どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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 俺物語を久しぶりに見たら、なんか書きたくなった短編的ななにか。
そのくせ続くらしい。
 あ、葉山が幼馴染なため、その影響が各地に出ておりますが、大した物語性は望めません。
 純粋に、あ、なんか書いてみたいと思ったものをそのまま書いてみた、傍迷惑なSSです。
 今回は珍しく、誰√、などのお話ではなく、俺ガイルで俺物語をするとどうなるか、的な実験SSです。
 八結ではなく、むしろ誰ルートでもございませんので、お気をつけのほどを。


短編的ななにか……?
ある、どこかで曲った高校物語


 ───俺の名は比企谷八幡。高二だ。

 容姿は普通。顔面偏差値も普通の、まあ何処にでも居るような、高二と言える。

 かつて───そう、たとえば数年前の中学二年の頃に、少々精神をこじらせて、“自分は自分で言うのもなんだが結構格好いい”だのと脳内にてお花畑を満開にさせたこともあったが、今では落ち着いている。

 自分は普通。

 その考えに迷いはない。ないったらない。気づくのが遅すぎたくらいだ。

 

「八幡、帰ろう」

 

 で。今目の前で、俺に笑顔を向けるこいつの名は……葉山隼人。

 こいつこそまさに、俺が唱えられるであろう格好いい男ってやつで、俺はその隣に立っている。

 立っているって言葉は少し変かもだが…………なんで俺とこいつが友達なんてものをやっているのか、俺自身から見ても……結構謎だ。

 

「んで。どうだったんだ? 告白」

「断った。好きじゃないし」

「あっさりしてんな……」

「そうかな」

「そうだよ」

 

 なんでもないような日常会話の中で、今日もこいつは告白女子を振ったのだという。

 こんな会話が日常会話になってしまうほど、葉山隼人という幼馴染はモテた。

 そんな男と幼馴染をやっている俺はといえば……対照的にと言っていいほどモテたりはしなかった。

 隣にこいつが居るから? いいや違うだろう。ていうかいちいち他人の所為にしなきゃ前も向けない男が、人に心から好かれるわけがない。

 こいつに対する嫉妬の心は最初から持ってはいない。

 何故ってまあ……友達だからだ。

 むしろこいつを好きになるなら見る眼があるな、くらいは思える。

 ただしオプション目的、ファッション感覚で自分のものになれとかほざく連中は別だ。

 

「お前自身、好きなやつとかいねーの?」

「居ない。ていうか目的が俺自身じゃないとか、興味なんて沸かないだろ」

「きっぱり言うのな」

「そう?」

「そう」

「そっか」

「おう」

 

 隼人の親は弁護士をしている。

 俺達が生まれる以前から友人関係にあった俺の両親と、仕事の都合で再会したらしく、意気投合。

 仕事の都合で家を空けがちな葉山の両親は、俺の両親に隼人を預けてはてんやわんやだった。

 で、そうなれば当然、俺達が一緒になる機会は増えるってもんで。

 俺達はまるで兄弟のように育ち、だからといって喧嘩をするでもなく、まあ普通に育ってきた。

 モテるこいつのことが妙に誇らしいのは、その人間性を知っているからだ。

 まあ、こいつ他のヤツの前ではあんまり笑わんようなのだが。

 

「家帰ったらどうする?」

「ん。宿題終わらせて勉強して、遊ぶ。いつも通りだろ」

「そか。ってーか、いいのか? 俺のこと気にしないで彼女でも作ったらどうなんだ?」

「いいよ。心惹かれる相手が居るわけでもないし、話聞いててもつまらないし」

「お前の笑顔が見てみたぁ~いとか言ってる女子が聞いたら、泣きそうだな」

「笑えないのに笑う理由なんてないだろ」

「そか」

「ああ」

「………」

「………」

「そういやな」

「うん」

「昨日の夕方、小町に頼まれて卵と牛乳買いに行ったんだ」

「うん」

「途中で迷子になってる子供を見つけて、あ、これやべぇって思ったんだけどな」

「うん」

「道の真ん中だから迷子センターがあるわけでもない。だから近くの警察まで届けようとしたらな」

「うん」

「人攫いと思われたらしくて、通報された。警察の方からこっちに来たわ」

「ぶふっふ! ……~……あっはははははははは!!」

 

