どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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 佐藤和真は引き籠りである。
 比企谷八幡はぼっちである。
 しかし互いに出会い、互いを知ることで過去を振り返り、アルダープにならないための努力をしようとか考えるようになった。
 なんかそんなお話。
 べつにエンテ・イスラの魔王さまは出てこない。
 アニメ第一話のエンテ・イスラ言語、好きだなぁ。
 働いているように見えないのは、冒険者の仕事がクエストだからです。
 え? エクスプロージョン撃ってるだけ? 爆裂道を歩む者の仕事とは爆裂魔法を撃つことにあります。仕事であり夢であり愛なのです。撃つだけじゃ報酬はないけどね。

 あ、言うまでもなくタイトル元は“はたらく魔王さま!”


はたらく引き籠りぼっちさま!

     6

 

 最近、由比ヶ浜がおかしい。

 今までも時たま赤い顔してあわあわすることがあったが、最近のこいつは赤いわけじゃなく、ただこう、そのー……なんだ。おう、赤いってんじゃないんだ。さ、さー……桜色?

 恥ずかしいだとか慌てるだとかそういうのじゃなくて、自分の中に生まれた熱を、上手く鼓動と合わせているっつーのか。

 どこかに落ち着きと温かさを抱いたような……余裕、ってのかね。妙な静けさを持っていた。

 話しかけてみれば実にいつも通りと言えるんだが、慌てるようなことが減った気がする。

 こう、なんつの? なにかを信じて寄り添う、みたいな、渦巻いていた何かが納得に向かって、そんな納得に寄り添っていたい様相というのか……例える言葉が見つからない。

 

「『エクスプロージョン』!!」

 

 で、なんか爆裂魔法の威力が上がった。

 

「ロージョン』ッ!!」

 

 撃つたびに瞳を潤ませて、俺を見る表情に暖かな笑みが増えた気がして。

 

「ジョン』!!」

 

 ドレインタッチを覚えたってのに、なんでか俺に負ぶってほしいと頼んできたりして。

 

「ン゙』ッ!!」

 

 そんな、おぶるのなんてめんどいから嫌だ、などと断ることも出来るだろうことを引き受けてしまう俺でも……さすがに考えることもあるわけで。

 かつて、アロエ談義から始まった由比ヶ浜との距離感も、形容しがたい感情も、まあ、いろいろだ。

 自分の中に渦巻く、普段なら外に出しにくい感情を放ってる、と。つい最近、俺が提案した通りの方法で魔法行使をしているらしい由比ヶ浜に聞いた。

 そんな魔法を唱えながら、潤んだ目で、頬を染めたまま俺を見つめて、それから撃つとか……そりゃ、考えることも増えるだろ。

 

「はぁ……」

 

 そうした日々がしばらく続いた───ある、雪ノ下も魔法を撃ち尽くし、由比ヶ浜も爆裂魔法を撃ち終えて、宿まで二人を送り届けたようと街を歩いた日のこと。

 普通ならそれから、アロエを片手にキールダンジョンという場所に向かうのだが……宿へ向かう途中、めぐみんと同じ装備をしていて、しかも負ぶるという行動に目をつけた一人の男が居た。

 名を佐藤和真というらしく、擦れ違い際、俺では見えない由比ヶ浜の顔を見るや、「リア充がっ……!!」と血の涙さえ流せそうな囁きを残していった。

 その時はリア充がと言われただけだったので、時に気にせず通り過ぎるだけだったんだが。

 

「理不尽だろこれ。なんでそっちみたく俺の方も胸が大きくてスタイルのいい同年代じゃなかったんだよ」

「……いや、知らんし」

 

 そんな男とまた出会った。

 街の一角。いつも通り独りでレベリングにでも出ようと、宿をあとにしたところで。

 声を掛けられ、話している内にお互いの故郷を予測し、そうして事情を聞くに……いや勝手に語られたんだけど、日本で死亡して異世界転生、というのを実際にやった人だそうな。なにそれすげぇ。……あ、俺も異世界転移ならしてたわ。

 というか、スタイルの問題に胸の話も込みじゃないの? なんで胸とスタイル分けたのちょっと。大事だけど。大事かもしれんけど。

 自分以外が由比ヶ浜の容姿のことを口にするのが気に入らないとか、俺も相当アレだ、独占欲が強いというか嫉妬心が強いというか。そのくせ、自分から由比ヶ浜にどうこうするわけでもない。

