どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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ゆっくりと、彼の周りには人が集まってゆく

 で。散々騒いだ陽乃さんが帰り、代わりにユキがやってきた現在。

 

「マスターマインド? ……姉さんが言ったの?」

「うん! なんかヒッキーを中心に集めてみたら~? って! それでさゆきのん。ますたーまいんど? ってなに?」

「……姉さんが説明しなかったのかしら」

「したけど理解が追いつかなかったんだろー」

 

 マンションの奥側、俺の部屋にて。

 人が集まりわいわい騒ぐ中、俺はキッチンから少し声を大きくして飲み物の種類を訊いていた。こ、こんなの滅多にないし、ほら、あれだよ。最大限に気とか使いながら……「の、飲み物マッカンでいーかー?」とか。

 

「いいわけがないでしょう。紅茶をお願い」

「あたしはいーよー!」

「コッペパンを要求する!」

「ねぇよ。いつ来たんだよお前」

「さっきから居たであろう!?」

 

 そしてあっさり却下された。いいじゃないのマッカン。結衣は解ってる。

 あと材木座、いつ来たマジで。え? さっきから居た? 八幡知らない。

 

「さて、比企谷くんが飲み物を用意している内に、依頼内容を……の前に、あなた、なんといったかしら。ざい、材……?」

「ゆきのん、シアターだよ」

「訊ねられれば名乗らねばなるまい! 我の名は材木座義輝! 剣豪将軍の称号をこの身に刻む───」

「いやうるせぇよ。なんでお前わざわざこっち来て名乗ってんの。名乗る相手間違えてるだろ」

「は、はちまーーーん! 我には無理だ! 美女二人の傍で待機など無理なのだぁああ!!」

「いーから座っとけ。……ほれ、紅茶にマッカンに醤油な」

「はちまーーん!?」

「ありがとう比企谷くん《シュバッ!》」

「ありがとヒッキー!《シュババッ!》」

「…………」

「ほれ醤油。よかったなー、残り物には福があるそうだぞ」

「醤油は飲み物ではないであろう!? そうだと言って八幡!!」

 

 残り物=醤油をズイと差し出され、材木座はごくりと喉を鳴らした。差し出してるの俺だけど。

 

「いや、今日は結衣がクッキー焼いてくれたから、案外合うかもだぞ。ほれ、形はダメでも綺麗な焼き上がりのクッキー《スッ》」

「……《サクッ》……腕をあげたわね、由比ヶ浜さん」

「で、こっちが少し焦げてはいるが悪くはない色のクッキー《スッ》」

「《ザクッ》……うん! ちょっぴり焦げちゃったけど、我ながらおいしーかも!」

「そしてジョイフル本田の木炭と遜色なきダークマター《ズチャア》」

「……………」

「美少女の手作りだぞ?」

「いやあの八幡? 手作りでも、木炭とダークマターは食べ物ではない……よね? 我、なんにも間違えたこと、言ってないよね?」

「案外醤油かければイケるかもしれねーだろ。遠慮すんな。で? 依頼のことだが」

 

 いろんな意味で感想欲しい。マジで。

 これを醤油付きで食べた人、なんて思うんだろう。

 と、本音と冗談を混ぜつつ、別に作っておいたクッキーと飲み物を渡す。

 材木座は「やめて相棒、いくら我が黒を闇とか言うのが好きなレベルの存在だとしても、ダークマターを格好いいと思っていても、害になりそうなのとか食べられないから」と言って、しっかりとクッキーを受け取った。……その際、ダークマターを一つ頂戴していたのは、言葉の通り格好いいと思ったからなのだろうか。

 

