どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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奉仕部強制合宿

 さて。

 現在なにをしているのか、といえば、料理の準備だったりする。

 しかもカレーだ。

 キャンプでカレー……かの紅羽高校の番長さんが憧れ、ついには葉っぱ人間に邪魔され、食えなかった伝説の食事。

 

「思わずウキョロキョキョーン、フギャッフギャッとか言いたくなるな」

「うんうん、キャンプでカレーって憧れるよねー♪」

「……とりあえず谷川(サル)と葉っぱ人間は居ないから、安心して作りましょう」

 

 キャンプでカレーとはいうが、外で作って外で食う、というにはあまりに設備が整いすぎてはいるのだが。

 眠る場所だってコテージだし。

 そんなわけで、ワンボックスカーのコンテナからブツを下ろす作業をしている。

 誰よりも早く突撃して、コンテナをゴソゴソしているのは結衣だ。

 

「んっと。お弁当にドリンク……あと梨。あれ? カレーは? ニンジンも玉ねぎもじゃがいももないけど……ひ、平塚先生ー?」

「安心しろ由比ヶ浜、それとは別のコンテナに入っているとも。さ、下ろしてくれ男子ども。梨も人数分剥くことになるから、楽とは言えないぞ」

「あーし料理パース」

「あ、俺も料理とか無理だわー」

 

 爪の手入れをするフリをする三浦と、頭の後ろで手を組んで暢気に言う戸部は、実に言いたいことはとりあえず言ってみる派な人達だった。

 それでメシはよこせというのだから、ある意味で剛の者である。

 もちろんそれを簡単に許す俺達じゃない。提案はする。けど、乗るかは相手次第。ただし文句を言うなら食わせない。

 

「優美子……それでよく子供が好きだって言えたな……」

「……っていうのは冗談っつーかっ……! えっと……! りょ、料理くらいできないとでしょ今時の女子としては! ……ね、ねぇ? ゆい……がはまさん、だっけ?」

「んえ? あ、うん。そだよねー。あたしも昔っからママに花嫁修業だーって鍛えこまれたから、料理なら自信あるよ?」

「……まじで?」

「? まじだけど」

 

 おう。結衣は料理が上手いし美味いぞ。俺の味覚用に的確に作られる品々は、俺の胃袋を掌握して離さない。

 俺の好みを判断するスパイとして、小町が深く関係していたのは、疑う必要もなくわかりきった事実であろう。

 

「あ、あー……ちなみに比企谷くんはぁ、料理とかできちゃったりしちゃう系?」

「そりゃ出来るだろ。今時の男子たる者、来たる一人暮らしのために炊事洗濯掃除くらいはこなせるべきだ」

「えー……恋人居るのに作れるって、なんか意味なくね? やっぱ恋人の手料理には憧れるっつぅかさぁ」

「ばっかお前、料理出来た方が一緒のキッチンで二人で料理、とか出来るだろうが。それにもしその恋人が病気になった時、誰が看病するんだよ。誰が支えてやるんだよ。お前、大事な人が病気になった時、知り合い引っ張ってきてそいつに看病させんの? もしそいつが男だったら、俺は出来ないからとか言ってあーんとかさせたり背中拭かせたりすんの?」

「俺目ぇ覚めたわぁ比企谷くぅん! やっべテンションすっげぇアゲアゲしまくりんぐでしょおこれってばさぁ! やっべ言う通りだわヤバすぎるわー! 大事な人が弱ってる時も助けられないなんて、助け合うことを誓った甲斐とか全然ないもんなー! べっ……っべー! 比企谷くんっべー! べーわー!」

「………」

 

 べー。

 沖縄の方言で、“嫌だ”を意味する。

 関係ないんだろうが、知っているとなんだか笑える。

 

  例:いっ……嫌ー! 比企谷くん嫌だー! 嫌だわー!