 おお、笑った。

 いやほんと、笑顔を見たことないとか、普段どんな会話で盛り上げようとしてんの、ガッコの女子ってのは。

 俺との会話だとよく笑うんだけどな、こいつ。

 

「あっは、は、はー、はー、……ふぅ」

「落ち着いたか?」

「───……あっはははははははは!! あっは! あははははは!」

「人の顔見て笑うなよおい……」

「ご、ごめっ……ぷぶぅっふふ! ぷくふふふはは……!」

 

 自分で言うのもなんだが、俺の目はおかしい。

 そうしたかったわけでもないのに死んだ魚のような目で、人生にはまだまだ綺麗なものがあるんじゃぞと、妙に達観した気分で自分に言い聞かせようが、輝いたりなどしなかった。

 何が足りなくて、そんな人生どうでもいいですみたいな目になったのか。

 なにか。心を満たすような出来事でもあれば、変わるのかね。

 そんな俺の友人に、葉山隼人。ほんと、どうしてこうも違う二人が友人関係なんだか、ほんと、わからん。

 

「ん……そういや今回の女子も、同じ中学のやつだったっけ」

「ん? んー……そうだな」

「振った理由は?」

「……嫌いだから?」

「いやなんでそこで疑問系? 俺の方が疑問系だわ」

「それって言葉として合ってる系?」

「それこそ疑問系」

「………」

「………」

 

 くだらないことを言い合って、小さく笑う。

 笑える部分がなくても、どこか面白いものなのだ、こいつとなら。

 ともかくまあ、親の都合で引っ越すかも、なんてことになったこいつが、珍しくもそれを渋った結果、俺の家の隣に住むことになったのが、中学の頃。

 売りに出された家を即金でPONと買えるとか、なんなのお宅の両親。顧問弁護士ってそんな儲かるの?

 ま、ともかくそんな調子で、俺とこいつとは随分と長い間一緒に馬鹿をやっている。

 小学ならではのトラブルもお互いで庇い合っては乗り越えて、くだらないやっかみからトラブルもお互いで乗り越えて。

 まあ、それを考えれば……こんなに気安い幼馴染な友人など、そう居ないわけだ。

 

「今日ウチ来るか?」

「断っても小町ちゃんが凸るだろ」

「だな」

 

 妹の小町は隼人をもう一人の兄として見ている。

 不思議と、他の女子のように好きになったりとかはないようだ。

 なんでだろうな、と隼人に訊いてみれば、「お兄ちゃんのことが心配でそれどころじゃないんだろ」と淡々と言われた。どういうこっちゃ。

 

「八幡、今日あれだったろ。どうする? 歩いていくか? 電車か?」

「あー……早起きしたからって、用事頼まれてんのに歩くもんじゃないな。まあいい運動にはなったけど。って、丁度バス来てるし、あれでいんじゃね?」

「適当だな」

「電車嫌いなんだよ……この目の所為で、女の近くに行くと真っ先に疑われるし」

「~……」

「我慢すんな」

「ぷっはははははは! あっはははははは!」

 

 隼人は、ほんと俺の前だとよく笑う。

 聞いた話じゃ両親の前でも笑わないそうなんだが。

 

「あっ! 乗ります乗りますーっ!」

 

 バスに乗り込むと、いざ扉が閉まって───というところで、同じ高校の女子が乗り込んできた。

 結構走ったようで、俯いたまま肩で息をしている。

 女子、ということもあり、またいろいろと誤解されるのもなんなので、少し距離を取ることにした。

 むしろ女性の視線から逃れるかのように、隼人を盾にする。

 ビッグシールドガードナー! 守備表示で召喚!!

