どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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タイトルは、キミはぼっちじゃない! より。
言うほどコミュ障じゃないよね、ヒッキー。
タイトルを最新話と交換しました。
あっちの方とこちら、もともと一話だったものを分割したもので、タイトルの意味はどちらかというと次話にあるので。


キミはぼっちじゃない!(ただしコミュ障ではある)

     8

 

 後日、賞金は支払われた。

 なんと十億エリス。魔王軍幹部討伐で貰えるのが大体3憶エリスらしいので、3倍以上である。

 それを持って佐藤の屋敷に集まり、まずはパーティー毎で分けて5億エリス。それをそれぞれのパーティー間で山分け。

 と、普通ならなるのだが、今回は貯金だ。理由は……まあ、いろいろある。アロエから聞いた必要金額とか、まあほんと、いろいろ。アロエからはこのパーティー内でなにかがあって、金が必要になるくらいしか聞いていないため、具体的なことまではわからない。が、必要なことなので躊躇はしない。

 こちらのパーティの金に関しては、俺が稼ぐ分には好きにして構わないと、雪ノ下や由比ヶ浜からは許可を得ている。一緒に相談した筈のゆんゆんが、「え? わ、私にも相談してくれるんですかっ!?」とか驚いてたけど、まあともかく許可は得ている。

 

「いいか佐藤、売れるものは売れる時に全部売る。知識ってのは金の成る大樹だ。人の発想はそれだけで金になる。たとえば俺が人生論を本にして出版したとして、買う人は居ると思うか?」

「居ないと思う」

「居るよ。少なくともゆんゆんは買う。出版のための費用とじゃ釣り合わないが、買う人は居るんだ。で、俺達がするのは出版か? 違うよな。権利を売るんだ。必要な元手はなにもない。知識だけだ」

「お、おう」

「たとえばダイエットに効果のあるものだったらご婦人方に大好評。軽い運動で筋肉の発達に効果的なら、お前がたまに言ってる腹筋が割れているとかいうご令嬢とやらも───うぐぉあっ!? ちょ、なにっ……なんで首を絞めっ……くっ、ぐるぜいだーざっ……!!」

 

 なんか知らんがクルセイダーさんに首を絞められた。もしやご令嬢となにか関係が? そういや由比ヶ浜にららてぃんとか言われてたが……いや、ないだろ。佐藤にからかわれてぶっ殺してやるとか叫んだり、敵の大群に恍惚とした表情で突っ走るような女だぞ? ないよ。

 そんなことを考えつつ、金策はやめない。あ、一応クルセイダーさんからは逃げた。殺される。あの人、握力とか絶対に花山さんレベルだよ。

 

 でだ。金っていうのは運が巡っているうちに集めるもんだ。

 一気に手に入れたら、次は欲張らず、ちまちまと稼ぐのがいい。

 博打ってものには流れがある。

 流れは、その方向を間違わなければ身を任せるだけでいい。

 けど、間違えれば一気に無くすものだ。失くすものだ。やがて亡くなる。それが博打に身を費やす者の定め。

 新聞配達してて、パチンコ屋の二階にある部屋に新聞届けてみたら、そこが実はモニタルームになってて、ルーレット管理とかしてるの見ちゃいましたー、って場所では絶対に博打はしちゃいけない。

 初めてパチンコやったのになんかいっぱい勝てた! って喜んだキミ、次回からそこで搾取が始まるから、儲けたら二度と行っちゃいけない。

 つまりはそのー……金儲けは“出来る限り”にしておけってことだ。

 自分の範疇を越えたものに、大丈夫なんとかなるで踏み出せばほぼ破滅する。

 なので、自分が納得してそうしようと思った知識は売って構わない。相手がその知識で納得して買い取るのだ、そこに不正など存在せず、手に入れた金は正当なものだ。

 そんなこんなな理屈や理由を以って───現在。

 

「で、我輩のもとへと来たわけか。実に結構! 即断即決大いに結構! その潔さに免じて、そして足労せずに済んだことに免じて、なによりあのなんちゃって女神と顔を合わせることがなかったことに免じて! ……決して損をさせぬ商談を、始めようではないか」

 

