どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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人、それを蛇足と呼ぶ。
いえ……コケるとわかっててもですね……なんというか……フフフ、好きなんですよ、蛇足。
幾度も結ぶ僕らの恋の一応の落着物語みたいなものですが、あれはあれで終わってたほうがいいという人には向きません。
うん、正直いちゃいちゃして。時に悩んで、をする程度です。
……UPするかは相当悩んだんですけどね。
あまりいい思い出の無い内容になっております。個人的な話ですが。


お互いが好きすぎる男女のお話
ちらりと見ればもじもじしている二人


 人が変わる瞬間っていうのを知っている。

 きっかけがあったり、きっかけに気づけなかったからこそ急に変わったって思ったり。

 ただ、そのきっかけ自体が特殊な所為で、変わったわけでもないのに変わったって思っちゃったり。

 あたしが知るその人は、最初の頃は自分とよく似ていたんだと思う。

 あ、や……詳しくとか深くとか、考え始めちゃったら似てない部分なんていっぱいだ。

 その人に対して“あ……そっか、そうなんだ”って思うことを口にすれば、頷けることなんて多くて。

 ただその、あたしたちがお互いに“似てるな”って思うところは、あたしたちが思う以上に別のところにあったんだ。

 

  たとえば、ペット。

  たとえば、妹。

 

 今まで近い人とか動物に向けていた気持ちがそれ以外に向けられて、想いの量がまったく違うから“変わった”なんて気づかない。

 たとえばあたしはサブレが好きだけど、恋愛かーって言われたら違う。

 たとえばヒッキーは小町ちゃんが大事だけど、恋人として付き合いたいかーって言ったら違くて。

 だからきっと、あたしたちは“人が変わる瞬間”っていうのを知っている。

 知ってるけど、いい方向での人の変化を見たことはあんまりない。

 だからこそ、あたしはあの病院での出会いをとても大事にしている。

 人が車に撥ねられたことを喜んじゃいけないけど、出会えたことにありがとうって言うなら、そんなことにも頷かなきゃいけないと思うんだ。

 

  時々に夢を見る。

 

 白が基準の景色を歩いて、罪悪感に押し潰されそうになりながら病室を目指して、でも病室の前に辿り着くと、入る勇気も出せなくて。

 目をぎゅって瞑って勇気を出そうとするのに、思い返されるのは人から向けられる嫌な感情。

 人に合わせなきゃ歩けなくなるくらいの“人の悪意”を思い出すと、足が震えた。

 もっと簡単ならいいのにって、何度思っただろう。

 ただ無邪気に笑って、友達とわけもなく楽しんでいられたとても小さな頃を思い出す。

 そんなコとも団地から離れる時に離れ離れ。いつしか連絡を取らなくなっていた。

 最初の頃は何度もした。その日に起きたことを一生懸命話して、“離れても友達だ”に憧れるみたいに。

 でも、次第に相手からの会話の量が減って、ついには“友達が来てるから”で終わった。

 その時に、ああ、そっか、って。

 悲しみは消えるのだ。同じように、喜びも消えるのだ。

 彼女が悪いんじゃなくて、新しい環境に馴染もうとしないで、後ろばかり向いていた自分が悪かったんだ。

 

  じゃあ頑張らないとっ。

 

 ようやく前を向こうって思ったいつか。

 でもそうするには遅くて、とっくに固まってしまった新しい環境だった筈のグループには入れずに、馴染めずに、やがて……声をかけられれば「そ、そうだよねー」って合わせてばかりの自分が完成していた。

 楽ではあったんだと思う。

 言われたことを解ってもいないのに頷いて、家に戻れば頑張って話題の勉強して、なのに翌日には別の話題が出てて。

 嫌われたくないから、そっちの勉強ばっかりしてたら、成績は落ちる一方で。

 嫌われたくないから、相手のいいところを見つけられるように頑張るようになって。

 

  きっかけ、なんてものがあるならきっと些細なこと。

 

 リセットをしたかったのか、ただ新しい環境でならって思ったのか。

 身の丈に合わない高校を目指して、頑張って勉強をして。

 学校の先生に無理だって言われても頑張って。

 ……たぶん、自分の中の“無理だ”をなんとかしたかったんだ。

 “あたしだってやれば出来るんだ”って、なにかを変えたかったんだと思う。“このままじゃいけない”をかたちに変えて、“自分だって出来るんだ”が欲しかった。

 自分のことなのに曖昧な気持ちを、自分を変えるきっかけにしたかったんだ。

 大丈夫、今度も出来る。

 団地の友達は、変われたからああなったんだ。

 だから。

 だから───……合格発表の時、あたしは確かに自分を変える一歩を、自分で踏み出すことが出来た。

 そこから変えられる。

 きっと変えられる。

 

  なんだ、やれば出来るじゃん!

 

 不安が一気に自信になると、あの頃の笑顔を思い出せた気がした。

 ママに散々自慢して、嬉しくて、楽しくて。

 今度こそ失敗しないようにって話題になりそうなことも勉強して、勉強の復習もちゃんとして。

 入学式の日、自分でもちょっと呆れるくらいに早起きをしちゃって、目が冴えちゃって。

 だから……あんなのはちょっとした気まぐれだったんだ。

 今でもそう思う。

 どうして、なんて自分でも解らない。

 なのに、どうしてあんなことをだなんて思いたくもなかった。

 

  間ぁああに合えぇえええっ!!

