どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
そんなこんなあって。結論を言うと、戦いには勝った。
飛行機はゴヒャーと飛んでいってしまい、そのことが幼い俺達にもわかるように放送される頃には、俺は陽乃さんにフェイスロックをキメられ、雪乃に「お、俺に構わず行けー!」と叫んでみたりしていたところだった。やーらかかったです。なにがとは言わないが。
葉山? 話し合いでなんとかしようとして一撃で撃沈しましたが? 時間がないからって実力行使しに来た相手に話し合いとか無理に決まってるだろうに。
で、そんな俺達だったのだが。
まあその光景は笑えるものだっただろう。
フェイスロックくらって「い、行けー!」とか叫んでるガキとか、「はーくん置いていけない!」なんてほんとに泣いて戻ってきてしまう結衣とか、「雪乃ちゃん! きみだけでも逃げてくれー!」と叫ぶ葉山(床に倒れながら)とか。
しかもそれを撮影している人が居たりしたもんだから、始末に負えないっつーか。
「はいはーい、お疲れさまねー、みんな~」
「え……ママっ!?」
混沌状態の空港出入り口に、カメラ片手に現れたのは結衣の母、ママさん。
次いでウチの両親、結衣の親父さんが現れて、笑った。
「お前もやる時はやるんだなぁ。女の子攫って逃走とは、男だなぁ八幡」
「お疲れ、頑張ったねぇ八幡。よくやった。母親として、なんか嬉しいよ」
「結衣……友達のために損が出来る子に育ってくれて、パパ嬉しいぞ……!」
「あら~、パパったら泣いちゃって」
当然、そんな状況に困惑を持つのは俺達だけではなく陽乃さんもで。
「えっ……あの、どういう……?」
「どういうもこういうも、つまりね~陽乃ちゃん。あななたたちのお父さんは、最初から雪乃ちゃんを捕まえる気なんかなかったのよー」
「えっ…………な、なんで? だって、雪乃ちゃんを追いかけなさいって、父さんが」
「そう。捕まえろーとか連れてこい~とかそういうことを言いたかったんじゃなくて、追いかけっこしてきなさいって言いたかったの。子供らしい遊びなんてしてあげられなかったし、させてあげられなかったから、って」
「………」
「陽乃ちゃん?」
「……父さんは?」
「だぁれも戻ってこないから~って、笑いながら飛行機に乗って、外国行っちゃったみたいよ~? もったいないから外国行ってお土産でも買ってくる、って」
「はぁ、まったく。言伝を人の妻に頼むとか、雪ノ下さんは随分と……!」
「あなたー? あなたがそんな調子だから頼まれたんでしょー?」
「ぐっ……仕方ないだろう、彼が誰よりも先にお前に声をかけるからっ……!」
「はぁ。男ってほんとアレね。ウチの馬鹿旦那もアレだし」
「……なぁ。それ、“若旦那”に語呂が似てるけど意味がまるで違いすぎるから、もう勘弁してくれないか……?」
「ドやかましい。……さ、雪乃ちゃん。これからちょっと騒がしくなるよ。実際、もう学校をやめる手続きは終了しちゃってるわけだから」
親連中が来ると、一気に話は進む。進むんだけど、陽乃さんがフェイスロックを解除してくれない。時折ゲンコツが組み込まれる。解せぬ。
「そうだよ……雪乃ちゃんはもう退学してるんだから、それは……え? むしろそこまでやっておいて、どうして……」
「忙しい物事や面倒ごとなんて、親の仕事さ。夢とか義務ってものはね、ある程度大きくしてしまえばあとは本人次第だ。彼……雪ノ下さんはね、家の仕事のことで、娘が自分の夢を諦めるようなことがないようにって願っていたよ」
「……うそ」
「はっはっは、まあ私も彼から聞いただけだから本当だ、と力説してやるわけにもいかないんだが……それでも、妻とはきっちり話をつけた、とは聞いた」
