どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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幾度も結ぶ僕らの恋④

 

……。

 

 昨日は俺も風呂には入っていなかったから、食事のあとに入った。

 残り湯とか飲んじゃだめだよ、とかほざきおる妹に阿呆と返し、ゆったりたっぷり。

 風呂から上がってリビングに戻ってみれば、きゃいきゃいと女子トークをして楽しむおなごが二人。

 邪魔するのもなんだしと、階段を上って部屋へ行くと、体の熱がまあまあ引いてから着替えた。

 ……で、視線を落とせば、俺と結衣が被って寝た毛布と掛け布団。

 

「……《かぁ》」

 

 あ、今アレ。顔絶対赤い。あ、あー、ののののぼせちゃったカナー、俺。どこ? サブレどこ? 今すぐキミを、モフりたい。

 まあ、アレですよアレ。だらしがないとか思われたくないし、ベッドメイクでもしますか。

 はいテキパキ~と。

 よし。

 

「………」

 

 …………。暇だ。

 小説でも読もうか。丁度途中だったし。

 クッションの上に置きっぱなしの小説を拾い上げて、ベッドに腰掛けて開く。

 ……と、丁度昨日見ていた場面を開いてしまい、一気に頭を占める恋人の寝顔や匂いや柔らかさ。トドメに目覚めのキスのことまで思い出してしまい、しばらく悶えた。

 やばい、結衣に会いたい。

 でもなー、妹と女子トークしてるのに、それを邪魔するのもなー。

 ああモヤモヤする。

 

「…………」

 

 勉強でもするか。

 よし、結衣に傾きすぎている頭を、少し冷やしてあげよう。

 そうして勉強を始め《こんこんっ》

 

『え、と……ヒッキー……居る……?』

「………」

 

 さよなら勉強。

 

「おー、居るぞー」

 

 勉強道具を仕舞いつつ声を出すと、コチャリとドアを開けて結衣が入ってくる。

 その顔は……ちょっと、緩んで赤い。

 

「お風呂、上がってたなら言ってくれればよかったのに」

「小町と楽しそうに話してたから。女子同士の会話って、男にとっちゃ邪魔しづらいものなんだ、悪い」

「あー……そういうの、あるかもね」

 

 言いつつ、トテトテと歩いてきて、ひょいと机の上を覗くように身体を傾ける。

 もちろん、既に片付けられた机があるだけだ。

 

「あ……勉強中だった?」

「いやべつに。ただ、なんというか、落ち着かなかったから」

「え、と。あたしの所為?」

「所為とかそういうことじゃなくて、あー……嬉しい方向で。お陰……とも違うんだけど、その、……そわそわしてた」

「あぅ……そ、そうなんだ……」

 

 なんでも言い合える関係を目指して、言えることは言おうと決めた。

 けれど、これは相当恥ずかしい。しかし後ろめたいことがあるわけじゃないから、視線は絶対に外さない。なにこれある意味地獄なんですが。いやほんと、嫌な方向での意味じゃなくて。

 

「あ、あー……そういえば、昨日見てた小説は?」

「……開いたら、結衣の寝顔思い出しちゃって……その」

「!!《ぐぼんっ!》」

 

 瞬間沸騰が目の前で起こった。

 次いで、わすれてわすれてと真っ赤な彼女にぽかぽか殴られた。

 天国は、そこにあった。

 神様……俺がずっとぼっちだったのは───中学時代に惚れやすかった所為で経験した辛さや悲しみは、彼女とともに歩むために必要なものだったのですね?

 可愛い恋人にぽかぽか殴られるなんて、小説とか漫画の中だけだと思ってたのに。

 座ったままくるりと椅子を回転させて、殴ってくる彼女を抱き寄せた。

 キモいとか押し退けられたらどうしよう、って一瞬浮かんだ恐怖もすぐに消える。

 なんというか、すぐに逆に抱き締め返されたから。

 

「えへへぇ……あたし、ヒッキーの匂いって好きだなー……」

「そ、そう? って、今俺石鹸の匂いしかしなくない?」

「んー……じゃあ、雰囲気? 空気? えっとね、近くに居るとね、安心するの。すっごく」

「う……《かぁあ……!》そ、そっか……自分じゃよく解らない……」

「近くに居て、こんなに安心出来る人、今まで居なかったなぁって……。あはは……その前に、傍に居たいとか思う人も居なかったや……。……うん、だから…………初めて好きになった人が、ヒッキーでよかった……」

「………」

 

 言葉が、じんわりと広がってゆく。

 ばかみたいにドコンドコンと鳴っていた心臓も、やがて静かになり……とくんとくんとやさしく脈打っている。

 何度も何度も好きになって、その度に好きの大きさが大きくなって、好きが大好きになって、大好きが───……

 

(……うん……)

 

 もし最初に結衣を好きになれていたなら、その初恋は実ったかな、と考えた。

 たぶんそれは無理で……初めての体験に燥ぎすぎて、今まで通りキモいとか友達じゃだめかなとか言われて……二度と話す機会もなく、言い触らされるだけの辛い道を歩んでいたかもしれない。

 そう思えば、あれらはやっぱり必要なことで───そんな自分を好きになってくれたのが結衣なら、俺も今までの過去を胸張って肯定できる。

 

「結衣……」

「うん」

「好きだ」

「うん、あたしも」

「大好きだ」

「うん」

「変な言い方になるけど……出会ってくれて、ありがとう」

「っ……それは、あたしの台詞だよぅ……」

 

 ぐすっ、て鼻をすする音がして、ぎゅううと腕に力を込めて抱き締められた。

 負けじと、胸に抱き付いている彼女の頭を抱き締めて、やさしく撫でる。

 