 

 おっそろしくヘンテコな言葉が完成した。俺嫌われまくりじゃねぇか。

 まあそんな愉快な脳内変換は脇にそっと置くとして「ぷふっ! ……~~……」……ああ、うん。雪乃、お前も知ってたのね、この方言。

 

「しっかし……」

 

 子供に交じって料理とか、なんつーかアレね。すげーアレだわ。うん。アレ。

 

「でもさ、実際カレーにローリエって合うのかなぁ」

「ゆーちゃんのお母さんは入れていたわね。あれはあれでいいと思うけれど」

「俺的にはアレな。最後に隠し味として、ニンニクすりおろして入れるのとか超好き」

「あっ! あれ美味しいよねー! はーくんカレー、あたしも大好き!」

「…………《ポッ》」

「べつにはーくんを大好きと言ったわけではないでしょう? まあ、好きなのでしょうけれど。……私は小町さんのカレーの方が好きだわ」

「なんか照れますねぇそんなこと言われると。小町は雪乃さんのカレーも好きですよ」

「俺は結衣のカレーだな」

「いやなに言ってんのお兄ちゃん。結衣さんの場合、お兄ちゃんのためだけにって料理を身に着けたんだから、お兄ちゃんが美味しく感じるのは当たり前に決まってんでしょーが」

「それ言ったら俺だって結衣専用だっつの。基本がそれで、他の奴らの要望があれば、そっからアレンジ加えるだけだからな」

「うん。はーくんの料理はあたしの自慢で、」

「結衣の料理は俺の自慢だ」

「あーはいはい、さっさと結婚しちゃってくださいこのバカップル」

 

 最近、妹の小町ちゃんがとっても辛辣。

 もしや俺が結衣に取られちゃうとか気にして、嫉妬とか…………いやねーわ。

 あるかもだけど、口にしたら言葉でボコボコにされるわ。そうなったらもう八幡泣いちゃう。

 そうして家カレー談義などをして、梨を剥くのも手伝って───って、三浦ほんと料理ダメなのな……梨ひとつ剥くのに、見ているだけな方が精神削られるってすげぇよ。

 あ、見かねて隼人が行った。うん、まじ正解。ていうか三浦、さっきじゃがいも剥いてなかったっけ? なにやらグラマラスなじゃがいも作り出して得意げな顔していた気がするんだが。

 ボンッ、キュッ、ボンッ! を表したかのような、器用なじゃがいもだったじゃないの。懐かしいなぁ、昔は結衣も俺も同じ道を通ったっけ。

 芽を取ろうと躍起になって、その部分だけをピーラー横の尖った部分で抉ればいいのに、刃の部分でシャーコシャーコ切りまくるもんだから、芽が取れた頃にはTHE・グラマラス。

 あの時は陽乃さんがめっちゃ笑ってたな。“8”って数字が似合うくらいのグラマラスだった所為で、剥いたじゃがいもに八幡って名づけて笑ってた。姉妹揃って笑いのツボがわからん。

 

「………」

 

 昔、か。

 昔といえば……

 

「………」

 

 一応は野外にある調理場の天井を見上げたのち、視線を下ろして幼馴染たちを見て……考える。

 結衣は、俺のどういうところを好きになってくれたんだろうな。

 雪乃と楽しそうにしている結衣は、俺の視線に気づくとやわらかな笑みをこぼし、軽く手を振ってくる。

 俺までやさしい気持ちになるのに、周囲の目があるってだけで“男として”って格好つけた意識が心を閉じ込めようとする。こういう自分はあまり好きじゃない。

 昔っから結衣の隣を……幼馴染の隣を、と願っていた俺は、子供の頃もそうしたように、女子を意識し始めてから男子が女子とつるむとヒューヒュー言い出すやつらが嫌いだった。

 女と一緒に居るとかダッセーとか言われようが、その頃の女子がやたらと女の子っぽい趣味を押し付けた会話をしていたとしても、俺は好きな相手と一緒に居ることを望んで、むしろ当時の女子の趣味だろうが知ることから始めたさ。

 なので、喉の奥からせり上がってくるくだらない男のプライドなんて、幼馴染や恋人に笑顔を向ける理由の前にはゴミ同然。

 もちろん捨てられないものはあるが、それはそんなくだらないものとは違うわけで。

 

「………」

 