「え……じゃあ、雪ノ下建設は……」
「老人になろうが仕事を続ける者は居る。信頼できる部下に託す者も居る。……それは、夢多きキミみたいな子供が考える必要のないことだ。私も結衣という娘が居る。気持ちはわかるさ。……してきた習い事も、そうあるようにと躾けられたものも、別のなにかに向けてみたらいい。そのまま雪ノ下建設を継ぐのもいいだろう。だが、だ。継ぐのなら、自分が本当に継ぎたいと思ったから、という理由じゃなければ継がせないと言っていた」
「父さんがそんなことを……」
「妻の説得には時間がかかり、散々といろいろ言われたらしいが……それらが無駄になってしまうから、と。面と向かって言えばいいだろうに」
「父さん……」
「きみと雪乃ちゃんには選択肢がある。自由にさせる代わり、世の中を知るために実家には戻らせないのが前提条件としてあって、彼はそれを受け入れ、きみを自由にさせた。で、選択肢だが……実家に戻れないなら雪乃ちゃんと二人で暮らすしかない。しかしながら、私も比企谷も頼まれていることがってね」
「頼まれてること……」
「そう。……ほら比企谷、いつまで正座してるんだ」
「……お前に俺の妻の怖さは一生わからんよ」
情けなさなら常時理解できると思うぞ。
夢の中とはいえツッコミまくりの状況だ。
そして子供の俺、ようやくフェイスロックから解放。
代わりに腕を掴まれ逃げられなくなった。
それを、結衣と雪乃が外そうと奮闘している。途中から大岡越前状態になって、「《ミチミチミチミチ》ギャアーーーッ!!」俺の腕がもげるところだった。大岡越前たすけてぇえ!!
「選択肢っていうのはね。一つ、俺の……比企谷の家に住んで、近場の学校に通う」
「もうひとつは私の家に住んで、近場の学校に、というものだ。べつに雪乃ちゃんと別々の家に住んでもらっても構わない」
「……。家を借りて、そこに住む……っていうのは」
「それがダメでなぁ。それはきみの両親から断固として反対されているんだ。それをしようというなら、自由になる権利の全てを放棄して雪ノ下建設のために働いてもらう、だとさ」
「……。なんで……急に、そんなことに……」
「羨ましそうだったから、だとさ。雪乃ちゃんを見るきみの目が、羨ましそうだったから、って」
「───……」
沈黙。
陽乃さんは呆然と親父を見て、結衣のパパさんを見て、俺達を見て……床に目を向けた。
大岡越前状態からは解放された。
俺はようやくいつでも逃げる準備をしていた体を休めると、すぐに力を込めて
「よっしゃぁあああっ!!」
力の限り、喜んだ。
「やったなぁ雪乃! お前こっちで暮らせるってさ!」
「よかったねゆきのん! よかったね!」
「ばっか結衣っ、よかったねじゃあ雪乃だけ嬉しいみたいじゃんか! やったぜでいいんだって! 俺達も嬉しいんだから!」
「うんっ! やったねゆきのん! はーくん!」
「ぁ……ぇ……っ……ふ……ぁあああん……!! ゆーちゃん……っ……はーくぅうん……!!」
「うわぁ雪乃が泣いた!」
「ゆゆゆゆきのんどうしたの!? どっか痛い!? パパになんかされた!?」
「ちょっと待て結衣! なんでそこでパパ!? パパなにもしてないぞ!?」
「そっか! これが嬉し涙ってやつか! おー泣け泣け雪乃! 泣いて、泣き止んで、立ち上がったら今よりもっと強くなってるって漫画で言ってたぞ!」
「ぐすっ……えぅっ……うんっ……私、つよくなるね……! もっともっと、つよく……なる……!」
「うんっ、あたしもっ! はーくんもね!」
「おうっ!」
「じゃあ宣誓! あたしとゆきのんとはーくんは、三人一緒に今よりも~っと強くなることを誓いまーす! ふぁいとーーーっ!?」
