どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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学校外の仕事は部活じゃねーだろ

 夏休みってこともあり、自由な足をそのまま動かし図書館へ行くと、そこで待ち合わせをしていた財津くんとともに今後の方針を決める。

 小説家になりたいと言いつつも、儲かる方に流されそうになる財津くんに雪乃のコメカミがビキッと音を立てたが、そこはまあ実に欲望に忠実だって話。

 声優と結婚したいとかぬかすなら、まずそのメタボボディをなんとかしなさいとツッコまれ、彼は撃沈した。

 

「まずあなたは、お金を得るために物を書く、という意識を持ちなさい。趣味だけを押し付けたものを売ろうとすれば、それこそ叩かれ続けることさえ覚悟もすること。自分の作品をただ読んでもらいたい、あくまで趣味だというのなら、その時こそ読者に反抗しなさい」

「ぶひっ……!? い、いやしかし我の世界を理解できるのは───」

「押し付けるのではなく、理解してもらうところから始めなさいと言っているのよ。我が儘が許されるのは無料で振るえる腕で作るものだけ。高級料理店で少し焦げてしまってと言って出して、誰が納得するというの?」

「い、いや……しかし」

「否定された瞬間に、“いや”だの“でも”だのを反射的に使うのはやめなさい。あなたの世界なのだから、他人が完全に理解することは不可能なのよ。それを前提に、少しずつ理解してもらえるように書く。そこからでなくては、とても読めたものではないわ」

「《ぐっさぁ!》……ケフッ……!」

 

 クリティカルヒット! 財津くんが胸を押さえて過呼吸状態になった!

 

「すごいねゆきのん! なんか実感こもってる!」

「《ぞぶしゃあ!!》……カハッ……!」

「あ」

 

 痛恨の一撃! 雪乃が胸を押さえて崩れ落ちてゆく!

 って結衣、そのまま言ったんじゃ、雪乃がかつては同類だったってバレるだろ……!

 

「あ、あー、まあ読書好きだから、お互い語り合ったもんなぁ!」

 

 わざと少し大きな声で言うと、結衣も気づいたのか無言で何度も頭を下げた。

 

「もはっ、もはははは……! 酷評には慣れている……! 我はこの程度で夢をあきらめたりなど……!」

「その夢が声優と結婚したい、とかじゃなければなぁ……」

「ゆっ……夢は夢であろう!?」

『しーーーっ……!』

「はぽっ……し、しつれい……!」

 

 図書館での小説談義は進み、ともかくどうしても外せないものを残しつつ、見せ、そして魅せたいものを描き、かつ読みやすく理解しやすいように纏める。

 そんなことを何日か続けると、頭の中でまとまるものでもあったのか、財津くんは勢いよく小説を書くようになった。

 良いものが書けそうだと言っていた彼だが、やたらと俺達幼馴染のことを聞いてきたのが気になったが……なんだろな、今度は中二ラブコメものでも書くのだろうか。

 

……。

 

 ある日、家の中、平塚先生から電話が来た。

 丁度トイレに行ってる時だったので出られなかったんだが、直後にメールが来る。

 ……。

 なんか、ひどく丁寧で、びっしり書かれている文字に、おおさすが国語教師……! とか思ってしまった。現代国語の集大成だとか言うつもりはないが、ひどく丁寧、かつ綺麗だ。読みやすい。

 現国は結構好きな俺が、“待ってればもっと来るかな”とか悪戯心を沸かせてしまうのを、平塚先生以外に誰が責められよう。

 そうしてしばらく綺麗な文字列が送られてくるたび、熱心に最初から最後まで読んでいたんだが……最後のメールにて、その一番最後。

 

  でんわ、でろ

 

 うん、かなり後悔した。あの人、彼氏とか出来てもこんなことしてんのかな。

 そりゃ彼氏逃げるわ。

 こういう行動を“なんて一途で俺のことが好きなんだ!”と思える相手、見つけてください。

 

……。

 

 呼ばれて赴きゃサポーター。故障した膝とか腕を護ってくれそうである。膝サポーターズっていい名前だよね。

 それはそれとしてだが、困ったことに奉仕部強制合宿緊急依頼“小学生の林間学校をサポートせよ!”の任務が無理矢理組まれていた。なにこれ。

 

「先生、奉仕部は先生の都合のいいボランティア集団ではありません」

「そう言ってくれるな……」

 

 何故こんなことに……と溜め息を吐く雪乃。ごもっとも。

 小学生ちっさいー、かわいー、と状況を楽しんでいる結衣。落ち着きなさい。

 点数欲しさに集った隼人グループ、苦笑い。

 そして小町、遊ぶ気満々。

 ……おい、どうすんだよこれ、サポートしたがってる奴なんて一人も居ないんだが?

