どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話 作:凍傷(ぜろくろ)
お久しぶりです凍傷です。
仕事だ用事だアーソレソレと時間を作れずぐったりでした。
さて今回は、そんな日々を癒すためにも、仕事をしながらモヤモヤと溜めていた頭の中のアレコレをババンと書いてしまおうかと。
というわけで。
お題/安定のこもれびさん
ある日、あろえさんにステキな絵を頂きました。
凍傷は感激のあまり「ほうわー!」と叫び、丁度家族に見られて微妙なハート。大丈夫、きっともう忘れられてる。それでも緩む頬は抑えられない……ありがとうあろえさん!
そんなお話もあり、ある日こもれびさんが仰った。
二人ともあろえさんから素敵な絵を頂いて、これはなにか書かねば……と。
ならば書くしかあるまいて!
そんなノリだけで突っ込みます。楽しいか否かの保証は一切なしです。
あ、今までのアロエ物語とお話はリンクしております故、ご了承くだされ。
この素晴らしい世界に二次作を! ともリンクしているので、見ていない場合はそちらもどうぞ。
この小説は俺ガイル×このすばのクロスで、ところによりアロエちゃんです。
このすば原作7巻の内容のネタバレを含みますのでこちらも注意を。
ところであなたにとって、異世界転移系といえばなんですか?
凍傷は神秘の世界エルハザードです。
禁酒禁煙でパワーアップとか、今にして思えば“先生にしてみれば”すごい等価交換的な能力でした。
今ではデメリット無しで異能力が貰えるのがデフォルトと来ますから、先生も大変だったなぁ。
関係ないけど最近、“異世界居酒屋のぶ”のゲーアノートさんの影響でタバスコナポリタンが好きになりました。前までタバスコ嫌いだったのに。
なので、すき屋でチーズ牛丼頼んだ時も、アホみたいにタバスコ振ります。
そのくせ生トマトは昔から大の苦手。いえね、食わず嫌いじゃなくてですね、子供の頃から現在に至るまで、食べると吐くんですよ、冗談でもなんでもなく。
「え? トマトが苦手? あっはっはっは! トマトなんてピーマンすら克服した俺の敵じゃないさー! そりゃあ食べるさー! 食べまくる俺さー!」
で、実際食べたら吐きました。
一時期苦手なもの克服期間がありまして、周囲に健康マニアとか呼ばれていた頃の話なんですが、昔苦手だったものや食わず嫌いだったものにとことん手を出してみよう!って頑張ったんですけどね。あえて言いましょう。トマトはラスボス以上の裏ボスであると。なんかもう僕の中でラギュ・オ・ラギュラって感じです。
割と食べられるものが多かった中で、トマトだけは駄目でした。
……関係ない話で千文字使うなって話ですね。
ではでは始めましょう! このすばっ!
アニメ企画楽しみさー!
神秘の世界コノスバード
たとえばだのもしもだの、たらればの話なんてのは人生には付き物である。文字を変えて、“憑きモノ”と言ってもいいくらいには、人生には付き纏うものだ。
たとえばあの時ああだったら。ああ、そうな、もちろん俺にも経験がある。
あの時ああだったら、こんな腐った目とか精神とか、してなかったんじゃねぇの? なんて、そんなことはしょっちゅう思うわけだ。
しかしながら思うだけで、口にしたところで叶わないのも付き物なわけで。
それらを上手く混ぜ合わせたそれを、人は日常と呼んでしまうわけだ。
さて、そんな日常だが。
たとえばそこに……早速たとえばを使うわけだが、たとえばそこに、俺達が常識として見るものの外から、別の何かと言える力が働いたならば、そこに常識を破壊する条件は整ったりする。