「お、おお! うむ! 依頼のことであるが……平塚教諭に奨められたのだが、この……我の小説を見て、感想を聞かせてほしい」

「ほーーーん? で、これ完結してんの?」

「いや、していない」

「おい。完結してねぇもん見せるなよ。新人賞だのなんだのの募集は完結してること前提だろうが」

「い、いや、だがな。我の頭の中に存在する世界は、こんな量では語り尽くせぬもので……!」

「《ペラ……ペラ……》始まりからして主人公の紹介が長すぎてうんざりね。これ、いつになったら話が始まるのかしら」

「ゆきのんちょっと見せて? ……、……? ……? ねぇゆきのん。この漢字、読み方合ってるの?」

「悠久閃光斬……エターナルライトニングスラッシャー……? あ、の、比企谷くん、これはいったい……」

「おい。他は百歩譲るとして、このライトニング要素はいったいどこから来てるんだよ」

「い、稲光や雷光、稲妻などはっ、ささ避けられぬほど、はやっ、速いものでごじゃ、ろう? つつつつまりそこらへんからの応用であり……」

「それ普通にフラッシュでもいいだろーが……つかほんと主人公の説明長いな。原稿用紙何枚分だよ……ヘタすりゃ主人公の紹介だけで一巻分あるんじゃねぇのこれ」

「フフッ、甘いぞ八幡! 味方になるキャラの設定も合わせれば、その程度では終わらん!!」

「……あー、あるなーそういうの。設定作りばっか捗って、肝心の内容がスッカスカなのな。で、いざ書いてみると作っておいた設定が邪魔で話が進まないとかな。つかおい、このキャラの能力、主人公と被ってんじゃねーか。こいつ要らないだろ」

「そ、そやつは努力して強くなり、その能力だけは主人公を超えるというキャラで……」

「じゃあこのヒロインの癒しの能力は。主人公に負けてるじゃねーか」

「うぐっ……そやつの癒しはのちに出てくる悪魔の毒を唯一癒せる能力で……」

「じゃあこいつのどんな状態異状も治せるってチート能力は。ヒロインいらねーだろ」

「あ、悪魔の能力にだけは通用せんのだ……!」

「…………」

「………」

 

 微妙な空気、流れる。

 俺はソッと原稿用紙を置き、よく使われた言葉を今まさに届けた。

 

「悪いことは言わん。書き直して出直して来い」

「はちまーーーん!? それはないであろう! せめて! せめてしっかりと読んで感想を!」

「感想か。そうだな。主人公強いアピールがうざい」

「《ぐさぁ!》ぐはぁっ!?」

「読み仮名がふざけているわね。あなた、よくこれで総武高校に入学出来たわね」

「い、いや、その読み方は少年漫画ではお決まりで───」

「お決まりをなぞるだけで満足なら、他人の評価など必要ないでしょう? あなたの言うお決まりへの評価なら、お決まりである以上、そこかしこに転がっているわ。それを見て悦に入ればいい。あなたが求めているのはあなたの作品への評価なのではなくて?」

「うぐおっ…………は、八幡。この嬢、容赦ないんですけど……我もう泣きそう……」

「間違ったことは言ってねぇだろ。で? 評価欲しいの? 要らないの?」

「……う、うむ。欲しい。欲しいからこそ我は───!」

「漢字ばっかで疲れるね、これ」

「《ズォブシャア!!》ぶひぃいいいいいっ!!!」

「あれ?」

「おい……せっかくセルフで立ち直ろうとしてたのに、鋭い刃ぶっ刺すなよ……」

「えー? でもだってこれ、見てみてよヒッキー……」

「ええ。漢字に出来るところは全て漢字にしよう、こんな文字を使えて自分は頭がいい。みたいなアピールが心底うざったらしいわよ」

 

 見て見てとばかりに差し出され……る、どころか横に並んで一緒に見ようとばかりに広げられる。

 ふわりと漂う恋人の香り……プライスレス。

 

「ほ、ほーん……? …………うわっ」

「八幡!?」

 

 危うく結衣に手が伸びそうなところを強く意識して止めて、一応の依頼ということで原稿用紙にしっかりと意識を向けて……いや、なにこれ、見てて眠くなる助けて。

 

