どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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ごちゃ混ぜた結果③

 そんなわけで店を出て外で待っていると、翆と和香がやってくる。

 

「お待たせ、ねーさんがた」

「お待たせいたしました、きずねーさん、みはねーさん」

「ううんっ、わたしも今来たとこだからっ☆」

「今日もテンプレ。では行こう、やれ行こう」

 

 翆と和香は小学生だ。

 わたしたちと違って、パパやママ、隼人さんや優美子さんが結婚してから出来た子供だから、まだまだ若い。って、わたしも若いけど。なにせ高校一年じゃけぇのう!

 あ、ちなみにきずねーさん、みはねーさんとわたしたちを呼ぶのが妹の和香。いろはママに似た髪型の、大人しいけど時に毒舌なかわいい妹である。

 翆ちゃんは普通に絆さんと美鳩さんと言ってくれる。

 ロングがよく似合うかわいいお子だ。でもモミアゲ部分はちょっぴりローリング。遺伝ではなく、優美子さんの真似らしい。くせが移ったのか、自分のことはあーしって呼んでる。

 

「今時の小学って楽そうでいいね。制服とかないんだっけ?」

「はい。でもそれはそれで、お気に入りの服ばっかり着て行くと、貧乏だのと騒ぐ馬鹿が居て困りますけど」

「あ~……いつの時代でも居るんだねー、そういう誰かをつつかなきゃ気が済まない連中……」

「Si……翆はそんな人になっちゃだめ。是非とも強く生きてほしい」

「それはもちろんですけど……美鳩さんたちの時代にもそんな馬鹿は居たんですか?」

「当然居た。なにせ美鳩は学校の男子なんぞに興味がない。どう見られようと私は一向に構わんと、同じ服を何着も持っていた美鳩はそれらを着ていたら、当然の如く貧乏人と言われた。もちろんその時は服装自由登校ではなかったから、普段着として着て、外で遊んでいた時に」

「あ……思い出しました。きずねーさんとみはねーさんが急に誰かを連れてきたと思ったら、“こいつに服を見せてやりたいんですがかまいませんね!!”と言いだして……あの日ですか?」

「いえーすざっつらいと」

 

 話しながら歩いてゆく。

 当然途中で分かれるわけだけど、そこまでは一緒だ。

 

「で、見せたら見せたで“同じ服ばっか、馬鹿じゃないの?”とか言い出すからねー……もうどうすればいいのやらって。結局は“論点がズレておるわ馬鹿たれがァー!”って言い合いになって」

「Si。貧乏かどうかがそもそもだったのに、何故馬鹿であるか否かになるのか……」

「そんな彼女も散々言い合って、心をぶちまけた今ではオトモダチなのさ。……あ、なにも言わずに出てきちゃった。そういえば店に来てくれてたっけ。奉仕部側の勝手口から出ちゃったから、彼奴め、きっと未だに客として店内に居るよ?」

「…………メールでも飛ばしておく。ワレ、交差点に到達せり。……送信」

 

 ……。

 ヴィー!

 

「おお、返信速い……んん……? “この薄情者どもが! 今ならパフェおごりで許してやるから待ってるように!”、だって」

「よし逃げよう。逃げ切れば奢らずに済む」

「清々しいほどに外道ですね、きずねーさん」

「任せてくれたまえよ我が妹! 我らがツッキーに声をかけられた時点でデザートに夢中で、話なんぞ耳に入っていなかった奴が未熟なのよグオッフォフォ……!!」

「未熟とかそういう問題じゃない気がしますけどね、あーし的には……」

「なはは、いいのいいの。わたしたちの関係はこれくらいが丁度いいってあの子もわかっててやってるから」

「Si、結局は奢るから、そこは心配しなくていい。美鳩たちはこれでバランスが取れている。実にジャスティス」

「それより月見だよ月見! 家帰ったら仕事手伝って、店閉めたら月見DANGO!」

「今年は晴れますかね、空。私としては少々心配ですよ」

「だーいじょーぶだってば和香~♪ 曇ってもパパが居るからっ!」

「そう、大丈夫。パパの拳は雨雲さえ吹き飛ばす」

「……改めて、自分の父親が普通ではないと理解できますね……」

 

 和香はどうにも、家族に対しても敬語だからいかんと思う。

 でもそういう自分でいたいっていう気持ちの表れらしく、たまに中二が入るので雪乃ママが大ダメージをくらう時がある。

 