 嫌になるな、こういうことを振り返ってみると。

 まあ、ともかく。纏めると、こいつがめぐみんが言っていたカズマであり、由比ヶ浜がめぐみんと同じ格好をしていたからこそ、余計に目を惹いたのだとか。

 王女だかに連れられて王都に居たらしいが……用事は済んだんかね。ってことはめぐみんも戻ってきてるのか。

 

「で、なに。お前もレベリング?」

「いや。俺はこう見えても魔王軍幹部連中と渡り合ってきた男。そろそろ大金が転がってくるし、これからは自由に生きるんだ」

「ほーん……? まあ、大事だよな、安寧も。俺も夢は専業主夫だったし」

「それを他人に言える勇気が凄いわ。まあけど、メイド雇って自由気ままにってのもいいよなー。義妹も出来たし、これからは余裕を持った大人な俺で───」

「……一応、同郷のよしみとして言っておくとだな。体が動く内に、やれることはやっといたほうがいいぞ? って───同郷だよな? 日本だよな?」

 

 もっさりアロエが居た、平行世界の俺の例もある。なのでもう一度訊ねる。

 どっかのドラクエ世界とかダンまち世界出身とかじゃないよな?

 もう平行世界の俺だけで十分だぞ、そういうの。

 

「それなら確認しただろ? じゃなきゃ転生がどうのなんて言わないって。こっちも日本人だよ。で、あれだろ? その目の腐りようから見るに、引きこもりだったとかだろ? いやぁ、実は俺も───」

「いや、普通にガッコには行ってたよ。成績だって悪くなかった。ただちょっとアレな。ぼっちだっただけだ」

「それも言っちゃうのかよ!? え!? 堂々と自分はぼっちだったって認められるぼっちってどうなんだ!?」

「あー……ほれ、アレだよ。俺は望んでぼっちになってたし、むしろ空気と同化して、そこに居るのに居ないとさえ認識されるレベルのエリートだった」

「認識されてんのに認識されてないってなんだよ。怖ぇよ」

 

 あ、そういえば意味が被ってた。いや、反していたのかこの場合。

 

「まあ、いろいろあるだろ、ぼっちの種類にも。たとえば将来を約束し合ってた幼馴染が、不良のワルっぽさに惹かれていつの間にか自分から離れた場所に居て、誰も信じられなくなったからーとか」

「おい。なんで人の過去とか知ってんだ。そこんとこ詳しく」

「え? マジ? そんな過去経験したの? いや、俺ただ例を挙げてみただけなんだけど」

「え?」

「え……」

「………」

「………」

 

 それから、佐藤和真は語った。

 結婚しようと約束した幼馴染が不良とバイクでニケツしてたことや、それが原因で引き籠ったこと。

 貫徹明けにゲーム買いに行った先で、トラクターをトラックと間違え、女の子を突き飛ばして助けたつもりが怪我をさせただけに終わり、自分は迫るトラクターを前にショック死。

 小便さえ漏らした状態で死んで、駆け付けた親にも死にざまを笑われたのだと。

 で、この世界に転生することになって、特典を選ぶことになったんだが……いろいろあって腹が立って、女神を選んだんだがこの女神がとにかくポンコツ。

 浪費癖がある所為で金は溜まらないし、バイトをすればそいつの所為でクビになるしで相当苦労したらしい。

 

(やだ……! 感動話よりもよっぽど泣けるんですけど、なにこれ……!)

 

 死んでまで苦労の連続とかないわー、マジないわー。

 と思いつつも、自分も奉仕を強要され続け、いつしかそれが当然として望まれていくのでは……と考えると、ただただ切なくなった。

 

「幼馴染だけどよ」

「ん?」

「なにも訊かずに距離を置く前に、せめてなにか、心境の変化だけでも訊いてもよかったんじゃねーの?」

「………」

「ほれ、よくある不良に弱みを握られて、とかあったかもだろ」

「いや、普通にフェイドアウトされてた感あったし、ないだろ」

「……そか」

「……おう」

 

 夢も希望もありゃしない。

 幼馴染に夢を見ると痛い目に遭うってほんとなのんなー。

 

「人ってほら、好きでいられる期間って3年~4年とか言うだろ? 幼馴染と将来の約束をしても果たされない理由って、大体そこにあると思うんだよ俺……。だから俺が悪いんじゃなくて、悪いのはあの不良野郎と、そんな相手にホイホイついてった幼馴染だ」

「おぉ……そうな」

「ていうか比企谷、お前はどうなんだよ。あんな美人二人も連れて」

「部活仲間だよ。つか、真面目に訊くぞ? こんな目をしてるヤツがほんとに好かれると思うか?」

「……不良にNTRされてる身からすれば、そんな一ヶ所のマイナスなんざ信じられるか」

 

 実感籠りすぎてて怖いからやめて? 声にものすごいドス入ってるから。

 

「んじゃあ夢が専業主夫だ」

「う……」

「ぼっち至上主義だし」

「ぐっ」

「基本働きたくない」

「………」

「家事のレベルは小学レベルで、しかもそれはあの二人も知ってる」

「……理屈じゃなく惚れてくれる相手っているんだな」

「へ?」

 

 いやおい、話聞いてた? 俺、自分の悪い点しか挙げてないんだが?