そこをつつくのがラノベ要素であり、人がもしこうなら、こうだったらを具現した物語ってものだろう。
さて本日、そんな要素がいつの間にか整っていた現状を憂い、筆を手にした俺なのだが。
……なにこれ。
1
石造りの街を馬車がゆく。
おー、本物の馬車とか間近で見るの初めてだわー、などという、現状把握を脇にそっと放置した感想を胸に、少し途方に暮れる。
「……ふえ?」
俺の他に、同じくその場に立っていた顔見知りが、なんとも間の抜けた声を漏らした。
その隣に居る、同じく顔見知りの黒髪女性はひとり、自分の頬などを抓ったりしている。
「え? あれ? ……えとー……あ、あたし、たしか……あ、ヒッキー!」
「……現状把握より俺を確認するのが先とかなんなの」
はいヒッキーです、とでも返せばいいんだろうか。
いや、それよりも現状把握だろ。人のこと言えた状況じゃないが、優先はしよう。
「由比ヶ浜、雪ノ下、この景色に見覚えは?」
「ないわね」
「ない、けど……ヒッキーは?」
「おー、残念ながら同じくだ。ていうか見たことない服とか、ないわーって感じの鎧とか着てるやつも居るし、明らかに日本じゃねぇだろ」
「日本じゃない、って……ねぇヒッキー? あの人達普通に日本語喋ってるよ? てかさ、学校の帰り道だったのに日本じゃないとか、あるわけないじゃん?」
おいちょっと? その“なに言ってんの?”って目、やめて? っつーか由比ヶ浜に冷静に諭されるって、なんだかすごく悲しくなってくるんだが。
いやさ、わかるよ? 耳に届くのは確かに日本語だよ。ならここは日本だーって思い込みたくもなるわ。
しかしまあアレだな。ラノベ脳で単純に考えるなら、これは異世界転移ってやつと見てまあ間違いない。
この場合、なんらかの繋がりがあって飛ばされるのが例なわけだが……ほら、あれな? 勇者召喚然り、媒体召喚然り。
ガッコのクラスごと召喚、なんてものはそのクラスに居る勇者脳なイケメンを召喚する際、クラスごとってのが大体だ。
媒体召喚はまあほれ、タイプでムーンでフェイトな英霊召喚的なアレだろう。
じゃあ、アレな。……この場合、俺達はどうして召喚されたんだろうな。
等々を考えている最中も、雪ノ下は目をぐるぐると渦状に回しながら、こんな状況をなんとか把握しようと一生懸命だ。
ラノベとかWEB小説とか読んでないと、こういう状況って受け取りづらいだろうからな。……読んでいた俺でも、現実として受け取るのが難しい有様だ。カッチリした小説しか読まないような真面目な人間にしてみりゃ、この状況は説明がつかんのだろう。
「あー……その、アレだ。……由比ヶ浜」
「? なに?」
「お前はその、ここ……どんなとこだと思ってる?」
「えーと……あっ、ほら、アレじゃないかなっ? 映画村~とか、時代劇とか撮影する時に使う場所! じゃなかったらえとー……こ、こみけ? とかがこんな感じなんじゃないかな。よく知んないけど」
そっかー、知らない人のイメージだと、ここってコミケとかのコスプレブースに見えるのかー。
……マジか。
「雪ノ下は?」
「……夢、ではないのよね」
「こうまでリアルだとさすがにな」
着の身着のまま、バッグも鞄も持っている制服姿で転移とか、なんという厄介なことを。
確かに正装っぽく見えるだろうが、どうせなら部屋着とか欲しかったわー。
口に軽く握った手を当てつつ、ぶつぶつ考え事を始めた雪ノ下をそのままに、まずはどうしようかと悩み始めた。
こういうもののテンプレっつったらー……冒険者ギルドか。
当てもないし、探すしかないよな。
2