 俺と佐藤の二人はニヤリと笑うバニルと、紅茶を用意してくれたウィズさんに迎えられ、魔道具店の店内にて、俺達の商談は始まった。

 ていうか訊いてもいないのに、バニルが今回のヒュドラ騒動とクルセイダーさんの様子がおかしいことを語ってくれた。

 どうやら佐藤が気にしていたらしく、俺が知っていいのかわからんことまでペラペラと教えてくれる地獄公爵先生。

 その内容っていうのが、あ、あー……なに? だすてぃねす家? の借金がどうのの話らしく、他人事ながら聞いている内に胸糞が悪くなる。貴族あるあるのお話だ。

 俺よりもこっちの世界が長い佐藤なんかは、怒り任せにテーブルをゴガンと殴り……激痛にのたうち回ってるところにヒールをかける俺。

 お前さ、もうちょい格好よく出来ない? いや、俺お前のそういう人間くさいところ、とってもいいと思うけど。

 

「しかしそこな目の腐った男よ。何故急に金を集めようと思った? こちらの下心満載のくせに、いざとなれば手を出せぬ男から事情を聞いたわけでもあるまいに」

「自立するアロエ」

「うむ理解した。なるほど、他人の不幸を知り、動けるとはまた随分とお節介焼きな人間だ」

「しゃーないだろ、そういう部活やってんだよ。困ってる人全員助けたいわけじゃねぇけど、知り合ったヤツがそんなんだと、その、なに? ……寝覚めが悪いんだよ。あとわかってると思うけど、それだけじゃねぇから」

「フハハハハハ! いいぞ少年! 偽りなき言葉で最初から話す人間など久方ぶりである! そして経験上、黒歴史を思い返さずにはいられない貴様のその悪感情、実に甘露! あの、“もう悪魔が友達でもいいや”と魔法陣さえ描いてしまう紅魔の娘よりなお深い過去を抱き、だというのにこの状況を前に立てるのも見事の一言。絶望の悪感情は好みではないのでな、立ち上がる人の子よ、絶望ではなく羞恥に打ち震えてくれたまえ」

「ちょっと? なんなのお前。ぼっちに寄生して人生送った方が幸せに生きられんじゃないの?」

「生憎だがそれだけでは地獄の公爵は満足できんのだ。むしろ我輩が望む、極上の悪感情を味わいながら滅びられるのであれば、場所なぞまあどこでも構わん」

「……。スルーで。で、だ。こうしてお前さんに売った知識や案で稼いだ金と、今回のヒュドラ討伐の賞金で、借金である二十億エリスと、余分の金が集まったわけだけど。悪魔さん悪魔さん? 見通す悪魔が首を突っ込んで契約話を出してきたなら、とことんまでやってくれないと困るんだが」

「む? ……フフン、なるほど。安心するのだ、目程に心は腐っておらぬがべつにそこまで整っているわけでもない顔立ちの男よ。その問題に関しては我輩も、迎えにいかねばならん相手が───おおっとこれはまたしても美味なる悪感情。貴様いったいどれほどの黒歴史を抱いているのだ? その顔で自分の顔は悪くないとでも公言したことがあるような羞恥ではないか」

「やめて!? やめてください!」

「フハハハハ、事実であったか! フハハ、フハハハハハハハ!!」

 

 痛恨! かつて雪ノ下に言った言葉が、今まさに俺の心を突き刺す!

 自分で言うのもなんだが顔は整ってる方だ……整ってるほうだ……ほうだ……ホウ……フォーウ!

 やばい死にたい恥ずかしい! もうやだおうちかえりゅー!!