 

「なぁ比企谷。お前がおぶってためぐみんの服着た子。出会いのきっかけとかってあったのか?」

「あ? あー……轢かれそうになったあいつのペットを助けて、代わりに俺が轢かれて、入学式から一ヶ月、ガッコに行けなかったのがきっかけだ」

「マジでやったのかよ! てめぇそれは失敗してショック死した俺への当てつけか!?」

「う、おっ……い、いや、知らん、つか近いやめろ」

「リア充め……! それで上手い事やったってわけか……!」

「……? なんだよ上手い事って。言っとくが入学式から三週間もガッコに行けなかったぼっちに居場所なんざなかったぞ? 中学までぼっちを貫き、やさしくされれば気があるんじゃね? とか調子に乗って告白して玉砕、しかもそれを言い触らされて人間不信になるし、やさしい女は嫌いになるし。高校デビューで新しい自分で行こうと思えば事故で、居場所もなければ友達作りも失敗だ」

「……なんかごめん」

「いや、いーよ」

「けどあれだろどうせ。そのペットを助けてもらった子が見舞いに来たりとかしたんだろ」

「誰も来ませんでしたがなにか?」

「来なかったのかよ!? えっ……来なっ……えぇ……? えー……!?」

「退院するまで誰もこなくて、家の方に一度来たらしいが、詫びのために置いてった菓子は妹に全部食われてた」

「……あれっ……おかしいなっ……! 涙が……涙が止まらない……!」

「その後、とある教師に強制的に入らされた部活で、その女と再会を果たしたんだが、出会いがしらにヒッキーって呼ばれるし目が合えばキモいって言われるし」

「お前その子になにしたんだよ……恩があるならそんなこと言わないだろ普通」

「ビッチって言った」

「てめぇくだばれ腐れ外道がぁああーっ!!」

「うおっ!? な、ちょっ……! 仕方ないだろっ、明らかな日陰者な俺にしてみれば、髪染めて制服着崩して、チャラチャラしてりゃあギャルでビッチって印象を抱くだろ!」

「お前の方が事情をまず聞けこの馬鹿! お前よくそれで人に幼馴染の心境がどうとか言えたな! ねーわ! 相手の事情を大して知りもせず雌犬呼ばわりとかねーわ!!」

 

 そんな調子でしばらく取っ組み合いをした。

 話せば話すほどお互いの反省点や客観的な意見が胸に刺さり、言わずにはいられないことばかりだったのだ。

 ただ共通する点があるとすれば、妹とは尊いものだということ。

 あと反省点。ちっとは一緒に居る女の子の立場になってみよう、ってことで。

 

「……考えてみれば俺もアクアにクソビッチって言ってた……ひどいブーメランだ死にたい……」

「いや……俺も……。あいつが空気読もうと必死になってたのは今ならわかるし、周りに合わせようと頑張った結果だったってのも知ってるんだよ……。それをビッチって……。よりにもよって声をかけてありがとうを言いたかった相手にビッチって言われるって……」

「………」

「………」

 

 自分達のやらかしたことに、二人で頭を抱えた。

 そりゃな、かけられた迷惑も苦労もあった。だが前提としての問題で、軽口だろうが言って許されることや許されないこともある。

 女性に対するビッチは明らかに蔑称だ。誰が相手でも受け入れて子供を産む雌犬、と言っているようなものだ。

 世の中にそういう格好の人はそう呼ぶ、みたいな流れがあったとしても、意味も知らずに“どうせそんな感じだろ”って方向で口にするのは確実に悪手だ。なにせ、そこに込められる意味ってのは受け取る側がどう受け取るかだからだ。

 漫画とかで知って、言いたくなる言葉とかってあるよなー。こういう場面で言ったってことは、それっぽい意味なのかな? なんて誤解して、サノバビーッチとか言っちゃうとか。

 たまにあれを“ガッデム”的な意味で覚えてる人居るけど、あれって雌犬の子って意味だからな? お前の母ちゃんデベソどころじゃないからな? 殴られても文句言えないからな?