 

「……なに普通に人のこと盾にしてんの」

「お前もうちょっと肉食わない? 細い所為でビッグシールドガードナー、守備表示で召喚! とか脳内で宣言しても、名前負けしちゃうだろ」

「誰とデュエルしてるんだよ……」

 

 中学の頃にはサッカーをしていた隼人だが、高校では入らなかった。

 女に言い寄られない方法を考えていた俺と隼人に、俺が“美形でサッカーって、絵に描いたようなモテ高校生って感じでしょーが”と小町にツッコまれた結果だ。

 そんなにモテたくないのか、隼人。

 

(にしても……)

 

 涼しい顔で流れる景色を眺めている隼人。そんな涼しい顔に少し嫌悪が混ざる。

 はて? と気になった次の瞬間には、隼人が顎で促すように「なぁ、あれ」と呟く。

 あれ? と首を動かし、隼人の体の先のほうにあるものを見てみれば、

 

「なぁ、いいだろ? どうせそんな大人しそうなナリして、本心では遊んでみたいとか思ってるんだろうしさぁ」

「や、やめてください、あたし、べつに───」

 

 あ、これ悪質なナンパだ。

 そう理解した時には、頭の中は“許せん!!”でいっぱいだった。

 べつに正義がどうとかじゃない。人には人の、やりたいことしたいことが沢山あるだろう。それを頭から否定する気はない。

 だが、嫌だと言っているのに、やめてほしいと願っているのにそれを無視する行為は好きじゃない。

 こんな目になってしまった俺が抱く、唯一の信念だ。

 なので、「あっ、ちょっ」と隼人が止めようとする中、俺はのっしのっしとバスの中だってのに大股で歩き、女生徒に向けてウヘヘと伸ばされかけた手を、手首を掴むことで止め、捻り上げた。

 

「いっでいででででで!? な、なんだてめぇは!」

「次のバス停で降りろ! この最低野郎が!」

 

 男比企谷八幡。曲ったことが大嫌いなどとは申しません。

 ただ、嫌だと言っている相手に自分の感情を押し付けすぎる相手が大嫌いです。

 ……好きでこんな目になったわけでもないのに、やめてくれって言ってるのに、馬鹿にしたり陰口叩くヤツとかな。

 などと、まるでボルボロスやハプルポッカが蒸気を噴射するかのように、鼻息荒く“ゆ゛る゛さ゛ん゛!!”状態だった俺の視線に、怯えた男が視線を逸らす中。

 顔を俯かせていた女生徒が、涙目で俺を見上げて……お礼を言った。「ありがとう」と。

 

「───」

 

 その目が俺の目を見る。

 ああしまった、怯えていた相手を余計に怯えさせてしまう───なんて思っていたのに、その目はちっとも逸らされず、余計に怯える、なんてこともなく。

 ただ、最初は気づいてなかっただけなのか、次第に驚きに変わり───

 

「ひ、比企谷くんっ!?」

 

 ───やがてそれは、ひとつの答えへと辿り着いたのだった。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 由比ヶ浜結衣。

 俺と隼人の、共通して知る数少ない女……だな、うん。

 高校入学の時、高校こそ素晴らしい青春ライフを送るぞぅ! と妙にテンションが高かった俺は、朝っぱらから隼人を叩き起こし、用意をさせ、まだ早すぎるくらいの時間からキャッホウ気分で学校を目指していた。

 当然まだ眠たかったらしい隼人からは、無言の圧力。

 しかし友よ。隼人よ。高校はいいぞ。

 だっていろんな漫画やアニメやゲームの舞台といえば高校だ。

 高校といえば青春なんだ。絶対に何かが起こるに違いない。

 そんな期待ばかりが本当に胸を占めていた。

 絶対に、今までにない何かが起こる。そう信じて疑わなかった。

 結果として───

 

「ぇ、あっ! だめ! サブレ!!」

 