 

 『まただ』

 『どうして』

 『変われると思ったのに』

 暗い絶望に叩き落とされそうになった瞬間を。

 浮かぶ限りの後悔が、すごい速さで自分の中で黒くなっていく世界を。

 きっと真っ黒になって、もう浮かび上がれないで沈んでいくだけだった自分を、救ってくれる人が居た。

 

「──────」

 

 そうして、あたしはここに立った。

 勇気が出せずに震える足に喝を入れたくて、なのに出来なくて。

 白が基準の景色の中で慌てる自分と、背中を押す、ちらって覗く八重歯が可愛いコ。

 

  ───きっかけってものがあるとする。

 

 それは大事なものからくっだらないことまで、ほんといろいろだ。

 でも───あたしがあたしの人生を大きく変えた、大事な大事なきっかけのことを口にするんなら。

 

「お兄ちゃんうるさい。とにかくほらっ、入ってくださいったら!」

「ひゃああっ……!」

 

 押されるままに入った、この病室から。

 もっと言えば、後悔だけで埋め尽くされる筈だった、散歩に出かけたあの朝から…………きっと。

 

   ×   ×   ×

 

 大事にされてるんだなって自覚したのはいつだったかなぁ。

 たまに、なんだかいきなり頭の中に疑問が浮かぶことってあると思う。

 

「………」

 

 ある土曜日の学校。

 土曜なのに、生徒会奉仕部は慌しい時間を過ごした。うん、過去形。今は結構暇してる。

 ちらって見れば、みんな溜め息吐いてる。そうだよね、休みだったのに学校だもん。知ってたならまだしも、いきなり用事とかはぐったりしちゃう。

 

(人、増えたよねー……)

 

 思えばとっくに大所帯。

 小町ちゃんが無事に入学して、早速奉仕部に入部して、それを追うみたいに川崎さんの弟のえーと、川崎大志くん? が入部。

 いろはちゃんはとっくにだし、葉山くんも優美子も居る。奉仕部もおっきくなった。今は生徒会だけど。

 ていうか部員が優秀すぎて問題が特にないっていうのもすごいよね。

 

「ん-と」

 

 自分で言うのもなんだけど、3年になって今日まで、あたしも随分と成績が上がった。今も頑張って勉強はしてるし、知る努力もいっぱい続けてる。お蔭でちょっと不安だった生徒会って仕事も出来てる。うん、ちょっとだけ誇らしい。“副会長になったよー!”ってママに自慢したら、あらあらうふふって笑われたけど。……ヒッキーにもゆきのんにも証言してもらって、ようやく信じてもらえたあの日がちょっと懐かしい。

 なにかを知るって素敵だねって、なんかそんなことをしみじみ言いたい気分だ。それを届けるなら誰でもいいわけじゃなくて、自分の大好きで大切で自慢の彼氏に届けたい。

 出来ればえっと。

 うん。

 こんな雨の日には、彼の部屋のベッドで。一緒にごろごろして。

 えっちな意味じゃなくて、じゃれつくみたいにして、ごろごろ。

 

「………」

 

 は~……って息を吐いて、書類を纏める。

 数はあったけど確認だけだったから、そんな難しくもない。

 中学の頃からは考えられないな~って、黒い髪を纏めたお団子をくしくしいじりながら、しみじみ。

 そんな時、隣に座る彼が「雨だな……」ってぽしょり。

 それだけで、胸がとくんって鳴って、期待してるあたしがいる。

 デートするのもいい。ウィンドウショッピングとか、見て回るだけでも……隣にこの人が居てくれるだけで楽しい。

 雨の日とかに出かけるのはちょっとだけ億劫だけど、彼となら全然嬉しい。

 でも、こんな雨の日は出掛けたりしないで、ベッドの上で抱き合いながらごろごろするのが、あたしは一番好きだったりする。

 他の誰に言っても、きっとえっちなことを考えると思うけど、あたしたちはそういうつもりは全然なくて、ただ本当に抱き合って、たまにキスをして、やっぱり抱き合うだけ。

 

「………」

 

 隣じゃヒッキーがスマホで天気の流れを調べてた。

 今日一日はほぼ雨、途中で晴れることもあるかもだけど、明日は豪雨注意。

 軽く覗き込もうとすると、ほれ、って見せてくれる。

 むう……覗き込むついでに、もうちょっと近づきたかったのに。

 そんな想いを込めてヒッキーを見ると、ほっぺたをちょっと掻いてから、とすんっ、て椅子ごと近づいてくれた。

 

「………」

 

 不思議だなぁって思うのに、それが嬉しくてむず痒くて。

 

  なんで言いたいことが解るの?