 

「八幡……きみも内申点欲しさに?」

「お前の場合は付き合いでだろ、今さら内申点心配するタマじゃねぇだろうし。……奉仕部は強制参加だとよ。ほれ、これ見てみろ、呪いのメールだ」

「呪いの? ………………なんだ、別に普通のヒィッ!?」

 

 ズズーっとメール本文をスクロールしてやると、一番最後に“でんわ、でろ”の文字。

 大変恐ろしかったようで、あの隼人が顔を引きつらせている。

 なんにせよ、始まってしまったものは仕方ない。

 妙にやる気を出す雪乃に急かされつつ、結衣を促して、早速作業に取り掛かった。

 居るよね、こういう時にばかりやたらと張り切るヤツ。

 え? 誰かって? ……我ら幼馴染である。

 

「へー……これが予定表かー……あ、ご飯はカレー!? キャンプでカレー!?」

「キャンプでカレー……!? ひ、平塚先生っ……! 何故、事前にこういったサポートである、と教えてくれなかったのでしょうか……! スパイスすら用意出来ていない、なのにカレーなど……!」

「いや、そこなのか? そこでいいのか? ……まあなんだ、たまにはバーモント的なカレーもいいものだぞ?」

「比企谷家のカレーは家庭的であり、かつスパイスが絶妙なカレーです。あれのあとでは、最初から味の決まっているカレーなんて……!」

「……。比企谷。今度きみの家でカレーを作る時、家庭訪問───」

「要りません間に合ってます」

 

 平塚先生が望むままのボランティアにいきなり組み込まれるとか、ないわーまじないわー。

 部活対抗交流戦があるわけでもないのに……いやむしろ俺達の他に、奉仕部的な場所があるわけでもないのに。

 ボランティア~とか聞いて、ちょっぴり張り切っちゃったのかなぁ。見栄張っちゃったのかなぁ。“任せてくださいっ!”とか。ポルナレフが殴られそうだ。アヴドゥルに。

 

(けどなぁ)

 

 この年頃の子供って、絶対にアレがあるだろうから少々不安なんだが───…………って早速あったよ予想通りだよ! それに気づいた雪乃の表情が一瞬にして無表情になったよ!

 ……無事には終わらないんだろうなぁ、このボランティア。

 

……。

 

 で。

 

「ドーモ初めまして、ショーガク・ボーイ=サン、ショーガク・ガール=サン。ニンジャヒキガヤーです」

『ドーモ初めまして、ニンジャヒキガヤー=サン。ショーガク・スチューデントです』

 

 子供たちへの自己紹介から始まるアイサツも終え、いよいよもって死ぬがよい。じゃなくて、いよいよもってサポートボランティアは事務的にこなされていった。

 深入りすればそれだけ面倒になるって誰もが解っていることだ、好き好んで事務的以上の関係を作りたいやつなんて居ない。……居ないんだが、そういう馬鹿は何処にでも居るものなのだ。主に俺を含む幼馴染とか。

 そういうことが出来るようなヤツでもなけりゃ、子供だったくせに小遣い出し合って、イジメ撲滅のために他校に乗り込んだりしないわな。

 そんなわけで子供たちが道を歩き、チェックポイントを探す、というオリエンテーリングがあったわけだが……その途中。

 

「……八幡。あのグループのことなんだが」

「わかってる。小学生だもんなー……あると思ったよ」

「その言い方だと、逆に中学高校ではないと言いたいって聞こえるな」

「中学高校にもなってイジメするなんて、思考がお子ちゃまなだけだろ。誰かを蹴落とすことでしか優位になれないって、無意識に自覚してるんだ。徒党を組まなきゃ人を追い詰めることもできない、追い詰めたことで生じる責任を“みんな”に押し付けることでしか逃げられない。ほれ、子供だろ」

「……それは、怖いな。本当に無自覚だから。俺も……あのままだったら、泣いている人の手も笑っている人の手も無理矢理掴んで、笑うことで誤魔化すしか出来なかったかもしれない。……それこそ、“みんな”で状況の責任を散らして、なかったことにする、みたいに」

「お前がそれやってたら、俺達三人のうちの誰も、幼馴染なんてやってないだろ」

「手厳しいな……けど、ああ。気持ちはわかるよ」

 

