どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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それが本物でありますように

 しばらくそうして水遊びを楽しみ、上流の方で平塚先生を発見したあたりで水遊び終了。

 結衣に俺の服を着せてやると、「わ……ぶかぶかだぁ……えへへ」なんて言ってテレテレしてた。やだ可愛い。

 

「それではあなたの服が濡れるわよ?」

「べつにいーだろ、今日はもう着ないだろうし」

「そう?」

「お前はどうする? タオルくらいならあるけど」

「べつにいいわ。水をかぶったわけではないもの。このままコテージに戻るのでも構わないし、自分の服を着るのでも───」

 

 と、雪乃が言いかけた時、奥側の茂みをかき分けてやってくる男子数名女子数名。隼人グループである。

 

「……はーくん、タオルを借りるわ」

「へ? あ、おう、いいけど」

 

 雪乃は男子数名に背を向けるとタオルで足を拭き、素早く肌を隠すように服を着た。すごい速さである。よもや彼女……ニンジャなのでは?

 

「おー! ほら川とかめっちゃ見つかったじゃーーーん!? 水着もあるしぃ、いっちょ涼んでかねー!? って、おー比企谷くんじゃーん! そっちもう準備終わった系ー!?」

 

 なんだよ終わった系って。終わってるよ。系じゃなくきちんと終わってるっつの。

 

「うおっ……平塚先生すげぇっ……!」

「うおぉっ……女教師の水着姿とか……! 眼福……!」

「きも。ないわあんたら。これだから男ってさぁ」

「そう……そうだよね優美子っ! やっぱり男子は男子の汗の伝う裸身に目を奪われるべきだよねっ!」

「へ? いやそーじゃねーし。てかちょ、海老名? まず落ち着いて状況ってものを───」

 

 水着の平塚先生に見蕩れ、鼻の下を盛大に伸ばした大岡と大和に、隼人が額に手を当てながら俯き、溜め息を吐く。

 

「いんやぁけどこうなっちゃったらもう、全員でいっそ水着になって涼んじゃうみたいな? 凉を感じちゃう? しちゃう系? しまくりんぐ的なアレ? みたいな?」

「戸部、うざい」

「……ハイ」

 

 そんな会話の中、結衣と雪乃は俺の背に隠れっぱなしである。

 小町は平塚先生の隣の、少し深い川で遊んでいる。

 

「は、はーくん、はーくん、もう行コ……?」

「そうね。やっくんには悪いけれど、他の男子に見せていい肌は持ち合わせていないわ。というかあからさまに変態的な目を向けられると不愉快極まりないわ」

 

 そうな。さっきから大岡と大和の視線が鬱陶しい。明らかに結衣と雪乃目当てである。戸部は海老名さんに釘づけ。水着を着てるわけでもないのに、誰と話しながらでもちらちら視線が行ってるし……いや、ほんと好きなんだな。

 叶うといいな、ああいうの。

 

……。

 

 しかしながら他の人が来た途端に逃げ帰る、というのも印象が悪いもんだ。

 そこらへんは三浦あたりに説明すれば“あんなんしょーがねっしょ”とかあっさり納得しそうだが、それでもだ。

 なにより隼人の友人だ、邪険にはしたくない。

 そういった態度を逆手にとるような行動に出た時こそ、付き合いを考えるべきだと思うぞ、とでも助言しよう。

 余計なお世話だとは思うが。

 と、いうわけで。

 

「マッスルウォッシャー!!」

「《バッシャア!》ぶわっ!? こっ……いきなりはないだろ八幡!!」

 

 二人をきちんと着替えさせるため、コテージに戻ってからもう一度川へ来た俺は、隼人と遊んでいた。

 川の水を両手で掬い、独特の形で勢いよく合わせることで水鉄砲を完成させる。

 キャシャリン流マッスルウォッシャーである。

 

「おー! 比企谷くんとか結構はしゃげる系ー!? 俺も混ぜて俺もー!」

「隼人!」

「ああ!」

「秘剣!」

「ナイアガラスマッシュ!!」

 

 まず俺が、戸部に向かって両手で掬った水をぶっかける!

 怯んだ戸部へ、隼人が小町から借りた二丁水拳銃で戸部を撃つ!!

