どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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タイトル元は渚フォルテッシモ。

今回は短いです。いやほんと時間取れなくて……!
なお、こちらの作品にはこもれびさんとこのアロエさんが出ますので、細かい事情とかはちらっと見るとわかるかもです。
◆ダンジョンに潜ったら、アロエちゃんがいました。1、2
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アロエフォルテッシモ

     5

 

  翌日。

 

 ほんとに出来ちゃってたよ。どうしよ。

 これ、元の世界で誰かが招いてくれなきゃ帰れないんじゃないの?

 召喚でもいいんでしてください! お願いします!

 

「「「………」」」

 

 さて、なんでそんな情けない言葉を頭の中で叫んでいるのかというと、とある屋敷の庭で、アロエを発見したのがそもそも。

 俺達を見るなり大層喜んだらしいやたらともっさりしたアロエは、なんでも別世界から飛んできたらしい。しかもその世界には俺達奉仕部が居て、しっかり顔見知りなんだとか……平行世界かよ、なにそれすげぇ。

 あと普通に地面から足を抜いてとことこ門まで歩いてきた時は、そりゃあもうたまげた。俺の手に納まっているアロエに「え? お前歩けるの?」と訊ねたら、『スカートの下は根っこになっているので無理なのですよ!?』と、彼女までもが大層驚いてらっしゃった。なにこれ。

 もうなんでもありだなアロエさん。どっから来たの一体。どんな世界なん? って、元の俺達の世界と変わらない───

 

『はい。神が存在して、恩恵(ファルナ)という加護が存在する世界から』

 

 ダンまちじゃねーかよ! おいちょっとなにやってんの平行世界の俺!

 しかもハーレムとか! 由比ヶ浜と雪ノ下を囲ってるとか!

 さらに呪文が使える!? ドラクエ!?

 オルテガが無事だったとかそういうのはグッジョブだけど、なんで又聞きするオルテガの情報がドラゴンボールの悟空さなんだよ!

 

「ヒ、ヒッキーが……」

「その、私たち、と……?」

 

 おい……おいもうほんとどうすんのこの空気……!

 今この状況を日記に書くとしたら、現状を把握。そして終わった。現在只今暴走中。とか書きたくなる。

 だって無茶だろ。俺だぞ? 俺なのに二人を囲うとか。

 ああ、あれな? 平行世界の俺、よっぽどイケメンなのな? だって俺だよ? 自分でもしょーもないと自覚出来ちゃう、自分で自覚とか意味が重なってる考え方とか普通に出来ちゃう俺だよ?

 それが女性二人と付き合うとか。恋人にするとか。アロエとはいえ責任を取ってもらいたいようなことをしちゃうとか。

 いずれそっちの俺、滅ぼされちゃうんじゃないかしら。いやモンスターとかじゃなく、嫉妬に狂った男たちに。

 俺滅んだ。やべえ、滅んだよ、滅んじゃったよ! って感じになっちゃうんじゃないの?

 一色も小町も一緒に居て止めらんなかったの!? え? 情報の限りじゃもう一人いたらしい? 教師? ……黒髪ロングでおっぱいおっきい先生? ……平塚先生!?

 

「……ボクハコノアオイチキュウガダイスキデシタ」

「ヒッキー!? ヒッ……ちょ、なんで首吊ろうとしてんの!?」

「生活能力のない俺が二人を食わせていくとかないでしょ……ないよな? ないだろ……ない……ねーわー……」

「自分の言葉で傷ついてる!? だ、だからってこっちのヒッキーが気負うことないじゃん! その、それはさ? そのー……へーこーせかい? のヒッキーなんだし」

「いや……お前だって嫌だろ、違う世界とはいえ、俺となんて」

「えっ……ぁ……、ぇと……」

 

 ……え? な、なんでそこで顔を赤く染めなさるの?

 違うだろそこは。そこは空気読んでさ、だよねーとかなんとか、無難な言葉をさ。

 や、やめろよ。なんか意識しちまうだろうが。

 あ、それともあれか。少し意識させたところで、シュパッとどーん! って感じでブチ殺しにくるのか。

 由比ヶ浜……おそろしい子ッッ……!!