 森の小道を子供たちとともに歩き、そんな話をする。

 後方では結衣と雪乃が隼人グループと話しており、その中の……あー、おー、なんて言ったか、コングナデシコ? モンキー越前? が二人揃って結衣の隣に行こうとして雪乃に睨まれ、めげずに声をかけようとしたら隼人が振り返り、「言っておいたよな?」とにっこり。

 途端、二人は軽く両手を挙げて降参のポーズを取りつつ、グループの女子、三浦優美子と海老名姫菜の横に戻った。

 

「すまない、悪いやつらじゃないんだが」

「言っておいたって、なに言ったんだ?」

「幼馴染だし彼氏も居るから、ちょっかいだすのはやめてくれ、かな」

「で、近づけばお前が睨んで注意する、か。なるほど、効果的だ」

「ていうかな、二人が近づくのに気づいた時点で、きみがもっと怒るかと思ったよ、俺は」

「さすがに交友関係まで口出ししてたらキモいだろ……」

「本音は?」

「独占したい」

「……素直に言ったほうが喜ぶと思うけどな、ゆーちゃんなら。むしろ隣を歩いていないことに驚いたよ」

「子供をサポートするボランティアなのに、いちゃついてたら平塚先生に殴られるだろが」

「……なるほど」

 

 得心いった、といった風情で苦笑いをこぼす幼馴染は、「それでも並んで歩くかはきみが決められるだろう?」とこぼしてくる。

 あーそうだよ、くっだらない見栄みたいなもんが浮かんできて、躊躇しただけだよ。

 恋人の隣に居たいからって、あっち行ったりこっち行ったりする恋人の後ろをついてまわる自分を想像して、ちょっと、いやかなり情けなく思っただけだ。だけ、って言うには、実際想像してみればどれほどアレなのかは想像に容易いと思うが。

 

「隼人もさ、想像してみろ。お前だって雪乃に、見ず知らずの相手に告白されるのが面倒だから、って恋人のフリさせられてるだろ。そんな状況なのに、恋人のフリしなくちゃいけないからって隣に居ようとする自分。あいつが動くたびに金魚のフンみたいにうろちょろついていく自分。……どうだ?」

「…………すまん」

 

 肩を落とし、酷く納得できたって顔で肩を叩いてきた。

 だよな、そうなるよなぁ。

 

「………」

 

 雪乃は、誰とも付き合っていない。

 男子との付き合いなんてわからないし、興味もない、と言っている。

 かつてのイジメが原因で、そういった関係を作ることに嫌気がさしているようで、俺か隼人以外の男が近寄るのも嫌っている有様だ。

 だってのに中学高校とラヴレターやら呼び出しやらがあった。うんざりもするだろう。そこで隼人が提案。俺を恋人もどきにしないか、と。

 雪乃はそれに対し、あなたのメリットがない、と言ったのだが……そう言われることも織り込み済みだったのだろう。おどけた調子で、“俺にも告白が来なくなる”と言ってみせた。

 雪乃はポカンとしていたが、笑ってこれを了承。仮面恋人が完成し、しかしあくまで幼馴染の距離で仲良くやっている。

 雪ノ下雪乃が男子と一緒に居るってだけで、今までフラレた人にしてみれば納得が出来るわけで、じゃあ二人は恋人なのかと勝手に受け入れるわけだ。

 ……おかげで、雪乃と三浦優美子との仲は、あまりよろしくないが。

 一応、三浦優美子はその関係を知っていて、じゃああーしでもいいじゃん! と言ったのだが……ほら、あれな。雪乃にも隼人にもメリットが生まれる結果を出したいなら、二人が恋人のフリをするのが一番なのだ。

 “じゃああーしの気持ちはどうなるっての!”と言われたが、うん、知らん。全てを解決したいわけでもなければ、俺は他人よりも幼馴染を優先する。誰だってそーする。俺もそーする。ただしそれは“みんな”の意志ではなく、間違いようもないくらいに自分で選んだものだ。

 大体、たとえば雪乃が“今は誰とも付き合う気がない”って言って、顔だけで判断して近寄ってくるラヴレター軍団が納得すると思うのか。

 と言ってみれば、何故か海老名さんが“そう! それ! それだよ比企谷くん!”と妙に熱い思いをぶつけてきた。

 ……なんでだろね、この眼鏡っこさんに比企谷くんって言われると、妙に違和感。気の所為か。

 