 ニカッと笑顔で返す。手も振る。

 こんな行動を馬鹿みてぇとか言うやつらは、小学の頃なんかには腐るほど居た。

 お蔭で幼馴染以外に気楽に付き合えるようなやつらは居なかったが、それでいいって思える。

 俺は、俺の恋人や幼馴染を大事に思える気持ちが大好きだ。

 男としての見栄を張るために女子を傷つける行為とかは、逆に大嫌い。

 もっとも、女子なら誰でもいいってわけじゃない。

 

「……あ」

 

 女子なら、なんて部分で、失礼にも戸塚くんを思い出してしまった。

 彼女、もとい彼はこのサポートには来ていない模様。

 ……恐らく、今もテニス部で“熱くなれよぉお!”って頑張っているのだろう。

 今頃筋肉ゴリモリ頭の中までパワーでいっぱい、なんてことになっていなければいいが。

 

「まあ、なんにせよ」

 

 ざっと周囲を見渡し、楽しそうにする子供たちを見て、苦笑にも似た笑みをこぼす。

 

「楽しそうじゃねぇの」

 

 サポートは上手くいったって言えるんかね。

 今度こそ苦笑にも似た、どころじゃなく苦笑を浮かべ、ルーを溶かしたカレーをおたまでぐるぐる回した。

 回しながら、「梨おわったよー!」と元気にぴょこぴょこ寄ってくる恋人を迎え、千葉県民らしい会話とかして。

 

「麦芽ゼリーとかみそピー最強な。よくぞ千葉に生まれけり」

「来た途端にいきなりそんなこと言われるとは、さすがに思わなかったかな……」

 

 そりゃそうだった。

 

……。

 

 で。

 

「っつーかぁ、隼人くんてば子供の扱い上手すぎじゃねー!? 俺とか超驚いたわぁ!」

「いや、あれは昔いろいろあったからで。それにみんなもよくやれてたじゃないか」

「それな」

「確かに」

「っつーかさっきの料理もー、ローリエってなに? ゲッケイジュ? お酒? って感じだったわー!」

「そういえばあったな、月桂冠っていうやつ」

「それな!」

「確かに!」

 

 カレーも食べ終わったあたりの隼人グループの会話なんだが……ああその、なんというか。あれが友達同士の会話、でいいのだろうか。

 俺には幼馴染は居ても、友達というのは居ない。

 ぼっちではないが特別親しい相手も居ない。

 うーむ、勉強になるのかならんのか。

 

「今日とか早速一人ハブられてそーな子供とか居たし、ああいうの見てると気まずいっつーかさぁ。俺だめだわー、イジメだけはだめだわー」

「……だな。俺も、きっかけがなければずっと…………いつか後悔していたんだろうな」

「? そ、それな?」

「? たしかに……?」

 

 会話は終わったのだろうか。

 いそいそ食器を片づける俺と結衣と雪乃は、楽し気に語る隼人グループの声をBGMに、さっさとそれらを終了させた。

 

「じゃ、コテージ行くか?」

「うんっ、いこいこ!」

「そうね」

 

 コテージの分け方は単純。男女別。

 ……だったのだが、結衣と雪乃が断固として反対。

 奉仕部同士とその他にしてくださいと言う始末で、平塚先生に“きみ……まさか”とか、なにかを疑われる。まさかってなに? ねぇちょっとなに?

 しかしきちんと話はついたようで、男女分かれてで落着。そりゃそうだ。

 今まで欠かさず人のベッドに三人一緒だったこともあり、そりゃあ名残惜しいものもあるものだが……ああ、やめて、去り際にそんな、涙溜めたふくれっ面とかやだ可愛い。

 

  なんて思ってた瞬間が、俺にもありました。

 

 現在。風呂にも入り、あとは寝るだけって状況の中、妙に目が冴えている俺ひとり。

 はい、定番の一言いってみましょう。

 

(眠れねぇ……!!)

 

 はいここテストに出るよー。でねぇよ。

 布団や枕が変わると眠れない、とかあるよね。俺もあるよ。今がそう。わあいダッセー。泣いていいですか? いいよね? 八幡頑張ったよね?