「っと、じゃあここまでね。和香ー? ファイッ!」

「誰と戦えというのですか……」

「己自身に打ち勝つのさ! また会おう……成長した貴様の姿、楽しみにしておるぞ!」

「───フッ。この和香にかかれば人としての成長など造作もないこと。見ていてくださいその千里眼で。我は人として一皮も二皮も剥けて帰還いたしましょう……!」

「ん、実に良し。帰ったら団子、一緒に作ろう」

「はいっ、みはねーさん!」

 

 素直なところは素直だから、ほんと実に良し。

 チェリオー、と手を振り合って別れると、お互いガッコ目指して歩く。

 さて、今日はどげな一日となりますやら。

 

   ×   ×   ×

 

 どげな一日になりますやらと思ったな。特になにもなかった。

 期待して損したとは言わないけど、まあ平和な証拠ということで。

 そんなわけで現在は夜。

 生憎の曇り空で、客足もまあ平凡なものだったよ。

 けれども看板の電気を落とす中、雲に覆われた月を見上げて溜め息を吐くパパひとり。その名もパパである。当たり前だった。

 イベントには実にうるさいパパの知り合いであるから、今日も皆さま勢ぞろいだ。曇り空の下だっていうのに、みんな楽しむ気満々。

 

「はぁ……」

「はーくんっ、がんばっ!」

「おーう……」

「はーくん、市長からのお達しなのだから、気合いを入れなさい」

「同じ市長ならハガーにでも頼まれてぇよ……」

 

 たまに偉い人から依頼めいたものが来る、不思議な喫茶店。

 それを叶えるのは、常人じゃ出せない力を持っちゃったパパだけが為せる業。

 もちろん断るのも自由なんだけどね。

 かつてはいろいろあったらしい。

 特別ってのは、普通じゃないってことだから。めんどいね、世の中。

 

「はーちゃーん? 今回の依頼達成出来れば、市長がいろいろ融通効かせるってさー♪」

「楽しそうでいいっすね、あんた……」

 

 楽しそうにエールを贈るのははるのん。

 なにかしらの約束を取り付けたみたいで、上機嫌だ。

 

「はぁ……よしっ」

 

 構え、吸って、吐く。

 そうしてから“スキル”を発動させて、すごく……大きく振りかぶって、

 

「青春のっ……ばっか野郎ォオーーーーーッ!!」

 

 繰り出した右の大振りが虚空を殴りつけ、強烈な風の大砲を空へと目掛けて解き放った。

 それは轟音を掻き鳴らして空へと昇り、やがて月を覆っていた雲をゴボファァアン!!と穿ち、掻き散らすと、月の光が届かなかったこの空の下に、光をもたらしたのであった……!

 

「相変わらず無茶苦茶ですね先輩……」

「つくづく然り……! 是非とも、緋槍でも投げてもらいたかったところであるな……!」

「やめろ怖いわ。誰が回収すんだよそれ……。宇宙空間行かずに落下していったら、誰かに刺さるかもじゃねぇか」

 

 ロンギヌスの槍を投げた瞬間を垣間見たようだったわ、とはザイモクザン先生の言葉。

 いや、むしろ平塚先生の言葉か。エヴァンなゲリオンというか、FF8のグングニルというか。

 

「それじゃ、きちんと晴れたことだしカンパイしよっかー! はいみんなグラス持ってー? あ、若いコはジュースね? ……こらはーちゃん~? 誰がマッカンでカンパイしていいって言ったのっ」

「いやべつにいーじゃないすか。別に誰に迷惑かけるでもなし。むしろ常人よりカロリー消費するんすから、そういった意味ではマッカンというものは手早くカロリーを摂取できる“聖癒飲料水”というものであってですね《ごぽごぽ》だわぁああっ!? マッカンに酒注ぐとかなに考えてんすかちょっと!」

「んふふー……♪ 社長権限っ♪《ぱちんっ♪》」

「……ウィンクって歳でもないでしょーに《どぼぉ!》ごはぁっ!?」

 

 パパがはるのんに社長ボディを喰らわされる中、カンパイは一斉に行なわれた。

 月見でカンパイなんて、って思うだろうけど、ぬるま湯では珍しいことじゃない。

 どういった理由にせよ、お祭り騒ぎの口実が欲しいんだ、この社員たちは。

 