 犬の散歩をしていた女の手で引かれていたリード。その首輪との接触部分がイカレていたらしく、犬が手綱を放れて道路へ。

 俺と隼人は浮かれた意識をあっさり切り替え、走り、行動に出ていた。

 俺は間に合えとばかりに全力でアスファルトを蹴り、迫る車から犬を救い───

 隼人は、必死に追いつき飛び出そうとした女の子を押さえて。

 俺は、そんな世界をスローモーションで眺め……ただ、静かに。

 “ああ……こんな時、女性を庇えるヤツこそがモテるのかな”なんて、阿呆なことを考えながら、黒い車にゴシャアと撥ねられた。

 で、まあ、足を骨折、めでたく入院、新入生同士で友達を作りましょう! 作戦など成功するわけもなく、俺は一ヶ月も経過してから初めて校門を潜ることに成功。

 当然友達が出来るわけもなく、結局はこうして隼人とつるんでいるわけで。

 

「あ、あの時は本当にありがとう」

 

 現在、あの時の犬の飼い主が目の前に居る。

 バスから降りた今、ナンパ男は今頃、バスの中でプークス状態だろう。

 降りようとしてたけどさせんかった。針の筵を味わっとけ。

 デャァハハハアァン!? アイツぅ、女に強引に迫っといて失敗しとぅあんだっとぅぇ~! まぁ~ずぃ~!? うぁ~りえぬぇぇ~~~いっ! とか笑われるといい。

 ……いや、まじアレ辛いからね。何が辛いって、女性がああいうことを平気で笑い話にする現実が一番きっつい。男として、真剣に言いましょう。…………つらい。

 

「謝罪と感謝なら前にたくさんもらっただろ。まあ、小町に背中押されて病室に入ってきた時は何事かと思ったけど」

「あ、や、やー……あの時はそのえっと、勇気が出せなくて、病室前には行ったのに……こ、骨折なんて聞いたら……しかも同じ高校で、同じ入学式に出る筈だったって知ったら、余計に合わせる顔がなかったっていうか……」

「いや、ああいうのって一度渡せばそれで済むんじゃねぇの? 病室に何度も来たり、家にまで来た時は何事かと思った」

「ぇあぁあののののあれはそのえっとこここ小町ちゃんがっ! あ、えとそれだけじゃもちろんないんだけど、あたしがたた“ずるかった”っていうか、それでもこんなの初めてだったから……!」

 

 お、おう。すまん、なにが言いたいのかまるでわからん。

 しかし八幡動じません。

 女性で、しかも俺と接点を持ちたい=隼人狙いってのは、もう何年も続く俺の宿命と取れるほど。

 俺に近づく女性は隼人狙い。ここ、テストに出ます。

 なので俺もまあ。

 スローモーションの中、泣きそうな顔で必死に犬を心配していた彼女に胸を打たれたいつかを、忘れるべきなんだろう。

 至近距離で隼人を見ようが、隼人に押さえられようが、“ちょっとそこどいて! サブレ助けられない!”とばかりにペットのサブレを心配した彼女、由比ヶ浜結衣。

 いい子だ。そんなスローモーションが衝撃とともに吹き飛び、運転手と、その後部座席に座っていた黒髪の女が驚愕を顔に貼り付けていたいつかを懐かしんだ。

 

「………」

 

 目の前でわたわたされると、案外こっちは冷静になれる。

 謝罪も受け取ったし感謝も受け取った。

 あの時の、俺を跳ねた車に乗っていた黒髪の女の子が、同じく謝罪に来た時は驚いたが……いやね? なんでも隼人の親が顧問弁護士を勤めてるのが、あの黒髪少女……雪ノ下雪乃の親のところらしいのだ。