とまあ、いろいろと話し合った結果、先立つものもなければ宿もない現状。
結局、例に沿って冒険者ギルドを探すこととなり、現在はその冒険者ギルドだ。マジであった。
で、そのギルド……なんだが。
「なるほど、それで路銀に困り果てていたと。ええわかります、わかりますとも。自分はやれば出来る天才なのだと思っていたというのに、いざ里の外へと出てみれば『思ってたのと違う』と口にしたくなる気持ち……!」
ヘンなのに捕まった。
ギルドに来て、冒険者になろうとしたら金が無くて途方に暮れていた時、これからのことで3人で相談、由比ヶ浜と軽い言い合いになり、ついぽろっと“ゆいゆい”と呼んだ途端だ。
このちっこい赤いのが現れて、盛大に名乗られ、こうして何故か一緒の席に座られ、話されまくっている。
「しかしご安心を。こうして出会えたのも何かの縁。母であるゆいゆいと同じ名のあなたとの邂逅もまた、引力による出会いと言えるのでしょう。さ、これを」
しかもその幼女、金っぽいものを渡してきた。
え? やだ、え? なんか知らんが犯罪臭が漂ってきたんだが。
おいやめろ雪ノ下、勝手に誤解して勝手に気持ちの悪いものを見る目で俺を見るな。
110番通報しても通じないから、そのスマホ仕舞いなさい。
「ふふっ、礼には及びませんよ。この邂逅は定められたもの。縁を紡ぐことで、いつか困った時に頼ろうだなんてそんなことは」
「おいちょっと待て今なんつった」
「えと、うん、ありがとう、めぐみんちゃん。今はごめんだけど、お金、絶対に返すからっ」
「めぐみんです。呼び捨てで構いませんよ」
「あ、そか。あだ名にちゃんっていうのもヘンかもだしね」
「いえ、めぐみんです。これが本名ですが」
「!?」
「え───あ、そ、そっかー……あはは」
「おい。私の名前に対して何か言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
「それ、キラキラネームかなんかか?」
雪ノ下が驚愕し、由比ヶ浜が顔を引きつらせてなんとか笑ってみせるが、それが気に食わなかったらしい。マジか、親にそんな名前をつけられてしっかりと胸を張れるって、もしや子供の頃からいろいろ仕込まれてるのか?
それが当然ってレベルまで、おかしいとも思わず辿り着けるなんて、滅多なことじゃ無理だ。
ん……しかしめぐみん。めぐみんか。……漢字の場合どう書くんだろう。あれか? 愛しさが眠ると書いて
「キラ……というのはわかりませんが、これが我が魂の名です。私からしてみれば、他の人の名前のほうがおかしいですよ」
「そうか? 八幡とか、わりとあるだろ。いいかどうかは別として」
あー、ほら、アレな。“PON!とキマイラ”とか。
自分の名前がおかしいって思ったら、まず他に同じ名前の人が居ないかとか調べるよな? 調べたよ。調べたんだよ、俺。
そしたらまあまあ居たよ。……フィクションの中ばっかだったけど。
(この名前を知った中で、カッコイイだの羨ましいだなんて言ったヤツは居なかったけどな)
いや、俺あれほどひでぇ性格してねぇとは思うよ? 捻くれてるとは思うけど守銭奴じゃねぇし、むしろ他人のためにお金が使える立派なシスコン兄貴よ? 他人っつーか身内じゃねーかとかそんな言葉は知らん。
っつーかそれ言ったら俺の知ってるやつとかおかしな名前多いだろ。
苗字と名前で読み方が並んでるヤツ多いし。葉山とか雪ノ下とか由比ヶ浜とか。
「いえ、大変偉大そうで格好いい名前だと思いますが」
「え? マジで?」
やだ、格好いいとか初めて言われた……! しかもこの娘ったらマジで言ってくれてる!