「いやこれお前……やりすぎでしょ……。結衣じゃなくても文句出るわ……読み手の読みやすさってのも考えろよ……」

「し、しかしだな。この物語としての書き方から見れば、間違ってはいないであろう!? そうだと言ってくれ八幡!」

「少なくともこれを見てその道に憧れるヤツはいねぇよ。まず最初に結衣と同じ反応を取るのが普通だ」

「《ぐさぁ!》ぶはぁあっ!!?」

「あとこの主人公、設定で産まれ付き邪眼の持ち主とか書いてあるのに初っ端から“最初は普通の目だった”とか書いてあるんだが」

「《ぐさぁ!》げふぅううっ!!?」

「ええ、言いたいことは大体似たようなことだけれど、これが一番重要ね。言っていいかしら、材、ざい……大木斬君?」

「違うよゆきのん、シアターだよ」

「どっちも違うから。で? どーすんの材木座」

「うぐふぅう……! は、はぁ、はぁっ……! よもや言葉だけでここまで我を傷つけるとは……! さすが我が最強にして最大のライバ」

「雪乃、頼む」

「はちまーーーん!?」

 

 ユキはザラキの構え!

 ざいもくざはまだ構えてすらいない!

 

「そう、では言うけれど。壊滅的につまらないわ。時間の無駄ね。見るのも苦痛。紙の無駄と言って許されるレベル」

「《ゾザザゾゾドドシャザシュゾシュゾバシャア!!》ぐわぁあああああああああああっ!!!」

「ディアベルはぁーーーん!! み、見える! 無数の言葉の刃が材木座に突き刺さりまくる光景が……!」

「ねぇヒッキー……このヒロインなんか急に脱ぎだしたよ? これが普通なの?」

「材木座の趣味だ」

「キモい!」

「《トチュンッ》………………《どさっ》」

 

 ユイの攻撃!

 クリティカルヒット! ざいもくざはたおれてしまった!

 

「……ほれみろ、やっぱどんな言葉を重ねられるより、真っ直ぐにキモい言われる方が鋭利だろうが……一撃だぞおい」

「…………ねぇ比企谷くん。ざ、ざい……なんとかくんは置いておくとして、マスターマインドのことだけれど」

「ん? ああ、そんな話もあったな。言いだしっぺの人、電話くるなりどっか言っちまったけど」

「私たちはその、ひとつの目標を三人で解決しようとする、という集まりよね? これはマスターマインドとして成り立つのではないかしら」

「……え? なに? そっちの方向で固める気なのお前。べつにそんな意識高めなくたっていいだろ……できることをやる、程度で」

「いえその……マスターマインドは団結と意志力、統率力がものをいうもの、でしょう? ……わ、私達なら……その」

「……言いたいことは解った。まあそうな、俺も考えなかったわけじゃない。だがその前に、俺達には土台が足りてないだろ」

「土台?」

「まぁアレだ、信頼は足りてるよな。俺は結衣のことを無条件で信じてるし、雪乃のことは親友として疑ってない」

「ええそうね。私もあなたを信用し、信頼しているわ。特に友達として認め合ったことと、あの母と姉を変えてみせたことから」

「そうだな。変えた覚えねぇけど。けど雪乃、お前にとっての結衣はどうだ?」

 

 言われて恥ずかしいこともなんとか飲み込み、言葉を返す。

 しかしそれでもユキは感謝の類を飛ばしてくるから、こちらもなにか返す言葉を……と思案していると、納得せざるをえない喩えを投げられた。

 

「友達よ……いいえ、そうね。……あなたにとっての戸塚くん、といえば通じるかしら」

「それなホントそれマジそれそれ超あるそれしかないまであるOK十分だ信じたもう信じただよなそうだよなそれしかないまであるよな」

 

 これ無理だわ、納得しないとか無理だわ。むしろ結衣を例えにだされたら無条件で頷いてたレベル。

 