 ともかくそういう、状況や軽いノリで言ってしまう前に踏みとどまることは出来ることは多い筈なのだ。俺はリア充側の人間じゃない。話題欲しさに人の悪口ベラベラ言い合ってギャハハと笑い合うやつらとは違う、エリートぼっち。

 ……なので、多数が当然としてやることを嫌っていたくせに、見た目で相手をビッチと呼ぶとかそういうことだけはやっちまう自分に呆れる。

 そういうことを佐藤と言い合って、激しく反省。

 

「そ、そだな。これからは……ちょっとやさしくしてやろう」

「上から目線が自然と出てるぞ佐藤。お前さ、一度相手の立場になって考えてみない? んで、お前が相手にしてきたことを自分がやられてるって考えてみろ」

「んなこと言ったって。俺がアクアの立場で、俺にやられたことっていったら……」

 

 考え込む。

 その間、俺はアロエの頭をやさしく撫でて、心を癒していく。

 

「まず……あれだな。仕事してたらなかなか特典を決めない俺が居て、お菓子食って待ってるんだけど慎重に慎重にって言うばっかりで決断しない。俺のあとにも迎えなきゃいけない魂があって、仕事は滞るばっかりで、言い過ぎとはいえ煽るように文句を言ったら特典にされて、この世界に……」

「おう」

「ギルドに行くって俺に提案されて、行ってみれば金がなくて、自分の後輩の信徒にお金を恵んでもらった上に女神を騙るなって言われて同情までされて……」

「お、おう」

「自分なりにバイトで張り切ってみたら、集客は出来たけどモノが消えた所為で役立たずだの疫病神だの言われてバイトクビになって……」

「………」

「俺から言い出したことに散々付き合わされて、文句言いながらでも手伝ってくれて……」

「………」

「あ、あれ? 回復魔法も考えてみりゃ規格外の効果だし、何回死んでも生き返らせてくれるし、浪費癖は確かにあるけどなんだかんだ付き合ってくれて……」

「なぁ。言っていいか? 本音言っていいか? ───お前ふざけんなよ!?」

「い、いやっすんませんっ! これは認識の違いというか齟齬があったといいますか……っ!」

「なにが特典間違えただ駄女神だクソビッチだ! お前が今こうして生きてる時点で、殺されても生き返ってる時点で、幹部連中を倒してきたって評価されて胸張ってる時点で、その女神が特典じゃなけりゃ有り得ない今だろうが!! お前なに? あれなの? なにもしなくても蘇れるの? 回復も出来るし浄化も出来るの? 補助魔法で助けたり出来るの?」

「いやっ! 怖いっ! マジで目ぇ怖いから! 勘弁してください気づきもしなかったんです!」

「~……あぁ、いや、悪い、すまん。……けどな、浪費癖があるならお前がちゃんと見ててやりゃいいじゃねぇの。お前が、相手が望んでもいないのに、無理矢理、引きずり込んだ世界だろ」

「耳が強烈に痛い……!」

「買い物には一緒に出掛けてやりゃいいだろ。欲しいって言ったもの、たまの休日には買ってやるのもいい。買って、お前がプレゼントしてやりゃいい。だめだって最初から投げ出してりゃ、そりゃあ相手だって自由にするしかなくなるだろが」

「うわー……だよなぁ……。考えもしなかった……。だって買い物に付き合うとかめんどいし」

 

 ほんと正直だなこいつ。わかるけど。俺も小町以外とは正直めんどいと思うし。

 話せば話す度に自分の嫌な部分に気づいて、ショックを受けて、しかし胸に強烈に刺さりながらも受け入れていく。

 それは違う、間違ってるって言うのは簡単だ。自分が絶対正しいマンで居ればいい。

 しかし俺達は失敗から学べる系ぼっちと引きこもりだ。

 

「女神だから、特典だからって……俺、アクアの意思とか完全に無視してたんだな。特典をくれて、転生させてくれて、最初にやたらと下手に出てくるのがセオリーだから、いつの間にか“仕方ないから転生してやる”って気持ちが当たり前になってた……」

「俺も……近くに居てくれてるヤツのこととか、ちっとも考えてなかったわ……。ぼっちが普通だとかそんなことはどうだっていいんだよな……まず別にやらなきゃいけないこととかあったわ……。それさえしないで相手の行動に文句ばっかって……うわー、ないわー、これほんとないわー……」

「………」

「………」

「「はぁ……」」

 