『おーーーっ!!』
俺達はともに喜び、抱き合った。
視界の端では、床を見つめる陽乃さんがママさんに抱き締められ、頭を撫でられていた。
撫でられ、やさしい声で……「うちに、くる?」と言われ。
彼女はママさんの胸に顔を埋めながら、一度だけだけど……頷いた。
……。
───あの日から、俺達の日常は大きく変化した。
比企谷家に雪乃が住むようになって、由比ヶ浜家に陽乃さんが住むようになって。
そのまま関係は続くんだって思っていた───そんな、ある日。
「ひっく……ぇぅう……! はーく……はーくぅん……!」
「結衣!?」
結衣が、泣きながら俺の家に来た。
驚いて、慌てて、誰が泣かせたんだって怒りが凄い出てきて……けど。
「あたっ……し……あたし……! はーくん、どうしよ、はーくん……! うち……引っ越すって……!」
「──、……え?」
幸せな時間なんてものは続かない。
それなら今度は結衣を護ろう、なんて言っていられない状況だった。
家に雪乃がやってきて、じゃあ結衣も追加で、なんて出来るとは思えない。
説得力のない「俺がなんとかしてやるから!」なんて叫びを、俺自身がきっとこれっぽっちも信じていなかった。
電話でママさんと話して、引っ越しをやめてくれって言ったってそれは無理だからと、やんわりと断られ。
じゃあうちで結衣を、と言っても当然、それはだめと言われた。
子供の我が儘が通じる限界なんて、こんなものだ。
それでも俺はお願いして、頼んで、それでもだめで。
「ママ……あたし、はーくんの傍に居たい……! 離れ離れなんて、やだよぅ……!」
力のないただのガキって言葉が重く圧し掛かり、無力しか抱けなくなった時。俺の手から受話器を取って、震える声で訴える結衣が居た。
……その言葉を耳にして、なにを勝手に諦めようとしてるんだ、と力が沸いた。
こんなに簡単に諦めるわけにはいかない。
そうだ、俺はまだ、指輪さえ渡していないんだから───!
『あらそうなのー? じゃあ丁度夏休みだし、そっちに泊めてもらってなさいねー?』
……。そしてこの困惑である。
え? いや……え? あの……え?
……。
結論から言おう。
由比ヶ浜家が団地から引っ越すことになると、翌日には隣の家が騒がしくなった。
なんだろう、って行ってみたら、なんか隣に由比ヶ浜の表札が付けられてて。
うん。引っ越しだな。嘘なんて一言も言ってない。引っ越しだ。うちの隣に。
あれだけ泣いて訴えていた結衣は、真っ赤になって口も開かなかった。もちろん俺もである。ママさんにすっげぇ撫でられた。めっちゃ撫でられた。結衣を護ろうとしてくれてありがとう、って……めっちゃ撫でられた。
で、肝心の結衣は俺が撫でられている隙に、俺の部屋へ駆け込むとベッドへ飛び、掛け布団を巻き込むようにして丸くなり……まあその、慰めるのに時間がかかった。
サプライズのつもりだったんだろうけど、そういうの無しね、要らん恥かきまくったわ。
まあ結局はそのー……新しい家族が一気に増えたみたいで、俺達はそれはもう燥いだ。
代わりに、雪ノ下建設は事業の安定化を目指しての行動や、信頼出来る者の選別などで大忙しで、まあだからこそ両家に娘を預けるようなことをしたんだろうが……しばらくは忙しいらしかった。
家族が増えるってことで、ウチも由比ヶ浜家も賑わいと勢いを見せ、猫を飼ったり犬を飼ったり。猫がカマクラ、犬がサブレという、なんとも娘大好きといわんばかりの行動だった。ほんと、親父という存在は娘に甘い。
……。
新しい家族が増えた日々を何日何ヶ月と過ごしていくと、慣れるものもあれば踏み込める場所も増えてくる。
この関係の中で一番変わったのは、きっと陽乃さんなんだろう。
