どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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横抱きって言うと早いらしい

 ───俺は比企谷八幡。高二だ。

 七月七日という、織姫と彦星が一年に一度だけ会うことが出来るらしい日に、姉貴分の雪ノ下陽乃さんが来訪、ささやかだがパーティーをしているところだ。

 

「ていうか姉さん、今日誕生日だったんだな」

「言ってなかったっけ?」

「初耳だ」

 

 さっきの錆びたおもちゃムーブはなんだったのか、現在の姉さんは「まあ後でいいや」とチキンを食べている。

 俺もようやく自分で食べられるということで、コカコーラ・オメガZEROをごふごふと飲んでみる。

 飲んだ人の話だと、コカコーラの中でかなりコカコーラしている味らしいが……?

 

「それでえーと、マトくんだっけ?」

「葉山隼人です」

「陽乃さんたら、普通は頭の文字取るでしょーに」

「なんか雪乃ちゃんみたいでずるいなーって。雪乃ちゃんはゆきゆきなのに、私なんて“ゆきはる”だよ? なんか男の人っぽい感じでしょ?」

「その流れだと隼人さんはハヤハヤ……なるほど、妹さんと方向性は似てますね」

「でしょー? というわけでハチくん」

「やだ」

「私に似合うニックネーム、つけなくていいよ? え? つけてくれるの? わー、なんか悪いなー」

「うーわひどいこの姉貴分ひどい」

「人の話は最後まで聞かないからでしょ? ほらほら、きっかけがあればつけやすいのが男の子。きっかけがなければうじうじ進まないのが男の子なんだから、ズバっとつけてみるっ!」

 

 ひどい無茶振りである。

 気に入らなかったら嫌がらせとか来そうだわー、もう帰りたいわー…………ここ俺ん家だったわー。

 

「あ、あー……その。妹さん、が“ゆきゆき”なら……」

 

 余るのは“雪ノ下”の“のした”。

 そこに姉さんの名前を足すと……“ノした陽乃”。

 なんか姉さんをブチノメした、みたいなあだ名になった。

 

「あ。安直にはるのん、とかはだめだよ? 気に入らなかったら私の言うこと軽く叶えてもらうからね?」

 

 うわぁいこの姉ったら鬼っ畜~ゥ♪

 ……やべぇどうしよう。

 安直はだめ、度肝を抜くような、誰もが考えないようなかつてない斬新なあだ名……!

 しかし名は体を表すという名ゼリフもあれば、仏の顔を三度まで、という恐ろしい言葉もある。

 何度もミスって失敗しないよう、ここは一度で正解を引いてみせるのだ……!

 ……そうだな、そもそも名前からしてアレだ。

 姉さんは“下”に納まる器じゃない。

 なので、苗字ながらも……“雪ノ下”は違う。

 けれど向上心もあって、上を向いて歩ける人。

 ならば───!

 

(……力強さと向上心の権化として、“ブチノメ下 陽乃”、というのはどうだろうか。略して、可愛らしくこう、“ブチのんっ♪”とか呼んでみたら───)

 

 顔面ボコボコにされて横たわる俺の姿を幻視した。

 だめだなんか現実になりそうめっちゃなりそう。

 

「パスで」

「じゃあ小町ちゃん」

「パス通るんですか!? なんのゲームですかこれ! え、ええー……と……パスです」

「………」

「………」

「えっ? 俺っ?」

「頼む隼人……! 俺を助けると思って……!」

「あ、そこのマトくんが言ったとしても、ハチくんからはきちんと聞き出すから」

「俺に対してだけ厳しくないか……?」

「じゃあ、どの道言わされるなら俺もパスで」

「隼人ー!?」

 

 隼人、まさかの裏切り。

 いやこれ裏切りとかじゃなくて、どの道浮かばないなら一緒だ作戦だ。

 このままパスを繋げまくるのもありだが、既に姉さんがにっこり笑顔で拳をコロキキキと鳴らしていた。あ、これアカン。

 

「で? ほらほらハチくん? なにか似合ってそうなあだ名は??」

「……、んあー……じゃあ……」

「………」

「………」

「………」

「………」

「姉さん」

「え? なに?」

「姉さん、あだ名つけづらい」

 