 二人して深い深いため息を吐いて、“明日と言わず今から本気出す”を実行。

 まずは金策。誰かの浪費癖を直そうとしているヤツが、自分で浪費してりゃ世話ない。

 なので手に入る金は銀行に預けるってんでそれを手伝い、俺は俺で佐藤と一緒にキールダンジョンへ潜り、レベリング。アンデッド討伐目的で。

 まだ戦闘だのを渋っていた佐藤だったが、「せっかく出来た義妹に、いつか堕落した格好悪い自分を見せることになるけど、お前それでいいの?」と言ったらやたらと張り切りだした。

 お兄ちゃんとは妹には格好いい自分を見せたいものなのだ、仕方ない。

 

「なぁ比企谷ー」

「おー、どしたー」

「“同郷のよしみ”の話だけどさー。動ける内にやれることをやっとかないと、たとえばどうなるんだー?」

「あー……金だけは無駄に持ってる中年おやじが、金にモノを言わせてやりたい放題する光景を想像してみりゃいいんじゃねぇの? ちなみに屋敷にこもって運動もしなかったから盛大にデブな」

「───俺、本気出すわ」

 

 そうして、「このままじゃ 俺の未来が アルダープ」とか妙な川柳(せんりゅう)っぽいことを言い出した佐藤と一緒に、キールダンジョンで地道なレベリングをして、多少上がれば別の場所へを繰り返し、その日だけでも随分とレベルが上がった。

 金も稼げてレベルも上がる。格好いい自分も磨いていける。

 冒険者とはまさに、良い男になるためにうってつけの職業だった。

 そんな日々が続けば、俺の中からもいい加減、働きたくないでござる精神も薄れるってものであり───

 

……。

 

「「『エクスプロージョン』ッ!! ……あふんっ」」

 

 佐藤がめぐみんを、俺が由比ヶ浜を連れて、一日一爆裂をする日々もその分だけ続いた。

 雪ノ下は佐藤のところのアクアって女神と一緒に、ドラゴンの卵(どう見ても鶏卵です)とアロエの世話をしている。

 

「しっかし、さすがにすごいな、めぐみんの爆裂魔法は」

「ふふっ……もちろんですよハチマン。他のことならまだしも、爆裂魔法に関してだけは誰にも負けたくありません。それにそもそも、紅魔族は基本からして知力が高いので、基礎ステータスでもそうそう負けはしないのです」

 

 「というか紅魔族でもないのに、それに匹敵する知力を持つゆきのんが異常なのです」と続けるめぐみん。まあ、そうな。聞く限り、紅魔族ってのは学校ってシステムの上で知力を磨き、産まれ持った知力のブーストを殺さず活かして成長させているっぽい。

 雪ノ下の場合は産まれた家が家で、事情が事情だ。ブースト云々はなくても、そういう家に産まれたのだからと教えられ、身に着けようとする機会が他より多かった。言ってしまえばそれだけだ。体力はないけど。

 

「うー……あたしももっと勉強とかしとけばよかった……」

「勉強ってだけなら別に今からでも問題ねぇだろ。むしろこの世界のことを学ぼうとすればするだけ、頭の回転も早まるんじゃねぇの?」

「え……そ、そっかな。じゃあ、えとー……ヒッキー? 手伝って……くれる?」

「あ? や───」

 

 やだよ、と言おうとして停止。

 隣を歩く、めぐみんを背負った佐藤が、目を半眼に、口を一文字に引き絞り、じとーと見てくるのだ。

 そ、そうだったな、やさしくな、やさしく。理解の幅を広げ、受け入れる心を持つんだ。

 俺達はもう、義務教育で甘え癖がついた、日本に生きたもやしっ子じゃあないのだ。

 大人になるんだ。包容力のある男に。

 

「あ、あー……そだな。言い出したっぺのなんとやらー……だな。わかった、行くか、買い物。勉強するための道具とか揃えんといかんし」

「ほんとっ!?」

 

 おーおー、爆裂魔法撃ってぐったりなくせに、随分とまあ嬉しそうに。

 やっぱり女ってのはどの世界に辿り着こうと、買い物が好きなもんなのかね。佐藤もさぞかし…………あ? なに。なんなのそのサイン。……めぐみんまでなにやってんのん?

 なに? ブイサイン? ……を? 斬る? え? ちょっとやだこの娘ったらロリっぽい顔と体躯しといて、こちらの二人をSATSUGAIせよとか言ってきなさ───「おい。そこでドン引きして後退(あとずさ)った理由を聞かせてもらおうじゃないか」……違ったらしい。

 じゃあなんなの。え? なにか斬るんだろ?