いつの間にかママさんのことをママと呼ぶようになって、あのほんわりオーラに当てられたのか、嫌がらせや人の内側をつついてくるようなこともなくなった。
前までは固かった笑顔が自然のものになって、今が楽しいって顔に張り付けてるってくらいニコニコしてる。
それは雪乃も同じであり、いつからか丁寧な口調を心がけるようになったのもそうだけど、ラノベとか漫画にも手を伸ばすようになった。
面白いことに、やろうと思えばほぼなんでも出来るような完璧超人のタマゴみたいなヤツで、多少手をつけるとテニスだろうとサッカーだろうと器用にやってみせた。
正直羨ましいレベル。
問題点といえば、体力がないことくらいだろうか。
「せっ……宣誓……っ! わ、わわわ私たち幼馴染は、諦めず、体力作りに励むことを誓います……っ! さっ……さらに向こうへぇっ!!」
『Plus・Ultraぁあーーーっ!!』
じゃあ、と早朝ジョギングなどをして体力をつけることに。
子供がよくするもののひとつ、“嫉妬”を向ける相手じゃなく、子供が憧れるような完璧な存在にしてみたくて、結衣と一緒に雪乃を引っ張った。
するとどうでしょう、学校では成績優秀、運動も出来て真面目で、そのくせ漫画アニメ小説にも通じていて、と……まさにオールラウンドっていうのか? そんな存在が誕生。
成長する過程、特に中学二年あたりで危うく腕に包帯、目に眼帯を身に着けかけたが、なんとか阻止。
「雪乃ちゃん、さすがにそれは……」
「黙りなさい葉山くん。私の力、ラーニングがこの身に宿されたことには、きっとなんらかの意味があったのよ。それを自覚もせず燻らせるのは持たざる者への侮辱。故に私は───!」
「雪乃ー、もう帰るぞー。今日のご飯当番お前だろー?」
「あっ、そうだった……それではね、葉山くん。ごきげんよう」
「ごきげんようって……一緒に帰らないかい? どうせ同じ方向だし」
「ごめんなさい、買い物をして帰らなければならないの。付き合わせるのは悪いわ」
「構わないよ。それくらい待てるし、荷物持ちでも───」
「なら卵を買っていくから、1パックを担当してちょうだい」
「……なんだか、たくましくなったね、雪乃ちゃん」
「最近、料理がとても楽しいの。二人と一緒に買い物をして、二人と一緒に失敗しながら楽しく料理を作るの。出来たものを家族で囲んで、失敗作に苦笑しながら食べる。……ふふっ、楽しいの。とてもよ?」
「……そうか」
雪乃と一緒に、葉山も引っ越した。
小学中学と同じ学校で、結衣も小町も喜んだものだ。
その裏でどういう頑張りがあったかーっていうと、父同士が相当に意気投合、仲良くなり、どうせならってことでいろいろと金の使い道を考えたんだとか。
「ねぇはーくん。あたし、髪の毛染めたら似合うかな」
「似合うだろうけど俺はそのままでいいと思うぞ?」
「うん、そのままにする《キッパリ》」
「即答なのね……私はどうかしら」
『絶対やめて』
「……即答なのね」
材料を買った帰り道、中学生の会話である。
「で、葉山。こうやったらこうやって、号令に会わせて掛け声を言う。OK?」
「たまにきみたちがやっているあれか。いいのか? 俺も」
「幼馴染だからな」
「そういうものか……?」
「えっと、じゃあ今日は料理だし、ゆきのんで」
「ええ。それじゃあ───宣誓。私たちはこのスーパーで、値引きシールの特売品を一人一品ずつ確保することをここに誓います───! 全軍んんっ───!!」
『とぉおつげきぃいいいっ!!』
「えっ!? えぇっ!?」
どんな号令が来るかわからないから、初めての葉山じゃ無理だった。
俺達は笑い、けれどすぐに表情を引き締めると、歴戦の猛者“OKAN”が蔓延る戦場へと駆けていった───!