 

「おっと、大変美味だが待つのだ少年。確かに我輩、想定している未来に血沸き肉躍るような期待を持っているわけだが、それもまた貴様らがきちんと動かねば話にならん。動いてもらわねば我輩も少々面倒でな。探し人が解放されるまでは迂闊に行動することも出来ん。なので、見通す悪魔、バニルさんが断言しよう。貴様らは感情の赴くままに動くのだ。今しか出来ない青春とラブコメを、思う存分謳歌するがよい」

「やりたいこと……ねぇ」

「……んじゃ、アレな。大衆の面前でえーとその、もるどふ?」

「アルダープな、比企谷」

「そうそれ。そいつに、“きっちり二十億エリス、払えるものなら払ってみせろ”とでも言わせりゃいい。で、その上で突き付けてやりゃあ文句は言えない。んだけど……な。すまん、ちょっといいか?」

「? なんだよ」

 

 計画を纏める内に、どうしても引っかかる事柄が出てくる。

 佐藤も気になっているだろうに、どうしてかそこに目を向けようとしない。

 もしやなにかある? 異世界ならではの事象っつーか、マインドコントロール的な何かが。

 

「いや、皆まで言うな、賢しい腐れ目の男よ。この場に必要だったのは貴様のような、自分が混ざっているにも関わらず、場を客観的に見ることの出来る存在だ。それが気になり、我輩に訊ねようとしたのなら、我輩もまた悪魔の契約の名の下に答えよう。悪い噂しかなさそうなのに、地位を剥奪されない領主が存在としておかしいと言いたいのだろう? 然り、貴様らの仲間である鎧娘や、その他の者は皆、とある悪魔の影響で記憶をぼかされている」

「……マジか。それってどういうレベルでだ?」

「見当はついているのにわざわざ訊くのは人の癖であるな。だがそれは怠惰だ。言いたいことは口に出せ。見当違いのことを口にしようが、我輩の食事になるだけであるからな! フハハハハハ!!」

「お前ほんといい性格してるな。……えっとな、比企谷。アルダープ関連でおかしなことと言えば、裁判の時にもあったんだ。裁判長や検察官が、やけにアルダープの意見だけに協力的だった。あれじゃ裁判の意味がない。大衆の面前で、領主があんなことをすりゃ問題にしかならないのに、それが問題にもならずに通ったままなんだ。おかしいだろ、あれ。ダクネスがなんとかしたにしたって、それがアルダープのマイナスになってないんだ」

 

 言って、佐藤はその時の裁判とやらの状況を語ってくれた。

 聞けば聞くほどなんだそりゃだ。明らかにおかしいのに、裁判官も検察官も罰せられるわけでもなく、領主の権力行使も問題になっていないとくる。

 

「今話を聞いただけでも、そのアルダープってヤツの不利益になることがぼかされすぎだ。で、こういう状況だとアレだろ。お前の探し人? 悪魔? ってのが、アルダープと一緒に居たりするんだろ? で、アルダープはそいつと契約してるから、そんな最低な噂が流れる領主なのに、今も平然としていられる」

「ふむふむなるほど、随分とまあ人の黒いところに思考が回るらしい。人の黒さそのものをその身で味わわなければ出し切れぬ思考だな。フハハ、エリートぼっちというのも伊達ではないな。そんな性格だから友も出来なかったであろう腐り目の男よ」

「うっせ、一言余計だ」

 

 ていうか発言の度に古傷えぐるのやめて。ほんとやめて。

 

「あぁあとほら、あれだ。他になんか、簡単に収める方法とかねーの? 領主様がぼかしてるものを明るくさせちゃって、一気に潰すとか」

「ふむ。生憎だがその豚、おぉっと豚に失礼か。領主が頼っている悪魔がな、その領主を丹念に仕込んでいる最中なのだ。あと少しで極上の悪感情が完成するのだが、その“あと少し”が鎧娘との結婚で整いそうなのだ」

「おいふざけんな! お前の食事のためにダクネスを───」

「急くな、お得意さんな少年よ。この店の発展の貢献をしてくれた貴様だ、後のことはともかく、今はひとまず貴様の望みは果たすつもりである。そして生憎と、我輩はそういった方向の絶望の悪感情は好みではないのでな、どうせならば達成と落胆の差で食事をさせてほしい」

 

 独白で舞台を整える演出家って、なんでも思い通りに運ぼうとするからやりづらい時、あるよな。

 いっそ望まない方向に動いてくれようかって思うのに、それをすれば良い方向に進まないのがわかりきっているからやってられない。

 その上、それを見越して交渉をしてくるのだ、こういう輩は。

 しかもそういう輩は、俺達人間がそれがベストと思う、さらに上をいける人外の能力を武器に交渉してくるのだ。

 自分が描いていたさらに上の“最善”があるなら、飛びつきたくなるだろう。だからこそ、悪魔ってのは交渉を好み、対価を求める。困ったもんだ。

 