 思いつかなかった。ので、素直な気持ちを隠すことなく届けてみた。

 ……にっこり笑って罰ゲーム一直線だった。

 

「残念だなー、傷ついちゃったなー。これはしっかりと私のお願い聞いてもらわないとなー」

「じゃあ逆に訊くけど、俺にあだ名つけるとしたら? ハチくん以外で」

「え? ヤワちゃんとか?」

八幡(やわた)からか……そういうのがOKなら、俺なら姉さんの“陽乃”から取って、“(みなみ)”さんとかミナちゃんとかになるだろ」

「なんだ、言えるじゃない。そうそう、そういうのでいいんだよ?」

 

 まじか。じゃあ罰ゲームは無しに───

 

「でももうお姉さん傷ついちゃったから、罰ゲームは受けてもらうけど」

 

 姉さんは実に姉さんであった。

 むう。まあ、きっかけはどうあれ傷つけたっていうなら……。

 

「わかった。嫌悪しない程度なら受け入れるから、言ってみてくれ」

「そんな難しいことじゃないから平気平気、そう身構えることないってば。私のことを名前で呼ぶだけ。簡単でしょ?」

「…………!!」

 

 十分に恥ずかしかった。

 普通そういうものは、好きな相手にこそ取っておくものではないだろうか。

 好き合った人同士がこう、親愛を込めて互いを……なぁ?

 まあ俺には一生縁の無いことだろうが、そんな大事だと思えるものを姉さんが、よりにもよって俺なんぞに。

 考えてもみろ、見かければ男のほぼが振り返る姉さん。

 おおっ……と目で追ってみれば、何故か隣に存在する腐り目の男……!!

 そんなモテとは縁遠い男が、姉さんを幸せに出来たかもしれない男の前で姉さんを名前で呼ぶ。チャラチャラとしたナンパはどうかと思うが、出会うきっかけはそれぞれだ。

 ……しかし隣に俺が居る、というだけで、幸せに繋がる切っ掛けとか、裸足で駆け出しそうなんだが。

 それはもうサザエさんなど目じゃないくらいに。

 ダメだろおいそれ愉快でも陽気でもなんでもねぇよ助けてサザエさん。

 

「本人が許すって言ってるんだからさ、身構えずに……むぅ、そんなに嫌? お姉さん一層傷ついちゃったかなー?」

「………」

「はぁ。わかった、ハチくん困らせるなんて本意でもなんでもないし、じゃあ一回でいいから呼んでみて? ゲームの延長、私に言わされた~ってことで」

「───お、おう」

 

 いいのだろうか。

 いや、だからこそいいのか?

 もうこれっきりでいいっぽいし、隼人と小町以外、誰に聞かれるわけでもない。

 だったら───と、姉さんとともに習った所作として、猫背ではなくシャンと立ち、顔も真っ直ぐ顎を引いて、いざ───!

 

「───陽乃」

 

 真っ直ぐに届けた。

 ……まだ見ぬ、姉さんを幸せにする誰かよ、すまん。

 名前の呼び捨てを、よりにもよって腐り目の俺なんぞが───!!

 などと心の中で葛藤していると、姉さんからのリアクションがなにもないことに気づいた。

 はて、と言い終えてから俯かせていた視線を持ち上げてみれば───

 

「……わあ。ねぇ隼人さん、これ……」

「……うん。立ったまま気絶してるな」

 

 姉さんが、驚きの表情のまま気絶していた。

 ほら見ろやっぱりだめだったじゃないか。

 習い事の先生にも、あなたは目の力が尋常じゃないから、目に力を込めて人を真っ直ぐに見ない方がいいかもしれない、とか言ってたし!

 

「お兄ちゃん、小町、名前で呼ぶってそういう意味じゃないってツッコミたいところだけど、なんか今とってもグッジョブな気分だからもうそれでいいや」

「お、おう?」

 

 なんかわからんけど……え? いいの? 悪いの?