 つまり彼女ってば雪ノ下建設の令嬢さん。

 そんなことを知って、あ、これやべぇと頭を下げようとする令嬢殿を必死で止めたいつか。

 今では時々話し合ったり、メールで多少のやりとりをする程度の仲ではある。

 驚いたことに、彼女ったら“ぼっち”らしいのだ。

 俺は隼人が居るからまだいいが、それでも学校にそれほど友人が居るわけでもない。

 ほら、あれな。わたしの友達とあなたは友達ってやつ。

 隼人は友人多いけど、俺はそうでもない。

 同級生に目の前の女子が居ようと、後輩に葉山目当ての女子が居ようと、まあ……俺達の関係は変わらない。

 

「な、なんかあたし、助けられてばっかりだね。あはは」

「自分がやられて嫌なことは、自分が悪になろうと止めるのが俺の信条だ」

「それに付き合って振り回されるのも、案外楽しいしな」

「べつにいいって言ってんのに」

「目の前で見て見ぬフリをしろって? それが許せないから突っ込んでいく友人は、俺の数少ない自慢なんだけど?」

「おいやめろ。そういうのは好きな異性にでも言ってろよ……」

「居ないからやめとく」

 

 あっけらかんと言う友人に、自然と笑みがこぼれる。

 たはっ、って感じで笑い、それもそうだと頷いた。

 こういう友人が居なかったら、俺ってば真性のぼっちやってたんじゃないだろうか。

 いやね? そりゃさ? 過去に嫌ぁ~なことはあったよ? 隼人関連でつらいことがあったのも事実だ。

 けどね、やっぱ違うんだわ。

 隼人が俺になにかをしてきたわけじゃないんだ。

 こいつはただ、俺と遊んでただけ。勝手に周囲が不釣合いだなんだと騒いだだけだ。

 俺が憎まれ役になることで、こいつが人気者になれるならと、一度馬鹿なことをしたことがある。

 その時にこいつは初めて泣いて怒号し、俺を殴った。

 そして、ガッコの教室で、全員が見ている前で、「俺が八幡と友達で居たいから一緒に居るんだ! 文句あるか!」と絶叫。俺の迷い、完全に粉微塵に消えた。

 ……俺は、自分がやられて嫌なことをされるのは嫌いだ。

 だから、嫌いでもないのに無視をする、そいつのためになると思ってやりたくもないことをするのはもうやめた。

 そいつのために、やりたいことをやれる男になろう。そう思えた。

 で、今の関係に到るわけだが……やっぱり謎なのだ。

 なんでこんな関係になれたんだろうなぁと。

 

「………」

「いい娘だね、彼女」

 

 そうして、手を振り別れる由比ヶ浜に手を振り返し見送ると、隣の隼人がどこかすっきりした顔で言う。

 おう今なっつった? え? 今ハンサムって言った? いやそれ違う。

 

「どっ…………どうした、隼人。お前まさか風邪でも引いて……!?」

「正常だから。ていうか、動揺しすぎだろ……」

「だってお前が女子を褒めるなんて」

「おかしいか? 俺、ちゃんと人を見ているつもりだけどな」

「いやでも、お前誰でもなんでも振りまくってただろ。ほれ、たとえば相模さんとか」

「影でお前の悪口言ってたな」

「塚宮さんとか」

「なんでお前が俺と一緒に居るのよキモいとか言ってたな」

「藤田さんとか」

「隣を歩く資格ないとか気づかないのかなとか言ってたな」

「……お前どんだけ俺のこと好きなの」

「友人貶されて、貶すヤツと一緒になれなんて、お前は言うか?」

「断って当然だな」

「だと思った」

 

 理由は他にもあったんだと思う。

 けど、こいつはそういった様々を置いてでも、まず鼻につくものを排除した。まあ、当然だ。

 俺だってこいつの悪口を言うヤツに好きって言われても、俺は嫌いだと返事が出来る。

 試しに付き合うなんて選択よりもまず、こいつのことへの誤解を撤回させることに躍起になるだろう。

 その結果、相手が俺よりもこいつを好きになったとしても、俺は胸を張って、それ見たことかと言ってやるのだ。

 それでいいのかって? いや、だって相手が好きだって言ってきてるだけで、俺が好きかはまた別でしょーよ。

 なので俺が好きな人がこいつを好きになったら、泣いて祝福してやる。でも羨ましいとはハッキリ口にして。

 