「なぁなぁ八幡~、昨日さぁ、姫菜がさぁ~!」

「お前はほんと、テンション変わらねぇのな、翔……」

「いんやぁ俺だってちゃんと時と場所を弁えることくらい覚えたぜー? ただ話す相手によってその差とかテンションが違うっつぅかぁ! あ、っつーかそっち、服とかどうなってる? 和香ちゃんとかどんどん大きくなるから、服もちっさいべ? 服なら注文くれりゃあ作るから、いつでも言ってくれなー?」

「おう、助かる」

「……で、どう? 奥さんとは上手くいってる?」

「問題ねぇよ。毎日幸せだわ」

「んっへっへ~、もち、俺もだから、毎日顔とかにやけまくりんぐでしょお俺の人生ってばさぁ!」

 

 戸部翔。

 パパのお友達で、あることがきっかけでとてもパパのことが好きになったそう。あ、友達として。

 海老名姫菜さんと結婚して、海老名さんの趣味から発展したのか服作りの道を歩いて、今ではHARUNOブランドで服作りをしている。ようするにはるのんの会社の系列で、方向性は違うけど会社の系列は一緒なのだ。

 私服とかはほぼがHARUNOブランドの服だ。

 服といえば川崎沙希さんもHARUNOブランドで服の店を出していて、翔さんとは方向性の違うもの。うん、つまりわたしたちはどっちかっていうと沙姫さんのところの服を着ている。

 翔さんはどっちかっていうと姫菜さんのサポート。

 沙希さんのサポートは小町お姉ちゃんがやってるといった感じ。

 つくづく、HARUNO社員は優秀すぎると思うんだ、わたし。

 隼人さんは顧問弁護士だし優美子さんは美容師だし。

 周囲を見渡してみれば、なにかしら技術を持っているわけで。

 ぬるま湯を始めるにあたり、取得したにも関わらず活かせない技術もあったりしたらしいけど、まあそこはそれ、持っておいて損はなかった程度に受け止めたらしい。

 むしろはるのんが資格を取らせまくったみたいで、なにかがダメでもなにかにはなれるよ、というのが昔から聞かされていた安心の言葉だった。

 

「月に向けて思うこととかってなにかあるかな」

「んん……弾けて混ざりたい?」

「大猿になってどーするの」

 

 一度飾りゃあ十分でしょー? と我先にと団子を食べたはるのんの横で、わたしも団子を食べる。

 うん、今日もママの作ったものは美味しい。独特というか。

 いろはママの作ったものはランクがひとつ上な味だったりしますが、やっぱり娘だからかな、ママのが一番しっくりくる。舌に馴染むというか。

 なじむ……実になじむぞっ!!

 

「今日も騒がしいね、この店は」

「Si、実によいこと。そしてイベントの度に恋人気分でいちゃつく両親がとてもジャスティス」

「なはは、まあ、いつものことだよねー。……よし美鳩二等兵! わたしたちも乗ろうじゃないか! このビッグウェーブに!」

「ポセイドンウェーブ?」

「それラリアットだから!」

 

 笑いながら、騒がしさの中心へと駆け出し、ママの反対側からパパに抱き着いた。直後にわたしごと美鳩にも抱き着かれ、パパ困惑。

 そんな困惑も無礼講とばかりに笑い合って、今日も今日が終わります。

 

 ええ、今日もぬるま湯は平和です。

 




 これにてストック終了。
 あとは思い付いたら書く、といった方向で追加していきます。
 むしろギャフターに取り掛かると思うので、こちらは急に思いつかない限りはしばらくお休みかもです。
 うーん……俺ガイル小説初投稿が2015年の10月14日。
 一年と3ヶ月あたりで180万文字は書いたほうなんですかね? よくわからんとです。
 なんにせよ、ガハマさんとヒッキーを幸せにしたいという初志を貫徹できたかもしれないSSでござった。
 
 ではでは、一旦休憩を取ります。
 とかいって急に書きたくなったらまた投稿すると思うので、その時に「しょおぉお~~~がねぇなぁ~~~~ぁああ!!」とホルマジオな気分になったら読んでやってください。
 いえ、べつにホルマジオじゃなくても気が向いたらどうぞよろしくです。

 したらな!

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