 

(………)

 

 コテージの外はとっくに真っ暗。

 町の灯りから離れた場所では星空がキレーイとかよく言うが、まあわからんでもないけど今はとにかく寝たかった。

 何故って、隣に結衣と雪乃が居なきゃ眠れないって、二人と分かれる前の自分を思うと、顔からヨガインフェルノってレベルじゃないからだ。やっだ恥っず! ダッサーイ! とか謎のギャルが脳内で騒ぐくらいに恥ずかしい。

 男のプライド云々ではなく、人として今は眠りたかった。

 しかしどれだけ寝返り打とうが眠れないし、隣の布団で眠るのは隼人と戸部なわけで。

 

「………」

 

 外の空気でも吸ってこよう。

 もしくは寝不足一歩手前まで起きてて、それから寝るとか。

 

……。

 

 夏の夜ってのは、なんというか……どこか寂しい。

 夏ってのが騒がしいイメージがあるからだろうか、ひとたび喧噪から離れると、妙に心がざわつくことがある。

 が、俺が今求めているのはそんな寂しさとかではなく、眠気でしかないわけだが。

 どうしたもんかね、もう。

 

「ペンライトでもあれば、小説くらい読めたんだろうけど」

 

 溜め息ひとつ、コテージから降りて木立の傍までを歩く。

 木の下ってなんか涼しいイメージあるよな。もう夜だから、木陰とか考える必要ないのに。

 イメージって大事。そして強い。

 そんなわけで木の幹によっこいせーと座ってみると、すぐ傍にちょこんとなにかが座る気配。

 誰!? ドライアド!? フランス語ではドリアードなアレ!?

 と、右隣を見たら天使が居た。

 

「はーくん、眠れないの?」

 

 結衣である。今風呂から上がったのか、どこかほこっとしている気がする。

 気になって手を伸ばしてみると、近づく手に嫌がる様子もなく自分から寄ってきて、頭を触らせてくれる。

 うーわ、髪サラッサラ。男と女の違いってほんとなんなんだろうね。

 

「んゅ……はーくん、どしたの?」

「いや、風呂上りかどうか確かめたかっただけだ。すまん」

「ううん、はーくんに触られるの、嫌いじゃないから」

 

 にこーと笑って、こてりと右肩に頭を預けてくる。

 やめなさいそういう言い方。ドキームとハートが跳ねちゃったじゃないの。

 ほんとこいつは妙なところで無防備っつーか……いや、それが俺相手の時だけってのは、こいつ自身に言われてるからいいんですけどね? 疑うつもりもないのに雪乃にも小町にも太鼓判押されたし。

 

「で、お前はどうした? なんでこんなところに?」

「眠れなかったから。お風呂遅かったんだけどね、出たらみんな寝てて。あたしとゆきのんも寝ようとしたんだけど……その、ほら、あれなんだ。……なんか、落ち着かないってゆーか」

「私たち、どれほどお互いに安心しているのかしらね」

「言いつついきなり現れるなよ……普通に来い普通に」

 

 気配とかって本気で殺せるもんなの? アイエエエエとか叫びそうになっちゃったじゃねぇか。

 すとんと隣に座った雪乃は、逆隣に座る結衣のように俺の左肩にぽすりと頭を預けてくる。

 

「ああ、けれど安心してちょうだい、私は本当にあなたに恋というものを求めていないし、ゆーちゃんとあなたが一緒に居る光景がとても好きなだけなのよ。言ってしまえば、はーくん以外では認めたくない。ゆーちゃんとはーくんの相手は、はーくんとゆーちゃん以外では認められそうにないわ」

 

 やべぇわかる。

 俺も結衣が“好き”っていう相手は、俺か雪乃じゃないと嫌だっていう結構な独占欲的なものを持っている。

 そして、それはたぶん……結衣の方が相当に強い。こいつは、なんというか自分が大事だ~って思ったものは、他の誰かに好きになってもらいたくないってタイプだ。それはもちろん嫉妬もあるんだが、なにより好きって気持ちが争いの種になるのがとても嫌なのだ。あたしの方が好き、いいや私の方が、とかそういうのをしたくない、ってタイプ。

 だから、俺達はこの距離が一番なのだ。

 