 

「ぶわぁっぷ! ちょ、二人掛かりとか卑怯だべー! 待っ、ちょっ! おわーーーっ!!《だっぼぉーーーんっ!!》」

 

 で、体を捩じった拍子に足を滑らせて、戸部……全身着水。

 こうなった男は実際強い。

 おお、見よ! 戸部は子供のような無邪気な笑みを見せ、果敢に向かってくるではないか!

 次の瞬間には躓いて倒れる様などは、恐らく我らを油断させる巧妙なジツ。油断ならない。

 俺は油断なく、隼人が持っていた二丁のうち一丁を受け取ると、起き上がったその顔に水鉄砲の遅すぎる連射を浴びせたのだ。

 

「うおおおおおマリーーーン!!」

「それがFF7のバレットの真似だってわかるやつがどれほど居るかな……」

「少なくとも隼人はわかってるだろ!」

「ガトリングなんて気の利いたものはないけどな」

 

 というわけで撃つ。

 もちろん水鉄砲ってわかってれば無視して突撃もできるってもんで、終いにゃ飛びかかってきた戸部に捕まって、隼人ともどもダブルSTO状態で着水。

 どの季節だろうと冷たいと感じる川の温度に、隼人と一緒に「おぎゃあああ!!」と白面の御方様のような悲鳴を上げて飛び起きた。

 

「ッツアーーーッ!! つめたっ! おぉおおおぁああ……!!」

「~~っ……これは確かに……! ていうか、八幡は雪乃ちゃんたちと遊んでたんじゃないのか……!?」

「沈んだりはしてないんだよ……! おぉお……!」

 

 しかし、だからこそ楽しくなる。

 今度は隼人と一緒に突撃して戸部を掴んで、

 

『ノーザンライトボムゥッ!!』

「おわーーーっ!?」

 

 ゾヴァァッシャアア!! と水しぶきをあげつつ、一緒に川に沈んだ。

 そうして遊んでいるとふと視線を感じて振り向く……と、川岸に俺の服を着込んだ結衣と雪乃。

 コテージで休んでるって言ってたのに、ホワイ?

 

「……すかさず大岡と大和の目が向こうに向かうのが、なんか腹立つ」

「仕方ないよ、二人とも綺麗で可愛いんだ。独り占め、っていうのは無理だろ、あれは」

「あー……ごめんなー、比企谷くん。ほんと、悪いやつらじゃないんだけどさー。なんつーの? やっぱ水辺に居る女の子ってほら、目ぇ移るべ?」

「二人が来るまで平塚先生に釘づけだったのにな」

「あぁけどマジな話、ちゃんと由比ヶ浜さんと雪ノ下さんのことは、俺と隼人くんとで話通してあっからさ。比企谷くんもあんま、そういう目で見てやんないでほしいんだわぁ」

「ん……悪い。わかってるんだけどさ」

「いや、そこは俺も気持ちわかっからさー。自分の大事な人にニヤニヤ近寄られたら、そりゃいい気しないべ。俺も二人が海老名さんに近寄ったらかなりキちゃうしさぁ」

「具体的には?」

「……沈めたい」

『行きすぎだ!!』

「っははははっ! そうそう、大声で楽しむべ! じゃなきゃもったいねーでしょお! せっかくこんな場所まで来てんだしさぁ、友達同士だから出来ること、夏の思い出にしなきゃでしょお!」

「じゃあキン肉マンごっこしようぜー。お前ビッグザ武道な」

「へ? あ、ちょ、あれ!? 比企谷くん!? ちょ《がしぃっ!》」

『バスターバリエーション・パート5ーーーっ!!』

「お、おわーーーっ!!」

 

 そしてまた、デカい水飛沫が上がった。

 

……。

 

 散々暴れ回ったあと、結衣に呼ばれて川岸へ。

 大き目の岩に腰掛け、足の先でぺしぺしと川の水を蹴っていた結衣は、俺が近づくと「えへー」と笑った。

 その隣で読書していた雪乃は、俺が辿り着くやパタムと本を閉じて俺を見る。

 

「なんかさ、離れたところからさ、こう、大好きな人が目を合わせながら来てくれる時間って……いいね。好きだなぁって……えへへぇ」

「顔が勝手にニヤケるから逸らしたい時もあるんだけどな」

 

 言うわりに、逸らしたことなどないわけだが。

 それを知っているからか、結衣も雪乃もわかってますって顔で笑ってる。

 