「悪魔との契約は絶対、ってのがよくある話だよな」

「当然である。だが貴様ら人間は随分とまあ舌が回るし悪知恵も働く。その身は働かぬというのに、頭だけは重労働とはいやはや全く、実に愉快な生き物である」

「まあそうな。屁理屈こねて、責任から逃げたがるのが人間ってやつだと俺も思うわ。けどな、ぼっちは逃げねぇよ。自分のことは自分で決着をつける。この場合、俺がやりたいからここに立って交渉してるっつーことで。ほら、あれだ。……わかんでしょ悪魔さん」

「ふむ。その考えは連れの二人を傷つけることになるが、……おっとこれまた珍味なる悪感情。どう扱ってよいものか、本人でさえ持て余しているというのか」

「交渉材料、支払いは案か金かでいーんだろ? 聞きたいのはそういうことじゃないんだよ」

「で、あるな。……では、仲間とはいえ、咄嗟に熱い言葉を放って恥ずかしがっているお得意さんよ、貴様にひとつ提案をしよう」

「お前いちいち人の恥ずかしさを抉らないと気が済まないのかよ! おぉおお思ってないし!? べつにダクネスのためにふざけんなとか言ったわけじゃねぇし!?」

 

 あぁ、やっぱ恥ずかしかったのね。

 あぁうんわかるよ? それ恥ずかしいよね、一時の感情で叫んじゃったりすると、後がこう、ね?

 

「結婚式は始まるまで待ってしまえ。そして、途中で乗り込んで花嫁を奪うがよい」

「おまっ……!? 考えなかったわけじゃないけど、それを本気でやれってのか!?」

「あの領主からは、公衆の面前で言質を取る必要がある。それも、悪魔の力でもぼかし切れんほどにな。生憎だが悪魔がした契約を、我輩が勝手に崩すわけにもいかんのだ。あの領主と我輩の知り合いとの契約が切れるのならば、我輩もそれはもう嬉々として全てを打ち明かし、盛大に楽しむこと請け合いなのだが」

「あー……魔法とか契約のことは深いところまでは知らんけど。契約破壊の魔法とかないの? 魔道具店でしょここ」

「そのようなものがあるのであれば我輩が真っ先に───」

「ありますよ?」

「「「───……はっ!?」」」

 

 話し込み、男三人でうんうん唸っているところへ、軽い調子で美人なリッチーさんが声を届けてくれた。

 え? 今……なんと? あるって言った? あるって言ったの? 今。

 

「ウィズ? 今、なんて……」

「ええ、ですから、ありますよ? 契約破壊の魔道具。紅魔の里から仕入れたもので……はい、これなんですけど」

 

 ウィズさんが戸棚の奥からゴソリと取り出したものは、妙な文字が書かれた……あの、なに? ス、スクロールっつーのかね。ともかく、書状のように象られた生き物の皮っぽいものだった。

 

「すごいんですよこれは! この皮紙に契約者の血液をつけるだけで、その人が支払うべき全てを強制的に支払わせて、契約を一気に破壊できるという、それはもう素晴らしい道具なんです!」

「……待て、ポンコツ店主よ。それを買う金はいったいどこから───」

「え? あ、はい、地下に纏めてあったお金から。大丈夫ですよバニルさん! これは絶対に売れ───、あの。な、なんでまた殺人光線のポーズを取るんですか!? だだだ大丈夫ですよ!? これは本当にすごいものでっ……!」

「ちょ、ちょっと待ったバニル! 待ってくれって! ものによっては使えるかもしれないから! なんだったら買うかもだから!」

「へい毎度! フハハハハ、買うのであれば我輩も文句はない! 時に店主、これはいかほどなるか? 悪魔との契約を人間の都合で強制的に切るのであれば、相当な額になると思うが───いや、しかし強制的に対価を支払わせるというのであれば、厄介なこと極まりない……うむ? いや、むしろどうのこうのと言い訳を口に逃げ出す人間相手ならば、我輩ら悪魔の方こそが欲する道具……ふむ?」