「んー……えと、それは心配してないんだけどさ。ゆきのんは誰かが好き~っていうのはないの?」

「好き、という相手は居ないわ。傍に居ても平気という人ははーくんくらいだけれど、恋人同士になりたいかといえばそうじゃないのよ。安心を得られる場所を好きとは言えるけれど、じゃあそこに恋をするかといえば、そうではないでしょう?」

「まあ、そうな。俺とお前は親友あたりが丁度いい」

「ふふっ……ええ、そういうことよ。けれど、まあ。これからもそうだという保証はどこにもないのだから、ゆーちゃん。きちんとはーくんを繋ぎとめておいてね」

「おい、俺が惚れること前提なのかよ」

「仕方がないでしょう? 人を好きになった経験がないんだもの。未経験の知識を振りかざす趣味はないわ」

 

 そりゃそうだ。けど、こいつの場合は多少の知識を得てしまえば、空白部分を理屈で繋げてなんとかしてしまいそうだから困る。

 で、理屈で埋めた部分を論破されそうになっても、さらにそれ以上の理屈で捻じ伏せてしまいそうだ。

 ……相手が結衣の場合のみ、大ポカやらかして逆に丸め込まれそうだが。

 ほんと、こいつは結衣にめちゃくちゃ弱い。

 

「こうしてると、中学の頃の修学旅行、思い出すな」

「あー、あったねー、同じこと」

「結局三人とも眠れずに、翌日は眠いままで過ごしたんだったわね」

「バス移動の時、俺の隣の男子と変わってもらったりしてな」

 

 中井出くんは今頃なにをしているのだろうか。

 ノリ良く席を譲ってくれて、しかも結衣は俺の足の間に、雪乃は俺の隣にと提案した彼は、そのあと勝手に席を変えたことで先生に怒られていた。堂々と“ワハハハハ俺の差し金だー!”って言って、怒られる要素を独り占めにしていたっけ。

 のちに結衣や雪乃のことを狙っていたらしい奴らに捕まって、ドカバキギャーーーッてボコられもしていたっけ。うん、元気な人だった。それでいて、なおかつ誰かも好かれていたっていうんだから不思議だ。

 

「ん、あっ、蚊だ」

「大丈夫か?」

「うん。そろそろ戻ろっか」

「そうね。それじゃあ行くわよはーくん」

「ん、行こう、はーくん」

「《がっし》おう、ちょっと待とうか二人とも」

 

 がっしと両手を掴まれ、立ち上がらされる。

 そして女子連中が眠るコテージへと歩みを進めた二人に、心から素直な言葉を贈った。やめれ。

 

「そんなことしたら三浦に殺されるだろうが……!」

「けれど私たちが男子のコテージへ行くのは問題があるでしょう?」

「お前ほんと、俺に対してはものすんげー我が儘な」

「ええ。私、どうでもいい人相手に甘える趣味はないもの」

「趣味で甘えるなよ……」

「あーでも、なんかわかるなーそれ。あたしもさ? 陽乃さんがママに甘えてる分、なんかしっかりしなくちゃーって。ママには甘えない代わりに、はーくんとゆきのんに甘えてる感じ、なのかな」

「姉さんの場合、私以上に甘えられる人が居なかったから。その反動が今に来ているのでしょうね」

「まあ、予想は出来たよなー……って、だから引っ張るな引っ張るな、冗談抜きで三浦に殺される。いや、殺されるは現実的に言い過ぎだとしても、殴られるし軽蔑されるし、平塚先生に血祭りにあげられる」

「………」

「………」

「そこで黙るなよ……。言っておいて、俺もマジでありえそうだって思っちゃっただろうが……」

 

 なにより子供と触れ合う場所でそんな問題が起きたら、俺が社会的に死ぬ。

 

「仕方がないわね、眠くなるまで散歩でもしましょう」

「あっ、平塚先生が居るコテージに行くってのはどうかなっ!」

「無理ね。はーくんが嫉妬でボコボコにされてしまうわ」

「おいやめろ」

 