「……好きってすごいね」

「……同じこと考えてた」

「うん……他の人なら絶対に嫌なのに、ヒッキーなら全然嫌じゃないや……」

「俺も……というよりは、たぶん結衣以外じゃキモいとか言われて嫌われるから」

「あははっ、あたしは前のヒッキーのことは知らないけど……今のヒッキーなら、その人きっと後悔するんじゃないかなぁ」

「ないって、絶対。それに、その……う、ぐぅう……《かぁあ……!》」

「……えと、言ってほしいな。気持ち、教えてほしい」

「~~~っ………俺はっ……その。……結衣じゃなきゃ、嫌、っていうか……その」

「はうっ……《ぽむっ》」

 

 やさしい顔が、ぽむと朱に染まった。

 途端、胸に顔を押し付けて、「~~~~っ!!」と声にならない声をあげて、ぐりぐりと顔をこすり付けられた。

 

「ゆ、結衣?」

「あ、あの……ひっきぃ……えと、えとね? お願いが……あるんだけど」

「あ、うん。じゃなくて、お、おおお……おう」

「“うん”でいいのに……」

「いや、やっぱりちょっと頼りないっていうか……せめて口調だけでもこう、“男”って感じじゃないと。って、俺のことよりさ」

「うん……えっと。お、お願い、なんだけどね?」

「おう」

「……その。ヘンな話じゃなくて……さ。昨日みたいに、一緒にくっついて眠れないかなー……って」

「───」

 

 ぴしり、と。体が固まった。

 その石化状態をなんとかしたくて心の中でレバガチャするも、俺別にゲーム界の住人じゃないから無理だった。

 

「あ、あの、あのね? ほんと、えと、えっちな話じゃなくて……さ。くっついて、ごろごろして、そうやって一日中過ごせたらなーって……」

「ず、ずっと?」

「うん」

「一日?」

「うんっ」

「俺と?」

「うんっ!」

「結衣が?」

「うんっ!!」

 

 訊ねるたびに目がきらきら輝いていった。

 しかも胸に抱きつきながら見上げてくるもんだから、つまりその近くて近いから近くに近くで近い近い近い!!

 

「ひ、ひやっ……あにょっ……べひゅ、べひゅにっ、いいんじゃにゃいでひょぅひゃっ……!?」

「………」

「………」

 

 噛んだァアアーーーーーッ!!

 もういやだやっぱりやだ絶対やだぁああっ!!

 死にたいもう死にたい馬鹿じゃないのバッカじゃないのなんでそこで噛めるんだよなにやってんだよアホ俺のアホ!!

 

「……ヒッキー」

「ひゃいっ!?」

「慌てちゃダメ。さっきみたいな、やさしいのがいいな」

「ぅうっ…………ぐ……」

 

 い、いや、解ってる。解ってるんですよ?

 でもね、俺だって男の子なわけでして。

 でも…………でも。

 

「………」

 

 そうだ、怖がらせたら、不安がらせたら意味がない。

 それ以前に、俺が怖がらせてどうする。不安にさせてどうする。

 “好き”以上に“大事”なんだ。

 その想いだけは、いつだろうと忘れちゃいけない。

 

「………」

「……《こつんっ》わっ……ヒッキー……?」

 

 目を閉じて、額と額をくっつけて、深呼吸。

 もうこれ、どっちが女だか解らないな。小町の言う通り、比企谷八幡は随分とヘタレらしい。

 でも今は、そんなヘタレで十分だ。なにせ手出しして傷つける心配もないし。

 ……ああうん、ほんとヘタレね、俺。

 

「……はぁ、……うし、もう大丈夫だ」

「う、うん。じゃあ」

「お、おう……」

 

 二人揃って、俯いてから行動開始。

 先ほど整えたベッドへと歩いて、一緒に寝転がって、抱き合って、ごろごろして。

 それだけなんだけど、それだけが……なんていうのか、すごく心地良い。

 不思議とエロォスなことなんて思い浮かばなくて、ただじゃれ合うだけで楽しいって言えばいいのか嬉しいって言えばいいのか。

 ああ、これだな、くすぐったい。

 ……え? ああうん、その日はずーっと、ほんとずーっと、そうしてごろごろいちゃいちゃしてました。

 途中からキスしたりキスしたりキスしたりもしたけど、エロォスなんてとてもとても。

 ほんと、それだけで満たされたんだ。幸せだって笑うことが出来た。

 急ぐ道でもあるまいしって感じで、ずっとずぅっとそうしていた。

 と、いうかだ。

 

「ゆ、結衣? そういえば朝ご飯───」

「え? あ、うー……だ、断食で……」

「《ぎゅううっ》……お、おう」

 

 朝がそんな感じで、昼が───

 

「もう昼か……あ、結衣、じゃあそろそろ」

「断食、だってば……」

「え? 昼も《すりすり》はひゃいっ!?」

 

 ───ええまあ、昼もそんな感じで、

 

「いや……えっと。ほら、人間なんだし」

「~~~~っ……《ぷるぷるぷる……!》」

「あ、あー……俺、なんかすっごくトイレ行きたく───」

「がっ……がまっ……我慢……~~~~っ……!」

「えぇえーーーーーーっ!?」

 

 人としての試練の数々に立ち向かってまで、二人でいちゃいちゃしていたわけでして。

 

「………」

「生理現象はしょうがないだろ……ほ、ほら、機嫌直して……」

「機嫌っていうか……はずかしくて……《ふしゅううう……》」

「まあ、その……トイレ行った後、抱き合うのは……ちょっとな……や、やっぱり離れよっか?《ぎゅうっ!》……あー……」

「……やだ」

「ハイ……」

 

 結局夜までそうして、むしろ夜もそうして。

 えっと……なんだろね、抱き合って見つめるだけっていうの、すっごく大事。

 いろいろなこと話したくなって、知りたくなって、心地良くてくすぐったくて、でもそんな時間がすごく嬉しい。

 うーん、男と女の関係って難しいんだなぁ。ベッド+男女=エロスって考え、間違いだ。こんなやさしい空間なら大歓迎だ。……なんか、ほんと、嬉しい。

 