 ……雪ノ下はまあ予想出来るから。想像よりひどいことにはならないだろ。

 ていうかね、この氷の女王様をどうやって落としたの、平行世界の俺よ。

 意見に穴があったら罵倒されて、目が腐ってたら罵倒されて、案を出せば訂正付きで罵倒されて、判断が遅ければ罵倒されて、判断が早くても訂正付きで罵倒されて……たまに感心されたと思ったら感心に罵倒が付属されていて、照れたら罵倒されて、夢を語れば罵倒されて───あの。罵倒しかされてないんですけど。ねぇ、ほんとどうやって攻略したの? マジに知りたい。マジに。俺が攻略したいからとかじゃなく、普通に、真剣に、好奇心として知ってみたい。

 え? この、基本猫と由比ヶ浜にしかやさしくない雪ノ下が、俺に向けて甘えてきたりすんの?

 甘え───……あま…………罵倒してくる顔しか想像できねぇよ。

 どんだけ罵倒されてんの俺。もはや“今は貴方を知っている”って笑顔さえ霞んでらっしゃるんですけど。

 

『でもでも、嘘はないのですよぅ? ほんとの本当に、ご主人様は二人と恋人さんだったのですよぅ』

「ああそうだな……お前の居た世界ではそうだったんだろうな……。だがな、もっさりさん。遠き者は耳に聞け、近き者は目にも見よだ。───雪ノ下、俺と友」

「いやよ」

「───……食い気味に、友達でさえ断られるほどなんだよ……。ないだろ……? な? ないだろ……?」

 

 泣きません。泣いてません。男の子ですもの!

 先人に感謝しよう。青春の汗って言葉を考えた人、最強。リスペクトしちゃう。

 

「それで、アロエは神に育ててもらったりしてたのか?」

『いえ、違うのですよぅ。私はダンジョンの43階層で、マンドラゴラに紛れながら棲息していたのですよぅ』

「───」

「ま、まん、どら? ねぇねぇゆきのん、まんどら、ってなに?」

「マンドラゴラ……地面から引き抜くと、人を死に至らしめる悲鳴を上げると言う、人型の植物よ」

「しっ!? し、ししし死んじゃうって……!?」

 

 いや……いや待て。驚くところはそこじゃない。

 今なんて言った? よっ……43階層? あの世界で、43階層で、自生して生き続けた?

 

『では改めて自己紹介を。───我が名はアロエ! ツルボラン亜科随一の魔法の使い手にして、爆裂道を歩みし者!!』

 

 思えばこちらのアロエとは明らかに着ている服が違うアロエは、マントを翻して眼帯に軽く手を添えるような格好でヴィスィーとポーズを決めた。

 

「あ、そ、そか。それでそのー……アロエ? お前は向こうで、何か二つ名的なものは───」

『よくわからないのですけれど、一部で猛者(おうじゃ)と囁かれていたのですよぅ』

(───やだ、オッタル級!?)

 

 その時、俺は小さく……嫌われるようなことをしたら殺されるのだろうという、妙な確信を得たのだった。

 ソロで43階層とか、それくらい普通なのかもしれんね。

 ああうん、考えるの、もうよそう。

 ああ戸塚、戸塚よ。今すぐキミに会いたい。誰か俺を癒してくれ。なんかさっきからストレスの連続で胃のアレがアレでマッハだ。

 正しくは“俺の寿命がストレスでマッハ”な。

 

「………」

『? 比企谷さん?』

 

 俺、自分のとこのアロエのこと、大事に育てるよ。

 立派なアロエに育てるんだ。

 とりあえずポーズをキメてまで自己紹介してくれたアロエに対し、俺も過去に封印した疼きを解放。

 もはや恥もなにもない。この場において、この世界において、おかしいのは吹っ切れる勇気もない阿呆だ。

 そうすることで生きていけるのなら。元気に歩いていけるのなら。俺はいくらだって闇に呑まれよう。

 そう───必ず生きて、小町や戸塚ともう一度会うために!!

 ……理由? それだけですがなにか?

