どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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ある日、意識の外で猫が鳴いた。
なにを思ってなのか、なにを訴えたいのかはわからないけれど。
その猫は、何度も何度も、とても長いあいだ鳴いていた。


夢と現実の僕らの距離
長い長い夢のあとに


  ───あの時こうだったら。

 

 

 きっと誰もがいつだって思うことだ。

 

 そうであったなら、自分はきっとこうだったと。

 

 あの時こう出来ていたなら、自分は絶対にこんな自分じゃなかったと。

 

 けれどそれが叶うことは絶対になくて、仕方ないから今の自分を受け入れる。

 

 

  ───たとえば、って思う。

 

 

 家族からの愛が妹にしか向いてなかったとしても、自分にやさしくしてくれる人が居たなら、やさしさに憧れ続け、失敗し、やさしさに怯えることなどなかったんじゃないかって。

 

 空気なんか読まなくても、自分の内側に踏み込んでくれる誰かが居てくれたなら、関係が終わることに怯えて、踏みとどまる性格になることもなかったんじゃないかって。

 

 イジメに涙を見せない強がりを持っていたとしても、やさしさをくれる誰かが傍に居てくれたなら、もっと素直に感情を出していられたんじゃないかって。

 

 そんな俺や彼女たちが幼い日に出会って、手を取り合ったもしもを思う。

 

 濁り、腐った目をする少年なんてどこにも居なくて、空気を読んで周りに合わせてばかりの少女も居なくて、姉の真似をして自分を殺していた少女も居ない。

 

 ……これは、都合のいい“もしも”を夢に見た少年のお話。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 ───早く大人になりたいって思うことってあると思う。

 自分が子供だって強く自覚しちまった時や、無力を感じた時、今の自分が嫌になった時。

 大人になれば変わる。そう信じていた頃が、大体の人にはあったんだと思う。

 少なくとも俺にはあって、誕生日っていうのはそれを積み重ねる儀式みたいなもんだと思ってた。

 間違っても、祝われることを喜ぶものじゃない、とは確信していた。

 

「はっぴばーすでー、つーゆー!」

 

 目の前の子供が歌ってくれた。

 つたない声で、ちっこい体で頑張って。

 自分はおまけでしかないと自覚したその日に、そんなやさしさは眩しくて、あたたかくて。

 そんな懐かしい過去の夢を見ていると、強く自覚し、苦笑した。

 俺は、確かにこんな子供に救われたんだと。

 

……。

 

 子供ってのはいろんな意味で純粋だ。

 教えられたものは頑張って覚えようとするし、教えなくても見たこと聞いたことで学んでゆく。

 教えてもいないのに親の口調を真似ることがあったりとか、マジそれな。

 そうやって、夢を見ていると自覚している俺は、夢の中を遡っていた。

 なんだってこんな夢を見ているのか。

 呆れるとともに、自分の過去をこの目で改めて見ているようで、懐かしさも一入。

 

「ハッピーバースデー、小町!」

「おめでとう、小町」

 

 景色の先には賑やかな家族が居た。

 夫婦は笑顔で、祝われる子供も笑顔。その兄も笑っていて、仲が良さそうな家族だった。

 

  景色は飛び、兄の誕生日。

 

 祝われたが妹ほどの賑やかさはなく、淡々と進められる光景に、見ていた俺は“ああ、そういやこんなもんだった”と表情を消した。

 男親が突然笑う。

 祝われるべき子供はぱあっと表情を明るくし、放たれる言葉を待った。

 男親が言う。

 

「次の小町の誕生日、父さん張り切るからなっ!」

 

 兄は、笑顔を消した。

 それを見て女親が男親を張り倒したが、もう遅い。

 子供ってのは学んでいるものだ。

 賑やかではなくても祝われたことは嬉しかったそいつは、そのわずかな嬉しささえ隠し、もそもそとケーキを食べた。

 お兄ちゃんなんだからと、妹よりも小さく切り分けられたケーキを。

 妹はその隣で大きなケーキを嬉しそうに食べていた。

 

……。

 

 妹の誕生日は賑やかだった。

 女親は兄を気にしていたが、兄はとっくに愛想笑いを覚えていた。

 本当に楽しそうに笑って、妹を祝い、ケーキの切り分けを手伝ってやり、自分の分はひどくちっぽけに切り分け、食べ終え、部屋に戻った。

 女親は心に冷たい何かが差し込まれたような悲しみを抱き、次の誕生日には精一杯祝おうと心に決めた。

 