「あなたのことだから、すぐこちらに来ると思っていたのだけれど」

「隼人も大事な幼馴染だからな。気にならなかったって言ったら大嘘つきになるわけだが」

「ええ。物凄く見ていたわね。さっさと来ればいいのにと何度思ったことか。ゆーちゃんなんて、あなたが見るたびに笑顔になって、主の帰りを待つ犬のようにそわそわしていたのに」

「だからゆきのんなんで言っちゃうの!? 言わなくてもいいよね!? それ言わなくてもいいよねぇ!?」

「まあ、言わなくてもな、見えてたから」

「わふっ!?《ボッ!》…………はーくんのばか」

「いや、俺も来ようとは思ったんだけどな。大岡と大和の視線とか気になってたし。でもほら、三浦と海老名さんがガードしてくれただろ? あれなら大丈夫そうかなってな」

「はーくん。ゆーちゃんの場合、そうとわかっていてもあなたに来てほしかったのよ」

「だからなんで言うのーーーっ!? てかなんでわかるの!? もーーーっ!!」

「あら。伊達や酔狂で幼馴染と親友とを名乗っているわけではないのよ? ゆーちゃんとはーくんのことなら、大体のことがわかるわ」

「う~~……」

 

 悔しそうに、けれどわかってくれるのは嬉しいのか、複雑そうな顔をする結衣を前に、雪乃は大変に気分がよさそうだ。

 ほら、こう、なんというのか。悔しかったらあなたも私のことをなにかひとつ、言ってごらんなさい? って言いたげな───

 

「う、うー! うー! ~~……ゆきのんの不忍池!!」

「それは関係がないでしょう!?」

 

 余裕ぶっていた顔が一瞬にして羞恥に塗れ、涙目になるわ引け腰になるわ、どんだけ暗黒歴史なのさ。

 

「あーほれほれ、もう十分涼んだから戻らない? ここで喧嘩されたらお兄ちゃん風邪引いちゃうわ」

「あっ、そうだっ、えと、タオル……は、ないし、服……も、あたしが着てるし……」

「いーって、サンダルだしこのままコテージ戻るから」

「あ、じゃあ上着だけでもっ《ぬぎがしぃっ!》」

「やめなさいっつの!」

 

 脱ごうとした結衣の腕を掴んで止める。

 やめれ! 今勢いに任せておへそとか見えちゃってたから! っつかその下どうなってんの!? まだ水着のまま!? それとも…………ああもう帰る! マジ帰る!

 

「あなたが心配しているようなことはないけれど……ええ、まあ、賛成だわ。あなたが風邪を引くかも、という仮定だけでこの慌てぶりだもの。くしゃみのひとつでもしようものなら、本当に脱ぎかねないし」

「……さすがにそれはないだろ、って胸張って言えねぇ……」

 

 歩いた一歩目から、こっちはまだ濡れてるってのに腕に抱き着いてくるんですもの。ああちくしょう可愛い。濡れてなければ抱き締めてたよちくしょう。

 

……。

 

 肝試し。

 肝を試すと書くが、こういうので実際に試されるのは度胸であって、胸試しと書いてもいいんじゃないかなと考えた過去がある。

 その時、お互いにちっこかったもんだから、特に考えもせずに言って、結衣に真面目に聞かれた。“はーくんはむねがおっきなほうがすきなの?”と。

 “度胸”とは“胸の度合い”を差すものだと勝手に解釈したらしい結衣は、そのほかにもいろいろと勘違いしたらしい。

 ただまあ、言わせてもらえるのならばですが、ハイ。

 おっきなの、いいと思います。

 結衣だからこそ、とは付け加えたいが。

 さて、話は戻って肝試しだが……借りた衣装がたわけたものしかなかったので、貸してくれたらしい存在に突き返すことが決定した。

 趣味丸出しじゃねぇか、翌日から社会的に生きていけるのか、提供者。

 平塚先生に聞いてみれば、小学校の教師が用意したものらしいじゃないか。どう見ても女子高生のコスプレ見たさに急遽用意しましたってヤツじゃねーか。この小悪魔衣装とか誰が着るの? 結衣に着せる気なら刺し違えてでも潰しますぞ?