あざとい生徒会長がからかうために言うような言葉じゃなくて、本気と書いてマジだこの娘。
ていうかこいつ、結構いいヤツなんじゃない? 困っている人を見かけちゃったら、なんだかんだ文句言いながら最後まで面倒見ちゃうような、仲間を見捨てきれないタイプなんじゃないのコレ。
「………」
で。なんでこの隣のお団子は、俺が格好いいとか言われた途端に頬を膨らませてますかね。
「まあとりあえず、登録をしてきてはどうでしょうか。能力が優れていれば三千エリスなどすぐに稼げますし、なんならこの私が手伝いを───!」
「ん、まあ、そうな。んじゃ行くか。そのー……登録?」
「あ、うん。じゃあちょっと行ってくるね、えとー……め、めぐめぐ?」
「めぐみんです。私の、名前に、含むところがあるのなら、今、ここで、聞こうじゃないか」
しっかりくっきり区切りつつもジリリと迫るちびっこに、由比ヶ浜、同じくジリリと引く。引きつつ、雪ノ下の腕に抱き着いて「ちょっ……由比ヶ浜さん、近い……というより巻き込まないでちょうだい……!」雪ノ下に、静かに勘弁してくださいオーラを放たれていた。
さすがの雪ノ下も、中二的なノリは材木座で十分らしい。
「あ、あはは……あのね? 名前に文句があるとかじゃなくてさ、うー……その……」
「……。いえ、私も少々大人げなかったです。ではどうぞ登録を、ゆいゆい」
「あの、めぐみんちゃん? あたしね? 由比ヶ浜───」
「ふふっ、ええ、わかっていますよゆいゆい。ユイガハマとは世を忍ぶ仮の名。ついポロっとハチマンが口に出してしまったゆいゆい、その名こそがあなたの魂の名前」
「すっごい誤解だ!? ちちちちがうよめぐみんちゃん!? あたしはね!?」
「……ハッ!? 裏の名前というのも格好いいんじゃないでしょうか……! くっ、しかし名乗り上げは紅魔族の……」
ぶつぶつ言うめぐみんをそのままに、さっさと登録を済ませに受付へ。俺が動くと、由比ヶ浜も雪ノ下もついてきた。
美人のおねーさんのところに冒険者たちが並んでいたが、べつにそこでなきゃいけないわけでもない。
これがスーパー等のレジ待ちであるならば、専業主夫を目指したかつての目利きからしてもきちんと選ぶところだが、べつにおねーさんがベテランで、空いてる男性職員が新人ってわけでもないだろ。
誰かを待たせている時は効率よく。これ、人間の知恵。
ちなみに、すぐに戻りたくない時は、フツーに長蛇の列にレッツゴー。これ、ぼっちの知恵。
そんなわけで、登録をしたのだが。
俺氏、盗賊に向いていると言われるの章。途端、雪ノ下、顔を背けて呼吸困難になるほど静かに爆笑。
警戒だの気配察知だの気配遮断とか潜伏とか、教わったわけでもないのにスキル欄に入ってた。やだもう恥ずかしい。ジョブに属してなくてもスキル習得済みとかなんなの? かといって48のぼっちスキルと52のひねくれスキルがスキル欄にあるわけでもない。
まあそれは置いておこう。置いておかないと話が進まないんだよ、言わせんな恥ずかしい。
というわけでアレな。ファンタジーに来ておいて、魔法を使わないとかねぇだろ。ねぇよな? はい、ないってことで。
そんなわけで、苦労することになろうが冒険者一択。器用貧乏になると言われたが、それでも魔法は譲れん。
ウィザードにもなれるそうだが、使える能力や魔法が相当偏るらしい。こんなところで国語が強く数学に弱い弊害が……!
さて、そんなわけで最弱職と言われている冒険者になろうとしたわけだが……盗賊の他に、魔力が強いのでアークプリーストをオススメされた。そこはアークウィザードじゃねぇの? いや知力より精神力が高い自覚はあるけどさ。魔力って精神力依存なの? 男なら誰だって、一度は自分が主人公の世界を思い描くと思うが、回復職の主人公って……。いや、なれる方が珍しいとか言われちゃったから、ついポンと飛び込んじゃったけど。聖職者の道。
ああ、まあいい。で、雪ノ下と由比ヶ浜は?
「………」
由比ヶ浜は、受付さんに知力が絶望的に低いと言われ、ヘコんでいた。めっちゃヘコんでいた。
運も低め、筋力なども低い、器用度は高く、生命力と敏捷性は無駄に高い。
そういやこいつ、腕立てもろくに出来ないほど運動音痴だったっけ。
勉強できないヤツって、普通体力馬鹿とかそういうパターンがあるだろうに、どこまで期待を裏切らないポンコツさんなのやら。
結局冒険者にしかなれず、しょんぼりしていた。
ぽしょりと「魔法使いたかったのに……」とか言っているあたり、やっぱ女子って魔法少女に憧れる時期とかあったりするのかしらん?