「………」

「………」

 

 見つめ合って、恥ずかしくて、照れ笑いする。

 もう何度もやっているのに慣れなくて、けれど顔を近づけてはキスをして、頭を撫でて、撫で返されて、恥ずかしくて逃げたら抱き寄せられて、もみくちゃしながらじゃれ合って、また目が合うと照れくさくて笑う。

 ……たまに、こんなに幸せだと後が怖いって思ってしまう。

 俺なんかにこんな幸福は相応であると言えるのだろうか。

 こんな幸せは、一秒後に壊れてしまうんじゃないかって───

 

「《ガチャア!》もうお兄ちゃん!? ご飯も食べずにいつまで失礼しましたごゆっくりぃっ!!《バターム!》」

 

 ……一秒後ではなかったけど、三秒後あたりに崩壊した。

 幸せは、恥ずかしさで上塗りされてしまったよ。

 

「ひやあああっ!? 小町ちゃん待って!? 待ってぇえええっ!!」

 

 言ったところで止まりやしない。ばたばたと床を駆ける音だけが遠ざかり、やがて静かな時間がやってきた。

 

「……ご飯、どうする?」

 

 もういい加減終わりか、と苦笑しつつも言う。

 すると結衣もにっこりと笑って───

 

「……断食《プイッ》」

 

 ───……直後に口を尖らせ、そっぽ向く彼女がおりました。マア可愛い。

 なんて思っていると、くぅ、なんてお腹が鳴って、真っ赤になってまた人の胸に顔をうずめて悶える彼女がおりました。可愛い。

 

「………」

「………《さらさら……》んぅ……」

 

 胸にぎううと抱きついたままの彼女の頭を、やさしくやさしく撫でる。

 くすぐったいのか、たまにもぞりと動くけど……それに合わせて手を止めると、もっととばかりに顔を胸にこすり付けてくる。可愛い。

 うーん、意外なほどに甘えん坊。これは嬉しい。俺にそれほどの頼れるなにかがあるとは思えないけど、それでも甘えられるのは男として嬉しい。

 

(う……キスしたい)

 

 ふいに、とても愛しくなる。

 そうなるとキスをしたりされたりが、先ほどまでの俺達の過ごし方だった。

 昨日やってしまった顎クイの要領で、そっと促してみると、肩をぴくんと弾かせ、けれどおそるおそる俺を見上げる潤んだ瞳に、また胸がとくんと跳ねる。

 やがて見つめ合い、静かに目を閉じながら顔を近づけ《チャラララー》…………。

 

「………」

「………」

 

 スマホが元気である。

 ああその、ダメね。こういう時は電源切らないと。

 さすがにいちゃいちゃしてたから出られませんとは言えないので、ベッドのすぐ傍にあるソレに手を伸ばして取ると、出───ようとして、ふと見たディスプレイに知り合いの名前が。

 

(TB……)

 

 戸部であった。

 TBの文字で一発で解る。まあそう登録してあるんだから当然なんだけど。

 

「《ピッ》……もしもし?」

『おー! ヒキタニくーん!? 今だいじょぶー!?』

「大丈夫だからもうちょっと静かに」

『いんやぁ夜に電話なんかしちゃったりしてマジめんごー? あ、そんで用件なんだけどさー、明日みんなでどっか遊びいかないー? 俺明日とかマジ暇してるわけよー』

 

 遊び……遊びか。休日に友達と遊びにとか、まだまだ新鮮な俺だ。

 つまりそのぅ……いいんじゃないでしょうか。

 

「そ、そだな。えっと《ぎゅうっ》すまん用事があった全然暇じゃない忙しいめっちゃ忙しい暇などないまである」

『え? ちょ、いきなりどしたん? いや用事あるならさー、俺とかもう、戸塚ちゃんとガハマっちゃん誘ってみるだけだけどさー……』

「!?」

「……! ……!《ぶんぶんぶんぶんぶんっ!》」

 

 行くの!? 行かない行かないっ! ……言葉であらわすなら、そんなやりとりが無言で行なわれた。

 い、いやでも……彩加と休日に友情を育む遊びっ……!

 イ、イエ、ダイジョブデスヨ? た、耐え忍ぶことに関してはまさに一流、ベテランボッチャーの八幡さんが、彼女をほったらかしにして遊びに行くわけがないじゃないですか。

 

「あぁえっと。ほんと悪い。外せない用事があるんだ。俺のことはいいから、楽しんでくれ」

『あ~……用事じゃ仕方ないけど寂しいわぁ、マジ悲しいわぁ~……ヒキタニくん居ないと戸塚ちゃんもガハマっちゃんも元気半減すぎるでしょぉ、あれー』

「すまん」

『まあ用事なら仕方ないわー。あ、ゆーても今度は付き合ってもらうかんねー、ヒキタニくーん?』

「まあ、予定がなかったら」

『おっけおっけ! んじゃあ戸塚ちゃんとガハマっちゃんに連絡入れるから、切るべー』

「お、おう、じゃあ」

『おーっ! 今度はちゃんと遊ぼうなーヒキタニくーん!』

「……いい加減覚えてくれ。俺比企谷だから」

『硬いこと言いっこなしなしー! いんやー、ヒキタニくんってば遊びより用事を優先できるとか真面目すぎでしょー! べーわぁ、マジべーわぁ』

「……悪い」

 

 その用事、彼女とごろごろしてるだけなんだ……。

 あれ、なんだろう。かつてない罪悪感が胸を刺す。

 でも、なのに、用事(結衣)を優先したことで、にこーと笑顔になってさらに抱き付いてくる恋人さんが可愛くて……ああ、だめ……だめになる。だめにされる……!

 人をだめにするソファーとか目じゃない……やーらかくてあったかくて……なのに欲望とか湧いてこないとか……あれ? 俺もしかして男子としておかしい?