「比企谷くん、鼻息を荒くして近寄らないでもらえるかしら。うっかり指が110番を押してしまいそうだわ」

「やめろ。しっかり構えておいてうっかりもなにもねぇだろ。……それはともかく、どうすんだ、この依頼。依頼者が気絶しちまったわけだが」

「感想をくれという依頼は完了したでしょう? これ以上はやりようがないわね。それとも全てを読んでから感想を述べるのかしら」

「いやすまん、これ正直読んでて楽しくなるイメージがてんで沸かん。べつに俺TUEEE系が嫌いなわけじゃないが、現段階では見るのが辛すぎる」

「“てにをは”以前の問題ね……なぜわざわざ回りくどい説明をするのかしら。“~~であろう、否、それは───”と書く文章が多すぎて頭が痛いわ」

「完全なる中二病だな。で、なに。俺達よりにもよってマスターマインドを組んだ最初の依頼として、材木座に“身体斬り裂く辛辣の言葉”を吐かなきゃいけないの? ……なんか言い回しがそれっぽくて嫌だな」

「ルビを振るならば! トラウマティックキリングワードヴォオオオイスッ!! ───だな!《シャキーン!》もしくはぁああ……!」

「いきなり起きるな叫ぶなポーズ取るな静かにしろやかましいうっさい」

「あ、すいません」

「それより材木座、改善点が欲しいならいくらでもやるが、どうする? 夢を追うなら続けるべきだが」

「う、うむ……やはり我は小説で旗を掲げ、いずれは小説界の剣豪将軍と呼ばれたい! そしてアニメ化を踏破して───声優と結婚したい」

「ちなみに大手出版社の編集者ともなると、年収とかは一千万にも届くらしい」

「よし我編集者になる」

「清々しいほどに自分の夢に対して下衆な男ね」

「《ゾブシャア!》ぶひいぃっ!!?」

「材木座。自分に素直になるのはとても大切なことだ。だがな。ハッキリ言って俺達は編集者という職業には向いていない」

「な、なぜだ? なろうと思えば───」

「だって俺ら、明らかな他人相手に気を使って話せるほどコミュ力ねぇだろ」

「物凄い説得力であった……!」

「それで納得してしまえるのね……ところで比企谷くん。あなたさっきからなにをしているの?」

「あん? ああ、結衣が小説読みながら寝オチしたから膝枕だ」

「いやに静かだと思ったら……」

「……むにゃ……ひっきぃ……♪」

「…………~~」

 

 こうなると膝の上の恋人が眩しすぎてたまらない。

 俺、この娘のこと絶対守ってみせる。大好き愛してる。

 

「《なでなで》……ひぅぅん……ひっきぃいい……♪」

「……なんか我、夢のお嫁声優さんよりも身近な恋人に心打たれたい気分……」

「んじゃ、まずは痩せような。お前、痩せれば相当いい男だぞ」

「ほ、本当か八幡! わ、我も八幡の恋人のような美少女が恋人になったり───!」

「選り好んでる時点で上手くいきっこねぇよ」

「え? そうなの? じゃあ我、多少アレでも真剣に好きになってくれる相手がいいな。むしろヤンデレだろうと我だけを愛してくれるのであればぁあ……! 飛び込んでこーーーい!」

「あああるな。一度はあるよな。ヤンデレだろうと一途に愛してくれるならって思うこと。だが材木座よ。いずれ気づくだろうがまずは聞け。ヤンデレのそれは愛や恋では断じてない。ただの所有欲だ」

「………………ですよねー」

「だよなぁ……」

 

 二人して溜め息を吐いた。まあ、こんな日常。

 つくづくマスターマインドから離れつつあるが、雪乃が居て、忘れない限りは自然消滅する、などということはないだろう。

 

「比企谷くん」

「あいよ。マスターマインドな。正直な話をするなら、俺はべつにお悩み解決にそれほど意識を配ってない。つか、生徒の悩みを生徒に解決させるってなんなの? 元は平塚先生を当てにした相談なんだろ?」

「それでも解決できないのは、負けたみたいで嫌じゃない」

「負ける負けないの問題じゃないと思うんだが……まあ解った。ようするに陽乃さんは、俺達を互いで高め合いながら目標を達成して、なお成長し続ける化物軍団に仕立て上げたいわけだ」