  そしてその誕生日。

 

 急に入った仕事に一日中家に居なかった両親は、息子を祝うことはなく。

 兄の誕生日を日付として意識していない妹は、両親の居ない家に泣き、兄はそんな妹を慰め、一日を過ごした。

 翌日、両親は帰ってきた。

 男親の方が早く、おかえりを言われるなり、妻に言われていたことを思い出し、遅れはしたけど誕生日プレゼントを渡すことにした。

 八幡をちゃんと祝ってやれ、と。言われたことをきちんとこなし、プレゼントを。

 兄は喜んだ。

 プレゼントと言われ、喜ばない子供もそう居ないだろう。

 けど、渡された“プレゼント”は茶色の封筒。

 首を傾げ、開けてみれば、お金が入っているだけだった。

 それで好きなものを買え、と言う男親は、風呂に入るとさっさと寝てしまう。

 

「………」

 

 誕生日おめでとうさえなかった。

 自分が見ている景色が歪んでいくのを感じて、兄は靴を履いて外に飛び出した。

 

……。

 

 家出のつもりだった。

 どこをどう走ったのかもわからず、気が付けば知らない公園に居た。

 こんな時はブランコだと乗ってみても、気が晴れるわけでもない。

 握り潰してしまっていた茶封筒をズボンのポケットに捻じり込むと、虚しさに襲われながらも学ぼうとした。

 羨ましがるな。あんなものはされたって嬉しくないものなんだ。悲しむ必要なんてない。むしろ祝われたらダサイんだ。

 そう思い込むことで、自分を救おうとしていた。

 けれど意識を内側に向けようとすればするほど涙はこぼれ、それに気づいたのは声をかけられてからだった。

 

「………」

「どっかいたいの?」

 

 スコップと小さなバケツを持った子供が居た。

 その光景を見て、ただ純粋に“懐かしいな”って思う。

 そういやこれがきっかけだったなーって。

 

「………」

 

 誰かに聞いてもらいたかった。

 心に学ばせてしまえば、それが当然だって思い込むことだって出来たのに、その途中で邪魔をされれば心は弱いままだ。

 だから、当時の子供心でも女の子に涙を見せるのはダメだ、なんて意地があったのに、泣きながら言った。

 そしたらそいつ、怒ってくれて。

 よくわかってなかったようだけど、「誰かを泣かせるの、よくない!」って怒ってくれて。

 んで、親の代わりに歌ってくれたんだ。

 はっぴーばーすでー、って。

 嬉しかった。

 そのあと手を引っ張られて、片手にちっこいシャベル入りのバケツを揺らすその女の子と、気が晴れるまで遊んだ。

 近くのベンチにその子の母親が座っていて、俺を見るとにこっと笑ってくれた。

 そうして散々遊んで、お別れになる頃。

 なにかお礼がしたくて……いや、男として格好いいとことか見せたかったんだろうな。

 近くにお店はないかって聞いて、握り潰しちまった封筒を取り出して、その子の母親が見守る中、精一杯の感謝を物として。

 けれどその子は、あなたの欲しいものはなに? みたいに聞いてきて、お金があれば欲しいなって思っていたものを指さす。

 子供の好みってのは案外安定しない。

 ヒーローものに憧れる時もあれば、同じ園のなになにちゃんが好みのプリキュアものが欲しくなったり~とか。

 その時の俺が指さしたのは、小町が綺麗・可愛いって言っていた砂時計だった。

 あいつが欲しがっていたものを、なにかひとつでも自分が欲しいって思っていた。

 だから指差した。欲しいって思ったから。

 するとその子は笑って、“じゃああたし、それがいい”って言って。

 

  ……自分が欲しいって言ったものまで、他人のものになるのか。

 

 心に諦めが浮かぶけど、男の子は約束を破らないのだ。

 悲しさを飲み込んで、お金のほぼ全部を使って贈り物をした。

 するとその子は、店員さんが気を利かせて綺麗にラッピングとリボンをつけてくれたそれを俺に両手で差し出して、

 

「はいっ! おたんじょーび、おめでとー!」

 

 そう、言ってくれた。

 

「───…………!」

 