 

「………」

「《なでなで》~~~~……♪」

 

 とりあえず通話の切れたスマホを元の位置に戻して、胸に抱き付いてきている結衣の頭を撫でた。上機嫌の犬や猫みたいに目を細めている。

 ああ、髪めっちゃさらさら……女の子の髪ってみんなこーなん……?

 ……でも、やっぱりアレだ。

 好きな人の、っていうか……傍に居ても“嫌な意味の緊張”をしない人の体温って、安心する。

 誰にだろうと期待をして、声をかけられれば舞い上がって、振り向いてみれば他の人が声をかけられただけと気づいて、落ち込んで。

 そんな光景を見られて、わざとそうする人が増えて、悔しくて、悲しくて。

 振り向けば笑われて、振り向かなければ“あ~れ~っ? カエルには人の言葉が解らないか~っ!”と笑われて、耐えて、耐えるしかなくて。

 

(……高校、頑張ってよかった)

 

 これからもこんな日が続けばいい。

 大事な人を胸に抱き、やさしく撫でながら……そんなことを思わずにはいられなかった。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 夏が来て秋が来て、冬が来て春が来る。

 そんな季節を眺める日々は、これで案外落ち着きがない。

 過ごす日々にそれほどの忙しさはない筈なのに、気づけば一日が終わっている。

 

「らっしゃっせー」

 

 15歳でも3月31日を過ぎれば働いてもいいという法律に則り、慣れないバイトをしたり、人間関係に嫌気が差してやめようとするも、結衣のためだとがんばってみたりして。

 

「ヒッキー! 犬! 犬見に行コッ!?」

「待ちなさい由比ヶ浜さん、猫が先よ」

「ぼ、僕はうさぎが……」

「いやーやっぱここは近いところからでしょぉ! ちゃんと計画立てとかないと、全部回るまでに夜になっちゃうわぁ」

「あ、戸部に賛成」

 

 奉仕部全員でわんにゃんショーに繰り出してみたり。

 

「ハッピーバースデー、結衣ー」

「ハッピーバースデー、きみー」

「ハッピィバースデーっしょー! おのれ~」

「ハッピーバースデー、親愛なる~、結衣~」

『ハッピーバースデーだ! あんた!』

「ちゃんとトゥーユー言おう!? なんでそこだけ日本っぽいの!? 普通にトゥーユーがいいよぅ!」

「ごめんなさい由比ヶ浜さん、止めたのだけれど聞かなくて……」

「あ、ううんっ!? ゆきのんは全然悪くなくてっ!」

「だからその呼び方をやめろと言っているのよガハマさん」

「ゆきのんもその呼び方やめて!? ~~……うー! とべっちの所為だよ!? とべっちがガハマっちゃんとか言うから!」

「え、えー? これ俺が悪いやつっぽい系の雰囲気~……?」

「最近、由比ヶ浜さんも喋り方とか元気になったよね。八幡、なにか原因とか知ってる?」

「い、いやその……いつも元気なお前が好きって言ったら……その」

「わあ……そうなんだ」

「健康でいてくれって意味だったのに、今さら言えない……!《カァアア……!!》」

「あ、あはは……でも、その……なんていうか、あめでとう、八幡。八幡が幸せそうだと、なんだか僕も嬉しいな」

「う……そ、そか。まあその、ありがとな」

「うん」

 

 結衣の誕生日を奉仕部で盛大に祝ったり。

 

「う、うー……ヒッキー、ここ教えて」

「おう」

「ヒキタニく~ん、ここ教えて?」

「自分でやれ」

「八幡、ここなんだけど……」

「おう」

「ちょ、ヒキタニくんそれないわ~……! 俺にだけ冷たいって、それないわぁ~……!」

「雪ノ下さんが居るだろ。俺よりよっぽど頭いいぞ?」

「もう頼んで即行で断られたわ……電光石火だったわー……なんか俺だけハブられ感満載すぎるでしょぉ、これー……」

「……はぁ。ヒントしか教えないからな」

「おー! やっぱ持つべきものはヒキタニくんだわー! やばいわー、マジ冴えてるわぁ~!」

「戸部くん、静かに」

「アッハイ」

 

 定期テストに向けて勉強を頑張ってみたり。

 

「ゆ、結衣っ」

「ひゃいっ! い、いきますっ!」

「え?」

「ひゃうっ!? あ、や、え、えぅっ、あうぅっ」

「…………あ、の……夏祭りに……」

「…………あうぅうう~~……!!《かぁあああ……!》」

「い、いや……そこまで待っててくれたなら、勇気だした甲斐があるっていうか……その……よ、よろしく」

「う、うん……~~……うんっ」

 

 出来るだけ自分からデートに誘ってみたり。

 

「………」

「………《ぎゅうっ》」

「…………《なでなで》」

「…………《かぁあ……》」

「…………~♪《ぎゅう~~っ♪》」

 

 夏休みのほぼ毎日を、自宅デートと称して結衣と抱き合ってまったり過ごしたり。

 

「っべー! 文化祭とかマジテンション上がるわー! こりゃもうやるっきゃないって感じでしょー! ウェーーーイッ! ってさー! ほらほら雪ノ下さんもー! ウェーーーイッ!」

「じゃあ戸部くん、委員をお願いね」

「ウエッ!?」

 

 戸部が文実に選ばれて、もとい生贄にされて……あれ? こっちをもといするべきじゃ? ……まあいいか、あれで相当楽しそうだったし。

 

「うぇーーいっ! みんなぁ、楽しんでるゥーーーウ!?」

『ウェエーーーーイッ!!』

 

 文化祭当日、実に賑やかに文化祭は開催されて、評価はといえば……かつてないほど“やかましい文化祭”だったとか。

 それから体育祭を通して騒がしい日々を送り、二学期もやがて過ぎ、楽しい時間っていうのは本当にあっと言う間に過ぎていくんだな、なんて不意に思ってみれば……既に二年になっていた。