 

  ……よく見てるから。

 

 見つめることで訊いてみたら、そう返された気がした。

 あたし、顔を熱くして俯くしか出来なかった。

 

「いやー……雨ですねー……」

「ええそうね、雨ね」

「いんや~せっかく土日だってのに雨続きだと、料理教室とか開けなくて残念だわー……」

「あ、うん。そうだね。僕も出来れば明日とか、久しぶりにやりたかったんだけど……」

「残念だけど明日は豪雨注意だな。優美子も楽しみにしてたんだけど……本当に、残念だよ」

 

 葉山くんの言う豪雨って言葉に、ちょっぴり憂鬱な気分になる。天気が良ければ料理の練習、できたのに。

 ……お料理教室。日曜にたまにやってる、料理の腕を上げる授業だ。

 授業っていっても先生はその時によって違うし、本当に教師を連れてくるわけじゃない。

 やることといったら、たとえば親が居ない時間に家に集まって料理をする、くらいのやつ。

 会場は大体ヒッキーの家か、ゆきのんの家だ。

 作る料理は簡単なものから手の込んだものまで。

 最初はえとー……なんていったっけ。ば、ばんぷ? 将軍のさっと一品、っていうのから始まったはず。

 “ほのぼのしたのが見たいな”ってさいちゃんが言い出して、“ふぅん! ならば良いものがあるぞ!”って持ってこられたのが、川崎県川崎市で繰り広げられる善と悪の壮絶な戦いの物語だった。

 

「いやいやー、それもなんですけどね? 先輩がた」

「んん? 比企谷さん? 雨だとなんかあるの?」

「ふふーん、わかってないなぁ大志くんは。雨の日はねー…………にひー♪」

 

 小町ちゃんがこっち見て、八重歯を覗かせるくらい、にーって笑う。

 な、なにかな? え? あたし、なにかした?

 雨の日は───……うひゃあそうだった! 前に小町ちゃんに、ヒッキーと一緒に寝てるところ見られて……!

 や、や、でもでもあれから結構経つし、それのことじゃないかも。

 

「それだわ~、雨っていったら八幡とガハマっちゃんだべー!」

「あ、うん。僕も雨って聞いたら二人を思い浮かべちゃったかな……」

「はぽん? 何故デアルカ? 我にもわかるように平明に教えてくれない? 八幡」

「そこで俺に訊くのかよ……」

「俺も興味あるかな。八幡、なにか、雨の日に起きた思い出とかがあるのか?」

「あのな、隼人。サワヤカに訊いてきても応えないからな? いいからお前はそっちで三浦さんといちゃいちゃしてろよ」

「…………《グッ》」

 

 ヒッキーの言葉に、優美子が机の下でグッと拳を握ったのが見えた。

 ヒッキーってこういうところのフォロー上手いんだよね。お蔭で優美子も、“ヒキオって予想以上にいいやつじゃね? あーしかなり見直したわ”とか褒めてくれたし。

 なんだか自分が褒められるより嬉しかった。ヘンかな。

 

「はー……それにしても、仕事がないとただの仲良し倶楽部みたいな場所ですよね、ここって……」

「一色センパイ! 俺結構好きっすよ、こういう雰囲気っ!」

「大志くんって、成長したら熱血高校男児~~って感じになって、結構うるさそう……」

「いやあの、俺、現在進行形で高校男児っすけど……」

「野球とかやってそうなイメージなのに。なんで生徒会奉仕部に入ったの?」

「えっと、それはー……《ちらり》」

「?」

 

 いろはちゃんの質問に、川崎くんがちらって小町ちゃんを見る。

 小町ちゃんはきょとんって首を傾げたあと、鏡で自分の顔になにかついてないかとか確認してた。

 …………うん、川崎くん、がんばって。

 たぶん小町ちゃん、そういう方向には結構鈍感だろうから。

 ヒッキーは……

 

「…………《ちらっ》」

「…………《ちらっ》」

『《びくっ! ……かぁあ……!》』

 

 ヒ、ヒッキーは……敏感だよね? ほらっ、そのっ……あたしが気づいてほしい時とか、すぐに気づいてくれるし……!

 “わざと気づかないように”してなければ、きっともっといろんなことに気づいてくれてると思うんだ。

 

『…………《きゅっ……さわさわ》』

 

 長机の下で二人、手を伸ばして手を握って、お互いの手をさわさわって撫でる。

 くすぐったくて、嬉しくて。

 恥ずかしくて顔は見れなくなっちゃって、そしたらヒッキーが紙の端に小さく文字を書いて……

 

  好きです

 

 かあ、って余計に顔が熱くなって。気持ちを伝えたいのはこっちだって同じなんだってわかってほしくて、あたしも自分のシャーペンを出して文字を書く。

 

  あたしのほうが好きです

 

 ハッとした彼が、顔が緩みそうになるのを耐えながら、また書いて、あたしも書いて。

 

  俺のほうが、あたしのほうが

 

 意地になって書くのに、喧嘩になるわけでもなくて、目が合えば嬉しくて勝手に顔が微笑んで。

 こつん、ってぶつかった左と右のペンを持つ手が重なり合って、握り合って。

 

『………………《じぃいいいいいいい~~~》』

 

 ……もう少しで重なりそうだった口を、繋いだ手と一緒にすぐに離した!

 ななななんでみんなして見てるの!? ここここういうのは恋人同士の大切なことなんだから、見ちゃだめなやつでーーーっ!!