「ところであいつの名前なんだっけ。コングナデシコ?」

「大和だ」

「あっちがモンキー越前……」

「大岡だ」

「………………惜しいな」

「大和撫子と大岡越前って言いたいのか!? 惜しくないだろ! 惜しっ………………いや、惜しいのか?」

 

 ともあれだ。

 そういったこともあり、気づけば妙な関わり合いが、俺達と隼人グループには出来ていたのだ。

 

「そっ……そういえば、比企谷と由比ヶ浜さんってその……つ、付き合───」

「大岡。左手の薬指。あれ、本物だからな」

「まじなのか隼人くん……。知りたくなかった……アクセだって思い込みたかった……」

「……なら、雪ノ下さんと隼人くんが付き合っている、という噂も本当か? 言うほど一緒に居るところを見ないが……」

「大和。子供の前でそういう話はやめてくれ」

「……だな。すまん」

 

 隼人のグループもいろいろあるんだな。

 別の一人は、そいつはそいつで海老名さんに話しかけまくってるし。

 ……うん、華麗にスルーされてるけど。受け流しスキルハンパないわー、違和感ないように流してるのがまたすごいわー。

 

「いっや小学生マジ若いわー! 俺ら高校生とかー、もうおっさんじゃねー!?」

「ないな」

「ないわね」

「ねぇだろ」

「ないよね」

「ねぇっしょ」

「ないない」

「いや、それはないでしょ」

「……ないな」

「それはない」

「うん……なんかごめん……わるかったわぁ……」

 

 隼人、雪乃、俺、結衣、三浦、海老名、小町、大岡、大和に丁寧に“ない”と言われ、戸部は肩を落としていた。

 途中、子供が蛇を発見したーとかで騒いでいたが、蛇も人間に構っている暇などなかったのだろう。俺と隼人が近づくと、ゴシャーと独特な移動方法で去っていった。

 「大丈夫、ただの青大将だよ」と隼人が子供たちに笑顔を振りまく瞬間、俺は「青大将? 全身青タイツの兄貴? 槍とか使えそうですね」と呟きつつ、その輝きの影に隠れるようにして結衣たちのもとへと逃走。

 隼人は見事に子供女子集団に捕まり、俺は平然と結衣のもとへ。

 隼人が「あ、おいっ!」と、ずるいぞって言葉を顔に張り付けたように言ったが……知らん。

 隼人は犠牲になったのだ……俺の平穏……その大きすぎる平和の犠牲にな……。

 

「───はーくん」

「《きゅっ》……おう、わかってる」

「どこにでも居るものね、やっぱり。気の所為であってほしかったのだけれど」

 

 先ほど隼人と確認した通り、やはり一人、グループの輪から距離を取っている……いや、取らされている子供を発見。

 隼人もそれは確認したらしく、何処か冷めた目を見せて……すぐに笑ってみせる。

 ……ああ、怒ってるな、あれ。

 

「さて、どうするかね」

「助ける、っていうのとはちょっと違うもんね……。なんとかしてあげたいけど、いらないお節介なんかすると、余計こじれるパターンだよね、これ」

「私に任せてちょうだい。いい考えがあるの」

「大丈夫か?」

「ええ。実体験だから」

 

 くすっ……という余所行きの笑顔ではなくニコリと笑い、雪乃は輪から外れた少女に静かに近寄っていった。

 そして対話すること数分。話しかけられるたびに俯きながらプイプイと顔を逸らす少女……その子の手をむんずと掴み、戻ってきた。

 

「確保したわ」

「ちょっ……なにすんの……! 離して……!」

「あの。ユキノ=サン? 嫌がってんですけど?」

「大丈夫よ、問題ないわ」

 

 え、えー……そうなの? 明らかにそっぽ向いて迷惑そうにしてるんですけど?

 あとその言葉は問題だらけだからちっとも安心出来ませんが?