「一応私たち、互いの能力で補い合えていると思うの。基本能力は高いのだから、やりたいようにすればいい。行き過ぎた行動に移らないように互いが抑制して、空気が悪くなれば由比ヶ浜さんがそれを解消。私たちは彼女に教えることで確認も出来て、彼女も成長して、次の段階へ行ける。足りないものがあるとしたら───」

「人脈だな」

「まさにそれね。まあいざとなればそこは姉さんに頼ることになるのだろうけれど……」

「あの人どうなんだ? 人脈とか」

「恐ろしくあるわね。ただ、グループの安定と縮小を視野に納め始めた今、ついてくる人がどれほど居るか、という話になるのでしょうけれど」

「まあ、人脈はおいおいだな。俺達で増やせる未来が全然見えないのが問題なんだが」

「そうね。やろうと思えばやれないこともないのでしょうね。ただそんな急造の人脈を信じろというのは少々……いえ、かなり不安ではあるわね」

「あー同感。なんか面白そうだから参加するわーとか言うやつに限って、ちょっと大きなことが起こると無言で離れるのな。それならまだ“ここまで来たら旅は道連れだっしょお!”とか言って元気に突っ込む馬鹿の方が信じられるわ」

「ちなみに我、ゲーセン仲間という形でなら、人脈はまあまあ……」

「ただの遊び仲間が大きな問題を前に協力してくれるわけねーだろ……」

「そうね。それこそ“あなたとは遊びだったのよ”と言われて終わるだけね」

「はぽおっ!? ぐふっ……文字通り遊びの関係だから何も言い返せぬ……!」

「まあ、だから人脈は置くとしてだ。互いを高めるって案は賛成だ。なにより学力が必要になるなら、雪乃の学力と冷静さはありがたい」

「教え方の上手さならあなたの方が上でしょう? 私はどうにも“理解している”側だから、“相手がなぜそれを理解出来ないのか”が解らないのよ」

「居るよなーそういう奴。ま、何事も向き不向きってことだろ。マスターマインドの基本は能力がそれぞれ違うことに意味があるんだろうし、同じ能力ばっか嵩張っててもしょうがねぇだろ」

「うむ! みんな違ってみんないい、というやつだな! ……みんなって誰だろうな、八幡よ」

「その言葉のあとにそれはやめろ。しかしそうか。マスターマインド、ね……」

「あら。姉さんに言われた通り、グループでも作ってみる気になったの? とうとう本格的に孤独者から卒業する気かしら」

「集団の中にあろうとぼっちはぼっちだろ。本質なんて変わらねぇよ。いや、変わるからぼっちになって、そこからさらに変わったわけだが……まあなに? グループがどうとかじゃなく、自分の傍に居ても嫌がらない人、ってのを……探してみるのもいいかなってな」

「八幡、貴様───」

「───敵か味方か割り切れてる方が今後の対応もしやすいしな」

「はぁ……実にあなたらしい考え方ね」

「それでこそ我が相棒よ」

 

 溜め息を吐かれたり、眼鏡を怪しく輝かせてサムズアップされたりしながら、その日……じゃないな。翌日あたりから行動は始まった。

 

   ×   ×   ×

 

 目標に向かい邁進出来る人探しをぼちぼち開始した日。

 といってもグループに入らないかーなんて誘って入る奴など居るわけもなく。

 

「八幡のグループっ? 入るよっ! 僕で良ければ一緒に居させてほしいなっ!」

 

 居るわけもなく───

 

「グループって、まだ中学のわたしをそんなに誘いたかったんですかー? 先輩ってほんと、見た目の割りにアレですよねー。けど解りましたっ、一色いろは、他ならぬ先輩の頼みとあらば、いつでも遊びに行っていい権利を条件にグループ入りをしますっ♪ あ、交通費とか馬鹿になんないので負担してくれると惚れちゃうかもですよ? ……義理人情に」