 

「あっ、どーぞどーぞ続けてください結衣さんっ! 他人の青春を見るのも青春ってやつですって!」

「あ、そっか、じゃあこれでわたしもようやく青春できるってことですね! じゃあやっちゃってください! 一色いろはっ、ここで起こることの全てを書記補佐として記録しますから!《スチャーン!》」

「なんでそこでスマホ構えるの!?」

「っかー、もうちょいだったのに惜っしいわ~……いやぁめんご? べつに邪魔するつもりとか全然なかった系のアレなんだけどさぁ」

「あのね、八幡。僕、そういうのがいけないっていうんじゃないけど、恋人同士の大切なことなんだから、人に見せちゃだめだと思うんだ」

「ぅぉっほぉん~~む! むしろいいぞもっとやれというやつであるな! なんかもう我羨ましいを通り越して悟りの境地に辿り着いたでござる」

「というか……なぁ八幡? 実際どうなんだ? 君は独占欲とか強いのか?」

『聞くまでもない』

 

 べ、であろう、んじゃないかな、って言葉が続いた。

 訊いた葉山くん、すっごく戸惑ってる。

 

「………」

「………」

 

 ちらって、隣を見る。

 やっぱり丁度目が合って、でも今度は目を逸らさない。

 

「あの……あたし、独占…………されてる?」

「あ、い、いやっ……俺はそんなっ、好き、だけど……行動を制限とかするつもりは……」

「されてないん……だ……」

 

 あたしがおかしいのかな……ヒッキーにならそうされたいって気持ちが溢れて、されてないって知ったら残念で、寂しくて。

 心がしょんぼりするのを感じたら、ヒッキーが慌てて言ってくれる。

 

「そっ、そりゃしたいけど! ずっと俺の隣にって抱き締めていたいけど! でもっ…………へ? ぁ───ぐあぁあああああっ!!」

「おやおやー? お兄ちゃんってばいくら結衣さんが残念そうにしたからって、こんな人数の前で堂々と結衣さん独占宣言とか……」

「お兄さん大丈夫っすか!? 顔赤いっすよ平気っすか!?」

「川崎、そっとしといてやれ……。こういう時の男は、そっとしておいてやってほしい……わりと本気で」

「それなーっ、葉山くんったらわかってるわぁ~! 女の前で失敗した時の男ってのは、なにはなくともそっとしておいてほしいもんだべ」

「そ、そうなんすか! 勉強になります! ……あ、でも、比企谷さん、めっちゃつついてるっすけど」

「小町ちゃんっ!  八幡もう顔とか真っ赤だからそういうのダメだよ!!」

「いえいえ戸塚さん! こういう時だからこそお兄ちゃんはつついてやらなきゃなんですよ! つつけばつつくほど過ちを犯さなくなるんですから、この場合は───」

「…………《じー……》」

「ぅぐぉぁっ……あ、あの……結衣さん? そんな見つめられると、小町ちょっとやりづらいっていうか……」

 

 だめ。それ以上、やられたら困る。

 過ちなんかじゃないんだ。あたしは、その……独占、されたいって思う。

 もっともっと我が儘とか言ってほしい。あたしに出来ること、してあげたいから。

 たくさんありがとうがあるんだ。

 たくさん嬉しいを貰った。

 たくさんの好きが湧いてくる。

 過ちなんて思われて、距離を取られるなんて嫌だ。

 だから……

 

「うぅ……わかりました。でもあの、結衣さん? たぶんお兄ちゃん、このままだと本当にすっごく踏み込みますよ? ただでさえ最近のお兄ちゃんの、結衣さんへの気の許しようとかすごいんですから」

「え……そかな。そうでもないと思うんだけど」

「そうです。そうなんです。今までは小町だけだったかもですけど、たぶんそろそろ……」

「……? 踏み込むもなにも、もう十分踏み込んでるだろ、俺」

 

 言われて、ヒッキーも気になったのか、赤い顔を軽く振ると小町ちゃんに先を促す。

 

「このままストッパーが外れたらヤバいって言ってるの。お兄ちゃんわかってる? 最近のお兄ちゃん、いろいろヤバいよ?」

「ヤバいとかアレだとかじゃなくて、ちゃんと言ってくれ。言ってくれなきゃわからん」

「………」

「………」

「じゃあ言うけど……」

「結局言うのかよ。なに言われるのか知らんけど、こいつらの前で言っていいことなの? ……おいちょっと? 小町ちゃーん?」

 

 小町ちゃんは溜め息ひとつ、あたしとヒッキーを交互に見てから言った。

 それはあたしも気づかなかったことで───

 

「お兄ちゃんさ、最近行動に淀みっていうか、躊躇とかなくなってきてるの、気づいてる?」

「…………行動? 躊躇? こんなもんじゃなかったか?」

「小町たちに対しては変わってないよ? あ、いや、むしろ小町に対しての行動が、結衣さんに向かってるっていうのかな。結衣さんに対して、やることなすこと遠慮がないっていうのかな。考えるより先に行動してるところ、ない?」

「? いや、だってな、考える必要ないだろ。結衣が願うことならなんだって叶えてやりたいぞ、俺は」

「はい、友達の皆さま、今の兄をどう見ますか?」

 

 促されて、自分を指さしてから頭を掻くとべっち。

 

「あ~~~……それなー。確かに最初ん頃から比べっと、すっげぇ変わったわー……」

 

 な、と言われて、こくこく頷くさいちゃん。

 

「そうだね。前はむしろ大切にしすぎててなにも出来ないって感じだったかも」

 

 その隣で腕を組んではけぷこんけぷこん言いながら頷く巨体。

 

「うむ。それが今では、大切だからなんでもしたいといった様子であるな」

 

