゃん? “あろえ!”って言ってるんだし」

「本人(?)が言ってるからそうだってわけじゃねぇだろ。口癖ってだけだったらどーすんの。その理屈だとお前の名前が“ヒッキー・シ・キモイユキノン”になるだろが」

「待ちなさい比企谷くん。その言い方だと私が気持ち悪いというように聞こえるわ」

「てゆーかなんなのその名前!」

「あ? なにって……」

「あなたがよく口にする言葉を並べただけよ、由比ヶ浜さん」

「そ、そんなことないよ!? ゆきのん違うよ!? あたしもっとべつのこと言ってるし! ってかヒッキーキモい! 人の口癖おぼえとくとかほんとキモいから!」

「言ってる傍からコンプリートしてるじゃねぇかよ……」

 

 耳を傾ければ、ヒッキー、し、キモい、ゆきのん、くらいしか主に言っていないんじゃなかろうか。

 いや、そんな疑問は些細なことだ。この映像の先の現実に比べれば。

 

「それで、その……由比ヶ浜さん? 今の一連のことはなかったことにするとして、それがよしんばアロエだったとして、まさかとは思うけれどあなた……」

「? うん、買ったよ?」

 

 945円だった! と元気に言ってのける由比ヶ浜を前に、俺と雪ノ下は頭が痛くなるのを確かに感じた。

 

「それでねそれでねっ? この子が可愛いんだー♪ 水が欲しい時とかちゃんと喉が渇いたーって言ってくれてね?」

『言う!?』

「うひゃあっ!? え、え? なに? どしたの二人とも……」

「……由比ヶ浜さん。とても聞き捨てならない言葉が耳に届いたのだけれど。今あなた、アロエが喉が渇いたと言う、と……そう言ったのかしら?」

「? うん、言ったよ? なんで?」

「………」

「………」

 

 あれれー? おかしいぞー? 常識さんが呼吸してないぞー? …………急いで蘇生措置だ! 逝かせぬ! 決して逝かせはせぬ! 日々の大恩人をこのような形で失うというのなら、俺は恥にかけて生きてなどおれぬ!

 などとヴィルヘルムさんやってないで。

 大変困惑している俺と雪ノ下を前に、さすがの由比ヶ浜も戸惑いと疑問を抱き始めてきた。

 

「……え? えとー……アロエって、喋るん……だよね?」

「………」

「………」

 

 雪ノ下と二人、頭を抱えて“あちゃー、そう来たかー”と息を吐いた。

 

「だ、だってほらほら、構ってあげると喜ぶし、水のあげかたとかまちがっちゃった時なんてほっぺた膨らませて怒るし、ストローもおっきいと“細いのがいい”とか言い出して、あの途中でコキキって曲がるタイプのストローのがいいとか、頭のお手入れとかしてあげるとつやつやになって、えとえと、ほらっ、動画でもっ」

『もっさりなのですよぅ《デーン!》』

「ねっ!?」

 

 なにがだ。

 雪ノ下と二人、真顔で見つめ返すしかなかった。

 

「あ……でもね、買う時に気になったんだけど……ひとつだけツヤがないアロエがあってさ。あたしが見た時、最後まで残ってたけど……どうしたのかな。ちょっと心配だ……」

「そ、そう……」

「お、おう……」

「というか、あの……由比ヶ浜さん? それはその……飼えるの? 飼えるものなの……?」

「え? …………んっふっふっふーん♪ やだなぁゆきのん、アロエは動物じゃないんだから、飼うのとは違うんだよー?」

「───……比企谷くん。あなたの顔面を殴っていいかしら。ええ、もちろんグーで」

「なんでだよ!」

 

 怖いよ。あと怖い。

 

「あ、そだ。買う時にさ、えっとー……ほら。栽培方法が書かれた紙、もらったよ?」

「栽培方法? ……そう、あくまで植物だと言い張るのね……」

 

 言いつつ、由比ヶ浜がリュックから取り出した紙を受け取り、目を通す雪ノ下。すぐに読み終えたのか、珍しくも俺に渡してくる。

 珍しいこともあるもんだと紙を受け取り目を通してみれば、飼育、もとい栽培の仕方が確かに書いてあった。

 ……会話ができること前提で。マジか。

 

「……感情の起伏で様々なことを喋り、学び、成長していきます……?」

 