 

 居るわけも───

 

「いやなんで我のこと部屋で誘わなかったの? 我あの時すぐ近くに居たよね? ねぇ? ていうか我が一番最後ってどういうこと!? なんで誘わなかったの!? 八幡!? は、はちまーーーん!」

 

 居…………

 

……。

 

 ……で。

 

「それで? 思いつく限りに声をかけてみた結果がこれ、ということかしら?」

「へ~~……八幡の家ってこんな近くにあったんだね~……!」

「せんぱ~い、お茶がないですよお茶~、お客様に対して失礼じゃないですかー?」

「いい男になるための第一歩! 腹筋なんぞより第二の心臓を動かせ! 熱く燃えろぉおおっ! ヒィンズゥウウウッ!! スクワットゥォオオオゥ!! はっ! ぽんっ! はっ! ぽんっ! はっ……はっ……はっぽっ……! ぽほっ……!」

 

 俺の部屋に、戸塚、一色、材木座がやってきた。

 誘ったら頷かれて、呼んだら来ちゃったよ……。どうなってんの、特に一色。

 まさかほんとに頷くとは、来てくれるとは思わなかった。

 ……俺、自分で思っているよりも、人とそういうもの、築けてるって……思っていいんだろうか。

 

「よく来たな戸塚っ!《ぱああっ……!》」

 

 ああ、いや、まあその。

 

「……ほれ一色、水道水だ。《コトリ》」

 

 そういう態度を表情とか態度にだしていくのは、まだまだ苦手だから無理だが。

 

「……材木座ー、汗が飛び散ってるからあとでその床掃除しておいてくれなー」

 

 うん無理、こんな対応しかできない。今は。……今は。

 

「先輩……人によって対応ひどすぎです……。ていうかあのー、これってなんの集まりなんですか? そもそも先輩ってこんなにお友達が居たんですか?」

「いや、友達は雪乃だけだ。戸塚は天使。材木座は知り合いだ」

「なんかいろいろ割り切ってますね……あ、えっと。初めてまして、一色いろはです。先輩には困っていたところを助けてもらった縁がありまして」

「一色さん、ね? 初めまして、雪ノ下雪乃です」

「あ、僕は戸塚彩加っていいます。先輩ってことは……中学生の頃の八幡の後輩さんなのかな」

「いや、ガッコは別だ。本当にたまたま会ったってだけなんだよ。先輩って呼んでるのはこいつの気まぐれだ」

「フフフ、我こそが剣ご───」

「気まぐれってなんですかー! わたしが他人を敬うなんて、珍しいことなんですよー?」

「いやあの、我は……」

 

 材木座がタイミングを逃しまくる中、玄関側から扉が開く音。

 この遠慮ない入り方は結衣だろう。

 

「《ぱたたたっ……》やっはろー! ってうわっ! なんかいっぱい居るっ!」

 

 やっぱりだった。ああ、世界が色づく。言わないけど。

 ていうかほんと俺アレな。パブロフっつーか……結衣が来ただけで胸が高鳴って、すぐにでも抱き締めたくなるっつーか……ああもどかしい。

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

「お前な、一応他人の家なんだから、チャイムくらい鳴らせ」

「え? なんで? 他人じゃないよ? だってあたしヒッキーのお嫁さ───うわっひゃあああっ!? ななななんでもないなんでもないっ! う、うん! する! するね!? もうチャイムとか超する!」

「あの……我……」

 

 一応の注意をしときながら、結衣の嫁宣言にドキームと心を弾ませ、顔がニヤケないように超努力する。

 え? 材木座? あ、材木座のこと気にしたらニヤケが抑えられた。ありがとう材木座。ユキに気づかれたらまたいろいろつつかれそうだから……って、なんで俺のこと見ながら溜め息吐いてんの、ユキ。

 