 2を斬る? 煮切る………………ぉぉぅ。あのロリっ子、眠たそうな顔してカニバリ「おい。だからそこでどん引きしている理由を聞こうじゃないか」違ったらしい。じゃあなんだよ。むしろなんなの。

 べつにいいでしょこっちのことなんて。つか、佐藤もさ、なにやってんの? そんな、指を揃えて広げた掌に、同じく揃えた指先を当てるみたいなポーズ。

 この世の全ての食材に感謝を込めたい……わけじゃないよな。わかったからそこで頬を膨らませるみたいに口を一文字にしてジト目すんのやめろ。なに、お前らその顔好きなの?

 

「……? ───あ」

 

 いや、あれはサインか? ああやって作る文字かなんか……しかも俺だけに伝えようってことなら日本の文字───漢字だろう。つまりあれは───!

 “入”れて、煮切る───! ……結局煮切るんじゃねぇかよ。おいどうなってんのもう。人をからかいたいなら他所でやってくれ。

 

「だからどん引くんじゃねぇえーっ!! お前普段頭キレんのになんでこんな簡単なのがわかんないんだよ! お前馬鹿かぁっ!!」

「あ? なに。ほかにあんの? ていうかな、声にも出さないでポーズだけでわかってもらおうとかなんなのお前ら。周囲がんーなことばっかやってっから、ぼっちがぼっちらしく在るしかなくなってくるんだろうが」

「もう一つあるだろが! 入れるじゃなくて! 逆だよ逆! はい! アレとアレとが支え合って出来る漢字!」

「お前なんで人の文化祭準備期間の黒歴史知ってんだよ」

「うぉおいぃ!? どっ……どんだけ自分傷つけながら生きてんだよお前! 何気なく言った言葉が黒歴史を軽く抉るとかないわ! もうやめて!? 俺に日本語を使わせてくれよ! このままじゃ気を使って、普通の会話も出来ないだろうが!」

「知ったつもりになってゼスチャー押し付ける相手に、なんでこっちばっかり譲るような行為をしなくちゃなんないの。やだよ」

「……お前ほんとよくその応対の仕方で高校二年までガッコ行けたな……」

「ほっとけ。ぼっちにも生き方ってもんがあるんだよ」

 

 入れるの逆。つまり人か。2で人。二人? 二人、で……斬る。

 ふたり……きり?

 …………あーあーあーあ、そゆことー。なるほどなー。そっかー。

 ていうか負ぶりながらゼスチャーとか大変でしょ? いいよ口で伝えてくれたら。俺そういうの慣れてるから。むしろランクで言ったらS級の自負があるまである。いや、この場合は“あった”なのかね。

 

「……で、なんで納得できたーって顔のあとにまたどん引いてるのか説明してくれるか、同郷」

「いや……だってあれでしょお前。俺をぼっちと見込んで、買い物には雪ノ下と由比ヶ浜の二人で行けって言ってんだろ? なんなのお前、静かに俺のライフポイント削っていかなきゃ気が済まないの?」

「違うわぁ!!」

「ちがわい!!」

「おぉおおーおおぉおお前いい加減にしろよ!? 鈍感とかそれ以前にどうすりゃそこまで自分を基準から外すものの考え方が出来るんだよ! うちの女神様に爪の垢煎じて飲ませたいくらいだわ!」

「あー、いいよ気にすんな。伊達に妹にごみぃちゃん言われてねぇから。休日に自宅に籠るのはお手のものだ。いいんじゃねぇの? 女同士の方が行きやすいだろうし」

「し、信じられませんよカズマ……! ここまで言われて、まず自分を“二人”の枠から除外する男性なんて初めて見ましたよ……! これがカズマだったらなにがなんでも自分を捻じり込んで、お供に好みの女性を巻き込んでぐへへって顔をするというのに……!」

「おいやめろよ! なんでそこで俺の性癖とか語っちゃうんだよ! 言わなくていいことだったろそれ!」

 

 ぼっちが我先に輪に入りたがるとか、あるわけないでしょ。

 引きこもり経験があるのに、ぼっちのノウハウも知らないのか……ああいや、ぼっちと引きこもりは違うわな。

 ぼっちはぼっち。引き籠りには、少なくとも追い出されるまでは心配してくれる家族がいるって方向でいい。

 ……どちらにしても家族は居たか。この甘えん坊め、恥を知れ、自称エリート。

 などと軽く自己嫌悪をしていると、由比ヶ浜が力の入らない体でぎうーと俺の首に腕を回していることに気づいた。

 