雪ノ下は……筋力、低し。生命力、低し。知力、めっちゃ高い。魔力、低し。器用度、めっちゃ高い。敏捷性、高し。幸運、低し。
……なんでこんな極端なのこの娘たちったら。人のこと言えねぇけど。
「アークウィザード一択、と言われてしまったわ……」
「うー……いいなぁゆきのん。あたしなんて冒険者なのに」
「俺なんて男なのにアークプリーストだぞおい……」
つか、こういう回復職って王道だとヒロインの役割だろうに。
え? 俺もしかして、立ち位置的にはお姫様? ……やだ、かつてないショック……! でも否定できない……!
「しかも聖職者っぽいのに盗賊スキルを常備ってなんなのもう」
「あら。実にあなたらしいスキルじゃない。気配に敏感で影が薄くて無駄に器用。あなたという存在が、この世界では盗賊扱いと呼べると言っても過言ではないのではないかしら」
「おいやめろ。……マジやめろ」
比企谷八幡と書いて“とうぞく”とか冗談じゃない。
そういうのはダンジョンで出会いを求める物語だけにして? 猛者と書いておうじゃとか。
しかしここで意外な事実。
なんと由比ヶ浜、ステータスはめちゃくちゃ低い割に、スキルポイントだけは呆れるほどに存在していた。
こうなれば、スキルの覚え方を受付さんに訊いて、せめてスキルで固めていくしかないだろうと軽く勉強させてもらったのち、めぐみんの待つ席へ。
「終わりましたか。どうでした? ソードマスターなどの上級職ならば嬉しいのですが」
「あぁそりゃ残念。アークプリーストとアークウィザードと冒険者だよ」
「……どこかで聞いたようなメンバーですね。クルセイダーが居れば完璧じゃないですか」
冒険者っていっても、スキルポイントだけがぶっ飛んでいるけどな。
ちなみに俺の初期スキルポイントはというと、8だった。なに8って。名は体を表すとかこんな時にだけ欲しくなかったわ。ないわー、マジないわー。
戸部の真似なんぞしつつ、早速8程度で覚えられる回復魔法はないかと訊いてみると、初級魔法、補助魔法しか奨められないとキッパリ言われた。
……まあ、俺TSUEEEEなんてのは小説の中だけだ。
自分が選ばれし主人公だー、なんて状況などそうそう起こる筈もない。
……などとは思ってみても、地味に落胆が強かったらしく、テーブルに肘をついて落ち込む俺。回復魔法じゃなくて攻撃魔法ぶっぱなしてみたかったわー。
なんだよ、リアルがろくなもんじゃねぇんだから、幻想でくらい持ち上げてくれたっていーじゃない。なにこれイジメ? 異世界だろうと比企谷くんには厳しくしましょうとかみんなで決め事でもしてんの?