 

「おー! 今年はみんな同じクラスとか幸先よすぎでしょぉー! これはもう神様とかが勇気出してぶつかれーとか俺に囁きかけまくりんぐシチュエーションなんじゃないのー!?《ちらっ、ちらちらっ》」

「? とべっち、海老名さんのこと見て、どしたの?」

「ん、んやっ!? べつにどーもしないってばさぁ、なはははは……」

「海老名さんっていうのか。珍しい苗字だな」

「あ、うん。さっき友達になったの」

「……恋人のコミュ力が高すぎて怖い……」

「八幡も誰かに声をかけてみたら? ほら、あそこの葉山くんとか」

「あ、無理。なんかこう本能で受け付けない。なにあのイケメンオーラ、あれが伝説のリア充ってやつか。キラキラ輝いてて眩しいったらない」

「そうかな……八幡のほうがカッコイイと思うんだけど……」

「と、とつっ《ポッ》……あ、いやっ……お、俺はほら、昔からハブられぼっちだったし、あいつみたいに笑顔してりゃあ人が寄ってくるとかねぇから……!」

「えへー、じゃああたし寄るー♪」

「んおー! もちろん俺も寄るっしょー!」

「うん、僕ももちろん寄るよ?」

「……《ぐすっ》……恋人と友人がいい人すぎて辛い……ちくしょう大好きだお前ら」

 

 その後、めちゃくちゃ頭撫でられた。やめろって言っても聞いてくれなかった。

 

  ……そんな感じで、俺の高校生活二年目は始まった。

 

 日々は幸福に溢れていて、人との付き合いがこんなにも楽しいものだと初めて知った。

 もし病室で結衣に会わなかったら、と思うと……小町には感謝してもし足りない。

 俺のことだから、どうせいろいろなものを諦めて、人生そんなもんだって努力もやめて、自分が救われるだけのぬるま湯にどっぷり浸かる夢でも見てたんだろう。

 それはきっと、絶対に叶わない夢だ。

 コミュ力もなく、人脈もなく、欺瞞が嫌いで疑り深くて、素直でもないし捻くれてるしで、いいところなんててんで無い。

 人と上手くやる行為を欺瞞と思っている時点で独りで居るしかないし、ぼっちを肯定してしまっている時点で自分とともに立ってくれる人を認められるわけもなく。自分が不快に思うことのすべてを欺瞞と謳って目を背けるだけで、結局はなににも踏み出せず、踏み込めず、孤独を肯定するだけで終わる人生だろう。

 あの日の俺がそれを選んだなら、それはそれでちゃんとした人生だ。

 あとで自分が思っていた欺瞞ってものに知らぬ間に浸かっていようと、それが原因でどれだけ嫌われていようと、どの道を選んでも後悔しない日なんて絶対にない。

 ただ、その後悔の幅がどれだけ大きいか小さいかの問題なのだろう。

 頑張ってなにかを為すことを面倒だと言ってしまえばそれまで。結局はそれも“欺瞞だ”で片付けて、いつしか努力することも忘れるくせに……知りたい、知って安心したいなんて思うのかもしれない。努力を忘れた先で得られる知識に、知ろうとしない理解力の先に、いったいどんな本物があるのかを……時々に考える。

 

  今の自分は、たぶん……充実している。

 

 中学の頃のままぼっちであったなら、きっと得られなかった世界だろう。

 けど、それでも思うことだってある。

 ぼっちであることはそんなに寂しいことだっただろうか、と。

 自分の時間を自分のために、全てを自分のために使えた頃は、贅沢を言わなければ真実自由であったと言える。それはそれでかけがえのないものだったのだろう。

 その時と、今思うことはひどく違っている。

 正しさが通らない世界が嫌いだった。自分は正しい筈なのに、独りだったから違うと決め付けられた時なんて、世界の在り方に反吐が出た。

 自分を曲げてまで他人に認められたくないと思ったいつかは確かにあって、じゃあ自分は最初っから曲がらず、捻くれていたのかといえばそうじゃない。とっくに変わった自分で居たのに、それを認めず、勝手に欺瞞を嫌っていただけだ。

 過去を肯定する。その、自分を好きでいるための言葉を正しく扱うなら、俺はとっくに自分が大嫌いだったってことじゃないか。

 

  自分はとっくに曲がっていた。

 

 欲しいものを欲しいと言えた時代があった。

 知るために努力していた時代だってあった。

 ある程度成長したら“自分は完成した”とでも思い上がって、自分を曲げないスタンスなんて取ったって、今さらだと笑われればそこまでだろう。

 それでも……自分を曲げずにいられたなら、自分はどれだけ馬鹿で……それでも、どれだけ真っ直ぐでいられたのか。

 時々……そんなことを、考えるのだ。

 

「な、結衣」

「ん? なに? ヒッキー」

「……馬鹿っていうのも、案外悪いもんじゃないよな」

「誰が馬鹿だっ!?」

 

 病室で笑い合うことが出来たあの日から、彼女はきっと、大分変わった。

 それはきっと、周りに合わせたのではなく自然に。

 言ってしまえば元気な自分を出せるほど、その場に馴染めたのだろう。

 俺だって、気づけば笑っている自分を思うとゾッとすることがまだあるんだが……これが、不思議なことに悪い気分じゃない。

 “自分を曲げてまで結婚したいとは思わない”。

 専業主夫、なんてものに憧れて、養われていたいなー、なんて思ったことがある。楽な方へ逃げたかったのだ。だってそれは、とても楽で、難しくないから。

 もちろんそこへ到るまでは大変すぎるだろう。

 自分を理解してくれるパートナーを見つけなければいけないし、見つけたとして、それが実現できる状況がそこにあるかも解らない。

 上手くいかなければなんもかんもを欺瞞の所為にして、またふてくされるのだろう。

 そんな未来の自分が見えて、溜め息を吐いた。

 本来の自分を偽ってまで人に認められたくないと、かつての自分のように想像してみても……結局、誰になにを言われても自分はなにも認めないのだ。

 自分を認めるのは自分で、失敗も成功も自分の責任だとしか思っていなかったのだから、当然だ。

 まあその、ようするに。

 譲り合いをする気がないのに、相手には専業主夫を譲れと言っていたのだ、かつての自分は。恥ずかしくて死にたい。

 小学六年まで培った技術で家事をやってやろう、代わりに俺に安寧をよこせ! って……アホか、釣り合い取れんわ。

 買い出しに行って歴戦の奥様方にボコボコにされて、“二度とセールには行きたくないでござる!”とか言い出す自分が目に浮かぶようだ。

 だから……

 