 

「まあ、安心するように。なんとなく顔合わせをした時に、ろくなものは用意しないと踏んでいた。こちらに別に用意したものがあるから、それで頼む」

「平塚先生プレゼンツ……ん? なんだこれ、人体模型の……着ぐるみ?」

「ぶっは! 人体模型なりきりセットなんてスゲくねー!?」

「それな」

「確かに」

 

 言いながらいつまで小悪魔衣装チラ見してんのそこの二人。それ見たあと結衣見るのやめろ。いい加減にしないと怒るぞ、後ろの隼人が。

 俺? 俺は大丈夫だ、既に怒ってる。

 

「フランケンシュタインの怪物……頭のボルトは基本なんだな」

「うっわ、なにこれキッショ、ありえなくね? 骨だけの着ぐるみ? ないわ」

 

 隼人と三浦が適当に衣装を見る中、三浦が人体模型と骨格標本衣装を大和と大岡に投げ渡す。

 二人は「え……?」と困惑の表情で三浦を見るが、三浦は溜め息とともに二人を睨んだ。

 

「あんたらね、昨日からあからさますぎ。女ってのは男が考える以上に視線に敏感なんだっつの。あんまじろじろ見てっと切るよ?」

「い、いや俺はただ、由比ヶ浜さんが着てる服ってその……なぁ?」

「そっ……そうそう、なんかアレ……男モノじゃないか? とか」

「ああ、俺の服だ」

『比企谷のっ!?』

「大岡、大和……この二人は諦めろって、もう何度も言ったよな……?」

「い、いやぁ、だってな、隼人くんっ……!」

「れれれ恋愛は自由であって……!」

「婚約者狙うのが自由だったら、世の中犯罪だらけだろ。なにお前、将来結婚した愛する奥さん寝取られて、“相手の自由だからな”で納得できんの?」

『………………』

 

 あ、ツッコんでみたら呆然。

 いそいそと着ぐるみを着だした二人は、しばらくすると平塚先生に名前をつけられた。

 

「大岡が佐藤はるおくん、大和が鈴木ジンコツくんだな」

「どこのじゃんくしょんですかそれ」

『さよなら……大きな母性……』

『俺……人骨として強く生きるよ……』

「キショい」

『…………《ずぅううん……》』

 

 骨格標本と人体模型が、三浦の一言で落ち込みだした。容赦ねぇなおい。ただ、まぁその。本能的にっつーのか、やっぱ性格オカンなんだろうな。

 女の子が困ってるのをほっとけないっつーのか。あのまま知らん顔する方法だってあっただろうに。

 こう……なに? ストーカーとかあったら率先して組織募って潰すみたいなタイプっつーのか。

 

『あ……そういやさ、相模のグループの……』

『いや……あいつ戸部のことが好きって話、聞いたことが……』

『………』

『………』

『俺とお前とでなにが違うってんだぁああっ!!』

「おぉわっ!? 怖っ!? っべ! っべー! 怖っ! っべー!」

『なんで俺らには春がっ! ちっくしょぉおおお!!』

「いやぁちょーちょーちょぉ待て待て待てってさぁちょっとぉ! 話が見えねぇっつのぉーっ!!」

 

 実録! 骨格標本と人体模型が人を襲う光景を見た!

 ……その見出し通りのことが、現実で起きました。着ぐるみだけど。録画もしてないけど。

 のちに鈴木ジンコツくんと佐藤はるおくんは結衣に『ジロジロ見てすんませんっした……』と真心込めて謝るに至り、結衣はこれを受け取る。

 二人は『気持ちを受け取ってもらえるっていいな……!』とそれはそれは喜んでいたが、のちに『でも結局フラレてんだよな……』と盛大に落ち込んだ。

 

……。

 

 さて、キモさが……もとい、肝が試される夜が来た。

 作戦会議中はあえてツッコまなかったんだが、とっくに水着は脱いだ筈なのに、いつまで俺の服を着ているのだろうか、この恋人さんは。

 

「でもよかったのかなー……あたしたちだけ演出班なんて」

「彼らがそうさせてくれというのだから、いいでしょう」

「それに結構面白いぞこれ。大量のドライアイスから出る冷気を団扇で仰いで、冷気と濃霧を演出する簡単なお仕事です、だ」

「水を入れるタイミングが重要ね……ふふっ」

「あ、ゆきのん笑った」

「それはね。だって、楽しいでしょう? 高校生にもなって、寄ってたかって子供を怖がらせようというのだから。しかもそのために協力することが……ド、ドライアイス……! ぷふくくっ……!」