 悲しみしかなかった心に、あたたかな風が送り込まれたような気分だった。

 その子の母親がそうしなさいと言ったのかもしれない。

 ただその子がそうしたいからそうしただけなのかもしれない。

 それでも。

 それは、そのガキにとって大切なプレゼントになったから。

 俺はその場で、本当に子供らしくびゃーびゃー泣いて、泣きながらプレゼントを受け取って、また泣いた。

 その子との付き合いはそれからずっと、今も続いている。

 帰り道がわからない、なんて言う俺に、その子の母親は嫌な顔ひとつせず付き合ってくれて、いっぱい走った、と言う俺の言葉をきちんと信じて、住所の文字で覚えている字はある? と近くの住所の文字をざっと見せてくれて。

 俺の名前と照らし合わせたりいろいろ時間を潰してくれて、そうして……家まで付き合ってくれた。

 

  でも……なんでだろうな。

 

 不安でいっぱいだった心は、家に辿り着いてみれば余計に膨らんだ。

 自分の家に帰るのに、なんでこんなに寂しいんだろうか。

 不安を抱きながらドアを開けてみれば、その先で旦那をマウントポジションで殴りまくる我が母が居た。

 あの光景は、ほんっと忘れようにも忘れられない。

 一言挨拶をと待っててくれたあの子の母親が、ぽかんと口を開けて固まる姿は……たぶんこの日が最初で最後。

 入ってきた俺に気づいた女親が俺の名前を呼んで、抱き締めて来た。

 俺はといえば砂時計が傷つかないようにって庇うようにして、ぎうーと抱き締められた。

 感動話とかだったら子供はここで泣くんだろうが、冷めた感情しか沸いてこないのな。

 だからただいまとだけ言った。

 家出をした罪悪感なんて微塵もありゃしなかった。

 

「………」

 

 解放された俺は、女親とその子の母親が話をするのを見ていた。

 待っている間、暇そうにしていたその子に手招きをして、やったことといえばプレゼントを開けてありがとうを何度も届けることくらい。

 退屈だったろうに、綺麗な造形の器の中を砂が通る様に目を輝かせたその子は、きれーだねっ、と笑ってくれた。

 出会いはほんと、そんなもの。

 ここから母親同士の交流も始まるわけだが、この時になって俺は、相手の名前を知らないことに気が付いた。

 また遊ぼうと言うつもりだったのにそれはない。

 なので改めて名前を言って、キミは? と訊ねて。

 

「うん。あたし、ゆい! よろしくね、はーくん!」

 

 そこから、幼馴染って関係は始まった。

 

……。

 

 時は流れ、ゆいとも随分と仲が良くなったいつか。

 小学生になり、出来ることも増えてきたけど、やることはそうそう変わらない。

 母のマウントナックルを見るという、夫婦喧嘩にもならない一方的な暴力を知った俺は、その原因であった俺の誕生日のことについて、“もういいや”を使用。

 小町の誕生日だけ盛大に祝ってやってと頼むと母は怒ったが、今までの誕生日を語ると苦虫を噛んだような顔をして謝ってくる。

 だからこそ、って言葉には“いらない”で返した。無理に祝われてもむなしいだけってわかったから。

 だからまあ、その日から、俺の誕生日プレゼントはず~~っと茶封筒だ。

 父は母に父親失格の馬鹿とか言われていた。懐かしい。

 

  この頃になると、男も女も同姓同士でつるむのをよく見かける。

 

 男は女と一緒に居ると冷やかされ、あいつらやたらとヒューヒュー! とか言うのな。

 けれど俺もゆいも、誰と一緒に居たほうが楽しいかくらい知っていたから、同姓の友人がなんと言おうが一緒に居た。

 逆に今まで仲がよかったのに、友人に煽られて離れる男女の友達を見て、ひどく寂しく思ったもんだ。

 そんな時はゆいと頷き合って、その男女の説得に走ったもんだ。

 ……ん? ああ、同じ小学だ。実に幼馴染である。

 いろいろあったけど、ウチの両親とゆいの両親が話し合って、こうなったそうで。

 俺は随分と走ったり歩かなきゃならなかったが、それも慣れてくると楽しいもんだった。

 いい加減慣れてくると、小町に対しても嫌な感情とか湧かなかったし。

 どうして妹だけ、ってのは随分と心のモヤとして溜まっていたもんだけど、砂時計が全部チャラにしてくれた。

 