 さらにその隣で少しきょとんとしてる葉山くん。

 

「そうなのか……俺はどっちかっていうと今の八幡から知ったから、自然なのかと…………あ、いや、言われてみれば、バレンタインから……厳密に言うと3年になって知らないヤツが増えてからか。随分と遠慮がなくなったようには感じる。……ああなるほど、これが独占欲か」

「でぇすよねぇ~? ほらお兄ちゃん、これだけの人が言ってるよ? お兄ちゃんおかしいって」

「やめなさい小町ちゃん、俺の頭おかしいみたいに聞こえるから」

 

 そ、そうなんだ。大切…………そっか。大切…………うわわ、嬉しくて顔が……。

 ? あれ? でもそれのなにがいけないんだろ。

 

「で、俺がそうだとして、なにがまずいんだ? 言い出したってことはよくないことになるかもなんだろ? 言ってくれ。結衣に関してで心配事は残したくない」

 

 ほら、ヒッキーもこう言ってくれてる。

 眼鏡、チャリって直しながら。

 …………あの仕草、好きだなぁ。他の誰がやっても気にならないのに、ヒッキーがやると目がいっちゃう。

 ずぅっと大事にしてくれて……眼鏡もあたしも……ああだめだ、にやけるのが止められない。

 

「お兄ちゃんさ、生徒会役員がそんな、人前で堂々といちゃいちゃしていいと思ってるの?」

「いいだろ」

「いやいやいやいやお兄ちゃん? 即答されるとは思わなかったけど、世の中には不純異性交遊っていうのが───」

「不純? ……いや、俺純粋に結衣が好きで一緒に居るんだ、けど……な……ぁ…………ぐぁあ……《かぁあ……》」

「~~……《かぁああ……!》」

 

 疑問に対して答えたヒッキーが、頭を抱えて机に突っ伏した。顔真っ赤で。

 あたしもじんじんするくらい、熱が顔に集まってる。

 だ、だってさ、まさかあんなに真っ直ぐに、即答してくれるなんて思わないよ。

 思わず顔も緩みそうになるけど……うん、そうだ。不純じゃないって気持ちは、ちゃんと届けたい。

 

「うん……小町ちゃん、あたしも純粋にヒッキーが好きだから、ずっとこうして隣に居たいなって思ってるんだよ? ヒッキーが居てくれたから成績も上がったし、頑張ろうって思えたんだ。不純じゃそんなこと、出来ないよ」

「いえあの結衣さん? 不純ってべつにそーゆー意味じゃなくてですね」

「……じゃあ、どんな意味?」

「ど、どんなってそのー……ほ、ほら、~~……みみみ三浦先輩バトンタッチお願いします! 小町にはレヴェルが高すぎるっていいますかっ!」

「あ? ……はぁっ!? ちょ、いきなりなに押し付けてっ……!」

「優美子?」

「あぐっ!? ……ぅ……ふ、不純ってのはさ、結衣……えと、ほら……がっ、学生の本分ってのはあれっしょ? 勉強ってかさ……」

「いやいやぁ三浦さん? この二人さー、不思議なことに付き合ってからの方が成績いいんだわー……」

「うん。特に由比ヶ浜さんなんて、親に驚かれるくらいだったって聞いたよ?」

「うんっ、すっごいがんばった!《むんっ!》」

 

 それは本当に驚かれたし嬉しかったから、むんって胸を張って答える。

 隣のヒッキーはあたしのそんな反応に小さく笑いながら頷いてくれる。

 

「ああ、通常の三倍は頑張れたかな……、あ、あいや、……がが頑張れた、ぞ?」

「むー……ヒッキー」

「ぅ……やっぱり……普通の口調のほうが、いいか?」

「うん。無理に変える必要、ないよ……そのままのヒッキーが、その、いいな……」

「そ、そっか……」

「うん……そうだ……」

「………」

「………」

「三浦先輩またいちゃいちゃし始めましたよ! 早く不純の定義を!」

「はぁ!? なんでまたあーしが!? 一色、あんたやんな!」

「うぇええっ!? え、ちょ、わわわたし不純とか学校でのそういうことに対する意味なんて知りませんよー! 言い出しっぺなんだから小町ちゃんでしょ!」

「いやいやいやいや小町としましては、運動も勉強もレベルアップして、することと言ったら手を繋いで赤くなったり、視線がぶつかっただけで赤くなって目を逸らしたり、何歩も踏み込んでようやくキスが出来るくらいの兄たちに不純がどうとかどう説明したらいいか!」

「ぃゃ……高校三年でそれって……。八幡、ガハマっちゃん、奥手にもほどがあるべ……」

 

 そ、そうなのかな……あたし、すっごい幸せなんだけどな。

 そりゃ、その、そういうことの先に興味がないわけじゃないよ?