 

「いや、祝われる人自身が気絶なんて、最悪の誕生日だろ」

「別の方向で幸せそうだからいいんじゃない?」

「よくわからんけど気絶したってことは、意識を保っているのも嫌だったってことだろ。だったら姉さんが喜ぶ方向での誕生日会リベンジを何度でも───!」

「お兄ちゃん、陽乃さんが嬉死(うれし)ぬからやめて。ほんとやめて」

 

 え? 死ぬの? 俺に祝われ続けると? そ、そうなのか……!? と、いらん部分だけ拾って落ち込んでいると、隼人が「ぷふっ……! ~っ……くっふ……!」と笑い出す。

 ああ、あれは思い出し笑いの時の笑い方だ。

 なにを思い出して……ってアレか。

 

「隼人さん、何かまた兄がやらかしたんですか?」

「小町ちゃーん? ちょっとー? だから俺がやらかした前提で話を始めるのやめない?」

 

 小学の頃、隼人目当てで俺ごと隼人を呼んだ柴田さん家にて、俺達を玄関で迎えてくれた妹ちゃんが俺を見て“キェエアァアアア!! ゾンビー!!”って叫んで気絶したことがある。

 あれは当時、しこたま驚いたなぁ……隼人なんて柴田さんの誕生日そっちのけで笑ってるし。いや、実際隼人が笑わなきゃ、あの状況がただただ悲惨な状況でしかなくなってただろうから……。

 柴田さんも俺に、俺の所為で妹が気絶した、なんて言う必要もなくなっただろうし。

 以降は隼人も他人の誕生日会への誘いを断る文句を見つけたみたいで、誰にも付き合わずに平凡に過ごしている。

 俺のことはいいからって言ったって聞きやしない。

 人の友人をゾンビ呼ばわりして勝手に気絶するところになんて、行きたくもない、らしいのだが……いやお前笑ってたからね? あれ嘘笑いとかじゃなく割りと本気で笑ってたろ。

 

「お兄ちゃん……小町はハッピーバースデー言いに行って、目力で妹を気絶させる兄を持った覚えはありません」

「“めぢから”言うのやめろ。なんか妙に特別な力みたいに聞こえて悲しくなる」

「あ、ところで陽乃さんどうしよっか。小町としては噛み締めたまま気絶させてあげときたいんだけど」

「……ソファに寝転がらせときゃいいだろ。なんかへにょへにょ勝手に脱力してきたし。てか起きてる? 姉さん? 姉さーん? ……だめだなこれ」

 

 仕方なく、腰が抜けたみたいにぺたんとソファに座った姉さんを、そのままゆっくりと横にさせた。

 すると小町がそっと傍に寄り添って、どこか悲しみを帯びたような目で「お前は強かったよ。でも間違った強さだった……!」とか言って、そっと姉さんの目を閉ざさせた。

 ……ふむ。

 

「……素朴な疑問なんだが」

「え? なに、どったのお兄ちゃん」

「いや、今みたいに気絶した人が、もしドライアイだったら……目とか乾いたりしないんかな」

「うわー、どうでもいいことなのに、聞いちゃうと確かに妙に気になる質問。お兄ちゃん、ほんとそういうのだよ? 素朴だーって思ってても、相手にとってはそうじゃないことなんて、よくあることなんだから。あ、それで答えだけど、一応気絶って部類には入ってるんだから、目の乾きとかも気にならないでファイナルアンサーってことで、小町はいいと思うよ」

「言いつつ答えるのな……。まあ、そうな。どうでもいいか。確かめようがないし」

「仮にも気絶した人の前でする会話がそれって……」

 

 いや、案外こんなもんじゃない?