「たとえばさ」

 

 そうして二人きりになって、少し急ぎ足で行く道すがら。

 隼人はなんでもなさそうに、口を開いた。

 

「誰かの期待を断れなくて、その通りになるようにって動いてさ」

「おう」

「その結果、輪ばっかりが大きくなって、“みんな”の期待には応えられなくなった時、お前だったらどうする?」

「“みんな”は切り捨てるな。これでいいって選んだ結果で、それでも傍に居てくれるヤツと一緒に居たい。あ、そうすることでのメリットとかをまず考えるヤツはちょっと勘弁かもだが」

「その場合は?」

「離れていくかもしれない大切なヤツと話してみるよ。どうしてもダメだってんなら泣いて別れる。……腹割ってもわかり合えないのって、なんか……悲しいもんな」

「……そっか。自分を折ればそいつとわかり合えるんだとしたら?」

「それをして、そいつは喜んでくれるのか?」

「いや、泣くと思う」

「じゃ、だめだ。それは頷けない」

「八幡ってさ」

「おう」

「馬鹿だよな。あと友達居ない」

「うっせ、ほっとけ」

 

 言いながら歩いて、用事を済ませる。

 用事っていっても、買い物袋をぶらさげているのが現状なわけだが。

 

「なんだよ時間限定セールって……奥方様のことだけじゃなくて、買い物班の学生のことも考えろよな……」

「言えてるな」

 

 急いでいたのは、本日時間限定のセールに間に合わせるためだ。

 苦戦したが、イケメンヒーローアマイマスクのような隼人に奥方様が目を持って行かれたことが勝敗の分かれとなった。

 あの人たち、セールの時は奥様というかむしろもうブルファンゴだからね。

 気ぃ抜いてるとBUCHI-KAMASHIでぶっ飛ばされるから。

 

「けど、今回のこれ、ちと量多くないか?」

「小町ちゃんのことだから、計算違いってことはないだろうけど……」

 

 ちなみに本日7月7日。

 世に言う七夕というものだ。

 それでか? ……いや、それで、って言うにはちと量が多い。

 俺だろ? 小町だろ? 隼人だろ?

 ……いや、まあ、別に今日全部食う必要はないんだが。

 

「帰ればわかるか」

「だな。あ、それはそうとモンハンのことだけど」

「隣同士でワールド協力プレイって、なんつーか、不思議だよな」

「昔なんて肩並べてマリカとかしてたのにな」

「だよな」

 

 協力プレイをする時に、肩を並べなくなったのはいつだっただろう。

 RPGをやる時も、横からそこはそうじゃないとか言ってぶちぶちと意見交換をした。

 アクションゲームともなれば、二人して敵キャラの行動パターンを分析、翌日には目に隈を作って先生に怒られたもんだ。

 

「……そういえば、小町ちゃん、今日紹介したい人が居る、とか言ってたっけ」

「え? なにそれ知らない。お兄ちゃん知らない」

「そういう反応するってわかってたからだろ。大丈夫、女の人だって言ってたから」

「言い方からして年上か」

「反応するとこそこなのな」

「いや……出来れば身内からチャコフスキーは勘弁っつーか」

「普通に百合って言えよ、そこは」

 

 高校生らしいくっだらない、恐ろしくくっだらないやり取りをして、のんびりと帰った。

 そこで待っていたものが、本日が誕生日だという雪ノ下建設のご令嬢(姉)だとも知らずに。

 




構想ばかりが浮かぶけど、文にするのは難しい。
ウーヌヌ、SSってやつはやっぱり楽しいけど大変でござんす。

関係ないけど久しぶりにテイルズウィーバーやってます。
三次精霊の魂が未だに一個も集まらない。
ソロで精霊王ハードはいろいろ限界があると思うの。
ノクターンなのにアバター装着後の外見が明らかに女性であるが、むしろいいと思います。

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