「こまちあれほしい!」

「だめだ」

「ほーしーいー!」

「だめだ」

「ちょーだい!」

「だめだ」

「おかーーぁぁさーーーん! おにーちゃんがくれないー!」

「小町、あれだけはダメだ。諦めな」

「やーだー! ほしいー!」

「だめだ」

「……八幡。砂時計くらいあげりゃあいいだろう。お兄ちゃんだろ? な? 父さんが今度、カッチョイイロボとか買ってやるから!」

「“お父さん”。俺はあなたと何回出掛けたことがありますか?」

「へ? 何度って………………え?」

「……あんたもう黙んな。八幡のことに関して、あんたが関わるとロクなことがない」

「ひどっ!? い、いやちょっと待て、さすがに一回くらい……! あの時……は、小町、だったな。あの時は……小町…………ちょ、ちょっと待ってくれ、な? え? あるよな? え……?」

「八幡、こんど母さんとどっか行こうか」

「……いいよ、そんなの。結衣と一緒に居る方が楽しい」

「───《ブチッ》」

「ぁ、ちょ、悪かった! 俺もちょっと自分のアホさ加減に呆然として《ずっぱぁあん!!》ぶげぇっ!?」

「ちょっとちょっとうるっさいんだよこの馬鹿旦那! あんたにとって八幡はそんなにちっぽけな存在か!?」

「いっ……いっつ……いやっ……! この“ちょっと”ってのはつい出てしまうものであって……! いぢぢぢぢ……!!」

「いーよ。あんたはずっとそうやって小町だけ見てな。こっちはこっちで八幡だけ見てるから」

「だから、いいってば。結衣と、結衣のお母さんが居ればそれでいいし」

「悲しいこと言うなよ~! いーから任せときなっ! こちとら仕事ばっかだったとしても女のはしくれ! 料理とかバッチシ作って驚かせてやるさ!」

「期待しないでおくよ」

「あー……そっか。まあ、今までが今までだから、自業自得か。まあ、こっからこっから。私も旦那のこと胸張って馬鹿に出来るほど、構ってやれてたわけじゃないからね」

「……だから、いーって。前の誕生日の時、なにも言わなかったけど……気にしてくれてるの、なんとなくわかったから」

「───! …………はぁ、ほんと馬鹿だ。子供って見てるもんだね……そんなことも知らなかった。……よおぉっし八幡! 今日は一緒に寝るよ! 風呂も一緒だ!」

「いやだよ」

「……おにーちゃん、すなどけー」

「だめだ」

「やーだー!」

 

 まあ、そんなこんなでいろいろあったが……ともかく砂時計は俺の宝物になった。

 欲しいと言いまくる小町を突っぱねまくるのが、当時は最高でした。

 子供って単純ね。それでものすごーくスカッとしてしまったのだ。

 世紀末に愛で戦う北斗なあの人みたいに、ひたすら無慈悲に“だめだ”って言うのも、なんだか楽しかった。

 そんなわけで物心ついた頃にはそんなことも忘れ、千葉の兄妹の出来上がりだ。

 まあ、小町は俺達とは学校が違うわけだが。

 父のほうが、小町に朝からそんな距離を歩かせられるかと、近場の小学校にしたのだ。

 俺はゆい……まあ、結衣が通う学校の方な。

 

……。

 

 まあともかく、そんな日々を過ごしていたある日のことである。

 

「…………」

「……………」

「……」

 

 いつもの公園に、ひとりの見知らぬ子供が居た。

 先客ってやつだ。

 ていうか………………誰?

 

「お人形さんみたいだねっ」

 

 結衣は一言そう言うと、躊躇もなく子供へ向けて走り出した。

 俺が「え? あ、結衣ちょ待ァアーーーッ!?」とか驚いて慌てたって知りませんって感じ。

 行動力ありすぎなんだよこの幼馴染は。

 女子の間で交友関係に悩むこともなく、ほぼ俺と遊んだり人間観察したり、誘われれば俺も混ぜて女子と遊んだりした所為か、空気読むのも合わせるのも突っ走るのだってお手の物。

 最初に「おれとゆいとでえんりょとかなしな!」って言ったのが効いたのか、俺達はお互いにそう遠慮しない。

 それが行動にも出るようになってからは、結衣は本当に元気だった。

 

「ねぇっ」

「《ぴくっ》……なに?」

「誰かまってるの?」

「……べつに。なんでもない」

「じゃああそぼうっ!」

「───え?《ぐいっ》きゃっ、わっ……」

 

 デデーン! 見知らぬ少女が仲間になった!