 でもさ、抱き締められてさ、頬撫でられて、頭撫でられて、頭が胸に抱き締められて、抱き合って、背中撫でられて、たまにキスして……………………えへー……♪

 

「あ、だめです、結衣さんが旅立ちました。こうなると幸福の制御が出来なくてしばらく帰ってきません」

「はぁ……あんさ、この二人ほんとに高3? どうすりゃこんな、交換日記とか書いてそうな二人に仕上がんの」

「うちの兄は中学とかが散々でしたからね。人のことを信じないようにする決意っていうんですか? それを高校で固めようとしたところに、ちょーど結衣さんと出会ったって感じでして」

「小町ちゃん? おいちょっと? 人の過去を誰彼構わず暴露するクセ、いい加減にやめない?」

「そこはご安心だよお兄ちゃん。小町、お兄ちゃんを知ろうとしてる人にしか話しません。小町アイは人の良し悪しをよ~く見られるんだから。……小町だって、中学で嫌な想いしなかったわけじゃないしね。お兄ちゃんに対して悪意を持つ人を見分ける目はあると思うよ?」

「…………ありがとうとか言いそうになったけど、結局暴露する事実は変わらねぇじゃねぇかよおい」

「むう、そこに気づくとは……! あのー……お兄ちゃん? 小町もそのー……やさしい口調のお兄ちゃんとか、好きだなー……?」

「───《ハッ》」

「あ。結衣先輩が“好き”って言葉に反応して戻ってきました」

「ガハマっちゃんの独占欲も相当な。八幡に好きって言えば戻るってわかったから、これからは誰かに言ってもらうべ」

「うーわ戸部先輩どん引きです……女の子の“好き”を目覚まし扱いとかもうありえないです」

「えっ?」

「え?」

 

 あたし、ベッドでぎゅーってしてて、二人とも眠っちゃったあととか……目が覚めたヒッキーに好きって言うの、結構好きなんだけどな……。

 あたしのほうが遅れて起きた時は、ヒッキーがそうしてくれて……あ、あれ? おかしいことなのかな。あれ?

 

「どうしましょう雪乃さん、なんだかどんなことをやらかしてたのか想像ついちゃいました……!」

「ここで私に振らないでちょうだい」

「お兄さんって同衾とかしちゃってるんすか! レベルたけーっす!」

「はーい大志くんちょっと黙ろうねー? なに想像したのか知らないけど、そういうことは思うだけで口には出さないどこう。小町との約束だ!」

「いやでも比企谷さん、やっぱ気になるっていうか」

「あんまりしつこいと小町、お姉さんに言いつけちゃうゾ☆」

「押忍もう言いません! ───え? お姉さん? ───え!? そ、それって」

「あぁべつに深い意味とかないよ? 大志くんがお兄ちゃんのことお兄さんとか呼ぶから、わかりやすく言っただけ」

「…………《ずぅううん……》」

 

 頭の中がヒッキーのことでいっぱいになったあと、なんでか川崎くんが落ち込んでた。

 うわー……会話とか全然頭に入ってこなかったや。しっかりしなきゃだ、あたし。

 

「……なんか数ヶ月前の自分とか見てるみたいだわ……。えぇっと、タニシくん、がんばっしょ?」

「大志っす……」

「そ、そうだよ、頑張ろう! ええっと平間寺くん!」

「それべつの“川崎大師”っす!」

「けぷこん! ……つまり少年どもは一度はこの小童めを抱き締めねばならんのだな!」

「いやっすよ! 確かに文字はその大志で合ってるっすけど!《ちらちらちら》」

「君はわかりやすいな。……小町ちゃんが好きなのか?(ぽしょり)」

「んなぁあはは!? なに言ってんすか葉山先輩! 俺はっ、そのっ……!」

「?」

 

 ヒッキー以外の男子が、大志くんを引っ張って生徒会室の奥に離れてく。

 ぽしょぽしょ話してるけど、なんだろ。

 ヒッキーがそれを少し羨ましそうに見てる……と思ったら、あたしに目を向けてきて、気恥ずかしそうにもっと椅子を近づけてくれる。

 あたしももうどうせならって、椅子がくっつくくらい動かして、その腕に腕を絡めた。

 

「んでさぁ、こまっちゃんのことだけどさぁ。ちょ~っとブラコンっぽいところとかあっかなぁとか思ってたけど、八幡はべつにそこまでシスコンって感じでもねぇし、むしろこれあれじゃね? ガハマっちゃんと付き合うようになってから、妹に向ける分の愛情がぜ~んぶガハマっちゃんに向かっちゃってて、こまっちゃんが寂しがってる系のあれ?」

「うん、そんな感じはちょっとあるかも。たまに羨ましそうに八幡のこと見てる時、あるよ」

「ほほう、よく見ておるなぁ戸塚氏。我なんて恥ずかしくて女子と目を合わせるとか無理」

「戸塚は本当に人のことをよく見てるな。俺も少しは見習わないとだ」

「はぽん? 貴様はむしろ見ているほうではないのかリア王よ」

「その呼び方やめてくれ。……言うほど見れてないんだ。優美子の期待にもっと応えられたらって思うことばっかりだ。八幡のように、由比ヶ浜さんが望んでいることを先読みして、っていうのがまだ出来ない」

「いやいやいやいやいや!」

「いやいやいやいやいや!」

「いやいやいやいやいや!」

「いやいやいやいやいや!」

「っ、な、なんだ? 四人していやいやって……」

「葉山先輩! あれを真似るとか無理っす! 見習えるレベルじゃないっすよ!」

「然り然り! あれから学ぶなど、一種の予知能力でもなければ無理というものだろう!」

「いやぁ……葉山くん? 悪いこと言わねぇからあれだけはやめとくべ。俺も海老名さんとあーなれたらとか思うけど、あれ無理。まじ無理すぎでハイレベルすぎっしょ……」

「葉山くん……あれはあの二人だから出来るんだよ、きっと。八幡から少し聞いたんだけどね? あの二人はお互いが欲しくて仕方なかったものを与え続けられるから、ああしてわかり合えていられると思うんだ。葉山くんと三浦さんが、過去に似たような経験とかをした間柄ならまだいけると思うけど……」