「せんぱーい、このふっくらした方の眼鏡さんは誰ですか?」

「ぶるぁあああっ!! よぉ~~くぞ訊いてくれたァ! わァ~れこそはァ、剣豪将軍ンンッ、ざ」

「ああ、あの時の将軍さんでしたか。先輩のアドレス教えてくれてありがとうございました」

「はぽん? …………おおあの時のメールの者であったか! なんという縁であろうか、これはいわゆる運命的な邂逅、即ち───」

「だから。なんでお前は俺を見ながら喋ってるんだよ……一色はあっちだぞ」

「でゃっ……だから無理だと言っておるでごじゃろう!? わわわ我にはあんな美女の相手など! というか八幡貴様っ、なぜ貴様の周りにはこんなに美女が!? 許せぬ! 許せぬぞぉおおっ!! こうなったら貴様を不幸にしてその分を我の幸福に!」

「シアターうっさい」

「あっ……すいません……」

「結衣先輩、容赦ないですね……実際うるさかったけど」

「俺を幸せにするのは自分だって言ってたのに、不幸にするとか言われりゃな……相手が結衣だったら俺だって怒るわ」

 

 うん。怒る。

 そしてそう思われただけでそわそわしてしょうがない俺。

 ……なんかもう俺相当ヤバくないですか? 今周りに人が居なかったらもう、結衣のこと抱き締めて頭撫でて背中撫でてぎゅーってしてそれでそれで……いや落ち着け、マジ落ち着け俺、キモい。

 お、おかしい、自分が保っていられない。大事すぎる。ヤバい。そしてやっぱキモい。

 

「あ、あはは……あ、それでさ八幡。結局は僕たちはなにをすればいいのかな」

「お、おう戸塚、今から説明するな。……と言ったはいいが……まあその……一色の言葉を拾うとだな。この集まりは目標が出来たら全力で協力してそれを解決しようって集まりだ。仲良しこよしをするのもいいが、それが依存……お互いの意志とかを潰す結果になって、現状維持だけを選ばないための、あー……その、なに? 成長? の、ための集まりってやつだな」

「あ、せんぱーい、そういうことでしたら、わたしちょっと勉強で行き詰ってましてー」

「へいへい……まあやることの基本は勉強だな。あとは自分の苦手なものを克服するため、とかそういうのだ」

「えっと……僕、テニスをもっと上手く出来るようになりたいんだけど」

「よしやろうすぐやろう大丈夫だ俺がしっかり教えてやる」

「ヒッキーキモい……」

「すいません……」

「あら、自覚があったのね」

「ほっとけ……」

 

 結衣への感情を少し別に向けないと今やばいのよほんと。

 それで結衣自身にキモい言われてりゃ世話ないけど。

 

  ───そんなこんなで、奇妙なグループ結成が決定。

 

 ただの仲良しグループではなく互いが高め合うことを目的としたものにするため、それぞれが様々に挑戦した。

 中でも戸塚を混ぜた早朝新聞配達は目が冴え血沸き肉踊るような高揚を感じ、とても……とても最高だった。

 これには材木座も参加し、食事制限から無駄な運動を削いだものの実践、じっくりとした筋力作りも合わせ、地道な成長への戦いが続いた。

 




 理由のない1評価や、理由はあってもどうしようもない1評価ってやっぱりヘコみますね……orz
 ええい割り切れ割り切れ。

 お願いなのですが、他作品と比べて評価を落とすのだけは本当に勘弁してくださいね。あらすじにも書きましたけど、ヒッキーとガハマさんが好き合っていくだけのお話ですからね?
 「俺が好きなキャラとくっついてない、アウト」って評価下げられて、僕にどうしろと……!

 いえ、ポジティブにいきましょうね。
 書きたいものを書いているだけなんだから、低評価も当然。
 よし、真っ直ぐGOです。

 えー、この物語はキャラに慣れるために書いたものです。
 ですので、物語自体は中途半端な部分で終わっていたりしています。
 プロトが一番好きだと言ってくださった方には申し訳ありませんが、その後の話は今のところ書く予定がありません。
 では、あと数話ですがお付き合いください。

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