  だから。

 

 どの道、いつかは自分で変わったのだろう。

 もしくは、変わるきっかけを得ていたか。

 それらを何度もぶち壊しながら、手遅れになるのか手遅れになる前に変わることを選べるのか。

 結局はそこなんだろう。

 

  時間が流れてゆく。

 

 日々はつくづく彩りってものを覚えてくれたようで、新しいクラスにも慣れ、席替えの際に離れてしまっても、周りの人に頼み込んで隣同士にしてもらったりして笑った。

 奉仕部での活動も相変わらず。

 太いお方が小説の感想を求めてきて、雪ノ下さんと戸部が容赦ない「つまらない」発言を繰り出したり、途中まで読んだ結衣と彩加が状況がまるで解らないとこぼしたり、「これってどっかで見た気がするんだけど……もしかしてパクリ?」って訊いてみたらぶひぃいいいって小説持ってきた彼が泣き出したり。

 まあその、相変わらずっていう部分は、騒がしいという意味で。

 

  川……川……なんとかさんの弟から依頼があった。

 

 姉がいかがわしい店で働いているかもしれない、という問題の解決のため、メイド喫茶に行ったり夜のバーに行ったり。

 

「い、いらっしゃいませ、ご主人様……」

「結婚してください」

「ふえぇやぁあっ!? ヒッキー!?」

 

 メイド喫茶にて、メイド服を着てメイド体験が出来るということで、メイド姿の結衣を前に暴走したりもしたが───その度に雪ノ下さんに絶対零度の視線を送られ、正気に戻っていた。ただそのー……正直、素晴らしかったです。

 スカートにロングを選んだのは八幡的にポイント高……あ、いや、なんでもないですごめんなさい。

 

「親父のスーツ借りてきたけど、これでいいのか……?」

「ふ……わぁあ……!!《ぽぉお……!》」

「? 結衣?」

「あ、あのっ、えとあのっ、ふ、ふふふふ、ふふつかものですがー!」

「え? あ、え!? 結衣!?」

「由比ヶ浜さん、それを言うなら不束者よ。あとホテルの前でいちゃいちゃしないでちょうだい」

 

 メイド喫茶で俺が告白して、バーがあるホテルの前で俺が受け入れられた。

 そしていつでも平常運転の雪ノ下さん、パネェッス、というのは戸部の言葉だ。

 ちなみに戸部はチャラい服しかなく、彩加は外見が幼すぎたために入れなかった。

 結局は集めた情報からスカラシップを提案。彼女はバーのバイトをやめ、川……ええっと、川神? の弟である……たい、タイ……タイキック? からの依頼は完了した。

 

  職場見学を賑やかに過ごした。

 

 なにが起こるでもなく終始笑顔で、腕なんぞ組みながら見学してたらファーストブリットが飛んできたくらいで。

 もちろん中間試験も無事に終わっていて、最悪の事態になることを全員が回避出来たことに、一番喜んだのは結衣だった。

 彩加とデート……ごほんごほんっ、遊びに行ったり、何故か材木座に付き纏われるようになったり、今年もやってまいりましたわんにゃんショーで燥いだり。

 

「今年こそ猫が先ね」

「犬だってばゆきのんっ!」

「あなたいい加減その呼び方やめなさい」

「ゆ、ゆきのんこそいい加減慣れようよー……」

「部室でいちゃいちゃされることは諦めたのだから、これを諦めるのは譲り合いではなく敗北よ。それを認められるわけがないでしょう?」

「なんかヘンな方向で頑固だっ!?」

「っべー! うさぎ可愛いわぁ! うさぎマジ可愛すぎだわぁ! これマジやばすぎでしょー!」

「だよねっ! いいよねうさぎっ!」

「だよなっ、犬か猫かの争いなんて虚しく───」

「ヒッキー!」

「ごめんなさいサブレ愛してる! でもカマクラを嫌いになんてなれない!」

「飼い猫と彼女の愛犬との板ばさみって、見ててつらいわぁ……けどここはガンバでしょ、ヒキタニくん」

 

 わんにゃんショーとくれば、すぐに結衣の誕生日。だというのに材木座が面倒事を持ち込んできて、面倒事と言うからにはもちろん面倒なことが起こった。

 ゲーム部と戦うことになったのだが、なんとやつら、負けたら服を脱ぐ、なんてルールをつけてきやがったのだ。

 なので俺達は正々堂々受けた。ああ受けたね、正々堂々、戸部と俺の男二人で。

 だって相手も男二人ですもの。

 苦労もあったものの、俺と戸部が中破絵になったあたりでなんとか逆転。ゲーム部は「なんでこんなことになったんだっけ……」と苦悩しながら、戦いは終わった。

 

  ……で。当然勝利の喜びを結衣の誕生日に上乗せして祝うわけだが。

 

「ハッピーバースデー、結衣ー」

「ハッピーバースデーだよー、うぬ~」

「ハッピーバースデーっしょー、貴様~」

「ハッピーバースデーであるー、お主~」

「は、はっぴー、ばーすでー……よ、あ、あなた~」

「ハッピーバースデー、親愛なる~、結衣~」

『ハッピーバースデーだ! あんた!』

「だからそれもういいってばぁ! やめてよぉ!! トゥーユーがいいよぉ!!」

 

