どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
なにがなんだか……と呆然としていると、ユキの両親から挨拶されて、姉とやらにまで絡まれて、もうなにがなにやら。
説明されて“そうなのかー”だったが、とどのつまりこの宝石は何年も前に雪ノ下家から盗まれた宝石らしく、着物を着た綺麗な人───ユキの母親らしい人は、渡した宝石を本当の宝物のように胸に抱き、目には涙を浮かべていた。
……諦めずにずうっと探し求めていたのだそうだ。俺なんかとは違い、離れたものは諦める、なんてこともなく。
こんな人も居るんだな。俺には無理かもしれない。
「まずはありがとうございました、比企谷……八幡さん」
「えと。感謝される覚えがないんですけど、こんなことになってるのはあの石……ごほん、宝石が原因っすよね」
「ええ。あれは十数年前に盗まれた、主人との結婚記念の宝石で……ずっと、ずうっと探しておりました。盗難された日から、今日まで」
「え……じゃあ俺、逮捕っすか」
「とんでもない! 世界に無二のものとはいえ、宝石商に売りに出されれば通報されるものとはいえ、それをせずに金で取引する者が居ないわけではありません。売りにだされれば、それこそ二度と戻らなかったでしょう」
「は、はあ……」
「雪ノ下は受けた恩は忘れません。なにかして欲しいことはありますか? 出来ることならば可能な限りを尽くしましょう」
「………」
「比企谷さん? なんでも構わないのですよ?」
話し合いの場を設けられ、俺と雪ノ下の母親と二人だけで向かい合っていた。
場所は……そのまま店の中の、どっかの個室。
そんな中、俺は……雪ノ下の親であるこの人に、あることを訊いてみた。
一度、親という存在に……ママさん以外に訊いてみたかったことを。
「あ、じゃあ……まずは聞かせてください。その……えっと……。……親にとって、家族って……息子とか娘って、大事なものっすか?」
「? それはもちろんです」
「子供の幸せを祈っていますか?」
「それも当然」
「そっすか……」
一瞬沸いたのは……安堵だった。
少なくとも、雪ノ下は親に好かれてるんだなって思えたから。
ただ、少し気になったことがあったから、それを願いとして唱えておく。
「じゃあ、願いっす。……その幸せが押し付けにならないよう、子供の気持ちをきちんと聞いた上で、もう一度、もっと幸せを願ってやってください」
「…………」
「あの。娘さん……ユキの姉の……陽乃さんっていいましたっけ。……ちゃんと顔を見て、目を見ての会話、出来てますか?」
「出来ていますけれど。それが、なにか?」
「……だったらそれが当然の世界なんすか。ほんと、この世界って腐ってますね。……子供が強化外骨格みたいな外面を貼り付けたままにしなきゃいけない世界に、その人の幸せなんてあるんすか?」
「───! …………解ったのですか、あれが。先ほどの挨拶だけで」
「とんでもない金持ちなのは解ります。でも、親の夢や野望を子供に押し付けて、人生潰すのは幸福じゃないと思うっす。それがあの人にとってそうならべつにそれでもいいっすけど。もし話してみて、違うなら───」
「それを、やめろと?」
「政略結婚とか、あったりしたらあんまりじゃないすか。……俺の幼馴染の夢、知ってます? ……お嫁さん、なんすよ。女の子の夢ってそういうもんなんじゃないすか? その、俺はそういう、その、金がアホみたいに動く世界のことなんてまるで解りません。俺が言ってることでその世界にどれほど影響が出るかなんて、それこそ想像もつかねっす。でも……十分なんじゃないすか? まだ十分じゃないんすか? 企業して成功して金が集まって、着物で堂々と歩けるくらい懐が豊かになっても、それ以上を求める理由ってなんすか? 娘の笑顔を仮面で覆ってまで続ける理由って、そこにあるんすかね」
「………」
「………」
余計なお世話だっていうのも知っているし、言ったところで多くの大人は頷きはしないっていうのも知っている。