「は、はい。一つ200万エリスに───」

「よし買った」

「速いな!? お、おい比企谷? もうちょっと考えてからでも───」

「そっちの悪魔が値段を吊り上げる前の方がいい。悪魔が得する商品で、なにより今の俺達が欲してる魔道具だぞ? 値切りだのなんだのを口にするより、最初の値段で買うんだ。悪魔相手に欲を出すとろくなことにならない。悪魔との契約は絶対だ。疑うよりも、その“確実な部分”を究極的に信じろ」

「ほう! ほうほうフハハハハハ! 貴様は悪魔との交渉というものがよくわかっているのだな! んん? 腐っているその目は伊達ではないということか! 先に言った通り、即断即決大いに結構! 悩み、悪魔に時間を与えるなど、交渉手段としては愚策にして下策。まあそれは悪魔から見た人間も大して変わらんのだがな」

 

 まあ、そうでしょうよ。人間は時間があれば、あらん限りの抜け道と言い訳を用意する存在だ。

 交渉するっていうなら、相手の性格ってものをよく考えて決めなければならない。なにせ、長引かせることで逃げ道を塞いで追い詰める者も居れば、精神的に参り、悩みから解放されたい余りにどんな要求でも呑んでしまう輩だっているのだ。

 交渉ってのはそういうのきちんと見極めなきゃね。だから、観察眼を持つぼっちこそが泥をかぶるのが一番。……なんだが、それをすると怒るのがこっちには居るから、それはもうしない。泥を被るんじゃなく、解決策を探さにゃならんのよ。

 解消策なら見つけやすいのにね。

 

「で、問題はその領主ってのの血をどう取るか、なんだけどな」

「今の状況であの領主の傍に近づくことは不可能であろうな。なにせ(きた)る結婚式のため、警備も厳重にしているだろうし、その上で式の日取りを急かしているに違いない」

「んじゃ、あれか。式を取り仕切るやつらの中に紛れ込んで、どうやってでも血を採取する。佐藤、お前はどうだ?」

「顔が知られてるから厳しいな……潜伏スキル使って紛れ込むことは出来ても、血液採取って状況になればさ、ほら……領主を傷つけた罪人って罪状が簡単に作られちまうだろ」

 

 潜伏しながら攻撃はやっぱり無理か。

 じゃあ結局のところ、顔が知られてない俺がってことになるな。

 ……ところで結婚するのってララなんとかさん? それとも佐藤がふざけんなって庇ったクルセイダーさん?

 アロエからは金が必要になるってことしか聞いてなかったし、こっちも打算的な意味での協力だから、根掘り葉掘り訊ける雰囲気じゃないし。

 あれ? ララなんとかさんがクルセイダーさんなのか? だよな、ららてぃんってあだ名がつけられたんだから、そうだ。でも結婚するのはお嬢様とかなんとか……あれ?

 

「潜入するにしても、見つかってもすぐにはバレないような格好がいいな。どっかで服でも借りるか」

「比企谷、お前さ、こういう状況に妙に慣れてないか?」

「や、だから。ガッコでな、そういう巻き込まれ系の部活やってたんだよ。それだけだ。断れば黙ってない先生が居て、居留守使おうとしても黙ってない先生が居て、相談されるたびに生徒任せの先生が居たって、それだけの話だろ」

「なにしに学校来てんだよその先生!」

 

 おうもっと言ってやれ、言ってやってくれ、マジで。

 

「けど、部活か……。他の二人も、なんだよな? 大丈夫なのか? お前だけで」

「……、黙ったままで行動して、よかった試しがなかったりするんだよなぁ……。ああほらアレだ、ぼっちってのは存在が薄いから、自分にヘイトを集めて喧嘩してる相手同士を結託させて仲を取り持つ、なんて行動で無理矢理案件の解決……ああいや違うか、解消とかしてきたわけよ。で、ほら、その、アレだ。佐藤的にどう思う? そういう部活仲間」