……。
で。
「買い物袋から長ネギが飛び出てると、買い物した~って感じするよねー」
「わかるわ、ゆーちゃん」
「死ぬかと思った……! ……なぁ比企谷。お前、いつもこんなことを……?」
「いつもってほどじゃねぇよ」
今日の買い物はまさに戦いだった。
いやはやOKANの皆さまの強いこと強いこと。
買い物を頼まれていたらしい学生が、ブルチャージ(脂肪の塊タックル)くらって吹き飛んでたからね。
「彼女たちと帰りに食材の買い出し…………はぁ。よくもまあ、これで敵を作らないでいられてるよな」
「あー……まあ、二人とも可愛いもんなぁ。むしろお前と雪乃が結構噂になってた」
「お金持ちとお付き合いをするつもりはないわ。何事も多すぎないくらいが丁度いいのよ」
「あ、それ陽乃さんも言ってた。あはは、陽乃さんのこと、あたし最初は結構苦手だったなー。今じゃママにべったりな感じ」
「そ、そっか……あの陽乃さんが……」
どういう条件で自分の道が変わるのか、なんてのはわからないもんだ。
しかしながらこういう関係が続いて、仲良く出来てるんならそれはそれでいいんだろう。
「敵は居ないけど、友達も少ないよな、きみ」
「ほっとけ。女と仲良くしてるからって馬鹿にしてくるやつらとなんか、友達になんてなりたくねぇよ。欲しいもの……っていうのか、欲しいって思ってたものは隣に居てくれてんだ。これ以上は贅沢だろ」
「きみ、いつか刺されるぞ」
「刺っ……なんで!?」
そんなもんは子供の頃のあいつらの自業自得じゃないのか?
女と仲良くすればヒューヒューとしか煽ってこなかったやつらの。
だから今さら羨ましいとか言ったって馬鹿ですかとしか返せない。
現に結衣も雪乃も「馬鹿だよねー……」とか「愚かね」とかしか言わないし。
喋りながら歩き、途中で葉山と別れる際にきっちりと卵も受け取って帰る。
いつもの三人になると、どうしようかなーと思いつつも結局言う。最近特に気になっていることだ。
「ていうかさ」
「うん」
「なにかしら」
「そろそろ───」
「そろそろ?」
「もたついていないでハッキリと言ってちょうだい。勢いに任せた突然のことを言われるのは、もう慣れているつもりよ」
「そか。じゃあ……そろそろ同じベッドで、ってやめない?」
「あー……そろそろ暑くなってきたもんねー……」
「そうね……けれどべつに構わないのではないかしら」
「いや、暑いからとかそういう方向じゃなくてね? 最近、小町と陽乃さんの俺を見る目が厳しいっつーか」
「そっか。じゃあ小町ちゃんと陽乃さんにはちゃんと言っておくね?」
「はーくん。それはあなたが気にすることではないわ。私たちがしたくてしていることだもの。そもそもよくあるハーレムではないのだから、そこまで気にすることでもないでしょう」
「両腕に一人ずつ抱き着かれながら眠る、年頃男子の身にもなってくれよ……。床で寝るって言ったって、朝になったら二人とも床で寝てるし」
「居心地がいいのよ。それだけよ」
「そうそう、それよりほら、もう家つくよ?」
「……へいへい」
状況はハーレムっぽい……のだが、べつにお互いを好き合ってる、とかそういうのはなかった。
仲良しの延長と言えばいいのか、男女の境界が薄かったのだ。
度が過ぎる行動は親が止めてくれたし、それ以外は許されたから、一緒のベッドで寝るのは日常的で。
しかしいつからか漫画などでそれらをハーレムだとか言っていたのを機に、俺の中でそれが違和感になって突き刺さった。
俺、最低な男なんじゃなかろうか、って。
いや、答えは出てるんだけどな。
ハーレムにおいてひどいと思うのは、主人公の“選ばないところ”だ。
つーかその“選ぶ”って時点でなんか腹立つ。何様だ。
選択とかじゃなくて、最初から決まってりゃそんな思いなんて必要ない。
けれども選ぶことも必要な時はあるわけで。
……らっくん、マジよく選んだ。グッジョブ。千葉県のYさん、お見合いおめでとう。成功するかは知らんけど。
……。
景色は変わって中学の英語授業。
これはどうも覚えるのに苦労して、誰もが英語の授業では自分が指されませんようにと願ったものだ。
「アン───では今の英文を……ミス・ユイガハマ、日本語で」
「ふえっ!? は、はいっ! えと、えっと……!」
指名されて立ち上がる結衣だが、教科書とにらめっこしたって答えはでない。
しかしそんな彼女に、後ろから紙を差し出す救いの手が……!