そもそも自分がやりたかったことが成功しているってのに他人の横やりに頷いてみせ、その勢いを殺して見せる人なんて滅多に居やしないだろう。
それこそよっぽどのお人好しか、言われたことに感じるものがあった人以外は。
「…………そう、ね。それに答える前に、ひとつ謝らせてちょうだい。……ごめんなさい。あなたのこと、調べさせてもらったわ」
「うわ……いえまあ、金持ちなら出来るっすよね。実に平々凡々な人生だったでしょう?」
「ひどい人生ね。社会に出れば一番先に潰されるくらい。とても生きていけないでしょう」
「ひどいっすね」
「けれど、そこにあった信念を、私は好みます。私は、それを尊く思う。多の中にあって、個のまま耐え抜くことが出来た意志を、私は称えたい。そう思うわ。……そうね。もう、十分すぎるほど、稼ぐことは出来たのでしょうね。そしてそれは、家族の輪と和を崩してまで……目指したいものではなかった筈。……ねぇ、比企谷さん? あなたはこの世界をどう思う? 正直に答えてちょうだい」
「どうしようもないもの、だと思っています」
「変えたいとは思わない?」
「変えたところで戻ります。だから、変わるべきは世界なんかじゃないでしょ」
「…………ふっ、うふふっ……くっ、ぷふっ、ふふふふふっ……! あははははははは!!」
「えっ……あの、雪ノ下さん?」
「は、はっ、ひっひ……! あ、あなた、随分と濁った目で、純粋に言えるのね……! ───ふふふっ、くっ、ふふっ…………はぁ、はぁ…………は~~~……───ええ、いいでしょう、久しぶりに楽しい時と有意義な時を過ごせたわ。運営方針の問題上、すぐに規模の縮小や削減は出来ないでしょうけれど……もう、権利を譲って平和に過ごすのもいいのかもしれない」
「え……本気ですか? いやそれめっちゃプレッシャーなんすけど……!」
「私はそもそも、家族を愛しているわ。目先のことで時間を取れずにいたけれど、夫も娘も愛している。それは今も昔のずうっと変わらないわ」
「いやー……娘さんたちはきっとあなたのこと怖がってますよ」
「なんですって!?《がーーーん!!》」
そして一瞬で凛々しく見えた女性像がぶっ壊れた。
あ、この人結構格好よさそうに見えて残念な部分とかあるタイプだ。
言ってしまえば……その。さすがユキの母親? って感じ。
「な、なななななハにを馬鹿な……! わわわ私はこれでも母として完璧に……!」
「仕事人としてでしょう、どうせ。うちの親も同じこと言ってましたよ。調べたなら知ってるでしょ、うちのこと」
「………………」
「………」
「……その」
「はい」
「比企谷さん……そ、その。私と娘達との仲を取り持ってくれないかしら! お、お礼ならばどのようにでも!」
「とりあえずその金にものを言わせるスタンスをなんとかするところから始めましょーね……ああ、とにもかくにも嫌われたくないなら、政略結婚とかは絶対無しで」
「そんなことはさせないわ。娘達には私が選んだ相応しい男性を───」
「娘達が選んでないならそれ政略結婚と変わりませんよ。恨まれます」
「えぇっ!?《がーーーん!》そんな……! わ、私は娘達のことを思って……! だ、大体、陽乃には同じレベルの男性などよりも、こう、黙って支えるタイプの男が合うと思うの……! 男の見栄ばかりを前に出す相手ではなく、ただやさしく支えるような……解るでしょう!?」
「いえ、俺その、陽乃さん? のこと、強化外骨格以外は特に知りませんので」
「そ、そんな……!」
そんなこんなで話は続いた。話してみると案外おかしな人で、なんというか……仕事に真っ直ぐすぎるだけの、我が儘お嬢だったことが判明。
ただししっかりと娘達のことは愛しているようであり、その愛し方が曲がっていただけだった。
ほーん? そうかそうか、人であるか。人であるなら相談者をミスったな馬鹿め。俺は苦手な人種は多々あれど、相手が同じ土俵に降り立ってくれるのなら絶対に負けん。
さあ、社長でも母でもなく、ただの人として話し合おう───!