「なめんな」

「……やっぱそうなるか」

「お前さ、先生にどうこう言われようが、本気で嫌だって思ったら部活なんてやらないタイプの人間だろ。なのに続けるってことは、きちんと自分の居場所、見つけてるってことじゃんか。居場所、自分で壊すような真似はやめろよ。お前が俺に言ったんだろうが。俺にとっての幼馴染がそれなら、お前の場合はその仲間たちだろ」

「うわあ……やだ恥ずかしい……! 青春しってるーゥ……!」

「うるっさいなわかってるよ! 恥ずかしいんだから素直に頷いとけよ! お前ほんといい性格してんな!」

 

 はい、相談決定。雪ノ下と由比ヶ浜に話を通して、こうなりゃ仲間外れは絶対に無しってことで、アロエにもゆんゆんにも相談させてもらうか。

 あいつらなら、ぼっち理論や引きこもり理論の外側の意見も聞かせてくれるだろ。

 

「プランは完成したかな? 腐眼のヒモ男よ」

「ヒモじゃなくて専業主夫だっての。あとその夢、この世界じゃ投げっぱなすから忘れてくれ」

「結局のところ、どうやって潜入するかが問題だよな。警備を強めてるなら、警備する連中もお互いの顔くらい覚えてるだろうし」

「そこんところはうちの連中と話し合ってから決めるわ。とりあえずあんま考えすぎてもアレがアレだし、今日は解散ってことでいいか?」

「アレってなんだよ……そういうところ、つくづく現代日本って感じするわ」

「同方向の考え方でしか案を出せねぇってところだよ。こういうのはアレ……あー、少し時間置いた方がのびのび考えられるから」

「明日から本気出す系の考え方だろそれ……」

「……そうでもねーよ。もうとっくに本気だ」

 

 だから他人の力を借りるんだ。

 ぼっちじゃダメだから他人を頼る。それは、ぼっちからしてみりゃ全力以上の力を求めることだ。

 で、そうするからには絶対に解決させる。解消じゃ済まさない。

 決意を胸に店を出て、部活仲間の二人が泊まっている宿を目指した。

 佐藤も屋敷に戻るつもりなのか一緒に店をあとにして───

 

「……? 屋敷、こっちだっけか」

「いや、俺のパーティーのことで迷惑かけてるんだ。説得とかあるなら手伝わせてくれ」

「……お前、案外面倒見いいのな。年下のくせに」

「うるっせ、年下だとかなんだとか、この世界の生活方面じゃ俺の方が先輩だっての。……面倒見がいいっつったって、主に巻き込まれて、後処理を押し付けられてばっかだけどな。“しょうがねぇ”だろ。仲間なんだから」

「そだな」

 

 ぬぼーっとした顔で空を眺めながら、相槌を打って……それから顔を引き締めた。

 で、まずは確認。結婚するってのはお前んとこのクルセイダーさんでいいんだよな?

 

「そこからかよ! どんな話として聞いてたんだよさっきまで!」

 

 それな、ほんとそれ。ツッコまれたが、大事なことなので。

 そういう話し合いをしながら、今ではゆんゆんも泊まっている宿へと到着。

 部屋の前まで歩いて、ノックして、声かけて、許可を得てから中に入る。三人部屋だ、豪華なこって。

 ……あ? なに。急に入ってラッキースケベとかないからね? 着替え中に入っちゃうとか、ほんとそんなのないから。

 おう、だから、佐藤が入ろうとしたのを即座に止めた。

 幸運値が高いといろいろ不安なんだよ。どっちの運に転ぶかわからん。

 覗けてラッキーか、覗けなかったから制裁がなくてラッキーか。

 不安なら止めるのが正解だ。そしてきっとこいつは、一時の制裁よりも女体の神秘を選ぶ。なんかそんな気がする。なので全力阻止。

 ……まあそんなわけで。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜、ゆんゆん、アロエ。……力、貸してくれ」

 

 入るなり頭を下げ、そう言った。

 まずは誠意だ。協力を得たいならそいつを以って、下手な回りくどい問答をするよりも欲しいものを口にする。

 

「佐藤のパーティーのクルセイダーが、本音じゃしたくもない結婚をさせられそうになってるそうだ。そいつをぶち壊してやりたい」

「うんっ! やろうっ!」

 