 【水は欲した時にあげるのがよいでしょう。体にかけると怒ります。水道水は怒ります。かといってミネラルウォーターなどならなんでもいいわけではなく、軟水硬水での好みもあり、その好みはきちんと本人(以下、本アロエ)に訊いてください】

 【土を湿らせるのは普通のアロエと同じ頻度でいいでしょう】……おい、普通のアロエとか書いちゃってるよ。どうすんのこれ。

 ええと? 【花を咲かせるには、アロエちゃん本アロエの並々ならぬ苦労と努力が必要です。本アロエ自身が良しとしない限り、無理に行動に移ってはいけません。特に断水は一ヶ月にもおよび、その末期に到る頃には真っ白なペテルギウス・ロマネコンティと言われても“あ、やばい、ちょっぴり納得できるかも”と思えるほどゲッソリします】

 【育て方により容姿が変わってゆくので、どうか大事に育ててあげてください】

 【“アロエ代表”のタスキをかけてあげると、しばらくドヤ顔が見られるかもです。会話も大事な成長の要素なので、たくさん語り掛けてあげてください】

 【目指せ! アロエ界の風雲児!】

 

「………」

 

 栽培の仕方から顔を上げた。

 ……遠い目をせざるをえなかった。あー、そこで同じように遠い目をしてる部長様の気持ちが、今、もんのすごーくわかるわー。

 

「ところでゆきのん、ふーうんじってなに?」

「……。状況の流れに乗って、劇的に活躍する者、という意味よ。そうね、わかりやすく言うのなら……物語の中、危機的状況に勇者の卵が現れて、活躍して勇者になる、という意味かしら」

「おおー……!? ……うん、そっか、うん」

 

 こくこくと無駄に何度も頷く由比ヶ浜。……ああ、こいつわかってねぇわ。

 

「あー、ほれ、あれだ。野球で追い詰められた時に、普段目立たなかったのに、ここぞって時にホームラン打って、一躍有名になったーとか、そういう“流れに乗って勇者になる”存在だ」

「あ、なるほっ───だ、だからわかってるってば! あれでしょ!? 棚からずんだ餅!」

「ちげぇよ」

「違うわよ」

「あぅっ……も、もー! 餅の話はいいから! とにかくほら! ねっ!? ちゃんと可愛いアロエでしょ!?」

「まあ、そうね。確かに、言葉通り可愛いアロエね。困ったことに、他に説明のしようがないくらい、“可愛いアロエ”だわ。けど、その。訊いてみたいのだけれど、これは本当にアロエなのかしら」

「え? うん。包丁で指軽く切っちゃったんだけど、髪の毛千切って傷に効くからって」

 

 やだ献身的……!

 しかも自己犠牲なのに自己犠牲って意識とか全然なさそう……!

 あと包丁使ってなにしてたんですか? 八幡とっても気になります。

 

「……なあ、雪ノ下」

「なにかしら比企谷くん。私、今はくだらない質問に使えるほど、頭に余裕がないのだけれど」

「くだらないって決めつけるなよ……まあくだらねぇんだろうけど。……アロエ界における危機的状況って、どんなもんで、このー……アロエちゃん? は、どう活躍したいんだろうな」

「……。人を癒す世界……? アロエの活躍の場といったら、それこそ医者いらずの代名詞を叶えて見せること、くらいなのではないかしら」

「スケールでけぇなおい……!」

「そうでもないわよ。……そうね。世界を変える、というのはなにも、私だけがどう、ということで完結するものでは必ずしもなかった筈で…………目から鱗だわ……!《ぱああ……!》」

 

 おい。おいちょっと? 由比ヶ浜さん? 部長様が植物人間(意味が違う)の夢に感銘を受けて、目をきらきらなされちゃってるんですけど? どうしたらいいですか誰か教えてください。ぼっちだから他人への対処なんてわからない。知らないフリとかスルーとか無視とか視線逸らしなら知ってるけど。あ、スルーでいいのか。……どれも大して変わらねぇよ。

 

「あ、でもね、本人は嫌がってもさ、土は定期的に変えたり、栄養あげたりしなきゃだから、そこが難しいみたいなんだよね。変えようとすると植木鉢にしがみついちゃって」

 