 見知らぬ少女は犠牲になったのだ……ガハマさんの行動力……その犠牲にな……。

 それがきっかけで知り合った少女、名前は雪ノ下雪乃……は、なんでも家族との行動中、猫を追っていて、気づいたらここに居たらしい。

 帰り方もわからず、家族も居ない。ようするに迷子であった。

 同じ経験を持つ俺は、そんな彼女の両肩に手を置いて、「大丈夫だ! 俺達が居る!」な~んて胸を張ってみせたわけですよ。

 あー……さっきも言ったが、この頃の女子と男子ってのは、その関係を図に表すと“対立”ってつけてもいいくらいによろしくない。

 当然雪乃の学校でもそうであったようで、しかも女子からも嫌われているという雪乃に対し、俺と結衣は───

 

『よしっ、遊ぼうっ!』

 

 わかりやすい言葉を届けた。

 戸惑う雪乃に「だって遊んでみなきゃ楽しいかどうかなんてわからないし、好きになれるかもわかんないじゃんか!」なんて言って、いざいざいざと二人で片手ずつを引っ張った。

 いや、出会いって人を変えるよね。俺、結衣に会わなかったら日陰者として捻くれてぼっちな人生だったんじゃないかしら、とか割と本気で思うよ。

 こうして夢を見てると余計に。いやマジで。

 

  それからは、そりゃーもうひどいもんだった。

 

 三人一緒に、服が泥だらけになろうが知りませんってくらい遊び、騒ぎ、燥ぎ、笑い。

 最初こそあんまりにも喋ろうとしないから、笑わす方向から攻めてみた結果である。

 ……この雪ノ下雪乃、一般的な笑いの方向よりも半歩ズレた笑いにツボる性格だったらしい。

 ヤケクソでこれは絶対無理だろー! と自分でツッコめるお笑いに走ったら、途端に爆笑であった。

 ……うん、なんか仲良くしていける気がした。

 そうして、気づけば目に涙を浮かべて大笑いして、楽しそうに駆ける雪乃に俺と結衣も笑って、たっぷりと長い時間を楽しんだ。

 

  ええはい、素直に交番行っときゃよかったです。拳骨くらいました。

 

 迷子としてポリスに連絡が行っていたらしく、ホイホイと我が家に結衣と雪乃を連れ帰った俺は、なんか珍しくとっくに帰ってた母上様に「新しい友達を紹介するぜ~~~~~っ!」などとキン肉マンチックに語尾を伸ばした途端、母ナックルを頭頂にいただいた。

 不安におびえる誰かを笑顔に出来たって事実が嬉しかったのだ。だから、拳骨の痛みも勲章だ。

 すぐに連絡が届き、雪乃の家族が迎えに来て、俺と結衣の話を聞いて、感謝を届けた。

 しかし雪乃は俺と結衣の服を掴んで離さず、雪乃の父親は「雪乃がこんなにわがままを言うなんて……」と驚いていた。

 「いや、言ってないっす。行動でしめしてるっすよ」と口にしたら、母ビンタが頭頂を襲った。スパァンといい音が鳴って、雪乃が笑った。解せぬ。

 

「……比企谷さん、でしたね」

「はい」

「もしよろしければ、なのですが。娘を一日、預かってくれませんか。明日は土日ですし、遊んでやってもらえたら……」

 

 母、一言「べつにいいですよ」。

 雪乃は家に泊まることになり、「じゃああたしも!」と結衣も追加され、比企谷家は一気に賑やかになった。

 今考えると、雪ノ下の親、すげぇこと頼んでるな。おふくろもよく了承したもんだ。

 

……。

 

 雪乃の家は結構離れた場所にあるらしい。

 今日は家族なんちゃらでたまたま寄ったこの町で、とても可愛らしい猫を発見して、追っている内にあの公園に辿り着いたんだとか。

 