「相変わらずお前のツボって謎だよな……」

「あはは、まあまあ。そういうはーくんだって楽しそうだよ?」

「おう、お前もな」

 

 ドライアイスと一緒に蚊取り線香焚いてるのは秘密である。

 虫よけスプレーも付けたし、あとは小学生たちの来訪を待つばかりなんだが……

 

「……、はーくん、来たわ」

「よしきたっ」

「お水、投入~」

 

 たっぷりのドライアイスに、デュオンデュオンとペットボトルに入れた川の水を入れてゆく。

 するとモシャアアアと溢れるように出てゆく霧レベルの水と氷たち。

 ドライアイスの煙って、霧とかの分類よりも水と氷なんだってな、すげぇよな。

 そんな感心は横に置き、団扇でぱたぱたと茂みの下から凍てつく風を届ける。

 俺と結衣と雪乃は子供がするようなニヤリとした悪い笑みを浮かべ、小さく宣誓。

 

「召喚士は通す……」

「ガードも通す……」

『キマリは通さない!』

 

 俺、結衣、三人同時の順に言って、重ねた手をエイオーと天に掲げる。天といっても、鬱蒼とした木々の天井しかないわけだが。

 さあ、張り切ってドライアイスを扇ごう。

 

「《びくっ!》なっ……なんか急に寒くなった……!?」

「そっ……そんなことあるわけないでしょ……!? ききき気の所為よっ、気の所為っ……」

 

 ターゲットは……おお、鶴見留美が居たあの班か。

 どうやらきちんと仲良くやれているようで、みんなで手を繋いでいる。

 すっかり暗さに慣れた目ならばこそのこの観察眼、素晴らしい。

 あー、でもあのツンツンさんはまーだちょっと意地っ張りしてる部分があるかもだな。

 んじゃあいつの足元に冷風と霧を届けるように~……っと。

 

「ひぃっ!? ななななにこれ! ほんとに寒く……! 足になにか……きゃああっ!?」

「え? っきゃあああっ!? 白い手がぁっ!!」

 

 へ? 白い……いやいやいや、ただ勢いよく仰いだら、少女の足にぶつかって二つに分かれただけだぞ? そりゃ、ちょっと温度の関係で肌にまとわりつくように動いているように見えるかもだが。

 

「ちょ、ちょっとここおかしくない!? なんで急にこんなに霧が……!」

「やっ……こ、怖いっ……!」

 

 少女たち、思わず身を縮こまらせ、手を離してしまう。

 一度手が離れてしまうと、人ってのは自由だよな。

 相次ぐ恐怖が余裕を持たせようとせず、気づけば少女達は距離を開き、バラバラになってしまった。

 ただしツンツンさんだけは恐怖で体が動かないようで、ドライアイススポットで未だに震えていた。

 ツンツンさんは待って、離れないでと言っていたが、他の子らも軽くパニックだ。冷静じゃ無い所為で声も届かないし、少しずつ離れてしまっている。

 が、留美だけはそこに居て、

 

「大丈夫……落ち着いて。絶対、置いてったりしないから……!」

「……留美ちゃん……!」

 

 恐怖に立ち向かい、喉を何度もごくりと鳴らしながらもツンツンさんの隣に居た。

 でも、と続けるツンツンさんが見下ろす先には、相変わらずモシャアアと溢れるドライアイスの霧。

 留美はそれを手で払うも、新しい煙めいた霧が留美の腕にもまとわりつき、これにはさすがに小さな悲鳴が漏れた。

 しかし逃げない。

 ……俺は今、美しい友情が試される場面に立っているのかもしれない。諸悪の根源が俺であり、タネがドライアイスなんだけど。

 

「動ける……? 肩貸すから、先進もう……?」

「で、でも、足……」

「引きずってでも連れていくから……!」

「留美ちゃっ…………~~~っ……あ、ありがと……! ごめんね……!」

 

 寒さと恐怖で体が固まってるのは留美も同じだろうに。

 ゆっくりと進む二人に美しさを感じながら、しかし驚かすのが役目なので手抜きはしない。

 ここでほっといたほうがハッピーエンドなのかもしれんが、追撃にこそ強いお子であってほしいという親心というか。親じゃねぇけど。

 イジメってものを見てきたからこそ、こういう状況にこそ打ち勝てる心を持ってほしいと思うのだ。

 

(では)

 