 ……想像してみたら可愛かった。やだ、欲しくなってきちゃった。俺、毎日可愛がるよ。時間なら売るほどあるし。ぼっちだから。

 そんで構いすぎてアロエにも“キモい”って言われるのな。……言われちゃうのかよ。

 

「自分の居場所を護るのに必死になれるというのは、とても素晴らしいことだわ。千里の道の一歩目から諦めることしか考えていない誰かとはひどい違いね、比企谷くん」

「人を引き合いに出して罵るの、やめません? いーじゃねぇかよ身の程と分際を弁えてるってのは。誰の邪魔にもならない、誰にも干渉されない。俺にも他人にもやさしい世界じゃねぇの」

 

 だからもし世界を変えるなら、教師が“二人一組でペアを作れ”とか言わない世界を作ってください。

 もちろん願ってみるだけだが。

 しっかしアロエね。

 喋るアロエって、一緒に暮らしてみたらどんな感じになるのかね。

 少なくともぼっちとは相容れないんじゃないかしら。

 ……会話に困って気まずい空気になる未来しか想像出来ねぇ。

 って、考えてみれば相手、植物じゃねぇか。

 いくらぼっちでも植物相手に口ごもったりとか……なんて言えるのはぼっちとしてまだまだ未熟だ。

 意思疎通できるんだぞ? 会話できるんだぞ?

 その時点でアウトじゃね?

 いや、アウトって思うからだめなんじゃねぇの? 逆にポジティブに考えよう。

 

 

  世界初! アロエに気持ちで負けた男!

 

 

 ……。

 

 

 陽が傾き始めた奉仕部。

 

 

 一人の、目が腐った男がマジ泣きしそうになったという。

 

 

 

───……。

 

……。

 

 奉仕部を出て、やがて分かれ道に来るまでは、終始アロエ談義で盛り上がっていた。

 ああ、もちろん俺は度外視する。

 知らないものな上に、ぼっちたる俺に盛り上がれとか難度高すぎだろ。難易度、なんて言うまでもなく難度で十分なくらい、難しさしか存在してねぇってレベル。

 

「たでーまー」

 

 家に帰れば安心の溜め息。やっぱ我が家はいいものです。

 玄関の鍵も開いてたし、小町ももう帰って───

 

「あ、お兄ちゃん! ちょっとちょっと! こっち!」

「あ? どしたー?」

「いーから! 焦ってるの見ればわかるでしょー!?」

「……?」

 

 小町に急かされ、1.1倍くらいの速度で急ぎ、招かれるままに洗面所へ。

 辿り着くと、そこには……!

 

『ぁ……ぁろ…………』

「───」

 

 どっかで見たアロエがおりました。しかも水浸し状態で。

 やだ……! 妹がよもや殺人……!? ん? 人? あー……さ、殺……アロエ?

 

「お水欲しいっていうからたっぷりジャバーってやったらこうなっちゃって! 小町ちょっと植物に詳しい友達に連絡するから、お兄ちゃんちょっと見てて!」

「は!? ちょ、待て! そういう重要なことを人に任せるな! お前それあれだぞ!? 全人類に嫌われる明確な行動、“人に任せといて最悪の状況になったらそいつの所為”って最低行為だぞ!?」

「あーもーうっさい! そんなことしないから見てて! いーい!? 絶対弱らせたりしないでね!?」

「なっ……おいっ……! ちょ……!」

 

 …………行ってしまった。

 やーだー、これ思いっきり言った通りのパターンじゃないですかー。

 ちょっと聞きました? 奥さん。最後にしっかり弱らせたら承知しないとかそれっぽいこと言い残したりしていきましたよ? そんなことしないからが聞いて呆れますわよねぇ?

 

「………」

 

 しかしだ。

 流石に目の前、というか眼下で弱っている命ある者、しかも意思疎通が出来る存在をこのままにしておけるほど、目以上に心を腐らせているつもりはない。

 とりあえずアレな。アロエ、水のやりすぎで検索だ。

 

「ちょっと待ってろな……てか、すまん。うちの妹が」

 

 謝罪を口に、スマホで検索。

 出てきた結果から対処法を選び、その上でアロエ本人……ん? 人? ああいやそれもういい、本人に訊き、望む通りの対処を続けた。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 環境を整えてやれば、ゆるゆると復活し、もっさりなのですよぅというよりは、しっとりなのですよぅといった様相のアロエが、俺の部屋の窓際にちょこん。

 しかし相当怯えているようで、戻ってきた小町を見た時なんか悲鳴をあげた。

 おい小町ちゃん? どんな水のやり方したの。タイダルウェイブでも発生させたの? それとも水を張ったバケツの中にでも沈めたの?

