どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
/彼の趣味と、子育て日記/クロスボッチャー候補:僕のヒーローアカデミア
◆比企谷八幡/個性:ぼっち
孤独であればあるほど強くなるぞ!
気づけば知らない場所に居た。
「……まただよ」
SAO生還者である自分の口から、勝手にと言えるほどに自然に、呟きが漏れた。思えばこれで三度目である。
一度目はSAO、二度目はALO。
ALOは自分が経験した世界とは違うSAOのあとの話で、気づいたらいきなり空の上からの落下。
落ちた先には馬鹿デカい鳥かごがあって、勢いがノリ過ぎていたために鳥かごの隙間から中へと入ってしまい、そこで出会ったアスナとやらと会話して、そこでも「まただよ」とこぼした。
その後、なにやら怒り狂ったオベイロンとかいうエ~クスカ~リバー……もとい、妖精王デッカード……もとい、妖精王が来て、重力魔法とか使ってきたけど普通に歩いて顔面にナックル。
拍子に籠の外へ吹ッ飛んで母なる大地へと落下していった。しばらくすると妖精王オベイロンが討伐されましたってアナウンスが流れたが、とりあえず、おそらくは居るであろう由比ヶ浜探しをすることに。
アスナさんとやらに頼まれてログアウト制限がどーのをいじくる必要があると知って、大樹の中を散策、人外のスタッフが居たので肉体言語で説得、なにやら300人も居たらしいSAOの頃から帰還できなかった人達は生還を果たし……俺はその後、由比ヶ浜を探すために世界中を駆け回った。
結局はまたしてもピンチな状況で助けるに至り、それはそれはもう溜め息を吐いた。
「……はぁ」
今回もどこかに居るのだろう。
絶対に見つけ出してなんとかする。
何故だか毎度ピンチな時に遭遇するから、想像するだけでソワソワする。
毎度のことながらSAOのステータスはそのままだし、ALOで強制的に決められた種族判定のお蔭で回復魔法も覚えた。
開始早々回復魔法とか使える種族ってありがたいよね。その代わり攻撃がダメとかは鉄板だけど、俺の場合は身体能力の時点でレベル4800のバケモンだからなぁ……。
とまぁそんなわけで、ヒーローが普通に溢れかえっているこの世界で、俺は趣味でヒーローをするハゲマントさんが如く、辻ヒーローもどきをしているわけだ。
個性? 使ってねぇよ。使うまでもなくぼっちだし。無断で個性を使うのが違反なら、ただの身体能力での行動は違反じゃねぇわけだし。
ただ、顔バレすると生きていくのが面倒になるので、顔は隠している。
「うあーん! いたいよー! ママー!」
「あぁへいへい、スー・フィッラ・ヘイル・アウストル……」
「《パアアア……!》……、あれ……? いたくない……」
「ほれ、もう大丈夫だ。立てるか?」
「うん! ありがとー、おにいちゃん!」
「………」
やだ、小町に会いたい……!
っつーかなんで毎度俺なんだよ、由比ヶ浜もだけど、ちょっとはこっちの迷惑ってものも考えろっての。
こちとら救助隊の仕事で忙しいってのに……ああ、うん。なんでこんな世界に来てまで、同じようなことしてるんでしょうね俺。
働きたくないでござるとか言ってた時代が懐かしい。
「ほれ、ママとやらのところに戻れ」
「………」
「おい?」
「……ママとパパね、いないの」
「───」
とっても嫌な予感がしました。
「気づいたら知らない場所にいて……いろんなこと、わかんなくて」
「うおおう地雷だった……! まさか個性使った誘拐か……!? あ、あー……そか。で、今は? 警察に行ったか、養ってくれる人とか、居るんだろ?」
「《ふるふる》……昨日、車が突っ込んできて…………もう、だれもいなくて……」
(ギャーーーアーーーーッ!!)
特大の地雷であった。
なにやってんの俺ェェェェ! ここは深く訊かずにポリスまで届けてあげるところでしょォォォォ!?
「そ、そか……んじゃ、その……あれだ。名前は? お兄ちゃんが警察まで連れ───」
「ゆいがはまゆい」
「───……て、って……や………………」
神よ……。
───それは、趣味でヒーロー、というよりは救助をしていた青年が、まだ小さな知人を引き取り、ともに暮らし、強く生きてゆく家族の物語である。
少女はそんな彼の背中に憧れヒーローを目指し、“個性:空気を読む”を操り、エアロマスターとして育ってゆく英雄譚。
やがて元の世界に戻った彼女は、その力で多くの人々を救い、偶然出会った養父の面影を持つ男性と恋に落ち、幸せになったそうな。
……ちなみに、そんな養父との暮らしといえば。
「パパー! パパまた一番だって! オールマイトと同じ!」
「おう」
「えへへへへへぇ~……パパかっこい~……♪」
「お、おう」
「あたしね、おっきくなったらパパのお嫁さんになる! ヒーローになって、パパのお手伝いするの!」
(~~……結衣! 結衣ーーーっ!? 助けてぇええ!! 子供のお前ってなんでこんなに可愛いの!? 兵器!? 俺専用の兵器かなんかですか!? もちろんお前も可愛いけど! でもっ! でもなんか可愛いのベクトルが違うっつーか!)