……と意気込んだ結果。え、えー……なんか泣いちゃったんですけど……?
人としてじっくり、企業としての人の黒さではなく家族や友人間などの人間関係の黒さを話し、じっくりと説明したり説教したりした。……筈だったんだが。まさか泣かれるとは。
まあ、なに? その日から雪ノ下家は随分と大人しくなったそうで、俺ももうなにがなにやら。
ともあれ雪ノ下母に何故か気に入られ、何故か姉……陽乃さんにも気に入られ、ちょくちょくと家や部室に特攻をかけられている。
「ひゃっはろー! 比企谷くん!」
「なんで居るんですか帰ってください」
「あ、そんなこと言っちゃうんだ。せぇっかくお姉さんが遊びに来てあげたのになー♪」
「学校に突撃してくるなんて、噂になったらどうしてくれんですかってか近い近い近い! なんで腕に抱き付いてくるんですか離れてください穢れます!」
「そうよ姉さん。ここは部活をするところであって、遊びにくる場所ではないわ。あと離れなさい」
「そうですよ陽乃さん! ヒッキーから離れてください!」
どこをどう気に入ったのかは解らない。
ただ望まない結婚が解消されたから喜んでいるのか、べつのなにかがあったからなのか。
ともあれどれだけ抱き着かれようがグイイと押して返して、素直に逃げ、離れ、逆に結衣に抱き着いた。…………で、やってから気づいた。俺、キザ転校生にモーションかけられて幼馴染のもとへ逃げるヒロインみたいじゃん。……だからなにをまたヒロイン力高めてんの俺ェェェェ……!
「んふふー♪ ねぇ雪乃ちゃん。雪乃ちゃんの昔の夢って白馬の王子様に助けられることだったよね?」
「なっ……い、いきなりなにを言い出すのかしらこの姉は。それは確かに私の夢は、子供の、子供の頃の夢はそうだったこともなきにしもあらずで、まあ既に覚えていないようなものではあるのだけれど万歩譲ってそうだとして、姉さんはいったいなにが言いたいと───」
「ねーぇえ、ガハマちゃん? ……比企谷くんのこと、私にちょーだい?」
「なっ……!? あ、あげません! 絶対に嫌です!」
「条件つけても?」
「絶対に嫌です!」
「いい男紹介するよっ! って言っても?」
「はるっ、陽乃さんがっ……その人と付き合えばいいじゃないですか……!」
「え? やだ。好きでもないし気に入ってもないし。あ、元許婚だったんだけどね? 母さんが政略結婚なんてものはしなくていいし、会社のことなんて考えなくていい、好きなように生きなさいって言ったから、縁切っちゃった♪」
「……母さんが、どうして、突然そんな」
「んー? 雪乃ちゃん知らないの? 比企谷くんが説得してくれたからだよ?」
「ハチが?《ンバッ!!》」
「《プイッ》」
ユキに見られ、即座にそっぽを向く。結衣と腕と手を絡めながら。
ああ、今なんかとっても現実逃避したい。
ていうか結衣可愛い。人が居なけりゃキスしたいレベル。
なんかまた甘え───ゲフン。構ってほしいっつーか猫な気分っつーか。
一度奥底に沈んで無理矢理引き摺り出された感情だけど、今……めちゃくちゃキスしまくりたい。
い、いや、しないよ? しませんけどね?