 隼人、お前も一度、クラスメイトの妹に存在だけで気絶されてみるといい。

 なんか気絶って言葉自体、妙に身近に感じられてくるから。

 ……普通そんなこと起こらないか。起こらないよなぁ。

 

   ×   ×   ×

 

 飛翔祭なんてなかったんや……。

 いや、ごほん、なんでもない。

 さて。

 結局あれから姉さんが起きることはなく、主役気絶中のまま誕生日会は終了した。

 俺と隼人は普通にモンハンやって、小町は自室を片付けるとかでごそごそ。

 そのままソファで夜を明かさせるわけにもってことで、片付けられた小町の部屋へと姉さんを運ぶことに。

 何故か熱烈にお姫様抱っこでの運搬を要求する小町に、おだてられた豚の如く“お兄ちゃんにまっかせなさーい!”しちゃった俺は、リビングから二階の小町の部屋まで姉さんを運ぶことに。……お姫様抱っこで。

 とくにトラブルもなく運べたと思うのだが……あれ? あのちょっと? 小町ちゃん? 今なんでスマホ操作してたの?  見間違えじゃなければ俺に向けてたよね? あれ? ねぇ? ちょっと? カメラ? カメラなの? 腐り目の男がお姫様抱っこで美女を運んでいた件とかで動画投稿でもする気?

 やだちょっとやめて? そんなことされた八幡生きていけ───え? 姉さんからかうために撮っただけ? お、おう、そうなの? けど小町ちゃん? ほんとカメラを無断で向けるとか、相手にとってはストレスだからやめようね?

 腐り目でからかわれた兄との約束だよ?

 

「あ……うん。ごめんねお兄ちゃん。小町ちょっと無神経だった」

「おし。謝れるならそれでいーよ。勝手に撮られてなにがひどいかって、開き直るのがほんと性質悪いからな」

「うん、ごめん。反省します」

「…………おう。あんがとな」

「ここでお礼はヘンじゃない?」

「いーんだよ、適当に受け取っとけ」

「ん……うん。はぁ、ほんと、これで目が腐ってなければきっとモテただろうになぁ宅の兄は」

「あほ。目が平気でもどうせ別の部分がアレで、結局はキモがられる方向へまっしぐらだったっつの」

 

 なにせ俺だ。

 俺が普通で、周囲に普通に受け入れられるとか想像がつかん。

 それに、べつに今さらだしな。

 隼人が友人で、小町が居て、ガッコに知り合いが全く居ないわけでもない。

 ……いいんじゃないだろうか。むしろ悪くないだろ。

 悪いほうに考えるから悪くなるんだ、と平塚先生もお悩み相談室で言ってくれたしな。

 いい人だ! あの人はいい人だ! 初対面で目ぇ逸らさない人とかなかなか居ないからな。

 それだけでいい人認定は、さすがに精神的にちょろいだろうか。

 まあいい、俺はそれで一向に構わない。

 

  ……と、まあそんな感じで。

 

 てーれーれーれーれってってー♪ と朝を迎えたわけだが。

 本日は朝っぱらから良い香りがしておりました。

 階段を下りてリビングまでまっしぐらしてみれば、なんとキッチンで姉さんが料理を作っているじゃないか。

 

「姉さん。もう起きてたんだな」

「あ、ハチくんおはよ。そうそうハチくん、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「お、おう。どした?」

 

 気絶させてしまった手前、ずずいと改めるように話しかけられると緊張する。

 気持ちをぶつけるっていうのは難しいもんだ。

 ただ漠然とぶつけるだけじゃあいけないのだと、何度小町に教わったことか。

 結論を言うと、俺に恋愛は向いていないらしい。

 

「私さ、昨日の記憶が随分吹き飛んでるんだけど……料理にお酒とか入ってなかったよね? あ、べつに私がお酒に弱いとかそういう意味はまるでないんだけど」

「いや、姉さん以外未成年なのにお酒はまずいだろ」

「だよねー。おっかしいなぁ、眠る前の記憶っていうか……私いつ寝たっけ? なんだかすっごく快眠したっていうか、とんでもなく幸せな夢を見てたような……」

「寝た(?)のは誕生日会の途中だな」

「うわ、それほんと? 不覚だわ……ごめんね、せっかく祝ってくれてたのに」

「いや、問題ないぞ。きっと疲れてたんだろうし。俺は気にしない。姉さんも気にするな。これで解決だ」

(……にしたってでしょ。小町ちゃんの部屋で寝てたってことは、祝ってくれてるにも関わらず退席して、勝手に寝ちゃったってことだし……。うわー……自己嫌悪……)