 …………訊いてみると、そのどちらでも視線を外したので、しばらく俺が預かることになった。うちの妹がすいません、なんて言う日が来るとは思わんかった。むしろ言われる方だと思ってたよ。うちの兄がすいません、って。……思っちゃだめだろそれ。

 

『………』

「まあ、気にすんな……ってのは無理だな。あー……じゃあ、その、なんだ。…………ゆ、ゆっくりしてけ? か? 俺にお前に危害を加える理由はねぇよ。元気になったら、それ以降どうするかは自分で決めりゃあいい」

『………《こくり》』

 

 おお、頷いた。

 ………………。

 いや、べつに可愛いとか思ってませんよ?

 ただ胸がとくんとかしちゃったとか……いや、だからねーから。

 

   ×   ×   ×

 

 それからも、世話をする日々は続いた。

 少しずつだが口を利いてくれるようになり、話が出来るようになると、身近なものの話題が増えて、一緒に見たテレビのことで盛り上がり、今週のリゼロ、よかったなーとか言い合ったり。

 ふと、俺が飲んでるマッカンが気になったのか、別の容器に開けた少量のマッカンをストローですすり、目を輝かせてくれたものの、あとで目を回してぼてりと倒れたこととか、しかし美味しさに共感してくれて、大いに燥いだり。

 そうした日々を続けていると、学校でもついニヤケてしまうことがあるようで、ついに奉仕部にてそれをツッコまれた。

 

「い、いや……俺も、な。ほらその、あれだ。アロエ……育て始めて、よ」

「そうなんだ!?」

「比企谷くん……あなたにそんな趣味があったなんて」

「おいやめろ、マジやめて? 俺だってたまにハッと気づくと、頭を抱える時間とかあんだから。植物相手にアニメの感想とかラノベの感想を笑いながら言い合ってるところ、小町に見られた兄としての俺の気持ち、お前にはわからねぇだろ……」

「………」

「その“もう手遅れなのね”って目で見るのほんとやめような?」

「ね、ね、ヒッキー、ヒッキー……」

 

 心に寂しい風が吹く中で、由比ヶ浜が俺の傍まで来て制服を引っ張る。

 やだ、誤解しちゃうからやめて? こんなことくらいでトキメくほど、今の俺は緩くない……つもりなんだけど、アロエとの会話が続いた所為か、どうにも表情が緩くなりやすくなってしまったようで、顔に出る。

 小町に指摘された時は死ぬかと思ったわ。わかりやすいくらい、感情が顔に出てるって言われた。

 まさかとは思うが、あのアロエって心の病っつーか、ぼっちまで治すんじゃなかろうな。

 ……なんか冗談どころじゃなくなってきた気がする。

 

「ヒッキーのとこのアロエちゃんってどんなの? うちのはね、なんか赤ってのかな、色が変わったんだ」

 

 ほら、と見せてくるガラケーの画面には、赤くなったアロエ。

 赤っつーか、こいつの髪の色に似ている。

 そしてもっさりだ。

 

「ヒッキーのとこのは?」

「い、いや、俺は写真とか撮ってねーから……な?」

「そなんだ? 授業中とか休み時間、スマホ見ながらニヤニヤしてたから、最初はわかんなかったけど、そういうことだったんだーって思ったのに」

 

 ぐぉはっ!? 見られてた……!

 い、いや、あれべつにニヤニヤしてたんじゃないからね?