「なに、どったのお前」

「……べつに、なんでもないし」

「いやいやそうじゃないってそっちの人……! そういう男ってのはさ、そのー……比企谷。お前相当めんどい性格してんのな」

「……、おー、聞き飽きた言葉だな」

「呆れてうんざり顔で、鼻から溜め息吐くほど自覚してんなら、ちっとは直そうとか思ってやれよ! そっちの娘がほんと不憫だわ! リア充がどうとか以前に初めて応援したくなったよ! あ、キールのあれは生き様に憧れたんで別勘定で」

「いや、知らんけど」

 

 しかし女を負ぶったまま会話をし続けるのもあれなんで、佐藤を促して歩き出す。

 その間、佐藤とめぐみんは由比ヶ浜に、対俺用の話術とやらを伝授しているわけだが……あの、二人とも? おたくらが話しかけてるその娘、俺が負ぶってるんですが? 聞こえちゃってるんですが?

 ……由比ヶ浜、とりあえず疑うことなく言われた通りに話しかけるのやめない? 返さないとこれ、俺が悪いみたいになるじゃないの。だから嫌なんだよこういう状況。

 

「……ぁぃ……てるって……ったくせに……」

「?」

 

 そんな由比ヶ浜だが、耳元なのに聞き取れないくらいの小さな声で、なんぞかをぽしょった。

 あい……愛? なんのこっちゃ。

 

 

 由比ヶ浜とめぐみんを宿と屋敷に届けると、俺と佐藤はアロエを手にレベリング開始。

 佐藤のところのクルセイダーが来たがっていたらしいが却下だ。

 こういう場合は男だけのほうが動きやすいっていうのがある。

 むしろ佐藤から、そのクルセイダーの性癖は聞いているのであの……ほんと、勘弁してください。俺そういうのナマで見たくないです。どう対応しろっての。どう適応しろっての。

 

「《スティール》!!」

「よしっ! 《ハレルヤスマッシュ》!!」

 

 そんなわけでアンデッドバトルである。

 バニルの……まああの店主だが、あいつのお蔭でモンスターの大多数がダンジョンから離れて久しいらしく、前に籠った時にはあまり遭遇出来なかった。

 しかし夜ともなればどっかからかはもぞもぞと出てくるわけで、そんなアンデッドを千切っては投げ千切っては投げ。……ごめんなさい嘘です。佐藤がスケルトンから剣を奪ったタイミングに合わせて、俺が浄化魔法や回復魔法を込めた拳で相手を殴り、昇天させるっていうのが主なレベリング方法だ。

 日本に産まれ、様々な漫画ゲームラノベ知識で得た武器を活かし、俺達はそれはもう効率よく討伐が出来ている。

 

「『クリエイトウォーター』!!」

 

 手から水を出す魔法。それに提案して、軽く小枝を持つように指を握り、ホースの先を押しつぶすイメージで魔法を発動させると、普通に放つものよりも勢いよく水が射出され、ゾンビの顔面を襲った。

 朽ちた皮がずり落ち、洗い流されたところでハレルヤスマッシュで破壊。

 近づいたことで襲い掛かってきた他のアンデッドを、

 

『《狙撃》!!』

 

 アロエが適格に打ち抜き、頭蓋を破壊。経験値に変えてみせる。

 あとで佐藤が「いやいや狙撃の発音はな、もっとシヴく、腹の底から鼻にかけてを抜けるようにこう……《狙撃(ソゲキ)》ッ……! って」などとアロエに説明していたが、全力で拒否されて少しヘコんでいた。

 しかしながらその顔はすぐに笑顔に変わり、ぐうっと伸びをすると、明るい声で語り掛けてくる。

 

「いや~……! 前の今日で言っちゃうのもなんだけど、あの三人が居ないだけでこうも動きやすいなんてなぁ! そーだよ! 俺だってやれば出来るんだ! 最弱職なめんなファンタジー!」

「狙撃スキルも持ってたんだな。しかも命中率必中ってくらいじゃねぇの。どうなってんのお前」

「俺、他のステータスはアレだったけど、幸運値だけは高いんだよ。狙撃スキルはさ、ほら。わかるだろ?」

「あぁ、なるほどな」

「いやぁそれにしても、お前がどこぞのイケメンみたいに飛び抜けた能力持ちとかじゃなくて安心したよ。女二人連れて、イケメンで、能力も特典も飛び抜けてる、とかだったらあの、なんつったか。……魔剣持ちだからマツルギか。あいつみたいだったらと思うとなぁ」