(……俺が無断で抱きかかえて運んだ、なんて言わない方がいいだろうか。昔から習い事のライバルとして、“対等なんだから”とかで敬語を禁止させられたが、そんな俺に気絶してるところを抱えられた、なんて知りたくないだろうし)

 

 よし、それはあとできっちり小町にも話しておくとして───と、考えていた矢先に、リビングの出入り口からそっとこちらを覗く小町を発見した。

 姉さんもその視線に気づき、振り向けば……途端に姉さんを手招きする小町ちゃん。

 え? なに? どったの? お兄ちゃん抜きで秘密のお話とかやめてほしいんですけど?

 そんな心配も知ったことかと普通に俺抜きで話し始める二人。

 やがて姉さんが声にならない悲鳴をあげたと思うや、小町を抱えてぴうと階段を駆け上っていってしまった。

 

「……どうでもいいけど、早くメシ食べないと遅刻するぞ、小町ー……」

 

 言ったところで既に誰もいなかった。

 仕方なく、作りかけの料理を見下ろしては、“ああなるほど、あれか”と頷き、料理の続きへと取り掛かった。

 伊達に同じ修行はしておりません。姉さんが作ろうと思ったものなんて、よほどアレンジされてなければ作れます。

 そんなわけで料理を作る傍ら、基本一人暮らしの隼人を電話で呼んでは一緒に朝食を。

 え? 姉さん? 小町? 知らん。呼んでも降りてこなかったから、きっと忙しいんだろう。

 かーさん知りませんからね! なんで起こしてくれなかったのーとか呼んでくれなかったのーとか、そんなの聞きませんし効きませんからねっ!

 きっちりそういい届けると、身支度を済ませた玄関先でパタムと扉を閉ざし、隼人とともに歩き出した。

 なんか小町の声でお兄ちゃんたすけてぇええとか聞こえた気がしたけど気の所為だ。

 そこまで悲壮感なかったし、どうせ撮った動画でからかったりしたんだろう。

 知りません。ていうか巻き込まないでくださいお願いします。

 

「ほんと、朝から賑やかだよな、ここは」

「なんだったら隼人も一緒に住めばいいのに」

「やめとくよ。リビングに行った時の誰も居ない寂しさには、まだ慣れないけど……俺の家はあそこだから。用意してくれたのに使わないのは、親不孝だろ」

「そうか……。気が変わったらいつでも言ってくれな。基本親とかも帰ってくるの遅いし、今まだ寝てるだろうし、増えたって気づかないばかりか、お前なら歓迎されると思うけどな」

「それでもだよ。“誰かが帰った時に、誰も居ない家”にはしたくないんだ」

「…………そか。んじゃあ、あれだ」

「うん?」

「モンハンならいつでも誘ってくれ」

「………………ぷふっ……!」

「おいちょっと? 今のどこに笑える要素あったの。思い返せば“あれ? これ美談じゃね?”とか思えるくらいの雰囲気だったろ今の」

「だってお前、ドヤ顔で親指立ててるのに誘い文句がモンハンって……っ!」

「ほっとけ、いいだろゲーム。青春っぽくて」

 

 そんな他愛もない……他愛もないか? まあいいや、他愛もない会話をして、学校への道をのんびりと歩いた。

 今日は買い物の予定もないし、帰りものんびり歩けばいいだろう。

 

「なぁ隼人」

「ん?」

「姉さんへの誕生日プレゼント、一日遅れだけど渡したいって思うんだが……なにがいいと思う?」

「……今下手に渡すと式場が見えてきそうだから、まず時間を作るところから始めたほうがいいんじゃない?」

「…………今日の隼人はなんか重いな。あ、いや重いってのは言葉がって意味で」

 

 式場か……きっと葬儀場のことだろう。ヘタなプレゼントは自身を破滅すると、そう言いたいのだろう……え? 違う?

 しかしなにやら念を押されたので、時間を置くことにした。

 オトメゴコロとは複雑らしい。

 さすが隼人だな、モテるだけのことはある……!

 ……え? 声をかけられようと告白されようと、付き合ってなきゃみんな同じ? 