「かーさんに、なんであっさり“いい”って言ったのかきいたら、雪ノ下に名前を知られるって、そういうことだ、って言ってた」

「雪乃ちゃんすごいんだね」

「……べつに、すごくない。すごいのはお父さんとお母さんだし」

「けどさ、ならいごと、とかやってるんだろ? 俺のクラスにも塾に行ってるやつとか居るけど、すげーなーって思うしさ」

「べつに……姉さんのほうがもっとすごい」

「? そっか。でも雪乃は雪乃だろ? 俺、べつにお前のねーちゃんの話なんかしてねーし」

「………」

「だよな? ゆい」

「そうだよ雪乃ちゃん。あたしたち、雪乃ちゃんのお姉ちゃんのことなんか知らないし、雪乃ちゃんのことだってしりたいって思ってるとちゅーだよ?」

「………」

「いやー、兄妹持つってフクザツだよなー。俺も妹が天使な所為で、ちっこい頃はさー」

「えへー、お蔭ではーくんと出会えたんだけどねー?」

「んっ、つーわけでさ、雪乃。俺はお前と、友達になりたい。俺、そーゆーふうに誰かと比べられるの好きじゃないし、他の誰かもそうだって思ってる。だからさ、ねーさんだとかどこのだれだれってのは忘れて、……ゆい」

「うんっ、せーのっ!」

『友達になろうっ!』

「…………」

 

 例えるならポカーン。

 そんな擬音が合ってそうな雪乃は、一度おろおろとしだすとこっちを見たりどっかを見たり。

 けど、少しするとおずおずと手を伸ばしてきた。

 

『───!』

 

 俺と結衣は顔を見合わせてニッと笑うと、その手に手を重ね、

 

『ふぁいとーーーっ! おーーーっ!!』

「ち、ちがうっ……!」

 

 握手じゃなく、自分たちにエールを贈った。円陣を作ってよくやるアレだ。

 けれどそんな返され方がおかしかったのだろう。雪乃は我慢出来ないといった様相で笑い出し、もう一度手を差し出して、今度は自分も混ざった。

 ……それから、なにかというとこうして手を合わせ、適当な言葉を合言葉みたいにするのが、頑張るための合図みたいになっていた。




 /次回予告みたいななにか


「ローーーレーーーンス!!」


 「よろしくイガーハ」


「えっと。け、けっこんまえには」


  「せんぎょーしゅふとかって楽でいいらしいぞ! お前それになれ!」


「力もないのに騒ぐだけの子供は嫌いだよ」


  「タックルは腰から下ぁーーーっ!!」


「ふぁいとーーーっ!?」



    『おーーーっ!!』




次回、夢と現実の僕らの距離/第二話:『“男の子”をやった日』

 愛のマンハッタンの下に!

 ……御旗ならサクラ大戦。

 100話かぁ……ほぼ一話に纏めての投稿だったから、平均1万にしたらそんなに書いていたのですなぁ……。
 あ、基本、次回へ続くとなって更新されないのは寂しいので、お話が終わってから投稿してました。(ただしギャフターは除く)
 11万のSSだろうと一話としてPONとUPしていたため、短いと違和感がある的なことまで言われた凍傷です。
30万3千字小説をUPした時の感想が“次はどれくらい増やすんですか?”でしたし。
 ……ええ、結果として40万字小説を分割投稿しましたが。
 ではでは、また楽しめそうなら楽しんでやってください。


◆pixivキャプション劇場
 きらめーいてー♪ 永久にーつづ~く~よー♪(挨拶)

 ドーモ、閲覧者=サン、お久しぶりです、焼きそばです。(投稿当時、大盛りたこ焼きそばという名前で投稿してました)
 焼きそばのくせに暑さに負けていました。

 さぁて今回のお話はー?
 八結です。え? わかってた? お、押忍。
 まあ山も無く谷もなく、されど長いかもしれなくて谷には園が待っている。お茶漬たべたい。

 一話一話の~んびりいきますから、の~んびり読んでやってください。
 一話あたり一万文字以下くらいで書ければよかギンなぁ。

 表紙画像が奇妙ですが、内容がほんのちょっぴり不思議寄りなので、まあそんな感じで。
 髪型は6.5巻より。眼鏡は頭よく見えてほしかった、例の赤い眼鏡。

 
【挿絵表示】

 で、これがpixivで使った奇妙な表紙画像。
 ジョジョ顔メーカー作です。

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