「んっ、よしっ……じゃあ、こーしんっ!」
さめざめと泣きそうな状況の中、由比ヶ浜が冒険者カードをいじってなにかを修得しているのが視界の隅に見えた。
宴会芸でも修得したんだろうか。俺としてはアレだな、理解力スキルとかがあるなら是非修得しろと奨めたい。
なんだったら勉強的なスキルとかどうだろう。受付の人によれば、剣術スキルを取得すれば、経験がないのに剣の扱い方が理解できるっていうじゃない。
なにそれずるい。が、そう思うからこそ、由比ヶ浜もそういった“補うスキル”を取得したんじゃないかと思ったのだ。
ていうかさっきから雪ノ下の私に構わないでちょうだいオーラがすごい。ぼっちの俺より我関せずモードだよ。
「おおぉおっ……! 疑うこともなく、迷わず修得してくれるとはっ……! ゆいゆい、これは奇跡の邂逅と言えます! そうですよ、それだけスキルポイントがあって、何故躊躇する必要がありますかっ! さあ同士よ! 同志にして同士ゆいゆいよ! ともにっ……ともに爆裂道を歩もうじゃないですかっ!!」
「え? う、うん? ばく、れつ?」
「おっとそうでした、まだ詠唱を教えていませんでしたね! 大丈夫です! 私は一言一句違えることなく覚えていますとも! あ、その前にこちらの……そう! この詠唱短縮と爆裂系魔法威力増強を取得しましょう! はい……はい! では早速詠唱を!」
「や、やー! ちょっと待ってめぐみんちゃんっ! よくわかんないから待って! ちょっ……ヒッキー! ヒッキー!?」
「はいヒッキーです」
「あ、あのさ? めぐみんちゃんに───」
「めぐみんと呼び捨ててください同志ゆいゆい!」
「どっ……!? えっとヒッキー、これは違くてっ……えと、えとね? なんか覚え方を教えてもらって、めぐみんちゃんがこーまぞく? ずいーちの魔法使いっていうから、魔法教えてもらったんだけどねっ? そしたらめぐみんちゃんの様子が急にかわって……!」
「由比ヶ浜、ちょっと冒険者カード見せてみろ」
「え? う、うん、はい」
心配そうな顔で出される冒険者カード。
何故か文字が読める俺だが、そのカードには……取得済みスキルとして爆裂魔法『エクスプロージョン』があり、他のポイントは全て詠唱短縮と爆裂系魔法威力増強に振られていた。
爆裂魔法の修得に必要なポイントの高さにも呆れたが、それを修得してなお余っていた由比ヶ浜のポイントにも驚愕。
しかしその全ても爆裂魔法のために振られており……ようするに爆裂魔法極振り状態で、このカードは満たされていた。
……アレだろうか。爆裂魔法ってのはそんなに使えるものなんだろうか。
こうまで自信満々に奨めてくるってことは、期待していいんだろうが……しかし他の魔法やスキルを一切無視で奨めるほど、いいものなんだろうか。
ちらりと見た由比ヶ浜は、代わりに俺の冒険者カードを見てにこにこしている。
やがて雪ノ下と見せ合いっこをして───ってやめて? それあなたのじゃなくて俺のカードだから、見せ合いなんかしてもしょうがないでしょ?
ほらみろ、雪ノ下がスキル項目見て、また笑ってるじゃねぇか。
盗賊系聖職者ってなんだよ、もうわけわからん。
で、確認し終えた雪ノ下が何故かめぐみんにまでカードを渡してしまい、
「……ハチマン。アクシズ教に入るのだけはやめてくださいね?」
「いきなり言われてもわけがわからんのだが」
そんなしみじみ言われなくても、盗賊系聖職者が入れるような教団なんてあってたまるか。……ないよな? え? あるの?
あとで本編にて説明はありますが、あえてここで。
タイトルがエルハザードっぽいこともあり、この三人には異世界転移における異能力があります。
異能力というよりは転移特典みたいなものですが。
ヒッキー=PTのHPMPをブースト(最初からHPMPが多い)
ゆきのん=PTのスキル習得ポイント半分(部活メンバーのみ)
ガハマさん=スキルポイント寄贈(自分のみ)
アロエ=???
といった感じ。
ヒッキーの特典は、レベルが上がってもHPMPはそのままで、その最大値に見合ったレベルになるまで一切の変動無し。
ゆきのんの特典は奉仕部メンバーのみ、スキルを習得するためのポイントが半分になったりする。
ガハマさんのは最初からスキルポイントのみたくさんある。
なんて甘々設定です。
閲覧設定で前書き後書きをOFFにしている人には伝わらない設定ですね!
さて、件のあろえさんから頂いた絵ですが、もうほんと心からありがとうございますです。
【挿絵表示】
それしか言う言葉が見つからないとジョニィっちゃうくらいに感激です。
そもそもこのお話を書こうとしたきっかけがこれですからね。
書こうかどうしようか悩んでいた時に数行のやりとりをこもれびさんが書いたのが、僕にスタートを切らせた原因ですけど。
ガハマさんもそうですが、左上のアロエちゃんのシルエットもステキ。
ではまた次回で。