「ん~……でもパパ、なんでいっつもテレビのしゅざい? 断るの?」
「ちやほやされたくて人を救出してるわけじゃねぇから、いいんだよ、これで」
「そっかー!」
「おう。それに、緊急時とはいえ無断で人の家に入るとかもしちゃってるから、褒められることばっかじゃねぇんだ。この間も子供の叫び声とか聞いて、知らないお宅に駆けこんだら、顔に熱湯浴びた子供が居てな。すぐに治したからよかったけど、下手したら一生痕が残ってたな」
不法侵入で通報されなくてよかったわ。
あとでなんでかエンデヴァーさんがヒゲ燃やしながらツンデレ風になにか言ってきたけど、なにがなにやら要領を得なかった。
「そういえばさ、パパのヒーローこすちゅーむって全然傷つかないよね」
「あー、コートオブミッドナイトな。これ傷つけられたらすごいもんですよ?」
「そうなんだー!」
「そうなのだー!」
子供と暮らしていると、ノリが子供に引っ張られたりするよね。
でも幸せです、俺。
俺、絶対に結衣を立派に育ててみせるよ……!
「んじゃ、今日も頑張りますか」
「うんっ! えと、んっと、」
「更に向こうへ?」
「うん! さらにむこーへ!」
『PlusUltra!!』
……のちに、元の世界に戻った時。
彼はこの世の終わりとでも言うかのように号泣したのだという。
/とある少女が見た夢の続き(夢と現実の僕らの距離のネタ話)
「おーい雪乃ちゃーん、結衣にはーちゃーん」
「あら姉さん、なにかしら。今ロミオの青い空がとても良いところなのだけれど」
「うんうんそーでしょー! 静ちゃんに借りた甲斐があったねー! じゃなくて。ちょっと高校でめんどい課題が出てきちゃってさ」
「めんどい課題……? 陽乃さん、それってなんですか?」
「もー、結衣ってばいい加減、私のことお姉ちゃんって呼んでくれてもいいのに」
「マ、ママは渡しませんからね!?」
「じゃあはーちゃん取った!」
「もっとダメ!!」
「あの、陽乃さん? 課題ってどんなんですか? 俺達に用があるって……」
「そうそうそれなんだけどさ、聞いてよはーちゃん。静ちゃん……ああ、担任が平塚静って女の先生なんだけどね? その人がさー、家族に好きな物を訊いてきて、家庭科で作るなんていうめんどいのを出してきたわけなのよ」
「そうね。私はストームブリンガーが」
「はいストップ雪乃ちゃん、好きって、そういう方向のじゃないから」
「魔法なら融合魔法が好きね。光と闇が合わさって最強に見えるものとか」
「雪乃、それ魔法っていうかブロントさんとグラットンソードだから」
「えっと、陽乃さん? つまりゆきのんに好きな料理を聞いて、それを作るってことですか?」
「違う違う、言ったでしょ? 家族の好きなものって。べつに一人って言われてないし、私にとっては雪乃ちゃんも結衣もはーちゃんも家族だから。まあ? 一番好きなのはママだけどね~♪」
「だからママはあげませんてば!」
「まーまー、それよりさ、ほら。好きな物好きな物。はい雪乃ちゃん」
「FF5ではとある場所の骨からゾンビメイルが───」
「だから好物の話だって言ってんでしょーが! いつからそんなコになっちゃったのもー! ……あー、じゃあ結衣から。はい」
「ふえっ!? え、えと…………はーくんが作ったカレー……かな」
「どうやって作れっての! はーちゃんが作らなきゃ意味ないじゃない! ~~……次、はーちゃん」
「なんかヤケになってません?」
「誰の所為よ!」
「少なくとも俺の所為じゃないですよ!」
「言っとくけど、結衣が作った料理とか言ったらグーで殴るから」
「俺にだけ厳しすぎません? まあいいですけど……そうですね、チャーハンとか普通に好きです」
「おっ、普通の答え。しかもチャーハンなんて、男の子だね~♪」
「性別関係ないでしょが。で? 雪乃ー? お前の好きな物は?」
「ここで一発お姉ちゃんが好き~、とかボケてくれたらお姉ちゃん的にポイント高いんだけどなぁ」
「どこのシスコンですか」