 今回は感謝も込めて、材木座が参戦。

 雪ノ下さんも歌に参加するという珍しい状況で、結衣の誕生日を祝う集まりは賑わった。

 

  定期テストを終え、柔道部からの依頼を完了させる。

 

 盛大に叩き落されたけど、なんとか終わった依頼にホッとした。

 まあ、人の暗い部分なんて見てきたし、それを煽るくらいなら。

 でもどうせなら勝ちたかった気持ちはあった。

 あれな。悔しいって思える気持ちがあるなら、まだまだ自分は腐っちゃいないって思えた。

 

  夏休みは……まあ、去年と変わらず。

 

 と、油断しつついちゃいちゃしていたら平塚先生から召喚命令。

 部活の一環だと言われれば出ないわけにもいかず、というか結衣が行くなら俺も行く方式で。

 訪れた場所で小学生のサポートをする、という依頼内容で、奉仕部は今日も元気に奉仕部してた。めっちゃ奉仕部してた。つまり暇してた。だってやることなくなると暇なんですもの。

 しかしやることが完全にないわけでもなく、翌日もということで同じく平塚先生の策略によって召喚された葉山グループとともにコテージで夜を明かすことに。

 男子女子と分かれての睡眠とくれば、好きな女子談義はもはや定番であり、訊いてもいないのにまず戸部が喋り出した。

 

「俺さぁ……海老名さん、ちょっといいなって思ってんだ」

「そうか。俺は結衣だな。これは譲れん」

「……そういえばヒキタ……いや。比企谷は、どういう切っ掛けで由比ヶ浜さんと付き合うことになったんだ?」

「ん……あいつの飼い犬を車から庇って俺が骨折して入院した。まあ、最初は罪悪感からだろーな」

「きっかけが罪悪感で、あそこまでいくものなのか……?」

「特殊な例すぎたんだよ。で、そういう葉山くんはどうなんだ? 好きな相手」

「え───あ、いや。やめておこう」

「ちょー、ちょぉちょぉ~! そりゃないわぁ葉山くーん。人の話聞いておいてそりゃないわー」

「彩加はどうなんだ?」

「えっ? 僕っ? ……え、えっと……特に好き、とかは……ないかな」

「そうか……彩加になら安心して小町を嫁に出せるんだが」

「は、八幡っ!? そんな、急に嫁とかなにをっ……!」

「お、おお、すまん、妙なこと言った」

「ほらほらほら~、言っちゃいなってば葉山くーん。イニシャルだけでいいからさー」

「…………はぁ。……Y」

「Y……雪ノ下さんか。葉山くん、あの人は苦労するぞ」

「ああ確かに、葉山くんとかめっちゃ振り回される姿、マジ簡単に想像出来るわぁそれ」

「まあでもその、なんだ…………ええっと。……ガンバレヨ?《ニコオ》」

「……俺はキミが嫌いだ」

「いきなりひでぇなお前」

 

 翌日の自由行動では随分と遊んだ。

 山でヤッホー言おうとしたらついやっはろーが出て赤面したりもしたが、まあいいだろう。

 そんなわけだから持参してきた水着を装着、川で遊んだのだが……彼女のメロンが眩しかったです。正直……たまりません。

 

  鶴見留美と、その周囲の関係のリセット。

 

 グループというものが存在していると、どうしても出てくるもの……序列やいじめの破壊に踏み出す。

 葉山く……葉山のグループと奉仕部とで話し合って、あーでもないこーでもない。え? 呼び方? 堂々と嫌いって言ってくれたんだし、もう“葉山くん”とか呼ぶことないでしょ。

 俺が出した案は結衣に即行で却下された。なので次の案。

 これも結衣がうーうー唸ってたけど、実行させてもらった。

 まあようするに、人の恐怖心を純粋に煽って崩壊させましょキャンペーン。

 伊達眼鏡を外して世界を恨み自分を諦め、目の腐りを最大にし、次にメイクとアイスノンで外見をゾンビに、体温もゾンビにして、キモ試しで盛大に驚かせた。

 こうかはばつぐんだ!

 子供の純粋な悲鳴ってデカいのね。でも捕まえて逃がさなかった。リーダー格の子供が腰を抜かして、見捨てて逃げようとした子を掴み、怯えて動けない子にニチャリと笑い、こう言った。

 “人質、おいてけ……道連れ、そいつだけ……”と。

 ルミルミはその質問で俺が俺だって気づいたようだけど、他の子はそこまで考えられるほど余裕がなかったらしい。

 さすがぼっち、精神の鍛え方が違う。

 そして始まる人柱ごっこ。あなたがなれお前がなれの応酬で、じゃあ鶴見が、って満場一致で決定した瞬間、そいつはもう決まっている。もう一人だと言ったらさらに暴走。

 一斉に逃げ出しそうだったので、一番先に逃げたやつを食べるよ……と言ったらみんな逃げなかった。あらやだ、案外いい子たち。聞き分けが、ね? あくまで聞き分けが。

 まあそこで結局はルミルミがカメラのフラッシュ焚いて逃走したんだけど……無事、彼女らの関係は崩壊した。

 晴れてルミルミはハブられぼっちから自らぼっちを選べるようになり、問題は解消。

 

「ふぃー……たでーまー」

「《ビクゥッ!》ヒィッ!?」

「おおあっ!? ちょ、びっくりするわーヒキタニくーん! てかそれすごくね? 真っ暗なとこから出てきたとき、マジゾンビかと思ったわー……」

「……そんな言葉よりも、雪ノ下さんの純粋な悲鳴が大ダメージだ……」

 