(……! ゆきのん……!)
ちなみにこの英語の先生、ハーフなのだが、誰かを指名して答えてもらう際、目を閉じるのが好きな人。
目を閉じて、聞こえてきた答えに頷きながら正解不正解言うのが好きなんだ。外国人ってそういう聞き取り方するイメージ、あるけど。
そんなわけで堂々と紙を受け取った結衣は、むふーん! と胸を張って答えを言った。
「えとっ……ヨシッ。スモトリを人質に、無人スシバーに立てこもったニュービーニンジャが、首にカラテチョップを受け、爆発四散! インガオホー!《クワッ!》」
「………」
「《ドヤァアア……!!》」
「廊下に立ってナサイ」
「あれぇ!?」
アワレ、ユイガハマ=サンは廊下に立たされることになった。ショッギョムッジョ。
……。
で、休み時間。
「ゆきのんひどいぃい!!」
「ぶくっぷふ……!! ご、ごめっ……ごめんなさっ……! まさっ ぶふっ……まさか、本当にっ……くっふふふ……! 文字を見てっ……おかしいって、気づくとっ……くぷふっ……うぷふっ……!! ふっ……ふぷふふふ……~~……!!」
「笑いすぎだからぁ!! は、はーくぅう~~~ん……!!」
「あぁよしよし、でもいくら英語が難しくても、明らかにおかしな文だったらまず疑おうな? 雪乃、最近ダークな行動に憧れてる部分があるから」
「うー……」
「……本当にごめんなさい。なにこれ、とか少しでもツッコミめいたものがあれば、本当の答えを書いたものを渡すつもりだったの。まさかあんなことになるなんて…………いまさら罪悪感が凄くて辛いわ、はーくん……」
「自業自得だお嬢様」
雪乃は……なんというか、結構はっちゃけた。
お嬢様って言葉を忘れるくらい、はっちゃけた。
時々中二的な病気が入るくらい。
結衣も俺もそれに巻き込まれ、しかしながら迷惑になることは滅多にしないし、その滅多も想定外のことからくるものだった。
……だから、俺と結衣はひたすらやさしく接した。
片手でスタイリッシュに目を隠しつつ格好いい言葉を口にした時も、いきすぎて言語がルー語になっても、人の部屋のベッドの上に置き忘れた(らしい)ポエムがあった時も。
そうしてともに過ごし、やがて中学二年を卒業する時。
彼女は少し大人になり、「死なせてちょうだい……」と人のベッドの上で遠い目をしながら正座した。
なにがあったかは……その、ほら……な? 陽乃さんにグリモワールを見られたというか。ほら、あの人容赦ないからさ。久しぶりに見たんだよ、あんなステキなおもちゃを見つけたって目をした陽乃さん……。
で、これである。つかなんで人のベッドの上で正座してるの。やめて。なんか俺のベッドがジクジクと絶望色に染め上げられてる気がするから。
「私……なにをやっていたのかしら……。居もしないものを居ると言って、ありもしない力に憧れ、見えないものに寄り掛かって……そんな自分の世界をノートに纏めたものをグググリグリリグリモワールなどと、とととと…………───死にたい……」
「いやいや待て待て落ち着け! あれはなんというかしょうがないだろ! なまじっか人の行動を見て自分も出来る、みたいなのに長けていただけであって!」
「ゆきのんが悪いわけじゃないよ! ね!? ほ、ほら、ラーニングが悪いんであって───」
「《ゾブシャア!!》……ァグゥッ……!」
「あ」