「んー? 違う違う、私のはファミリーに向けての愛情だから、ファミコンファミコン」
「ゲーム機しか思い出しませんね……俺もシスコンではありますが」
「じゃあほら、雪乃ちゃん? 雪乃ちゃんはなにコンかなー?」
「……ネクロノミコンとか、どうかしら───!?《クワッ》」
「………」
「………」
「とりあえずお菓子で本みたいなのでも作るよ」
「……そっすね。それがいいと思います」
「え? あ、あの、姉さん? はーくん? 今のは○○コンとネクロノミコンをかけた高度な……あの、えっと……ゆ、ゆーちゃん!? ゆーちゃんならわかって───え? 居ない……?」
「結衣ならさっき、そこのベランダから自分の部屋に走ってったぞ」
「んふふ、“ママー! 炒飯の作り方教えてー!”だって。かわいいわよねー♪」
「………」
「………」
「………」
「と、ところで今のは」
『言わなくていいから』
───……。
……。
「……ってことがあったなぁ」
「あったねー。てゆーか、あたしがママのところに行ったあと、そんなことがあったんだ」
「そうそう、あの頃の雪乃ちゃんってばほんと……ぷふっ! くふふふふ……!」
「あのー……お兄ちゃん? 結衣さんに陽乃さん? ……雪乃さん、悶絶してますんでそのへんで……」
「嫌ぁあああ……!! 忘れてちょうだい、忘れさせてぇええ……!!」
「まあ雪乃ちゃんは断続的につつくとして。今ならどう? 好きなものとか」
「あー……そうですね。あれです。夜が明ける空の色?」
「あ。じゃああたし、懐かしいフランス映画!」
「~……それなら私は、濃いめのミルクティーが……」
「じゃあ小町は喫茶店のナポリタン!」
「……これ、私はクッキーの罐のぷちぷちって言わなきゃだめ? ていうか静ちゃん怒りそう」
「わかった時点であれですって。俺達はまあ、親父やお袋、パパさんママさんが持ってるCDとかも聴くから、たまたまでしたけど」
「うん、それ言うなら私もだし」
「ちなみに雪乃は前にヘビメタに手を出して大後悔しました」
「はーくん!?《がーーーん!!》ななななぜそれを姉さんに言うの!?」
「いや、だって俺のCDラックに毎度押し付けられてたら、仕返しもしたくなるだろ。何度返しても置いていくし」
「あーうん、あの頃のゆきのん、周囲から外れたものを聞けば覚醒出来るって言ってたよね」
「あー、ありましたねー。そういえば雪乃さん、覚醒って……できたんでしたっけ?」
「《ぐさっ》……っ……い、いえ、かくっ……覚醒、というのは……ね? 小町さん……!《カタカタカタカタ……!》」
「小町ちゃん? かくせーってのは難しいらしくて、それを乗り越えた者じゃなくちゃラーニング……だっけ? を使えないんだよ?」
「《ゾブシャア!!》ウヴォァ!! …………《ぽてり》」
「ばっ……結衣……! 雪乃の前でラーニングはっ……!」
「え? あっ!」
「ゆ、雪乃? 雪乃ー? ベッドは一人で占領するなって言ってるだろー? ゆ…………おい、どーすんのアレ。布団にくるまってしくしく泣き始めたぞ……?」
「ゆ、ゆきのんごめんね!? だいじょぶ! かくせーできるよきっと! あたしも手伝うから! ほらっ、前に作ってたえーとぐりもあ? あれがあればなんとかなるよ!」
「《ザゾゾスザスゾスゾブシャシャシャア!!》…………───」
「……あれ? ゆきのん? あれ? ……はーくん、ゆきのん動かなくなっちゃった……」
「トドメ刺してやるなよ……」
「じゃあ雪乃ちゃんも動かなくなっちゃったことだし、晩御飯はラザニアでいい?」
「通しでいくなら彼女のラザニアですね。結衣、頼んでいいか?」
「え? ラザニア? ……あ、そっか。うん、わかった」
「たまには親が持ってる音楽を聴くのもいいもんですよねー。お父さんも喜ぶし。あ、これ小町的にポイント高い」
「三人の卒業の時に、静ちゃんでも呼んで“一番偉い人へ”でも歌ってあげれば? きっと喜ぶよ?」
「逆に殴られませんかね」
「うん、実は殴られた」
「ダメじゃないっすか!」
ちゃんちゃん。