 結婚したいが口癖になりつつある人を、撲殺超人みたく言うんじゃありません。気持ち、わかるけど。

 ……結局、眠くなるまで時間を潰すことで決定した。

 時間つぶしの内容はといえば、男子連中が寝る前に話した好きな人の話とか。

 そんなものを、コテージの前の段差に腰掛けながら話すわけだ。

 

「戸部は海老名さんが好きらしい」

「ちょ、はーくん!? それ言っていいことなの!?」

「べつに言い触らしたりするわけでもないのだから、いいでしょう?」

「まあ、あれな。言った時点で昼の子供……留美だっけか、みたいになるだけだろ」

「怖いってば! う、うー……そりゃさ、言わないけどさ」

「大和と大岡が結衣狙いで《ぎゅうううう……!》……こ、婚約済みだから諦めさせた、大丈夫、安心してくれ、頼む」

「~~……」

「……その。ちゃんと、俺も大好きだし、渡すつもりは微塵もないって言っておいたから。な?」

「《ぱあっ……!》う、うんっ! うん、はーくんっ!」

「…………おう」

 

 言って、胸に抱き着いたままな結衣の頭を撫でる。

 気持ちは言わなきゃ届かない。とはいえ、気持ちを伝えるのはなかなか難しい。

 ただ諦めてもらった、だけではだめなのだ。婚約したから、でもだめ。

 自分が本当に好きだから、相手に入る余地を与えない、ときちんと示さなければ。これ、ママさんとお袋の知恵。

 好きなら好きと何度でも伝えろ。料理がおいしいって感じたならきちんと言うこと。それはもう二人から何度も言われた。

 大抵の男というものは“好きなのは当然”みたいに構え、それを忘れるから嫌われるのだという。

 そこにあって当然だなんて考えてはいけないんだそうだ。

 だって、お互い考えて行動出来る存在なのだから、構ってくれない存在よりも、構ってくれるなにかに心惹かれるのは当然なのだ。

 なので、愛でた。

 抱き締め、頭を撫でて、その耳もとで自分の気持ちを伝え続ける。

 俺の恥ずかしさや男としてのなんたら……そういった沸いて出てくる理屈なんぞ、好きという気持ち以外の全てがどうでもいいと考えられるくらいに。

 そんなことをしばらく続けていると、暗がりでもわかるほどに顔を真っ赤にさせた結衣が、くたりと力を抜いて身を預けてくる。

 俺もとっくに力を抜いて、やさしくやさしく頭と背を撫でていたが…………わあ、この娘ったら寝ちゃってる。

 

「お、おい雪乃、結衣が…………あ」

 

 結衣に構いっきりで、背を向けていた俺のその背に、さっきから体重がかけられていたのは感じていた。

 が、首だけ動かしてみれば、その背に体を預け切った雪乃さんの黒髪。

 そして、呆然としていると聞こえてくる規則正しい呼吸。

 …………まじか、寝てやがる。

 背に背を預けて寝るとか、どこぞの認め合ったライバルですか? いやそんなん知らんけど。

 おい、おいどうすんのこれ。身動きとれないじゃないか。

 え? ちょ、これ俺がなんとかするしかないの?

 こいつらが蚊に襲われるとか冗談じゃねぇし…………ええいもう!

 

  根性。

 

 まずは雪乃を背負い、結衣を強引に横抱きに。

 普段から適度に鍛えておいてよかったー、とかそんなレベルを越えた重みがくる。女性を抱き上げて軽いとか言う物語の主人公ってほんとバケモノな! これ軽いとか、人間一人の重量ナメとんのか!

 でも歩く。雪乃が落ちないように前かがみに、結衣が落ちないように慎重に。

 そうしてどすんどすんと歩いた先で、タバコを吸うために外に出たらしい平塚先生を発見。事情を話して「そういうことなら」と先生が触れた途端、パッチィイと開かれる二人の瞳。

 

「……ああ、その、すまんな比企谷。きみの言っていたこと、すべてが理解出来た。どれだけ他人に対して警戒しているんだ、この二人は」

 