 ……けどまあ、無視するわけにもいかないわけだ。行くか。

 

……。

 

 それから。

 チェックポイントを探す傍ら、隼人は昔話をした。

 イジメっ子が自分の所為で家族ごと不幸になるお話。

 過去にイジメた相手が自分より出世して、その会社で働きたかったけど復讐の所為で入れなかったーとか。

 イジメられた人の家族がイジメっ子の親の上司で、それが原因で仕事をやめさせられ、家族ごと不幸になったとか。

 自分がしたことを棚にあげて謝れなかった所為で、しなくてもいい喧嘩をしたまま時は過ぎ、会う人会う人に心が狭いと言われ、嫌われていったとか。

 泣いている人をほったらかしにして、笑っている人と手を繋いだ所為で、大切な人に嫌われるところだったとか。

 それはもう罪悪感をざくざく突き刺すようなことを、丁寧に丁寧に。

 話の途中で“でもでもだって、それって”と言う小学生たちに、それでも何度も丁寧に。

 イジメてたヤツがイジメられるパターンの話まで用意して、なんだかそれがクリティカルヒットしたようで、輪の中の少女ではなく、輪から外れていた少女が駆け出し、視線をうろうろさせていた輪の少女たちに思い切り頭を下げ、

 

「───ごめんなさいっ!!」

 

 と、叫んだ。

 当然、少女たち困惑。

 リーダー格っぽいやつが「は、はぁ? なに言って───」と口を開きかけた時、他の子供も叫ぶように謝罪を始め、「は!? ちょ、ちょっと!」とリーダー格が困惑している間に仲直りが完了。

 一人ぽかんと立っているリーダー格はあっと言う間にぼっちになり、「なにそれ!」とか「さっきまでそいつの悪口言ってたのに!」とか叫んでる。

 それを聞いて息を飲む子も居たが、ぼっちだった少女は「同じこと、前はこっちもしてたんだから、それはおあいこにしよ……?」と提案。子供らの罪悪感は軽減され、ぱぁっと笑顔を弾かせるが、もちろん納得がいかないのはリーダー格。

 

「ね、ねぇ……もうやめよ? こんなことしててもさ、もう……いい加減つらかったし……さ」

「はぁ!? あんただって乗り気だったじゃない!」

「だって……そうしなきゃ次、狙われるって思ったから……」

「そ、そうだよ。ていうか、怒鳴らないでよ……仲良くしようよ、ね?」

「るっさい! あんたたちが薄情者だってのはよーくわかったわよ! あんたら覚えておきなさいよ!? 絶対、後悔させて───!」

「はい、そこまで」

 

 涙が滲み始めていたリーダー格、少女Aを、結衣が後ろから抱きしめた。

 少女Aはそりゃあもう驚いていたが、結衣は落ち着かせる声調でゆっくりと語りかける。

 

「急に友達が離れていくかも、って思う時の気持ち……わかるよ? でもさ、それで、その時の感情だけで突き放したら、絶対に後悔するんだ。……泣きそうになるくらい不安になっても、怖くても、勢いだけで叫んじゃだめだよ……」

「だ、だって……だって」

「ん……怖いよね。今まで仲良くしてた子が急に敵になるのって。次は自分かも、とか……そう思っちゃうんだ。でもさ、それも……どっかでやめる勇気を誰かが持たなきゃずっと終わらない。勇気を持った所為で自分だけが弾かれる、なんてあるかもしれないけどさ。……勇気、出してみよ? 手を伸ばしてくれる人が居るなら、それを叩かないで、繋いでみよ?」

「………」

「ね。きみは、どうしたい?」

 

 訊ねる。

 こうしなさいって、大人のように押し付けるのではなく。

 こうしたほうがいいって、適当に考えを押し付けるのでもなく。

 その人が本当はどうしたいのか。それを聞いて、背を押せるよう。

 こんな状況でだって嘘は言えるし、プライドを盾に跳ねのけるのだって簡単だ。

 けど。子供ってのは、半端な大人よりも知っているもんだ。

 輪から外れることがどれだけ怖いのか。

 したこともされたこともある子供なら余計だ。

 もちろんそれだけが理由だと言いたいわけじゃない。

 が───手は、伸ばされたから。

 

「……留美ちゃん、仲間外れにして……ごめん。秘密だって言われたのに……バラしてごめん。また……遊んでくれる?」

「……うん。もう、こういうの……なしにしよう、ね……」

「うん……ていうか、これだと次の標的、こっちになるし……」

「大丈夫。しないから」

「…………っ……ごめんね……ごめん……!」

 

 イジメることで浸れる優越感が罪悪感に変わる時、その量は子供には重すぎるのかもしれない。

 が、まああれだ。自業自得だ。仲直りできるだけよかったって思わなきゃ、正直やってられんだろ。

 