「……ハチ。こちらを見なさい。私の目を見なさい」
「いや、べつにおかしなこととかした覚えはねぇし、説得したわけでもねぇよ。そっちの家庭の事情なんて知らなかったし、ただ陽乃さんの仮面を見てたら結衣と会う前の自分を思い出したから、っつーか」
「すごいよねーこの子。一回会って挨拶しただけで、私の仮面のこと気づいちゃったんだよ?」
「よかったっすねー、解決したなら帰りませんか。俺結衣以外に抱き疲れると吐き気を催すんで、あんま近寄らないでください」
「ほんとかなー? うりうり~♪ ぎゅってしちゃえ!」
「《ぎゅっ!》…………ウヴエェッ」
「え? やだほんとに!?《バッ》」
「はいごくろーさん、もう近づかないでくださいね」
「───……うわー、やるねぇキミ。“本物”まで演技にしちゃうんだ」
「そうしなきゃ生きていけない世界だったからですよ」
「ふーん、そっかそっか。……うん、やっぱり気に入ったよキミ。ねぇ、本気で私の物にならない? あ、別に彼氏とかそういうんじゃなくてさ。私ね、いちいち男女で見ようとする相手じゃなくて相棒が欲しいの。あ、頭がキレる子限定ね? で、人の黒いところ知ってて、相手の次の手が読めるような子がいい。キミみたいな」
「……なんですかそれ。仕事の紹介かなんかですか?」
「ん。そう。別に雪ノ下グループの仕事を引き継ぎたいとかそういうのじゃないんだよね。ただ私は私がやりたいことのために、その相棒としてキミが欲しい。あ、恋人はそのままガハマちゃんでいいんだ。むしろ恋とかされても面倒だと思うし、本気で好きな相手が別のところに居るほうがなにかと都合がいいしね」
「待ちなさい姉さん。そんな、姉さんの都合で───」
「もちろん給料は弾むよ? あ、なんだったら雪乃ちゃんもガハマちゃんも一緒にやらない? 今さらつまんないの入れて空気悪くしたくないし」
とくん、と胸が高鳴る。
それは、つまり……仕事の内容にもよるだろうが、あの家から───
「それは、高校卒業後ですか?」
「大学は出てもらいたいかな。むしろ大学に通いながらだね。高校一年でこんな話をするなんてすごいけど、まあ嘘じゃないよ?」
「住み込みなら是非」
「ヒッキー早っ!? え、で、でも小町ちゃんが……」
「もう、随分待ったよ。いーだろもう。一度離れたほうが気持ちの整理もつくかもしれない」
「でも、でもさ、家に帰っても独りぼっちって……」
「寂しいならママさんに会いに行くだろ。それに、なにも今すぐってわけじゃ───」
「今すぐでもいいよ? ここの近くにマンション所有してるから、そこを貸したげよう!」
「是非」
もはや迷う必要無し。
場所もなんとなく想像がつく。だったらそこを拠点にして───
「ちょ、ちょっとヒッキー、そんな……」
「ちなみに超防音完備! 窓もマジックミラー式ガラスで外からは見られない! どんだけやかましくしても隣にも上にも横にも迷惑にならないよー?」
「是非っ!」
「由比ヶ浜さん!?」
そこを拠点にして、結衣ともども新たに出発を……!