 おまけに「きみへの気の許し方も尋常じゃないな」、と笑われた。そりゃ笑うしかないわ、こんなもん。

 そうして先生はコテージへ入れてくれて、他の女性教員にはいろいろツッコまれたが、過去の家庭環境の問題だというとあっさり受け入れてくれた。

 コテージの隅っこを宛がわれ、そこに布団を敷いて三人で川の字。

 あんだけ眠れなかったくせに、そうするとあっさりやってくる睡魔に、俺も相当アレだと溜め息をこぼした。

 





 /アテにならない次回予告


              「ローーーレーーーーンス!!」




「大事なファーストキスを、相手が覚えていなくてもいいの?」




    「っべー! 比企谷くんめっちゃご飯がススムくんじゃねー!?」




   「いくぞバルバス!」



             「レェエエドンンン!!」



   「イヤーーーッ!!」



             「グワーーーッ!!」

 「イヤーーーッ!!」


        「グワーーーッ!!」


「イヤーーーッ!!」


               「グワーーーッ!!」




「うそっ!? ……ぐるぐる回るからミキサーかと思ってた……!」




       「一応男が居るんだから、そういう言い方やめなさい」




   「何度も確認したもん。ばか。はーくんのばか」




               「グワーーーッ!!」






            すごい漢だ。






次回、夢と現実の僕らの距離/第九話:『素晴らしい汗を掻こう』

 かっみがったキ~メて~生き~ていきましょ~う♪
 人生~、た~のしーむだ~けた~のしんだらっ!
 はいっ! ごっきげっんよう!
 ギャツビ~ギャッツビ~ギャッツビ~ギャッツビ~♪

 はいここで一言。

「こいつの骨踊りが好きなんだ」

   by.サガフロンティア/ネルソンの酒場の人


◆pixivキャプション劇場

 アストラルを発端の地とするエダール流片手剣術【早口言葉】

 スターオーシャンはファンタジアの次にハマったゲームかと思われます。
 チェスターと違って、ドーンは後半参戦しませんが。
 当時は結城比呂さんが頑張ってたイメージ。
 「バーングラウンド!」とか「黒竜天雷破!」とか「ウェーブッ! ライダァーーッ!」とか。太公望師叔とかもそうでしたね。アニメはシリアス一直線より漫画通りに進んでほしかったなぁと。アンニュイ学園とかやっても……よかったんじゃよ?
 まあでも一番はやっぱり……

「リューーーナイトッ! ゼファァアーーーーッ!!」

 だと思うの、私。

 それにしてもスレイヤーズNEXTでアルフレッドやってて、餓狼伝説でアルフレッドやってるって、なにかアルフレッドに縁でもあったんでしょうかね。
 あ、ロミオの青い空ではアルフレドが一番好きです。声はもう関係ないけど。

 さてスターオーシャン。
 特定のキャラを仲間にすると、別のキャラが仲間にならないというなかなか意地悪な仕様。
 シウスとアシュレイ一緒に使いたかったのに。
 シウスの、仲間が倒れた時の声と怒りが重なった時が好きでした。
 「後は任せろブッ殺す!!」って感じで。
 戦闘中に奥義閃く時も、おっしゃあああって感じでよかったです。ただその奥義の数の少なさがね……。
 皇竜奥義も少なすぎて悲しかったので。ていうかどの天雷破もあんまりエフェクト変わらないじゃん!
 え? アシュレイ? 紅蓮剣連打してれば大抵の敵には勝てましたよ。
 でも一番好きなのはロニキスさん。詠唱速度とことん短くしてエクスプロード撃たせるのが好きでした。
 大ダメージのくせしてエフェクト短いからサクサク進む進む。

 ドーンの勝利ポーズでどこぞの尻尾の生えたメタル忍者を思い出したのは僕だけですかね。

 Don't mindデジタル職人気質、明日もよお! 日本晴れ~♪

 ◆あとがき
 なんだか今、ジョジョ4部のOP3が自分の中でスルメソング。
 最初聴いた時は「なんだこれ……」だった筈なんですけどね、何故か自分の中で相当好きな歌になりました。
 amazonでデジタルミュージックで購入。OP1と一緒に聴きまくってます。
 ……でもOP2ってなんでか印象に残らないんですよね……不思議。

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