 あ、あー……あとその、あれだ。ほら、あれな? こいつらも無事に帰してやんなきゃならんし。いや、わかってるよ? 現段階では俺の方が生かして帰してもらう側だって。

 だがしかし、それでも男ってヤツには立たなきゃならん時があるのよ。あっちゃうのよ。悲しいけど。

 

 そんで、普段から本気を出さないヤローなんてのはな、知り合いの目がない場所でこそ全力を出すもんなんだ。

 リアルがどんだけ息苦しかろうが、目を腐らせるような場所だろうが、そこに居て欲しいって誰かが願うならよ、立ってなきゃダメだろうがよ。

 いやべつに俺が居ない間に大志の野郎が小町にちょっかい出さないかとか、そういうことが心配だから帰りたいとかじゃないし?

 帰る方法を調べるついでに、この世界でも多少の奉仕を見せたっていいんじゃねぇの? って……そう思っちゃっただけだからね? 言っとくけど。

 

(待ってりゃ勝手に依頼がきて、達成すりゃ奉仕になるとか最高じゃないの。ぼっちにやさしいシステムだ。わざわざコミュる必要がないとかもうほんとステキ)

 

 そんでボランティアではなくお金がもらえちゃうんだから、やる気だって多少は出るってもんだ。

 

「ところでアロエ。お前は爆裂魔法が使えるのか?」

『いえ、まだポイント不足で覚えられないのですよぅ。ちなみにそちらのアロエはどのような職業を? やはりマイクロブックを常備するアロエとしましては、ウィザード系統と予測しますが』

「いやお前拳ひとつで壁とか破壊出来そうじゃ───」

『? なんです?』

「イエベツニ」

 

 少なくとも43階層をソロで生き延びる実力……! 迂闊な言葉は機嫌を損ねかねない……! ここは落ち着け比企谷八幡……我を殺すんだ。

 無欲でいれば冷静な……そう、常に冷静な自分で挑めるのだから……!

 

「ち、ちなみにお前のステータスってどんな感じだったんだ?」

『知力が飛び抜けていたそうですよぅ? 私は読めなかったので、読んでもらったのですが……他の数値が“もじばけ”? というものになっていたそうですよぅ』

 

 ……なんか“た5”とか書いてありそう。つまり見たくない。

 ちなみに“た5”は255って意味な。その数字の前に“SSS”とかついちゃってるのかしらん?

 ……彼女の爆裂魔法で世界が滅ぶのが先か、勇者が魔王を倒すのが先か。

 いつの間にやら究極の二択が完成した気がした。

 どうかそのままポイント不足で過ごしていただきたい。国滅んだやべぇどころじゃない気がするからほんとマジで。

 

「で、どうすんのお前。なんか自立出来てるっぽいけど、クエストとかは───」

『実は先日、たまたま出会った悪魔さんに占ってもらったんですが、この家のご主人にお金が必要になることが起こるらしく、ならばとお金を稼ぐところだったのですよぅ』

「………」

「比企谷くん……植物でさえ働こうとしているというのに……」

「言われると思ったわ……。思ってたからその憐れみを含んだ目つき、マジやめない? ていうか現時点でめっちゃ働いてるでしょーが。依頼とかめっちゃ真面目にこなしてるよ俺」

 

 ソロでやれって言うならこれからは(うす)とでも呼んでくれ。変わらずぼっちで頑張っていくから。

 じゃあアレか。元の世界に戻ってからが心配ってか。

 心配ご無用。

 ここまでくりゃ、いくら怠惰なる八幡さんでもいい加減立ち上がるってもんだ。

 だってアレだぞ? 現時点で、ヒモの息苦しさとか、戦い終わって傷ついた仲間を癒すだけとか、男としてものすげぇ心苦しいぞ? 雪ノ下や由比ヶ浜よりステータスで劣る俺だ、二人に“回復職だから”って庇われて、そんで戦いが終わっても相手が傷ついてなけりゃお疲れさんしか言えない。……え? やだなに? 専業主夫って案外息苦しいんじゃねぇのこれ。状況的には明らかに違うけど、こうして戦闘(仕事)を終えて戻ってきた女性(仲間)を口でしか迎えられない俺に、家事スキル小6程度の俺に、いったい日本でなにが出来るというのか。