 一も無く由比ヶ浜が賛成してくれた。……え? 考える時間とかなくていいの? 俺が言うのもなんだけど。

 

「好きでもない人と結婚なんて、絶っっっ対! 有り得ないっ!! そんなの壊さなきゃだめ! やだ!」

「いや、やだってお前……あ、あー……雪ノ下?」

「そうね。いろいろと事情があるのね? でなければ、あなたが率先して動くはずがないもの」

「……そうな。打算的な話がないわけじゃねぇよ。俺たちが帰れるか帰れないか。それは佐藤んところのアロエにかかってる。恩を売っておこうって、それだけだよ。金をいくら積んだところで、帰ることが確定するわけでもないしな。だったら、使い道は……ほら、その……あれだよ。そういうこった、つまり」

「……ヒッキー。えと、それってさ」

「由比ヶ浜さん。その男は“そういう男”よ」

「ゆきのん……えへへー、だよねー♪」

 

 ……? なんで笑ってんの。そういう男って言われ方して、なんで“しょうがないなぁ”って顔で微笑まれてんの俺。

 あ、あー、まあ今はいい。

 

「でだ。佐藤んとこのパーティーの中の一人が、領主が契約してる悪魔の所為で、結婚を受け入れるように操られてるって言ったら……信じるか?」

「……。つまり、無意識の内に思考の基準をすり替えられて、自分で了承していると彼女自信も疑っていないということ?」

 

 いや、察し良すぎでしょ部長さん。どんだけスーパーコンピューターチックな頭してんの。

 

「ああ。最近知り合った悪魔から聞いた話だ。……信用できるんだよな? 佐藤」

「おう。胡散臭いやつではあるけど、契約の上では絶対に信用していいと思う。対価はもう支払ったんだから、賭けなきゃ進めないだろ」

「……まあ、っつーわけで。ゆんゆん、ちっと領主に喧嘩売ることになるんだけど、いいか? あ、そろそろ口調は師弟間っぽいのを抜いて、友達感覚でしてくれると助かるんだが」

「ともっ───は、はい! えっと、じゃあ……違いま……ち、違うわよ、ハチマンさっ……! さ、さささ……ハチマン! だってそれって、先に喧嘩を売ってきたのは領主様のほうじゃない! 紅魔族は売られた喧嘩は絶対買うの! それに……好きでもない人と結婚なんて、絶対に……絶対に許せないわ!!」

 

 口調を弟子チックから普通にしようと頑張ってくれたゆんゆんが、噛みまくりつつ怯えつつ、しかし最後にはきっぱりと言った。

 おう、そうな。結婚は大事だよな。“離婚してぇ”って日々思うような相手とだけは絶対に勘弁だわ。

 

「その。アロエも、いいか?」

『任せてほしいのです。なんでしたら相手の意識の外から狙撃することだって……!』

「やさしいままのキミでいてくださいお願いします」

 

 知り合いの女性が強いコばっかだから、マジにお願いします。

 ほんと戸塚って女神な。どこぞの駄女神なんて目じゃないよ?

 

「雪ノ下も……いいか?」

 

 訊ねる。さっきから考え事でもしているのか、一点を見つめながら黙っていた雪ノ下。

 そんな彼女は考えるために下ろしていた視線を持ち上げ、真っ直ぐに俺を見て言った。

 

「……わかったわ。詳しい話を聞かせてちょうだい」

「あっ……ゆきのんっ! 手伝ってくれるのっ!?」

「いえ、その……勘違いしないでほしいのだけれど、これはあくまで領主としての立場への粛清と、権力による暴力を正してやりたいだけで……! だ、だから、由比ヶ浜さんっ……! 近いと何度も言って……!」

「ゆきのんっ! ゆきのーん!」

 

 がばーっと抱き締められ、顔を赤くしながらおろおろする雪ノ下。

 そして、それを見てえびす顔で頷く佐藤。

 

「ンム。美しい女性同士の絡み……いいなぁ」

 

 なんか睫毛長くして凛々しい声で言っているが、気にしないでおこう。

 つか、その二人を見てそういう顔されると、なんか腹立つからやめない?


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