「だ、だって最近、ママが聞き耳立ててる所為で……アレが……コレだし……《かぁああ……!》」
「あはははは! 乙女だねぇガハマちゃん! じゃあ交渉成立だね! 雪乃ちゃんはどうする? どうせ独り暮らしも正式に許可が下りたんだし、こっちまで来て同じマンションに住んじゃわない?」
「う……けど、私は……」
迷う我が友をほうってはおけない。
むしろどう見てもノりたいって顔をしているので、軽くパスをあげてみれば───
「そうなるといつでも小説の貸し借りとかが出来るな。話したい時にはメールじゃなくても───」
「仕方ないわね姉さん。癪だけれど、とても癪だけれど、その提案を呑むわ。ええ癪だけれど」
「素直じゃないなぁ雪乃ちゃん」
あっさりとパスを受け取ってくれた。
まあ、言ったことに嘘はないんだけどな。実際、いろいろ助かるだろうし。
「あ、えと……陽乃さん。ちなみに家賃は……? あんまり高いのはちょっとつらいかなーって」
「とりあえずは出世払いってことでいーよ? ただし他の就職は出来ないって思っておいて。あと勉強はきちんとすること。何度か課題を出すから、それをクリアすることは絶対条件で」
「べ、べんきょ……うう、だいじょぶ、だいじょぶ……! 最近けっこー解るようになってきたし……!」
「おう、解らないところは俺とユキとでみっちり教えてやるから」
「由比ヶ浜さん、諦めずに頑張りましょう」
「ヒッキー……ゆきのん……!《じぃいいん……!》」
「あと料理も出来るようになってもらうから」
「終わった……」
「儚い夢だったわね……」
「ヒッキー!? ゆきのん!?《がーーーん!!》」
卒業と同時に就職先が決まった。そして、家を出ることも決定。なにも言わないわけにもいかないので両親には一応言ってみた。親父は即答でOKだった。お袋はしばらく沈黙してから、溜め息を吐いて了承。小町は泣いて、部屋に閉じこもってしまった。
話にもならないんじゃ仕方ない。
俺は大して多くもない私物を纏め、ママさんに挨拶してから出発を───ということになり、自宅前。
「そう、小町ちゃんのことは上手くはいかなかったけど……いつか気持ちの整理がついたら、きちんと受け止めてあげてね」
「っす。それは、もちろんです」
「でもそっかー、ハチくん出て行っちゃうかぁ。ママ、寂しくなるわー……」
「なに言ってんですか。結衣だって居るし、小町だって俺には話しかけなくてもママさんには───」
「あら? なに言ってるの? 結衣もそっちのマンションに住むのよ? 雪ノ下グループの若い子が来て、きっちり手続きしていったから間違いないわよー?」
「…………エ?」
「荷物ももう運んでもらったし、次はハチくんの荷物を受け取りに来るからって言ってたわよー?」
「えっ……ま、まじですか」
遊びにくるか、泊まりに来るくらいのことしか想像してなかった。確かに家賃のこととか訊いてたけどさ。
……まあ、結論から言うとマジだった。
結衣の私物や俺の私物は全てマンションに送られて、俺と結衣も当然そこへ。
総武高校とは本当に目と鼻の先くらいの位置にそれはあって、徒歩で5分もかからない便利さ。
……まあ、ただし新聞配達の難度は上がったが。
「信じらんねぇ……まさかこの歳で家以外の場所に部屋を持つことになるなんて……」
「ヒッキー! やっはろー! 荷解き終わったー?」
「あ、ああ結衣か。やっは……言わなきゃだめか?」
「だめ」
「まじか……あ、ところで結衣お前、これから大丈夫か?」
「んえ? 大丈夫って、なにが?」
「いや、これから掃除も洗濯も全部自分でやることになるんだが」
「あ」
「……あー、なるほど、だから料理も出来るように、とか言ってたのか陽乃さん」
「あ、あたしヒッキーと同じ部屋に住む!」
「そしたら俺がお前の下着を洗うことになるんだが」
「ななななななに言ってんの!? ヒッキーのえっち!」
「えー……? これ俺が悪いの……?」
「あぅう、でもそっかー……ヒッキーと一緒にってなると、それが問題で……あ、あ、じゃあ洗濯はあたしがするから!」
「買ったばっかのオシャレ衣服が一夜にして全滅……とかありそうだな」
「だ、大丈夫だってば! そんなの洗濯機に服入れて、洗剤入れて回せばいいんでしょ!? 出来るし!」
「結衣……洗濯物の中にはな、普通に洗っちゃいけないものもあってだな……」
「え!? そうなの!?」
「……ま、ひとつずつ身につけていこうな。まだ高校一年だ。就職先も決まっちまったし、鍛えながらのんびり行こう」
「ヒッキー……うん。あ、それはそれとしてヒッキー、やっはろー!」
「……やらなきゃだめか」
「だめだったら!」
「まじか……あ、ところで」
「ヒッキー!」
まあ、なんだ。引越しはあっさり終わった。“雪ノ下”すげぇ。
雪ノ下の力もち♪ とか言ったら怒られるだろうか。……ゴミを見る目で見られるだけだな。自重しよう。