 

「そういうもんか?」

「そういうもんだよ。あのな、いくらモテたって、付き合ってみなきゃあ相手がなにが好きか、どういった場所を好むのかもわからないだろ。そういうことだよ」

「頭いいなお前!」

「八幡は、女性関連になると途端に思考を放棄してるように見えるけどな」

「おう。考えたら負けかなって思ってるぞ。この目の所為で、好かれるってことはそもそも有り得ないからな。むしろそろそろ異性として認識しなくて済むところまで近づきつつある」

「止めなきゃ俺が殺されそうだからやめろ。考え直してくれ。ほんと頼む。やめてくれ」

「お、おう……! どどどどうした隼人……!?」

 

 両手でガッと肩を掴まれてまで、本気の目で語られてしまった。な、なにごと?

 まあ、わかった、努力してみよう。女性の気持ちを考えるか。難度高ェエなおい。

 俺はそういった、こう……相手の気持ちになって考える? というのが苦手だそうなんだが。小町によく言われるし。

 それを克服しろと言われても……どうしたものだろう。

 溜め息を一気に吐き出し、切り替えたら普通に歩いた。

 話題は再び他愛ないものへ。

 

「そんなわけで隼人は彼女作らないのか?」

「作らないって」

 

 即答であった。

 むしろ“じゃあ、そういうお前はどうなのさ”、と逆に質問されて、無駄にテンションをあげてみて、これくらいの気持ちですとばかりに言ってみる。

 

「欲しいぞォオ!」

 

 こう、声が野太くなるように。

 しかし、やってみれば二人の間に悲しい風が吹いただけ。

 狙った笑いは外しやすい。

 僕らはこうして、それを知ってゆくのだやだもう死にたい。

 

「お前の場合、まずは“自分がモテるわけがない”って固定して考えてるところをなんとかしなきゃだな」

「いや、そもそもモテないだろ。むしろ会話まで持っていく前に叫ばれて逃げられるまである」

「陽乃さんは?」

「姉さんは美人だからな、俺なんぞ眼中にないだろう。そもそも俺を弟みたいにしか思ってないフシがあるだろアレ。昨日の妙な構いっぷりを考えればわかりそうなもんだろ?」

「………」

 

 お、おう、どした? 俯いて顔に手ぇ当てて。

 

「いや、だからそれどういう意味? 八幡ちょっと、いや大分わかんない」

「…………俺。とりあえずお前の幸せは願ってるからな。誰とくっつこうがいい仲になろうが、お前を応援する」

「そもそも相手が居ないけどな」

「お前はわかりやすいよな。やさしくて、いけそうだったら誰でもいいんだろ」

「いや、そこまでハードル高くないぞ」

「えっ……えちょ、えっ……? これでもハードル高いの? え?」

「そもそも“いけそうだったら”ってのが有り得ないんだからしょうがないだろ」

「…………」

「………」

「……ぷっは! あっははははははは!!」

 

 笑われた。解せぬ。

 しかしまあ、こういった自分の特徴と何年も付き合って、自分ってものを客観的に見れるようになれば、自然とそうなっていくもんだと思う。

 ポジティブに行こうとするたび、きまってよくないことばっかが起きるのと同じように、俺もまた、そのたびにひっどい状況にばかり出くわすわけだ。

 気になってた子が俺の悪口を言ったりだとか、男子のやっかみが隼人に向いたりしていた時とか。

 そういうのがきまって、相手から話し掛けてきてくれた、隼人狙いの女子だったり、俺を利用して隼人をこらしめよう、なんて思ってた男子だったりしたわけだ。

 つまり……そうして本性を知らなきゃ、友達、なんて関係を穢す結果になっていたわけで。

 世の中はやさしくない。

 だが、だからこそだ。やられて嫌なことはしない。やられて嬉しいことが出来るように生きよう。目が腐ってるなら、身体は腐らない行動を。ただそれだけだ。

 そのたびに親友だと思ってる幼馴染が笑ってくれるなら、俺の行動にはまだまだ意味があるのだ。それでいい。それがいい。

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