「……羨ましいって思うのもだめな領域なのか?」

「正直、まじで、ほんっとーに、その気持ちはわかるわ。甘い恋に憧れる男子の、それこそ甘酸っぱい青春ラブコメそのものじゃねぇの。けどさぁ葉山くん。これこまっちゃんからのリークだけど、自分の家の自分の部屋の自分のベッドに大好きな女の子と一緒に寝てさ? 抱き締め合ってキスとかしてさ、それで狼にならずにいられる自信とか、ある? 我慢とかするんじゃなくて、ただ好きだからって理由で、キスまで、とか」

「……やってみなきゃわからないな」

「ベッドに、って恋人から誘われてもだぜ?」

「───」

「ここここ小町ちゃん! なんてこと話してるの! そういうことは恋人同士の大事なことなんだから、いくら僕らが八幡の友達でも言っちゃだめだよ!」

「えっ? あれっ!? なんで小町、急に戸塚さんに怒られてるんですか!?」

 

 急にさいちゃんがぷんぷんって怒った。えと……恋人同士? のことを小町ちゃんに言う……ってことは? ……さいちゃんが小町ちゃんに、ってことは、たぶんあたしたちのこと、なんだよね。

 たぶん小町ちゃんは必要な時以外に嘘なんて言わないと思うから、あたしたちの恋人としてのこととか話しちゃってて……って、こここ小町ちゃん!? あたしとヒッキーのこと、みんなに話してないよね!?

 とくに、えと、えっと、雨降りの土曜日とかのこと!

 

「~~……《じー……!》」

「《ハッ!?》…………《ソッ》」

 

 目、逸らした! 小町ちゃん目、逸らしたぁああっ!!

 なななななんで!? なんで教えちゃうの!? そりゃ隠し事とかあまりしたくないけど、恋人同士のことまで全部教えたいとか知っておいてほしいとか思ったことなんてないよ!?

 

「うーわー……男子が固まってなに話してるのかと思えば。ちょっと先輩がたー? そういうの女子の前でこそこそ言うの、感じ悪いしちょっとキモいですよー?」

「キッツいわー……いろはすマジきっついわー……」

「ちょっとやめてくださいよ戸部先輩誰があだ名つけていいとか呼んでいいとか言ったんですかあのほんとキモいんでそういうことは海老名先輩にだけしてくださいごめんなさい」

「お前肺活量すごいな……しかも噛まずに言えるとか。雪ノ下でだめだったら、お前が普通に生徒会長とかやってもよかったんじゃないか?」

 

 あ、うん、それはあたしも思った。

 なんだかんだで人を選ばずに話とか出来てるし、あとー……えと、物怖じっていうのかな? 躊躇とかはするけど、話し始めたら結構拾ってくれるっていうか。

 ……興味ないことはあんまり聞かないで、“そうですねー”しか言わなくなっちゃうのがたまにアレだけど。

 

「やめてくださいよ先輩……“ただ喋る”のと“仕事を纏める”のとは違いますって。わたしに雪ノ下先輩みたいに仕切るのとか無理ですよ、経験を積めば出来るかもですけど」

「ふふっ……そこで“絶対に無理”と言わないだけ、好感が持てるわ。気の早い話だけれど、次期生徒会長は一色さんに任せようかしら」

「おーぅ意義なーし! 一年生生徒会長とかマジ見てみたかった気持ちはあっけどさぁ、いろはす案外、人を纏めるのとかマジ向いてそうだべー! なー!?」

「……なんか戸部先輩に言われても、向いてないものを無理矢理向いてることにして、仕事を押し付けようとしてるみたいにしか見えないです。あとあだ名呼びやめてくださいってば」

「ひっで!? 俺これでも真面目なんだけど!? っつーかさぁ、」

「ゴラムゴラムゥ! ……失礼だが、言い争っているうちにまたいちゃつき始めたのだが…………目の毒だから誰か止めて!? 我もう耐えられない! なんか足の間に座らせちゃってるし! 同じ椅子でとか! 同じ椅子で後ろから抱き締めるとかーーーっ!」

 

 恥ずかしいけど、知った相手がみんなでよかったって思う。

 他の人だとちょっとアレだ。嬉しくない。

 とか考えながら、もっとくっつきたくなって……

 

「………」

「………」

 

 同じ椅子の上、ヒッキーの足の間で、深く深くゆっくりと息をする。

 心が安心で満たされて、体がヒッキーの香りに包まれて、自然に力が抜けていく。

 目を閉じればすぐにでも眠れそうで、自覚する。“ああ、あたしはこの人の腕の中に居ても、まるで警戒なんてしてないんだな”って。

 

「……~……」

 

 なにかを呟く。自分でもよくわかってない。

 ただぎゅーってされて、お腹を撫でられると、喉から子犬みたいな声が漏れる。

 くすぐったくて、お返ししたくて、ヒッキーの膝に指で文字を書いていく。

 さらさら、さらさら。

 そしたら後ろからまたぎゅーってされて、右の肩にヒッキーの顎が乗ってきて、耳にぽしょりって……「俺も好きだ」って。

 好き、って書いたのバレバレだった。バレバレなのに嬉しい。

 