 乾電池で動くスピーカーを各地にセットしてある。

 その大元にパチリとスイッチを入れて、ホイッスルボイスな音声を流す。

 暗い場所での、地の底から這ってくるような低い声もいいが、白い霧には甲高い声だと思うの、俺。

 いろいろな場所から聞こえる悲鳴のような声に、留美は肩を弾かせて悲鳴をあげるが、それでもツンツンさんを置いて逃げようとはしない。

 怖くて動けないだけかもしれんけど、ぎゅうっと抱き合って、けれどじりじりと進んでいった。

 

「………」

「………」

「………」

 

 やがて留美グループが去っていくのを見届けると、俺達は“眩しいものを見た……”といった感じで溜め息を吐いた。

 良い映画とか見届けると、なんかこうなる時がある。あんな感じ。奇妙な脱力感というか、心地よい疲れというか。

 

「ちゃんと仲直り、出来てたな」

「うん……よかった」

「上辺だけだったのかどうか、少し気になっていたのよね……」

「ああいうの……本物、っていうのかな」

「お互いの腹の内を散々曝してきて、それでも手ぇ繋げるんなら……そうなんじゃねぇか?」

「そか。……そっか。……そうだと、いいよね……えへへ」

 

 あのまま仲良しでやっていけたらいい。

 友達だから、信用したからこそ自分の秘密を話したのに、翌日には言い触らされるなんてこと、よくあることだ。

 俺も結衣も雪乃もとっくに経験済みだし、だからこそ自分達以外には深い関係を築こうとしない。

 隼人もそれを知っているからこそ、みんな仲良く、なんてものを押し付けようとしない。

 

「成長出来ていないのは、私たちの方……なのかしらね」

「だからって、人との関係は無理矢理作るもんじゃねぇだろ」

「だよね。無理に作ろうとして、一緒に居られなくなるの……嫌だし。それにさ? 新しい関係とか作ったら、絶対に……はーくんとゆきのんのこと悪く言う人とも会うと思うんだ。……あたし、それで後悔したくないから」

「そうね。深く賛成するわ」

「俺も」

 

 踏み込んでくるやつの大半は、三人の内の誰か一人と仲良くなりたいだけであり、そうなると他の二人が邪魔だから、悪口を捏造して離れさせようとする醜い連中ばかりだった。

 一度でもそれを聞けば、もうそいつらとは仲良くできない。

 距離を取れば、今度はそいつらは俺達の悪口を周囲にばら撒きニヤニヤと笑った。

 イジメなんてのはどこにでもあるし、しなくていい悪口をばらまく行為なんて、無害そうなやつほど平気でする。

 だから、俺達はお互いを大事にするし、離れようとも思わない。

 依存に近いだろうか、と考えたこともあったものの……三人一緒の方が動きやすいし知識も回るしで、俺達としては問題視なんかは全然していないわけで。

 

「あ、次の班来たよっ」

「よし、ドライアイス追加」

「この輪のような霧を上手く飛ばせないものかしらね……」

 

 ドライアイスを水に入れると、輪みたいな霧が飛ぶ時、あるよな。

 ああこれこれ。これを子供たちの前に飛ばしたいらしい。

 当然途中で消えるわけだが。

 ……そうして、ドライアスと水が尽きるまで、やってくる子供らを脅かしまくったのだった。

 




 /アテにならない次回予告



     「ローーーレーーーンス!!」



            「ふふっ……フラレてしまったわね」



「キミ、ドラムを想像したまえ。シンバルだ、シンバルを叩きたまえ」



   「ッシャス! 友達からお願いします!!」



 「ペシャメルソースよ、はーくん」



                   「お、おのれ妖怪!」



         さ、さー……サンサーラナーガさん?




     「……はぁ。どうしてこうなってしまったのかしら」





次回、夢と現実の僕らの距離/第十一話:『それを青春って呼んだ日』

 熊は叫びました。

「この物語はフィクションであり夢であり夢であーーーる!」

 狐は目を閉じ目を開けて歩きました。

「いや、フィクションの時点でいろいろとアレだろそれ。あとなに? 夢でドリーム? そーいや天使のゆびきりを初めて聴いた時、YOU MAY DREAMが夢ドリームって聞こえたなぁ」
「ゆぅ~~~めドリィ~~~ム?」
「キモい」
「ちょっと歌ってみただけであろう!?」

 今日もその千葉には猫の鳴き声が響いておりました。
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