 ……そりゃな、こうなりゃ専業主夫とか誰かに養ってもらいたいとかアホなこと言ってられなくなるわ。

 相手が心の底から望んでくれたら多少は考えるかもだが、それでも出来れば何かをしたい。家事スキル磨けばいいだけって、そういう単純な話じゃないのよこれ。同じ状況になってみりゃわかる。たぶん。だから必死にならなきゃってちょっぴり思っちゃったわけで。

 ただ、周囲からの“なにマジになっちゃってんのお前”って視線には耐えられそうもない。

 あれは理由なく人を傷つけるからなー、本当の本気で嫌いだなー。好きなヤツなんて居るのかね。

 

  まあいい。

 

 帰り方がわからないこの現状、少なくともこの世界で無意味に敵は作らず、永住に重きを置いた身の振り方をするべきだ。

 間違っても悪評を広げるような行為はしちゃならない。

 俺だけならいいが、この二人だけでも───、……いや、自己犠牲みたいな馬鹿な真似は、二度とするつもりはない。

 女を泣かせるような行為は、よっぽど状況が切羽詰まらなけりゃ二度としない。

 ……おう。人の気持ちは、考えないといけないからな。

 代わりに俺の気持ちも考えてくれ、なんてせこいことも言わないから、無事に帰らせてくれ。

 そんなことを考えながら、俺は眼帯アロエの方に、彼女にしか聞こえないように、そっと「あとで必要な金額、詳しく」と囁いた。

 

「ところでその……アロエさん? 私たちが元の世界に帰るために、出来ることはあるかしら」

『空間が歪んだ時に、別の世界のアロエと交信すればいいのですよぅ? 出来たら私が押し出して届けられると思うのです』

「えと、それがあたしたちの世界に繋がってる可能性とかは……」

『限りなく低いのです。なにか目印といいますか、わかりやすいものがあればいいのですけどー……』

「……目印って言われたってな」

 

 困った。このままじゃ、平行世界の俺のようにドラクエの世界だのなんだのと飛ばされてしまう可能性だってある。

 俺は、俺達の世界に帰りたいのだ。どこでもいいわけじゃない。

 

「困ったわね……世界規模で考えても、私たちの世界でのみ、といえるものなんて……」

「う、うん……そんなの───……あれ?」

「由比ヶ浜さん?」

「由比ヶ浜?」

「ねぇゆきのん、ヒッキー。もしかしてなんだけど……あたしたちの世界だけだったりしないかな。平塚先生がたくさんアロエを買った世界って」

「あ……」

 

 暗かった心の闇に、明かりが差し込む瞬間ってのを久しぶりに体感した気分だった。

 こんなのは、そうだ。あっさりしたものだったとはいえ、川なんとかさんに逃げ出した相模の行方を訊いた時以来で───

 

「それだ! 愛してるぜ由比ヶ浜!!」

「ぇ───、ふ、……ぇ……、えっ……!?」

 

 見えた光に、人は弱いものなのだ。

 ついあの時のノリと流れでなにかを口走ったとしても、それは仕方のないことなんだと思います。

 俺はとにかく、この二人を無事に元の世界に戻し、俺もまた小町や戸塚のもとへ帰ることで頭がいっぱいだったのだ。

 そんな、表面上は冷静でも内面は必死な状況で、光明ともとれる考えを語られてみなさいよ。愛してるをぽろっと言っちゃう感動くらい、抱けるってもんだろ。

 そうして、突如バトンのように手渡された光明を曇らせまいと、アロエとアロエさん(猛者)にたくさんあるアロエの反応を探していてほしいと頼み、これからのことを相談し合った。

 一人、顔を真っ赤、というよりは桜色に火照らせ、ぽてりと腰を抜かしてふるふると震える由比ヶ浜に気づかないまま。

 慌てて支える雪ノ下がなにかを言っていたが、あー、うー、いやその、だな。

 ……必死だったんだよ、マジで。いろいろと耳に入らないほどに。


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