「え? なに、そんなヤツ居たの?」

「ああ。魔剣持ちで最初から能力値が高くて、人生勝ち組、みたいな金髪ヤローだ」

「………」

 

 頭に浮かんだのは葉山だった。

 

「女にやたらやさしくて、好かれてて、他人事なのにこっちの事情にまで首突っ込んできて、正義を押し付けてくるっつーか」

 

 ……葉山だな。

 

「あそこまでテンプレな流れをやられるとは思わなかったよ。自分が勝ったら特典であるアクアをよこせとか言ってくるんだぞ?」

 

 ……葉山でもそれはないな。

 

「で、俺が勝ったから、当然こっちも特典を選ぶだろ? そしたら相手側の仲間が卑怯者卑怯者言ってきてさぁ。最弱職の男一人を相手に、ソードマスターが魔剣持ったまま挑んでくるほうがよっぽど卑怯だろうに」

 

 ああうん、ないわ。葉山だったら相手に戦闘形式選ばせて、相手が納得する条件まで自分が合わせて、その上で勝ってみせる。

 想像するのも腹立たしいが、そこまでやってこそ、出来てこその“みんなの葉山”なのだ。

 天敵は“人間関係の修羅場”な。それ以外だったら最強なんじゃないのかね、あいつ。

 忌々しいけど。ほんと忌々しいけど。

 

「ちなみに俺は、ギルドの受付に初っ端から盗賊奨められたぞ。男として前衛に憧れを抱いてたのに、いきなり盗賊奨められた俺の気持ち、わかる? 潜伏スキルとか敵感知スキルに強い適正があるのでどうぞ、とか。異世界に来て、受付にまでぼっち認定されるとは思わなかったわ」

「かける言葉が見つからない……!」

「普通さ、こういうの転移特典とかあるもんだろ。ほらあのー……なに? 転生とか転移もののセオリー的な意味で。ファンタジー世界に来たら魔法は撃ってみたいよな? 知力には、偏りはあっても多少の自信はあったんだよ。なのに盗賊だと。他はプリーストだと。雪ノ下はアークウィザードとして優秀で、ポイントが足りなかったから中級魔法だが、それでも威力が普通じゃない。由比ヶ浜はステータスが低くて冒険者にしかなれなかったが、その分ポイントがアホなくらいあったらしい」

「訊いてなかったけど冒険者なのかよ! あ、そういやドレインタッチがどうのって……」

「おう。で、冒険者なのに爆裂魔法覚えて、まだポイントが余るくらいにポイント持ってたんだ。俺なんて8だよ? 特典らしい特典なんて一切ありゃしない」

 

 まあ、初心者ブーストってのが特典らしいってのは、仮面の店員バニルさんと話し合って理解はできたんだが。

 ちなみにHPMPがブーストされるだけで、変動はない。レベルアップしても数値はそのままで、レベルに見合った数値として世界に認識された時点でようやく変動が起こる。

 だから俺達は、いくらレベルが上がろうが……あぁほれ、あれな。現在のMPが100として、レベルが10上がろうと100のまま。20レベルあたりの冒険者の平均MPが100ですよってところまで来たら、ようやく21レベルからMPなどに変動があるって特典らしい。

 こうなるとレベルの上げ甲斐があんまないんだよな。いや、最初からHPMP高いのはほんとありがたいけどさ、カエルに食われたら一撃だもの、笑えない。

 

「そりゃ、アクアを特典として、って聞けば文句を言いたくもなるかー……なんかほんと悪いな」

「あー、いーよ。ただ、ほら、あれだ。俺が言うのもなんだけど、当たり前にあるものに感謝すんのを忘れたら、その時点で人間的に終わるから、それは忘れんなって話だ。仲間だからそうするのは当たり前だ、とかじゃなくて、慣れちまったから言いづらいことでも、口に出してみりゃいい。大変忌々しいことに、当然のことなのに忘れちまうんだよ、俺達は。……言わなきゃ伝わらないなんて、当たり前なのにな」

「実感、籠ってるんだな」

「伊達に長年ぼっちやってねぇよ。お前も引き籠る前に告白でもして、盛大にフラレてりゃあいろいろ吹っ切れてたんじゃねぇの?」

「それ、最近よく思ってるよ。予測だけで離れて、ビッチ呼ばわりは勝手だったって」

 

 先に立つ後悔があればね、ほんと。

 お互い溜め息をこぼし、夜空の下で軽くごつんと拳を合わせた。

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