「子供って怖いわー……俺、小学ん時とかたまぁにハブられたこととかあったけどぉ、女子とかってあんなこと思っちゃったりしてたわけね……っべーわぁ……」

「ていうか物凄いスピード解決だったけど、え? これどう反応したらいいんだろ……え? え?」

「海老名、いーから落ち着けし。べつに適当でいーっしょ? それよか隼人ー? 早くチェックポイント行って、終わらせない?」

「うーわー、優美子ったらドライだ……」

「……べつにこんくらい普通っしょ。あーしらのガキの頃だって、あんくらいあったし」

「……もしかして、イジメてた側?」

「あ? ……逆だっつの。くっだらないこと提案してきたヤツ叱って、黙らせた」

『…………おかん』

「るっさい!!」

 

 ……こうして。

 俺達の林間サポートは始まったのだった。

 え? 終わったみたいな流れ? 始まったんだよ。いやマジで。

 現に、泣きながらの謝り合いを終えた子供たちを促して、移動も再開した。

 山を歩き、チェックポイントを経てゴールへたどり着けば終了。

 そんな中で、恋に恋する乙女や男もまた、イケメンや好きな相手に声をかけたりするわけだ。

 え? イケメンって誰かって? 俺じゃないのは確かである。

 俺、ただの元気で幼馴染が大事なだけの男だし。

 気が利いたこととか言うの、無理よ? そんなもん、真にイケてるメンズ代表、葉山隼人に任せてしまえ。

 

「ね、隼人隼人、あーし意外と子供超好きなんだよねー。子供って超可愛くない?」

「優美子。意外となのか超なのかどっちなんだ」

「え゙っ……い、いや、あーしとか、そういう感じ、意外じゃない? そ、それともあーし、子供超好きそうに見える……とか?」

「子供好き、じゃなく、優美子の場合は世話好きだろうな」

『あー』

「ちょっ……あんたら黙れ!」

 

 全員が深く納得してしまった。

 だってさ、ちょっとしか話してなくてもわかってしまうくらい、オカンなんですもの。





 /アテにならない次回予告


「ローーーレーーーーンス!!」




 「思わずウキョロキョキョーン、フギャッフギャッとか言いたくなるな」




     いっ……嫌ー! 比企谷くん嫌だー!




  「仕方がないでしょう? 人を好きになった経験がないんだもの」




「殴られるし軽蔑されるし、平塚先生に血祭りにあげられる」




   「麦芽ゼリーとかみそピー最強な。よくぞ千葉に生まれけり」




      「ちょ、はーくん!? それ言っていいことなの!?」




     「ええ。私、どうでもいい人相手に甘える趣味はないもの」




次回、夢と現実の僕らの距離/第八話:『奉仕部強制合宿』

 今井は叫んだ!!

「待ってくれーーーーっ!!」


◆pixivキャプション劇場

 フレッシュミート!!【挨拶】

 テイルズオブファンタジアのあのフレッシュミートさんはなにがしたかったんでしょうね。
 落ちたソーサラーリングを取りに行ったら、いきなりですもんね。
 リメイクPS版だけでしたっけ? PSP版は覚えてません。スーファミ版ではなかった筈。
 スーファミ版のチェスター、最強でしたよね。
 技が無い代わりに、武器さえ強ければクレスの技なんぞよりてっとり早く大ダメージ与えられましたし。

 モーリア坑道最奥の奥義書が、SFCとPSとで違ってたのはちょっと寂しかった。
 奥義っ! 襲爪っ! 雷っ斬破!の言い方が好きだったなぁ……懐かしきSFC版。
 レンジシステムは鬼畜だったと思うの。セミオートしかなかったのは本当に辛かった。
 でもグレムリンレアーの「ヘアー!」って声は大好きでした。PS版で無くなってたのは本気でショックでした。カメレオンは使う機会少なかったのが悲しい。

「マスコット人形……? これはっ……~~……僕か……っ!!」

 ドラマCDのクレスのこの声、たまらなく辛い。アミィなんで死んでしまったん……? 妹守りながらの冒険でもよかったじゃない。
 あ、でも小説でクレスと結婚するやつがあったのは、正直救いでした。

 物語は続く。
 これからまだまだ、たくさんの辛いことがあるだろう。
 迷いの森で途方に暮れて、魔法使いに呪いをかけられて、伝説の剣が真っ二つに折れて。
 でも……そうさ。物語はいつもこうやって終わるんだ。

  それからずっと、みんな幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

 ……うん。悪くない。
 どうだい? 悪くないだろう? アミィ───

 ドラマCDステキでした。忍者日記も合わせて。
 いやほんと、俺ガイルと関係ありませんね。
 ただの雑談みたいなものなので、読まなくても全然平気ですからね。
 ではでは、愛の営みの始まり始まり~♪(注:愛の営みはありません)

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