 ……そして俺は、雪ノ下さんから屍鬼谷(しきがや)くんの称号を頂戴することとなった。

 もういいこの人、さんつけるのもったいない、雪ノ下でいいや。

 そんなこんなでまたいつもの日常に戻るわけだが───まあ、存分にいちゃこらした。

 夏祭りにも当然行ったし、花火が上がる景色の下、改めて告白して、改めて告白されて、受け入れて受け入れられて、嬉しくて、抱き合った。

 

「ちょぉ、花火景色の下で告白とかマジ最高すぎじゃーん!? ヒキタニくんレベル高いわ~……!」

「なんか、嬉しいよね。八幡、どんどん心開いてくれてるみたいで」

「あ、やっぱり? やっぱりそう感じちゃう? いんやー、俺もなんか最近ヒキタニくんがやさしい気がしてむずむずしててさー」

「ほむん? そういえば今日は雪ノ下嬢はどうしたのだ?」

「雪ノ下さんなら今日は家の用事で来られないって、部員メールで届いてたけど……材木座くん、知らなかったの?」

「……考えてみればアドレス交換なぞしていないのであるの巻」

「ないわぁ、それないわぁ……」

「材木座くん……」

「わ、我が悪いわけではないであろう!?」

 

 賑やかさに引かれたのか、最近材木座が入部した。

 元々のきっかけは高校生活を振り返って、が原因だったらしいけど、落としてしまった小説を平塚先生に見られてしまい、ついには奉仕部に押し込められたというわけで。

 ただ、あくまで本人は自分の意思で入ったことにしたいらしい。

 

  そうして、二学期が始まって、文実長に結衣が立候補して、俺も手伝って───

 

 「どうして実行委員長に?」って訊くと、「成長したかったんだ」と笑った。

 そんな彼女をサポートしない理由もなく、全力で頑張った。

 J組より、同じく文実になっていた雪ノ下も手伝ってくれて、結衣のつたない指揮の下、けれど確実に準備は進んでいった。

 いつか平塚先生が言った通り、結衣は“答え”を決めていると迷わない。

 文化祭をいいものにしようと頑張る姿に迷いはなくて、その元気さに釣られてみんなが負けてられっかと頑張る。

 やっぱりサポートが必要な場面も何度もあったが、それでも迷いがないだけ好感が持てた。

 勢いだけな部分ももちろんある。が、立っているだけでなにもしないよりは全然いい。むしろ初めての経験なんだから、こうなって当然なのだ。あとはその責任を受け入れるか他へ流して自分は知らん顔するか、の問題だ。

 そして彼女は……問題に対して相談することはあっても、逃げ出したりはしないのだ。最終的には立ち向かえる勇気を持っている。

 責任者ってことで何度も声をかけられ、連絡先を訊ねられようと綺麗に躱す姿にさらに惚れたのは内緒だ。

 

  そんなわけで、文化祭は大盛り上がりで終了。

 

 当然トラブルもあったけど、達成感はそりゃあすごかった。

 ガラにもなくハイタッチなんてしてしまって、したあとに赤面して悶えたくらいだ。

 なにこのリア充っぽい行動。恥ずかしいのに顔がニヤケまくって仕方なかった。

 それから一週間も間を空けない間に体育祭の相談を城廻先輩から受ける。

 去年より盛り上げたいらしい体育祭の委員長に由比ヶ浜が推され、なおも成長を求める彼女はあっさり了承。

 元気ね、きみ。と思いつつちゃっかりサポートに回る宣言をしている俺も、結構アレである。

 ああもちろんそのー……なに? とことんまでにこの機に乗じて結衣に連絡先訊いてくるヤツとか居ましたよ? ええいどうしてくれようかとか思ったけど、とことん回避する結衣さんマジパネェッス。

 でも決定的な後ろ盾が居ないから、強引なヤツ相手には押し切られそうになるんだけど……そんな時は彼女の後ろから、眼鏡を外して殺意とともに睨んだ。

 なに気安く声かけてんだ、そんなに仕事熱心なら生徒会役員とアドレス交換でもしていろこの野郎。

 そんな目が気に入らなかったのか、睨んでくる男子生徒の視線に気づいて結衣が振り向くと、今度は俺が恥ずかしいわけで。

 イイイイエベベベベベツニなんかその人僕の彼女とか言いたかったわけじゃなくて、イエ嫉妬じゃないんですヨ? 嫉妬じゃないんですけどやっぱり腹が立ったってイイマスカ。

 ……アノ。なんでそこでくすぐったそうに、でも嬉しそうに笑うんですか?

 え? いや、連絡先なら彼のを、じゃなくて。ほら、なんか困惑しちゃってるじゃないその人。

 え? え……アッ……。

 ……男子生徒の目の前で腕組まれてすりすりされた。男子生徒、撃沈。

 やだ、この子案外強い。そんな事実を確認した。

 

  体育祭はつつがなく始まり、盛り上がりを以って終了。

 

 昨年の悲しみのコスプレースを拭い去る楽しい体育祭だった、と思う。

 やめて、ノーメイクで眼鏡を外せばゾンビとしていけるんじゃないかしら? とか雪ノ下に言われたこと思い出しちゃうから。ゾンビなら千葉村でやって、お前ヒィとか悲鳴あげてたでしょーが。

 そんなこと言ってるからたまに結衣と喧嘩になるのよあなた。なのに地味に仲はいい。女子って不思議。

 ちなみに全力で戦ったが俺達赤組は負けた。

 策らしい策も弄さずの真っ向勝負。たまにはそんな青春もいいだろう。戦えばどっちかは負ける。結果を望む勝負に引き分けなんぞはないのだ。

 で、今回負けたのは俺達。それだけだ。それだけだが、盛り上がったなら依頼は達成。ほれ、結果的には勝ちで「次は勝とう! ね、ヒッキー!」うん勝とう次めっちゃ勝とう来年とか超本気出すし。

 でもね、結衣。終わってから士気を上げられても八幡困っちゃう。

 

  そして……そして。

 

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