「ひっきぃ……」

「結衣……」

 

 膝にまだまだ書き足りない好きを書いてたら、ヒッキーの手があたしの手を掬うみたいに動いた。

 恋人繋ぎできゅってされて、お腹のところに両手ともぽんって添えられる。

 くすぐったくて、言葉に出来なくて、甘えるように体重をかけてもたれかか───

 

「っだぁーーーっ!! いーかげんにしてください!」

 

 ───ったら、いろはちゃんが怒った。

 

……。

 

 で。

 

「…………《ずぅううん…………》」

 

 めちゃくちゃ離された。

 長机を挟んで、左端がヒッキー、対面しての一番左端があたし。

 ぁううう……ひっきぃ、ひっきぃい~……!

 

「ぅ……だ、だめですからね結衣先輩! そんな迷子の子猫みたいな目で見たって───」

「仕方ないわね由比ヶ浜さん、位置を変えましょう」

「ゆきのん!《ぱああ……!》」

「って雪ノ下先輩軽っ!? なにがそんな、心を動かすきっかけになったんですか!? 猫ですか!? 猫なんですか!? ちょ、だめですってば! なんでそんなにちょろいんですか!」

「あー……じゃあこうしましょう雪乃さん。位置は変えずにそのままでしたら、カーくんモフり放題券を」

「ごめんなさい由比ヶ浜さん、今のは冗談よ」

「ゆきのーーーん!?《がーーーん!》」

 

 ゆきのんが猫に負けた。

 でも、確かにこういう場所で恋人気分なのはだめだよね。

 ちゃんと切り替えなきゃだ。うん、よし。

 じゃあ早速仕事を───

 

「………」

 

 仕事……

 

「……!」

 

 ───そもそも仕事がなかったんだった! うわぁん離れ損だよこんなのー!

 

 




 /文字だけ見て想像すると、まるで違うことが起きる次回予告


「つっかれたわぁ~……ようやっと仕事から解放された~」

『おめでとーーーーーっ!!』

「じゃ、電気消しますよー!」

ムッハァーーーッ!! ハイラートギャラクシィーーーッ!!

「たまに我へ向ける目がきっついでござる……」

「あぁ……あれ、“海老名さんの時ヨロシク”って顔だな」

「なに言われても平然としてた雪乃さんが猫に反応した!?」

「ごめんなさいそれは無理」

「おー聴いてる聴いてる隼人任せた」

「腐ってやがるって言いたいんだろ」


次回、お互いが好きすぎる男女のお話/第二話:『“うぬ”はまた今度ね』

「自由スペースということで~~~───絆が来た!」
「そして美鳩がここに居る。この番組は楽しいトキを眺める奇妙、麺類と」
「ごらんの主犯が提供に巻き込まれた提供でお送りします!」

 巻き込まれ主犯:安定のこもれびさん

「というわけでなんだか急に北海道について語りたくなった! なんかないかな美鳩!」
「北海道といえば……北海道は都道府県でいう“道”らしいけど、北海道道と言わないのは何故?」
「むふふん、それにはこの絆が答えましょう。ズバリ語呂的にも文字的にもめんどかったからと見る! 独断と偏見で!」
「ところで北海道といえば雪のイメージ」
「無視!? や、まあそうかも」
「雪に抱くイメージは? 都会の皆さんに訊いてみた」

Tさんの答え
え? 雪? いんやぁ雪っつったらやっぱカマクラとか雪合戦っしょ!
Mさんの答え
あ? あんたらまたおかしなことやってんの? まあいいけど。雪ね……奉仕部部長とか思い出すから、いいイメージ沸かね。あれっしょ? かまくら作って中で休むとかじゃね? 知んないけど。

「……平和そうでなにより」
「あン~~~あ都会モンはこれだからやだィヤ、雪のおっかなさを知らん。 まァいいコテ。所詮雪国のチビシさは雪国モンしかわからんでや。千絵カナスィ」
「……? べつに絆は雪国モンじゃない」
「言ってみたかっただけだからオッケー! まあわたしたちにしてみたら、雪が積もれば庭駆け回る合図だったしね」
「鳩である美鳩は当然、豆鉄砲ならぬ雪弾を手に、犬と激戦を繰り広げた。獣に負けぬ心、実にジャスティス」
「うーん……美鳩はもし北海道に行ったら、なにをしたい?」
「オロフレ山頂に駆け上がってフーアムアイを叫びたい」
「……うん。なんでオロフレ限定なのかは訊かないでおくよ」
「北海道は、なんというか海の幸や陸の幸、食べ物のイメージも多い」
「魚かー……美鳩はどんな魚が一番好き?」
「断然タツノオトシゴ。是非、是非飼ってみたい……! ジャスティス……とてもジャスティス……!」
「……今度、連休でも取れたら家族みんなで瀬戸内海にでも行こうか……。きっとママのんに言えば一発だよ……」
「都築さんに幸あれ。都築さんのイメージは、なんというかヴィルヘルム・ヴァン・アストレアっぽい」
「最強お爺ちゃんだね」

 ちゃんちゃん。
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