言葉の槍が、槍にした覚えもないのに雪乃の胸に突き刺さった。
「……ラーニング言わないで」
「……なんかごめん」
彼女は成長したのだ。……成長したって言わせてくれ。
/アテにならない次回予告
「ローーーレーーーーンス!!」
「ただちょっと、年齢とか偽って、給料のいいバイトとか探そうかなって思ってただけだから」
「傍で雪乃ちゃんと由比ヶ浜さんときみを見ていたら、馬鹿らしくなってね。以降は好きに生きてるさ」
「泣いてるやつほっといて笑ってるやつの手なんか握ってんじゃねぇよ! お前それでも幼馴染か!」
「うん……毎年はーくんの誕生日に、封筒渡すおじさん……あたし大嫌いだった」
「言ってくれた。歌ってくれた。……嬉しかった。…………ありがとう」
次回、夢と現実の僕らの距離/第四話:『幼馴染は終わりにしよう』
緑谷少年がムキムキになるぞ!
Q:なりますか?
A:なりません
◆そういえば
pixivにて投稿していた時は、無駄に長い駄文をキャプションという名の前書きに書いていたのを思い出し、せっかくなので後書きにペター。
飛ばしてくれて一向に構いません。ほんとどうでもいいことなので。
(せっかくなのでこれの前の話のキャプションも、後書きに貼っていきます)
というわけで───
覇王翔吼拳を使わざるをえない!(使ったら一撃で殺されました)
遠い昔の話です。
ネオジオで龍虎の拳をやっていたんです。
氷柱割りとかビール瓶切りとかをボーナスステージでやって、ついに“超必殺技伝授!”をやって、覇王翔吼拳を覚えたんですよ。
Mrカラテのお決まりのセリフをご存じ? んああ仰らないで。
ようするに覇王翔吼拳を覚えなければ貴様はワシには勝てませんってやつでした。
なので覚えたなら文句はあるまいィィイ! と、仕合開始直後にコマンド入力です。
プレイヤーキャラが構え、覇王翔吼拳を放とうとします。
何故かカラテ先生も同じポーズでした。
あっちゃー相殺かー、と思ったら貫通してカウンターで決まってこちらだけ死にました。
その時思ったの。
大人はみんなうそつきだ!
冗談ですが。いえ、うそつきの下りだけ。一撃で死んだのはマジです。
お決まりのセリフを言われて、覚えたから死んだんですが!? と素でツッコミました。
ねぇ知ってる? ジョン・クローリーのメガスマッシャーは、溜めてる時に+レバーで飛ぶ方向が変えられるんだよ? ……拳を前に突き出してるのに、後ろに飛んだ時は腹抱えて笑いました。
ここに書くことって、結構迷いますよね。なら書かなきゃいいんでしょうけど。
本当なら0時に投稿するつもりが、誤字チェック中に寝落ちしました。すいません。
追記:タイトルとキャプションをザッと見たら、「そして彼女は覇王翔吼拳を使わざるをえない!」みたいな流れになっていることに気づきました。雰囲気とかぶち壊しですね。
ハーメルンにて追記:後書きに貼りつけたから、こっちじゃもう意味わかりませんね。
この話のタイトルが“そして彼女は”なので、pixivだとすぐ下にキャプションが入るんですよ。
で、その一言目が“覇王翔吼拳を使わざるをえない!”なので、そんな風に見えたという雑談。
あ、こちら普段表紙絵に使っているガハマさんです。
【挿絵表示】
絵を何枚も描ける人って本当に尊敬します……散々苦労して時間かけて、僕にはこれがやっとなのですじゃ……。