 俺はただ、少しずつ元気になっていくあいつが心配で、けれど嬉しかったっつーか安心するっつーか。

 

「ね、ヒッキー、土のことなんだけどさ、ちょっと相談……してもいいかな」

「相談? いや、あいつ大抵のしてほしいことは口にするだろ」

「えー? そんなことないって。なんか悟りとか開いた目で、“なんもしなくていいのですよぅ”しか言ってくんないよ?」

「……お前なにしたの……マジで」

 

 ……まあ、こんなことがきっかけといえばきっかけだったのだろう。

 アロエについて由比ヶ浜と話す機会が増えて、さらに言えばアロエと話す時間がかなり増え、漫画も小説もアニメも一緒に見るし、散歩もするようになった。(植木鉢ごと俺が持って歩いたり、自転車の籠に入れて走るスタイル)

 気づけばコミュ障というものが薄れていき、笑顔も増え、ある日指摘されると、目の腐りもなくなっていた。

 医者いらず、すげぇな……と呟いた頃には、奉仕部での座る位置も変わっており……

 

「ヒッキーヒッキー、うちのアロエちゃんが、またヒッキー連れてこいってうるさくて……」

「だからお前の話題は偏りすぎなんだよ。今度アニメとか貸してやるから見とけ」

「……えと。それ、さ。ヒッキーの家で見るとか……だめ、かな。や、やーほらっ、うちもさっ、DVDとかって自分の部屋にないっていうかっ!」

「……? そうだったか? ああ、まあならべつに…………いい、のか?」

「う、うん。いいんだよ、うん。アロエちゃんも、ちゃんと連れてくから」

「そ、そか」

「うん……」

「おう……」

「………」

「………」

「…………………」

 

 気づけば、由比ヶ浜との距離も縮んでいた。

 なんの話? と誰かが割り込んでこようが、アロエの話と言うとみんなが首を傾げるもので、しかしながら今になっては妙に生きがいめいたものにまでなっていた。

 小町がそろそろ返してほしいとやってきても、アロエ自身がそれを嫌がり、結局は俺が責任を持って共存することが決定。

 今も俺の部屋で、俺の帰りを待っていてくれているのだろう。

 部屋に戻った時におかえりなさいですよぅとか言われると、ちょっと感動。

 ぼっちだった心が洗われるようだった。

 

「あっと、もう完全下校時刻だね。ゆきのんっ、帰ろっ?」

「え、ええ……」

「んじゃ、下駄箱で待ってるから」

「あ、うん。てか、ヒッキーの家で待ち合わせでいいんじゃない?」

「いや、家まで送って───……ぐぉぁぁ……!!」

 

 しかしだ。

 洗われすぎて、たまに無意識に自爆する。

 今も一緒に帰るのが当然、みたいな流れが勝手に自分の中で完成してたし、もう泣きたい。

 由比ヶ浜は由比ヶ浜で、顔を赤くしてぶちぶち言いながらも頷いてるし。

 

「………」

 

 そんな由比ヶ浜だったが、雪ノ下に「鍵は私が返してくるから、ここまででいいわ」と言われ、少し粘ったが頷いた。

 そうして由比ヶ浜と二人、アロエの話をしながら歩き───

 

……。

 

 ……たしたしたし、prrrr……ブツッ。

 

『ひゃっはろー雪乃ちゃん。珍しいねー、雪乃ちゃんから私に電話なんて。なになに? どうかした?』

「………」

『え? アロエ? アロエが欲しいって……え? 喋るアロエ? ……あの、雪乃ちゃん? アロエは喋らな……ちょ!? なにその深い溜め息! “わかってねぇなこいつ!”って意味が多分に含まれてるみたいで、お姉ちゃんとっても不快なんだけど!?』

「………」

『話についていけないって……今現在お姉ちゃんこそが話についていけなくて困ってるよ! 大体なんでそんな話に……待って待って泣かないで!? これじゃあお姉ちゃんが泣かせたみたいでしょ!? ていうか、え!? 雪乃ちゃんが泣っ……ちょ、えぇえーーーっ!?』

 

 

 

 ……後日。

 なぜか幾つか買っていたらしい平塚先生から、1アロエ譲り受けたらしい雪ノ下が、ドヤ顔で話に混ざってきた。

 それから奉仕部は賑やかになり、平塚先生ともアロエ談義をする仲となり、部員も顧問とも仲良しな部活がここに完成。

 大きな刺激はないがとても平和で、ある意味で青春満載な学園生活は、こんな感じで続いてゆくのだった。

 ただ、平塚先生から譲り受けたという雪ノ下のアロエが、時折『青春できているうちに、彼氏でも作った方がいいのですよぅ……』とか言うのだとか。

 ……先生、アロエにいったいなにを語り掛けてたんですか……。

 

 

 了

 

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